シナリオ詳細
黄泉津賢角文書録
オープニング
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「黄泉津の見聞を広げる……成程、確かに我ら黄泉津に棲まう者は独自の文化を有して居るだろう。
禁書庫にまで踏み入れる事は出来ませぬが神使殿達であらば神霊も書架へと立ち入ることを許してくれましょうな」
高天御所にてリンディス=クァドラータ (p3p007979)が願い出たのは『黄泉津の歴史について見識を広めたい』と言う事であった。
幸いにして神使達の一員である中務卿――政の中枢を担う中務省の責任者である――建葉・晴明 (p3n000180)にはリンディスの希望は容易に届けられた。彼は国家の要人でもあるが神使という立場ではリンディスやアカツキ・アマギ (p3p008034)の後輩にもあたるのだ。
「どうせなら、物語を聞いてみたいと思って居るのじゃが……朱雀は眠たげかのう」
「仕方ありませぬ。朱雀様は眠りに貪欲、寝る子は育つとも申しましょう。まあ……眠らせてやれば良いのでは」
肩を竦める晴明に神霊的な『寝る子は育つ』とは一体どのようなスケールなのだろうかとアカツキは首を傾いだ。
「快く受入れて下さり感謝します。各地に遊学に回られており知っておられるかと思いますが……
幻想王国には建国の祖たる勇者アイオンの御伽噺が存在して居たり、ラサでも種の違いを謳った『熱砂の恋心』なるものが存在して居ます。
その様な物語が此の地にも存在して居るのではないのか……。知的な好奇心なのですが」
リンディスが肩を竦めれば小金井・正純 (p3p008000)は「精霊種、いえ……八百万や獄人達の話や四神との歴史。紡がれた者を知るのも『救った者』の役目でしょう」と微笑んだ。
「その通――」
「その考え、天晴れであるな!」
勢いよく飛び出したのは神霊が一人、黄龍であった。艶やかな射干玉の髪をふわりと揺らがせた一柱は本日も女体の姿である。
その理由も「その方が団子を貰える」という何とも庶民的なものではあるのだが。
「黄龍、こんにちは。今日も元気そうだね」
「うむ。シキも息災であったか? なにゆえ、我は賀澄『ごと』でなければ外には出られぬのでな。諸国についてはこの坊のが詳しいのである」
つんつんと晴明を突いた黄龍にシキ・ナイトアッシュ (p3p000229)はくすりと笑みを零した。
彼の神霊がコチラの話に興味を持ってくれるのならば都合が良い。神霊の視点から歴史を知る事が出来るだろう。
「して、吾らと共に神威神楽について知りたい……と。うむうむ、晴明よ。中務省でも外部の者に開放しておる書架があったろう。
その地に彼女等を招くと良い。吾は瑞を呼ぼう。して、ついでなのじゃが……賀澄が旨いと言うていた茶屋じゃが――」
「……どうして招く側が駄賃を求めるのだ、黄龍」
溜息を吐いた晴明は「手配はしておきましょう」と近くを通りかかった女房へとヘルプを求めた。
「妾は葛切りが良いのう」
ひょこりと顔を出したのは天香 花子(あまのか かこ)――『花衝羽根媛(はなつくばねのひめ)』と名を改めた娘であった。
彼女は過去は霞帝の妃候補として御所に上がった娘であったが、現在は霞帝に保護をされのびのびと過ごしている天香家分家の娘である。霞帝に抱いた幼い恋心を滲ませる事無く、最近は「立派な淑女となり外交を担う」と宣言し勉学に励んでいるそうである。
「妾の学びにも繋がるとはおもわんかの? 晴明。それに、アカツキ殿達とも遊びたいのじゃが……」
「……花衝宮を任せても宜しいですが。宮の言うとおり貴殿等と過ごす時間は貴い学びになるでしょう」
晴明ががくりと肩を落す。苦労性な中務卿は自身の仕事を一先ず脇避けて、彼女の護衛として今日は一日を『潰す』事になるのだろう。
「さて、何から聞きたい? 賀澄と出会った事か? それとも、絵物語のような世界か?
吾が答えられる範囲のみ答えてやろうぞ。その後は、晴明に使いを出させた茶を楽しもうではないか」
- 黄泉津賢角文書録完了
- GM名夏あかね
- 種別リクエスト
- 難易度-
- 冒険終了日時2021年10月07日 22時05分
- 参加人数8/8人
- 相談8日
- 参加費150RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
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神威神楽は高天京――その政の央たる天子の居所、高天御所。天子なる霞帝の補佐である中務省に招かれた神使は手招きをする黄龍の姿を認めた。その傍らにはちょこりと黄泉津瑞神が座っている。
この地の守護神霊ともなる二柱が何食わぬ顔で座しているのだ。同席を願い出た花衝羽根媛の表情は硬い。そんな状況にも慣れてきたのか建葉・晴明は「ようお越しで」と常通りの強面で『零れぬ希望』黒影 鬼灯(p3p007949)を招き入れた。
「……以前も思っていたが。瑞殿に黄龍殿とそうおいそれと出てきて良い身分なのか……?」
小さくぼやいた鬼灯に晴明が沈痛の面差しを返す。成程、本来ならば天津神宮にて国を眺める『だけ』の立場であった筈の神霊は神使と呼んだ『可能性』の塊に感化されたように遊びに出てきているのだ。そもそも、だ。この国の主――他の国では王や盟主だる――なる霞帝のフランクさを思い返そう。
……今更だったかも知れない。
そんな男児二人の様子に『霊魂使い』アーマデル・アル・アマル(p3p008599)は健康的なスムージーを差し入れするかどうかを悩んだ。現時点では胃薬の差し入れを行うべきかという新たな悩みさえ芽生えている。流石に、彼一人にピンポイントで狙い撃つわけには行かないか。
「瑞ー! 黄龍ー! あそびにきたよ! ……はっ、ち、違う。違った。今回は書庫だったね。お仕事だしね、気合いを入れておかないとさ」
けれど遊んでもいいかな、と。友人との再会に心を躍らすのは『龍柱朋友』シキ・ナイトアッシュ(p3p000229)。
彼女にとっては守護者たる神霊も古くからの友人のように気安い存在だ。黄龍は「用が済めば茶会ぞ、シキ」と彼女の心中を察するように笑っている。
そんな気安さに。これから入ることの叶った中務省の書架。普通ならば入ることも難しいとされるその場所に守護者なる神霊が司書よろしく着いてきてくれるというのだ。この機会を逃してはならないと『真意の選択』隠岐奈 朝顔(p3p008750)はやる気にあふれている。
そう、彼女は大いなる使命を胸に抱いていたのだ。乙女にとって恋とは命がけ。彼女の愛する少年はこの国を二分する種族の『上』に位置する八百万だ。大して朝顔は『下』たる獄人である。晴明に自身の恋心を打ち明け相談したとしても良き顔はされなず、傷つくだけだと励まされるだろう。それは『獄人と八百万』の間に存在する溝によるものだ。
ならば、獄人と八百万についても知る機会になるのではないか。それはシキが黄龍に問いたかった事と同じなのだろう。
やる気あふれる朝顔を気まずそうに見やるのは天香花子。その名を改め『花衝羽根媛』と呼ばれた天香の血筋の娘である。
「ごきげんよう、花の姫君。此度は章殿と仲良くしてやってくれると嬉しい」
鬼灯に花子は小さく頷いた。緊張しているのは彼女だけではないと章姫は小さな手をぎゅっと握る。
「花子ちゃん! お久しぶりじゃのう。雪見の時以来か、また会えて嬉しいのじゃ!」
どうかしたかの、と頬をぷにりと突いた『焔雀護』アカツキ・アマギ(p3p008034)に「彼女は遮那を好んでおるのじゃろ」と花子は不安げに呟く。
ああ、そうだ。彼女は『本来なら天香を継ぐ血筋』の一人であり、遮那は天香の血が通っていない。故に、彼女も遮那には思うところがあったのだ。
「大丈夫じゃよ。神使は話せば分かるのじゃ。の?
さて、黄龍殿、本日はよろしくなのじゃ! 都合がつけば久しぶりに朱雀殿にもお会いしたかったのじゃが……おねむでは致し方がないのう」
頷いた花子の背を撫でてからアカツキは礼儀正しく黄龍へと挨拶をした。いつでもおねむな朱雀は遠くでくしゃみでもしているだろうか。
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「こうして神威神楽の書物が収められている書庫に顔を出すことが出来るなんて、思いもよりませんでした。
ですが、せっかくの機会です。天香に出入りさせていただいているものとして、きっちりとこの国について学ばせていただきましょう。本日はよろしくお願いします、黄龍様、晴明様、花衝羽根媛様」
あ、と『未来を願う』小金井・正純(p3p008000)が差し出したのは土産物の羊羹であった。黄龍が「うむうむ」と頷けば、晴明が受け取り女房へと茶室へ運ぶように指示をする。
「……あ、申し遅れて申し訳ありません。晴明様、ご許可いただきまして改めてありがとうございます」
気分は書架へ。『夜咲紡ぎ』リンディス=クァドラータ(p3p007979)はハキハキとした様子で一礼する。
リンディスの事はのんびりとした穏やかな女性であると認識していた晴明は本を前にすればこれ程に快活になるのだと新たな発見だと小さく笑った。
「お土産用意したんだけど。黄龍ちゃん、苦いのダメかな?」
「苦いのかえ?」
後のお楽しみだと『いにしえと今の紡ぎ手』アリア・テリア(p3p007129)が悪戯半分で用意したのは珈琲だ。幻想などでは親しまれるが神威神楽ではあまり目にしないものだろう。プリンと珈琲を女房に手渡し「後で淹れ方を教えますね」と笑いかければ安堵の表情が見られた。
「それじゃあ、早速! 壱号書架に行きましょう!」
アリアの号令に瑞神が「はい!」と手を掲げた。彼女の方が持て成す側であった筈なのだがウキウキした様子でアリアにぽてぽてと着いていく。
「お茶会楽しみなのだわ! 晴明さんもいらっしゃるんでしょう? とってもとっても楽しみなのだわ! けれど、帝さんはお忙しいのね?」
「章殿がいらっしゃったことは主上にも必ずお伝えしましょう。後ほどで」
首を傾げた章姫に晴明は「後ほどで」ともう一度言った。おめかしした章姫の存在は『最後まで秘密』なのである。
「――ああ、これが壱号書架……!! 各国の図書館とはまた違った香り……素敵です」
その興奮たるや。リンディスはうっとりとした瞳で書架の中をずんずんと進んでゆく。壱号書架に並んでいるのは神話や逸話、そして国家の成り立ちについての読本が多くあるらしい。詳細に関しては禁書庫に多く存在するのだろうが、この場所だけでも十分だ。
「本来ならば神使はすぐに入室できるようにしておきたかったのだが、陰陽頭に任せると出入り口に罠が仕掛けられそうでな……」
げっそりとした晴明に「庚殿はそんなことをするのか」とアーマデルはR.O.Oでは自由闊達に動き回る彼を思い浮かべた。
「さて、神話は文化の成り立ち、民話はヒトという種の生きてきた足跡、葬祭はヒトの死生観……大雑把に総合してしまうと、この地の歩んできた軌跡になるだろうが、流石に膨大すぎるか」
「死生観にご興味があるのですか?」
まだ幼い。3つ程度の幼子の外見をとる瑞神を抱き上げれば、人の姿ながら獣の尾がふわりと腕を擽る。アーマデルは「少々縁起悪いことだが聞いても?」と瑞へと問いかけた。
「この地では、失われた神霊はどうなるのだろう? ……俺の故郷では、死者は名を失うが、器であった肉体に紐づけられた通称などは残る。
だが、神霊は肉体という器を持たないので、存在を織り成していた運命の糸が解けて緩やかに消えるが定め。ヒトに刻んだ加護や血筋を通じ、痕跡が残っているものは在るがな」
「ふむ……器の無き私たちは消えるのです。ですが、人の子との縁によりその名は語り継がれ、いつの日か名を得る精霊が生まれ落ちるやも知れません。
わたしのような例は稀。力が強いが故に、自身のかけらに縋れた事で再誕……いえ、もう一度顕現がなされた。我らは死すれば風や光になりましょう」
それが精霊というものであろうと瑞神はそういった。アーマデルは「成程」と小さく呟く。
「もう少し実利的な事を尋ねるなら、豊穣の創世、或いは国創りの神話を、改めて知りたい」
「私も、よろしいですか? 黄泉津の伝説……この国が生まれてから、今の形を紡ぎだすまで。
物語に残ったお話と体験者――黄龍様の話との照合もしてみたいですね。晴明様に似ていたりするのでしょうか? そして、何を目指したのでしょう?」
好奇心の滲んだリンディスに「ならば茶室で語るか」と黄龍が呼びかける。書架で物語を写経するかのように記載するアリアには晴明が「茶室にいくらか本を持って行きますか」と力仕事を買って出る。
「持ち出してもいいですか?」
「霞帝より許可は出ております故。それに、中務省の事ならば俺の一存で何なりと」
貸し出しはできないと笑った晴明にアリアは「お土産を片手にお願いします!」とにんまりと微笑んだ。
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「ほとんど何も知らない私たちがご助力しようとしたときにせめて『今までどのように人々が暮らし、想い、歩んできたのか』……それそ知るべきではないかと思いまして」
茶会の席でそう口を開いたリンディスにシキも大きく頷いた。これまでのことを知れば、国をよりよくしていけると言う思いは皆同じだ。
「今の帝に初めて会った時の話なども気になるぞ! 生の長さが違いすぎて価値観の違いに困ったりはしなかったのかのう?
後はそうじゃなあ、折角書架に立ち入らせてもらったのじゃからここでしか見れぬものとかあったりせんかのう? 神威神楽の歴史の中で名を馳せた英雄の逸話とか……」
そう言う本かと思って持ってきたというアカツキに黄龍は「それ賀澄を面白おかしく書いたおとぎ話じゃなかったかのう」と首を捻る。
「まあ! 帝さんの本?」
鬼灯の膝で喜びを滲ませる章姫へとアカツキは本を差し出した。少し文体は難しいが鬼灯の補助があれば読み解くこともできるだろう。
「あとね、これはイレギュラーズとしてじゃなく友達として、瑞と黄龍が賀澄さんと出会った時のことを教えてほしい」
シキはこっそりと微笑んだ。屹度彼との出会いは奇跡のようにこの国を変えた。彼は混沌へ召喚された旅人、イレギュラーズだ。
故に――『自身らの先輩』の話を聞いて起きたくもある。神霊が神使に好意的なのは霞帝のように国を導く光となると信じているからだろうか。
「さて、どこから話したものか。晴明、とりあえずアリアの茶を学び淹れてくるのじゃ。
我は朝顔が持ってきた『まりとっつぉ』……? なるものが気になるのぅ。アーマデル、そちらの琥珀糖は我が食べてよいものか?」
「黄龍、独り占めはなりませんよ。わたしも、頂いても良いでしょうか。花衝宮はどれを頂きますか?」
「妾もよいのか?」
正純は小さく笑いかける。不安げな彼女は凜としたたたずまいであったがこの場ではただの一人の少女だ。
「ええ、姫様は前当主の姪御、ひいては天香の家に連なるお方。
となれば、私にとっても仕えるべきお方です。お世話させていただくことになんの異論もございませんよ。
新たな目標に向けて邁進なさっているのであれば、そのお助けを出来れば、と。神威神楽より外の教養は最低限は受けておりますし、お教えできることもありそうです。それに、食文化も立派な学びです」
「う、うむ。ア、アカツキ……の……それは、なにかえ?」
わいわいと盛り上げる神霊と花子の様子に晴明はココはお任せしますとアカツキへと囁いた。茶の用意を正純と共に行ってくるのだろう。神威神楽のせんべいの揚げ煎餅にみたらし団子を用意すれば花子は「知っている店じゃのう!」と喜びに溢れ出す。
「こちらの風に合うもの……とも思ったのですが折角ですし他の地域でよく食べられているもののほうが良いかと思いまして、パンケーキをご用意してみました、火加減はアカツキちゃんのお墨付きですよ?」
「うむ。リンちゃんのパンケーキは妾と一緒に作ったお手製じゃぞ。焼きは妾担当なので、朱雀の炎印のパンケーキ……なんてのう!」
リンディスとアカツキのお手製と聞けば花子の瞳もきらりと輝いた。紅茶の茶葉も用意したという鬼灯は「晴明殿、実は」と囁く。
「これよかったら貴殿と帝に」
――くそでかたこ焼きである。
「章殿が貴殿と帝に分けてやりたいと……えっ、そうじゃなくてこんなデカいのどうやって作ってタコはどうしたのか? ……俺の優秀な部下が(色んな意味で)頑張ってくれてな……」
「……ああ」
察した晴明は何かを知っているかのようであった。
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「さて、どこから話したものか……母は『地』じゃ。この地が作られ、我らが生まれたと言えば良いかのう。
はじめに瑞が。そして、四季として四柱と央に吾が。そうして吾らは柱となった。
アカツキが申すように吾らと人の子は価値観は違うであろう。故に『人の争いへ吾らは手出しはせぬ』」
だからこそ、獄人と八百万の間にある迫害を止めることはないのかとシキは黄龍の語りより察する。
「八扇はどのようになりたったのですか? そもそもこの立場は帝がお越しになってから……? 現在は空席も目立つとお聞きしましたが……」
「賀澄の案じゃの。初代の中務卿――晴明の父も献身的だったのう。種に関わりなく有能な者を長とする。
国家として統一するためのものであろうな。賀澄は『故郷の政治を真似た』と申して居ったが……」
黄龍は首を捻った。それまでは八百万一色の政治。つまり天香家の天下である。獄人は人に非ずと彼らは掲げ其れ等を隷属として扱った政である。
其れを大々的に改革しようとしたのだから神使も知る暴動が獄人、八百万の何方からも起きたことだろう。長胤にとっての不幸事は『ままあること』だった。つまり、同じようにそうはさせるものかと獄人を殺し回る八百万も居たわけである。それも八百万よりもかなりの数が死しただろう。
「……差別をなくすのは難しいよね。けど、無くしたいんだ。皆が笑顔でいられるために、私に出来ることをしたいから」
心で触れて心で感じるならやることが見えてくるはずだとシキはそう言った。
「聞いても? 俺の故郷の神の従属神に七匹の有翼蛇というのがいて、その一番目は最初に生まれ、最後まで孵らなかった卵。
他の従属神の手を借りて孵化したそれには欠落があり、人目の届かぬ地の底へ放逐されたという。
神話にはままある流れだと聞く。そういう一般にあまり語られぬものはいたのだろうかと……気になってな」
「どう、でしょう……黄泉津にはあまり存在し得ない話であるかも知れませんが『故に、作られやすい』のではないですか?
晴明より聞いております。どうやら異界の我らがあなた方に迷惑をかけているのですね」
申し訳ないとうつむく瑞にアーマデルは首を振る。成程、空白があるからこそ、作りやすいのか。アカツキは「成程のう」と呟いた。
アリアも頷く。豊底比売はこの場所には存在しておらず相似した物語も見つけられない。
「……黄龍様の意見として、差別変革を叶えるにはどうすればいいか。
天香の復興……厳密に言えば、婚姻抜きで遮那君が権力を持つ方法について聞いてみたいです。いいですか?」
「難しかろう。のう、晴明?」
同じ鬼人種として意見をと求められた晴明は花子を一瞥してから朝顔へと向き直る。
「賊軍とされた長胤殿より譲り受けた家督。世間の風当たりは厳しく現時点は温情での処置でしかありませぬ。
だが、霞帝による治政は必ず俺たちのような『獄人』を、そして『天香』を導いてくれると信じる事しか今は……」
いつの日か。そうとしか言えないと肩を竦める彼に朝顔は囁いた。厳し顔をして、困ったように呟く彼は客人をもてなさねばと気苦労を感じているのだろう。
「相手をもてなして笑顔にして、自分も笑顔になる。それが大事だと私は思うんです」
笑顔、と微笑めば彼は頷いた。無茶振りに苦労ばかりの彼にとって自身は同種族で出身も同じだ。「抱えすぎず頼ってくださいね」と笑いかければ晴明は「感謝する、朝顔殿」と目を伏せた。
「あ、そういえば瑞はまた天守閣の時みたいにでっかいわんこになるの? 人間形態もそのうち大人の美人さんになったりして……!」
「ええ、大きくなるでしょう。けれど、あなたが生きている内には……どうでしょうね?」
うんと時間がかかりますと笑った瑞に「そうなったときはもふもふさせてね」とシキは微笑んだ。
「そういえば、黄龍ちゃんって大精霊なんだよね……。何年生きてるんだろう?」
「うむ、八百万とは別種ではあるが吾は精霊であるからうんと生きて居るぞ。数えたことがないな。のう、瑞」
「わたしは0歳ですよ」
それだけ長く生きているならば古い民謡もあるかとアリアが瞳を輝かせれば、黄龍は「吾が歌って進ぜよう」と微笑んだ。
みたらし団子をぱくりと食べるアリアに「ひと串で歌一つじゃ」と黄龍が『セコい』取引を行おうとしているのだった。
「この国では色々あったが……妾はここが好きじゃぞ。全てに結果が伴ったわけではないが、皆が今を良くしようと生きた結果が此処にある。じゃから妾も助けたいと思うのじゃ」
「結果的に国を救うためとはいえ私たちはこの国を荒らして穴だらけにしてしまった身には違いありません。
晴明様、四神様。どうか、この国を助けることを改めてお許しください。些細な身であれど、お手伝いしたく存じます――」
リンディスとアカツキに続き、正純は「私はこの国にずっと留まりたいと思っています」と口を開いた。
彼らは光だ。自身らを導く光――故に、答える言葉は決まっていた。
「幾久しく――我らが神使殿」
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
お疲れ様でした。神威神楽でののんびりとした一日をお楽しみいただけましたら幸いです。
黄龍が、すごい勢いで外に触れて言っている気がするこの頃です。
そろそろ洋装を着始めても何も気にならないかも知れません。
GMコメント
夏あかねです。
●目的
黄泉津を知りましょう!
(※R.O.Oのヒイズルの事を彼等に問うても首を捻るだけだと思います。庚しか理解してないでしょうから……)
●中務省 壱号書架
高天御所に存在する中務省の書庫です。絵物語などが収められており、他の部署の者達が訪れることもあるそうです。
・黄泉津の伝説(国造りの伝説)
・賀澄と出会った話
・獄人と八百万について
・神霊について
……等々、疑問を口にすれば黄龍は答えられる範囲のみで答えてくれます。黄龍も神霊です。国のために是非を考え言葉を返すでしょう。
●黄龍
神威神楽の神霊の一柱。黄泉津瑞神を朋とし、四神の長の座に座っています。その姿は賀澄の好みのタイプと申していますが――?
非常に気易く、気質は戦場でなければ穏やかです。茶目っ気を感じさせ神使には好意的です。
ご希望があれば黄泉津瑞神を呼ぶことも可能です。瑞神はみたらしだんごが好きです。
●『中務卿』建葉 晴明
中務省の長、中務卿の座の鬼人種の青年。父も中務卿であり、霞帝に仕えていたそうです(父は獄人の暴動の際に天香長胤が責任をとれ刑を処し投獄され……)。
神使の一員として日々、懸命に二足の草鞋で努力しておりますが苦労性であるのには変わりなく。霞帝に振り回される毎日です。
●花衝羽根媛(はなつくばねのひめ)
アカツキ・アマギ(p3p008034)さんの関係者。初登場が拷問タイムアタック女子。
本来の名を天香 花子(あまのか かこ)。霞帝には坐する花衝殿より『花衝宮』と呼ばれています。長胤は叔父上に当たります。
后となり天香の『望月』を強固とするためだけに娘子として生を受けてから『后教育』を受けていました、が、先の暴動で天香家は事実上、無力となき后となることはありません。幼い恋心(勘違い)を胸に抱いて居ましたが、今は新たな希望を胸に懸命に学んでいます。
●茶会
黄龍の我儘で晴明が準備した茶会の席です。和菓子や日本茶を楽しむことが出来ます。
土産物などがあれば、是非お願いします。黄龍と花子は大層喜ぶ事でしょう。
晴明も霞帝が好んでいた和菓子屋から様々な菓子を取り寄せました(黄龍の我儘です)
●情報精度
このシナリオの情報精度はAです。
想定外の事態は絶対に起こりません。
のんびりとした交流シナリオとしてお楽しみ下さいね。
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