シナリオ詳細
<グランドウォークライ>citius, altius, fortius.
オープニング
●
帝都に近づいた者達は『異変』をすぐさま察知する――
いつもと違う、と。鋼や歯車、蒸気で満たされし帝都スチールグラードの空気、いや……
「なんだ、色が……?」
空間そのものが変質してしまっていたかのようだった。
――それは一言で言うなら桃色。まるで『お姫様』が好むかのような色合いへと変じたスチールグラードはただならぬ様相に包まれていた。それは『ディアナキャッスル』と呼称される領域なのだが――帝都へと近づいたばかりの彼らには知る由もない。
が。別に問題はないのだ、何故ならば……
「……関係ないな。行くだけの話だ」
ガイウス・ガジェルド――R.O.OのNPCとしてのだが――彼は揺らがない。
彼は派閥を立ち上げた。フルメタルバトルロアと称された内乱に、確固たる目的をもって。
ヴェルス……或いはザーバ。
強者と目されし彼らと拳を交える為に。『この瞬間』しかその機会はないのだからと。
「突き進むぞ。問題なく行けるな?」
「勿論。ギア・バシリカまで……あともう少しって言う所ですかね」
故に彼は、彼を支援する者達から齎された古代兵器『ギア・フラウィウス』を駆って進軍し続けていた。それはゼシュテリオン軍閥が所有しているギア・バシリカと同系統の古代兵器であり、彼らの拠点でもある。
バシリカよりも一回り小さいが、中央にまるでラド・バウの様な闘技場があるのが特徴的な代物だ。ガイウスにとっては古代兵器を積極的に用いる趣味はないがしかし、ヴェルスにしろザーバにしろ拠点とすべき古代兵器を所有しているのであれば、なにもなしに乗り込むことには一苦労も二苦労もする。
故にギア・フラウィウスを足として用いて彼らへの接近を目論んでいるのだ。
そんな彼がまずにと当たりを付けたのはゼシュテリオン軍閥が拠点ギア・バシリカ。
イレギュラーズも同乗しているあの拠点に狙いを定めたのは――ただ単純に距離が近かった、それだけの事。
ヴェルスと仕合い、次いでザーバを狙う。或いはその逆……
彼にとってはどちらが先でもいいのだから。どちらかが帝位につく前に、夢のマッチを実現させる。
それが彼の望みなのだから――と、その時。
「…………やはり来たか」
ガイウスが天を見据える。
何事かと、彼の周りにいるものがワンテンポ遅れて視線を向けれ、ば。
直後にフラウィウスの闘技場に幾つもの『何か』が刺さる。
それは――黒鉄十字柩(エクスギア)。
ギア・バシリカの所有するモノだ。人をコレに乗せて高速で射出する――移動手段の一つ。
中より現れしは、勿論。
「……ヴェルスからの刺客、と言った所か。成程足止めにきた訳だ」
「悪いな――恨むか?」
「いや」
挑もうとするのはこちらの勝手な都合であり、そちらが正面から付き合う道理はないと。
中より出でたイレギュラーズに好意的な言葉を――ガイウスは向ける。
ヴェルスの動きは理解できるし当然だ、と。更に。
「ガイウスさん! 右舷の方からザーバ派の攻撃が……!」
「左舷の方からもシャドーレギオンって連中が――くそ、良い所で邪魔しに来やがって!」
同時。矢継ぎ早に繰り出される報告はガイウスにとって良いモノではない。
ギア・フラウィウスは、帝都を狙うギア・バシリカ方面へとまっすぐ向かっているが――だからといって放置されている理由もないものだ。軍の長として多くの部下を持つザーバは戦術として当然嫌がらせを仕掛けてくる。
そして更にはその意思に呼応……しているかは知らないが。
どうにもおかしくなった者達もこちらの方に来ている様だ。
あちらを見ても敵。こちらを見ても敵。やれやれ――
「問題ない」
だが、それでもガイウスの表情に変わりはない。
祭りとは騒がしくて然るべきものだ。
なんの問題もない。ああそうだ――多少の攻撃で揺らぐような乗り物ではないのだから。
「……ラド・バウの外でやるのは久々だな」
故に往こう。このまま往こう。
刹那とも言える夢の出来事を――現にする為に。
邪魔をするならば粉砕する。
●
「ガイウスがまっすぐこっちに来てるってよ――全くはた迷惑な話だよなぁ」
ゼシュテリオン軍閥は帝都に進んでいる……が、問題が発生したとばかりに苦笑するのはその長たるヴェルスだ。ただでさえ帝都の様子がおかしいというのに横からぶん殴りに来るとは……しかもザーバもザーバで動いているというのに。
「今ギア・バシリカに取りつかれる訳にはいかねぇ――が、幸いにしてまだ幾らかの距離はあるみたいだ。お前らにはギア・フラウィウスとかいうバシリカのパチモンに乗り込んでもらって、その動力部を破壊してくれ」
「――動力部を?」
「まぁガイウスを倒せるならガイウスを倒す、でもいいぜ」
かなり難しいだろうけどな……と、ヴェルスは言う。
先日。ガイウスの派閥立ち上げが真実か否か確認する為に彼とラド・バウで特別試合を組んだ。その折――多数vs一という状況ながら類まれな戦闘力を見せていたガイウスだ――
彼を倒すのはかなり難しいだろう。しかも今回は試合でもない。
更には恐らく周囲から増援が来るという可能性もなきにしも非ず、か。
ガイウスの意志はともかく、ガイウスに無駄な体力を使わせまいとする者もいよう。
「まぁだがガイウスが幸いなのは、奴さんが正気って所にある――
いやある意味で、だからこそ厄介でもあるんだが」
しかしだからこそガイウスを倒すのではなく、足であるギア・フラウィウスの動力部の破壊が重要なのだとヴェルスは言う。
ガイウス・ガジェルドは今しかないと思って戦いを仕掛けてきてはいるが。
もしもヴェルスの帝都制圧が成ればそれ以上続けようとはしないだろう。
――彼は混沌の中に飛び込むことはしても、混沌を引き起こそうはしていない。
何が何でも我を押し通そうとはしない訳だ。闇に落ちたザーバと違って。
「ギア・フラウィウスを止める事が出来ればガイウスは止まるだろうさ――多分な」
「多分って」
「まぁマジで多分としか言えねぇんだよなぁ……最悪、地上を走ってこっちに来るって可能性も……いやでもそこまで必死になる姿はおもいつかねぇし……まぁ仮にそうなっても流石に登ってはこれねぇだろ多分」
多分。なんとも希望的観測込みではあるが。
しかしとにかく『足』を潰せればガイウスの接近を妨げる事が出来るのは事実だ。以前の調査の折、ガイウス派に誘われた者もいるだろう――そう言った者はガイウス派に潜入するフリをしつつ、動力部を目指すといった事も可能かもしれない。
まぁ勿論、そう言った形で潜入できても動力部への警戒はある筈だ。
警戒を排しつつ動力部を目指すもの。そしてその間、最高戦力であるガイウスを釘づけにしておくこと……この二つが重要となる。
「きっつい事になりそうだが、バシリカに取りつかれる訳にはいかねぇ――
お前らの力が必要だ。頼んだぜ」
だから言う。イレギュラーズの力が必要だと。
ラド・バウ歴代最強と謳われる男を――止めてくれと。
- <グランドウォークライ>citius, altius, fortius. 完了
- GM名茶零四
- 種別EX
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2021年09月25日 22時05分
- 参加人数20/20人
- 相談7日
- 参加費150RC
参加者 : 20 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(20人)
リプレイ
●
政治。統治。皇帝。空白の座。
一切合切どうでもよく。そんなものは誰ぞが勝手になれば良い。
それよりも――ただ一時、果たせぬかもしれぬ夢を見よう。
今を逃せば次は永劫にないかもしれぬから。
「ガイウスさん……こんなやり方じゃ、大勢の人が犠牲になってしまうだけだよ! まっすぐな願いをその拳に抱いているだけなら否定はしないつもりだけど……見過ごせないね!」
「……ほう。『だから』来たというのか」
「そうだよ! ここで――止めさせてもらう!」
だけれどもそんなやり方は許容出来ぬとアレクシア(p3x004630)は跳躍する。
彼の行動が一体どれだけの者達に混乱を齎している事か。ただでさえザーバが闇に呑まれており暴走状態に陥っているというのに、この上にガイウスが横から殴りつけてくるなど冗談ではない。
故に止める。例えその願いが捻じ曲げられた訳でなかろうとも。
このままギア・バシリカへと接近させる訳には――いかないのだから!
「夢のマッチ、かぁ。うん、私も見たかったよ。でもね……そうはいかないんだ!」
「ふふーん♪ ガイウスさんに助太刀したいなら、まずあたし達を倒せー! なんて、ね!」
同時。アレクシアの動きに呼応するように『ご安全に!プリンセス』現場・ネイコ(p3x008689)と『大樹の嘆きを知りし者』ルフラン・アントルメ(p3x006816)も往くものだ。彼女らが狙うのはまずギア・バシリカより至ったイレギュラーズを阻まんと向かってくる闘士達――
ガイウスに無駄な疲弊などさせまいとしてくる者らだ。
まずもってガイウスに接敵できれば良かったのだ、が。ラド・バウで戦えた以前とは異なり、これは試合でもなんでもない。邪魔する者がいるのならばまずはそちらを排除と。
ルフランとネイコがそれらの気を引く様に立ち回る――
天より降り注がせる菓子の一粒一粒がルフランの挑発と共に。さすれば『あっかんべー』と舌を出しながら紡ぐその一撃……に続き、注意の逸れた地上へとネイコの一閃が続くものだ。数多を巻き込む圧を加えれば――
「さぁ――避けられるかな!」
彼女らが引き寄せた闘士らへと放たれるのがアレクシアの一閃である。
天を裂くかの如き一撃が戦場に瞬く――指先に収束する魔力が矢の形となりて。
着弾。貫き、さすれば。
「私もその気持ちは分からないでもないよ。でも、その行いは国を荒らすだけなんだ!」
直後に『天真爛漫』スティア(p3x001034)も踏み込むものだ。
強者と戦う事。それ自体は分からないでもない――もしもこの瞬間しかないとすれば、尚更に。
しかしガイウスの行いは到底看過しうるものではないのだ。
これは只国を荒らすだけの行為。意図して暴虐を振るう類のものでないにせよ――
「――スティア・エイル・ヴァークライト、推して参る!」
「――来い」
その行い。止めるに十分。
地を踏み砕かんばかりに籠めた力は、解き放たれると同時に彼女に俊足を齎すものだ。
――接近。邪魔立てする者あらば、打ち捨てる。
花弁舞い散る一閃にて道を切り開き。目指すは拳に力を収束させし――ガイウスの懐のみ。
「勧誘ありがとうチャンプ! 正直、魅力的な話だったよ。
でもゴメンね! オレはあなたとは一緒に夢を見れない!
その歩みと同じ未来には一緒にいけないんだ!」
「以前のお誘い、検討しましたが……
子クマはキングクマさんを、止めることにしました。これも子クマなりの仕事、なので」
更に『カニ』Ignat(p3x002377)と『魔法人形使い』ハルツフィーネ(p3x001701)が往く。やはり狙いはガイウスだ――
二人は以前ガイウスと相対し、そしてガイウス派としての立場に誘われた事もある。
だが、その誘いは断った。
ハルツフィーネは自らの立場も考慮して。Ignatは『もしも』の話は――
「オレは過去の、『もしも』の話は好きじゃないんだ! 特に他が書いた話はね!
実現させるなら自分の力で、未来で実現させるよ! だからこの場ではサヨナラだ!
――あなたとは別の道を行かせてもらうよ!」
「……そうか。それも選択の一つだ」
好きにするといい、と。ガイウスは口端を緩め――
同時、その絶死なる拳を振るった。
ハルツフィーネが、Ignatが、スティアが『死』を想起する。
だがその拳は前にも見たのだ、と。Ignatは距離を取りながら主砲より一撃。
拳の範囲外の彼方よりチャンプに一撃喰らわさんッ――!
「一気にやられるのだけは、避けます」
直後にはハルツフィーネも偉大なる天のクマより加護を戴き、敵を殲滅撃破するクマさんの力を得る。セイクリッドなるクマさんが背中にいるかのような感覚――同時に一か所に固まらず、散会しつつ『拳』の直撃を避けんと行動するものだ。
そして側面より爪を伸ばす。魔法で形成された爪はまるでクマの一撃が如く、で。
「もー! ガイウスさんは喋らなすぎ! そんなんだからこんな強引で不器用な手段しか取れないんだよ! ヴェルスやザーバと戦う場を用意してくれ、って頼んでくれればいくらでも協力するのにさ!」
大気揺るがす拳の一閃――
その撃を掠める様な寸前所で躱しながら『妖精勇者』セララ(p3x000273)は往く。
頬を膨らませ文句を言うように。ガイウスの願いが只管に『強者との決闘』であるならば、と。
「どっかの広いフィールドを借りて、誰にも勝敗が分からないように二人だけで戦えばいいの。勝ち負けを誰にも知られなければ、戦ったことすら知られなければ皇帝問題なんて出てこないよ」
「フッ……だがこの国でそのような場所も機会もあるものか――闘争の気配があれば必ず誰かが嗅ぎ付ける。そういうお国柄だ。俺たちの様に名が売れてしまった者は特に、な……」
「だから話すべきなんだよ! 一人一人が心の中だけで何か思うだけじゃ実現しなくても――皆が集まれば可能な事だってあるんだ!」
いやきっと出来ないことなんてないんだと、セララは紡ぎながら――聖剣に輝きを。
それは呼び寄せた天雷を纏った一撃。彼女の放つ極限の一撃。
――穿つ。ガイウスの左腕と交差し、激しき金属音。
「そうさ! 頂上決戦が行えないのが不満だって言うのなら――オレがいつか三人が戦える舞台を用意してみせるよ!」
直後。言うはIgnatだ。
「簡単な話じゃないか、将軍が引退出来るくらい軍部をまとめられる人間を用意して、皇帝位を陛下に勝ってオレがもらっちゃえば良いんだよ。責任がどこにも及ばないようにすれば、いつだって戦えるさ!」
「――随分と、真実ではあるが、遠い未来をみているものだな」
「そうかい? どうせいつかは全員に勝って鉄帝の頂点に立つつもりだったんだ!」
再びの主砲。ガイウスが左腕を払いて弾く様にすれば。
「あんたの望み――国を守った上で叶えてみせる!」
大言を吐くには力不足だと思われようとも、そんなことは関係ない。
必ず成す。成し遂げる。一度負けようが二度負けようが知った事か。
「そんな話はオレが千回でもあんたに負けた後に言って欲しいね!
万回負けてでも――最後には勝って拳を天に突き上げて見せるさ!」
「……その言。威勢のみか、否か」
まずは見定めてみよう、と。
放つ一閃は――まるで遠当ての如くIgnatの下へと。
地へと当たれば衝撃波が響く。波となりて周囲に届かん――それでも。
「チャンピオン、すいませんが貴方の戦いを阻むためにやってきました。
ねこ達がチャレンジャーです。他の誰を狙う前に、ねこ達とやりましょう」
「……幸いなのはダークウィッシュなどにガイウスが干渉されていない事でしょうか。彼が我欲の儘に、更に暴虐になっていたとでも思うと――背筋が凍りますね」
ガイウスを押さえ続ける為にも『かみさまのかけら』ねこ神さま(p3x008666)と『閃雷士見習い』Steife(p3x005453)も向かうのだ。ねこ神さまからは、彼女に付き従う三匹の
影ねこの一匹『黒ねこ』がニャーとばかりに直線状に伸びてガイウスの懐へと一閃繰り出さんとして。
さればSteifeは己が体に微弱な電気を流し込む。それは己が神経を、伝達を強化する術。
ある程度の距離を取りながら――雷光の刃にてその身を穿とう。
「面白い一撃を使う……だが、それだけではまだ俺を獲る事など出来んな」
「ええ――でしょうね!」
が。ガイウスの瞳は全ての攻撃を捉えている。
致命的な一撃にならぬ様に体の軸を常にズラす様――ああこれが故にこそ強者なのだろうとSteifeは思考するものだ。ここが或いは現の世界であれば既に死者が出ていてもおかしくはなかったのかもしれない。
「……これが、戦うという事なんですね」
――故にねこ神さまは胸中にて抱く思いがあった。
R.O.Oで。この仮想空間だからこそ初めて接近して、戦うという事をした。
遥か昔にそのような事をした記憶はあるけれど……混沌についてからは常にじゃれあい程度。そんな『程度』だったはずなのに――ああ――
「感化されてしまったのだから、責任は取ってほしいです」
彼女は見惚れてしまったのだ。ガイウス・ガジェルドという男の戦い方に。
常に全てを凌駕する。常にその拳で凌駕する。
――『あたし』が、その戦い方に敬服の意志を抱いてしまった。
だから彼女は往く。
前へ前へと、魂を焦がすように。焼き付いたあの光景を己の世界にも――と。
「ガイウス・ガジェルド、俺たちは貴方を倒す心算で此処に来た」
更に。言うは『蒼竜』ベネディクト・ファブニル(p3x008160)だ。
ガイウスの居城と言えるこのギア・フラウィウスだけが戦場ではない――今や鋼鉄の国の首都の各地で規模の大なり小なりはともかく、戦いは広がり続けている。
大きな戦いになってきた。だからこそ『此処』を制する事の意義も大きい。
「負けられぬ戦という訳だ」
「ほう――前の試合では、負けてもよい心算だったと?」
「まさか」
そのような心で戦ったつもりは毛頭なく、いやそもそも。
「俺が貴方に挑むのはただ一人の戦士として」
周囲の状況を認識している事と、この場に『この場以外の事情』を持ち込む事は違うのだと。彼は己が身に竜の力を宿す――邪魔立てする者は纏めて薙がんと、跳躍。
挑む以上は『陽動』でも『足止め』のつもりではない。
ただ全霊を持って、この覇者に刃を突き立てるのみ。
――そうでもなくば一蹴される程の実力であれば、尚更に!
「くぅ、ガイウスの体力を無駄に使わせる訳には……!!」
「やれやれ。阻む意思があるのは結構な事だが……それは妾が許さんよ」
次々とガイウスの下へ向かわんとするイレギュラーズ達――
であればと闘士達も次々に集ってくるものだ。ガイウスが負けるなどとは思っていないが……しかし夢のマッチ実現の際に疲弊したガイウスなど誰が望もうかと。しかし――そこへと撃を紡ぐのが『秘すれば花なり』フー・タオ(p3x008299)である。
「ギア・フラウィウスに集いし闘士達よ。戦う意志の無いもの、ガイウスと我等の戦いの邪魔建てをする気のないものに手出しするつもりはないが……それ以上に踏み込むのであれば容赦はせぬと知れ」
選択肢はあった――己もまた彼の派閥に誘われた一人なれば。
しかし最終的にどうするか、など。
「己の願望次第、というのは彼我で同じか――妾の単純な好み、よな」
今日という日。己が此処にいるのは、と。
意思をもって踏み込んできた者あらば穿つ。
制圧するように、蒼火の炎によって――苛み蝕みながら。
「やれやれ。とんだ戦場にとんだ相手だな……
流石にアレとやり合うってのはちっとキツいな」
と、同時。『職業無職住所不定』ダリウス(p3x007978)は混迷する中央闘技場の戦線に頭を掻く様に――遠くにあるガイウスから感じる絶大なる『圧』は、此処からでも脅威を感じさせる程だ。
アレを倒せと? ヴェルスも随分と無茶なご注文をしてくださるものだ。
――まぁいい。『ソレ』だけが全てという訳でもないのであれば。
「んじゃ、いつも通りやるか」
蹴りつける地面。騒乱の最中に巻き起こる戦意の嵐――の中に気配を落とし込む。
目指すはガイウスの懐……ではない。
往くは片隅。中央闘技場から内部へと侵入する扉の一つ。
――動力部の破壊を目論み、ダリウスは往くのだ。
●
ギア・フラウィウスの中央闘技場で激闘が繰り広げられている。
多くのイレギュラーズがエクスギアで射出され、乗り込んできた……それは非常に目立つ行いであり、自然と誰しもの眼がそちらに向くものだ。ましてや中央闘技場には首魁であるガイウスもいるのであれば当然に。
「おい、右舷側の手が足りないぞ! ザーバ派の攻撃を凌げ!」
「それより中央闘技場の方だ! ヴェルス派の攻勢をだな……!!」
しかし状況は決してそこだけで完結している訳でもない。ヴェルス派だけが攻撃を仕掛けてきている訳ではなく、軍部を握るザーバ派との三つ巴の状況でもあるからだ。ギア・フラウィウス内は各地で敵の攻勢を凌ぐ為の行動が各々で取られている――
それは決して統制の取れた効率的行動とは言えなかった。
良くも悪くもガイウスは一個人としての強者であり、また彼の下に集った者も部隊や大勢の統制に優れた者ではなかったから。大なり小なり混乱が生じており……
「みんな、集まってくれてありがとう。僕達でギア・フラウィウスを止めるんだ。狙うは動力炉……うん。流石に最後まで気付かれずに――とはいかないだろうけど、全力を尽くそう」
だからこそその間隙を突いて進む者達の存在に気付き辛かった。
フラウィウス内の一角を進むのは『オオカミ少年』じぇい君(p3x001103)だ。支援者たちの影に紛れ内部へと潜入したのは彼や、或いは。
「ええ。純粋なる願いといっても、それを叶えようとすれば犠牲と零れる涙が増えそうですから……絶対に止めますッ!」
『ただのしがない』梨尾(p3x000561)など、以前のガイウスへの調査行動でガイウス派に誘われた者なども――だ。彼らはエクスギアで乗り込んできた訳ではない。堂々と真正面から乗り込む事が出来たのだ。尤も、最初から固まっていれば怪しまれるやもしれなかったので、別々の地点にいてから再度集まった訳だが。
ここにいる者らの真意は内部の破壊……より具体的には動力炉の破壊にある。
じぇい君が先んじて敵らがこちらに気付いていないか身を潜めつつも索敵を行い、強き意思を抱く梨尾もまた同様に。隠密なる行動に加えて近付く足音などが無いかも確認するものである。いざとなれば戦闘もやむを得ないが、発生してしまえば周囲も気付こう。
「……ガイウスさんの気持ちはわかるよ。だけど、あれは強者の驕りだ」
同時。独白するようにじぇい君は紡ぐ。
こんな騒ぎを起こしたら――戦いに巻き込まれる一般人はどうなると思っているんだ。
巻き込むつもりはなくても、大なり小なり何かはある。
弱肉強食の鋼鉄とはいえ、こんな事は許されない。
「おっ、と。一端ストップを。この先、警備の人がいるみたい」
「ええ確かに――足音が聞こえますね」
が、独白しつつも注意は怠らない。じぇい君の索敵に引っかかったのは敵だ――梨尾の耳にも確かに人の歩く音が聞こえている。一応、ガイウス派として潜入しているが故に今ならまだ怪しまれないかもしれないが……慎重に往くならば見つからないのが最善だ。
やり過ごす。息を潜めて、或いは迂回のルートがあればそちらへと歩を進めて。
「さて――中央闘技場での戦いが激しい内に、より奥へと進みたい所ですが」
同時。通路の角にてリセリア(p3x005056)が周囲を窺っている。
視界の端には慌てる様に駆ける者が幾つも。彼らも闘士だろうか……様子を見つつ思考するのはガイウス個人の事だ。
ザーバ・ザンザの一件を考えればガイウス・ガジェルドや、或いはその周囲にも罠が張られていたのは間違いない……とは思う。少なくとも『妙なピエロ』が接触していたという話はその類であったのではないだろうか――とも。
「尤も、本当に居たとして……想定通りにガイウスが動いている訳ではなさそうですが」
もしも見えぬ『敵』が何か企んでいるとして。ならばその『敵』としては本来、ザーバと共に行動させるのが一番効果的だったのではないだろうか――三つ巴などという状況は闇に落ちたザーバの邪魔になっている面も少なからずあろう。
今の彼の行動は『敵』の思惑から逸れているのではないかと、リセリアは感じていた。
「ま――今はとにかく動力部の方を、ってね!」
人目がなくなった段階でリセリアも駆け、動力部の方角へと近づいていく。と、同時に。そんな彼らへと合流するのは『Hide Ranger』Adam(p3x008414)である――彼はガイウス派として勧誘されていた訳ではない故に、エクスギアによって中央闘技場に侵入したのだ、が。
彼はガイウスとは戦わず真っ先に内部への侵入を優先した。隠密なる行動に優れるAdamであれば人目を避けて行動するも十二分に可能。
「ハイドレンジャー参上、ってね。名前のわりに派手な登場しちまったが――
こっからは文字通りの意味さ」
隠れし者の面目躍如。
攻勢は仕掛けない。やり過ごし、息を潜めて『無』が如く。
道中の者らなど路傍の石だ――狙いは一点、動力部のみなのだから。
が。如何に戦闘による慌ただしい空気があれど、隠密行動にも限界はあるものだ。
動力部がギア・フラウィウスにとって最重要部であることは誰の目にも明らか。絶対に離れぬ警備の者はいるものだし、そもそも時間が掛かれば掛かるほどに混乱も止んでくるもの――であれば。
「すいません、道に迷ったんですけど! ここはどこですか!!」
周囲に轟く大声。それは『雑草魂』きうりん(p3x008356)の叫びである――
彼女もまたガイウス派として勧誘された一人であっ……たのだけれど、きうりん不思議! 私そんな武闘派な感じじゃないとおもうんだけど!! なんで!! なんで誘われたの!! まぁいいや!! せっかくだからこの状況を利用しない手はないよね!
という訳で彼女はあえて警備の者らの眼前に姿を現した。
盛大に。隠密の者らが更に目立たなくなるように。
さすれば怪訝な顔をしながら警備が近づいてきた……ので。
「くっ、その顔怪しまれてる!? バレたら仕方ねぇ! 全員ぶっ倒してやるぜ!!
おらー!! 肉ばっか食べてないで野菜食べろ!! この肉マニアどもめ!!
もっとオリーブオイル使えよ!!」
「なんだぁコイツは!! オイ仲間を読んでこい! 不審者、いや多分敵だ――!!」
誰が不審者だ私はきうりんだ――!!
やりたい放題のきうりんが盛大に。敵性対象に己が餌食であると――内部に侵入した野菜であると刷り込ませるのだ。騒げば騒ぐほどに動力炉破壊を狙う本命たちの気配が更に希薄となるから。
「ハハ。さて、と――ま、こっちは『アレ』相手にするよりは随分とマシだろ」
であれば、直後。潜んでいたダリウスもまたきうりんに加勢する。
足音と気配を絶っていた彼はまるで奇襲の如く。
身に纏いし黒靄より生じるは蛇の尾――堕落せし悪しき一閃が闘士らに撃を加えて。
「ぐぁ、ッ!? くそ! 敵は一人だけじゃないぞ!!」
「追え、追え――!! 逃がすな――!!」
さすれば注意が向く。許すな逃がすな排除せよ、と。
「チィ! 侵入がバレた! 情報は粗方回収したから一旦こっから脱出するぞ!」
故に『好都合』だとばかりにダリウスは虚言を弄するものだ。
我々の目的は情報だったと言わんばかりに。焦り、もはやこれまでとばかりの言の感情を乗せればまさか動力部の破壊をいまだ企んでいるとは思うまい――引き付け足止め、精々盛大に焦っている様に見せてやれば。
「ったく! ザーバよりはマシだと聞いていたんだが……結局『楽しそうだから』みたいな理由で横槍突っ込んでくるのはどうなんだっていうか、この国の精神面どっちでも変わんねぇんだな!?」
更に『結界師のひとりしばい』カイト(p3x007128)も同様に『引っ掻き回し』に掛かるものだ。赤き瞳を宿す己が半身を逃亡役にもして――あちらにこちら。相手を散らせてさぞや困らせてやろう。
それにしても鋼鉄の国はいずれも戦う事に帰結する集団ばかりなのだろうか……ザーバ側の相手をよくしていたカイトにとっては、ガイウス側もこうだと吐息の一つも零したくなり。
「ま、現実の鉄帝もある意味こんなもんなのかもしれねぇが……
ええい。とにかく今はこいつら止めてやんねぇとな!!」
直後。己が眼前に回りこんだ者あらば結界の壁を展開しその動きを妨害せん。
同時に自身を軸とした『陣地』を構築――更に楔状の結界を複数撃ち込み、敵を縛ろう。その身を内から封じ込める様に。結界の冷気にて全てを封ずるように。
さすれば広がる対応の声と混乱――
足止め班は散々にかき回し、その間に隠密班は可能な限り奥へと進む。
彼らもまたいずれかはその武を振るう時来るだろうが、その時まで……と。
「よし。カイトさんたちの足止めが上手く機能しているみたいです。後は……敵とかち合わないルートを探していきましょう。上手く行けば動力炉付近まで戦闘無しでいけるかもしれない……」
「おっと、だが敵だけじゃなくて罠や探知装置がないとも限らないからな。
その辺りの警戒も必要だろうさ――近付いたらより慎重に、だな」
であれば、じぇい君は今の所上手く歩を進められている事を確信しつつ、Adamらとこれからの事について言を交わす。慎重に、かつ速やかに。急ぎすぎてバレてもいけないが、ゆっくりと行き過ぎて時間が掛かっても同様に無意味だから。
声を最小限に抑える為に梨尾はハンドサインも使っている――
汗の匂いや人の匂いがすれば動きを制して。
最低でも警備の少ない所を突破できるようにと思考しながら……
「あらあら――こんな所でゲルツさんにお会いするなんて、奇遇ね?」
瞬間。奥へと向かっていた『硝子色の煌めき』ザミエラ(p3x000787)が目にしたのはスーツ姿の飛行種……ゲルツ・ゲブラーだ。
「むっ。お前は……まさか噂の侵入者か? ガイウス派への誘いを貰ったと聞いていたが」
「そうそう。お誘い頂いたからちょっとお邪魔しに来ただけよぉ。文字通りの意味で、ね♪」
「成程……そう来たか」
彼もまた闘士の一人。さて、どうしたものかと思案する様子を見せる、が――
「あなたはガイウスの為とか、なんか一花咲かせたいだとか、そういうエモーショナルな理由で此処に居るわけじゃないんでしょ? ガイウスが暴走したら止めよう、なんて考えてるかもだけど……甘いわ!」
その様子にザミエラが言葉を畳みかけるものだ。
得られた情報からでは、彼は闘士ではあるものの純粋にガイウスを支持しているとは言い難い立場にあるようだ。『ならば』と。
「本当に暴走し始めたら、ザーバみたいに闇に堕ちたら、もう止められない。動くなら今、このときしか無い。私達は鋼鉄の為にガイウスの夢を壊しに行く」
「――狙いは動力炉か」
「そうよ。あなたはどうする? ガイウスに明確に敵対する? しない?
すぐに決断出来ないなら、せめて邪魔はしないで貰えるかしら!
私達に時間はないの――夢を見てる暇があるなら、現を進まないといけないのだから!」
彼に言を重ね続ける。貴方もどうか、と。
動力炉までの道筋に戦力が増えるなら良し、見逃すだけでも良し。
まぁ――断られ、敵対するのならば仕方なし。
だが動力部を壊すにも一筋縄ではいかない筈だ。
このままじぇい君や梨尾たちが敵を上手く察知し続け、最小限に躱せたとしても……動力部には確実に敵がいる。排除できても尚異変を察知した者達が続々と向かってくるだろう。
その時の為にも、彼がいるのならばありがたい。
彼女はゲルツを見据える。その口の一文字が――如何に動くかを見定める様に。
●
駆けていた。『雷神の槌』ソール・ヴィングトール(p3x006270)は駆けていた。
ガイウス派の客将として潜入――しようとし。
しかし、動力炉へと向かう味方が多いと感じれば踵を返し。向かう先は只一点。
「――ああ。駄目だ。駄目だね」
魂が疼く。心の臓が跳ね上がる。
“ここ”には、“私”がその欲求を我慢する為のすべての要素が欠けている。
国もなく。
家族もなく。
脆弱な己の肉体(なまみ)もなく。
ただ闘争への欲求が迸る。
「退屈な貴方は、せめてこの巷を楽しい戦いにしたいのだろう? 大変申し訳ないが――」
光が見えた。通路の果て、中央闘技場より零れる光がソールを歓迎している様で。
一切止まらぬ。口端が吊り上がるのを感じながら、そして。
「その欲求は、先ず私が叶えさせて頂く」
往く。握りしめた拳がかつてない程の充足を得ながら。
闘技場の覇者たるガイウスの背を――煌めく流星の如く狙い定めて穿つのだ。
強襲。されど、動じぬ。闘志を感じたガイウスの反応は早く、割り込ませた腕が直撃を防ぎて。
「ふむ――思ったより多い数が入り込んでいる様だな」
「不満かな?」
「いや、それでいい」
鋭き眼光がソールを捉える。しかしその目に怒りや憎悪などと言った感情はなく。
「好きにしろ。俺も、好きにする」
闘争の本能に身を委ねた王者の気配のみが――そこに在った。
大気が揺れる。ガイウスが腕を振るえば、その一撃は正に大気の『壁』を打つのだ。
衝撃、轟音、幾重にも。
――やはり健在。ラド・バウで見せた戦いの激しさは、此処にも。
油断は即死。油断せずとも三途の川に足を付けている感覚が誰しもを襲う。
「ううーん! 流石だね、ガイウスさん! でもね『そう』だからこそ取れる手もあるんだよ!」
が。セララは恐れない。いや、死に近いからこそ見える道筋もあるのだと。
彼女の剣閃が激しくなる――己が身が削れれば削れる程に。死に近い領域にあればあるほどにその輝きは鮮烈となっている。そう……剣に込める思いはただ一つ『勝利』のみ!
刺し違えようとも勝利を狙おう!
三途の果てにこそたった一つの結末があるというならば、ソレを狙うのみ!
「今さら『強い』という程度で臆する者は誰もおらんよ――
この状況。少しでも面白いと思ってしまうのは不敬かな、ガイウス」
「まさか。闘争の最中に及び腰になられる事ほど、興が削がれる事もない」
であればベネディクトもセララの剣閃に続くものだ。
やはり今一度挑んでも実力差は明白。此方が彼に届き得るには――実力以上の物を出さねば難しかろう。しかし無論、R.O.Oの世界と言えど一足飛びに昨日を超越する様な事はない。奇跡など、願って勝てる様な相手でもない。
だが。それでも。
「挑む以上は挑戦者であろう。天の頂を目指さず心なくして、何が大山を制覇出来ようか」
――足止めなどという心算はない。
この場に立つ以上は、彼という存在に対して真摯でありたいのだ。
そう。このガイウス・ガジェルドに。覇者への道を突き進んでいるこの男に。
「往くぞッガイウス・ガジェルドォ!!」
ただ己の全力を――ぶつければ良いだけなのだから!
魂が燃え上がる。猛る真髄が竜の力を此処に。
ただただ渾身を一撃に乗せよう。ただただ眼前の死を凌駕し、立ち続けよう――さすれば。
「そうですチャンピオン、すいませんが貴方の戦いを阻むためにやってきました。
その心はどこまで事態が進もうと変わりません――ねこ達がチャレンジャーです」
ねこ神さまも次なる一撃を紡ぎ続ける。
挑戦者。そう、我々は挑戦者だとねこ神さまは思考している――本来、現であればまだ挑めぬ筈の存在に手を繰り出している、今この時。
どうしても高揚が抑えきれぬ。
あらゆる未知に心が躍る。新鮮なる煌めきばかりに目が眩い!
だからこそ――あぁ。今のあたしは『挑戦者』なのだと。
「太陽に手を伸ばす人の心が分かるようです」
ねこ神さまは手を伸ばす。邪魔する闘士あらば黒き猫の一閃が紡がれ道を開き、同時。
「まだあたしのこと倒せないの? だっさーい! そんなんでよく闘士なんて名乗れるよね! ふふん、これならあたしだって簡単に目指せちゃいそうだよ!」
「くっ! この、子供がよくも……!」
「戦いがお望みなら私達が相手になるよ! 突破させるもんか……!」
ルフランが自らの傷を治癒しながら敵を挑発し引き付け、纏まった所へとアレクシアが矢を放つ――纏めて穿つその一撃は誰しもの身を貫き、体力を奪おう。誰もガイウスとの戦いの邪魔などさせぬ。
「戦うつもりがあるのなら、ガイウスさんの下へは行かせないよ! どれだけ強くても、周りが見えていないなら……酔っ払いと同じだよ! なんの混乱も厭わずに続けるなら、絶対に止めさせてもらうから!」
戦いの意志を持つ者ならば容赦はすまい。アレクシアの決意は固いものだ――
戦うつもりがない者がいるならば、ことさらこちらから手出しするつもりはない、が。こんな古代兵器まで動かして、ただ己が我欲を貫くために大勢の人を無視するなら話は別。ルフランやネイコが引き付けた者を狙い定めて弓を鳴らそう。
「戦うつもりがないなら下がってて!
その代わり――とっておきの戦いを見せてあげるから!」
更にネイコも声を張り上げるものだ。
そう、ガイウス・ガジェルドとの戦いを特等席からでも見ておいて、と。
本来であれば己もあの場に直進したかった。ヴェルスとは戦わせられず、だからこそ代わりに私達が貴方の戦いに何度でも――と。今一度覇者との戦いの息吹をこの魂と共に。
「なんて、言葉通りに真っ直ぐガイウスさんと戦ってられれば良かったんだけどね。
でも、今はそういう訳にもいかないか……!!」
彼女は一瞬、ガイウスの戦場を横目に見据えるも――踏み込んできた闘士あらばその者へと剣撃一閃。跳躍し、敵の列を見据えれば輝かしき気迫を武器に纏わせ彼方まで一閃しよう。
薙ぎ払うように。ガイウスとの戦いに夢を馳せながら。
「強者と戦いたい……それなら、この一戦で満足させてあげるよ!」
「――お前たちにヴェルスの代わりが務まる、と?」
「試してみたらどうかな。後悔なんてさせないから!」
同時。圧倒的な暴威の気配を身に纏うガイウスへ――飛び込むのはスティアだ。
小細工なんてしない。下手な小細工など圧し潰すのがガイウスであろうならば。
――必要なのは正面から全力で打ち合うのみ!
「ふっ……!」
短い呼吸。直後には息を止め、連続的に剣撃を鳴らす。
矢継ぎ早の神速は目にも留まらぬ。花弁緩やかに舞う最中に解き放つ、風よりも速き一撃が一つ二つ三つ――正面より、右より左より。
その間にもスティアは観察を止めない。
彼の視界がどこにあるか。どこに注意が向いているか。その防を突破しうる点は何処か。
――必要なのは直撃する一閃。本命にしてその芯に届きうるただ一太刀。
「視えたッ!」
果たすべき雪辱があるのだと、剣撃の狭間に繰り出してきたガイウスの剛腕――
その最中に彼女は見た。攻撃の最中にこそ当てうる微かな可能性がある、と。
正に一瞬。死線の狭間。
――なれど、彼女の抜刀術が針の穴を穿つ。
「ぬっ……」
ガイウスにとって決め討つ一撃。
強靭なる左腕の動きに沿って繰り出された剣筋が撃と交差し――
遂に彼の身に傷を刻む。
致命とは言えぬ。されど、暴威の隙間を縫って届かせ流す血のソレこそ、勝機の証。
ガイウス・ガジェルドは例え武神に例えられようとも無敵の神などでは決してない証左。
……無論、だからと言ってその勝機というのは理論上とも言うべき領域の話である。
ガイウスと言えど血を流す事もある、ただそれだけの事。R.O.O特有の『死んでも復活しうる』という手も取れるからこその一手でもある――ガイウスに届かせようとすれば彼の暴威と相打ってようやく。
「分かってはいましたが、出鱈目じみた強さですね……ッ!
全くどれほどの鍛錬を経ればその強さを身に着ける事が出来たのかッ!」
状況はどちらかと言えばイレギュラーズに不利だとSteifeは感じていた。
彼の近くに居る者はいつ死んでもおかしくない。いや実際、全力を賭した先のスティアも、死が近づきながらもだからこそと向かったセララも、強き意思を携え魂を懸けて挑むベネディクトも――誰も彼も直後には死に見舞われている。
それだけであるならばギア・バシリカよりまた至れるものだ、が。
今回はガイウス派の闘士達が次々と乱入してくる……彼らにも手を裂かねばならぬとなれば、以前のラド・バウ上での戦いよりも遥かに戦いづらいと言わざるを得ない。
無論、それらはルフランやネイコ、アクレシアやSteifeによって撃退されてはいる。イレギュラーズ側も対応の為の人員を裂いているが故に戦線崩壊とは至っていないが――さて、やはり彼らのホームであればこそ厳しいのは必然か。
「ふむ。中々ガイウスのみ……とは、いかぬものよな」
それでもやり続ける意味はある。意義がある。
Steifeの雷光の刃に合わせ、フー・タオもまた広域たる雷撃を展開。
幾重に渡る雷撃の奔流が雨の様に降り注ぎ――決してガイウスとの死闘の邪魔はさせぬと。
「退かぬか。そうか、人よ。お前達も夢を見るのだな」
されど闘士達も臆さぬ。この程度で恐れる様であればラド・バウで戦ってはいないのだと。
攻撃を切り抜け攻勢の波を掻い潜り――彼女らにもまた一手を届かせる。
誰もが見ているのだ、夢を。見たい夢があるのだと。
数多の願望が此処に在り――だからこそ誰も退かぬ。
「……ええ、分かります。その夢は可能であれば子クマも見たかったです」
そしてその気持ちは――ハルツフィーネにも理解できていた。
野次馬根性としてはそういうガイウスの夢の果ても見てみたいものだ――
けれど。
「英雄としての勝負は、相応しい舞台でないといけないと思いませんか?」
「……相応しい舞台、だと?」
「野良試合も悪くはないと子クマは思います。けれど、ガイウスさんは」
もっともっと高みにて。
あるべき場所で挑戦者を待ち続ける――頂にて。
「待っていてほしいものです」
言いながら、紡ぐ。クマの爪を大いなるキングクマへと。
瞬間――ギア・フラウィウスに揺らぎが走った。
まるで建物が傾くかのような衝撃。それは……
●
「わあああもうなんてデカさなんだ!! はやく壊れろ――!!」
ギア・フラウィウス内動力炉――
ソレが煙を挙げていた。原因は明確、攻撃によるものだ。
叫ぶはじぇい君。当然それはイレギュラーズ達が警戒を突破して此処に辿り着けた事を示唆している……のだが、しかし案外に動力炉が堅かった。強引に攻撃を幾度もぶち込んでいるのだが、まだまだ健在。ギア・フラウィウスは動いている。
動力部を襲撃したイレギュラーズ達は迅速なる制圧を目指していた。
ザミエラが刃を繰り出し、じぇい君やAdamらも攻勢を仕掛け――
そこまでは良かったのだが、まさかこれほど堅いとは!
「ミッションクリアは目の前なんだ! 早く止まれ……ッ! くそ。また急がないとまた警備の連中が来るな……!」
「噂をすればなんとやら。気配を感じますね……それは自分が止めます!
動力部への攻撃を続けてください!!」
思わずAdamも焦るものである。動力炉は幾つか煙が挙がっているが、完全破壊にはもう少しかかりそうだ――これだけの巨体の心臓部になっているのではさもありなん、か?
しかしそれまで敵が見逃してくれなどはしない。足止め班を突き抜けてきたか、或いは他の道から来た者か……分からないが此処へと迫ってくる気配をたしかに感じていた。
故にそちらへとは梨尾は赴く。聞こえてくる足音は三つ――いや四つだろうか。
優れし耳によって感知出来ているのであれば、錨の形の火を顕現。
これにて可能な限り時間を稼ごう。
通路の角より至らんとする影に合わせて――投擲せんとすれば、その時。
「ぐぁッ!? な、なんだどこから……!!」
「あらあらごめんね♪
『皇帝』と『王者』のドリームマッチも正直見てみたいけど、今回は夢で終わって貰うわ」
「ああ――まぁ、そういう事だな」
警備の者に放たれしは銃撃。梨尾がそちらを見据えてみれば――いたのはザミエラと、彼女に説得されたゲルツであった。
「動力炉の破壊までもう少しかかりそうだし……さ、時間を稼ぎましょうか♪」
「やれやれ。人使いの荒い事だ……これからどれだけの数が来ると思っている?」
「さぁ――そのためにも貴方の力が必要だから、お願いね?」
ザミエラの言う通り、混乱を防ぐためには今この場でギア・フラウィウスを止める事が肝要かとゲルツも承諾し。さすれば彼女と共に動力炉の方へと来たのだ。後は動力炉の破壊まで一時をなんとか稼ぐのみ。
……正直ガイウスとヴェルスの戦いに興味もあるのだが。
しかしダメだ。今回はダメだ。そういう場合ではないのだから。
刃をもって闘士らと戦おう。その身を削り、ぶった切り。むしろ余波で動力炉を削れる程に――と。
「ゲルツさんの協力を戴けたのはありがたいですね――後ろはお任せしても?」
「やむを得んだろうな。だが、前は任せるぞ」
ええ無論、と。続いて紡ぐのはリセリアだ。
じぇい君の事前情報も相まって中々早期に辿り着く事が出来た……後は破壊までの時間を稼ぐのみ、と。リセリアは動力炉への通路の一角に陣取って己が刃を構える。
――眼前より至る闘士。
ゲルツの援護射撃が繰り出され、直後に彼女もまた歩みを一つ。
焦りはなく。その心は明鏡止水。
精神の揺れは刃に伝わるのであれば――是非もなし。
「奥義」
七之太刀。刀身に込められし『気』が紫電と共に。
苛烈なる稲妻を纏いて――敵を一閃。
尚にと、恐れず向かってくる闘士あらば次だ。まるで刀が揺らぐ様な、変幻の刃が彼らの眼に映れば……その身へと刃の嵐が振舞われるのは刹那の出来事であっただろうか。
「――次」
「く、くそ! 回り込め!! 数はこっちが上だ、動力炉をなんとか守るんだ!!」
刃を振るい、纏わりついた血を払えば見据える『次』
思わぬ気迫にたじろぐ者――あらば、別に他の道もある。或いは、それでもここはガイウス派の真っただ中。数をもって押し込もうと……すれば。
「ギャハハハ! そうは行くかよ、俺たちと一緒に死のうぜェ――!!」
そこへと現れたのが足止めとして奮戦していたダリウスであった。
その身は既に傷だらけ。闘士を何人も止めていればこうなるか……しかし。
「くっ! しつこい奴だ!! お前はもう終わりだぞ! これ以上抵抗しても――!」
「あぁ? なんだそりゃあ死ぬ? だからどうした? 袋小路に追い詰められたら潔く死ねってか――? 上等だボケェ! 最後に一華咲かせたろうじゃねぇか! 追い詰められた奴はァなぁ、猫だろうが虎だろうが喉笛食いちぎるんだよぉ!!」
高笑う。釣り出し、引き寄せ尚に突破を図り最後の最後まで。
生きて戻れずとも何も問題ない。どうせサクラメントから再び復帰するだけなのだから。
「あばよ。生きてたらもう一回やりあおうぜェ!!」
だが――それまでは徹する。己が役目を。己らが為の、足止めを。
幾つもの拳と刃が襲い掛かってきても最後まで。
ダリウスは己の笑みを一切合切張り付ける――その黒靄の奥底にて。
彼の全霊たる気迫に多くの者が引き寄せられている。こいつを自由にさせておくな、と。
「全く、なぁ……ま。流石にこんな敵の中枢で足止めなんてすれば遅かれ早かれこうなるわな」
そして同様にカイトも追い詰められていた。
周囲を取り囲まれればもはやどこにも行けぬ。まぁ、元より敵をねじ伏せた上で己も動力炉へ辿りつける可能性など考えてもいなかったが……全身に残る傷跡が激戦を物語っていて。
「気楽なもんだよな――後の事は破壊の為に向かった連中に任せりゃいい」
「はっはー! その程度かー!! え、私の身体に傷一つ付いてないですが! が!!
所詮肉しか食わねぇ連中なんてこんなもんか!! ベジタブルサイコ――!!」
「お前はホントに元気だよなぁ……」
一方で。途中で合流――というか鉢合わせてしまったきうりんは元気だった。少なくも精神的には。
防御を固め、芳醇なる青果の味わいによって傷を癒す彼女はとにかく戦場に立ち続けて敵を引き寄せていた。もののついでに野菜を理解しない連中に罵倒の嵐を浴びせれば、こっちに来るわ来るわ肉マニア共が。
一瞬でも目が逸れれば己が技能によって姿だけは万全の状態に戻せるので、実際無傷に見えないこともない。実際は中身すっからかんだし、ここまで取り囲まれたら次からはそうもいかないだろうが。
「くそ! 本命は動力炉の方か……オイ、こいつらを片付けて急ぐぞ!」
「ハハハ! 今更気付いても遅いよ!! 来いや、来いやッ――!!」
ともあれテンションはそのままに。動力炉へのダメージが響いて全体に衝撃が伝わる様子に――きうりん達は確信を抱いていた。
これは勝てる、と。ギア・フラウィウスは――早晩、その動きを停止させるだろう、と。
●
「――成程。ここは、ただの陽動だったか」
ガイウスが地を見据える。
傾きは自動的に修正されたようだが……その響きから全てを悟っていた。
ギア・バシリカに近づけさせぬ事が全てであったのだ、と。
……或いはこういう事はザーバであれば見破っていたかもしれない。しかしガイウスでは。上に立つものとしての経験が不足していたガイウスでは目前の出来事にのみ集中してしまった。視野が狭かったと言われても仕方ないか――
「陽動……それに間違いはありませんが、かといってねこ達が本気でなかった訳ではないですけどね」
「そうだよ。だって――ガイウスさんと戦いたかったのは本当だもん!」
ギア・バシリカより再度闘技場へと舞い戻ったねこ神さまとセララが言の葉を紡ぐ。
陽動だった。けれど嘘ではなかった。
「ボク達は死んでも諦めないからね。ボク達との戦いは武力じゃ無くて意志と根性の勝負なんだよ。ガイウスさんが諦めるまでずーっと戦い続ける! ねぇ、どうかな? さっきも言ったように皆でお話ししない? きっともっといい案があるよ!」
であればとセララは続ける。きっともうバシリカに辿り着けることはないのだと。
ならば皆で協力し合おう。大丈夫、きっと必ず出来るから。
「ピエロが悪夢を見せたなら、ボク達が違う未来を見せてあげる」
「……ほう。随分と、お節介な事だな。なぜそこまでするのだ?」
「当然だよ――だってボクらはバトル友達でしょ!」
満面の笑顔。セララは楽しかったのだ――
最強の存在と立ち会う事が。R.O.Oという電子の空間でも、きっと真実だったから。
――ガイウスの口端が緩む。まるでセララに伴って笑みが零れたように――
「成程な。だが、まだ勝負は終わっていないぞ」
されど、直後には構える。
一度始まった戦いは、ハッキリと決着が付くまで続けねば性分に合わぬとばかりに。
構えろ、イレギュラーズ。
滾らせてみろ、ここまで来たのなら。
この古代兵器が止まるなどという理由で戦いを止める理由にはなるまい――
「全く。本当にハタ迷惑だね……! 正義無き行いはやっぱり見過ごせないよ。
戦いたいのなら戦ってあげる。今、他の戦場で頑張っている人たちの為にも――
私たちは負ける訳にはいかないんだ!!」
ならばと。前に往くのはスティアだ。
打ちのめされようとも知った事か。何度倒されようと知った事か。
……古代兵器はまだ少しばかり動いている。やがて止まるだろうが、しかし。
一歩一歩動くたびに響く地響き。それが三度めの音を鳴らした時――
刃構え、参る。
立ちはだかるは彼の双腕。振るわれるその勢い――相も変わらず凄まじい。
洗練された二撃は濁流が如く、その腕の内にいる者を呑み込むものだ。
死。幾度と感じたガイウスの力量。しかし――『だからこそ』だ!
「これだよ!! これこそがチャンプさ! いや、今この世界ではまだ――か!」
Ignatは歓喜する。ああやはり――チャンプとはこうであってこそ、だ。
絶対的な強者であることにこそ彼の意義がある。
そしてだからこそ鉄帝では誰しもの羨望の的であるのだ!
「さぁ……もう暫く楽しもうか!!」
「楽しめるかは、お前次第だがな」
「勿論さ!」
動くIgnat。彼の力は勿論常に警戒しているが――尤も注意すべきはやはり。
あのフィニッシュブローか。
己が目に焼き付いたあの一閃――ッ! 受ければ即死。故に見る。
「強くなったって……見せてやるー! いつまでも簡単に倒せるなんて思うな――!」
「敵の増援が減ってきたね――動力部の混乱に人手を割いてるのかな? うん、なら……!」
そして同時。ルフランとネイコも行動する。
ルフランは死力を尽くし敵へと常に言を。さすればルフランらが負担していた敵の引き付けが若干減っている事を察知する――闘技場へと援軍に来ている数が、明らかに減っているのだ。
それは彼女の推察通り動力部の混乱が広がったため。
――であれば一太刀。ガイウスへと挟まん!
抑えがなくなった今、頂上に挑む。災厄の一撃を剣に込め。
「行くよガイウスさん……これが今の私の、全力ッ! ――勝負だよ!!」
振るう一閃。ガイウスの眼光がネイコを捉え――撃と撃が交差。
切り裂き、穿たれ一進一退。
いやガイウスの想像を絶する攻撃力が彼の優位を表しているか――?
しかし彼も無傷ではない。
一対一であればまだしも、数多の攻勢が少なからず彼に隙を作っている。
後はどこまで行けるか――この大山に。この堅牢なるラド・バウの闘士に!
「ああ。楽しいな、ガイウス殿」
さすれば紡ぐのは――ソールだ。
彼はこの一時に至高を見据えていた。あぁ、あぁなぜなら何よりも『満たされて』いるから。
――今の自分は鎧の戦士。
銘は雷神。
ソール。
ヴィングトール。
フロールリジ。
「――どれも一つの神を表す呼び名だ」
「随分と、大仰な名だ」
「ふっ。力不足だろう……と? そりゃあそうさ。
本当に神なら、君なぞこともなく雷霆で薙ぎ払うだろうさ」
それこそが全知全能。真なる神だと。
しかし。
「でもね、きっと、君は私が羨しいと思うのだよ」
決して叶わぬ敵に、血反吐吐きながら、己の全霊を賭してかかっていく――
これはね、君。
「君には絶対できない楽しみなんだよ」
「――」
「どうだい」
羨ましいだろう?
君は強者との戦いを渇望しても決して今まで出会えなかった筈だ。
ずっとずっと渇いていた筈だ。残念だね――私は今まで幾度も経験して来たよ。
そして今、今日というこの日にも。
「……そうか。それは、なによりだ」
刹那。ガイウスは、本当に一瞬――瞼を閉じて。
何を思ったか。しかし、次なる瞬間には瞳に闘志が蘇っていた。
「ガイウス・ガジェルドォ――!」
その気迫に向かっていくのは、やはりベネディクトだ。
打ち倒されようとも魂は折れぬ。腹の底より繰り出される声に衰えはなく。
彼は往く。全身全霊の気迫を――その刃に乗せて。
「例え俺一人ではその身に届かなくとも!!」
己は一人ではないのだと。
……ガイウス、お前は俺達の目の前に立ちはだかる大きな壁だ。
けれど皆でならきっとこの壁を越えられる。
――俺はそう信じてこの戦いに身を置こう!
背中になんの心配もなし。彼は黄金の魂魄を抱きて――絶大なるチャンプへと挑み続ける。
「死に戻れても無茶は禁物だね……! 一度相手と距離を取ろう!」
「とはいえ――文字通り、死ぬ気で、かつ倒す気でなければ押し込まれますか。なんとも歯がゆいですね」
さすればアレクシアの一閃が援護するように解き放たれ。
同時、Steifeが邪魔立てする闘士を乗り越えて――ガイウスを見据えるものだ。
もはや動力部の目的は達した。出鱈目じみた強さを持つガイウスと無茶を続ける必要はない、が。簡単に逃がしてもくれなさそうだ――
「……ならば、一撃を叩き込むつもりで参りましょうか」
『ならば』と狙うのは一撃必倒、雷光一閃。
心の臓が脈を外す刹那に生まれる雷雲――それだ。
あの王者に通ずるか否か。集中をもってして彼女は常にその隙を狙い――
「ふぅーはははー! ベジタブルパワー・きうりん参上! 今度はここが舞台かー!」
そうしていればきうりんも中央闘技場へと馳せ参じた。
敵を足止めしていた彼女は一度敗れ、そしてギア・バシリカより再び至ったのだ。今更動力部方面に戻っても仕方なしと――今度は闘技場にて大立ち回りをするとしよう。依然として敵を引き付けるのを主眼に。野菜の力を見せつけてやるぜー!
「……ふっ。大分騒がしくなってきたな」
ギア・フラウィウスが停止しようとしてる。
その流れをガイウスは感じつつ――同時。中央闘技場へと至る気配を感じていた。
それはきっとガイウス派の援軍だろう。
一時は動力部への混乱にそちらに人手が割かれていたようだが……もはやどうしようもないという事態になって、動力部は諦め、内部に侵入した者を打倒しようと来ているのだろう――彼らが来れば趨勢は決する。ならば、その前に。
「ああ……来るのだな、人の子よ」
フー・タオは感じた。ラド・バウで放たれ、決め手となったあの一撃が――来ると。
……夢を見ていたのはこちらも同じ、か……
「あぁ、人よ、強き人よ」
再び我を討ち果たすか。
だが、大源の模倣、夢にして影なる炎たる我が身なれど。
「そうであるが故に、更に再び火を灯し、立ち上がる事は、できる」
彼女も紡ぐ。相対する一撃を、放つために。
最期の刹那まで――立ち上がり続ける為に。
「ガイウスさん。子クマ達は、世界を救います」
直後。ハルツフィーネの言葉が響いた。
それはガイウスへと紡ぐ――宣誓の様な、言葉。
必ず我々が世界を救うと。
そして何年後か、必ず。
「世界を救った英雄達が、貴方に挑む未来を見せます」
貴方が見た夢の世界でも、この世界でも。
だから。
「だから――その時は、どうぞまた一緒に」
「……期待せずに覚えておこう」
「ええ」
それで充分です、と。
刹那。彼女はガイウスへと己が紡ぎだせる全霊を――放つ。
爪の刃。届くか、否かという至近にまで迫った、その時。
ガイウスが放つ。
自らもまた至高の全霊を――イレギュラーズへと放つように。
「古代兵器が止まったのならば、進軍はここまでだな。俺の負けだ――イレギュラーズ」
「はは、全く……言ってくれるじゃあないか」
全てをねじ伏せる一撃を放ちながら、よく言ったものだと。
Ignatは笑うように、或いは満足する様な笑みをその口端から零して。
破壊の渦に飲み込まれた。
ただし、宣言通りその拳を常に前へと突き出しながら、だ。
例え万回負けようとも。いずれ、いずれ――と。
――ギア・フラウィウス。進軍途上で停止。
ゼシュテリオンの本拠地であるギア・バシリカがその結果を確認するのに――時間は要らなかった。
成否
成功
MVP
状態異常
あとがき
依頼、お疲れさまでしたイレギュラーズ。
再びのガイウスとの戦い。
ヴェルスらと戦おうという彼の渇望は満たされず――しかし、イレギュラーズとの死闘は決して不満足というものではなかったようです。
グランドウォークライも佳境ですね。ご参加有難うございました。
GMコメント
●依頼達成条件
ガイウス・ガジェルドの撃破。
もしくは、ギア・フラウィウス動力部の破壊。
●シチュエーション
ギア・バシリカに接近中のガイウス派の拠点ギア・フラウィウス――
このままではギア・バシリカに衝突する勢いです。皆さんには止めてもらいます。
一番いい手段は動力部の破壊でしょう。施設内のどこかに存在する動力部へと至り破壊活動を行ってください。もしくはガイウス・ガジェルドを全力で撃破してもいいかもしれません。
<フルメタルバトルロア>最強闘士に参加された方で、ガイウス派に勧誘を受けた方はガイウス派として内部に最初から潜り込む事も出来ます。(必ずしもそうしなければならない、という訳ではありません)
そうでない方、もしくはフラウィウス内で死亡してしまった方はギア・バシリカに存在するサクラメントからエクスギアをもってして射出され――後述の中央闘技場に移動することが出来ます。(何度でも可能です)
中央闘技場にはガイウスが存在します。ご武運を。
●フィールド
・ギア・フラウィウス中央闘技場
ギア・フラウィウスとは簡単に言うと少し小型のギア・バシリカです。
大きな違いは中央部には開けた闘技場の様な場がある事でしょうか――中央闘技場と呼称されし此処にガイウスがいます。ガイウス以外にもいくらかの闘士がいるようですが……
・動力部(並びに動力部に続く道)
ギア・フラウィウスには動力部が存在している様です――
心臓部とも言えるその場所には当然というべきか警護の者達がいます。
この動力部を破壊することが出来れば、ギア・フラウィウスは停止するでしょう。
その動力部までの道筋は、ガイウス派の出資者と接する事が出来たじぇい君(p3x001103)により大まかにですが把握できています。警護の者らの眼を非戦スキルなどで突破するか、或いは強引に突破するか――
いずれにせよなんとか動力部の破壊を成してくださいッ――!
●ガイウス・ガジェルド
R.O.OのNPCにして鋼鉄の国のA級闘士です。
しかしその実力は既に隔絶しており、歴代最強と既に謳われています――
中央闘技場に座しており、ギア・バシリカへの到着を今か今かと待っている様です。
彼を攻撃する事によって、ガイウス派閥の眼を彼の守護に向けさせる事が出来るでしょう。また、彼自身も戦闘が激しければ激しい程『他』の目的があるとは思わないかもしれません。
ただし繰り返しますが彼は相当強いです。ご注意を!
●ゲルツ・ゲブラー
ラド・バウB級闘士の一人です。フラウィウス内の動力部に続く道の途中にいます。
彼は熱心なガイウス派――という訳ではなく、彼自身はガイウス派が必要以上の暴走をしないように。或いは闇に落ちたりするものがいないか見張っている、という精神が強いようです。場合によってはイレギュラーズに協力してくれるかも……?
●ラド・バウ闘士
ガイウス派の者達です。ラド・バウのA級以下の闘士で構成されています。
全体的に数はそんなに多くありませんが、ラド・バウでの戦闘経験が多いからか個人ごとの戦闘能力は高いです。反面、例えばザーバ配下の軍人などではないので連携まで上手いわけではないとか。
ギア・フラウィウスのあちこちにいます。
外からもある程度攻撃を受けている様でその対処に回っている者もいるとか……そのため、フラウィウス内の全てを相手取る必要はないでしょう。
・黒鉄十字柩(エクスギア)
戦士をただちに戦場へと送り出す高機動棺型出撃装置です。
ギアバジリカから発射され、ジェットの推進力で敵地へと突入。十字架形態をとり敵地の地面へ突き刺さります。
棺の中は聖なる結界で守られており、勢いと揺れはともかく戦場へ安全に到達することができます。
・移動要塞ギアバジリカ
クラースナヤ・ズヴェズダーによって発見、改造された古代の要塞です。
巨大な聖堂が無数に組み合わさった外見をしており、折りたたまれた複数の脚を使った移動を可能としています。
※重要な備考『デスカウント』
R.O.Oシナリオにおいては『死亡』判定が容易に行われます。
『死亡』した場合もキャラクターはロストせず、アバターのステータスシートに『デスカウント』が追加される形となります。
現時点においてアバターではないキャラクターに影響はありません。
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