シナリオ詳細
<フルメタルバトルロア>最強闘士
オープニング
●
ガイウス・ガジェルドは歴代最強と言われている闘士である。
かの人物にはある一つの伝説がある。
あまりにも強すぎたが故の――ラド・バウの『ルール』を変えた逸話が。
●
『か、勝った――!! ガイウス闘士、本日もまた相手を瞬殺――!!
彼に勝てる人物はいるのか――!!?』
地を。大気を震わせる程の歓声が鉄帝……
いや、R.O.Oにおける『鋼鉄』のラド・バウに響き渡っている。
観客席。そこにいる彼らは足を踏み鳴らし勝利を称え、腹の奥底から声を絞り上げ咆哮しているのだ――かの国の民は武を称え、武こそを至上とする。なればこそその武が衝突しあうこの大闘技場の熱はさもありなん、と言った所だろう。
そして彼らの注目は一人の闘士に注がれている。
それがガイウス・ガジェルド。
数多の対戦相手を瞬殺して見る見るうちに頂点へと天を伸ばさんとしている男だ。現実の彼は既に頂点の座にあり、歴代最強のスーパーチャンプとすら呼ばれているが……R.O.Oの世界『ネクスト』においてはその途上である。
彼の今の地位はA級闘士。
恐らくS級に上がるのもそう遠い話ではないだろう――というのは誰しもが思っている事である。
――彼は最強の男だ。
――彼に勝てる奴なんているのか?
連日そんな話がどこでも。
武に傾倒する民は『最強』の話にどこまでも興味が尽きないのだ――故にこそ。
「でもガイウスじゃあねぇんだよな。皇帝を殺したのは」
もう一つの『最強』の話に繋がる事も多々あった。
――少し前まで鋼鉄最強であったとされる前皇帝ブランドは何者かに暗殺された。誰なのかが分からないという点で暗殺という言葉が用いられているが――されど毒などを用いられた訳ではない――恐らく真正面から打ち破った者が、世界のどこかにいる。
それは一体誰なのか。ヴェルスか、ザーバか、それとも他の強者か……?
が。その中にガイウスの名前は挙がっていなかった。
何故ならば前皇帝が暗殺されたと思わしき時間にガイウスはラド・バウに出場していたからだ――ヴェルスらと異なり明確なアリバイがあり、少なくとも『彼ではないだろう』という話で纏まっている。
……それをある意味残念がる者もいた、が。
当のガイウスはなんの意に介する事もなくラド・バウに出場し続けていた。
ラド・バウの外を、己の外を取り巻く政治情勢など――興味すらないように、だ。
そう――今日、この日までは。
「た、大変だ――!! ガ、ガガガ、ガイウスが……!!」
観客席。一人の男が息も絶え絶えながら、つい先ほど聞いたビッグニュースを知り合いへと伝えるものだ。その驚愕たる話は瞬く間に波及し、ざわめきと、そして先程とは違う歓声の色が――場を支配する。
そのニュースとはガイウスの事。
――彼が皇帝騒動に名乗りを上げるという話であった。
●
「ガイウス・ガジェルドが軍閥――?
おいおい一番似合わねぇ奴が一番似合わねぇ事をし始めたもんだな!」
その報告を受け取ったのは起動要塞ギア・バシリカにいるヴェルス・ヴェルグ・ヴェンゲルスだ。彼は皇帝を倒しうる実力と――そしてガイウスと異なりその機会があった人物として有力視されてしまっている。まぁ機会があったと言っても実際は『アリバイが無かった』という程度の意味なのだが。
しかし困った事に最強の座を目指す輩共から何度も襲撃を受け……やがて不本意ながらこの起動要塞ギア・バシリカを拠点とする己が軍閥『ゼシュテリウス』を結成した訳だ。それは彼単独の力ではなく、鋼鉄に存在するクラースナヤ・ズヴェズダーの協力もあったのだが――その辺りの仔細は省こう。
とにかく重要なのは、ヴェルスはヴァルフォロメイ(クラースナヤ・ズヴェズダーの代表者)と共にこの事態に対応しうる軍閥を築いたという事。
そして――その軍閥に敵対する新たな派閥が形成されようとしており、その中心人物と目されているのが――ラド・バウの闘士ガイウスであるという事。
「どういう了見なんだ? ザーバ……の奴はまだしも、ガイウスは一番『らしくねぇ』だろ」
「さて――しかしどうやらガイウス・ガジェルドは賛同するラド・バウの闘士を中心に集団を形成している様子……数は多くないが、今までの『我関せず』という態度とは些か異なる様に見受けられるな」
補足するように説明を重ねたのは、クラースナヤ・ズヴェズダーの幹部ダニイールだ。
彼の調べた所によるとガイウスが形成している集団はラド・バウの主にA級以下闘士が中心。S級はビッツ・ビネガーなども含めほとんど参画していないようである――実力はあれどガイウスがA級という事に起因しているのだろうか?
ともあれこの話が事実であるのならばヴェルス達としては見過ごせなかった。
ラド・バウはいずれも力自慢達が集っている場所だ――そこの者達が徒党を組み、名乗りを挙げてくるなど……下手をすれば一大勢力となってもおかしくない。ただでさえ各地で軍閥が形成され混迷している鋼鉄の状況下で新たな勢力が結成されるなど冗談ではなく。
「だけどよ、確実な事を聞いておきてぇな。
『本当の本当』にガイウスは軍閥を作ろうとしてんのか?」
――しかしヴェルスは念の為にともう一度だけ確認しておきたかった。
ガイウスという男は戦い以外の事に興味を示す様な者だったか?
皇帝への地位や野望など全く持ち合わせていない男ではなかったか?
圧倒的な実力から、彼のファンからは期待されていた節もあろうが……
彼の思惑ははたして何処にあるのか。
「その辺り、突っついておきてぇよなぁ」
「しかしガイウス・ガジェルドへの接触は藪蛇になる可能性も」
「かといってこっちも座して待ったままって訳にも行くまいよ」
だからと、ヴェルスは顎に手を当て思案に耽るものだ。
ガイウスと――もしも接触するならどうするか。己が行くのは駄目だ。もしもそこで戦闘にでもなってしまえばゼシュテリオンとガイウス派の抗争は確定してしまう。だから、己以外で信頼のおける者を彼の所へ送り込むのがきっと一番いいだろう、が……
仮に行くとして。ガイウスが確実にいるであろう場所はきっとラド・バウだ。
「……ラド・バウに闘士として介入させれば話す機会もあるかもしれねぇけど『やばい』よな、マジで」
「――何か問題でも?」
「ああ。多分。マジで。殺されるぞ」
頭を掻くヴェルス――に言葉を紡いだのはゼロ(p3x001117)だ。
ガイウスの強さ。あぁ、実際の混沌世界の鉄帝においてガイウスはスーパーチャンプとして位置づけられ、彼に挑む事には特殊な条件として『最低限、彼を相手にしても死なないで済みそうな達人』に限られている。
それは一体どういう事なのかと言えば。
そういう風に『ルール改正される程に』再起不能者を彼は出してきたのだ。
場合によっては死者も出た。あまりに強く、あまりに隔絶していたから。
――この特定個人をルール対象にするという前代未聞の改正により、まぁ再起不能者の数は減った訳であるが。しかしこのR.O.Oの世界において彼は現役の闘士だ。
『再起不能者達を次々と出していた』その時代である。
その彼の前に――往くという事は――
「しかしボク達なら問題ないでしょう」
「ああ――死んでもまた戻ってこれるからね」
だが、と。ゼロに続いてIgnat(p3x002377)もまた声を紡ぐ。
殺される。それが一体どうしたというのか。
強さは承知の上だ――しかしR.O.Oの外からログインしているイレギュラーズ達はサクラメントを経由して再び戻ってくることが出来る。この世界のガイウスもまた幾ら強かろうと、そういう要素を含めればやりようはあるものだ。
「ガイウスが本当に軍閥を作るつもりなのか……真意を問うてくればいいんだろう?」
「ああ――マジで皇帝になりたいのか、それとも何か別の目的があるのか。
行ってくれるならラド・バウ参戦の理由はこっちに任せておいてくれよ。
ラド・バウには招待試合とかいう制度もあるし――なぁ?」
「はっはっは! こっちを見てくるという事は、根回しは何とかしろという事か!」
まぁやるだけやってみるとするか! と言うのはヴァルフォロメイだ。大司教という立場を持つ彼であれば、なんとかどうにかラド・バウ内の知り合いとかあーだこーだして表向きの試合を組めるのでは、とヴェルスがぶん投げつつヴァルフォロメイは大笑い。
「だがガイウスが軍閥を組む為の人員がいるとして――
奴に賛同する闘士が、不穏な気配を察して試合を邪魔してこぬとも限らんな」
「試合の中でガイウスを問う奴。試合の外で闘士を押し留める奴。二組くらいは必要かね」
ガイウスと試合をする者は死力をもって彼に挑んでもらい。
一方で試合の外で調査を行う者も必要か――ガイウスに賛同する闘士に接触したり、彼らの規模を調べたり……やれることは『外』にもあろう。
「やれやれ。全く、面倒くさい事この上ないって奴だよなぁ……」
ヴェルスは椅子の背もたれに大きく体重を乗せながら、吐息を宙へ零すように。
この国の混迷具合ははたしてどこまで進んでいくのか。
ガイウス・ガジェルドという新たなる爆弾の出現に――対処せねばならなかった。
●
ラド・バウ。大闘技場が今日も揺れている。
観客たちは今か今かと試合を待ち、一斉に地を足で踏んで熱意の波を形成するのだ。
――その、一角。
選手達の試合控室にて座禅組む様に、微動だにせぬ影が一つあった。
外の圧倒的たる熱意の波にすら揺らがぬ大岩。
それは精神の統一か、それともただ時を待っているだけか――
「ガイウスさん! 試合が始まるよ……きこえてるー?」
瞬間。その背側にあった扉を開けて中へと来たのは一人の少女。
――否。その者もまた闘士というべきか。
彼女はパルス・パッション。つい先日B級に昇格した人物であり……
彼女もまたガイウスにかつて敗れた者の一人である。
「……そうか。では、行くか」
「うんうん! 今日はなんだっけ? 招待試合?
なんかガイウスさんと戦いたいっていう人たちが来るんだよね! 強いのかなー?」
「闘ってみれば分かる事だ」
陽気なパルス。紡ぐガイウスの言葉は短く、しかし。
「――で。強かったらどうするの? 派閥に誘うの?」
パルスにとっては実際に強いか以前に『そちら』の方が気になる所であった。
ガイウス――ラド・バウに属して日が浅いながら目まぐるしい勢いでランクを駆けあがっている新鋭にして既に最強と名高い男。パルス自身、戦った時はあしらわれるかのように一撃で――いや二……三、撃? だったか?
とにかく気付いた時には医務室にいたレベルで隔絶していた。
そんな彼が昨今の皇帝騒動――に介入するとは目耳に水だったものだ。
しかし。
「あ! 誘う、ていうと違うかな? だってボク達が集まってるだけみたいな感じだしね!」
「…………」
「皆ね、期待してるんだよ――だってガイウスさん『違う』もん」
彼と戦った者は皆何かしらの感情を抱いた。
圧倒的な力の差に――恐怖を。
圧倒的な力の差に――敬意を。
圧倒的な力の差に――羨望を。
いずれにしても誰もが『彼は違う』と心の底から確信したものだ。
きっと最強の座につく者がいるのだとすれば……彼だと。
淡い、虚ろな泡の如き――夢を見たのだ。
「でも夢じゃないなら皆見たいんだよ。夢の続きを。
ボク達をあっさり超えていった人が、一体どこまで行くのか……」
「……お前たちがどんな期待をするのも自由だが、応えるとは限らんぞ」
「それでいいよ! ボク達はガイウスさんの全力を邪魔しようとする輩の露払いをするだけだから!」
ガイウスの表情は動かない。パルスがどれだけにこやかに語ろうとも。
――故に彼の真意がはたして何処にあるのかきっと派閥の誰も知らないだろう。
だがパルスを含めガイウスの周りにいる者達は、ただただ――ガイウスがどこまで往くのかを見届けたい。そんな彼の行く道を邪魔する、彼の前に立つも相応しくない分不相応な輩がいれば排するのみ。
彼の歩みは誰にも邪魔されず、前へ前へと進み続ける。
そして――長き通路の果て。闘技場に天より降り注ぐ光が彼を出迎えれば。
「……よし、闘るか」
より一層、歓声が大きく轟くものだ。
彼はガイウス・ガジェルド。ラド・バウA級闘士にして全戦全勝の主。
ラド・バウ最強の名を欲しいままにする――伝説の黎明であった。
- <フルメタルバトルロア>最強闘士完了
- GM名茶零四
- 種別長編
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2021年09月01日 22時05分
- 参加人数20/20人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 20 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(20人)
リプレイ
●
夢見た光景があったのだと、誰かに言ったら信じるだろうか?
●
――大闘技場ラド・バウ。
天に轟く程の歓声が響く中に立つはガイウス・ガジェルド……
現実におけるスーパーチャンプにして、R.O.Oではその『途上』たる存在。
だからこそ戦いという場が成立する。
現実であれば彼と戦うには『最低限彼と戦って死なない人物』に限られるのだから。
「……まさか、此方とはいえ相対する事になろうとは、ね」
眼前。現で耳する伝説が其処に在れば。
『雷神の槌』ソール・ヴィングトール(p3x006270)の瞼の裏にはかつての一幕が思い浮かぶものだ。
試合の一時。伝説の放つ拳の一閃。
時が過ぎ、記憶の彼方に在ろうとも――決して忘れられぬ光景を作った主が其処にいる。
(それに挑めというのか、全く――)
であればと。魂が――血沸くものだ。
全く。幻想……いやこの世界ではその国はない、が。とにかくあいつらの相手をする方がはるかに楽であろうに――年甲斐もなく精神の高揚が抑えきれぬ。
今か、今かと心の足踏みが頂点へと至れ、ば。
――試合の開始を告げるゴングの音が鳴り響いた。
「さぁって! 折角の機会だ――楽しませてもらおうかな!!」
直後。飛び出すように駆けたのは『カニ』Ignat(p3x002377)だ。
ソールと同様にIgnatの心もまた喜びに満ちていた――いやはや現実ではいつ実現するかと思っていた夢の世界がこんな所であろうとは! ひゃっほおぉぉおおおお!!
地を踏み砕かんばかりの一歩と共に刹那の接近。
初手より全霊だ。様子見などする余裕がどこにあろうか、伝説を前にして。
故に。手に抱きし大剣がまるで射出されるが如き勢いと共に振るわれて――
「――無駄だ」
直後。振るわれる鋼鉄の拳は全てを打ち砕いた。
Ignatより放たれた一撃を真正面より粉砕する――それに小賢しい理屈など存在しない。ただ『凌駕する一撃』をもってして迎撃しただけの事。
瞬後に生じるは『大気の壁』の悲鳴。
「おおっとぉっ! コイツは――やっぱり凄いねぇ!!」
ガイウスの拳は大剣と接触しそのまま――轟音響かせ彼女の身を粉微塵へと。
Ignatは躱そうとした。決して油断していた訳ではない……しかしガイウスは己が拳を、回避しようとする軌道の中に『無理やり』ねじ込んだのだ。それは神速の反射神経とも言うべき天性の武。超速度で修正した拳の軌道から逃れられる者などどれ程いられようか。
例え誰であろうと容赦はしない。例え誰であろうと手など抜かぬ。
――いや抜ける様な性分であったのならば彼は伝説に数えられなどしなかったか。
只管なまでに己が武を極め続けるのこそがガイウス・ガジェルドなのだから。
「これが……ガイウスさん! きっと現実でもこうなんだろうね――でも!!」
「ええ……それじゃあまあ、一丁もまれに行きましょうか」
さりとて、イレギュラーズ達がこの程度で臆するものか。
歴代最強と謳われる闘士の実力と直接手合わせ出来るなどそうそうある事ではないと『ご安全に!プリンセス』現場・ネイコ(p3x008689)はソールと共に往くものだ。目的は彼の真意を問う事、ではあるが。ここはあくまで闘技の場。
言を投げかけるにしてもまずは武を示す事が必要であろうと。
「ガイウスさん、胸を借りるつもりで行くよ。私の全力……見せるからッ!」
「――来い」
近づけば分かる。ガイウスの気配はまるで聳え立つ大山の如く――だ。
どこに打ち込んでも揺らがぬ気がする。ああ『だからこそ』魂が震えるものだとも! 故にソールと共に、連携を重ねる様にしてガイウスへと立ち向かおう。ソールのメイスが真横より振舞われ、現場・ネイコの剣撃が真上より。
攻撃の角度を散らして彼の意識の隅を突くのだ。下手な搦め手よりも全力全霊をもってして!
――だが『崩れぬ』
「くっ――ッ!」
瞬間。油断など決してしていなかったソールの眼前にあったのはガイウスの拳だった。
いつ動いた? いつ迎撃の構えを見せた? そして何故己は直前まで反応できなかった?
全ての結論はガイウスという一個人の超越性にある。
――即座に割り込ませた盾がなくばソールは魂諸共粉砕されていただろうか。脳髄を揺さぶる圧倒の衝撃と共にソールの身が吹き飛ばされ――直後に現場・ネイコへも迎撃の一手が振るわれる。
それは『破壊』の二文字が相応しき一手。
彼女の放つ剣撃に真正面から衝突し――闘技場全体を揺らすが如き衝撃が発生した。
『で、出た――!! ガイウスの一撃だ、これこそが彼!
この一撃で幾人の闘士が倒れてきたことか――!!』
その度に実況の声と観客席には熱狂の渦が灯るものだ。
『強い』という事。ただそれだけで十分。
この闘技場に他は不要――だからこそ。
「ガイウス・ガジェルド、雷と戦った事はあるか?」
「いいや。生憎と記憶にないな」
「では見るがいいッ――天地に轟く瞬きを穿てるか、闘技場の伝説よッ!」
直後。負けられぬと往くは『よう(´・ω・`)こそ』ゼロ(p3x001117)だ。
その身に灯りしは鋼鉄魂……いや、鉄帝魂か。
ガイウスの強靭さは今の数撃でおよそ理解した――策の打ちようが全く思いつかない!
(だが――倒すのが最優先でないのであればやりようはあるものだ!)
故にゼロは迅雷へと至る。一発で良い、死なず朽ちず在り続け……
成すべきは父より受け継ぎし剣術。父は事故さえなければ――ガイウスとも――
失われし剣の筋を此処に。
「――ぉっぉぉおお!」
雷光一閃。咆哮天上。
眼前の敵を、至上たる敵を粉砕せんと膂力の全てを込めて。
必滅の拳の圧を絶大に受けながらも――ゼロは撃を届かせるッ――!
皇帝陛下殿のご期待にも沿えるように奮戦しなければならぬのだからと。
「フフフ……成程これは一撃通すだけでも生死を掛けねばならん、か」
しかし被害は甚大。たった数撃で接触せし者らは危機的状況。
――故にこそ『秘すれば花なり』フー・タオ(p3x008299)の口端からは笑みが零れるものだ。
最強と謳われし闘士。伝説と称えられし闘士――その電子的コピーですらコレか。
「当世においてその名を冠する者と多対一とはいえ戦える機会……
千載一遇とすら言えるかもしれぬの。さてさて如何に妾の力を通したものか」
思わず口端が緩んでしまうものだ――享楽十割の動機ではあるが、まぁ良かろう? と。
あの拳の範囲は正に死の世界。ならばまずは距離を取りて。
同時に放つは苛み蝕む蒼火の一筋。
罪業塗れし数多を焼き尽くさん焔がガイウスの身へと降り注がれれ――ば。
「炎か。面白い、だがソレも無駄だ」
フー・タオの位置を鋭き眼光が捉えた。
――直後に彼の五指に力が籠められる。そしてそのまま、大気を打つ様に神速の正拳突きを繰り出した直後――フー・タオの身に衝撃が襲い掛かりて。
「フ、ハ――これは、遠当ての術か」
事態を理解したフー・タオの身が彼方へと吹き飛ばされる。
壁にぶつかりて後頭部に衝撃。距離がある上でこれほどの力があるとは……
至近で、その拳を直に受ければ如何な『死』が襲い掛かってくるというのか。
「……流石、噂に違わない圧倒的な強さ。正に武の権化とも言うべきでしょうか……
『この世界』でも、スーパーチャンプの座は遠くなさそうですね」
「うん――でも『こう』だからこそのガイウスさんだよね!! よーし頑張るぞー!!」
されど臆さぬ闘志に呼応するように尚に続く。ガイウスを相手取ると聞いた時から一撃一殺も十分にありうるものなのだとリセリア(p3x005056)は悟っていたし、むしろ強いからこそ『妖精勇者』セララ(p3x000273)の闘志はより滾る――故にこそ己が足を目前へと。
ガイウスの強さは既に嫌という程分かっている。しかし彼が如何に強かろうとも、彼の腕は無限にある訳ではない。たった一手で複数のイレギュラーズ達全員を屠れる筈はない。
――必ず撃の狭間はある筈だから。
「お見事な腕前。しかしだからこそ解せませんね……己が軍閥を作るという噂は事実ですか?」
「……それがお前達に何か関係があるのか?」
「勿論だよ! だって――ボク達はゼシュテリオンから来てるんだからね!」
故に踏み込む。ガイウスの迎撃範囲へ、彼の腕の内側へと。
それは死の領域――なれど言葉を紡ぎ彼の魂を探るには『此処』しかないのだからと。
リセリアは神速の抜刀からの斬撃一閃。差し込まれた鉄腕の肘に阻まれど、その直後にはドーナッツの欠片屑を口端に付けていたセララが防御の隙間を縫うように――往くものだ。
天雷の輝きが聖なる剣と共に。剛閃放ちて言の葉も共に。
「だからガイウスさんの事を知りたいんだ。帝位につきたいの?
そうじゃないんだったら――よければ皇帝はヴェルスを応援してあげてくれないかな。ヴェルスだったらきっと、鉄鋼の民を良い方向へ導いてくれるよ! 皇帝さんが死んじゃって始まった混乱も収めてくれるだろうしね!」
「成程。それはきっと『そう』だろうな。ああ……俺もそう思う」
同時。セララの言に同意しながらも、しかし――
ガイウスの眼にはその意に同意する色が備わっていなかった。
セララの放った斬断の一撃。拒絶するように鉄の腕で応酬し、そして。
「ええ。ラド・バウ最強の男の本音……是非とも聞いてみたいですね」
更に続くは『ただの』梨尾(p3x000561)だ。
彼は問いながら、同時に一つの懸念事項を頭の片隅で思考していた。
それは――今の鋼鉄の騒動にはDARK†WISHという――願いが捻じ曲げられる『悪意』が如き異変が起きているから。合によっては鋼鉄の軍人にすら影響を及ぼしているそれがもしもガイウスにも生じているのであれば……
今のガイウスは危険な状態にあるのかもしれない。
「本当に皇帝を目指しているのか、それとも何か別の理由があるのか」
「ガイウス・ガジェルド。貴方が何を考えて居るか、聞かせて頂く!
――何を思って帝位を、天を目指す意志を固めたというのか!」
「……成程。唐突に外部からの招致試合などと何事かと思えば……
全てから似たような言が零れるとは。この機会を得る為だった、という事か」
ガイウスの注意を引き付けんと梨尾は立ち回る。
彼の意識を一瞬でも、刹那でも。己がもふもふたる身を駆使して奪い取れればと――
同時に言葉を繋ぐのは『蒼竜』ベネディクト・ファブニル(p3x008160)だ。
握りし刀に自然と力が籠められる……近づけば分かる圧倒的な闘志。迂闊に触れればその時点で滅びる暴風が如し――だ。これが現の世界でも生きる伝説として君臨し続ける鉄帝の闘技王か。
たった一人で他を凌駕し、そして誰も一人で戦う事を止めぬという事実。
――武者震い。
だが、だからこそ退く訳にはいかぬと彼は前へ、前へと。
であれば。
「…………そうだな。
まぁ、それでお前達の気が高まるというのならいいだろう――その噂は『是』だ」
同時。再び彼の鉄槌が真上より振り下ろされた。
天より至る隕石の如く。超速の彼方より飛来する一撃は地へ衝突すると同時に衝撃の波を生み――誰しもの肉体に瞬きの硬直を。続けざまの二撃目は、鉄ならざる只の肉たる右腕――しかしそれすらも数多の防御を貫く絶死とならん。
「尤も、帝位になど興味はないがな」
「ぬッ――ぉ、ぉ!」
ベネディクトはその身が砕かれんばかりの衝撃に襲われた――
眼前の世界が暗転する程に揺れる。僅かでも戦闘を長引かせるためにと防御に意識を割いていた、が。それですら致死へと到達せん勢いだ。
複数人で挑むが故にこそ生き残る者もいるが。
これがもしも一対一であったのならば――彼の意識がたった一人に注がれるならば――
恐ろしい未来を想起しつつも、しかし。
「ん~~! でもまだまだだよ!! これぐらいで終わる訳にもいかないしね!!」
されどまだだ。ガイウスから知るべき情報はまだなにも引き出せていないと『雑草魂』きうりん(p3x008356)は治癒のきうりを投げつける。それは癒しのきうり。当たれば傷がなくなる魔法のきうり。食べても美味しいきうり! 万能きうり――!!
「さぁガイウス君続けようか!! インタビューはこれからだよ!!」
「そうです――帝位が目的でないのなら、では何故?」
次いでそのままきうりんは前線の者らにきうりの免疫加護を纏わせる。
加護を纏えば彼の力を反射するものだ――これも戦いの一つであればまさか卑怯とは言うまいと。同時に『魔法人形使い』ハルツフィーネ(p3x001701)のクマさんパワーが強いクマたるガイウスへ。
あの肉体、力がぎゅっと凝縮された歴戦のクマさんだ。キングクマさんと言ってもいい……だからこそ子グマの力を全力にて振り絞ろう。輝かしきクマさんの加護を纏い、殲滅撃滅の意志を伴い。
「ヴェルスと戦うため、とも思いましたが……あなたなら然るべき手順を踏んで場を整える事を好みそうですね。実際どうなのです? ――事情があるのなら。事と次第によってはキングクマ……じゃない、あなたへ協力しても良いですよ」
今ならお買い得です、と。子グマにも一枚噛ませてもらえないかと紡ぎながら――
往く。戦いを終わらせる訳にはいかない。
ガイウスの所在が分かり、確実に一人の場面たる瞬間はこの闘技の時間だけだ。
だからと。彼と同じ目線に立ち続ける為に力を振るう――さすれば。
「俺は帝位になど興味はない。皇帝を殺したのが誰であろうが構いはしない。
だが……そうだな『ヴェルスと戦う為』……それも、ある」
真正面からガイウスはハルツフィーネのクマが放つ爪を迎え撃たん――
上下左右。あらゆる角度から至る獰猛なりし爪撃を前にあらゆる防御は無意味……故にこそ、破滅の拳をもってして穿つのだ。防御が通じぬのならば攻撃をもってして打ち砕けば良いではないかとばかりに。
衝突。衝撃。大気を揺らして万物を震わせる。
「然るべき手順? ああ、それで強い者と戦えるのならば……それもいいかもな」
そしてガイウスは更に言葉を続けた。
表情は変わらぬ。岩の様に堅い表情のままに――しかし。
「だが今しかない。もしもヴェルスが、或いはザーバが皇帝になどなれば……
手順などというものがあったとしても消え失せてしまうだろう」
「――つまり、ヴェルスやザーバと遠慮なく戦える場が欲しいから、と?」
彼の、言の葉が少しだけ流暢になってきている様に感じたのは『硝子色の煌めき』ザミエラ(p3x000787)だ。イレギュラーズとの戦いが――ガイウスが辿ってきた今までの戦いと異なり長期の戦いになっていることが――彼の喉にも熱を灯しているのだろうか?
故に喋らせるなら畳みかける様にと、ザミエラが散布するのは硝子片。
粒子に至る細かき硝子片を嵐として。
形成するは触れれば肌と肉を割くダイヤモンド・ダスト。
――その鉄より堅そうな口を開かせよう。更に、更にと。
「それが皇帝になる事ではなくて――ガイウスの『やりたい事』って訳かしら?」
「あんまり良い事とは思えないけどね。今鋼鉄は大分混乱している……
その状況で場を治める理由じゃなくて、ただ力を振るいたいっていうだけなら――」
同時。『天真爛漫』スティア(p3x001034)はザミエラの放つ撃と共に接近を。
ガイウスが――今彼が述べたことが全て真実なら――彼はただ己が欲望を果たすためだけに帝位争奪戦に名乗りを挙げようとしている。折角にも正義のレオパルが、事態鎮圧の支援をしようという動きも見せたのに……より場がかき乱されるという事ではないか。
「止めるよ、ガイウスさんを」
「――正論だな」
もしも悪事を企んでいるのならばスティアは身命を賭してでも、と。
花弁舞い散る狭間にて。神速の抜刀が三閃――額・胸・腹の正中線を連撃すれば。
「お前たちの言っている事は、正しい。ヴェルスなりザーバなり……
あぁ誰かの統一を手伝ってやれば、きっとこの国の為になるのだろう」
「そうだよ――ヴェルスだったらきっと、鉄鋼の民を良い方向へ導いてくれるよ!」
「だが、俺にとっては『良く』ない」
鉄の腕の方で切っ先受け止め、金属音を高鳴らす。
同時。ガイウスが見据えるのはセララだ。
スティアの言う事は正論――セララの言う事もきっと真実だ。
正しいのはお前達だ――しかし。
「ある夢を見た、と言ったらお前たちは信じるか?」
●
同時刻、大闘技場ラド・バウ観客席――
リング内では死闘激しく続く中で、されど今だからこそ動く者達がいた。
「ハッ、まさか野郎が出てくるとはな……
どうせ闘技場に引きこもってるだけだろうと油断したぜ」
その内の一人が『ロックンロール』アーロン(p3x000401)だ。
――こんな事ならマジでやってりゃよかったか? と、R.O.Oの世界とは言えガイウスとの戦いに夢馳せない訳でもないが――しかしお互いに生身ではない。決して現の戦いでないのだとすれば関係ないと、引かれる後ろ髪を千切る様に。
「とにかく野郎の真意を探っておかねぇとな。案外無口って訳じゃねぇが、かといってビッツみたいなお喋り好きって訳でもねぇ。外から探る事で分かる事もあるだろうさ」
「それにガイウスが派閥を作るなら資金援助しようとする支援者や権力者もいるかも……周りは放っておかないだろうし、なによりファンも多そうだしね」
同じくアーロン共に動くのは『オオカミ少年』じぇい君(p3x001103)もだ。
ガイウスの口から全て分かれば良いが、恐らくそうはいくまい。戦闘中のガイウスがどれだけ会話する気があるかも分からぬし、そもそも存分に十分以上に語り合う余裕があるとは思えない――だからこそ『外』の活動も必要だ。
アーロンらは選手控室の方に向かい、じぇい君は一方で観客席の方へ。
それぞれ別地点で情報収集を行うために――そして。
「ガイウス殿が軍閥……ちょっと、なんというかこう、違う気がしますし。焚きつけた人などがいないか調べてみましょうか――ええ諜報活動ならお任せを! こう見えて拙者、忍者ですから!」
同時に『航空海賊忍者』夢見・ヴァレ家(p3x001837)もだ。諜報活動ならお任せあれと、会場内にいるであろう支援者や派閥の者を探る――やはりと言うべきか、ガイウスが派閥の立ち上げなどという事を『単独で』思いついたとはどうしても思えないのだ。
強者との戦いに飢えている。ああ結構、それはあるかもしれない。
――だがそれなら今まで大人しくしていたのは何故だ?
心変わりがあったのではないか? 『何か』によって。
『勇気、優希、悠木』ユウキ(p3x006804)も同様に彼の立ち上げに疑問を挟み、そして。
「ってな訳で、ごきげんようラド・バウの闘士達よ!! ミーの歌を聞きなァ!」
「同じくねこです。よろしくおねがいします」
「!? わー何々!? キミ達、突然どうし……何!? ねこ!?」
故に選手側控室に突入するアーロン――選手達の慰安だとばかりに熱き声を奏でる彼に警備員らの注目も集まる。その最中にパルスの姿を見据えた『かみさまのかけら』ねこ神さま(p3x008666)が疑問を挟む前に言葉を紡ぐものだ。
「あそこで貴方たちの旗印と戦っている人達の仲間です。
――しかし流石の実力ですね。あれだけの数の差があるというのに、むしろ押してます」
「ん~~まぁガイウスさんって、おかしいからね。強すぎるもん」
「しかし、ねこはだからこそ軍閥を形成しているという話を聞きました」
ねこ神さまは言う。あれやそれやと言葉を上手く使う事は出来ないから、と。
単刀直入に――パルスへと問うのだ。
「そのガイウスさんの軍閥……という話ですが、ガイウスさんの意思が介在していないのではないですか? 彼が言ったのですか? 『皇帝になる』と」
「そうそうそこの所ハッキリさせておきてーよな! ガイウスのにーちゃんが皇帝になりたいとか、軍閥を作るって言ったのか? どこから流れて来た話なんだ? なぁなぁパルスのねーちゃん。その辺りどーなんだ?」
更にねこ神さまに続いて『絶対妹黙示録』ルージュ(p3x009532)も切り込むものだ。
――ここが重要な所である、と。軍閥ははたしてガイウスの真の意志なのか?
1.本人が口に出して言ったのを聞いたか
2.また聞きなら誰がそれを言っていたのか
3.本人が言っていたなら『正確には何と言っていたのか』
須らく確認せねばならない。
本人が言っていたならまぁ良し。だが又聞きの場合一気に話が胡散臭くなる。
情報と言うものは人を介する度に……捻じ曲がるのだから。
「んっ~……ガイウスさんは皇帝になりたい、なんて言ってないね。
ただ『やる事があるから』力を貸してほしい――的な事は言ってたよ」
「――ほほ~ん? その『やる事』ってのは?」
「んっとね……まぁ言ってもいいか。
凄い単純にはヴェルスさんとザーバさんとかと試合したいらしいよ」
おいおい個人名が出てきたなぁ、とルージュは頭を掻くものだ。『軍閥を作る』と『皇帝になる』はそもそも別な為――何か個人的な目的があるのではと思っていたが……
「……そこでヴェルスとザーバの名前が出てきますか。
中々血気盛んなご様子ですが――パルスさんらはその動きに賛同されているのですか?」
その時。ふむ、と顎に手を当てて考え込むのは『月下美人』沙月(p3x007273)だ。
情報収集の類は己の得手ではないと思っている……が、しかし。貴重な闘士の面々と言葉交わす好機と思えば楽しみもあるものだ。彼らの視点、彼らの力量を間近で見る事が出来るのだから。故にパルスとの会話を今少し進めよう。
「今お話をお聞きした時点ではガイウスさんの私欲……闘士のお歴々のお気持ちや如何に? と思いまして」
「ははは! まぁなんだろうね、大義っていうのかな――そういうのはないよね」
だけれど、とパルスは続けて。
「でもさ。夢のマッチが見れるかもしれないんだよね、もしかしたら。
ヴェルスvsガイウス。或いはザーバvsガイウス……誰が一番強いんだろうね」
「それはわかります。夢がありますからね――が、それが彼の今の夢ですか?
何者かに唆された訳ではありませんか?」
瞬間。パルスの言に割り込んだのはねこ神さまだ。
最強の闘士が成った皇帝。最強の皇帝が率いる鉄帝――その地平。
その夢を否定する気もありません、が。
「誰かに介入されれば、彼自身の内から湧き出た者でなければ……あの綺羅星の如き眩い戦い振りに陰りが出てくるかもしれません。軍閥の中心人物として妙な人物がいたりしませんか? ――是非教えていただけませんか?」
少し、出過ぎたことを言ったかもしれぬと彼女は思考するが。
しかし嘘を言っている訳でもない。ありのままにねこ神さまは――言葉を紡いで。
「うーん、うーん……! 中心人物、かぁ。
ねー! ゲルツさんはどう思うー!?」
「――俺に話を振るなパルス」
直後。パルスが言を放り投げた先にいたのは――アーロンの突発ライブの片隅で煙草を吸っていたゲルツ・ゲブラーであった。現実におけるラド・バウB級闘士――もしや彼も軍閥の一人なのかと――
「そうなんですね? やっぱりそうなんだと思っていましたよ拙者は!! さぁ吐いて下さい。一体誰がガイウス殿に軍閥立ち上げようなんて語り掛けたんですか! ネタは挙がってるんですよ、今なら拙者秘蔵のお酒を大特価プレゼントで……」
「保安部の俺に買収作戦とは良い度胸だな貴様」
しまった、うっかり忍者!! と、軍閥立ち上げの初期メンバーや重要人物を絞らんと動いていたヴァレ家はあんまり渡すつもりもなかった酒瓶抱いて震えあがるものだ。R.O.Oの世界に恩赦はない……!
鋭い視線をゲルツから向けられる――あわや鋼鉄方式会話術(力ずく)しかないかと酒瓶を持ちやすい様にこっそりと構えて後頭部に狙いを定めて、しかし。
「そもそもパルス。ベラベラと喋りすぎだぞ……
そいつらは噂のゼシュテリオンの連中じゃあないのか?
派閥的に言うなら――敵だろう」
「ええー? でももしかしたらこっちに付いてくれるかもしれないし、仲良く……」
「そうだぜ!! ミー達はきっと仲良くできる!! だから、さぁ――歌おうぜ!!」
「そうですよ! あ、あと自分は新人忍者闘士なだけですので、どうぞよろしく!! え、この振り上げかけた酒瓶? いやですねぇ、これは、あははははは」
あまり敵意が無さげな様子に色々とうやむやにしてしまうものだ。
アーロンがパルスと一緒に歌唱を重ね、なぜか選手控室でちょっとしたライブの様なモノが繰り広げられれば――リングの上とはまた違った熱狂が此処に。
「……貴方達は夢のマッチが見たい為にガイウス殿の軍閥に?」
「俺は些か事情が違うがな。
保安部として馬鹿共がいきなり馬鹿な事をしないように見張る為に近くにいるにすぎん」
どれかというと国派という事だろうか……? ともあれゲルツは一刻も早く鋼鉄の国の混乱が収まるのを願っている人物の様だ。が、この世界ではヴェルスは帝位についている訳ではない故にか、ゼシュテリオンに関わろうとはしていない様である。
「そういえばパルスのねーちゃん達とかゲルツのにーちゃん達って、もうガイウスのにーちゃんが認めた軍閥になってるのか? その一員って事でいーんだよな?」
「さぁな。ガイウスがあまり喋らんから、奴の認識ではどういう感じなのか……」
「ふむ。ですが、そのあまり喋らないガイウスさんがそもそも派閥を作ろうと考える契機は――どこに?」
「そうですよ謎ですよねぇ……軍閥立ち上げの折に頻繁に訪れていた方などご存じないですか? 新人忍者闘士として是非に挨拶をしてみたいのですが!」
同時。ルージュの言葉を皮切りに、沙月とヴァレ家の言が紡がれるものだ。
必ず何か原因がある筈だと。唐突にでも、どこかに契機でも。
些か食い気味に喋りこむヴァレ家。ふふふ逃がしませんよ絶対に話してくれるまで帰りませんからね拙者はしぶといですよ!
「ええい近いぞ離れろ……まぁ、そうだな。
たしかガイウスが派閥云々言い始める前に接触した奴ならいたな」
「接触した人物!? それは一体!!?」
「正確には催しがあったというべきか――」
と、ゲルツは一息。煙を揺蕩せながら思考を巡らせて。
「シルク・ドゥ・マントゥールの団長。ピエロの『バンビール』だ。
少し前にあった個人公演で――あのピエロがガイウスと何やら話していたな」
●
「――ピエロ?」
VIP席に紛れ込んだじぇい君が耳にしたのは奇抜な単語であった――
ピエロという存在がガイウスに接触した?
「ありゃあ……ちょっと前じゃなかったか? このラド・バウ闘技場のリングを貸してほしいってなってなぁ。そりゃもう凄い演技をしてたんだぜ! で。最後にピエロが闘士とかに挨拶に回ったって話があってな――」
そしてその後からガイウス軍閥の話がちらほらと出始めたらしい。
関連があるかは不明だ。実際に彼らがどのような会話をしたか知る者はいないのだから。
しかし――
「その後からなんか変な夢を見たとか言ってた……って話を聞いた奴が何人かいるぜ。
へへ。まぁ俺にとってはどうでもいいんだけどな……ガイウスの祭りだ!
そりゃあ支援するってもんだよなぁ坊主!」
「へぇ成程……実は僕のお父さんもガイウスの派閥に興味があってね、彼を支援したいと言っているんだ。貴方とも協力ができるかも知れないね」
「おお、そうなのか!? んじゃああの話は聞いたか?
ガイウス用に古代兵器を見繕うって話がな――」
「……古代兵器。へぇ」
じぇい君の眼が鋭くなる。気の良い商人らしき男の話……実に興味深いものだ。
支援者がいると目論んでかくれんぼしながら来た甲斐があったというものだろうか――それにしても……ピエロのバンビールか。今、この場ではあまり詳細な情報までは仕入れられないが。
「随分と気になる単語が出てきましたね……」
またシルク・ドゥ・マントゥールが原因なのか――?
いや『サーカス』ではなく『ピエロのバンビール』という一個人名が指定された。
これは気になるところだ。後で皆と合流して情報共有しておこうと、じぇい君は思考して。
同時。大きな歓声が観客席全体から沸き上がった。
思わず見据えるリングの方を。さすればその席から見えた光景は――
●
「夢? それは一体――」
「……いや。戦いの最中に喋りすぎたな。これ以上を知りたくば――」
きうりんがガイウスの言った『夢』なる言葉に興味を持つ、が。
しかしガイウスは頭を振る。もう少し『闘ろうか』と。
――ガイウスの眼光が鋭くなる。
再び彼の意志は闘争の渦の中に沈み込んでいるのだ――彼の口を割るには。
「更に戦いに興じた場合にのみ、という事ですか」
「やれやれ。教えてくれたら試合の後で自分の事を撫でたり、モフモフしてもいいんですよー? でもダメですかね? やっぱり直に戦う以外には興味がないお人なんでしょうかねー……」
ならばと。リセリアも梨尾もその動きに応えるだけだと。
闘争の構えを見せて――彼との戦いに付き合おう。
情報を得たいのはイレギュラーズ側の事情。戦いに身を投じたいのはガイウスの事情。
――お望みであるならば、良い。
「犬は獲物をしつこく追いかけますよー」
するだけだと、二人は跳躍。
構えを見せるガイウスの注意の狭間を縫わんと、リセリアは斬撃一閃。刀身に籠められし『気』が彼の防御を突破せんとし――梨尾は全霊の一撃を叩き込まんと怒りの炎を力へと変換するものだ。
未だ健在たる彼の身の芯へと――叩き込む為に。
「ふむ。随分と来るな……何がお前を動かす?」
「何が――? 別に、ただただ貴方の真意が知りたいだけですよ!」
直後。反撃とばかりにガイウスの放つ拳は梨尾にとっての脅威。
受ければ死ぬ。だが――
「貴方の願いが捻じ曲がったら……自分が三度経験した状況より死傷者の数が跳ね上がる!!」
それでも問わねばならぬと彼は言う。
「そう――捻じ曲がっているのではないか。貴方の心は! 考えを聞かせてみせろ! 精神的にも鍛えている軍人とその部下達が捻じ曲がったんだ――他の誰かならならない理由なんて存在しない!」
この世に例外などある筈がないのだと。
ただただ彼は未来を想う。ただただ彼は無駄な犠牲が無い事を願う。
その為に述べろ考えを。心を! 今のお前が――正常かを!
「……俺はおかしくなっているつもりだけはないがな」
掌底、一閃。
梨尾の問いに短く答える様に穿ち――そして。
「私がただのか弱いヒーラーに見えたのかな!! そうだとしたら私の勝ちだね!!」
直後。ガイウスの狙いが治癒役も行っていたきうりんに向く、が。
しかしきうりんの体力はそう易くない。事、防御に全霊を注げば――只のヒーラーなどという耐久力ではないのだ。彼の放つ一撃は既に幾度と見据えた、故に。
一……いや、二、三撃くらいは……とにかく耐えてみせよう!
「再生特化の雑草魂――なめるなよ!!」
如何に優れた膂力があろうとも直撃を割けるようにし、凌ぎつつ受け止める方法もあるのだ。それに万一ミスッても――
「リスポーンもあるんだからねっ!」
と、その時。きうりんが述べたと同時にリングの上に刺さるのは新たなエクスギア。
それは再ログインを果たした者達が即座に入場してきた印だ。
「えへへ。死に戻りもボク達の戦闘力ってことで。
死人が蘇って戦っちゃいけない、なんてルールは無いでしょ?」
「ああ――確かに死人は想定されていないな。だが死んでも蘇るのならば、遠慮する必要ない訳だ」
「へへ! 遠慮なんて最初からしてないくせに――ガイウスさん面白いなぁ!」
その一つから飛び出すのはセララだ。
ガイウス相手に元より死なぬ事を前提になどしていない――場合によっては相打つ事も視野に。いや死間際のクロスカウンターを叩き込むのが一番か――
いずれにせよ只では死なぬ。一撃では死なぬ。
一手でも多く全霊を。一歩でも多く彼の懐に!
そうして死んだならば再び馳せ参じよう。
すぐ終わっちゃったらもったいないし、なにより。
「だって、ガイウスさんみたいに強い人と戦えるなんて楽しいもん!
いっくよ――! 全力全壊――ギガセララブレイク!」
「小手先の探りなど無用無意味! 全ての語りは――武にて!」
同時。セララの撃に合わせる様にまたゼロも踏み込んだ。
ヴェルスやザーバと戦う――それは一体どこから至っているのか。
チャンピオンの孤独か……? こんな状況を作り上げる事で、尻に火が付いた他勢力からの挑戦を待っている? いや或いは己から向かう為に――
「フフ」
だけれども笑みが零れてしまう。
だってどれだけ推測をしても、結局は『戦い』でしか語り合えないのだから
――同郷よ。作られし鋼鉄の国とは言え、魂の似るまごう事なき同郷よ!
「いざや勝負ッ!」
剣撃を加えよう。正しく全霊をもってして。
それこそが誠意。それこそが鉄帝式。否、これこそが――鋼鉄式であろう?
セララの天雷纏いし一撃が炸裂し、直後に数多を粉砕せんとするゼロの剣撃舞えば。
「やれ、死に戻りに言い訳が必要かと思いましたが……
良くも悪くもガイウス・ガジェルドの強さが全てを塗りつぶしますか」
リセリアが言う。なんらかの技術によるそういう趣向である――と思わせようかと思っていたが、ガイウスが次々に粉砕する為か『彼が問題視してないから問題ない』という熱狂の渦の中にある。
これこそがガイウス・ガジェルドの強さだと。
「まぁ問題視されないのならばこちらが言い訳の為に動く必要もありませんね」
変幻の刃をもってリセリアは紡ぐ――眼惑えば切り裂かれる絶技。
心乱されればその狭間より体を凍て付かせる刃をもって。
目を奪え銀閃よ。太陽の如く輝く闘技の王に絡みつけ。
「フフフ……まさに、まさに。未だ木鶏たりえずとはこの事よ。
これほどの相手と出会えたのはいつ振りか……
そなたにとってもそうであれば嬉しいのであるが、まだ力不足かの?」
同時。更に続くのはフー・タオだ。
「まぁ――斯様な程の力の持ち主でなくば評判倒れでもあるところ。
さて今暫し妾と付き合ってもらおうか」
彼女が狙うのは『死なぬ』事。単純な耐久力――或いは死ににくさ――と評するべきか。
優れし彼女はガイウスの撃を見据えて生き残りを優先す。
己が活力が尽きるまで。幸いにしてガイウスは再挑戦にもなんら頓着せぬようではあるし。
「一度でも二度でも――挑ませてもらおうかの?」
「……面白い。お前らは折れないのだな」
瞬間。ガイウスの零した言葉の意味を一番早く理解したのはソールだったろうか。
折れない。それは、ガイウスと対峙した者達の『心』の事だ。
――ガイウスに挑んだ闘士の中には死亡した者もいる――が。別に全員が試合中の死亡となった訳ではない。生き残った者も当然いるものだ。
されど、生き残った者の中にはあまりに別格の強さに心が折れた者もいる。
もう一度ガイウスと戦う事は御免だとする者も――いるぐらいで。
だからこそ死んでも尚立ち向かってくるイレギュラーズは、好ましい。
対戦相手の心を折るなど本意ではないのだ。己を高める為にも、敵は必要。
「どうしたの、楽しいの? ガイウスさん」
「――さて、どうかな」
直後。刃を降り注がせてきたのは現場・ネイコだ。
刃と金属の腕が交差し――激しい衝突音をかき鳴らす。
が、それでは終わらぬ。一撃で足りねば二撃目を、二撃で足りねば三を四を!
「何度もごめんね? 熱烈なアタックが忘れられなくてアンコールしに来ちゃった」
さすれば『なんちゃって』と言葉を続けるザミエラが畳みかける様に撃を。
それは細かい硝子片の粒子――否。
一つの巨大な硝子片だ。宙に浮かぶソレは只管に威力へと特化させた神髄。
ソレはザミエラの手の動きに呼応する。
彼女が振りかぶれば硝子片も共に動き、そして――
「当たって砕けろ、なんてね。お受けいただけるかしらラド・バウのジェントルマン」
射出されるように――投げ放たれた。
数多の攻撃を直撃に至らせぬガイウスは中々に負の要素を降り注がせる事すら難しい。いや盤石、堅牢たるその身にそもそも負の要素など齎す事が出来るのか――しかし悩む時間も惜しければ、投じる事としよう。
戦いを続け彼の口を割る為に。彼の口の滑りを良くする為に。
「――ふッ」
直後。ガイウスはザミエラの硝子片を真正面から受けて立った。
短い呼吸音。
共に放たれる拳の一閃が炸裂すれば――衝突音の直後に、硝子がひび割れる音が響きて。
「──やれやれ参ったな、一矢報いてやろうという気概は合ったのだが」
であれば吐息零す様にベネディクトは眼前を見据えるものだ。
――ガイウス・ガジェルドは崩れない。
これだけの人数差を前にしても尚彼の勢いは衰えず、息を切らす様子すら見えない――
その在り様、正に武神が如く。
「この国では強さこそ貴ばれる。
これだけの強さを持つなら尚……闘士ガイウスに期待を抱く者が多いのも無理は無い」
自分達が認める男こそ、皇帝に相応しいと考える者も居るだろう。
しかしだからこそ問うておかねばならぬと、彼は再び刀を構える。
硝子砕け散り、陽光の光が乱反射する――その場にて。
「ガイウス、貴方の真意を問いたい。貴方は今後、どう動く心算だ」
呼吸整え、体に宿すは竜の力。
拳を放った直後の刹那。見極め往くは問いと共に。
「軍閥を作り、その果てに――何を望む」
「……果て、か」
切り込む。伝説の、その胸元へ。
「そういったモノを考えるのだろうな――ヴェルスやザーバなら」
「――貴方は」
「俺はアイツら程『立派』ではない。ただそれだけだ」
同時にガイウスの右の拳もまたベネディクトへと迫る――
交差、被弾。されば互いより血が流れるものだ。
――如何な伝説と言えどやはり無敵でも神でもない。
傷つけば血を流す只一人の人間に過ぎない、であれば!
「キングクマさんは最強であっても無敵でないと、示してみせます!
――一人ではきっと怪我をすることもあるんです」
ハルツフィーネが畳みかける。そうだ――ガイウスはラド・バウの王であったとしても、全能の神でもなければ無敵の悪魔でもないのだ! 必ずつけ入る隙がある――
故に狙う。渾身の一撃を。
死間際の折であろうと諦めるものか。クマの口開き咆哮が生じれば衝撃波へと至る。
――それは威圧。超圧力とも言うべき波が至ればガイウスの天から降り注ぐ様に。
「リスクが高くても攻めなきゃ活路を見出す前に潰されるでしょう!
死に戻りなんて格好良くはないけれど利点は活かさなきゃね!」
そしてだからこそIgnatも往くものだ。
活路はある、諦めぬ事――臆さぬ事――その果てに微かではあるが。
刹那の隙をモノとして。差し込ませる大剣の斬撃の直後。
「流石のチャンプ……いや、今は違うんだろうけど。
とにかくこういう戦い方をするヤツは流石に出会ったことはないんじゃない?
吹き飛べ! FIRE IN THE HOLE!」
「ぬっ――」
Ignatは女性の身から即座にカニの姿へと変質する。
それは彼の力の一端。近接を行ったかと思えば、離れて穿つは主砲より。
――斉射三連。直線状の物体を焼き切り穿ち貫きて、走りて駆け回り彼は往く!
「ほう。姿を自在に……いや二種か? ともあれ変えるとは面白い奴だ」
「視えたッ! 余所見は厳禁だよ、ガイウスさんッ――!」
二斉射を撃ち落としつつ、彼方にいるIgnatの動きを遠く見据え――
その刹那、出来た死角をスティアは見逃さなかった。
幾度倒されようと諦めぬ。肉体が限界を迎えようとも魂魄にはヒビの一つも入らぬ。
間隙縫うは左手より放つ神速の――居合。
常にガイウスの注意を逸らさんと彼女は行動し続けていた。その彼女が踏み込んだ一閃は正にこの局面の為にとっておいた――全身全霊。
鍔鳴らす音。氷の花弁が舞う音。
敬愛すべき叔母の動き。瞼を閉じても思い起こせる鮮烈なる景色を――
今こそ、己が。
「見事だ」
瞬間。見えたのは――ガイウスが回避する仕草。
常に受け止め、弾き、凌いで来たガイウスが――芯に当たろうとした一撃を躱した。
それは追い詰めているという事の証左か? と問われれば。
「お前達は強い。力のみならず、技も心もある」
間違ってはいないが間違っている。
ガイウス・ガジェルドは手など抜いていないが――しかし。
「俺はそういう奴らが好きだ。だからこそ共に誘いたい――」
「……誘う? 何に?」
「俺と共に祭りに興じないか」
それはある意味で派閥への誘いであり、しかし違う。
派閥と言っても上下の関係はない。ただ祭りに参加する同志、或いは仲間として。
「混沌とした世情だからこそできる事がある。
今の、この国だからこそ出来る事がある――
鋼鉄の国で多数の者らが戦う。身分も何もなく、全員が祭りに興じると。
『今だけ』がヴェルスにもザーバにもしがらみなく挑めるのだと。
アイツは俺にそんな事をのたまった」
一息。
「俺は夢を見た」
同時。ガイウスは語る。
「ヴェルスが帝位につき、ザーバが軍の長として、そして俺はラド・バウに……
そんな夢を見た。この国で武を極めた連中が、しかし誰も交わらぬ線の上にいる。
――それはいい。いいのだろう、この国にとっては」
だが。
「だが俺にとっては――強者と永遠に戦えぬ景色にしか見えなかった」
「……ザーバに挑めば混乱が。ヴェルスに挑めば帝位の問題が付きまとうから?」
「ああ、そうだ」
現場・ネイコの言にガイウスは頷く――
夢。夢とは言っているが……それは『現実』の世界の話なのだろうか?
――どこからかガイウスに現実の情報が流れ込んだ――?
だからガイウスは。
「今しかないと思った。今ならばヴェルスに挑もうが皇帝に直結するわけではない。
これほどの混乱がある情勢下であればザーバが倒れようと同様に」
「それは一体誰の入れ知恵ですか?」
「勘違いするな。俺は俺の意志で此処にいる。俺は俺の意志で名乗りを挙げる。
そこに誰かの意志など介在しない……
選んだのは俺であり、これからも俺の魂は俺だけのモノだ」
キングクマたるガイウスに言葉を繋ぐハルツフィーネ、だが――
ガイウスの瞳には力がある。彼は、おかしくなっている訳ではない。
彼は彼の明確なる意志によって祭りに興じようとしているのだ。
鋼鉄なる国で行われている闘争に。
――フルメタル・バトルロアに。
「万が一俺が勝ったなら、何もない。
ただ何もない地平が生まれるだけの話だ……
その地平で誰ぞが勝手に皇帝になればいい。俺は……そうだな、旅にでも出るか」
「――そこに正義はないんだね」
「最強になっても、この国を引っ張って行くつもりはないって事かな?」
「ああ。そういうのが欲しければ、ヴェルスなりザーバと共に行け。
アイツらなら上手くやるだろう」
スティアとIgnatの言葉。反応し、しかし終わりを皮切りに――彼の五指に力が籠められる。
ただそれだけで『周囲』がざわめくものだ。
観客が、精霊が、大気が危機を感じている――
アレを受ければ死ぬ、と。
幕を引くつもりか、この戦いに。
今までイレギュラーズ達は全力を見せ続けた――
そして今、今度はガイウスが全力を見せようという訳か。
彼は手を抜いていた訳ではない。大技を温存し、様子を見ていただけで……
「フフフ……成程。ただただひたすらに最強を目指す為だけ、かの」
その時。含み笑いをする様に言葉を紡いだのはフー・タオで。
「共に来いと、言ったその言葉に嘘はないのかの?」
「嘘も真実もない。好きにしろ、というだけだ」
「なるほど――あい分かった」
相手の事を測っていたのはガイウスだけではない。この者がどういうものかと、測っていたのはフー・タオも同様で――と、その刹那。
「……偶にはな。格式ある闘技場より――
全て無用の路上の喧嘩(ストリート・ファイト)も、悪くはないものだ」
ガイウスの、鉄の如き表情の口端が微かに崩れる様に。
笑みの色が零れていた――様な気がした。
直後。
閃光よりも早い拳の『圧』が、万物を薙いだ。
●
「さぁってと……ちょいと失礼するぜ、ガイウス」
リング上での死闘がクライマックスを迎える頃――パルスにライブを自然と任せたアーロンが向かったのは、控室の奥の方だ。特に本命たるはガイウスの部屋。
誰かしらヤツに接触した痕跡があるなら、あるいはヤツの行動の軌跡があるのなら何かしらの手がかりがある筈だ。そしてそれを見つけることが出来れば――次に繋がるはずだ。
「……んっ、なんだこりゃあ?」
と、その時。
アーロンが見つけたのは一つの――紙切れだ。
手紙、とは言い難いか。何かの切れ端を再利用した程度の雑な……しかし。
『――貴方の本懐を遂げるなら今しかない。永遠に戦えぬ煉獄の中にいたいですか?
本日は良い夢が見られますように。 ……貴方だけのピエロより♪』
妙な言葉が掛かれている以上――これは手紙と見るべきだろうか。
やはりガイウスは何者かの接触があったという事か――? いやこれだけではまだなんとも言えないか。皆と合流し、情報を精査してみるとして……
それはそうと。
「なあ、ガイウス?」
お前はきっと。
たとえこんな電脳であろうと――真のチャンピオンだろう?
直後、アーロンは聞いた。ラド・バウのリングの方から勝敗を告げる音が響くのを。
妙な手紙を内容だけ記憶に刻み、誰ぞが帰ってくる前に退出するとしよう。
――ガイウス・ガジェルドの派閥結成が噂ではなく明確な情報として流れるのは――そう遠い未来の事ではなかった。
成否
成功
MVP
状態異常
あとがき
依頼、お疲れさまでしたイレギュラーズ。
ガイウスの目的は現実には起こらなかったカードの実現。
しかしはたしてその『現実』を齎したのは……?
いずれまた。ありがとうございました。
GMコメント
●依頼達成条件
ガイウス・ガジェルドの真意を問う。
また、彼の勢力があるならばその規模を情報収集する。
●フィールド
『鋼鉄』に存在する大闘技場ラド・バウ内です。
主に二つのフィールドがあります。
1:闘技場リング
2:闘技場外(観客席・選手控室・その他)
どちらかのフィールドをお選びください。
●闘技場リング【戦闘ルート】
ガイウス・ガジェルドとラド・バウ内で戦闘を行うルートです。
今回の試合はなんと外部からの特別招待試合。
――つまり皆さんは破竹の勢いを続けるガイウスとの戦闘に招待されました。本来は多数vs多数というお祭りの様な特別複数戦を想定していたらしいのですが、ガイウスは誰かを連れてくることなく単独でリングに挙がっています。
皆さんはガイウスと戦闘を行いながら、彼と会話的接触を試みてください。彼が軍閥を作る真意ははたして何処にあるのか――
皇帝の座を狙っているのか。それとも何か別の理由があるのか。
……しかしガイウスは驚異的な強さを持っておりマトモに一対一で戦っては会話が続く間もなく敗れてしまう可能性が非常に高いです。作戦や連携などを駆使しながら全滅しない様に立ち回りつつなんとか彼から会話を手繰り寄せてみてください。
彼は今までの相手を瞬殺してきた人物であり、だからこそ彼と『戦える』力を示す事は、彼になんらかの興味を抱かせる節があるでしょう。
頑張ってみてください!
なお。万一死亡したとしてもゼシュテリオン軍閥のギア・バシリカのサクラメントから復帰でき、エクスギアによって射出され再びラド・バウ内に戻る事が出来ます。(到達まで多少時間はかかります)
再度戦線に復帰することがどう反応されるかは不明ですが。
ガイウスは恐らく黙々と戦闘を続ける事でしょう――
●闘技場外【情報収集ルート】
こちらは闘技場の外(観客席・選手控室・その他)で活動するルートです。
ガイウスが派閥を形成しているのならば、彼に賛同する闘士などがいたりするでしょう。彼の派閥がどれほどの勢力なのか、或いはその闘士に接触してみて実際に話を聞いてみるのも手かもしれません。
なお。ガイウスの派閥に参画しているのはA級以下の一部の闘士の様です。
後述のパルスなどがその一人なのだとか……?
●ガイウス・ガジェルド
鋼鉄最大の観光地にして民衆の娯楽である闘技場『ラド・バウ』のA級闘士。
参戦から浅いのでクラスこそ未だAに留まりますが、これまでの対戦相手を全て瞬殺してきた闘士であり、ファンからは既に最強の呼び名の高い男です。
戦い以外に然程の興味はなく、全く皇帝への野望等持ち合わせていないのですが、人々からは期待されている所があります――
そしてなんと驚くべきニュースとして【彼が皇帝騒動に関わる】という情報が流れてきました。実際に彼の周囲には、彼を様々な感情で見据える闘士たちが集まっているのだとか……
戦闘能力は正に驚異の一言です。
A級はおろかS級ですら彼と戦える者はいるのか……?
●パルス・パッション
未来のラド・バウアイドルです――現在はB級に上がりたての人物なのだとか。
ガイウスとの戦闘経験もあるそうですが、瞬く間に敗れてしまったのだとか。
それ故にか、ガイウスの目指す先に興味を示しているようです。
あくまで『興味』を示しているのであって心酔している様ではない、かと思われます。
また、彼女以外にも派閥に属する闘士が現場にはいるかもしれません――
●フルメタルバトルロア
https://rev1.reversion.jp/page/fullmetalbattleroar
こちらは『鋼鉄内乱フルメタル・バトルロア』のシナリオです。
・ゼシュテリオン軍閥
ヴェルスが皇帝暗殺容疑を物理で晴らすべく組織した軍閥です。
鋼鉄将校ショッケンをはじめとするヴェルス派閥軍人とヴァルフォロメイを筆頭とする教派クラースナヤ・ズヴェズダーが一緒になって組織した軍閥で、移動要塞ギアバジリカを拠点とし様々な軍閥と戦います。
・黒鉄十字柩(エクスギア)
戦士をただちに戦場へと送り出す高機動棺型出撃装置です。
ギアバジリカから発射され、ジェットの推進力で敵地へと突入。十字架形態をとり敵地の地面へ突き刺さります。
棺の中は聖なる結界で守られており、勢いと揺れはともかく戦場へ安全に到達することができます。
・移動要塞ギアバジリカ
クラースナヤ・ズヴェズダーによって発見、改造された古代の要塞です。
巨大な聖堂が無数に組み合わさった外見をしており、折りたたまれた複数の脚を使った移動を可能としています。
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