シナリオ詳細
<現想ノ夜妖>洋傘は花開き、怪人は雨に踊る
オープニング
●雨の帝都
しと、しと、しと。
静かな雨がぽつぽつと道を濡らす。
帝都の街を行くモダンガールたちがひらくのは、様々なカラァの洋傘だ。
赤、青、黄色。白に紫、桃、緑。様々な色が、華のように開き、くるりくるりと回り眩いて、一つの幻想の光景のように帝都を彩る。
――帝都の初夏。暑さと雨、そしてカラフルな洋傘に彩られた光景は、帝都の流行の最先端のそれだった。雨ともなれば、モダンガールたちはいそいそと自慢の洋傘を開いてアピィルする。自身が世界の最先端にいるのだと、自らの「御洒落」を世界に見せつけて、曇り空で灰色の世界を彩る。
ここはヒイズル。文明開化の音も遠くなりし繁栄の時代、時は諦星(たいしょう)十五年。しかして華やかなりしこの光景の中に、静かに蠢く一つの影。それは夜妖(ヨル)と呼ばれし異形の者。嗚呼、今宵もまた、夜妖はその牙を、市井の人に向けるのだ。
ここに一人の女性がいる。モダンガールたる彼女もまた、カラフルな白い傘を持っていて、くるり、くるりと傘を回しながら、踊る様に道を行く。
「~♪」
口ずさむのは流行歌。白い傘は、昨日買ったばかりのおろしたて。モダンガールたる所以である洋装は、珍奇な格好と白い目で見られることもあるが、しかし彼女は確かな信念と共にその格好をしていた。
いつしかもっと、この国も外の世界と交流を深める日が来るはずなのだ。その時に、自分もまた、最先端で文化を交流する担い手になりたい。まだあやふやな夢であったが、しかしそうなりたいという確かな思いは、そのきらきらとした瞳にうつっている。
――その先に、如何にも怪し気な男の影があった。深くかぶったフードのために、その顔は良く見えない。体を包むのは、真っ黒な、夜の闇のようなレインコートである。
「黒い、レインコート……?」
女性はその時、ハッとなった。近頃帝都を騒がせる怪人の類。その噂の姿に、それはまさしく同一のものであったからだ。
「傘欲しいかぁ」
レインコートの男が言う。傘欲しいかぁ、と女性に尋ねる。
女性は「ひっ」と悲鳴を上げた。ゆっくりと後ずさる。
「傘欲しいかぁ」
しかし次の瞬間、声は耳元から聞こえた。女性が驚きふりかえると、先ほどまで前にいたはずのレインコートが、女性の真後ろ、耳元のすぐ近くに顔を寄せていたのである。
「いやあっ!」
女性は思わずしりもちをついた。ぱしゃり、と水たまりが飛沫をあげる。
「傘欲しいかぁ、傘欲しいかぁ。
赤い傘やろうかい?
青い傘やろうかい?
白い傘やろうかい?
どの傘ほしいかい?」
レインコートの男が言う。女性は驚き、混乱し、声をあげる事すらままならなかった。
ずり、ずり、と後ずさる。腰が抜けてしまったのである。立ち上がって逃げる事すらままならなかったが、それでも、ずり、ずり、と、足を引きずって後ずさった。
「いや、いや……!」
だがやはり、怪異から逃れたるにはそれでは遅すぎた。
「時間ぎれぇ」
男が掠れたような声でそう言う。
「選べぬならば、全部やろうかい」
男はそう言うと、レインコートをばさりとはためかせた――。
●キネマの終わり、探索の始まり
カタカタカタカタ。
回る映写機がフィルムの終わりを映す。
「この後は……言うまでもないわよね? 女の子は殺されちゃって終わり」
高天京壱号映画館、その劇場の椅子に腰かけながら、そそぎは特異運命座標たちにそう言った。
「こうした事件が、次々起こる、と予知されているんです。今のは、ほんの始まりにすぎません」
精一杯、言葉を紡ぐのはつづりである。元より言葉数の少ないつづりである。このように多弁に語ろうと努力をするのは、事件の危険性を考慮してのことだろう。
「相手はレインコートの怪人……雨の降る夜に、洋傘をさしている人にむかって、傘はいるか、と尋ねるの。
赤が欲しいと言えば、血まみれになって殺される。
青が欲しいと言えば、氷漬けになって殺される。
白が欲しいと言えば、窒息して殺される。
答えなければ……全部をもらう」
「赤マントの怪人、と言う都市伝説をご存じでしょうか?
それに似たような分類の夜妖だと思います。
皆さんは、雨の降る夜に洋傘をさして、レインコートの怪人と接触。退治してほしいんです。
もちろん、次に雨の降る夜も、キネマで予言できますよ」
つづりが口早にそう言って、ふぅ、と息を吐いた。
「おつかれ、つづり。
そう言うわけだから……あなたたち、強いんでしょ? 速く解決して、モダンガールたちの安全を守って頂戴?」
そそぎが意地っ張りな様子でそう言った。特異運命座標たちは苦笑しつつ、作戦に取り掛かることにした――。
- <現想ノ夜妖>洋傘は花開き、怪人は雨に踊る完了
- GM名洗井落雲
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2021年07月31日 22時06分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
●雨と、傘
しと、しと、しと。静かに雨が降る。
月は雲に隠れ、薄暗い路地を、街灯がかろうじて照らしていた。
ふわりふわりと白い花が咲いた。くるりくるりと道の真ん中、花が踊る。いや、それは白い洋傘で、その傘を差す女性も、美しく輝く真っ白な髪を、夜闇に浮かび上がらせている。
――洋傘を差すときは、気を付けてお歩き。
街で噂される都市伝説。
――黒いレインコートの男が、傘が欲しいかと尋ねてくるよ。
多くの者が、子供だましと一笑にふすだろう。今は街灯が世界を明るく照らす世代、そのような怪談などは、現実ではなく娯楽に過ぎない。
(……けど、今回のは本物、なんだよねぇ)
洋傘の女性、『ホワイトカインド』ホワイティ(p3x008115)が胸中で呟いた。ちらり、と傘の影から小道を覗くが、辺りには人っ子一人見当たらない。ホワイティは特異運命座標……つまりR.O.Oのプレイヤーとして、件の黒いレインコートの男の討伐クエストを引き受けたのだ。
黒いレインコートの男は、夜妖と呼ばれる、現実にこの世界に存在する怪異の事だ。女学生の噂に登るような他愛のない怪談ではなく、隣にある現実の脅威なのだ。
ホワイティは、洋傘を差して歩くものを狙う、という夜妖の性質を鑑み、自身も白い洋傘をさしての囮を買って出た。真っ白な洋傘は、ゲーム内アイテムではあったがお気に入りのそれである。静かに降る雨に、これが仕事でなければ、傘を回して鼻歌でも歌って歩きたい所だが、そうもいかない。
わずかに、後背に気配を感じる。それは、ホワイティの仲間の特異運命座標たちで、囮であるホワイティを見守りながら、路地に隠れて追跡を行っている。
『赤 マント 人気 よね』
『不明なエラーを検出しました』縺薙?荳也阜縺ョ繝舌げ繧(p3x001107)がそう意志を伝えるのへ、『闇祓う一陣の風』白銀の騎士ストームナイト(p3x005012)は、ふむ、と唸った。
「そう言えば、つづりもそんなことを言ってたっけ。有名な奴なのか?」
「クエストを開始する前に、つづりさんとそそぎさんにアドバイスをいただきました。その際に聞いた程度ですが」
『月下美人』沙月(p3x007273)はそう言いながら、くるり、と青の和傘を回す。着ている和服と、辺りの西洋建築の対比も相まって、まさに大正浪漫、と言った雰囲気を醸し出していた。沙月は髪を縛って、男装をしていて、それがまた、普段とは違った印象を与える。
「なんでも、今回の夜妖と同様に、質問をするのだそうです。赤いマントほしいか、青いマントほしいか……ほしいと言えば、血まみれになったり、血を抜かれたり、溺死させられたり……このようなタイプの怪談は人気らしく、色々なバリエーションがあるとか。今回の夜妖も、そう言った怪談に影響を受けているのだろう、と」
『色々 あるよ 時代は ぐちゃぐちゃ だけど』
縺薙?荳也阜縺ョ繝舌げ繧の言葉に、ストームナイトはうへぇ、と唸った。
「そもそも夜妖が、現実だと再現性東京の怪異だからなぁ。時代がごっちゃになってるくらいなら、もう驚きはしないな」
「そうだね。現実と虚構が混ざり合ってるような、不思議だけど何処か不気味な感じがするよ」
『そらとぶ烏』ヤーヤー(p3x007913)がそう言った。現実のカムイグラともまた違い風景を見せるこの国は、特異運命座標たちにとっても、まだまだ慣れぬ場所だろう。奇妙な感覚を覚えても仕方ない。
それよりも、自身の羽毛が雨に濡れる感覚の方が、なんだかくすぐったいというか、こそばゆいというか、奇妙な感じだった。
「色々気になることはあるけど、町並みや文化は素敵だと思う。
それを悪い夜妖が乱すというならきちんと解決しないといけないね」
「しかし、夜妖に言ってもしょうがないけど、この手の怪談は本当に理不尽だよね」
『ネプチューンライト』エール(p3x009380)が、些かむっとした表情で言う。
「何を答えてもダメ。答えなくてもダメ。まったく、理不尽だ。ボク一人だったら、あえて何も答えないで殴り返す所だよ」
「ふ……頼もしいな」
『蒼竜』ベネディクト・ファブニル(p3x008160)が微笑った。
「俺としては、女性に囮を頼まねばならないのは業腹だよ。割り切らねば、とは思うが、性分だな」
「ああ、貴殿はそうだろうなぁ」
ストームナイトが頷くのへ、ベネディクトは、ふむ、唸った。
「……やはり、ストームナイト、君の立ち振る舞いは、どこか知り合いを感じさせる。
……ああ、何も正体を現せ、と言うわけではないよ。ただ、もし知り合いであったとしたら、こんなにも頼もしい味方はいない、と言う事だ」
「そっ、そうか? まぁ、私はあくまで白銀の騎士ストームナイトだ。貴殿の知り合いではないとは思うが、しかしその言葉、ありがたく頂戴しよう」
はっはっは、と乾いた笑いをあげるストームナイト。一方、『幸運の象徴』座敷童(p3x009099)が、「しーっ」と、唇に人差し指をあてた。座敷童は、燕尾服とハットを着こんで男装をしている。シュッとしたシルエットが、夜の闇に映えた。
「……妙じゃ、先ほどより寒くなっている感じぬか?」
その言葉に、エールがハッとした表情を見せた。確かに、先ほどよりも空気が冷たく、重くなっているのを感じる。
「本当だ……いくら雨で冷えてるとは言え、ゲーム内でも夏だ。こんなの涼しくなるはずがないよ」
「うむ……となると、釣れたかもしれんぞ」
闇夜に沈み込むような紺色の傘をくるりと回して、座敷童が言う。一方、ホワイティも、どこか肌寒さを感じていた。明らかに、先ほどより重くなった空気。何処か息苦しさと居心地の悪さを覚えた瞬間。
「傘欲しいかぁ」
と。
ホワイティの耳朶を、しゃがれた声が震わせた。
気づけば、目の前に、黒いレインコートの男が立っていた。
「傘欲しいかぁ。傘欲しいかぁぁ。
赤い傘やろうかい?
青い傘やろうかい?
白い傘やろうかい?
どの傘ほしいかい?」
ホワイティは、決心した表情でゆっくりと傘を閉じた。その傘を、道のわきに立てかけて、すぅ、と息を吸う。
「赤い傘が欲しいねぇ」
そう言う。こう答えた後の結末を、ホワイティは知っている。
赤い傘が欲しいと答えたなら。
血まみれになって殺される。
「赤い傘やろうかぁ」
ざわぁ、と。
空気が粟立つ。
黒いレインコートの男がわずかに身をかがめると、途端! 人間業とは思えぬ速度でホワイティへ向けて駆けだした!
黒いレインコートの隙間から、なにかが街灯の光を浴びてギラリと輝いた。それは、あまりにも鋭くとがれた、大きな和包丁のような刃物である。
ひゅう、と刃物が空を切り裂いた! 反射的に、ホワイティがその左手を首元に掲げる。刹那、ぎぃん、と音を立てて、ホワイティの左手の手甲がナイフを受け止めた。いや、僅かに刃が食い込んでいる。衝撃と、鋭い痛み。左手首から、どぷ、と血が流れだした。だが、ホワイティは、にやり、と笑うと、
「残念。赤い傘はささないよぉ。
わたしは白き騎士。この傘も体も、赤に染められるものなら染めてみろ!」
ホワイティが吠えた瞬間! 物陰から一気に仲間達が飛び出す。この時、やはり真っ先に敵へと攻撃を仕掛けたのは、座敷童だった!
「淑女に傘を貸すのは紳士的な行いだ。が、そんな傘は誰も喜ばぬよ」
蹴り上げられた蹴鞠が、雨の中を黒い炎を揺らして、揺れながら進む。幻惑のそれは、鋭い勢い殺さぬまま、レインコートの男、すなわち夜妖へと突き刺さる! 腹部にたたきつけられた蹴鞠、夜妖の身体がわずかに浮くのへ、ホワイティはそれに合わせて盾を取り出し、構える。
「私がさすのは、陽光の剣と灰の大盾。さぁ、戦闘開始だよぉ!」
ホワイティが剣を掲げた! 暗い夜空を照らす陽光の輝きが、灼熱の光線とかして夜妖を狙う! ぎぃ、夜妖は呻いた! その身体に纏うレインコートが、炎にばぢばぢと音を立てて溶けていく。
果たして、その中に合ったものを、特異運命座標たちは認識することはできない。何か、黒い人型のようなものだとは理解できたが、顔はレインコートを被っていた時と同様に暗く見えず、シルエットも、男である、と言う事は解っても、その詳細は判然としない。
『ヒヒ なあるほど 君は そういうもの なの か』
縺薙?荳也阜縺ョ繝舌げ繧が意思を伝える。夜妖がひるんだすきをついて、特異運命座標たちは夜妖を包囲した。追い詰められた夜妖は、闇色の顔の、真っ暗な口を開いた。
「傘、いるかぁ!」
じり、と夜妖が身構えたように感じた瞬間、特異運命座標たちは一気に走り出していた。
●雨夜の怪人
「明るい未来を夢見る女性を恐怖に陥れ、命を奪う妖よ! その悪行、決して許されぬものと知れ!
雨降る夜に静けさをもたらす者、ストームナイト! ここに推参!」
ストームナイトが、野暮ったい変装用のコートのすそをたなびかせながら走る。胸に輝く、なんか気分が悪くなる青く輝く石を光源代わりに、夜妖へと斬りかかった! 上段から振るわれる刃。夜妖は、手にしていたナイフを掲げてそれを受け止めると、まるで夜の闇に溶けるように背後へと引いた。同時に、
「傘、欲しいかぁ!?」
問いかける。
「あいにく傘は間に合っているのでな。結構だ!!
そもそも、だ……貴様の選ぶような傘では、センスがなかろうからな!
だが、どうしてもと言うのなら、赤を所望しよう!」
しぃいい、と空気を吐くような音をさせながら、夜妖が跳ぶ。手に鈍く光るナイフ。血まみれにして殺すための刃物。振るわれたそれを、ストームナイトが手にした剣に手はじき返す!
「ベネディクト殿!」
「承知した! 女性を襲う不埒な夜妖よ、今宵にて貴様の所業は此処までだ!」
ベネディクトが手にした竜刀『夢幻白光』と共に夜闇を走る。竜が住まうと伝承される刃が、街灯の光を受けて清廉に輝く。横なぎ振るわれた刃が、夜妖の腕を捉えた。人体を斬った感覚ではない。なにか、すかすかとしたものを切り裂いた感覚。致命傷には遠い、と本能的に察した。
「やはり……生物ではないな……!」
ベネディクトが確信した様子で言う。
「二人とも下がって! 範囲で薙ぎ払うよ!」
ニールの言葉に、二人が後方へと跳躍する。同時、空に巨大な魔法陣が描かれ、その中心に光が溢れるエフェクトが発生した。ニールのスキルである。
「さあ、星の光に惑うといい」
言葉と共に、手にした魔力増幅器を振るう。途端、光の柱が降り注ぎ、夜妖ごと周囲を飲み込んだ! じゅう、と夜妖の身体が焼ける音がする。シイイッ! 夜妖は悲鳴を上げながら、己の身体をギリギリとかきむしった。狂気に囚われたが故の自傷行為の隙をつき、一匹の鳥、ヤーヤーがフライパンを掴んで飛翔する。
「この世界でも、夜妖は怖いね……!」
若干皮膚にざわざわとしたものを感じながら、ヤーヤーはフライパンを構えた。フライパンが雷を纏ったエフェクトを放ち、振り下ろされたフライパンが、夜妖の身体を打ち据える! ぼんっ、とさく裂するような音が響いて、夜妖の黒い闇のような体がわずかに爆発した。集まった闇を散らされるかのような一撃に、夜妖がこの時、初めて悲鳴を上げた。
「シィィィィッ!!」
夜妖が叫び、その黒の口を大きく開いた。ぎらぎらと輝く、汚れた歯だけが闇に浮かぶ。夜妖の闇の身体がぶわり、と膨らんで、闇が巨大な刃を形成した。神秘的な力を感じるそれが、特異運命座標たちを薙ぎ払うように大きく振るわれる。
「くっ……!」
ホワイティが飛び出す。掲げた大盾が、仲間達を守る様に輝いた。斬撃をその楯に受けたホワイティは、自身のHPが強烈に減少するの感じた。強烈な一撃だ!
「けど、このくらいじゃやられないよ……っ!」
ホワイティは痛みに耐えつつ、さらに盾を持って立ちはだかる! 夜妖から振るわれる、神秘の闇の刃が、ホワイティの身体を強かに打ち据えた!
「それ以上はさせません!」
沙月が攻撃を止めるべく、軽やかに踏み込んだ。一息に夜妖の前へと接近するや、流麗なる拳の一撃を繰り出す。流れる水のようなそれが、夜妖の身体を捉えた。ずぶり、と何か柔らかいものを叩くような感覚。気持ち悪さを覚えつつ。
「ふっ――はぁっ!」
鋭く呼気を吐きつつ放たれる、二連撃の拳。間髪入れずに撃ち込まれるそれが、夜妖の身体を打ち抜く。手ごたえはやらかかったが、打撃を与えた確信はある。
「傘、いるかぁ」
夜妖の問いに、
「では、青い傘を!」
貫くような拳を当てながら、沙月が答えた。途端、突き出した右腕に痛みが走る。がり、がり、と音を立てて、さながら製氷室に霜ができるかのように、白い氷が自身の腕を侵蝕していることに気づく。
「これが……!」
『下がって』
縺薙?荳也阜縺ョ繝舌げ繧が声上げると同時に、沙月は後方へと逃げ去った。入れ替わる様に、ぐちゃぐちゃになったテクスチャがあたりを埋め尽くす。もはや表現不可能なほどに歪みバグった何かがその地を蹂躙する。縺薙?荳也阜縺ョ繝舌げ繧の放つスキルだが、その正体不明の一撃は、夜妖にはどういったものなのかは認識できなかっただろう。
口という口が開き、キャラキャラと笑う。
「これで……!」
ヤーヤーが叫びながら、フライパンで追撃を仕掛ける。ぼん、とさく裂する雷、夜妖の身体がぼやり、と薄ぼける。
「傘、いるか……ぁ!」
「し、白い傘!」
ヤーヤーが叫ぶと、途端、息苦しくなるのを感じた。不可視の腕が、自分の首のあたりを締め付けているのだと気づいたヤーヤーが、激しく頭を振りながら飛びずさる。
「イイイイィィ!!」
特異運命座標たちの攻撃に、夜妖の身体が崩れかけているが分かる。夜妖は必至に神秘的な闇の刃を大きく振るって攻撃を仕掛ける。ホワイティがそれを受け止め、仲間達を守り続ける!
「たわけめ! 男装したわらわの正体すら見抜けぬような輩に、わらわたちが負けるものか!」
座敷童の蹴鞠が、再び夜妖を貫く! 足止めされた夜妖へ、ストームナイトとベネディクトが、
「これで!」
「トドメだ!」
合わせるように、刃を振り下ろした。途端、夜妖の身体の闇が、激しく震えた。破裂するように膨らみ、伸縮するのを何度も繰り返し、それはさながら沸騰して泡を吹くかのようにも見えた。
「傘、傘ァァァ……!」
夜妖が悲鳴をあげる。途端、はじけるように、その身体が爆散した。その闇は、夜の闇に溶けるように消えて、最初から何もなかったかのように、後には何も残らなかった。
●雨の帝都
「……冷たっ」
と、エールが呟いた。先ほどまでは戦いに集中して感じなかったが、そう言えば雨が降っていた。頬を濡らす雨の感覚を改めて思い出して、エールはぼやいた。
「これで終わり、かな」
その言葉に、仲間達は頷く。その通りで、先ほどまで感じていた、不気味で奇妙な雰囲気のようなものは、この地から綺麗に取り払われていた。冷えて居たように感じた空気も、夏の暑さに切り替わって、肌をじわじわと温め始める。
「結局……夜妖だった、と言う事しかわからなかったな。
なんだったんだろうな、あれは」
ストームナイトが言うのへ、
「なぜ、洋傘をさすものを狙ったのでしょう?
無念を抱いたが故の事なのか、それとも伝承により歪められてしまったのか……?」
沙月が続く。しかして、考えても答えの出るものではないのだろう。
『怪奇 不明 それこそが ああいうもの』
縺薙?荳也阜縺ョ繝舌げ繧がそう告げる。
「現実の夜妖もよくわからないんだ。R.O.Oのなんて、きっと余計に訳が分からないよ」
ヤーヤーの言う事ももっともである。
「R.O.O、ヒイズルの調査をする以上、夜妖との闘いも続いていくのだろうな」
ベネディクトがそう言うのへ、仲間達は頷く。正体不明。真意も不明。戦いづらい相手だが、決して勝てない相手ではないという事が、今回のことからもわかっただろう。
「……夜妖。そして、渾天儀【星読幻灯機】。本当に、不思議な事ばかりです」
沙月がそう言った。
「それより、これでようやく、心置きなく傘を差して歩けるねぇ」
ホワイティが言った。脇に置いてあった白い洋傘を拾い上げつつ、開いて、傘を差す。
ぱたぱた、と、雨が傘を叩く音が、戦いの後に心地よい。くるり、と回して、ホワイティは鼻歌などを歌ってみる。
「ふふん、ふ~ん……なんてね。やっぱり、雨の日も楽しまなきゃだねぇ」
「そうだね。
さて、皆はこのまま帰るかい? ボクは少し、この国の流行なんかを調べて帰るよ。少し興味があるからね。
どうせだから、傘も買って帰ろう」
エールがそう言うのへ、
「わたしは、さすがに疲れたからねぇ。今日はこのまま帰還(ログアウト)かなぁ」
ホワイティが笑う。
「では、ここで解散と言う事だな」
ベネディクトの言葉に、仲間達は頷いた。
雨の降る中、特異運命座標たちはそれぞれの帰路へと着く。
『雨 雨 降れ 触れ?』
夜空のような傘を差しながら、縺薙?荳也阜縺ョ繝舌げ繧はそう言った。雨雲の上にある星空を、傘に投影したような、藍色に、銀色をちりばめた傘だった。
雨の中、傘が舞う。
この路地も、これからいろいろな傘が舞うのだろう。
しかし、黒いレインコートの男は、もう二度と、現れない。
成否
成功
MVP
状態異常
あとがき
ご参加ありがとうございました。
帝都はこれからも、様々な傘の花が咲くのでしょう。
その光景を守ったのは、間違いなく皆様です。
GMコメント
お世話になっております。洗井落雲です。
レインコートの怪人を討伐しましょう!
●成功条件
レインコートの怪人の撃破
●情報精度なし
ヒイズル『帝都星読キネマ譚』には、情報精度が存在しません。
未来が予知されているからです。
●状況
R.O.O内、ヒイズルの国。此処には、航海国との交流により、和洋折衷の文化が彩る街の光景がありました。
しかし、ヒイズルには夜妖(ヨル)と言う怪物が、人々の安寧を脅かしていたのです……。
今回の夜妖は、「レインコートの怪人」。彼は傘を差す女性を見つけては「傘欲しいか」と問い、答えようと答えまいと、殺してしまう怪物です。
皆さんは、雨の降る夜の中、お気に入りの洋傘を差して、敵を探し、撃破するのです。
作戦開始時刻は夜。あたりは雨が降っていおり、すこし動きづらいかもしれません。また、街灯があるため、明かりに関しては基本的に問題ないものとします(持ち込めれば、さらに視界が確保できるかもしれません)。
●ROOとは
練達三塔主の『Project:IDEA』の産物で練達ネットワーク上に構築された疑似世界をR.O.O(Rapid Origin Online)と呼びます。
練達の悲願を達成する為、混沌世界の『法則』を研究すべく作られた仮想環境ではありますが、原因不明のエラーにより暴走。情報の自己増殖が発生し、まるでゲームのような世界を構築しています。
R.O.O内の作りは混沌の現実に似ていますが、旅人たちの世界の風景や人物、既に亡き人物が存在する等、世界のルールを部分的に外れた事象も観測されるようです。
練達三塔主より依頼を受けたローレット・イレギュラーズはこの疑似世界で活動するためログイン装置を介してこの世界に介入。
自分専用の『アバター』を作って活動し、閉じ込められた人々の救出や『ゲームクリア』を目指します。
特設ページ:https://rev1.reversion.jp/page/RapidOriginOnline
※重要な備考『デスカウント』
R.O.Oシナリオにおいては『死亡』判定が容易に行われます。
『死亡』した場合もキャラクターはロストせず、アバターのステータスシートに『デスカウント』が追加される形となります。
現時点においてアバターではないキャラクターに影響はありません。
●エネミーデータ
レインコートの怪人 ×1
今回遭遇する夜妖です。黒いレインコートを着た男のような外見をしています。
レインコートの中の姿は不明です。不定形な存在なのかもしれません。会話は出来ますが、意思疎通は出来ないものと考えましょう。
基本的には神秘属性の攻撃を多用します。EXAは高めのため、動き回って複数回攻撃を仕掛けてくることが予想されます。
また、以下のスキルを持ち、攻撃してきます。
スキル:問
「傘欲しいかぁ」と、PC一名を対象に問いを行う。返答によって以下の効果を発動する。
赤い傘が欲しい:物理属性の攻撃を行う。BSとして『出血系統』のBSを付与する。
青い傘が欲しい:神秘属性の攻撃を行う。BSとして『凍結系統』のBSを付与する。
白い傘が欲しい:神秘属性の攻撃を行う。BSとして『窒息系統』のBSを付与する。
答えない:物理属性の攻撃を行う。BSとして『出血系統』『凍結系統』『窒息系統』のBSを付与する。
以上となります。
それでは、皆様のご参加とプレイングをお待ちしております。
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