シナリオ詳細
<モスカ漫遊記>混沌へ踏み出す者
オープニング
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静寂の青――嘗て、絶望と呼ばれたその海をコン=モスカは信仰の対象としていた。
彼女たちが注目の的となったのはイレギュラーズが参加した海洋王国大号令がきっかけであった。
絶望へと漕ぎ出すその場所を望む小島を自身らの領地とするコン=モスカの独自の信仰は海へと進む者に加護を与えるらしい。
イザベラ・パニ・アイス女王とソルベ・ジェラート・コンテュール卿の助言を受け、彼女等の加護を頂き飛び出した海では『死兆』の呪いが待ち受けていた。
其れ等を打破すべく『呪い』には『まじない』で対抗を。
祭司長クレマァダ=コン=モスカ (p3p008547)の助力も叶い、廃滅病の進行を幾分か遅らせることが出来た。
海洋王国についての冒険譚は『時代遡行装置アーカーシャ』でも垣間見ることが出来るだろう。
彼女と、その『双子(かたわれ)』の英雄譚――是非に見て、感じてやって欲しい。
……さて置き、クレマァダはこう考えた。
リヴァイアサンを打倒した。豊穣郷カムイグラとの交易も始まり地力を整え始めた海洋王国。
色々なものを得ただろう。様々な夢の果てにも辿り着いた。
無くしたものもあっただろう。それが冒険というものだと言われてしまえばそうだが――
特異運命座標(しゅじんこう)は嵐のように物語を築き上げた。
彼等が巻き起こした風が残したその後の地は、その後の世界はどの様に変化しただろうか。
日々、忙しなく動き回る特異運命座標(かれら)の残したその後を、その目で見てみたい。
「――と考えた。まあ、お主にこの世界を知ってもらいたいだけ、とも言う」
「恐縮です」
フェルディン・T・レオンハート (p3p000215)が肩を竦めればクレマァダは「責務であろう」とそっぽを向いた。
「ええ、そうね。イレギュラーズは日々、沢山召喚されているもの。
学びは力になるわ。それに、その間に経験を積めば、何時訪れるか分からない決戦にだって備えられる」
そう微笑んだイーリン・ジョーンズ (p3p000854)に「流石はイーちゃんじゃの」とクレマァダは頷いた。
――と、言うわけで『クレマァダ祭司長による混沌世界世直し道中』のはじまりはじまり……。騎兵隊イーちゃんとフェルを添えて。
●
コン=モスカ領。
海洋王国の辺境に地するその場所はクレマァダの『故郷』であり『実家』である。
「さて、混沌大陸については流石のお主も…分かっておるな?
これより、イレギュラーズの足取りを追って様々な場所を冒険してみようと思うのじゃ。その始点がここ、コン=モスカ!」
頷いたフェルディンに自慢げなクレマァダ。
「クレマァダの家じゃない」
イーリンの呟きにクレマァダはう、と息を飲んだ。フェルディンは小さく笑う。
イレギュラーズにとってはお馴染みになってきたコン=モスカの祭壇を背に、クレマァダは作戦会議。
コン=モスカから出立の準備を整えなくてはならないのだ。
だが――
「お話中失礼します、祭司長。実は……」
「な、何ィ~~~!?」
驚愕のクレマァダ=コン=モスカ。イレギュラーズになってから表情豊かになりました。
「どうしたの!?」
「ま、まさか何か問題が……」
イーリンとフェルディンが構える。クレマァダは「実はの……豊穣とコン=モスカで交易を行っておるのじゃ」と前置きした。
「その船を襲う不届き者が居るらしい。積み荷は我らコン=モスカの加護を齎した水神の宝玉じゃ。
豊穣郷カムイグラの船が沈まぬようにと我らは祈祷をし……そ、それを略奪し販売している輩が居る――!?」
憤慨するクレマァダ。
コン=モスカの加護は死兆の際に廃滅病の進行を遅らせるために大いに貢献した代物だ。
其れがなければ、命を落したイレギュラーズも居たのではないかとさえ言われている。
「我らの冒険開始を祝したバーベキューは後じゃ! 至急、船を襲う賊を倒しに往くぞ!」
――祭司長は激怒した。イーリンとフェルディンは顔を見合わせて「OK」「分かりました」とだけ返したのだった。
「お主らの企み、そこまでじゃ!」
びしりと指さしたクレマァダを護る様にフェルディンとイーリンが一歩踏み出した。
「控えろ! この方を誰と心得る!」
「先のコン=モスカ祭司長、クレマァダ=コン=モスカ様であらせあられるわよ!」
先の、と言う言葉にクレマァダがぱちりと瞬いた。
「我まだ辞めてないんじゃが……? あ、逃げた!」
――兎も角悪人を見つけたら倒さなくてはならない。
そうそう、それが『イレギュラーズ』の責務なのですから!
- <モスカ漫遊記>混沌へ踏み出す者完了
- GM名夏あかね
- 種別リクエスト
- 難易度-
- 冒険終了日時2021年09月11日 22時05分
- 参加人数8/8人
- 相談8日
- 参加費150RC
参加者 : 8 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(8人)
リプレイ
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混沌(せかい)は広い。
幼き頃から眺めた絶望に、その大海に希望を孕んだ眸を向けた『海淵の祭司』クレマァダ=コン=モスカ(p3p008547)の思う以上に広く、そして、美しい。綺麗な顔ばかりを見せてくれるわけではない、様々な表情を持ったこの愛おしい世界を旅したい。そして、見識を広げ、諸国を廻るその一歩――
「ふふふ、諸国を巡る世直し道中にお招きいただけるとは……光栄の至りだね、これは」
バタバタと旅支度を調えて『不届き者』を捉えよと声高に叫んだクレマァダを眺めながら『放浪の騎士』フェルディン・T・レオンハート(p3p000215)は小さく笑みを噛み砕いた。
「いつもより何故だか楽しそうなクレマァダさんが見れるのは、ボクも嬉しい。しっかりと、お護りしなければね」
何時ものより楽しそうなクレマァダ、と。その呼び方にふっと噴き出したのは『男でもいいですか?』プラック・クラケーン(p3p006804)。海洋王国に棲まう以上、コン=モスカの偉大さは知っていた。そして、モスカ姉妹の事も知っているが――こうも慌てに慌てていれば親しみやすく愉快そのもの。
「諸国漫遊、いいねぇ。世界を識るのは楽しい事だと思うぜ。俺もイレギュラーズになった時にやったわ」
「クレマァダさん、旅に出るんだね、うん、いいと思う。廃滅病の件では俺もお世話になったよ。
今こうしていられるのは、コン=モスカの加護のおかげだね。恩返しも兼ねてこの記念すべき一歩を祝おうじゃないか」
穏やかに微笑んだ『若木』秋宮・史之(p3p002233)に「うーん」と首を捻ったのは『光鱗の姫』イリス・アトラクトス(p3p000883)。確かに記念すべき一歩……その一歩目であるのだが。
「大事な門出と聞いて来ては見たけどタイミングが良いのか悪いのか。廃滅病に関しても大変お世話になったし、すぐに取り戻しましょうか」
折角の『一歩』なのだからねと頷き合った一行の様子を眺めていた『あなたの世界』八田 悠(p3p000687)はこてりと首を傾げて。
「なんかこう、ご隠居様の世直しって見覚えがあるんだよねえ。いやまあ、クレマァダさんを老人扱いしてるわけではないんだけど。
僕も静寂の青に住んでるし、こういう治安維持活動には積極的に協力しないとね。
まあ住所はど辺境の海底だから、遠すぎて無関係に近いけど! ――僕の領地『悠久の澱』をよろしくね!」
「何時か参ろうぞ!」
クレマァダの良い返事に悠は朗らかに笑みを浮かべて頷いた。早速とは言った調子だが、彼女の『世直し』のはじまりはじまりなのである。
そう、共に見識を広めて混沌世直しに往くぞと意気込んだクレマァダ=コン=モスカの一歩目を挫くように現われた不届き者がBBQを楽しむ間もなく悪行を働いているのである。
『天才になれなかった女』イーリン・ジョーンズ(p3p000854)は仲間達が戦闘準備を整える様子を一瞥してから思い返す。
「お話中失礼します、祭司長。実は……」
「な、何ィ~~~!?」
……何度でも思い出したいクレマァダ=コン=モスカ。イレギュラーズになる前はつんけんしていたのに、どうしてこんな可愛らしく。
「いやぁ、クレマァダが旅をしようなんて。成長したものだわ……。
ええ、見聞を広め、旅の中で感じるものが、この子にとっての新たな標になりますように――」
そんなことを思って居た者だから、イーリンも格好付かなかった。じわじわと面白さばかりが滲み出す。
「ンッフ、にしても『な、何ィ~~~!?』ですって! くふふ!
いや、その、くっふふふ。ちょ、ちょっとまって。モスカのちりめん問屋のアレで……」
「ええいくそ、笑うでないわたわけが!! 良いかお主ら、この際だから言っておくがここはモスカじゃ!! いつものようにタワケた態度を取ろうものなら……最後まで聞かんかおのれら!!!」
ふんすと憤慨するクレマァダに『Enigma』エマ・ウィートラント(p3p005065)は「どこのちりめん問屋でごぜーますかね?」と微笑んだ。
「わっちの役どころ? それはもちろん、いつものようにクレマァダ様肉をちょうだいしようとしたら、何故か牢屋に入れられた町人の役でごぜーます。無実の罪で牢屋行きとか。コン=モスカ領は大丈夫でありんすかね?」
「しておらんだろう、たわけーー!」
叫ぶ祭司長にプラックは「ポジションが必要なのか?」と問うた。
「私は……、モス光圀で言うと何だろう? 脱ぐ人はいるし……ポジション的にその回のゲストで出てきた何か!!」
「じゃあ、俺もそうしようかな」
ノリの言い海洋組なのである。イリスと史之がさらりとゲストキャラになる一方で悠は「もう脱いでたね?」と首を傾いで。
相棒役はフェルディンとイーリンなのだと確認してからプラックは大きく頷いた。折角だから、この役割。
「なるほど……んじゃ、そうだな。さしずめ俺は風車の……って所で、よろしく」
「な、何がじゃ!?」
大騒ぎのご隠居――我まだ辞めてないんじゃよ! と祭司長はお怒りなのである――を見るだけでイーリンは腹を抱えて笑い出す。
「あっはっは! 始めましょう! 私がそれを望むから!」
●
置いておくだけでお役に立ちます便利な八田 悠は如何でしょうか。そんな英雄を鼓舞する彼女は自身の周囲の仲間を讃え、鼓舞することに適している。
そんな冗談はさておいて『悠久の澱』に影響が及ばぬとは言い切れない。ふわ、と姿を見せた悠は「あれかな?」とクレマァダに問い掛けた。
「うむ! アレが不届き者なのじゃ!」
憤慨するご隠居マァダ。まあまあと宥める悠は「まあわざわざ海を血で汚すつもりもないし、イイ感じに加減できればいいかなあ」と首を傾いだ。
「あとはご隠居マァダ氏の魅せ場を演出できれば上々かな?」
「我の?」
「ええ、そうね。ンフッ……ふふ……ええ、ご隠居クレマァダのね……ッ、ふ……」
「わ、笑うでないわー!」
透視で船内を伺っていたイーリンは未だに腹を抱えていた。『何ィーッ!』なマァダちゃん可愛いじゃないですか……。
ぷんすこするクレマァダにエマがくすくすと笑みを零して――
「宝玉を狙う不届き者とは。すぐに足がついてしまいそうでありんすが……それは置いといて、むざむざ渡すわけにもいかないので、さっさと片付けてしまいんしょう。ほら、あちらに」
エマが指さす先に気付いて、クレマァダが勢いよく飛び出した。「あ!」と手を伸ばしたイーリンにプラックは「仕方ない仕方ない」と頷いた。
彼は忍者よろしく裏方に徹し情報収集を先んじて行っていた。敵の数も、侵入経路も把握済み。その情報をエマへと連携した後だったのだ。
「お主らの企み、そこまでじゃ! と、言うわけで勇ましく出たは良いが、これは静かに奇襲するべきだったのでは? ……お主ら、ここは任せた! 仕切り直し!」
ずばーんと現われて海の中へと飛び込んだモス光圀にイーリンの腹筋は崩壊した。
「くっくっ……」
「任されてしまいましたが……控えろ! この方を誰と心得る!」
「先のコン=モスカ祭司長、クレマァダ=コン=モスカ様であらせあられるわよ! フッ――ブフッ……」
笑い続けるイーリンに「笑うではないわー!」とでも言うように船をぐんぐん揺らすクレマァダ。
「門出をわざわざ血で汚す必要はないでしょ、運が良かったわねあなた達? ああ、物もコトも隠さないほうが身のためよ?」
そう告げるイーリンにそれもそうかと納得する祭司長は割と素直なタチなのだ。
「くそ、舐めやがって――!」
賊の言う事は尤もだと感じたイリスなのだった。とんちき登場を決め込んだモス光圀ご一行。
先ずは襲い掛かってきた相手を素手でお相手して「ぐわっ……何っ!?」とかなんとか――そんな風に学んできたフェルディンは徒手空拳にはまだまだ疎いのだとゆっくりと歩み出る。
「我こそは放浪の騎士――いや、今はモスカの騎士、フェルディン・レオンハート。少し懲らしめてあげるから、かかっておいで」
堂々と剣を構えたフェルデン――否、カクサン。スケとカクとか取り敢えずポジションを与えられたのだからそれに徹するしかないか。
「隠居マァダ氏が殺さないって言うならその気は無いよ」
英雄達を支える悠の声音が響く。男はくそ、と呻いた。後方のバッファーを狙うには先ずは前線を崩さねばならないと俗ながらに考えたか。
「ッ、アッチの優男からいくぞ!」
「タンクってほどじゃないけど、俺もそこそこ固いほうだから、見くびらないでね」
地を蹴った史之が一気に間合いへと飛び込んだ。踏み込めば、全身全霊で吐き出す喝が男の体を吹き飛ばした。
驚愕に目を見開いた男の至近へと飛び込んでイリスが小さく笑う。
「思うに、5人でコン=モスカの船襲撃なんてやらかすのは余程自分たちの実力に自信があるか、ただのおバカかでしょ。
リスクマネジメントという言葉をお母様のお腹の中に忘れてきたのかしらぁ?」
くすくすと笑ったイリスはゲストキャラっぽい雰囲気でにんまりと笑みを零した。煽り倒している彼女のやる気も十分だ。
「クレマァダ様の沙汰がない限り、無闇に殺したりはいたしんせんが痛い目にあわせるのは……良いのでごぜーましょ?」
「良いと思うわ。おバカだもの。ねぇ?」
エマににい、と笑ったイリス。エマは自信はか弱い一般人だから戦えないと言うように手をひらひらさせながら『隠し事』を探し回っていた。
それはプラックも同じくである。忍者っぽいことをし余罪を摘発する。屹度、交易船から奪ったお宝がごろごろと出てくるはずである。
「うん、忍者ってこれで良いんだよな? あ、殺陣にBGM要る? お約束的に」
――ふんぐるい むぐるうなふ ふたぐん 夢見るままに。
歌うクレマァダはどうにもモンスターばかりを相手にしていた。ざばりと海から顔を出した彼女を一瞥してからフェルデンは叫んだ。
「頭が高い、控えおろーう!」
テイク2である。プラックは取り敢えずBGMを用意しようかと思案し、イーリンがその動作に噴き出した。
史之とイリスはさっさと倒してBBQに向かおうとやる気を漲らせる。
「控えろ! この方を誰と心得る!」
「コン=モスカ祭司長、クレマァダ=コン=モスカ様であらせあられるわよ!」
先の、が抜けただけでどうにも納得したクレマァダはどどんと胸を張った。
「先に申しておくが、我はモンスターと戦う機会が多かった。故に我の攻撃は少々大雑把らしいと最近気付いたのじゃ。だから……何じゃ。死ぬなよ。
萎びた昆布の方がましじゃと言えども人命は人命じゃ……そのぅ……我、先に言ったぞ?」
そんな自身のなさげな祭司長に悠は「投降した方が良さそうだよ?」と犯行グループへと首を傾げるのだった。
――結果として、モス光圀の活躍によって宝玉は無事であった。交易船から奪われたのだろう品々も元の場所に戻すことが出来た。
つまり、『はじめての世直し』の成功なのである。……登場シーンだけ少し失敗したが、それはそれでご愛嬌だ。
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「やっふぁひほんふぁのあひはひはふはへ(やっぱり、本場の味は違うわね)」
もぐもぐと海鮮を食べ続けるイーリンに「ウチの近くでとれたエビもどう?」とイリスは微笑んだ。BBQが本番なのだと彼女はわくわくと笑みを零して。
シンプルに焼くだけでも美味しいと史之はほうと息を吐いた。折角ならばとノンアルコールのドリンクを振る舞って。
「みんな祭司長がほんとに大切なんだね。その思い、ちゃんと覚えておくから」
そう微笑むだけでモスカの侍従達も恥ずかしそうに頷いた。カタラァナがここに居たならば「そうだよ、おねえちゃんは僕(クレマァダ)が大好きなんだ」と揶揄うだろうか。
近くの市場で良い魚介を買ってきたのだと微笑んだプラックは顔利きもあって、様々な食材を手にしていた。
海老にホタテ、蛸にイカ、鮭とバターも忘れずに。焼物の管理は任せてくれと胸を張ったプラックは何処までも楽しげで。
「ハイハイ、コレ欲しいのな、りょーかい。
しかし、秋宮さんの野菜や肉もうめーな。イリスさんやフェルデンさんも欲しいの有るか? ほら、どんどん食えよー」
取り分けるプラックにイリスは「有難う」と微笑んだ。ノンアルコールカクテルのお陰で箸も止らず具材は追加され続ける。
「どんどん食材を焼きんしょう。もちろんクレマァダ様肉も忘れずに。本当はただのオルカのお肉なんでごぜーますけどね……そんな事はもちろん秘密でありんす」
「む?」
「いいえ」
にんまりと微笑んで居たエマはふと、ハープを携える悠に気付く。よければ、自身もと三味線を用意すれば「異色の取り合わせ。けれどいいかもね?」と彼女は目を伏せてからゆっくりと浮上がる。
「モスカ童謡歌います。この前考えたやつだよ、あわよくば流行らせようと思っているよ」
そう笑った悠はハープを掻き鳴らす。演奏を行う彼女はともに、と手招くように口を開いた。
その声音は静寂の海にも似合う。響き、そして消えゆく『彼女』を謳う唄。故に『彼女』が謳うわけには行かず、この場には別に『彼女』の歌が響いてる。
海のいるかは 何見て歌う 波見てふわり 泡立てぷかり 明日へひとり 昨日はふたり
海のいるかは 今日もどこかで 波間に歌う――
そんな想いを込めた彼女の歌声に「面映い」と呟いたクレマァダはそっぽを向いて。そんな顔を見てフェルディンは小さく笑った。
謳う悠の為に料理を取り置いておく史之の気遣いは心優しい。
イーリンはやんややんやとその童謡に拍手をしてメモをした。
「この歌が帰ってくるときにはどうなってるか、楽しみね?」
――今は亡き神々と、我が名において。どうか良い旅路を。
饗宴に響いた歓声に、彼女を謳った童謡に。耳を傾けていたフェルディンはふと、グラスを手にして口を開いたクレマァダを一瞥する。
「大号令は終わった。お主らイレギュラーズの力添えもあって。
そうして今のこの海は穏やかで……そう、国是とも言うべき目的もなく、凪のような日々じゃ。
平和、ではある。しかし、それは国としては衰退を意味する。カムイグラとの交流は、それを打開する一手であると期待しておるのじゃ」
クレマァダ=コン=モスカはこの国を愛している。それはモスカの娘であるからという責務もあったのだろう。
少なくとも『祭司長でしかなかった』クレマァダ=コン=モスカはそうだった。海洋王国とモスカの為にあった。そうして生きてきたのだ。
だからこそ、沢山の国を知りたい。気心の知れた仲間を増やして『かたわれ』の見てきた世界をその双眸に映すため。
「……お主らは、どう思う? この国が、好きか?」
彼女の声音は、静かに響いた。
気付けば悠の唄も止っていた。眼前に広がる一面の蒼に、打ち寄せる潮騒に。静寂が似合うこの場所に。
「ボクは、とても好きですよ。そして、きっとこれから、もっともっと好きになる――でしょう?」
フェルディンは自分が出来る力添えは惜しまないと微笑んだ。
「まぁ、そうねぇ……好きじゃなかったら実家には帰ってなかったと思うし。
大号令に関してはカムイグラに到達した事でゴールを見たけれど。
それ以前に私個人としてはあの海域の先だけじゃなくて、もっと色々な未知が見たいと思っていたし、今もそう。
――……だから私にとってあの冒険は、帰る場所があって、それでもどこまでも進んで行ける事を、認めたというか」
イリスはそっと手を伸ばした。遥か海を掴むようにぐ、と拳を作る。あの海が、どこまでも心を揺さぶって仕方が無いのだ。
「それにしても海洋はおおらかでとてもいい国でごぜーますね。お気に入りの国でありんす。
放浪の身でなければ住んでも良いと思う程度には、ね? くふ、くふふ、くふふふ」
エマが揶揄うように笑えば、「良い国だよね?」と何故か胸を張った史之。彼の敬愛する女王の治める国なのだからという意味なのだろうか。
「ん、この国が好きか? 俺は……言うまでも無ぇけど……かかっ、大好きだよ」
面食らった顔をしたプラックは頬を掻いた。父を喪った広き海。それでも、この海のことは嫌いになれない。
あの絶望に一番近い場所で。あの冒険と歌声に一番近い場所で。
喪った者は多けれど。それでも、希望に向かって進んでいくこの国の航海はまだ続いているのだろうから。
イーリンは彼女の目を見て微笑んだ。そのかんばせは同じであって、違うもの。
違いを知る度に、何かを喪って、何かを得た。それでも、嫌いになれなかった、愛おしかった、モスカの娘。
その船出が、その航海が幸あるものであるように。『いーちゃん』は微笑んだ。
「ええ、この国は貴方を育んだから、好き」
――いあ ろぅれっと。
あなたの声と共に、この場所から旅立とう。明日へひとり。昨日はふたり。それから先は、どうだろう?
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
おつかれさまでした。
素敵な仲間に恵まれて、童謡まで作って貰って、
マァダちゃんが立派にご隠居になって……(?)ママ、嬉しいです。
これから皆さんが向かう旅に幸がありますように。
GMコメント
オトモのイーさんフェルさん二人連れて、クレマァダちゃんの混沌大冒険。
イレギュラーズになりたてのお友達も、歴戦のイレギュラーズも誘って皆で楽しく混沌を見て回りましょう。
●成功条件
・『不届き者』の拿捕
・海の幸バーベキューを楽しむ
●コン=モスカ
海洋王国、静寂の青(元・絶望の青)の淵に存在する小島からなる領地です。コン=モスカは特異な信仰が存在しており、絶望の青攻略の際には大いに貢献してくれました。
廃滅病と呼ばれた死を齎す恐ろしき災いの進行を食い止めたコン=モスカの加護は今は、豊穣(カムイグラ)と海洋王国の船の無事を祈る加護を齎しているそうです。
基本的には青い海! 白い雲! それから、コン=モスカの船! を考えて下さい。
●『不届き者』 5名
コン=モスカの船を襲って加護が齎される宝玉を略奪している不届き者達です。
彼等はコン=モスカ島の端に船を停泊させ、作戦会議を行っているようです。
容易に辿り着けます。前衛が2名、回復役が1名とタンク1名、BSが得意そうなちょっとイヤらしいヤツが1名です。
●海の幸バーベキュー
クレマァダさんがわくわくしていた冒険の旅の決起会用バーベキュー。
海洋王国産の海の幸を楽しめますし、お肉もあります。一応、海水浴も出来ます。静寂の青ですが。
料理の持ち込みや食材の持ち込みも可能。バーベキューの準備はコン=モスカの皆さんが祭司長のために行ってくれたようです。
不届き者を倒してバーベキューをして、広い混沌に思いを馳せて。
時には絶望へと思い馳せるのも悪くはないでしょう。カタラァナさんが生きていたら「楽しい」と歌い出してしまいそうな、賊さえ居なければ……夢見る儘に歌ってしまいそうな、そんな穏やかな日です。
●情報精度
このシナリオの情報精度はAです。
想定外の事態は絶対に起こりません。
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