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シナリオ詳細

Can make this world seem rignt

完了

参加者 : 8 人

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オープニング

●さよならサンクチュアリ
 黒いワンピースの少女が、ピアノを奏でている。
 穏やかな音楽に伴うようにレースのカーテンがふわりとひろがり、太陽の光を部屋へと差し込ませる。
 なびくカーテンが見せる庭には馬車が横切り、少女を呼ぶ声がした。
 演奏がぴたりと止まる。ゆっくりとカバーを下ろし。少女は椅子から立ち上がった。
「さよなら。もう、ひいてあげられないね」

●スナーフ秘密教会について
 まずは、ここ天義におけるきわめて特殊な施設『スナーフ秘密教会』について説明するべきだろう。
 ここは天義の異端審問官であるスナーフ神父が、身内の審問官にすら秘密にして管理している『世間に対しての隔離施設』である。
 例えばアドラステイアからの亡命者や魔種化した人間の近親者などは、天義の過激派から追われる立場になりやすい。国外に逃がしても追っ手をかけられることもしばしばだ。
 こうした問題に対処すべく、スナーフ神父がこっそりと間に立って彼らをかくまう用途の施設を作ったのだった。
 元々、スナーフ神父は天義国内の過激派に所属しておきながら、彼らの動きをある程度監視し他国にいたずらな火種を撒きそうになった時調整役としてクッションになるなどの活動をしていた。これもある意味、彼のクッションのひとつなのだ。

 だがそんな秘密教会にアドラステイアの住民や聖騎士をかなり強引な手段で捕らえ匿ったことで場所が発覚し、アドラステイアからの『救出部隊』が派遣されてしまうという事態に陥ってしまった。
 ローレット・イレギュラーズによる迎撃には成功したものの、教会の場所を特定されてしまった以上このまま匿い続けることはできない。
「一刻も早くこの場所を離れなければならない。君たち。手伝ってくれ」
 スナーフ神父からの依頼は、こうして次の段階へと移行するのだった。

●迎撃作戦と突破作戦
 教会で預かっている子供は数名。その殆どは秘密教会にのみ居場所をもつので移動に際して逃げ出すようなことはないが、アドラステイア聖銃士であるジェニファーなどは本人の意志を完全に無視する形でこの場所へ閉じ込めてしまっていた。隙あらば逃げだそうと考えるだろう。
 そんな彼女を拘束したまま移さなければならないという問題が、まずあった。
「秘密教会として使える建物は他にもあるから問題ない。子供達の移送についても、私が馬車を出すから心配しなくていい。ジェニファー君についても……そうだな、心苦しいことだが、ここは無理矢理拘束したまま連れて行くことになるだろう。
 当人の自由にさせれば、おそらく彼女は脱走しアドラステイアへと帰ろうとするだろうからな」
 スナーフはそう語り、馬車へと入っていく子供達を見守った。
 教会の庭には白い花が咲き、これからくるであろう雪の季節を待っている。
 ここは雪の深い土地だ。放っておけば庭は埋もれ、庭木も折れてしまうかもしれない。手入れをすることは、もうないだろう……。
 どこか名残惜しそうに背を向け、スナーフ神父は馬車の御者台へとのぼった。
「アドラステイアからの救出部隊がすぐにでも戻ってくるだろう。偵察については……」
「それなら大丈夫でして」
 ルシア・アイリス・アップルトン(p3p009869)がはるか上空から降下し、翼を畳んで隣へと着地した。
 どうやらルシアが空から確認してくれたようだ。敵にも偵察の存在がバレただろうが、もはやそれは問題無い。
「アドラステイアの部隊は、今度は四つに分かれて展開したようですよ。馬も人数分は……」
「となると厄介ね。一部隊でも残っていたらこちらの動きを捕捉される。最悪あたらしい秘密教会の場所まで割り出されるわ」
 イーリン・ジョーンズ(p3p000854)が難しい顔で地図を広げ、そして『私達の出番ね』と呟いた。
 視線を向けられ、こっくりと頷くフラーゴラ・トラモント(p3p008825)。
「ワタシたちは見つかったり追われたりしても問題無いよ。だから、スナーフさんたちが出発する前に全部の部隊を殲滅すれば、こっちの勝ちになるよね」
「全部を、殲滅……か」
 ココロ=Bliss=Solitude(p3p000323)は口元に手を当てて考え込んだ。
 以前ぶつかった際、アドラステイアからの救出部隊はなかなかの戦力を持っていた。
 こっちは罠にはめたり地の利を生かしたりとアドバンテージをとれたにも関わらず部分的に突破を許しすらした戦力なので、これを真っ向からぶつかって(しかも味方を分散させて)倒すのはかなり厳しい戦いを強いられることになるだろう。
 一方で……。
「各個撃破作戦はとれそう?」
「無理でして。ルシアの翼でもそれぞれのポイント間の移動にかなりの時間がかかる筈ですよ」
 かなりの機動力をもつ彼女がこう言うのだ。三箇所に一人ずつ配置して残る五人がローラーしていく作戦は不可能だろう。戦力をいたずらに失うか、協会へ攻め込まれるだけになってしまう。
「ここは、素直に2人4組で分かれるしかなさそうね。で、ひと組でも敗北すれば作戦は失敗……と」
 厳しいわね、と重く呟くイーリン。
 だが、これ以外にこの場を脱する方法はない。
 綱渡りだが、望んだ未来を守るためには渡らなければならない綱だ。
「……やろう」
 ココロは胸に当てた手を強く握り、決意に瞳を開いた。

GMコメント

●オーダー
・スナーフ秘密教会への包囲より脱するため、全ての敵部隊を殲滅する
 四つに分散した敵部隊へ襲撃をしかけ、全て殲滅します。
 殲滅といっても必ず殺す必要はありません。が、状況的に捕らえたり連れ帰ったりすることは不可能になるでしょう。
 また、敵もさらなる応援を呼んでいる可能性があるので、あまり時間をかけすぎると作戦自体が失敗になるおそれがあります。できれば短い時間での決着を狙いましょう。

 四つの部隊のうち一つでも敗北した場合、この依頼は失敗判定となります。

 また今回のシナリオは『<オンネリネン>only only you』のアフターシナリオになっています。内容を踏まえる必要は特にはありませんが、併せるとより美味しくお召し上がりになれます。
https://rev1.reversion.jp/scenario/detail/6665

●フィールドデータ
 山中です。
 木々が深く、どこもまあまあ標準的に森です。

●エネミーデータ
 『オンネリネンの子供達』にアドラステイア聖銃士の戦力を組み合わせた混合部隊です。
 四つの部隊にそれぞれ聖銃士が1人、少年兵が3人といった構成になっています。
 聖銃士の戦力は不明ですが、こちらの戦力ひとり分とタメをはってくる程度と予想されています。
 少年兵は戦力こそ低いですが、単純計算で1対3になるので戦術をしっかり練らなければ押し負けるかもしれません。

※追加情報
・ルシアの偵察により、北側の部隊にはジェニファーのルームメイトであった紫髪の少女マリリンがいることが分かっています。
 また、過去の戦いからマリリンは血のように赤い大剣を使った火力に優れた戦い方をすることが分かっています。
 彼女はジェニファーと仲が良かったことから、他のメンバーよりも一層強い気持ちで挑んでくることでしょう。(彼女側からすると、凶悪な敵に親友が捕まっている状態ということになるためです)

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

●独立都市アドラステイアとは
 天義頭部の海沿いに建設された、巨大な塀に囲まれた独立都市です。
 アストリア枢機卿時代による魔種支配から天義を拒絶し、独自の神ファルマコンを信仰する異端勢力となりました。
 しかし天義は冠位魔種ベアトリーチェとの戦いで疲弊した国力回復に力をさかれており、諸問題解決をローレット及び探偵サントノーレへと委託することとしました。
 アドラステイア内部では戦災孤児たちが国民として労働し、毎日のように魔女裁判を行っては互いを谷底へと蹴落とし続けています。
 特設ページ:https://rev1.reversion.jp/page/adrasteia

●聖銃士とは
 キシェフを多く獲得した子供には『神の血』、そして称号と鎧が与えられ、聖銃士(セイクリッドマスケティア)となります。
 鎧には気分を高揚させときには幻覚を見せる作用があるため、子供たちは聖なる力を得たと錯覚しています。

  • Can make this world seem rigntLv:30以上完了
  • GM名黒筆墨汁
  • 種別通常
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2021年12月31日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ココロ=Bliss=Solitude(p3p000323)
Lumière Stellaire
イーリン・ジョーンズ(p3p000854)
流星の少女
アーリア・スピリッツ(p3p004400)
キールで乾杯
クレマァダ=コン=モスカ(p3p008547)
海淵の祭司
只野・黒子(p3p008597)
群鱗
蓮杖 綾姫(p3p008658)
悲嘆の呪いを知りし者
フラーゴラ・トラモント(p3p008825)
星月を掬うひと
ルシア・アイリス・アップルトン(p3p009869)
開幕を告げる星

リプレイ

●床にこぼれたミルク
 小鳥のさえずりが聞こえて、振り返ると青い鳥が小枝を飛び立つところだった。
 木々のやや深い、舗装もされていない山道。かろうじて土が残るその場所には、自分達の足跡すらない。
 『進撃のラッパ』フラーゴラ・トラモント(p3p008825)はひょいっと右足をあげて見れば、靴跡はとてもよく目立った。
 秘密教会を管理するスナーフ神父たちが、この山道を登るたびに足跡を丁寧に消していた証拠である。
 フラーゴラはよりしっかりと土を踏みしめると、決意のように固くタンタンと足を踏みならした。
「前回の失敗は、取り返さなきゃ。うんとがんばって……」
「一人の失敗ではないのですよ、ゴラちゃん」
 小鳥と入れ替わるように枝へ降り立ったのは『にじいろ一番星』ルシア・アイリス・アップルトン(p3p009869)だった。とても小鳥の代わりになる重量ではないが、広げた翼で器用に細かくホバリングしているらしい。
「それに、まだ本当に失敗したわけじゃないのでして。あの子たちが連れ返されることがなければ……」
 スナーフ秘密教会になかば軟禁状態で収容されていたアドラステイアの聖銃士ジェニファー・トールキンと、同じくマルコ=フォレノワ。経緯や細かい場所は違えど、同じアドラステイアに暮らしていた子供達だ。
 当人達がどう考えているかは別として、悪しき側面を数え切れない程知ってきた身としてはあの塀の内側へ返すわけにはいかない。
 スナーフ神父から依頼された義務感と、子供達への親切心。この二つを両輪として、ルシアたちは進むのだ。

 ――『誰だってそうでしょう。自分の居場所に帰りたい』
 『死地の凛花』ココロ=Bliss=Solitude(p3p000323)はその言葉に、真っ向から異を唱えることは出来なかった。思い返してみれば、感情的になって話が滅茶苦茶になりかねない状態だった、とも。
 目の前が真っ暗になるよううな感覚の中で、心の中にある『優しさ』というエンジンが自分を真っ二つに引き裂くような想像があった。
 ジェニファーが未だ『自分の居場所』と考えている場所に帰してやりたいという親切心と、絶対に騙されているのだからそんな場所に返してはいけないというまた別の親切心。
「あの子にとって、この世界は真っ暗なのかな……。
 意味の無い、あの子にとっては『神聖な』殺しと破壊の先にしか、光が見えないなんて、そんなのあんまりだよ」
 頬を叩いたり胸にすがりついて泣きわめけば思い通りになるなら、そうしていたかもしれない。
 けれど。
「女の涙が解決してくれる問題じゃない……かしらぁ?」
 ココロの胸の内を読んだかのように、後ろから声がした。
 振り返ると『キールで乾杯』アーリア・スピリッツ(p3p004400)が空っぽになった小瓶を逆さにして振っている。
 一滴だけ残った琥珀色の液体を中指ですくうように取ると、それを小さく出した舌先へのせる。
「私もねぇ、『ダメな女』になるのは得意なのよぉ。けど、それじゃあ、ね」
 目を瞑り、深く息を吸う。
 木々の香りと土の香り、遠くからやってくる、冷たい雲の香り。
 そのなかで幻みたいに、チョコレートクッキーの香りがした気がした。
 目を開ければ、そんなものはない。
 空っぽの砂糖壺も、お菓子で一杯にしたベッドサイドも、あの子が戻ってくることなく、捨ててしまわなければいけないのだ。
「これから先救える命も、守れる命もあるから」
 今は、悪い女になるわ。
 アーリアはそんな言葉を、舌の上だけで転がした。

 小川のそばを下る。すこしうるさいくらいだった水音も、下るにつれ穏やかに変わっていくのがわかった。
 そろそろいい頃合いなのかしらと、『天才になれなかった女』イーリン・ジョーンズ(p3p000854)は川の音から判断して立ち止まった。
「今頃、二人とも『自分のせい』だなんて思ってるんでしょうね……」
 ある哲学の物差しにおいて、『誰かのせい』とは『その人物が消え去れば解決する場合』と定義する。
 あの二人が今すぐ消えたら解決する問題などない。むしろ、問題は悪化するだけだ。
「つまり、あのとき私達は最善を尽くした。不調や不運や失敗も――」
 運命だった。という言葉で片付けるのはよろしくない。
 だから、なんだろう。『目的論的に正しく失敗した』と述べるべきだろうか。
「司書さん、悩み事ですか?」
 澄んだ声がした。
 『断ち斬りの』蓮杖 綾姫(p3p008658)が背筋をのばし、刀の柄にすうっと二本指を這わせている。
 彼女は剣を通して呼吸する、と思う。
 きっと鞘ごと腰から外したらバランスを崩して転倒するかもしれない。
 などと、わざとふざけたことを考えていると綾姫が小さく笑った。
「因果ですね。守るも子供、倒すも子供」
 綾姫は語りかけるように言ったのだが、イーリンにはピンと来ない言い方だった。
 実際のところ、綾姫は自分自身にだけ向けて言ったのだろう。
 だから、返答を求める代わりに話題を変える。
「罠は張れそうですか」
「向こうが三時間くらい準備運動をしてくれていれば。もしくは、一列になって通るルートを赤線でもひいて示してくれれば」
「頼んでみますか?」
 目を細め眉を上げ、首をかしげる仕草をする綾姫。
 イーリンは笑って、苦笑だけをした。
 そして、魔法の布を頭から被った。
「おとなしく、気配を消して奇襲しましょう」

 『群鱗』只野・黒子(p3p008597)がテキパキと、そして黙々と作業をこなしている。
(あちらは決死行なれば。決死で歓待せねば礼に欠くというもの……)
 急いで迎撃地点へと到着した黒子はザッと土の斜面でブレーキをかけると、周囲の様子を今一度うかがった。
「殺さずに捕らえるのは、おそらく難しいでしょう」
「もとより、そこまで相手を軽んじてはおらぬ」
 同じく斜面にブレーキをかけた『海淵の祭司』クレマァダ=コン=モスカ(p3p008547)は舌でタァンと鼓を打ってソナー探知をかけた。
「手段を選んで、優しく歓待して勝てる相手ならばこうもならん。
 逆に、いちいち念入りに心臓を刺して回る余裕もない。
 気持ちの上でも、な」
「…………」
 黒子は『必要ならば殺すこともできますよ』とでも言いたげだったが、クレマァダは『敵対者を殺害する』ことの心理的リスクをある程度は理解していた。
 まず前提として、相手は『攫われた仲間を救出するために』この戦いに身を投じているのだ。逆の立場で仲間が更に殺害されたとあっては、全ての後退のネジがはずれかねない。
 そうなればもはや、仮に勝利したとしても苦い苦い勝利となるだろう。
「既に、相当に危うい状態ではあるが……いたずらに『戦争』をするものではないのじゃ」
 目を瞑り、息を吐く。
 何者かが接近する気配がした。
 こちらを補足したのだろう。感じ取れる足取りが慎重なものになる。
 我は番人。汝等の敵。大義を阻む魔女の手先であるぞ。
 ……などと。
「民に犠牲を強いる大儀など、あってなるものか」

●白磁の聖銃士イディ
 馬の転倒。兵の落馬。
 『オンネリネンの子供達』の先頭が受けたダメージに警戒し、後続二人が馬を止めたその瞬間を狙ってルシアは太い木の幹を蹴りつけた。
 大ききく膨らませるように広げていた翼に風をつかみ羽ばたく刹那。空圧すら穿ったきりもみ回転飛行で急速に距離を詰めたルシアは翼を広げた急制動と同時にライフルを構えた。
「――ッ」
 大きく見開く両目。上下左右に展開し中央へ集まっていく青白い魔方陣群。
 それらがまっすぐ一直線に並んだ瞬間を狙いトリガーをひくと、魔方陣が一枚へと凝縮。その反動で、ライフルから放たれた弾頭にさらなる回転がかかった。音速をゆうに超えて放たれた弾丸が聖銃士の一人に命中。そのまま腕と馬身を貫いてもう一人へ――命中する寸前。
 ガギンという音を立てて弾頭が切断された。
 一撃二殺急速離脱が強みのルシアが『二段目』を外すことは極めて稀だ。一体何事かと凝視すると、大鎧を纏った小柄な少年が、長く余った袖の下からパグナウ(メリケンサックに爪を備えた武器)を低い姿勢で構えていた。
「『白磁』、イディ。魔女、殺すね」
 希薄な表情にデスマスクめいたヘルメットをガチンと下ろすと、ルシアめがけて飛びかかった。
 大鎧を纏っているとは思えない、速度だ。
 まともに食らえばルシアにとって致命傷だ。が、逃げもひるみもしない。なぜならフラーゴラがルシアとは異なる凄まじい俊敏さで間に割り込み、イディのパグナウクローをライオットシールドによって受けたからだ。
 頑丈な盾であるにも関わらず、その表面に爪をくいこませたイディは『がう』と小さく呟くと盾をよじ登った。
 頭上をとり、スピンをかけてフラーゴラの顔面を狙う。
 咄嗟に盾を手放しのけぞり姿勢から飛び退き、後方宙返りの要領でイディのクローを蹴りつける。
 空中で激突した二人は反発し、イディは両手両足を地に着けて、フラーゴラもまた両手を地に着ける形で着地した。
「ジェニファーさんや子供達が眠ってる時にうなされて助けを求めた名前が誰かわかる?
 それなのにアナタ達は今までのうのうと過ごしていたの?」
 相手を揺さぶる言葉をかけると、『オンネリネンの子供達』から派遣されたらしい少年兵たちは『なんのこと?』と不安げに顔を見合わせた。
 答えなんて求めてない。精神的な隙を作るのが目的だ。フラーゴラは視線だけでルシアに『やって』と合図を出すと、自分はイディめがけて突進。
 衝突の寸前に『レインロア』のマジックを解き放った。

●繭割の聖銃士エヴァ=フォレノワ
「わたしがジェニファーを捕まえたの。そう、あなた達の宿敵、世界の破壊者が此処にいるわ!」
 ココロは大声で叫ぶと、マスケット銃を構えて樹木の影から狙う少年兵たちへと貝殻状の魔術障壁を展開した。
 飛来する銃弾が彼女の防御を撃ち抜くことはない。厳密には貫通弾もいくつかあるが、着弾するたびにココロは自らに福音の奇跡を起こすことで銃弾を取り除き、肉体を急速回復していた。
 そんなココロが高い神秘攻撃能力を有していると知っているのか、少年兵たちは樹幹の影から出てこない。距離をとり散開し、一網打尽にされることを避けているようだ。
「3対1……ううん、3対2か。なんとか引きつけられてると思うけど……」
「情報ならもう一人いたはず。……不気味ね」
 アーリアは左右へと視線を走らせた。
 少年兵たちは引き撃ちの状態になったことで既に馬から下りている。森の中での戦闘に向かないというのもあるが、小刻みに移動するなら馬は不便だ。
 アーリアは黒い手袋の裾をつまんで引っ張ると、『一気に行くわよぉ』と言って飛び出した。
 ふわりとあがる魔術の香り。目を細め、距離を測り、アーリアは飛び退こうとした少年兵たちへと踏み込み全てをひと薙ぎに――しようとした、矢先。
「おねえちゃん」
 真後ろ。耳元。上下反転しつり下がった少年が、とろんとした笑顔で言った。
「お兄ちゃんを返して?」
「――ッ!」
 ヒ、という声を出したのだろうか。自分でも分からなかった。アーリアは反射的に飛び退き、地面を転がった。
 だがそうしていてよかった。さっきまでいた空間を巨大な芋虫のような怪物が囓りとり、大胆に破壊された樹幹はそのままバランスを保てずばきばきと音を立てて倒れていく。
「アーリアさん!」
 ココロが援護射撃を援護するべくかけより、思い切り少年へと体当たりをかけた。
 高い木の上から糸でぶらさがっていたらしい少年は、糸がちぎれ地面へと転がる。
「だいじょうぶ。もう大丈夫だよお」
「……エヴァくん」
 笑顔のまま起き上がり、右腕を巨大な芋虫に帰る少年。『繭割の聖銃士』エヴァ。
 『オンネリネンの子供達』の中でも特別に危険なフォルトゥーナ産実験部隊クリムゾンクロスの一員である。
「ねえ? お姉ちゃんたち、こわいひとに働かされてるんだよねえ? 大丈夫だよお、だいじょうぶ」
 両腕を巨大な芋虫に変えたエヴァは、完全防御状態にはいったココロの障壁を無理矢理食いちぎり、ココロの両腕へと食らいついた。
「や――」
 アーリアは、両目を大きく見開いた。
 エヴァの後頭部をわしづかみにし。
「やめなさい!」
 ヒステリックに思えるほど叫んで、魔力の限りをたたき込んだ。

●マリリンと赤壁の聖銃士アガフォン
 真っ赤な剣とイーリンの旗がぶつかり、魔術の火花を散らした。
「ジェニファーを返して! 生きてるんでしょう!?」
「マリリン、素敵な髪が台無しよ。そんなにジェニファーが好き?」
「ふざけないで!」
 力任せに振り込まれた剣を受け流し、イーリンは至近距離からマリリンの胸元に手をかざした。巨大な多重魔方陣が展開。
「あの子も帰りたがっているわ。でも、それは貴方がいる場所ってことじゃない?」
「わた――」
「騙されてはいけない!」
 よく通る声がした。まるでミュージカル舞台役者のような少年の声だ。
 それこそ舞台役者のように綺麗な服を身に纏った赤毛の少年が馬に乗って現れる。
「魔女の甘言は堕落を誘う。そうだね、マリリン? 激情に駆られ、怒りでひとを殺めるべきじゃあないんだ」
「は、はい……アガフォン様」
 スッと冷静さを取り戻し、イーリンから距離を取るマリリン。
 イーリンはどこか忌々しげにアガフォンと呼ばれた少年を見た。
 彼は洗練された動きで馬から下りると、舞台役者のカーテンコールがごとく仰々しく礼をした。
「やあ、魔女の諸君。君たちが僕らの仲間を捕まえて洗脳しているというのは聞いているよ。これ以上、大事な仲間をたぶらかさないでもらえるかな?」
「そういう言い方は鼻につくわね。――綾姫っ」
 鋭く呼びかけると、他の少年兵を圧倒的な剣さばきで倒していた綾姫がアガフォンへと振り返り走り出した。
「閉じた世界に居たい気持ちは、少しわかります。けれど……!」
 速度の乗った最高の斬撃。綾姫の抜いた剣は精神エネルギーを爆発させ、黒い蓮の幻影を散らしながらアガフォンへと繰り出された。
 本来ならこのまま首を切断して終わっている。
 ――筈だが、違った。
 目を瞑ったアガフォンが、握ったカランビットナイフで首元5㎝で刃を止めていた。
 踊るようなステップでスウェーをかけると、綾姫の側面へと回り込む。綾姫は大きく距離をとると今度こそ鋼華機剣『黒蓮』をオーバードライブ。
 爆発的なエネルギーが波となって放たれ、周囲の木々を破壊しながらアガフォンやマリリンへと迫る。
 対して、アガフォンは赤いマントを翻しマリリンを小脇に抱くと綾姫の攻撃をその身で受けた。
 あまりの衝撃に吹き飛び、樹幹を二つほど破壊して転がるアガフォン。
「ここは退くべきだ、マリリン」
「けど――!」
「死んではジェニファーを救えない。そうだろう?」
 優しく囁くアガフォン。イーリンは左右非対称に目を細めた。
「あなた……随分と毛色が違うわね」
「そうだろうとも。僕はプリンシパルになるべき聖銃士。皆の手本にならなくちゃあ、いけないのさ」

●晴天の聖銃士ヴァルラモヴナ
「ファルマコンに等しく守られし聖なる魂を、よくも拉致などという卑劣な手段で奪ってくれたな! 卑劣で下劣な魔女どもよ!」
「卑劣で下劣は、貴様等アドラステイアであろうが!」
 クレマァダの繰り出す絶海拳『消波』。
 全てを撃ち流す波濤魔術の渦巻く青が、正面から撃ち込まれた巨大な氷の柱と衝突。空中で爆発した。
 砕け散る氷の向こうに、杖を構える青髪の少年がいた。
 少年はおりた前髪を片手でかきあげ、先端に美しい飾りのついた杖を改めてクレマァダへと突きつける。
「今一度名乗ろう。我こそは『晴天の聖銃士』、ヴァルラモヴナである。今投降するなら命まではとらん! 我等が同胞、聖銃士ジェニファーと市民マルコを返すのだ!」
「随分と甘ったるいことじゃな。こちらは『命を取ってでも』追い返そうというのに」
 挑発的にクイクイと手招きしてみせるクレマァダ。
 ヴァルラモヴナは折角かきあげた前髪をくしゃくしゃにかくと、杖を振って大量の氷の槍を召喚した。
「愚劣で醜悪な魔女め!」
 あまりにも苛烈な攻撃である。受けきるのはクレマァダには厳しい所だが……。
「好機に焦ったようですね」
 黒子が小さく息をつき、ぐったりと力尽きた少年兵から手を離し、地面へと転がした。
 おおかた、ヴァルラモヴナが時間を稼ぐ間に先へ進むように言われていたのだろう。回り込んで移動しようとしていた少年兵たちは待ち構えていた黒子の奪希を受けて術中にはまり、あれよあれよという間に無力化されてしまっていたのだった。
「チェコ、ウェズリー、ハルカ! ……おのれ、卑怯な……!」
 音がするほど歯をきしませ、杖を握りしめるヴァルラモヴナ。だが、少年達の息があると分かると黒子へ牽制射撃をしかけながら彼らを回収した。
「魔女どもめ……!」
 少年達を抱きかかえ、にらみ付けるヴァルラモヴナ。だがそれ以上負って来られないことは見るに明らかだ。
 黒子はぼろぼろになったクレマァダをフォローしながら、その場から撤退した。
 薄目を開き、振り返るクレマァダ。
「死の価値を知らぬ者の死にもの狂いなぞ、欠片も怖くはないわ。
 ……出直せ、馬鹿者共め」

成否

成功

MVP

なし

状態異常

クレマァダ=コン=モスカ(p3p008547)[重傷]
海淵の祭司

あとがき

 ――『オンネリネンの子供達』の撃退に成功しました
 スナーフ秘密教会は新たな拠点へと移動し、活動を再開します。

 ――聖銃士アガフォン、白磁の聖銃士イディ、晴天の聖銃士ヴァルラモヴナ、繭割の聖銃士エヴァの四人に顔を覚えられました
 彼らはアドラステイアの実験区画フォルトゥーナの出身であるようです

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