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シナリオ詳細

<果ての迷宮>ウェシルの代裁

完了

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●悲願へ
 『幻想』王都メフ・メフィート。
 嘗て勇者王と呼ばれた人物の血筋と夢とを礎として存続してきたこの都市は、『果ての迷宮』と呼ばれる『踏破されざる迷宮』をその中心に据えている。
 その踏破は幻想王家、ひいては王侯貴族達が追い求める夢であり、幻想という国家に課せられた一種の義務でもあった。
 『総隊長』ペリカ・ロズィーアン(p3n000113)を中心とした探索者(エクスプローラー)をして足止めを食うほどの地への道程は、しかしローレットのイレギュラーズ達の手により光明が見えていた。
 斯くしてイレギュラーズはペリカを中心としてより深くへと潜っていく。未踏の地へと、向かっていく。その先にあるものは、幻想国の威信か、それとも。

●裁きの剣で天秤を均べよ
「……天秤、なのだわさ?」
「然り。天秤である。死者の魂を裁き、楽園か地の底か、何れかへと導くものなり」
 27階に踏み込んだ一同を迎え入れた光景――巨大な天秤と、その前に立つ尊大な(そして古代風の衣装を身に纏う)男の言葉に、ペリカ含めイレギュラーズはどこか毒気が抜かれたような表情を見せた。
「死者……って、死んだ覚えはないんだけどねぃ」
「然り。ここは迷宮、そして我はこの階層を守護せし冥界が神の一柱『ウェシル』である。貴殿等への試練を授ける者なり」
 階層主ことウェシルはそういうと、軽く指を鳴らしてみせた。古代モチーフの神の割に軽い所作だなあと一同が思ったのも束の間、周囲には真っ白な人影の群れが現れる。 
 その数は『無数』という以外に表現しようがなかった。いずれも顔は見えず人の形を象っているだけでどうにもその姿が判然としない。そして注目すべきは、彼らの足が地についていないということにある。
「これから貴殿等には、我の代わりに裁きを示してもらう。ここにあるは行き場を失い、裁かれるを待つ者達である。貴殿等はこの魂を裁き、この天秤をひと方に傾けぬよう力を尽くしてもらいたい。貴殿等の言葉に合わせるなら……そうだな、『奇跡的成功』を求む性向の者が剣を振るえば魂は天へ向かう受け皿に、『絶望的失敗』を求む性向の者が剣を振るえば地に向かう受け皿へと送られる。それらを均し、偏りなく天地へ送ることがこの階層の課題である」
 つまり、運を味方につける類の者は天国(便宜上)へ魂を送り、失敗をも糧とする者達は地獄(便宜上)へと魂を送るというわけか。ウェシルが言葉を続けようとした矢先、一同は胸元に光る杭が突き立てられていることに気付く。それは痛みを伴わず、しかし言い知れぬ不安感を想起させた。
「さりとて、特異運命座標の者等の持つ力たるやこの閉鎖空間に於いて意図せぬ結果を生むこともあろう。よって、我はその力の一部を制限し、同時に『救済措置』を設ける。……即ち、その運命を自ら捧げることで、各々一度のみ天秤を傾けることを許容しよう。だが心せよ、状況が進行する中にあっても、過大な傾きは貴殿等の力を確実に削ぐであろうことを。覚悟せよ、貴殿等が裁く魂は――貴殿等が知らぬだけの『真実の魂』であることを」
 ウェシルはそう告げると、黙して動かなくなった。彼自身は何らかの敵対行動を行うでなく、この試練を監督する者なのだろう。
 恐らく、身を削らず魂を掃討できる戦いではあるまい。
 そして、与えられた試練もまた言葉ほどには簡単ではあるまい。
 無数の魂達はどこにも行けずここに居た。……その意味を、あなた達は軽視できない。

GMコメント

 またお前かって思った皆さん、そうです私です。
 通算3……4回め? そんな感じで果ての迷宮27層。

●成功条件
 『ウェシルの天秤』を傾きなく均等に魂を送り込む(若干の許容範囲あり)

●ウェシル(とウェシルの天秤)
 ウェシルは異世界の裁きの神、その異名の一つです。本来は真実の羽根とかそういうもので魂を裁いたり裁かなかったりします。
 今回は階層主として皆さんの動向を監督しますが、別に敵対的ではないです。ルーリングの甘さから味方よりですらあります。
 『ウェシルの天秤』は左に天国行き、右に地獄行きの魂を載せます(天国/地獄は便宜上の呼び名ですがめんどくさいのでそれでいいってぶっちゃけました。ウェシルが)。
 今回はフロア内の魂を均等に載せていくことになります。
 なお、最終的に均等であればいいというわけではなく、傾きが大きくなるにつれて様々なBSが課せられます。

●裁かれぬ魂×無数
 正確な数は不明ながら、顔のない魂が彷徨っています。
 彼らの罪を一元的に裁くことは出来ず、結果としてイレギュラーズにお鉢が回ってきました。
 彼らは攻撃してきませんが、皆さんは魂の数に応じてHPが徐々に減少していく状態となります。これは送った数に応じ、ゆるやかに減少していきます。
・『CT値≧FB値』の場合、『天国』へと。
・『FB値>CT値』の場合、『地獄』へと送ることができます。
 なお、これは数値10以内の近似値に関しては『指定した方』となりますが、
・善意的、ないし魂に同情的な性向の言行を伴う場合『天国』
・悪辣、ないし魂を傷つけることを前提とした言行を伴う場合『地獄』
 へと送りやすくなります。
 どっちかというと数値的振り分けよりもプレイング的振り分けの方が優先順位高め。
 プレイングの精度と数値の極端さがかち合った場合、プレイングを優先的に判定材料とします。

●階層特殊ルール
 今回は計画的に魂を倒す必要性があり、かつフロアの魂の数が膨大なため、範囲が広いスキルに『事故がないように』制限を設けております。そのため、下記のように対象数を制限しています。
 なお、これらの制限が要らない場合は【制限不要】ってスミカッコなしでもどこかに書いておいて頂ければ。
・貫:レンジ×1体
・扇:レンジ×2体
・範:2体固定
・域:4体固定
・ラ:2~4体ランダム

 また、OPにある通りパンドラを『パンドラ復活扱いで』1度だけ消費し、天秤の傾きを「多い方から少ない方へ5%移動」します。
(このため、パンドラを消費して敢えて傾きを悪化させる行為は行えなくなっております)
 全員が宣言しても使う機会はそう多く無いと思いますが、行動中にBSの影響を減衰させるために使うとかもアリはアリです。

 以上。
 どこにも行けない未来だけは回避させてあげましょう。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

※セーブについて
 幻想王家(現在はフォルデルマン)は『探索者の鍵』という果ての迷宮の攻略情報を『セーブ』し、現在階層までの転移を可能にするアイテムを持っています。これは初代の勇者王が『スターテクノクラート』と呼ばれる天才アーティファクトクリエイターに依頼して作成して貰った王家の秘宝であり、その技術は遺失級です。(但し前述の魔術師は今も存命なのですが)
 セーブという要素は果ての迷宮に挑戦出来る人間が王侯貴族が認めたきちんとした人間でなければならない一つの理由にもなっています。

※名代について
 フォルデルマン、レイガルテ、リーゼロッテ、ガブリエル、他果ての迷宮探索が可能な有力貴族等、そういったスポンサーの誰に助力するかをプレイング内一行目に【名前】という形式で記載して下さい。
 誰の名代として参加したイレギュラーズが多かったかを果ての迷宮特設ページでカウントし続け、迷宮攻略に対しての各勢力の貢献度という形で反映予定です。展開等が変わる可能性があります。

  • <果ての迷宮>ウェシルの代裁完了
  • GM名ふみの
  • 種別EX
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年12月22日 23時30分
  • 参加人数10/10人
  • 相談7日
  • 参加費150RC

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(10人)

ツリー・ロド(p3p000319)
ロストプライド
エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)
愛娘
イーリン・ジョーンズ(p3p000854)
流星の少女
アト・サイン(p3p001394)
観光客
ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)
願いの星
シラス(p3p004421)
超える者
レイリー=シュタイン(p3p007270)
ヴァイス☆ドラッヘ
フラーゴラ・トラモント(p3p008825)
星月を掬うひと
オウェード=ランドマスター(p3p009184)
黒鉄守護
キルシェ=キルシュ(p3p009805)
光の聖女

リプレイ

●何を以て裁きというのか
「ほう、あの天秤なかなか良いものだな、今度似た形状なのを作ろうかな……?」
 『カースド妖精鎌』サイズ(p3p000319)がウェシルの守る天秤へ向ける視線は、目の前の道具に対してその存在意味などを問うより早く、そのデザインなどに向いたらしかった。職人としての矜持がそうさせたのだろうか?
「覚悟せよ、とは。ふざけたことを言ってくれる、な? 魂の行く末を迷宮の試練のために、駒にする、などと」
「貴殿の憤りは尤もかもしれぬ。だが、裁かれずに何処にも行けず、どころか世界に忘れ去られ拾い上げられぬ魂があるならば、それは不幸ではないのだろうか。我に裁けぬ魂を託すことで、彼らに救いが与えられるならばそれもまたよし」
「私は裁かれる側で裁く側じゃないんだけど……私の盟友も同感みたいよ。本当、困った話を向けてくるものね」
 『訊かぬが華』エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)がウェシルに向けた視線には、確かな怒りの感情が見て取れた。魂を弄び、蔑ろにしている……そんなふうに見えたのだろう。ウェシルは素知らぬ顔で道理を語るが、『天才になれなかった女』イーリン・ジョーンズ(p3p000854)にも、エクスマリアにも、届くことはなかった。
「ゲヘナの底へ下る者、神の玉座へ昇天する者。ダンジョンにはどちらも存在しているが、お前たちはどうしてここを揺蕩っている?」
「貴殿等の知る『それら』と彼らが求める『それ』が大きく異なれば、恐らく向かうことは叶うまい。揺蕩う者には、避け得ぬ理由もある。その理由がわからぬ我は、外より至る強制力に期待する他はないのだ」
「……別に、君に聞いたわけじゃないんだけどね」
(アトさんに地獄までついて行く……地獄でもいいよって言ったの忘れてないよ……だから、ここで地獄を見るくらいどうってことない)
 『観光客』アト・サイン(p3p001394)が魂達に語りかける様子、ウェシルとのやり取りを続ける姿、それらに対し『恋する探険家』フラーゴラ・トラモント(p3p008825)は一種の感動のようなものを覚えていた。恋は盲目とはいうけれど、彼女は目の前の出来事から目を背けず、耳も塞がない。すべてを感じ取ってそのうえで、アトへと視線を向けているのである。
「魂さんたち丁度半分になるように乗せて行くのね! 頑張るわ!」
「う、ウム……裁決を待つ者達に確りと伝えてやらねばいかんな……」
「……因果な商売だとは思ってたけどここまでとはねぃ」
 『黒鉄守護』オウェード=ランドマスター(p3p009184)は傍らでぴょんぴょん飛び跳ねながら理解を示した『リチェと一緒』キルシェ=キルシュ(p3p009805)、そしてどこか影のある表情を浮かべる『総隊長』ペリカ・ロズィーアン(p3n000113)の両者にせわしなく視線を往復させながら、しかし自らの境遇やこの試練の難儀さを思い顔を顰めた。罪を自認し、何れ来る罰を乞う。彼の複雑な心境が重いように感じられるが、他の2人も十分に重い。キルシェは魂を天国に送ることを喜んでいるが、その実送るためには倒さねばならぬ、攻撃せねばならぬという葛藤に。そしてペリカは、何事か考えるような。
「この世が地獄みたいなもんだからさ、行先は天国しかねえと思ってたぜ」
(少しでも多くの魂を天国に送ってあげたいのだけれど……ごめんなさい。私達は、先へ進まなくてはなりませんの)
 『竜剣』シラス(p3p004421)のざっくばらんな言葉を背景に、『祈りの先』ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)は誰に聞こえるでもないように小さく祈りを――否、『謝罪』を捧げた。
 天国ないし地獄という物言いは、ウェシルに言わせれば便宜上のものでしかなく本質とは乖離しているという。されど、人の行く先をふた手に分けるのなら、それは天国か地獄か、の2択と捉えて当然だ。そも、分ける事それ自体に否定的だというのに。
「まるで死神よね。まさか私がこんなことをやるなんて……ほんと変な縁よね」
 『白騎士』レイリー=シュタイン(p3p007270)の自嘲を含んだ声音に対して、仲間達はそうだとも否やとも返すことはままならなかった。仲間を守り、無辜の人々を守ってきた彼女にとって、それこそ無垢の魂を仕留めて地獄に、と要求することはいかほどに罪深いものなのか。仲間達は知っていた。だからこそ、それを軽々にからかう気にもなれなかった。
「そういや今日は手伝ってくれないんだね、ペリカ隊長。もしかして、顔見知りでも紛れてたりするのかい?」
「……顔も見えない相手なんて、知り合いだかも分からないんだけどねぃ」
 アトのからかうでもない問いかけに、ペリカはため息まじりに小さく返す。顔も特徴も奪われた無数の魂から『誰か』を見出すのは不可能に近い。彼女の心中にあるのは、無数の魂にある可能性――彼女が見送った人々がここにいやしないかという懸念であった。
「あの天秤を使った仕事か……面白そうだな……是非やってみよう、徹底した均等力を見せてやろう!」
 サイズはどこまでも自由に、そして普段どおりに振る舞った。気負うところなど何一つ無い一振りの鎌として、そうするのがごく当たり前というように。
「天秤は揺れる。天秤は傾く。死せる者に幸いあらんことを」
 ウェシルの言葉に合わせるように、魂達はめいめいに動き出す。イレギュラーズを傷つけるためではない。何かを求めるかのように、だが目的もなく。
 フラーゴラは合図に合わせるように松明を放り、天国へ導く者と地獄へ招く者との境目とした。
 サイズ、エクスマリア、アト、ヴァレーリヤ、そしてキルシェが天国側へ。
 イーリン、シラス、レイリー、フラーゴラ、オウェードが地獄側を担う格好だ。
「じゃあペリカ隊長、カウントは頼むよ。万が一があればその時は動いてくれるね?」
「……当たり前じゃないのさ」
 中心に立ち、表情を隠したペリカにアトは淡々と問う。そうか、とだけ返したアトは魂達を睥睨する。
 自分が倒せば彼らは天国に行くのだ。選ばれたなどと誇れぬようなやり方で。

●裁く資格は何処にありや
「行くわよ。消えなさい」
 レイリーは冷徹に言い放つと、手にしたランスを振るって手近な魂を蹴散らしていく。その姿は苛烈であり、恐怖を引き起こす形相とともに魂達を震え上がらせた。その恐怖こそが、地の底への片道切符だ。
「さて……裁きはいつでも平等とは限らない。下手人が私のようなのならなおさら、ね?」
 他方、イーリンは当たるを幸いに、ではなく相手を選り好みしつつ処理することを選んだ。特に、力なき者の形をとった魂を。射線を冷静に観測すると、瞳から放たれた燐光が一直線に魂を貫く。
 光が突き進んだ先に魂はない。既に、天秤に乗ってしまっている。
「残念ながら、お前さんらは罪を償わなければならん!」
 オウェードは2本の斧を振り上げると、鋭く振り下ろし近くの魂を蹴散らしていく。無辜の魂に刃を振り上げること、あるやなしやの罪を指弾することに躊躇がなかったと言えば嘘になるが、彼はそれでも目を背けることはしなかった。心を乱すことはしなかった。だからこそ、失敗というものを恐れなかった。
「生前、やり残したことや後悔はない……? あの時アナタは出来たはず。助けられたはず」
 フラーゴラによって呼び出された大水はうねりを伴って魂を包み込む。静かな問いかけがやがて大きな意味を成すように、その声は静かに響く。責めない。今はまだ。ぶつけない。こみ上げる感情を、まだ。
「怖がらなくても大丈夫。私の手を取って、先へ進みましょう。きっと主は貴方を赦し、迎え入れて下さいますわ」
 ヴァレーリヤの放つ言葉は、吹き荒ぶ炎の苛烈さに反し優しく慈悲深いものだ。求められれば何処までも優しく、どこまでも厳しくできただろう。ならば彼女は、せめて魂に平穏あれと慈母の顔をして振る舞う。
 だってそれしか出来ないから。終わってしまった者にできることなど、事情を知らずとも機械のように投げかける優しいことばぐらいだ。
「罪の重さなど、魂に向き合ったものだけが、推し量れること。罰を与えるなど、罪の重さを知るものだけが、為すべきこと。魂の行方など、罰の先を見届けるものだけが、関われること、だ」
 エクスマリアは仲の良い者達が無慈悲を装い魂を地獄に送る様を見やり、無表情にそう告げた。つまりは、本当なら推し量ることの出来ぬ自分は資格がないのだ、と暗に告げているようなもので。
 一瞬だけ萎れた髪が、再び力を取り戻し鉄の星を降らせる様は、彼女の深い葛藤を体現したかのようでもあった。
「この弾丸が裁きの剣となるだろう。……つまりは今日の君達は天国行きさ。ラッキーだったな」
「俺に魂がどうとかっていう考えはないけど……まあ天国に行きたいのは普通だろうね。連れて行ってあげよう」
 アトとサイズは、依頼に於いて感情を表に出すことこそあれ、依頼の達成に私情を挟むことは少ない。そういう意味では、この試練に最も適任だったと言ってもいいだろう。それが彼らにとって本意であるかは論ずるに値しないのだが。炸薬とともに吐き出された『良心』が魂を打ち抜き、渾身の力で振り下ろされた鎌が魂の胸を貫く。それらは痛覚に身を捩ることなく、感謝の笑みを残して消えていく。
「死人が現世に居残り続けること自体が許しがたい罪だな、テメーら全員地獄行きだ」
 シラスは両手をそれぞれ別の生き物であるかのように振るい、次々と魂を地獄の天秤に送っていく。仲間達の状況を見て静かな立ち上がりで行くべきか逡巡したが、キルシェが控えている以上は無用な心配であろう、と踏んだのだ。彼が悪意的に振る舞うことは決して珍しくも不自然でもない。明け透けに悪であることが、一種独特な謂わば『爽やかな殺意』とでも言うべき所作を見せているぐらいだ。
「あのね、魂さんたちここから移動するのに、あの天秤乗らなきゃいけないの。でも、あの天秤乗るにはルシェたちの攻撃受けなきゃ駄目みたいなの……ごめんなさい」
 キルシェは魂達に深く頭を下げ、彼らを攻撃すると宣言した。面と向かってそう言われて当惑しない者はいるまいが、顔のない魂達の表情は窺い知れぬ。ただ、彼女が頭を下げることを止めようとする所作は見られた。
 彼女が顔をあげた時、直前までの悩みや弱さは感じられなかった。ただ、決意のために確固たる信念を以て魂へと攻勢をかける。風が吹き抜けた後、天秤へと向かう魂を見送る表情は硬いものがあったのは確かだ。
「どうだいペリカ隊長。今の所、そう天地の差はないはずだけど」
「順調だねぃ。このペースを維持できれば思ってたより早く片付く筈だわさ。……息切れしない程度に」
 アトがペリカに問いかけると、ペリカは油断なく状況を確認、イレギュラーズの手際に感服したような表情を見せた。だが、やはり表情に見え隠れする影のようなものは剥がれない。べつに、彼女に思うところはないが。それでもやはり、そんな顔をされると困る。
「ペリカ、体に障りありませんわよね? 辛かったら早くお言いなさいな」
「なんじゃったら……その、ワシもおるからな。気兼ねなく、言うんじゃぞ」
 ヴァレーリヤとオウェードも口々に彼女を気遣うが、ペリカは形だけ謝意と平気である旨を示すばかりだった。やはり、何事か思うところがあるようだが……。

●「裁いてほしい、あなたを裁いた不遜なわたしを」
「天秤の傾きは大きくないね。お互いの行動ひとつひとつに天秤が反応しないのを見ると、全体を見て傾いたりするのかな?」
「別に、なんだっていいこと、だ。マリアは魂達に、理不尽しかない選別を行うのだから」
 わずかに、ほんの僅かに天国側に傾いた天秤を見て、サイズは天秤の傾きの法則性と現状を確認しようとする。状況開始から暫くして、既に相当量の魂が天秤に送られた。だが、天国側が、または地獄側が固まって行動したところで瞬間的に大きな偏りを見せることはなかった。
 エクスマリアは傾きに視線を向けつつ、然しそれ以上の感情を表に出さない。自分が天国に送るから清い、地獄に送るから汚れている、などとは考えていない。魂がこの世界の外に由来する自分が、この世界の人々の魂をどうこうするという事自体に強い違和感を覚えたのだ。
「アナタ達は、あの時はそれをしなかった。それを罪人と言わずに何と言うの……!」
「死者の声なんて聴く必要ないのよ!」
 フラーゴラとレイリーは絞り出すように叫びながら、己の獲物を振るっていく。無慈悲に、無感動に、魂達を地獄に送る。あたかも『私はあなた達に気負うところなど何一つありません』と声高に示しているようにも感じられた。そうでもしなければ心中に蟠った良心の呵責に押しつぶされる気がしたから。彼らの行く末に理由がなければ、如何に地獄を見ることを肯定していようと、どうにもならない現実を振り払えない気がしたから。
「それじゃあ――悲鳴を聞かせて、生前を思い起こさせるような、魂のゆらぎ一つで、必死に泳いでみなさいな」
 イーリンの冷徹な言葉は、紫の残滓を残して小さき魂を蹴散らしていく。罪もない魂を、己の力で無慈悲に『導く』。なんの感動もなく裁きを与える機械であるように振る舞う彼女の姿は、いっそ清々しいまでに自分というものを理解しているようにも思えた。きっとここで不条理を叫んでも無駄なだけだ。ならば役割を全うすることこそが魂への慈悲であると。
「貴方達の行いを主は認めてくださいます。私だって悲しませることも、痛みを与えることもせず送って差し上げます。だから、だから……!」
 ヴァレーリヤの言葉に徐々に嗄れが見え始めたのは、魂達によりすり減らされた己の体力からではあるまい。それなら、きっともっと動くに厳しい者がいるはずで。不調を訴える者もおらず、体力が限界に達した仲間もいない。治療に回る窮地ではないけれど、自分は人々を天国へと導いている筈なのに、心が悲鳴を上げ続けている。行為に拒否反応を覚え続けている。
「お……愚か者……わ……ワシのタイプだろうが……ウェシル様の意向じゃ!」
 オウェードの視界の隅でイーリンが裁いた者。そして己が裁く者。何れにも小さき魂が垣間見える。子供を(常道にあらぬ意味で)好いているオウェードにとって、それを地獄に導くなどとんでもない話である。だが、裁かねばならない。成さねばリーゼロッテを裏切る。成せば目の前の魂を裏切る。最悪すぎるダブルバインドが彼の心を擦り減らすが、さりとて成し遂げぬことで目の前の魂すらも救えぬ予感が恐ろしい。これは救済であると、言い聞かせねばならない。
「……で、彷徨える死者の諸君、ペリカの顔に見覚えがあるものはいるか」
 アトは薬室に弾丸を送り込みながら、魂達に問いかける。あちらこちらに揺蕩っていたそれらのうち、明らかに動きが変じた魂が『幾つか』存在した。青年程度の背格好、顔立ちは霞んでいるが、ペリカを知る魂なのだろう。
「ビンゴ」
「……いい趣味じゃないと思うけどねぃ」
 ペリカの絞り出すような声に、しかしアトは応じない。そんな事はわかっていると言いたげに。
「全く、自分ひとりであの世にも行けないような連中は軟弱で参るよな! 地獄行きで十分だよ、お前らなんて!」
 風の刃を振るうシラスは、乱暴な物言いで魂達を風と共に地獄へと送る。彼の振る舞いはどこまでも違和感がなく、暴力的で、それでいて諦観を感じるそれだ。自分だけで変えられるものなど少ない。だが、変えられるものがあるならそれを捨てるという選択肢はない。そういう目で、戦場を、そしてウェシルの天秤を見ている。残りわずかとなった状態で、天秤の傾きは大きくない。だが見過ごせぬ傾きでもある……致命的な齟齬を捨てるため、彼は己の運命を切った。
 天国と地獄との傾き、その差がひっくり返る。が、運命を切る直前よりは差が小さくなったようだ。『全体からみた天地の差』を覆す奇跡であったのだと判断できる。そして、順当に動いている以上無為に切るべき手段でもないことを示せた。彼の功績は思いの外大きい。
「ウェシルお兄さんのお手伝いだけど、魂さんたちみんなが前に進める場所に案内するわ!」
 天国とか地獄とか、楽とか厳しいとか、そういう観念的な言葉で糊塗するのをキルシェは好まなかった。どちらに進んでもここにいるよりはマシだ。マシで、あってほしい。そんな願いを籠めて口ずさんだ歌は、魂に確かな道筋を付け、送り出す。
 彼女には魂の行末などわからない。けれど、自分達の行いが彼らの不幸を生み出す要因であってほしくはないと思っている。だから謝っても、許してほしいとは思っていない。
(どうか、魂さんたちの行く先が明るい光に満ちていますように)
 だからこそ、送った魂達へと慈悲の雨を降らせ、痛くないよう、幸せであるようにと祈るばかりなのである。
「ペリカ隊長、最後はあなたの役目だよ」
「まったくお節介なのだわさ」
 アトはペリカに、最後に残された魂を指で示して行動を促す。最早天国と地獄の天秤はそう大きくは傾くまい。最後へと導くのはペリカの役目。
 その魂が誰なのか、は問うだけ無駄だろう。重要なのは、その魂がペリカと知己であるという自己申告だ。或いは迷宮の――否。
「私にはわからないけど、覚えていてくれてありがとう。待っていてくれてありがとう……とでも、言えばいいんだったかねぃ?」
 わざと冗談めかして告げつつ武器を振り上げた彼女の姿に、魂は口の端を吊り上げたようにも見えた。
「裁いてあげたわ、お望み通りに。これで満足?」
「無論。これほど偏りなく、天地釣り合う形で魂を送ることを為せる者達の道程を徒に塞ぐことは我も迷宮も望むところではない。試練を為した勇者に、ただ感服と感嘆の意を示そう」
「……感嘆、なんていわれてもね。地獄に送るなんて、疲れるのよ……」
 イーリンがわざとらしく言葉を切りつつウェシルに向き直ると、彼は偽りなき感動を口から吐き出した。その言葉に恐らく嘘は含まれていない。この場にいる誰もがそれを十分に理解している。だけど、レイリーの言うことも一理ある。形ばかりの称賛を受けたところで、無抵抗の魂を天国だ地獄だと送る行為が自分達の精神をすり減らさぬ筈がない。表向きの体力以上に、気力がすり減っていることは否定できそうにない。

●ウェシルの大罪
「どうか、魂さんたちの行く先が明るい光に満ちていますように」
 キルシェの祈りがどの程度、魂達の癒やしになったのかを知る術はない。だが、少なくとも彼女の誠意は目に見える形で顕現したのは間違いあるまい。その姿、その言葉は釣り合った天秤から放たれた魂にも聞こえた……と、思いたい。
「主よ、貴方の元へと旅立つ者達にどうか慈悲を。彼らの魂が、貴方のもとで永久の安息を得られますように」
 ヴァレーリヤは静かに膝を付き、香炉から漏れる煙とともに祈りを捧げる。曲りなりにも神職である彼女が、人の死の『後』をありありと見せつけられて何も思わぬ訳がない。ウェシルは『便宜上』といったものの、地獄へ連れて行かれる人々の魂の安寧を願ってやまないのは当たり前だ。
「ワタシを恨んでくれたっていいよ。でも花は手向けさせて……」
 フラーゴラは魂を地獄に送るため、多々、魂を罵倒した。どれだけオブラートに包んだとはいえ、『罵った』と自認していればお為ごかしは意味をなさない。だから相手の魂を悼むのは、やり遂げた者の権利である。あるはずなのだ。 
「若い頃から慣れてるとは言え……」
「でも、絞りカスみたいになってここに残されてるよりはマシだと思うぜ。……全員天国ならもっと良かったんだけどな」
 オウェードは『見送った』人間である。他のイレギュラーズにも多かれ少なかれその経験はあろうが、イレギュラーズになるより前、無力がゆえに零れ落ちた命の無念さを思えば彼には一入の感慨があるはずだ。シラスの身の上を考えれば多少なりドライな考えが浮かぶのは当然だが、今生がシビアであるならあの世がせめて幸せならばと、考えることの何が罪であろうか?
「でも……怨念の声を葬るなんてすっきりしたかしら……」
 レイリーは護る側に立つ者だ。
 つまりは、誰かを意図的に傷つけることには不慣れである。誰かを、なにかを悪意を以て接し、あまつさえ地獄行きを宣告するなど体験したくないのは当然だろう。
 だが体験してしまった。地獄送りにしてしまった。それを後悔するくらいなら、己の糧にせねば、幾らかマシだった事実を拾い上げねば――そう考えたのである。
「ごめんなさい。今日マリアが犯した罪は、決して忘れない」
 エクスマリアは己の重ねた罪の重さを鑑みつつ、静かに謝罪の言葉を漏らした。彼女は不遜にも魂の行末を決め、それを押し付けるという大罪を――少なくとも彼女の認識する限りで――背負ってしまっている。今彼女にできるのは忘れぬことだけ。罰があるというのなら受けてみせる。痛みを覚えよというのなら血を流すことも厭わない。前に進むことが、彼らを弄んだ自分の責任だといいたげだ。
「ひとつ、聞かせてもらうけど……人は人を裁けない。じゃあ魂は人ではないとでも?」
「魂もまた人の形に他ならぬ。天だ地だのという着想は人間が生み出した概念が故に、我が論ずる者に値せぬ。……が、そうだな。命尽きてなお終わらぬ牢獄にて、魂そのものがすり減るのを待つか。裁定を受け、何れ新たな生命となるか。何方が幸運であるかを、考えたことは?」
 イーリンの、わずかに怒気を孕んだ声を目の当たりにしても、ウェシルが動じる様子はなかった。淡々と返すさまは、なるほど死後を司る神のそれである。
 何処へもいけないよりは何処かへ至り、新たな人生への糧とすべきだ。そんな彼の言葉に傲慢がないとは言い切れない。
「終わらず、変わらず、気付かれず。我の裁きにも耳を貸さぬ者が、増えるだけで減りもせず。何処にも居場所がなく何処にもいけぬ者達を旅立たせようという願いも事実。翻って、それは我の不甲斐なさが招いたことであるが」
「じゃあ、ペリカ隊長の知り合いを帰す機会をくれたことも?」
「……それは偶然であろうな」
 アトの言葉と、それに顔をそむけたペリカの反応を見たウェシルは淡々と返す。そう、全ては偶然。
 ペリカの前に訪れたその機会も、ウェシルの知らぬところで起きた偶然に過ぎぬのだ。
「気に入らないわね、あなたのこと」
「我は貴殿等に敬意を示す。己の主義を曲げてまで為すべきを為し、魂を無事に輪廻に明け渡した。その事実さえ確かなら、貴殿らの心根に慮るところはない。我を嫌う貴殿等の心の動きもまた肯定しよう。為せぬ我の不都合を押し付けたに過ぎぬと、罵って貰うことも致し方あるまいよ」
 イーリンの嫌味に、ウェシルは無表情のままその非難を受け入れ、そのうえでイレギュラーズを評価した。淡々とした口調だからだろうか、素直に褒められているとは受け入れがたいが。
「冥界の神とやら。お前にも死があるなら、行く先はマリア達と同じ、だ」
「……そうか。『貴殿等の神には死があるのか』。それは――羨ましいものだな」
 エクスマリアの刺すような視線とその言葉を受けて、ウェシルは心からの悲しみを思わせる瞳を見せた。その意味が彼女に伝わるだろうか? 伝わりはすまい。彼女にとって、ウェシルは人の魂を己の意思を無視して地獄へ送るような外道なのだから。
「我ら冥界に在るものに死の概念は存在しない。だが、死を以て救われた者、死を悼まれた者、死を喜ばれたもの、様々な死と向き合うということの意味を知らぬわけではない。死へと至ること、死に至るまでの人生で磨き上げられたそれが『よりよい次』を選び取ること、そしてそのために向かわねばならぬ場は、到れる貴殿等が何より羨ましく、貴いものでもある」
 だからこの裁きに貴賤などあってはならない。そう続けたウェシルの表情には、死とその先へ向かう者達への確かな経緯が感じられた。
「ウェシルさん、報酬の次の階層への階段をよろしく頼むよ! ここで別れたら二度と会えないだろうからさようならかな? 魂の仕分けのお仕事、体壊さない程度に頑張ってな! そのいい天秤大事にしなよ?」
「……なんとも、貴殿は後腐れというか、他の物のような気の衒いというか。そういったものが感じられぬが。それが強みなのであろう。しかと見届けた。然らば往くが佳い。その旅路に確かな終わりのあらんことを」
 サイズの、あまりにも明け透けな言葉にわずかに反応に詰まってから、ウェシルは呆れるような、感心するような声音で応じた。サイズはブレない。それこそが彼の強みなのだろうと言われれば、それまでなのだが……。
 果たして次に待ち受ける運命は如何なるものか。
 今はわからぬが、いつか必ず。

成否

成功

MVP

エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)
愛娘

状態異常

なし

あとがき

 大変長らくお待たせして申し訳ありません。
 27層はこれにてクリアとなります。
 煙に巻く言動の多いウェシルですが、恐らく今回の裁きで不幸になる魂は……裁かれる前より不幸になるケースは、きっとないと思われます。
 ご参加有り難うございました。

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