シナリオ詳細
酒商人ベイコルの憂鬱
オープニング
●酒商人の悩み
酒商人ベイコルは悩んでいた。
幻想においては無名というわけではないが、有名には及ばず。
扱う商品は質は悪くないが、最高級というには及ばず。
中々チャンスには恵まれず、しかし大きな失敗をするわけでもなく。
しかし、しかしだ。
今ベイコルの商会の倉庫に積んであるのは、そんなベイコルの状況をちょっとは改善してくれる品なのだ。
「……どうですか?」
「うむ、確かにチョウヤン酒だ。よく手に入ったね?」
「今年の仕込み量が多かったらしく、少量ではありますが手に入れることができました」
ベイコルに幻想貴族の遣いは「そうか」と答え、何度も頷く。
「これには旦那様もお喜びになるだろう。趣味の少ない方だが、梅には目が無くてね」
「ファーマイン卿のお噂はかねがね……」
「うむ。ではしっかりと運んでほしい。本物であれば言い値で買うと旦那様は仰せだった」
「は、はい! ありがとうございます!」
ようやく運が向いてきた。そう考えガッツポーズをするベイコルに、幻想貴族の遣いは「そうそう」と思い出したように告げる。
「分かっているとは思うが、チョウヤン酒は樽から漏れる香りですらモンスターを魅了する……本当にしっかり頼むよ?」
「……はあ?」
「無理なら早めにそう言いたまえ。君の評価は下がるが、運べる商会に仲介しよう」
●酒商人からの依頼
「まあ、そういう理由で依頼に繋がったってわけです」
『旅するグルメ辞典』チーサ・ナコック(p3n000201)はそう言うと、地図を机の上に広げる。
この町からファーマイン卿の遣いが指定した屋敷のある町までは、馬車を使えばおよそ3日。
勿論、これは道中に何事も無ければ……という前提がつく。
実際にはこの道中、「何か」が起こることはほぼ確定している。
「ゴブリンが結構な数ウロウロしてるです。それと……」
近頃、大人1人程の大きさの怪鳥のようなモンスターも複数飛んでいるのが確認できている。
襲われた衝撃で酒樽が割れたりでもしたら大損害だ。
「盗賊が出るって話もあるです。チョウヤン酒はかなり香りが強いのと高く売れることで有名ですから……場合によっては狙われるですね」
道中の危険はいっぱいだ。
樽1つでも割れれば大損害。それでも1つでも樽を届ける事が出来れば依頼は成功だ。
しかし、しかしだ。
「ま、出来ると信じてるです。怪我しねーように帰ってくるですよ」
チーサはそう言うと、軽く頭を下げるのだった。
- 酒商人ベイコルの憂鬱完了
- GM名天野ハザマ
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2021年08月12日 22時05分
- 参加人数8/8人
- 相談5日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(8人)
リプレイ
●馬車は進む・1日目:朝
ガタゴト、ガタゴトと馬車は進む。
しかし、酒商人ベイコルが用意した馬車ではない。
『私の航海誌』ウィズィ ニャ ラァム(p3p007371)の用意した幌付きの馬車「ストレイシープ」、そして『甘いくちどけ』金枝 繁茂(p3p008917)の用意した馬車が街道を進んでいる。
ベイコルが予定していた馬車よりもずっと立派なもので、ベイコルは驚いた様子だった。
「こんなものを用意するとは……流石ですね」
「剥き出しでは盗難や襲撃による破損が怖いですし、匂いも撒き散らさなくて済みますし……この時期は樽が直射日光を浴びるのも宜しくないでしょうから」
「確かに。樽はちょっとしたことで破損してしまいますからな」
特にチョウヤン酒は香りが他の酒と比べても非常に強い。
幌付きの馬車であれば、多少はどうにかできるだろうと……そんな目論見がウィズィ達にはあった。
「我々が休むのも日陰の方が良いでしょうしね」
そう、ウィズィ達は時間ごとでチーム分けを実施している。
『にじいろ一番星』ルシア・アイリス・アップルトン(p3p009869)、『めいど・あ・ふぁいあ』クーア・ミューゼル(p3p003529)、『狐です』長月・イナリ(p3p008096)は朝からお昼過ぎまで。
ウィズィ、『慈悪の天秤』コルネリア=フライフォーゲル(p3p009315)、『黒靴のバレリーヌ』ヴィリス(p3p009671)は昼過ぎから夜まで。
繁茂、『希うアザラシ』レーゲン・グリュック・フルフトバー(p3p001744)は夜から朝まで。
こうして、上手く分担しやっていこうという策なのだ。
「荷馬車に揺られて旅をするっていうのちょっと憧れてたのよね」
故に、今の時間帯はウィズィもヴィリスも幌馬車の中であり……ヴィリス自身、実にのんびりとした様子だった。
「チョウヤン酒……最高級の梅酒、でしたか」
この時間担当のクーアは、馬車の御者台に座りながらそんな事を呟く。
「……もらえたりしないのです? 無理なのです? 依頼報酬にモノを言わせても足りないのです?」
「あー、それは……」
「……駄目そうなのです?」
「申し訳ない。私が仕入れられたものは全部納入先がお買い上げでして……」
本当に申し訳なさそうに言うベイコルに、クーアは本当に残念そうに溜息をつく。
意外に酒豪なクーアはチョウヤン酒にかなり興味があったのだが……手に入らないものは仕方がない。
「今度手に入りました際にはご連絡いたしましょう。まあ、上手くいくかは分かりませんが……」
「絶対ですよ⁉」
途端に元気になるクーアにベイコルは「あ、あまり期待なさらず……」と答えるが、ともかくクーアの機嫌も無事に上向いたようであった。
「チョウヤン酒……大きくなったらひと口だけでも飲んでみたいのですよ」
「梅酒の中では最高級といいますからねえ……私自身、飲んだことはないのですが!」
ハハッと笑うベイコルにルシアもつられたようにクスクスと笑う。
チョウヤン酒は飲めないが、この仕事が無事に終われば梅ジュースはご馳走して貰える。
それを思い出しながら、ルシアは「梅ジュースも楽しみです」と言って。
「梅ジュースか、依頼を成功させて、仕事終わりの一杯、って感じで楽しみたいわね……よし、頑張るわよ!」
イナリがルシアに答えるように気合を入れ直す。
「でも、確かに香りは強いのよね……」
この香りがモンスターをおびき寄せるというのであれば、モンスターにも分かる程美味い酒ということなのだろう。
そんな事を思いながらイナリは馬車を止める。
ファミリアーによって感知したのは、ゴブリンの群れ。
何かの香りに惹かれるかのように歩いてくるその集団は……間違いなくイナリ達のいる方向へ向かってきていた。
「正面からゴブリン5匹。10分かからずここまで来るわ」
「正面ですか……回避は難しそうなのです」
「そう、ね」
「となると……なるべく突出して荷馬車の遠くで戦端を開くことで、極力荷馬車の方に流れ弾が行かないようにするのです」
頷きあうと、クーアは馬車を降りて走り出す。
その先には、ゴブリン達の姿。
何かを感じたのか走ってくるゴブリン達に……クーアは「ふぁーれ」を放つ。
「こと高速戦闘においては、ねこたる私に一日の長あり。たとえあなた方が売って来た喧嘩であろうと、先手を握るのは常に我々なのです!」
足元を執拗に狙う光弾にゴブリン達は浮足立ち、それでもチョウヤン酒の香りに惹かれるのかクーアを睨みつける。
しかし、そこまでだ。
「それ以上近づくのはダメでして!」
クーアの魔砲が、イナリの乱炎迦具土神がゴブリン達を蹴散らし……あっという間に殲滅される。
「香りが相当遠くまで届くのね……」
「幌馬車にしたのは正解だったのです」
戻ってくるクーアを迎え入れながら、イナリとルシアは小さく息を吐く。
どうやら、この旅は穏便にすまないことが確定したようであった。
●馬車は進む・2日目:昼
「荷運びねぇ……いいなぁ酒、飲みたいなぁ酒、仕事じゃなければなぁ!!!」
「お酒を飲める歳ではまだないから味はわからないけれどお高いお酒なのでしょう?」
「みたいねぇ!」
冗談交じりにやさぐれたような言い方をするコルネリアに、ヴィリスはクスクスと笑う。
「なら、しっかり運ばないといけないわね。私より2人の方がお仕事できそうだけれど私もできることをするわ!」
「あはは、その辺はともかく頑張るとしましょうか」
御者をしていたウィズィが笑い、コルネリアも「そうね」と頷く。
「ま、こなしたらどっか飲みにいきましょ」
「いいですね!」
「約束よ」
コルネリアのそんな提案にウィズィもヴィリスも賛成し、ベイコルが「青春ですなあ」などと少しズレた感想を漏らす。
昼を過ぎてガタゴトと進む馬車は何度かの戦闘を経ても平穏で、馬車の中からは夜担当の繁茂やレーゲンの寝息が聞こえてくる。
「ま、今のところたいした障害がないのは僥倖ですかね」
「私にとっては結構な障害なのですが……」
朝にイナリが強化したファミリアーで完璧な監視体制を敷いていたように、ウィズィもファミリアーとエコーロケーションの組み合わせで周囲の警戒を怠ってはいない。
怪鳥であろうとゴブリンであろうと盗賊であろうと、この警戒網の前では隠れている事は不可能だろう。
「ふぁぁ……ねっみぃわねぇ。ガタゴト馬車の旅も楽じゃないのだわ。しかしこの酒ってそこまで高価なものなのねぇ、確かにすごい香りが強いけれど。いつか飲んでみたいけど……」
「手に入れるのが難しいんだったかしら」
コルネリアとヴィリスに聞かれ、ベイコルは頷く。
「ええ。生産量が限定されている上に大手の商会が買い占めてしまいますから……」
「と、これは……」
ウィズィが馬車を止め、上空を見回す。その方向をコルネリアとヴィリスも見て納得したような表情になる。
「どうやらお仕事ですよ。コルネリア、ヴィリスさん!」
「……無駄話はここまで、話通り嗅いできた奴等がおいでなすったわね。馬車に触らせる前に風穴あけてやらぁな! 後ろは任せなウィズィ、ヴィリス!」
「ええ、頑張りましょう! 暴れられてお酒がダメになっても困るもの!」
右前方の空から飛来する怪鳥の群れ。
「空を飛んでいる敵にはハンターズね。逃がさないわよ!」
ヴィリスの召喚した血を好む『何か』達が怪鳥へと向かい、戦闘が始まっていく。
「さあ、Step on it!! 指一本触れさせませんよ!」
そして放たれるのはウィズィのラカラビにコルネリアのプラチナムインベルタ。
次々に落ちていく怪鳥達はアッサリと全滅し……ベイコルの驚いたような声が響く。
「おおお……朝も驚きましたが、また驚きました。なんともまあ……」
「樽には触れさせやしません。ご安心を!」
ウィズィはウインク1つして、再び馬車を操り始める。
まだまだ、旅は続く。だからこそ、気を抜きはしない。
「舞台は最後まで踊り切らないといけないものね。途中で投げ出すなんてもってのほかだわ」
そんなヴィリスの言葉が、ベイコルにはとても印象的だった。
●馬車は進む・3日目:夜
「梅酒……レーさん梅酒飲みたいっきゅ。でもローレットの一員として護衛するお酒は飲めないっきゅ。それにお酒は飲まれるまで飲む派だから依頼中は甘酒以外飲めないっきゅ……悲しいっきゅ」
「まぁまぁ、梅ジュースも悪い物じゃないですよ。それに楽しい旅じゃないですか」
夜。野営中に何度目かのやさぐれた事を呟くレーゲンを、繁茂がそうなだめる。
本業が喫茶店員であるウィズィの好意によって2人には軽食が用意されており、夜営の慰めになっている。
喫茶店のフードメニューは彩りや盛り付けも大事ですからね、と言いながら作ってあるそれらは中々のもので……レーゲンも繁茂もひょいひょいと食べていた。
更にはルシアの用意したお菓子もあり、中々の贅沢な夜食ではあった。
「……レーさんが飲めないのに魔物や盗賊が飲もうとするのはおかしいっきゅ。レーさん達は頑張って全部の樽を守っても飲めないのに、それなのに向こうは一つでも奪ったり壊して飲めるっきゅ。おかしいっきゅ。こっちは頑張ってもジュースなのにずるいっきゅ」
しかしまあ、酒の恨みは怖いという。
襲ってくるだろう盗賊や魔物にレーゲンは怒りを滾らせており……それは同時にモチベーションにもなっているようだった。
「まあまあ」
言いながらなだめる繁茂はニコニコしながらもエコーロケーションを発動させており、どんな小さな音も見逃さないつもりだった。
「でも……みんなこのお酒が好きなんだね、お酒相手に対抗意識燃やしちゃいそう」
繁茂は馬車の中のチョウヤン酒へと視線を向ける。確かに強い香りのお酒だが……ここまでレーゲンがやさぐれるとは、そんなに凄いお酒なのだろうか?
テントで眠る仲間達も結構こだわっている者がいたし……酒の魔力とはそれだけ凄いのかもしれない。
……ちなみにだが、愚痴っているレーゲンもそれはあくまで表面上の態度だ。
睡眠不要、暗視を活かして寝ずの番をするつもりであったし……エネミーサーチと星灯りの光をONにすることで、夜襲をかけてくる者あらば即座に対応できる体制をとっていた。
……そして。何かにピクリと反応したレーゲンは、突然立ち上がる。
「レーさん眠いから仮眠するっきゅ!」
「はーい、いってらっしゃあい」
同じように何かに気付いた繁茂はレーゲンを見送る。
当然だが、レーゲンは仮眠になど行っていない。
仮眠している仲間達を起こしに行ったのだ。
そして当然、2人は周囲にいる者達の正体にも気付いている。
「ゴブリンかあ……」
欲求不満マンである繁茂は、盗賊だったらよかったのに……と不穏な事を呟く。
もし盗賊相手だったら第2ラウンドをやらかしていた可能性がある繁茂だが……あるいは、それを本能的に恐れて盗賊が近づいてきていない可能性もある。
ともかく……この旅の間、盗賊たちは1度たりとて襲撃をかけてこなかったのである。
●到着
「依頼、無事に成功でしてー!」
ルシアが叫び、グラスが打ち合わされる。
無事に相手先にチョウヤン酒を納品し終わったベイコルの好意により、現地の酒場の部屋を1つ貸し切りで梅ジュースパーティーが開催されていた。
「梅のジュースって初めて飲むから楽しみだわ!」
ヴィリスがグラスを傾け「結構好きかも」と漏らす。
「これ結構美味しいっきゅ!」
「梅ジュースとしては最高級に限りなく近いって言ってたのです」
「確かに美味しいわ!」
レーゲンとクーア、イナリが次々に賞賛の言葉を口にして、繁茂もほふう、と幸せそうな声をあげる。
「っふー! 梅ジュース美味しい……暑さが吹っ飛ぶ爽やかさ………美味しいんだれけど、でも! ずっと梅酒の香り嗅がされてたからこれじゃ収まらーん!! コルネリア! 酒飲むぞーー! うおおおーー!」
「いいねえ! 店員さーん、アタシらに酒! 梅酒な!」
「レーさんも飲むっきゅ!」
ウィズィが、コルネリアが、そしてレーゲンが叫ぶ。
「梅酒ですね! 今は時期ですから、美味しいですよ!」
「いえええええええい!」
呑む前からすでに出来上がっているのか、3人はそう叫び……クーア達が仕方ないなあ、と笑う。
「くはー! 美味しい!」
「飲まれるまで飲むっきゅ!」
ワイワイと騒がしいその光景は、まさに仕事の達成故のもので。
漂う梅の香りのように爽やかな……そんな、素晴らしい光景だった。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
コングラチュレーション!
見事に梅酒を届け終わりました!
GMコメント
チョウヤン酒を届けましょう。
チョウヤン酒は梅酒ですので、今が時期です。
そして、かーなーり、高いです。そして香り高く周辺のモンスターを引き付けてしまいます。
□運搬手段
自由です。何も指定が無ければベイコルの用意した荷馬車です。
街道をガタゴトと行くことになります。
無事に依頼を達成出来たら、チョウヤン酒には及びませんがベイコルが梅ジュースをご馳走してくれます。
●情報精度
このシナリオの情報精度はC-です。
信用していい情報とそうでない情報を切り分けて下さい。
不測の事態を警戒して下さい。
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