PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<オンネリネン>救いをひとつ

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●少女は独白する
 ――お祈りしていれば、救いはあるのよ。
 それは孤児院のシスターの口癖だった。不思議そうに問いかける子、祈る時間が我慢できない子、言われる相手はさまざまだったけど、まあだいたいの子が言われていたと思う。
 例外なく、あたしも。

 ――祈れば慈悲を与えてくださるわ。
 ――貧しくても、幸せであることに感謝をするの。

 実際、孤児院に身を寄せる子は不幸じゃなかったと思う。少なくともあたしはそうだった。
 雨風凌げる『家』があって、喧嘩したりしながらも同じ時を過ごす『家族』がいて。
 すごく小さな世界だけれど、そこに笑顔や楽しそうな声が満たされていたことは、ちゃんと覚えてる。

 そう、覚えてる――全てが崩壊した、あの日のことも。
 この国に慈悲を与えて下さる神がいないことを知った日。
 この国は腐りきっていて、あたしたちが裏切られていたことを知った日。
 知ったあたしたちは逃げて、逃げて、やがてアドラステイアにたどり着いた。ボロ雑巾みたいになった孤児院の子らを、アドラステイアは迎え入れてくれた。
 結局のところ、どの子も信仰するということを捨てられなかったんだ。何からも見放されてしまったら、行き場のないあたしたちなんて見向きもされない。そうなったら立ち上がれなくなってしまう。生きていけなくなってしまう。
 そして、そういう子にとって新しい神は――こう言ってはなんだけれども、都合が良かったんだ。
 信仰する神を亡くした子の前に現れた別の神。同じような子らが祈りを捧げる神。
『きっと、ここなら大丈夫だよね?』
『わたしたちも、お姉ちゃんも、今度こそすくわれるよね?』
 あたしより小さい子たちが嬉しそうに、けれど必至な目をして、あたしの服の裾を掴んだ。
 その日から、あたしたちはアドラステイアの子になった。外はアドラステイアの子に厳しくて、捕まったら殺されるのだと聞いて、もう戻れないのだと理解した。

 戻れない? もう、戻るつもりなんてないのにね。

 マザーやファザーと呼ばれる大人たちには色々いるみたいだけれど、ファザー・ユーゴは優しい人だった。だから頑張って、あたしも、あの子達も、みんなみんな救われるようにって――。


「……やっぱり、おかしいよ」
 目の前で呟く少女は、あたしと時を同じくして『外の奴ら』に捕まった子。彼女の言葉に最初は反論していたあたしも、今では黙り込むしかなかった。
 いつ殺されるのか、いつ拷問にかけられるのかと怯えていた2人に、外の奴らは何もしてこなかった。それどころか暖かい寝床を用意されて、着る物も準備されて、食事だって3食出てくる。お陰であたしたちは来た当初より断然ふっくらとしてしまった始末で。
 この後に拷問が待っているのなら、些か気が長すぎる。本当はあたしたちを『救ってくれる』のかもしれないと、勘違いするには十分な時間。懐柔されたと言われても仕方ない程に、2人は外に対する敵疑心を失っていた。
 同時に起こるのは、アドラステイアに対しての猜疑心。

 外の奴らはあたしたちを殺さない。アドラステイアは、嘘をついていたのだろうか?
 ――どこまでが本当で、どこまでが嘘だったのだろうか?


●少年は憤慨する
 あの子が外へ連れ去られたと言う。
 ジェイはその知らせを受けた時、歯を食い締めた。外へ連れていかれたのなら、その末路は決まっている――死だ。
 孤児院にいる時から一緒の、妹のような少女。気が強いところはあったけれど、とても優しい子だった。彼女が神の御許で安らかであるように小さく祈りを捧げ、ジェイは顔を上げた。その先で交錯した視線が「大丈夫か」と問いかけている。
「……行こう。俺たちは止まっちゃいられない。『家族』は1人じゃないんだ」
「ああ……そうだな」
 そう声をかければ、ジェイとさほど年の変わらない少年――ダッドが視線を先へと向ける。しかしその指先が耳飾りへ触れたのを、ジェイは見逃さなかった。
 あれは、ダッドが『弟』を思い出した時にする仕草だ。最も本人は無意識なのだろうが。
 2人の所属する部隊の子供達は皆、本当の家族を持っていない。物心ついた時には孤児で、スラムのような場所で暮らしていたり、孤児院や教会で育った過去を持っている。そこで暮らした同年代の子供達は須らく兄弟姉妹であり、家族なのだ。
 この部隊もまた、ひとつの繋がり。ひとつの家族。自分が逃げれば家族が苦しみ、自分が頑張れば家族が救われる。――下層にいる弟妹たちを、オンネリネンに入隊させて魔女狩りから免除させることだってできる。
 だから、進まなくてはならないのだ。

GMコメント

●成功条件
 オンネリネンの子供達を『生かした状態で』撃破、保護する事

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

●フィールド
 場所はラサ。砂漠地帯で見晴らし良好です。オンネリネンはラサの悪徳商人に雇われており、商売敵の商隊を襲う様命令されています。皆様が全力で駆けつければ、それが起こる前に接敵できるでしょう。
 砂地による足場のマイナス補正が存在します。天候は快晴、日中のため寒いと言うことはないでしょう。

●エネミー
・ジェイ
 短い黒髪を持つ14,15歳程度の人間種の少年。この部隊のリーダー的存在です。
 見た目よりだいぶ大人びた態度をとりますが、『家族や兄弟姉妹』に見せる表情は年相応です。彼らを自分が守らなくてはという思いに駆られています。つい最近、妹のように思っていた子が外の者に連れ去られたことを知り、怒りの炎を身の内で燃やしています。
 火力型の魔法使いで、命中に長けています。AP吸収やMアタックの攻撃を多用します。2人まで庇うことができます。

・ダッド
 四肢が金属でできた14,15歳程度の鉄騎種の少年。この部隊の服リーダー的存在です。
 普段は明るいムードメーカーの彼ですが、戦場では何よりも堅牢なタンクとして仲間の為に体を張ります。アドラステイアに『弟』を残しており、自分が頑張る事で彼を魔女狩り等を免除されるオンネリネンへ入隊させたいようです。そのため、ダッドは皆様の前で一切引かず、その命尽きるまで盾となるでしょう。
 防御型のタンクで、【棘】を持っています。また、武器による効果でその攻撃全般にHP吸収の性質が付与されています。

・オンネリネンの子供達(近接型)×6
 部隊に所属する子供たち。剣や槍を携え、至近~中距離からの攻撃を仕掛けてきます。
 彼らも大人顔負けの戦闘力を持ち、チームワーク抜群のため、油断すると袋叩きに遭うでしょう。

・オンネリネンの子供達(魔法型)×5
 部隊に所属する子供たち。杖や触媒を携え、中距離~遠距離の攻撃を主に仕掛けてきます。彼らも大人顔負けの戦闘力を持ちます。
 彼らは回復支援型と火力型に分かれているようです。実際に戦ってみるまでその割合は不明です。

●ご挨拶
 愁と申します。
 オンネリネンの悪事を止めるため、彼らと対峙しましょう。
 OP『●少女は独白する』に登場した少女たちは下記シナリオと関連がありますが、全く知らなくても問題ありません。彼女たちの願いにより、オンネリネンの『家族』を生かしてほしいことが依頼達成条件として加えられています。
 それでは、どうぞよろしくお願い致します。

関連シナリオ『偽りの緑簾石』(https://rev1.reversion.jp/scenario/detail/4967)

●独立都市アドラステイアとは
 天義頭部の海沿いに建設された、巨大な塀に囲まれた独立都市です。
 アストリア枢機卿時代による魔種支配から天義を拒絶し、独自の神ファルマコンを信仰する異端勢力となりました。
 しかし天義は冠位魔種ベアトリーチェとの戦いで疲弊した国力回復に力をさかれており、諸問題解決をローレット及び探偵サントノーレへと委託することとしました。
 アドラステイア内部では戦災孤児たちが国民として労働し、毎日のように魔女裁判を行っては互いを谷底へと蹴落とし続けています。
 特設ページ:https://rev1.reversion.jp/page/adrasteia

●『オンネリネンの子供達』とは
https://rev1.reversion.jp/page/onnellinen_1
 独立都市アドラステイアの住民であり、各国へと派遣されている子供だけの傭兵部隊です。
 戦闘員は全て10歳前後~15歳ほどの子供達で構成され、彼らは共同体ゆえの士気をもち死ぬまで戦う少年兵となっています。そしてその信頼や絆は、彼らを縛る鎖と首輪でもあるのです。
 活動範囲は広く、豊穣(カムイグラ)を除く諸国で活動が目撃されています。

  • <オンネリネン>救いをひとつ完了
  • GM名
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年12月29日 22時21分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ベルナルド=ヴァレンティーノ(p3p002941)
鳥籠の画家
アーリア・スピリッツ(p3p004400)
キールで乾杯
エマ・ウィートラント(p3p005065)
Enigma
シャルティエ・F・クラリウス(p3p006902)
カモミーユの剣
アリア・テリア(p3p007129)
いにしえと今の紡ぎ手
アッシュ・ウィンター・チャイルド(p3p007834)
plastic
エステル(p3p007981)
シューヴェルト・シェヴァリエ(p3p008387)
竜食い

リプレイ


 乾いた風が頬を撫で、砂を巻き上げていく。あっという間に砂まみれだ。いちいちはたき落としていたらキリもないと、イレギュラーズたちは多少不快感を感じながら駆けていく。
 急がなければ間に合わない。刻一刻を争う状況なのだ。
(仕事は選ばないというより……悪徳な仕事を優先して受けているように見えますね)
 オンネリネンによる襲撃計画を知ったエステル(p3p007981)は微かに眉根を寄せる。彼らが自身らの意志で受けているのか、それとも彼らが慕うと言うマザーやティーチャーといった者たちからの指示かは定かでない。だが、天義の民であった者たちが、悪の手助けをするとは悲しい限りだ。
 けれども――そう思えるのは今、自分たちがこの立場であるから。時代が違えば自身がそうだったかもしれないと『鳥籠の画家』ベルナルド=ヴァレンティーノ(p3p002941)は前へ走りながらも視線を伏せる。
 孤児院の子供達は皆『家族』にも等しい存在だった。ベルナルドはそこの子らのまとめ役で、他の子らから見れば兄のようだっただろう。そして一様にシスターの言葉を信じ、祈りを捧げて育ったのだ。もしあのシスターがアドラステイアにいるマザーたちのような立場であったのならば、ベルナルドは悪事を止める側ではなく、止められる側であっただろう。
(間違っていても、子供達の家族を想う気持ちは無下にしたくない)
 孤児院で育った子供として、似たものを感じたこともある。けれどもベルナルドはもう子供ではない。大人だ。理不尽を受け止め、理解してやることが大人の役目だろう。
「――いた!」
 『チャンスを活かして』シューヴェルト・シェヴァリエ(p3p008387)の声に視線を向ければ、遠くでいくつかの影が動いている。さらにその奥で、それらから逃げるような影も。商隊が襲われているのだと理解したイレギュラーズたちはよりスピードを上げる。
「届け……ッ!」
 呪いの力を纏い、シューベルトの懐から引き抜かれた刀の勢いでそれが飛来していく。子供達の悲鳴が上がった。シェヴァリオンに騎乗した彼は鉄騎種の少年を見つけると素早く回り込む。
「邪魔しやがって……!」
「ダッド、商隊に逃げられる!」
 子供達の1人が少年へ叫んだ。やはりこの少年がこの部隊の副リーダーに当たるダッドか。彼とにらみ合った直後、横合いから火球がシューベルトへ襲い掛かる。
「油断するな、外の大人……それも、あのイレギュラーズたちだ」
 杖を構えた黒髪の少年。その冷えた口調はぞくりと背中を粟立たせる。敵意――否、殺意に溢れた眼差し。こんな子供から放たれるそれとは思えない。
 不意に空から滑空してくる影が人へと転じた。はっと顔を上げたジェイへ衝術を放ったベルナルドは視線を周囲へ走らせる。追いかけられていた商隊は遥か彼方。あれならばそう易々と追いつかれることもないか。
「こんなところで死んでたまるか!」
「みんなで生き抜くのよ!」
「そうだ!」
 口々に自身らを奮い立たせ、武器を取る子供達。それを見てつきりと胸が痛むけれど、だからと言って看過することはできない。
「ごめんね」
 少し、痛くするわ。
 呟いた『キールで乾杯』アーリア・スピリッツ(p3p004400)から激しい光が瞬いて子供達の視界を刺す。次いでその光を塗りつぶすように砂が巻き上がり、嵐の如く敵を翻弄した。
「出来る事なら自分たちの意思で来て欲しいでありんすな?」
 『Enigma』エマ・ウィートラント(p3p005065)は嵐の中で抗おうとする子供達を見やり、選択しろと告げる。
 これまでと同じように、ただ流されるだけの人生を歩むのか。
 それともイレギュラーズたちと共に行くことを選び、何かを変えようとするのか。
 熱砂の嵐が掻き消え――砂塵の中から風の刃が飛んでくる。はっと息を呑んだエマは咄嗟に強化魔術で受け流した。
「お前たちと一緒になんて行くもんか!」
「そそのかそうとしたってそうはいかないぞ、悪魔め!」
 オンネリネンもまた、アドラステイアの子供。外の人間は悪であり、『連れ去られた』子供が殺されていると教えられれば当然の反応だろう。そんな彼らの元へ音楽の渦を作り出し、『いにしえと今の紡ぎ手』アリア・テリア(p3p007129)はベルナルドに吹き飛ばされたジェイの元へ向かう。
「私の仲間を倒すなら私を倒してから! さあ、かかっておいで!」
 ジェイをアリアが食い止めにかかる一方で、他の子供達の前に立ちはだかるは『カモミーユの剣』シャルティエ・F・クラリウス(p3p006902)。魔力の込められたスカーフで柔らかな砂場をものともせず、掲げられた機械剣が陽光を浴びてきらりと光る。
「君たちの相手はこの僕だ!」
 多勢に無勢。けれどもシャルティエは不思議と負ける気がしなかった。――いいや、本当は分かってる。
(僕達のやってることは無駄じゃない。そう知れただけで、前を向き続けるには十分すぎる!)
 かつては敵だと向かってきた子供達が、自分たちを信用してくれたからこそ託された願い。無下になどするものか。
「貴方たちが……天義の民であった者が悪事に手を貸すのは、少し我慢がならないのですよね」
 エステルの背から光の翼が広がる。彼女の攻撃に合わせて『plastic』アッシュ・ウィンター・チャイルド(p3p007834)の雷撃が地面を這い、子供達へとその牙を剥く。アッシュはたん、と軽やかに空気を踏んでもう一発。
「あなた方は、わたしたちを殺したいのかもしれません」
 先ほどジェイが放った殺気は本気であった。目の前の子供達も殺す気でかかってくる可能性はある。
 それでも、誰1人として殺させなどするものか。仲間も、子供達も。


「退けよ!」
「それは出来ない相談だ」
 立ちはだかるシューベルトからダッドは逃げ、それをシューベルトが追いかけ、その合間に攻撃が放たれる。それは時としてダッドのものであったし、時としてシューベルトのものでもあった。
「ダッド君は友達想いなのねぇ」
 その声に振り向けば、ぱちり、と蜂蜜色の瞳。罠だと少年が気づくも逃れるには既に遅い。体が重くなる彼の耳に小妖精のさざめくような笑い声が遠く響く。
「……そそのかす、でごぜーますか。本当にその答えでよろしいので?」
 エマは攻撃を加えながらなおも子供達へ声をかける。きっと今回を逃せばこんな機会は早々訪れないだろう。イレギュラーズたちとていつでも迎え入れられるほど、助けを求められて駆け付けられるほどに暇ではないのだ。
「選択は常にリスクを負うもの。迷い、不安にかられることもありんすが……今、ここでしか選択する機会はありんせん」
「選ぶものなんてないじゃないか!」
「そうよ、自分たちから殺されにいくわけないじゃない!」
 後方から戦う子供たちがエマへ叫び、素早く魔力を練り上げる。彼らは中々に魔力量があるらしい、とそれを観察しながらアッシュは銀のひと振りを振るう。滲む朱。アッシュへ一滴落ちる魔力。そして向けられる敵意にアッシュは真っすぐ見返す。
「……あなた方と相対する時、いつも感じるものがあります」
 それは純粋な敵意。
 それは純粋な愛情。
 何もかもが何処までも純粋に真っ直ぐで、ただの子供なのだと感じさせる。この場で武器を振るっていることに違和感を覚えてしまいそうなほどに。
 しかし、その力量もチームワークも情報通りに『大人顔負け』だ。アリアのマークから逃れるジェイと、他の子供達の魔法に翻弄されるシャルティエは光の刃を後者へと飛ばし、接敵せんと駆けていく。その分近づこうとするジェイへ立ちふさがるのはアリアだ。
「わたしよりあっちが気になる?」
「……あの子供の方が面倒そうだ」
 彼がアリアの肩越しに視線を向けたのはシャルティエか。彼の仲間を一手に引き受けている姿を見ればあちらを邪魔したくもなるのかもしれない。だがそう易々と近づかせるものかと、アリアは回り込もうとするジェイをしつこく追い回す。
「降伏してください。体力の無駄でしょう」
 エステルは仲間を回復しようとする子供を一瞥しながらネメシスの光を放つ。残念ながら応えの声はない。
「どれだけ向かってきても、俺達はお前達を殺しはしない。信じられないなら、思う存分ぶつかってこい!」
 想いを力に変え、ベルナルドの放つ衝撃波が子供を強かに叩く。次いで仲間の攻撃がその子供を昏倒させた。
 彼らの邪魔をしに来たのかと問われればその通りであり、まさしく彼らにとっては敵であろう。ならばこの言葉を信じさせるのはその行いで以てこそ、だ。
「そう……絶対、助けるんだ……! こんなところで、倒れるものかッ!」
 子供達の攻撃を耐え続けるシャルティエ。その想いが彼自身の背中を押す。あともう少し、あともう少しだ、と。
 少しずつ子供達が昏倒させられていくが、残っている者は逃げる気配もなければ降伏する気配もない。エマは内心溜息をついた。
(人は変われども世界は変わらない、いい例でありんすなあ)
 天義という国がこうだから、冠位魔種というきっかけがありながらも根底は変わらないのだとエマは思う。まあ、どの国も似たり寄ったりと言えばそれまでだが。
「信仰は救いで、自分の礎にもなって、強くだってなれる」
 けれど、とアーリアは瞬く光で子供達を翻弄する。
 信仰とは余裕があってから生まれるものだ。それはあの塀の中、偽りの神では成せない事。
 例えば、温かいスープやパン。
 例えば、お日様の匂いがする布団。
 例えば、一緒に暮らせる家族。
 そうして身も心も満たされて、ようやく『自分が祈りたい』神を見つけられるのだ。
(戦局は……有利、なのかな?)
 アリアは自身を回復させながら周囲を見渡す。子供はすっかり数が減ったが、その分シューベルトやシャルティエの消耗は激しい。
 しかしここで子供を逃すわけにはいかないとイレギュラーズは畳みかける。どれもこれも彼らの命を奪わず、意識だけを刈り取るものであると――ここまでして彼らの命を守ろうとする意味を、彼らはわかっているだろうか?
 ベルナルドの神気閃光が一度、二度と激しく瞬き、シューベルトの蹴技がダッドを攻め立てた。
 ジェイとダッドは一瞬視線を交錯させ、悔しがるような表情を浮かべて――それでも、逃げない。力の差を明確にされてなお、仲間を見捨てて逃げるなど、できるわけもない。
「詭弁か欺瞞だと、思うでしょうが――」
 はっとアッシュを見た2人へうねる雷撃が迫る。次いでアーリアの放った神聖なる光が彼らの意識を攫って行った。その傍らに、聞こえただろうか。

 ――あなた方に会いたがっている家族がおりますゆえ。



 完全に鎮圧された子供達を一瞥し、それからベルナルドは砂漠の彼方を見やる。きっと商隊は逃げ切り、そのまま次の目的地へ向かったことだろう。
(出来れば子供達が少しでも恨まれないようにしたいところだが……)
 この広い砂漠、同じ者と会うなどあらかじめ行き先を聞かなければ難しい。とはいえ、オンネリネンの雇い主である悪徳商人を炙りだすためには聞き込みもしたいところだ。
 その一方で、保護した子供達をどうするかという問題もある。15名弱を一気に受け入れる事は難しいだろうから、分散させてイレギュラーズの領地などで保護させるべきだろうか?
 そう悩むシューベルトの傍らでアリアはしゃがみこみ、子供の1人と目を合わせる。
「そういえば、君の同僚の女の子がいるって聞いたよ?」
「どうりょう……?」
「こんなやつに耳を貸すな!」
 舌足らずにアリアの言葉を復唱する子供にダッドが叫ぶ。その言葉にアリアはむっと口を尖らせた。
 こんなやつ、とは酷い言われようだ。まるで鬼か悪魔のようである。
(……ううん。実際にはそうなのかな)
 よくよく見てみれば、保護された子供達は虚勢を張っていることが分かる。泣き出しそうな子もいるが、周りが泣いていないからかぐっとこらえているようだ。生かされた理由など、拷問にかけて情報を吐きだそうとしていると思われているのかもしれない。
 アドラステイアは、そういうことを子供達に教え、外は危ない場所だと言い聞かせているのだ。
「……同僚の女の子は存命だし、会って話をすることも……暫くすれば、手続きを踏んでできると思うよ?」
 彼らの精神状態は、とてもじゃないがすぐに逢わせる事は叶わないだろう。逃亡しようとするか、ともすればアドラステイアの仲間を守るため、先に保護した子供を巻き込んで心中することすらもあり得る。今、信じてもらうのは難しいか――。
「――ちょっとだけ良いかしら」
 その様子を見ていたアーリアがそっと子供達へ声をかけた。視線が、興味が、恐怖が向けられる最中でアーリアは大切に預かっていた『声』をその場で再生する。それを聞いて数人の子供が顔色を変えた。
(間に合って良かった)
 落ち着いた彼女から言葉を聞いて、此処までの移動、そして戦闘。24時間しか記録を保持できないという制約では少し危うかったが、ギリギリ掻き消えずに済んだのだ。
「少し遅くなっちゃったけど、『家族』で聖夜のパーティをしたっていいじゃない。ね? お願い」
 あの子たちに会ってあげて。無事な顔を見せてあげて。
 家族が生きている事は何よりも幸せなことだから。今は信じられなくても、実際に会えば生きているのは事実だとほんの少しでも感じてもらえるだろう。
「僕達の言う事は信じられないかもしれない。それでも、君達の良く知る子が外の世界で生きていたなら、その子たちが言う事は疑わないであげて欲しい。
 ……君達を想い、無事を願った彼女たちの言葉と想いは、信じてあげて欲しいんだ」

 だって『家族』なんでしょう?

 シャルティエの言葉にジェイが瞠目する。それから目を閉じて、あの子は死んだと呟くけれど、それは自身に言い聞かせるにしては酷く弱々しい。
「此れからのことは、彼女らと会ってから考えても、よいのでは」
 アッシュはそっと仲間たちへ促す。自分たちも怪我を負っているし、子供達とていつまでもここで座らせておくわけにはいかない。必要なのは休息の取れる部屋と温かなご飯だ。
 動き出したイレギュラーズたちに混じりながら、アッシュはそっと肩越しに振り返った。何人かが子供達を見張ってくれているから、こちらは馬車の準備に注力できそうである。
(……あとどれだけ、彼らを救えるのでしょうか)
 今回は救うことができたが、あとどれだけ彼らを救える余裕があるのかもわからない。
 アドラステイアは、どのように動いてくるのだろうか――。

成否

成功

MVP

シャルティエ・F・クラリウス(p3p006902)
カモミーユの剣

状態異常

シャルティエ・F・クラリウス(p3p006902)[重傷]
カモミーユの剣
エステル(p3p007981)[重傷]

あとがき

 お疲れさまでした、イレギュラーズ。
 彼らは落ち着いたのちに再開することとなるでしょう。きっと、遅れに遅れた聖夜の祝いも、いつか。

 それでは、またのご縁をお待ちしております。

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