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シナリオ詳細

<騎士語り>雲雀行く蒼天

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 アジュール・ブルーの空に小鳥が二羽飛んでいく。
 高く遠く羽ばたいてゆく翼は、何者にも縛られてはいないのだろう。
 遠ざかっていく小鳥へ手を伸ばした『翠迅の騎士』ギルバート・フォーサイス(p3n000195)は、名も知れぬ生命に祝福を送る。青く澄んだ空が視界いっぱいに広がった。
「どうか、良き旅路を――」

 白き極寒の地ヴィーザル地方。
 その閉ざされた地にも僅かばかり夏は訪れる。
 グラスグリーンの草木が茂る草原には、芽吹きを待ちわびた豊富な色彩の花が咲き乱れていた。
「良い景色だ」
 小高い丘の上に立ったベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)は青い瞳を細め、周囲の景色を見渡す。緑豊かな地平と澄み渡る青空。冬になれば一変して、このあたりは銀世界に包まれるらしい。
「壮大だろう? 今だけ見られるんだ。もう一月もすれば雪がちらついてくるだろうな」
 馬に乗るベネディクトの隣。同じように馬上からギルバートは美しい景色を見遣る。
「夏が短いのですね」
 ギルバートの前に座るのはジュリエット・フォン・イーリス (p3p008823)だ。
 馬の動きに重心を崩した彼女の肩をギルバートがそっと支える。
「そうだな。だから、ヴィーザルの民は夏になると少し浮かれてしまうのかもしれない」
 短い夏を噛みしめるようにあちこちで宴が行われる。
「なるほど。雪に閉ざされる前に色々と準備をしているのですか」
 ベネディクトの前に座るリュティス・ベルンシュタイン (p3p007926)が頷いた。

 リンディス=クァドラータ (p3p007979)は鶫 四音(p3p000375)と共に馬に乗り、大きな石碑の前に来た所で止まる。見上げれば古い文字で何かが書かれていた。
「この石碑は?」
 リンディスはギルバートに振り返る。
「それは、ハイエスタの雷神と蛇神クロウ・クルァクの戦いについて書かれているんだ」
 古い言い伝え。伝承。御伽噺。
 この地を毒で侵そうとしていた蛇神をハイエスタの雷神は雷光の鉄槌を以て退けた。
 敗れた蛇神はその場で雷神に毒を吐いたが死には至らず、回復の為に眠りについた。
「その眠りについた場所が、この『リブラディオン』といわれている」
 調停の民が住まう地リブラディオン。

「でも、さっきの村は……」
 遠慮がちに眉を下げた炎堂 焔(p3p004727)は紅炎の瞳を泳がせる。
「荒れ果ててましたねぇ。それはもう破壊されたみたいに」
 四音の言葉にギルバートは頷く。
「数年前のノルダインとの戦役で、村人は殆ど犠牲になってしまった」
 無残に打ち棄てられた亡骸を運んだ記憶がギルバートの脳裏に浮かんだ。
 大人も子供も関係無く虐殺されたのだ。伯父エドワード・ベルターナとその一家。
 特に翌日発見された従姉妹をギルバートは大層可愛がっていた。
 ノルダインは当時十歳だった少女を見せしめとして惨たらしく殺したのだ。
 美しい金色の髪は切られ、緑色の瞳は潰され、純白の翼は千切られていた。

 ギルバートの緑色の瞳に怒りが滲むのをジュリエットは間近で感じた。
 手綱を強く握るギルバートの手にジュリエットは指先を重ねる。
「お辛いなら無理に話さなくても構いませんよ」
「……いや、すまない。少し感情的になってしまった」
 深呼吸したギルバートは手綱を握った手を返し、ジュリエットの指先を包んだ。
「でも、紹介したいんだ。君達のこと」
 小高い丘の上に来たのはその為。
 見晴らしの良い場所に建てられた何十個もの墓標。
「こっちだ。従姉妹はその俺が言うのも何だが愛らしくてな」
 掃除をして花を一輪、供えるギルバート。

 その墓石に書かれた名前に四音はカーマインの瞳を揺らす。
 エドワード・ベルターナの娘。
 金色の髪が美しい。
 緑色のつぶらな瞳。
 純白の翼を広げた。

「紹介しよう。俺の従姉妹――『アルエット』だ」

GMコメント

 もみじです。ギルバートとお墓参り。

●目的
・ギルバートとお墓参りをする
・散策したり、食事したりもできます

●ロケーション
 ヴィーザル地方ハイエスタの村『リブラディオン』とその周辺。
 リブラディオンは現在廃墟となっています。
 近くの見晴らしの良い丘に何十もの墓標が建っています。

 墓標の近くを散策できます。
 近くには古い伝承が書かれた石碑があります。
 書かれているのは『ハイエスタの雷神と蛇神クロウ・クルァクの戦い』です。

 散策のついでに見晴らしの良い場所で、持って来た軽食を食べてもいいですね。
 夜にはギルバートの村『ヘルムスデリー』に帰って、晩ご飯も楽しめます。

●NPC
○『エドワード・ベルターナ』
 故人です。ギルバートの母方の伯父。
 調停の民としてハイエスタ、ノルダイン、シルヴァンスの調整役として活躍していました。
 数年前のノルダインとの戦役で殺されました。

○『アルエット・ベルターナ』
 故人です。ギルバートの従姉妹です。
 享年10歳。ノルダインとの戦役で惨たらしく殺されました。
 次代の調停の民としての責務を果たす為修行を積んでいました。
 金髪の美しい髪、緑色の瞳、純白の翼を持った少女。
 ギルバートに懐いており、とても仲が良かったそうです。
 親友にペトラ・エンメリックという少女が居る。

○『翠迅の騎士』ギルバート・フォーサイス(p3n000195)
 ヴィーザル地方ハイエスタの村ヘルムスデリーの騎士。
 正義感が強く誰にでも優しい好青年。
 翠迅を賜る程の剣の腕前。
 ドルイドの血も引いており、精霊の声を聞く事が出来る。
 守護神ファーガスの加護を受ける。
 以前イレギュラーズに助けて貰ったことがあり、とても友好的です。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • <騎士語り>雲雀行く蒼天完了
  • GM名もみじ
  • 種別通常
  • 難易度EASY
  • 冒険終了日時2021年09月29日 22時25分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

鶫 四音(p3p000375)
カーマインの抱擁
リースリット・エウリア・F=フィッツバルディ(p3p001984)
紅炎の勇者
炎堂 焔(p3p004727)
炎の御子
恋屍・愛無(p3p007296)
終焉の獣
リュティス・ベルンシュタイン(p3p007926)
黒狼の従者
リンディス=クァドラータ(p3p007979)
ただの人のように
ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)
戦輝刃
ジュリエット・フォーサイス(p3p008823)
翠迅の守護

リプレイ


 涼しい風と温かい日差し。ヴィーザルの夏はグラス・グリーンの色彩に覆われていた。
「ヴィーザル地方にも、夏場にはこういう風景を見せる所もあるのですね」
 金色の髪が風に揺れるのを手で押さえたのは『紅炎の勇者』リースリット・エウリア・ファーレル(p3p001984)だ。
「澄み渡る空に豊かな草原と遥か吹き行く風……植物も精霊も、とても活力に満ち溢れてる」
 リースリットの隣には『淑女の心得』ジュリエット・フォン・イーリス(p3p008823)と『翠迅の騎士』ギルバート・フォーサイス(p3n000195)の姿もあった。
「連れて来て頂いてありがとうございます」
「こちらこそ、来てくれて嬉しいよ」
 色彩の溢れる美しいリブラディオンの景色。空の青さと花の色が溢れる場所。ギルバートにとって思い出深い地に連れてきてくれた事を少し誇らしく思う。
 ジュリエットはギルバートと共に墓地の中を歩いた。辺りには何十もの同じような墓石が並んでいる。
 数年前のノルダインとの戦役で亡くなったリブラディオンの村民の墓だ。
『黒狼の勇者』ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)の青い瞳はその美しくも物悲しい光景に僅かに伏せられる。
 こうしてギルバートが大切にしていたという従姉妹の眠る地へと案内されたと言う事は、友人の一人として彼に認められたのだろうとベネディクトは視線を向けた。
「そうか……彼女が」
 アルエット・ベルターナ。
 何処かで聞き覚えのある名前に、珍しくはないと納得して。

『炎の御子』炎堂 焔(p3p004727)はアルエットという名前に目を瞠る。
 動揺が小さく口に出てしまっていたのだろうか、ギルバートが振り向くのを首を横に振って何でも無いと微笑んだ。
「ただ、その、凄く酷いことがあったんだなって」
 焔の様子にリースリットも同じ事を考えたのだろう。
 アルエット・ベルターナ。
 金の髪と緑の瞳に白い翼のアルエット、数年前に亡くなったギルバートの従姉妹。
 リースリットと焔は顔を見合わせてイレギュラーズの仲間である『アルエット』を思い浮かべた。
 少し墓石の前から離れるリースリットと焔。小声で耳打ちをするように焔は問いかける。
「ど、どういう事なんだろう? アルエットちゃんって」
「まあ、名前や容姿の特徴、歳の頃が同じなだけの別人なんてよくある話ではありますし」
 リースリットは墓石を掃除するギルバートとジュリエットを見つめた。
「……そういえば『アルエットさん』のご出身というか経歴について、姓も含めて詳しい話は聞いた事がなかったですね」
「確かに聞いた事無いかも。でも、もし本当にボクの知ってるアルエットちゃんの事なんだとしたら、どうして故郷のこととかを隠すんだろう、やっぱり別人なのかな」
 不安げに瞳を揺らす焔の肩に手を置いたリースリットは、優しい瞳で微笑む。
「機会があったらアルエットさんに聞いてみるのもいいかもしれませんね」
「そうだね」
 焔はジュリエットが墓石に花を添えるのを見守った。

「美しい場所だけに戦争の爪痕が残っているのは物哀しいものがありますね」
 ベネディクトの傍らに居た『黒狼の従者』リュティス・ベルンシュタイン(p3p007926)の言葉にジュリエットが頷く。
「きっとこの村も素敵な場所だったはず……」
「ですが、安らかには眠れそうでしょうか?」
「そうですね」
 静かな場所で悠久を眠りにつくことが出来る。
「きっと、此処はギルバートさんにとっても色々な思いが残っているだろう場所なのですよね。連れてきてくださって、ありがとうございます」
 ギルバートへと小さくお辞儀をした『夜咲紡ぎ』リンディス=クァドラータ(p3p007979)はリブラディオンの紡がれるべき物語に瞳を揺らす。
「出来ることなら――筆の限り、記録して帰れると良いのですが」
「是非、お願いするよ。皆も喜ぶだろう」
「はい」

 祈りと弔いの言葉――
「アルエットさん初めまして。ジュリエットと申します。今日はギルバートさんの友人としてご挨拶させて頂きますね」
 ギルバートからは可愛らしくよく笑う少女だったと聞き及んでいた。
「私も……できる事ならお会いしてみたかったです」
 祈りを捧げたジュリエットの隣では焔とリースリットが同じように手を合わせていた。
「どうか安らかに……」
 リンディスもしっかりと祈りを捧げる。

「俺はベネディクト、ギルバートの友人だ。貴女の話はギルバートから少し聞いていて、何時か挨拶をしたいと思っていたんだ。突然の来訪、申し訳ない」
 アルエットの墓石に一輪の花を添えたベネディクト。その傍らのポメ太郎が不思議そうに鳴いている。
「此処にはギルバートの大事な人が眠っているんだよ」
 ポメ太郎を撫でたベネディクトは言い聞かせるように紡いだ。
 瞳を伏せたベネディクトの隣でリュティスも祈る。
 それにしてもとリュティスは祈りから顔を上げてアルエットの墓石を見つめた。似たような特徴と名前をイレギュラーズの仲間として見た事がある。それは偶然なのだろうか。それとも。ここまで考えてリュティスは詮索すべきではないと緩く首を振った。
『カーマインの抱擁』鶫 四音(p3p000375)は墓石に手を合わせながらアルエットの事を考える。
 名前はともかく容姿がここまで似ているなんて有り得るのだろうか。
 物語を有りの儘楽しむ読み手が、自ら調べたいと願う理由。
 面白そうだからとは別に、本当に親友に関係するなら知っておきたいとおもうから。

「皆ありがとう。アルエットもきっと喜んでいるよ」
 ギルバートが眉を下げて微笑む。



 リンディスとジュリエットは墓石の近くにある大きな石碑を見上げた。
「……多くの人が眠る、さらにその深い底で雷神は眠っているのでしょうか」
 ハイエスタの雷神と蛇神クロウ・クルァクの戦いが記された石碑。
「雷神は今もこの地に回復のために眠って居る、と言う事なのでしょうか」
「どんなものなんでしょうね」
 いつの間にか現れた四音にリンディスとジュリエットは肩を振るわせた。
「四音さん」
「ふふ、びっくりさせてしまいましたか? アルエットさんと関係しそうな事があるかなと思って。あ、私の親友の方のアルエットさんです。この前の幻想の事件では勇者の子孫と言う話でもあんなことになった訳ですし。何かきっかけで新たな物語に繋がるか何て分かりませんしねー」
 それにちょっと心配ですしと小さな声で呟いた四音。
「伝承は、何かしら大本になった出来事が実際にあったはずですからね」
 リースリットと焔も石碑の文字を上から追っていく。
「リブラディオンの住民が調停の民と呼ばれている事も合わせると、ただの御伽噺という訳でも無さそうですし。それに、調停の民が三部族を調停していたというのなら……この伝承、ハイエスタだけの話では無い気がする」
「こっちの世界の神様同士の戦いって興味ある」
 大きな石碑の上の方は長年の雨や雪の影響か少し削れていた。
「ハイエスタの雷神と蛇神クロウ・クルァクの戦い、ね」
 黒光りした本来の姿で石碑の上部をじっと見つめるのは『神異の楔』恋屍・愛無(p3p007296)だ。
 燈堂の地に縁があるというよりも、そのルーツが眠る地。
「思えば奇妙な縁だ。ヴィーザルに訪れるのは二度目だが。あの時は、まさか真性怪異など出てくるとは思ってもいなかった。尤も最初に訪れた際は、そんな事を考える余裕もなかったが」
 消えかかった字に首を傾げる愛無は、上の方を見たそうにしているリンディスとリースリットを手に抱えて持ち上げる。
「何か情報があるならば、今のうちに手に入れておきたい。これまでの話を聞く限り、繰切は、まぁ、邪神や怨霊の類だろう」
「クロウ・クルァクと燈堂の繰切に関係性が?」
「そうらしい。まあ、何某かの隠された真実があるにしても、性格が悪いのは間違いなさそうだ。戦う事も念頭に、これを読み解けば何かヒントがあるかもしれない」
 闘争と敗北の伝承であるならばお誂え向きだと愛無はわらう。
 繰切が燈堂の地に存在する以上、伝承も『ただの御伽噺』では無いのだろう。誇張や誤った解釈があるにせよ情報の信憑性は随分と高いように思えた。

『――雷光の鉄槌は天を貫く程の輝きを帯びて、蛇神を穿ち』
「鉄槌は何か槍のようなものなのかもしれませんね」
 リースリットの言葉にリンディスは大蛇を貫く光の槍を思い浮かべた。
『蛇神が吐いた毒は地を穢すもの』
「ネクストの砂漠の村ハージェスでは病毒という性質もあったはずだが」
 愛無の言葉にリースリットが頷く。
「そうですね。恐らく長い放浪の末に毒の性質と病気の性質が合わさったのでしょう。しかも、蛇が司るのは元来『水』のはず。人間にとって相性は『最悪』といってもいいでしょうね」
「流れ着く内に色々なものを取り込んで行ったのでしょうね。まるで祟り神みたいですね」
 三日月の唇で四音が微笑む。
「繰切の辿った道を追うのも手か」
 唸る愛無は此処より南の砂漠の村を想い。

 ――――
 ――

「お昼ご飯はお弁当を作って来たから皆で食べようよ!」
 焔はシートを広げて仲間に手を振った。広げられるのは皆で持ち寄ったお弁当。
「ウィンナーはタコさんやカニさんの形にしてるし、デザートのリンゴはウサギさんにしてみたんだ!
おにぎりもね、具を何種類か用意してあるんだよ!」
 次々と広げられていくお弁当箱。
「自分でお料理するようになったのはこの世界に来てからだけど、皆のも美味しそう……そうだ! ねっ、ちょっとずつ交換してみない?」
「ええ。私が用意したのはお肉とか卵とか色々な具のサンドイッチと、意外と好評だったので今回も用意してみた苺のジャムのマフィンとタルトです」
「わぁ! 美味しそう! タルトとかも冷たいね?」
 焔は瞳を輝かせリースリットを見上げる。
「精霊術で冷やしてあります」
「おおー! 頭良い! あっ、ポメ太郎くんだけ仲間外れも可愛そうだよね、食べれるものあるかな? リンゴならあげても大丈夫?」
 焔はベネディクトに振り返り、大丈夫だと言われてからポメ太郎に林檎を差し出した。

 四音が持って来たのはお肉に野菜に果物を良い感じに詰め、ご飯とセットにした物を一つ。
 お金で頼めるのは便利である。出来ないという訳では無い。おそらく。見た事は無いけれど。
「ツナのサンドイッチは美味しい。どうかね一つ交換でも」
「交換? いいですよ。きっと美味しいと思いますから。皆さんのお弁当もとても素敵ですね。ふふふ」
 四音と愛無はお互いのお弁当を交換する。
「美味しい。美味しい」

 リュティスは手際よくシートの上にお弁当箱を広げた。
「今回は食べやすさを重視して作ってみました。サンドイッチ、唐揚げ、卵焼き、アスパラのベーコン巻き
ポテトサラダ、ブロッコリー、ミニトマト。そしてデザートにぶどうですね」
「わぁ。リュティスさんのお弁当箱凄い。私はおにぎりとささみの照り焼き、ほうれん草とベーコンのバター炒め……少し彩が少ないかもしれませんが筋肉と血にはきっといい、と思います……!」
 おずおずとお弁当の蓋を開けたリンディス。
「ちなみにポメ太郎はヘルシーメニューですからね。デブ太郎にならないように日頃からきっちりしないといけません。またダイエットするのは嫌でしょう?」
「あれ!? さっきリンゴ上げたけど大丈夫かな?」
 リュティスとポメ太郎を交互に見つめる焔はオロオロと首を振った。
「それぐらいであれば」
 ほっと胸を撫で下ろした焔にリュティスがベイクドチーズケーキを差し出す。
「ジュリエットさんに教えていただいたんです。美味しそうでしょう? お料理教えるのすごくお上手なんですよ、ジュリエットさん」
「リンディスさんもあの時よりも腕を上げられてますよ。すごいです」
 微笑むジュリエットとリンディス。和やかな笑みが溢れるのにギルバートが目を細めた。

「あの、ご迷惑で無ければ食べて頂けると嬉しいです。お口に合うと良いのですが……」
 ギルバートにそっとお弁当を差し出すジュリエット。
 中身は豊穣で知ったおにぎりを工夫してペンギンに見立てて作ったもの。
「それと、えのきのベーコン巻と卵焼き、プチトマトとブロッコリーにポテトサラダ。デザートはうさぎさんリンゴです」
「これは……愛らしい。食べるのが勿体ないぐらいだ……頂きます」
 ジュリエットのお弁当から卵焼きをフォークで取り出すギルバート。そのまま豪快に口を開けて食む。
「ん……とても美味しいよ。ありがとうジュリエット」

 ベネディクトはギルバートの様子を伺いながら話しを切り出した。
「ああ、そうだ。ちゃんとした挨拶が遅れてしまったが、ギルバート。彼女が俺の従者のリュティス」
「リュティス・ベルンシュタインと申します。以後、お見知りおきを」
「よろしくなリュティス。先ほどのお弁当も美味しかった。ありがとう」
 ギルバートの誠実そうな人柄にリュティスは安心する。彼がベネディクトの良き友となってくれれば心強いと微笑む。その足下で『宜しくお願いします! 僕です!』と吠えるポメ太郎をベネディクトは抱え上げギルバートに手渡す。
「やんちゃな盛りで元気なのが取り柄なんだが。いかんせん食べ過ぎて太り易いのが最近の悩みでな」
 この前はまん丸になっていてダイエットさせるのに苦労したとベネディクトが笑うのに、ギルバートもつられて微笑んだ。
「そちらはどうだ。何か気になる様な事が起きて居なければ良いんだが」
 荒れ果てたリブラディオンを思い出しベネディクトはギルバートに問う。
「そうだな。今のところは……何かあれば頼らせて貰う」
「ああ、勿論だ」
 固く握手を交すギルバートとベネディクト。


 窓辺に立ち星空を眺めるジュリエットの隣にギルバートが歩いて来る。
 ジュリエットの指先が窓枠に乗せられた。
 そこに置かれた銀細工のブレスレットへ視線を落すギルバート。
「喜んで頂けると良いのですが……」
 戦いに赴くギルバートの傷を少しでも癒やせるようにとジュリエットの祈りと魔力が込められた翠玉のブレスレット。青年は驚きに瞳を揺らす。
「これは」
「誕生日おめでとうございます。貴方の新たな一年が幸せなものになりますように」
 微笑むジュリエットの前に跪き、手を取ったギルバートはそのまま己の額に白い指先を当てる。
 それは親愛を示すもの。
「ありがとうジュリエット。本当に嬉しい。大切にするよ」
 顔を上げたギルバートは僅か高揚した頬で、心底嬉しそうに笑った。

「俺も、そしてギルバートも形は違えど戦いで大事な者を失ってしまった」
 二人だけのテラスでベネディクトとリュティスはグラスを傾ける。
「……同じ様な傷を持つ人間として、友人として俺は彼の力になってやりたい。それが、どの様な事かは解らないが──彼が必要な時に手を差し伸べられる様に俺も努力を重ねて行こう」
 テラスのテーブルにグラスを置いたベネディクトはリュティスに視線を上げた。
「リュティス、もし何時か彼が俺に助けを求めて来た時は──力を貸してくれないか」
 その時、君が傍に居てくれると心強いと紡ぐベネディクトの強い眼差し。
「それが御主人様の願いであるのであれば、手をお貸し致しましょう」
 自分の力はその為にあるのだとリュティスはベネディクトに伝う。
「でも、このように頼りにされるのは不思議な気分になってしまいますね」
 見知らぬ心の揺らぎ。この感情を何と呼べば良いのだろう――

 食卓を囲むギルバートとリンディス達。
「ギルバートさん、貴方の眼で見ていたリブラディオンを、住んでいた人たちを。アルエットさんのことを、教えてください」
 リンディスはギルバートの瞳を真っ直ぐに見つめ問うた。
 通り過ぎた過去を遺せるのは今を歩む人たちだけだから。
「思い出すことは辛い、と思います。残酷だと言われるかもしれません。ですが、もし」
 その思い出を本に紡ぐ事が出来るなら。
「ああ、ありがとう。アルエットの話しはあまり話題にしないようにしていたからね。聞いてくれて紡いでくれるなら少しだけ心を預ける事が出来る」
 怒りも悲しみも。十分過ぎるほどに受け止めたから。彼等に預け少しだけ心を軽くする事が出来る。
「どんな方だったんですか?」
 テーブルを囲む四音もアルエットのことを尋ねた。
「可愛くて聡明で、優しい子だった。金色の美しい髪と緑色の瞳が愛らしくてね」
「私の親友にも、アルエットという名前の金髪緑瞳の白い羽根を持った子が居ます」
「同じ名前か。是非、会ってみたいな……」
 ギルバートは少し考え込む様に視線を泳がせたあと、四音に笑いかける。
「どうしました?」
「ああ、いや。……アルエットには双子の妹が居たんだ。幼い頃に行方不明になってしまった。随分と探したけれど見つからなかったのだが。名前を『カナリー』という」
「アルエットさんと、カナリーさん。何方も鳥の名前なんですね」
 リンディスが空を羽ばたく小鳥を思い浮かべる。

「そういえば、ハイエスタには精霊の声を聴く方々がいらっしゃるとか。ドルイド……でしたか?」
「ああ、そうだ。まあ、大したことはしていない。直ぐ傍に居る隣人の声を聞いているだけだよ」
 リースリットがギルバートへ視線を向けた。
 使役しているのではなく、加護を受けているだけだとギルバートは微笑む。
「……ギルバートさん、何故リブラディオンは襲われたのですか?」
 ノルダインが調停の民を滅ぼした理由が気になるのだとリースリットは素直に言葉にした。
「ノーザンキングスは三つの部族が集まって出来た連合だ。それを円滑に回していたのが調停の民であるリブラディオンのベルターナだったんだ」
「つまり、調停の民は中立国のような役割を担う村だったのですか?
 ギルバートの隣に座るジュリエットが首を傾げる。
「だが、ノルダインの『ベルノ』はその均衡を疎ましく思ったのだろう」
「ベルノという男が首謀者だと?」
 リースリットの赤い視線を受け止めるギルバート。
「ああ、ベルノが率いるノルダインの部族がリブラディオンを襲った。俺も当時は今よりももっと血気盛んだったから怒りの侭にベルノの所へ乗り込もうとしたのだが、村長に止められてしまった」
 力量、人数、蓄え。全てにおいてノルダインの方が上だったからだ。
 今、行けば無駄死にをする。それをアルエットは望んでいないと。
「優しい子だったから。仲間が傷付くのをこれ以上見たくないと思っただろうな。だが、今でもその選択が間違っていなかったかと憤ることがある。ベルノを今すぐにでも打ち倒せればと……」
「大丈夫ですか?」
 悔しそうに表情を歪めるギルバートの手を握るジュリエット。
「ああ、ありがとう大丈夫」

 ――――
 ――

 夜更けのリブラディオン。
 並べられた墓石の前に佇むのは四音だ。記された名前はアルエット・ベルターナ。
「さて中に何が有るか」
 カーマインの瞳が妖しく闇夜に輝いた。彼女の目は墓の中を暴く。
 墓の中にはアルエットの遺体。このあたりは土葬らしい。
 水分が抜けた少女の指先。指輪の内側に掘られた文字が辛うじて見える。
 記された文字は。アルエットの双子の妹。

 ――カナリー・ベルターナ。

成否

成功

MVP

鶫 四音(p3p000375)
カーマインの抱擁

状態異常

なし

あとがき

 お疲れ様でした。如何だったでしょうか。
 実は出発日がギルバートの誕生日でした。
 お楽しみ頂けたら幸いです。

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