PandoraPartyProject

シナリオ詳細

Entlaufen

完了

参加者 : 8 人

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オープニング

●酒場『月の踊り子』
「おう、そこのネーちゃん! 俺らと一杯どうよ?」
 酒場に踏み込んだクシィ(p3x000244)はジョッキを持ち上げた男をちらりと見て片手を振る。
「悪いな、先約があるんだ」
 すげなく男を振って、彼女は奥のテーブルについた。この辺り一帯のクエスト情報を示してくれる情報屋のNPCだ。話しかければ目の前にウィンドウが開き、掲示板のようにいくつもの情報が並ぶ。
(うーん……これじゃないんだよなあ)
 砂嵐に位置する酒場なので、当然この地で受けられるクエストしかないのだが目的のそれはなさそうか。出直してくるしかないかとため息を吐きそうになった時、丁度視線の先に『New!!』の見出しがついたクエスト情報を見つける。それを選択すると、情報屋が喋り出した。
「つい先ほど入った情報だな。未踏破の遺跡にあのコルボが部下を引き連れて入ったらしい」
(ビンゴ!!)
 クシィは内心ガッツポーズをしながら、表面上は何でもない風に「それで?」と話の先を促す。クエストと言うからには達成条件があるはずだ。
「奴らが何を求めているのか突き止めて帰還してくれ。内容によるが、砂嵐のパワーバランスが崩れるのは避けたいからな」
 真正面から行けば確実に殺されるだろう。工夫を凝らし、相手に極力ばれないように調査する必要がありそうだ。恐らく逃げながらの撤退となるだろうから、反撃の手段と死ぬ覚悟をキメてかからねばならないクエストである。
 しかし、恋する乙女にとってそれらは少しの躊躇いにもなりはしない。
「いいぜ、受けてやる」
 クエスト受注を選択するクシィ。出発の時間を確認し、装備や所持品の確認を始めたのだった。


●遺跡『ヴェロル』
 酒場を出発した冒険者一同は、既にコルボたち大鴉傭兵団が入ったというヴェロルの遺跡へと足を踏み入れていた。中は薄暗く、小さな明かりを持って傭兵団の後を追いかける。
 彼らが通ったあとだからか、それとも殊更古い遺跡故か――ここまででトラップの類は見つかっていない。破壊されているガーディアンは恐らく先を行った彼らに寄るものだろう。
「……! 光だ」
 クシィは通路の先で零れる光に仲間を牽制した。コルボがどのような人選で来ているかわからない。既にこちらの追跡がバレているという可能性もある。
 細心の注意を払って光の元へ近づいていくイレギュラーズは、不意に微弱な振動を感じ取った。それは辺りを見回す間もなくズシンと大きなそれに代わる。
「トラップだ!」
「総員、さっさと出るぞ!」
 コルボの声だ。クシィの心が跳ねる。しかしこちらも早く脱出しなければトラップに巻き込まれ、いや鉢合わせる方が先か。
 案の定、傭兵団のメンバーが冒険者たちの姿に声を上げる。捕まってなるものかと足を速めたイレギュラーズたちの足元が、
「えっ?」
 唐突に、消えた。
 体を包む風。内臓が押し上げられる感覚。ああ、現実じゃないのになんてリアルらしいのか!
 崩れた床下へ落下していく一同は暗闇に呑まれる。そして――。

「起きたか」

 起き抜けのコルボの声にクシィははっと目を見開く。目覚め早々に彼の声が聞けるとは思わなかった、じゃなくて。
「上に戻るのは難しそうだぜ」
 見てみろよ、と促されれば遥か遠い場所に天井らしきものが見えた。だが、あそこまで到達するのにどれだけ時間がかかるのか。
「ボス! 先に道があります! 別のダンジョンが繋がったようです」
「そうか」
 部下の言葉に立ち上がったコルボは、気が付いた冒険者たちを見回した。
「さて、てめェらは何であそこにいた? 殺るこたァ変わらねェが、答えれば多少は苦しくないように殺してやるよ」
 緊迫感が辺りを占める。冒険者たちは武器を構えたが、コルボに加えて周囲を取り囲んだ部下がいるとなると、勝算は低い。
「なぁ、コルボ。ここは停戦といかないか?」
「あ? 何言ってやがる」
 クシィの提案にコルボが眉根を寄せる。だがここで殺される訳にはいかないのだから、どうやってでも切り抜けなければ。
「進むならその『別のダンジョン』とやらだろう? 人数がいたほうが安全は確保しやすいんじゃないか?
 オレたちはコルボ、アンタがやってくるほどのお宝を見に来ただけだ。敵対するつもりはない」
 コルボとクシィの視線が交錯する。たっぷり5秒ほどそうしてから、コルボはふんと鼻を鳴らした。
「そういうことにしておいてやるよ。途中で何か仕掛けてこようモンなら全員ぶっ殺すからな」
 交渉成立らしい。ついてこいと顎で示す彼に続き、冒険者たちは先の道へと進み始める。行くのは近くに作られていたダンジョンだが、この深さで誰にも見つかっていなかったらしい。当然数多くのトラップが仕掛けられているだろうし、場合によってはこちらの遺跡が再度崩れだし、ダンジョンも上から押しつぶされる可能性があるだろう。
「ったく、あそこまでボロいとは思わなかったぜ」
 狭いな、と言いながらコルボはダンジョンへ足を踏み入れる。悠々と横並びになって歩けるような広さではない。
「そういえば、あの時どうして床が落ちたんだ?」
「宝を手にしたらトラップが発動したのさ。だが、遺跡自体がそれに耐えられなかったってところだな」
 たから、と復唱すればコルボが手を見せる。そこに嵌ったひとつの指輪が今回の宝であるらしかった。
「水の精を呼び出す指輪さ。依頼主に伝えるなら勝手にしろ」

 何が来たって俺を止めるなんざできやしねェ。コルボはそう言って、笑った。

GMコメント

●成功条件
 プレイヤーの半数が生存した状態で脱出する事

●情報精度
 このシナリオの情報精度はEです。
 無いよりはマシな情報です。グッドラック。

●ROOとは
 練達三塔主の『Project:IDEA』の産物で練達ネットワーク上に構築された疑似世界をR.O.O(Rapid Origin Online)と呼びます。
 練達の悲願を達成する為、混沌世界の『法則』を研究すべく作られた仮想環境ではありますが、原因不明のエラーにより暴走。情報の自己増殖が発生し、まるでゲームのような世界を構築しています。
 R.O.O内の作りは混沌の現実に似ていますが、旅人たちの世界の風景や人物、既に亡き人物が存在する等、世界のルールを部分的に外れた事象も観測されるようです。
 練達三塔主より依頼を受けたローレット・イレギュラーズはこの疑似世界で活動するためログイン装置を介してこの世界に介入。
 自分専用の『アバター』を作って活動し、閉じ込められた人々の救出や『ゲームクリア』を目指します。
特設ページ:https://rev1.reversion.jp/page/RapidOriginOnline

●状況
 ダンジョン脱出シナリオです。何が待ち受けているか分かりませんし、彼らも具体的な所は知りません。また、トラップが発動すると連鎖的にダンジョンの一部崩壊が有り得ます。慎重な行動が必要となるでしょう。
 そのため、皆様にはプレイングに予想と言う形でトラップを考え、どのように発見するか、或いは回避するかという内容を記載いただきます。
 予想外の罠があるかもしれませんが、熱を込めて書けば生還率は上がるでしょう。
 それとは別途、コルボや傭兵団と接触したい、縁を持ちたい方は何か話しかけてみることも可能です。

●NPC
・コルボ
 砂嵐中核傭兵団『大鴉』の団長。その在り方は盗賊団としての其れですが、今回は不承不承に休戦状態を了承しました。但し、害になる存在と認識されれば敵となりますのでお気を付けください。やべー奴なので敵には回さない方がいいです。絶対。
 身のこなしは素早く、勘も良い方です。情報共有はしてくれますが、進んでPCたちを助けはしませんので、その点はご了承ください。
 何か彼や傭兵団について気になることがあれば、話せる範囲で話してくれるかもしれません。

・大鴉傭兵団員×10
 コルボ配下の獣種たちです。いずれも耳と鼻が良く、近接アタッカーです。
 団長の意向に従いますし、気が付いたことはイレギュラーズたちへ情報共有してくれます。

●ご挨拶
 いつもコルボをありがとうございます。愁です。
 一発死もあり得るドキドキな状況です。しかし大鴉のメンバーと会話のできるチャンスでもあります。
 気を引き締めて、帰ってきてくださいね。

  • Entlaufen完了
  • GM名
  • 種別リクエスト
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2021年10月21日 22時10分
  • 参加人数8/8人
  • 相談8日
  • 参加費150RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

クシィ(p3x000244)
大鴉を追うもの
※参加確定済み※
グレイ(p3x000395)
自称モブ
梨尾(p3x000561)
不転の境界
シラス(p3x004421)
竜空
吹雪(p3x004727)
氷神
トモコ・ザ・バーバリアン(p3x008321)
蛮族女帝
カノン(p3x008357)
仮想世界の冒険者
フィオーレ(p3x010147)
青い瞳の少女

リプレイ


「まさかアンタらと共闘になるとはな」
「そいつァこっちの台詞だぜ」
 よろしくと挨拶する『竜空』シラス(p3x004421)に『大鴉傭兵団頭領』コルボは肩を竦める。決して嬉しそうではないが、仕方がない。彼ら傭兵団にとってこのアクシデントは想定外、加えてイレギュラーズたちの存在もまた然りであったのだから。
(でも、これは彼らを知るチャンス。きっと無駄にはならないはずだ)
 奇妙なこの縁がどう繋がっていくのかわからないが、まずは脱出を第一に。余裕があれば一言二言でも交わしてみよう。
「コルボさんとは、伝承の関所で戦った時以来かしら?」
「おう、そういやあの時もてめェら邪魔してくれやがったな。ま、楽しかったけどよ!」
 邪魔をされた割りに満足気なのは、あの戦いでコルボは満たされるだけのモノを得られたからなのだろう。しかし『氷神』吹雪(p3x004727)が味方になってくれて心強いと告げると、ぴくりと眉根を上げた。
「おいおい、勘違いしなさんな。俺達は『味方』じゃねェ。『敵対しない』だけだぜ」
 イレギュラーズの言動によっては、その言葉でさえも覆る。心得たわ、と吹雪は頷いた。
「まあまあ! 状況が状況ですし今は互いに手を取り合うべき、ですよねっ? 全員が脱出できるように全力を尽くしましょう!」
「そうですよ団長!」
「可愛い子もいるじゃないっすか!」
 『仮想世界の冒険者』カノン(p3x008357)の言葉に大鴉傭兵団のメンバーがそうだそうだと頷く。イレギュラーズはあくまで仮の姿、中身は男性とか人間じゃないとかそういうのもいるのだが、NPCにそれを知る術はない。そしてNPCもこの世界同様、実に人間らしいのであった。
「……え? フィオ、ですか?」
 視線を向けられた『青い瞳の少女』フィオーレ(p3x010147)は目をぱちぱちと瞬かせる。そんな両者にコルボはやれやれと言いたげな溜息をついた。

 ともあれ。ここで話していてもラチがあかないので、一同はダンジョンへと進み始める。
「――の前に、書くものと書けそうなもの無い?」
 小さな明かりを揺らす『ハンドルネームは』グレイ(p3x000395)に『大鴉を追うもの』クシィ(p3x000244)は余っていた羊皮紙とペンを渡す。手分けしてマッピングすれば、大まかな現在地や位置取りは確認できるようになるだろう。
(どんな物か見れたなら、あとは帰るだけ……)
 本当にこのダンジョンを抜ければ帰れるのか定かではないが、退路は断たれている。進むしかないのだ。
 クシィは初めの通路を羊皮紙へと書き込み、おもむろにコルボを見上げる。
「これで3度目だな、コルボ」
「あ? あー……まだ3度だったか」
「は??」
 ぽかんと口を開けると、コルボが愉快と言わんばかりに口角を上げた。
「よく突っかかってくるやつってェのは覚えるもンだろ。てめェほど熱烈なアピールは早々ねェけどな」
 行こうぜ、とコルボが先へ足を踏み入れる。その背姿を見るクシィの顔は熟れた果実のようで。
(え? え??? つまりそれは3度しか会っていないとは思えないくらい覚えてるってコト!?!? コルボに覚えられちゃってる!?!?!?)
 すっかりプライベートでのお誘いを忘れているクシィだが、未だそれに気付く気配はない。ついでに言えば『蛮族女帝』トモコ・ザ・バーバリアン(p3x008321)が何とも言えない顔で見ている事にも気づいていない。
(確かにイイ男だが、だからって露骨に女の顔しだすクシィはなんかちょっと、アレだな……まあ、男の好みなんざそれぞれだけど)
 先日はハウザーと。今回はコルボと。トモコとクシィは同じクエストで鉢合わせる事が多いのだが、でもコルボに対するあの顔よ。
 踏み入れたダンジョンも、これはこれで非常に古いものであると感じさせる。フィオーレは興味深げにきょろきょろと視線を巡らせ目を輝かせた。
「危険なダンジョン……冒険の香り……!」
 ドキドキ、ワクワク。けれど命がかかっていることを忘れてはいけない。慎重に皆と行動しよう。
 吹雪は周囲の空間を凍結させ、小さな動物の氷像を作り出す。それは砂嵐の空気に早速溶け始めながらも、一同の先を行き始めた。
「時間制限はなさそうですが、実質的な制限として先の遺跡崩壊の影響がどのように波及するかと言ったも問題がありますね」
「ああ。長居しないに越したことはねェな」
「コルボさんや傭兵団の人達はこういう遺跡の探索にも慣れているのかしら?」
 カノンに同意したコルボへ、吹雪は小首を傾げながら問う。彼らの在り方は傭兵というよりも盗賊のそれだ。盗賊と言えば、傭兵たちが遺跡から取り出してきた物を奪い取るイメージの方が強いかもしれない。
「そこそこってとこだ。遺跡に潜り続けるような奴には負けるぜ」
「私は冒険者としてダンジョン、トラップ攻略には一日の長があります。傭兵団で突出した方がいらっしゃらなければ、先導の役目を請け負いましょう!」
 カノンの提案に否やはない。コルボたちにしてみれば『使えるものは使いたい』だろうし、こちらとしてもこれで信用を詰めるのならば無暗にデスカウントを増やさなくて済む。
(小規模なものからいけば、落とし穴や釣り天上。大規模ならダンジョンの構造変遷とか……?)
 トモコもカノンと共に周囲を警戒する後方で、フィオーレはサモン召喚によりミノタウロスとスケルトンを召喚する。これで力仕事は任せられる。スケルトンは……いざという時の保険だ。
 彼女ら、そして傭兵団の五感が優れるメンバーが問題ないと判断すれば一同は進み、マッピングしていく。その最中でシラスはふと立ち止まった。
 微かな、けれど明確な違和感。気を付けていなければうっかりはまってしまうだろう罠の中にいることを感じさせられる。
「クシィ、グレイ。30度ずれてる」
「お、りょーかい」
 シラスの言葉に2人はマップの向きを調整する。通路の形状か、床か。こちらが北であると定めても、いつの間にかずれてしまう。こうしてこれまで来た誰かも迷ったのだろう。もしかしたら未踏破のダンジョンかもしれないが。
「厄介だね」
「ゆっくりでも確実に進むしかないだろうよ」
 ピリピリとした空気を纏いながら、一同はそれでも順調に進んでいた。カノンとトモコ、傭兵団のメンバー。コルボも時に違和感を指摘しながら進む最中、グレイはぽつりと呟く。
「ここまで、スイッチがトリガーの罠ばっかりだったけど……入って早々何か飛び出してきたり――」
 びゅん。
 咄嗟に身をかがめた彼らの頭上をハンマーが通過する。しかし仕掛けた際に目測を誤ったか、それとも劣化の影響か、ハンマーはそのままの勢いで天井へぶち当たった。
「いけません、受け止めて!」
 フィオーレの言葉にミノタウロスが飛び込み、落ちてくる天井を筋肉質な腕で止める。しかしかなり重いのか、ゆっくりとその膝が沈んでいった。そこへ飛び出したのはコルボだ。
「はっ、そんな瓦礫ぶっ壊しちまえ!」
 強烈な拳が罅を作り、細かく天井だった瓦礫の表面へ広がっていく。それを思いきりに蹴り飛ばせば、瓦礫は未だ動いていたハンマーに当たって小さな破片となった。
「すごいですの……」
 目をぱっちりと見開いたフィオーレだが、すぐさまミノタウロスの様子を見に行く。仲間を助けてくれた勇敢な友達は、特に怪我などもなさそうだ。
「ここの罠はもうなさそうか?」
 つまらねぇ、と言いたげなトモコはぐるりと見渡し、カノンとも罠がないことを確認する。ああ、もっとスリルが欲しい。こういうのは嫌いではない故に、尚更。
(ログアウト不可だのなんだので、マジに死ぬ可能性って状況でもなけりゃもっと楽しめたんだけどな)
 自身の身体は現実側で眠り続けている。それは傍らにいる『お家探し中の』梨尾(p3x000561)も同じだった。
「入ってすぐにあるとは……気を付けないといけませんね」
 暗視の利く目で天井付近や壁を注視するが、確かに何も無さそうだ。次からは入る前に気を付けよう。
「んじゃ、印つけるぜ」
 クシィが安全の確認できた印を壁へ付ける。出来るだけ安全な場所で待つ、確認できていない場所には不用意に触れない。邪魔をしないこともできる事の一つなのだ。
 そしてペース配分を確認することも、余裕のある者が来配るべき一つ。クシィは先行していくメンバーの疲労を感じると、その場での休憩を提案した。
「悠長にやってる場合じゃねェが、急いでミスってもいけねェってな」
 部屋の安置に集合し――とはいっても、人数が人数だけにこじんまりとはいかないが――座り、携帯食料を食べ始める者もいる。クシィはコルボへ近づくと、握り飯を差し出した。……握り飯っぽい、やつ。
「コルボ。これね、初めて料理したんだけど、えへ」
 果たして握り飯を料理と言うべきか、と思うだろう。しかし彼女の作った握り飯はとにかく大きかった。誰かいたら止めただろうというくらい具を詰め込み、自重に負ける米を海苔で封印……もとい、補強した一品である。勿論具も豪勢だし自分で作ったのでこれは料理なのだ。握り飯だけど、料理。
(いや、料理したこともない奴の料理をコルボに食わせるのか? いやでも食べて欲しいし、いやいや美味しくなかったら、いやいやいや)
 差し出す段階になって唐突に固まったクシィ。彼女をいぶかし気にコルボが見ているのだが、それに気が付くには少々の時間を要する。
「そういえば皆さん、お聞きしたいことがあるのですが」
「お? なんだなんだ」
 獣種にも見える子供、梨尾に傭兵団たちのメンバーは獣種であるからか、どこか親身にも感じる。コルボが敵対しないと定めたからなのかもしれないが、梨尾にとっては都合が良い。
「砂嵐で治安の良い物件とか、安くてご飯の美味しい宿は知りませんか?」
 彼は現在、ログアウト不可となっているプレイヤーである。まずログアウトできなくて困った事と言えば、済むところなのだ。このネクストでも変わらず時間が流れ、夜が来る。しかし宿屋に泊まるにも相場がわからないので、踏み切ることができないのだ。
 その土地にいる者であれば知っているだろうと思った、のだが。
「ボウズ、それは砂嵐で高望みってもんだ」
「そうそう、伝承とか……うーん、正義とかの方がまだ望みがあるんじゃないかい?」
 砂嵐は傭兵たちのナワバリ。ネフェルストは悪の都。良いものを望むのならば――良いものでなくても『平穏に』を望むのならば、見合うだけの金品を出さねばなるまい。
 もしかしたら梨尾の要望に沿った店もあるかもしれないが、そこは逆に何かあると怪しんで入るべきだろう。痛くない腹を探られるのは店にとっても良いものではないだろうが、この地域で安全安価を謳うのならばよほどの信頼を得ていないと難しい。
「俺達は安い店で喧嘩して酒飲んでるけどな!」
「お、そうなのか? 砂嵐の傭兵団なら儲かってると思ってたが。金を集めて何かやるのかい?」
 シラスは壁に自身の角などが当たらないよう、ゆっくりと首を傾げて見せる。傭兵たちは顔を見合わせて、それから笑った。
「そりゃあ――なあ!」
「気分いい時にぱーっと使える金があったら嬉しいだろ? 美味い飯、綺麗な女!」
(うーん、隠されてる気がするな……)
 それが悪事を行うためなのか、単純に秘密にしておきたいだけなのか、定かではないが。恐らく大鴉傭兵団はそれをできるくらいの十分な資金があると踏んでいる。それが一体どのような浪漫に投資されるのか、純粋な興味であったが。
「そろそろ行こうぜ。休憩には十分だ」
 コルボが立ち上がり、他の面々も出発準備を整える。時間切れのようだ。

 さあ、再び地上へ向かおう。



「ここからは……上り坂か……」
 グレイがゆっくりと坂を見上げる。長い階段は憂鬱になってしまいそうだが、願わくば一度きりで上がりたいところだ。
「上を目指すのだから、どちらの進めばいいのかわかりやすいのはいいのだけれど……」
「ああ」
 吹雪とクシィは苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる。2人の胸中にあるのは嫌な予感だ。こういう時、決まって出てくる罠があるじゃないか。
「あ」
 不意にトモコが呟き、それから獣種の傭兵たちがぴくりと耳を揺らす。吹雪は先に送った眷属越しに、それを見た。
「うわぁ!? 本当に来たよ……うっ」
 逃げられなかった眷属が潰される。思わずぎゅっと目を閉じた吹雪はぶんぶんと頭を振り、皆を後方へと促した。
「走って! 走って走って、全力で走って! 途中に小部屋があったはずだよ!」
「ああ、天井から槍の落ちてきた……」
 梨尾が先ほど作動済みにした罠を思い出す。なるほど、慌てて逃げ込んだところを串刺しの予定だったか。カノンが棒で壁を叩き、その部屋を先に見つけてしまったためで順序が変わってしまったらしい。
「うわっ来たよ! 急いで急いでー!!」
「逃げる時はスイッチ踏まないように大股でつま先移動、辛い、罠怖い…」
 坂を転がり落ち、勢いを付けた大玉。グレイはうっかり何かの罠を踏まないようにと大股つま先移動で急ぐが、普通にこれつらい。足攣りそう。
 フィオーレはミノタウロスに止めて貰おうかと大玉をチラ見して、やめた。多分止めきれないし、術者であるフィオーレもそのまま潰されかねない。
「皆さん、あそこです!」
 梨尾が飛び込み、一同は続く。最後の1人が入った瞬間、大玉が過ぎ去っていくのが見えて――遠くの方で、轟音が響いた。
「皆いる!? 無事!? 良かった、まさか本当にこうなるなんて思ってなかったからびっくりし……はっ」
 ほうと息をついた吹雪は、ぱっと口元に手を当てる。いけないいけない、すぐロールというものがはがれてしまう。軽く咳ばらいをした彼女は再び落ち着いたロールで先を急ごうと告げかけて。
 ぱらり。
「え?」
 吹雪は頬に当たったそれへ手を当てた。小さな破片だ。天井からぽろりと落ちてきたのかと顔を上げれば、またぱらりと。
「え? もしかして……」
「さっきの大玉……?」

「「「は、走れーーーーー!!!!!!!」」」

 ――かくして。前方へ逃げたのは正解だっただろう。
 前後を塞がれることもなく、後方だけが見事に崩れ落ちた。犠牲者は転倒した大鴉傭兵団のメンバーを庇ったグレイのみか。
 全員生存は叶わなくなったが、だからこそ残されたメンバーは何としても脱出しなければならない。
「此処を塞いで欲しいんですの!」
 フィオーレは経年劣化による床の崩落部分へ、召喚したアラクネの糸を幾重にも重ねてネットを作る。これで簡単に落ちたりはしない。何かから逃げてきた時にうっかり足を踏み外すこともないだろう。
 強烈な勘を頼りに罠を回避するトモコと、堅実に確認していく
 一同は徐々に地上へ近づいていることを感じていた。随分登って来たと思う。休憩を挟む分、罠の対処には時間をかけない。解除か回避か、より早く済む方法で罠を越えていく。
「危ない!」
 不意にカノンへ放たれた矢にシラスが動く。頑丈な体が広げられ、カノンはシラスを仰ぎ見た。
「すみません、大丈夫ですか!」
「これくらいなんてことないさ。竜の鱗は伊達じゃないぜ」
 ひゅん、と風の音が鳴ったのでぱっと顔を上げると、トモコは自身のアクセスファンタズムによって自力で回避できたらしい。危ねえ、と呟いた彼女は他にも同様の罠がないか視線を巡らせた。
「そこにくぼみがありますよ」
 梨尾は目ざとく矢の射出箇所を見つけて指摘する。フィオーレによるアラクネの糸で塞いでしまえば、感知もできないだろう。
 そして――。
「外ですの!」
 久々の日光にフィオーレは万歳する。ずっと薄暗かったから、少しばかり眩しくも思ったが。
「おい、コルボ。情報は依頼主に伝えるが、余計な手出しはしねェ。覚えとけよ」
「あ? 別に何かしてくれても構わねェンだぜ」
 怪訝そうなコルボにクシィは首を振る。彼がデカい事を為すのなら、いや為してもらわなければ。つまらない盗みで終わらせる男ではないのだから。そしてその時に隣にいれば彼を全力で支え、相対するのならば全力で立ち向かおう。
「『お前』の貪欲さと獰猛さと蛮勇に『俺』は憧れて……妬ましくて堪らなかったんだ。だから頼んだぜ!」
 クシィの言葉に、コルボは目を細めて。けれど何も言わずに、部下たちを引き連れて、その場を後にしていったのだった。

成否

成功

MVP

カノン(p3x008357)
仮想世界の冒険者

状態異常

グレイ(p3x000395)[死亡]
自称モブ

あとがき

 お疲れさまでした。無事に脱出です。
 大鴉傭兵団とは、またどこかで会う機会があるかもしれませんね。

 それでは、またのご縁をお待ちしております。リクエストありがとうございました!

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