PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<現想ノ夜妖>戀示ス蝶

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●ふたつの噂
『ねえ、こんな噂知っている?』
『なぁに、また紅マントの話?』
『違うわよ、もっと新しい話。それはね――』
 艷やかな黒髪に、大きな蝶のような絹紐(リボン)を飾った乙女たち。彼女たちが話すのは、恋の噂、誰かの悪い噂、他の家の噂、デパアトの新商品の噂――それから、怪異の噂。
 カフェーで、ミルクホウルで、女学院で、デパアトで、乙女たちは噂話に花を咲かせる。
 噂話を咲かせれば、また次の噂話へ。蝶のようにひいらりと、乙女たちは噂話の花の間を飛び回る。

 ――ツマベニチョウをご存知?
 彼女はね、占い師なの。カフェーの隅で、客待ちをしている占い師。
 フードを深くかぶり、顔には面紗。その顔を知る者はいないけれど、占い師ってミステリアスなものでしょう?
 彼女が得意とするのは、恋占い。……というより、それしか受けないみたい。水晶を覗くでもジャラジャラした棒をかき混ぜる訳でもなく、ただこうして手を取って、爪を見て占うの。恋の行方がどうなるのか、苦しければどうすれば良いのか、的確な助言をくれるのよ。
 それから、これは彼女の厚意なのだけれど、成就が難しい時はおまじないの爪紅をくれるのですって。小さな小瓶に蝶が掘られた、真っ赤な爪紅。それで爪を染めていれば、恋はきっと叶うのですって。

 ロマンティックでしょうと言いたげに甘い吐息を零す乙女の眼前に座った乙女が、洋椅子(チェア)の下で交差させた袴から覗く長革靴(ブーツ)を組み替えた。
『あら、私は違う話を聞いたわ?』
『まあ、どんなお話?』
『恋が叶わないと、赤く塗った爪が爆ぜてしまうのですって』
『いやだわ、怖い。よしてよ、そんな話。折角のアイスクリンが不味くなってしまうわ』


 R.O.Oの新領域、華やかなりし帝都の夜が刻みし時は諦星(たいしょう)十五年。
 航海王国(セイラー)との貿易を営う彼の地、神光(ヒイズル)。現実では豊穣の地に値する国だが、豊穣とは違った在り方であると聞き早速ウサギのアバター 『ウサ侍』ミセバヤ(p3x008870)でログインした。
 木材よりもレンガが目立つ異国情緒溢れる町並みに、海向こうの風習や召し物を取り入れた人々。提灯ではない灯りを用いる通りを抜け、訪れたカフェーでカリーライスに舌鼓。
 そこで聞いた噂に首を傾げながらも、その日は遅くなったこともあってミセバヤはログアウトをした。

 ――新規イベント『帝都星読キネマ譚』現想ノ夜妖が開催されました。
   星読幻灯機(ほしよみキネマ)が伝える『未来』を元に、帝都を脅かす夜妖を退治しましょう。
   神使となり、悲劇を未然に防ぐのです。

 そんな知らせが来ている事に気がついたのは、後になってのことだった。
 ローレットへと話を持ち込めば、既に練達上層部から『関連のクエスト遭遇時は積極的にクリアを目指して欲しい』との依頼があったことが告げられ、彼が聞いた噂を元に調べたところ、一致するクエストが見つかった。

●陰陽寮
 ログインして陰陽寮に向かえば、カタカタと鳴る渾天儀【星読幻灯機】(ほしよみキネマ)が君たちを迎える。
 銀幕にモノクロームの映像がコマ送りに映し出されるそれはノイズが生じて少し見辛いが、神光の帝都の出来事――これから起こる未来の出来事なのだろう。

 何処かのカフェーで占う占い師。
 差し出される小瓶に喜ぶ乙女。
 夕刻、カフェーを出た占い師が何処かの道を歩いていく。
 ――場面が切り替わる。
 赤く塗られた爪の先を愛おしげに見つめる乙女。
 想いを寄せる相手に慕う相手が居ることを知った乙女。
 赤く塗られた爪の先が、鳳仙花の実のように爆ぜた。

 それがその日起こることなのだと、陰陽寮は映像から纏めた資料を渡してくれる。
 その資料には、占い師が歩いていた道の情報、それからその道近くのカフェーの情報が記載されていた。
 ノイズの多い映像からはどのカフェーかが絞れなかったらしく、四つの店名が記載されている。どのカフェーにも占い師が居り、見た目が似ている上に四名ともその道を通る姿が映し出されていた。
 イレギュラーズたちが神使として占い師を倒せば、その後の悲劇が起こることはない。
 まずは件の占い師を見つけ出さねばならないようだ。

GMコメント

 アフターアクションから、お花に関連するお話をお届けします。

●情報精度なし
 ヒイズル『帝都星読キネマ譚』には、情報精度が存在しません。
 未来が予知されているからです。

●成功条件
 『占い師』ツマベニチョウの討伐
(爪紅は回収しなくとも、討伐成功時に消滅します)

●シナリオについて
 『調査パート』と『戦闘パート』があります。
 『ツマベニチョウ』の行動は、昼過ぎ頃にどこかのカフェーに現れ占いをし、誰かに爪紅を渡し、カフェーの閉店前に店仕舞をして帰っていき、どこか人気のない路地へ曲がったと思ったら、ふ、と蝋燭が消えるみたいに消えます。消えてしまう前に声を掛ければ、彼女は足を止めて振り返ることでしょう。
 神使たちは『渾天儀【星読幻灯機】』によってどの路地を彼女が通るか知っているため、事前に人払いや潜伏が可能です。が、似た格好をした他の占い師も通るので、先に調査が必要となります。まずはツマベニチョウを探しましょう。
 彼女がいると思われるのは、とあるデパアトの近くのカフェーを始めた純喫茶の4店。
・『カフェー・ヱテ』…華やかな雰囲気のカフェー。ビフテキやチョコレイトが人気。
・『ミルクホウル桔梗』…落ち着いた雰囲気のカフェー。クラムチャウダーやサンドイッチが人気。
・『純喫茶ハツコイ』…女学院が近く、女学生に人気のカフェー。アイスクリンやプディングが人気。
・『カフェー・ミツバチ』…ハニカム柄を多く取り入れた可愛いカフェー。カリーライスが人気。

 手分けをして探し出しましょう。
 店内で客のフリをして動向を伺う際は、カフェのメニュウを楽しめます。また、占い客のフリをして各占い師たちに接触することは可能ですが、ツマベニチョウに限っては女性しか相手にしません。似合う似合わないは別として、男性の方は女装をすれば占ってもらえます……が、断られたから怪しいなと思うのも自由です。
 他の客が占いを受けているところへ割り込む等、調査の行動は不自然ではない方が良いでしょう。ツマベニチョウを始めとした占い師たちが不信感を抱きます。

●『占い師』ツマベニチョウ
 恋占いが得意と噂の占い師。裾や袖だけが赤い、白いマントローブを着た女性。
 カフェー等の奥まった席で客を待ち、占いをし、恋の成就が難しい相手にのみ爪紅を贈ります。怪しげな水晶や幸運のお守りを売りつける他の占い師とは違い、彼女は無料でプレゼントしてくれます。
 爪の先を彩る赤は恋する乙女たちに勇気を与えてくれますが、大きく感情を揺らします。いつもより積極的にアプローチをして恋が叶えば良いのですが、相手に気が無かったり少女たちの心に波が立つような事が起こると少女たちはいつもより『短気』になっており――爆ぜてしまいます。
 全ては彼女の意思とは関係なく、彼女が『そういう』怪異なのです。
 神使たちの行動が怪しいなぁと思えば、さっさと姿をくらませます。

 戦闘面においては、一般人と変わらない強さです。ただし、危険を察知するとフィールド全体(路地、もしくは店内)に黄色い鳳仙花の実がたくさん現れます。触れると弾け、種による散弾。その種が当たることによって他の実も弾けたりします。
 ・鳳仙花の実『私に触らないで』物中範【怒り】【乱れ】【痺れ】【必殺】

●路地
 大きな通りからひとつ外れた人気のない路地。
 大人が3名は並んで歩いても余裕があるくらいの道幅で、50mは続いています。
 建物と建物の間は、人が一人入れそうな細い隙間のような道が何箇所かあります。
 また、道の脇には水銀灯が立っています。ツマベニチョウが通る頃は点いていませんが、長引けば灯るかな……といった時間帯です。

●ROOとは
 練達三塔主の『Project:IDEA』の産物で練達ネットワーク上に構築された疑似世界をR.O.O(Rapid Origin Online)と呼びます。
 練達の悲願を達成する為、混沌世界の『法則』を研究すべく作られた仮想環境ではありますが、原因不明のエラーにより暴走。情報の自己増殖が発生し、まるでゲームのような世界を構築しています。
 R.O.O内の作りは混沌の現実に似ていますが、旅人たちの世界の風景や人物、既に亡き人物が存在する等、世界のルールを部分的に外れた事象も観測されるようです。
 練達三塔主より依頼を受けたローレット・イレギュラーズはこの疑似世界で活動するためログイン装置を介してこの世界に介入。
 自分専用の『アバター』を作って活動し、閉じ込められた人々の救出や『ゲームクリア』を目指します。
特設ページ:https://rev1.reversion.jp/page/RapidOriginOnline

●重要な備考:デスカウント
 R.O.Oシナリオにおいては『死亡』判定が容易に行われます。
『死亡』した場合もキャラクターはロストせず、アバターのステータスシートに『デスカウント』が追加される形となります。
 現時点においてアバターではないキャラクターに影響はありません。

 それでは、イレギュラーズの皆様、宜しくお願い致します。

  • <現想ノ夜妖>戀示ス蝶完了
  • GM名壱花
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年07月27日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

縺薙?荳也阜縺ョ繝舌げ繧(p3x001107)
不明なエラーを検出しました
Teth=Steiner(p3x002831)
Lightning-Magus
白銀の騎士ストームナイト(p3x005012)
闇祓う一陣の風
シャナ(p3x008750)
爪紅のまじない
ネコモ(p3x008783)
ニャンラトテップ
ビャクダン(p3x008813)
複羽金剛
ミセバヤ(p3x008870)
ウサ侍
純恋(p3x009412)
もう一人のわたし

リプレイ

●爪紅の伝承
 古来より女性の爪を赤く染める爪紅。
 鳳仙花の赤い汁を爪に付ける爪紅の歴史は古く、昔から乙女の爪を赤く彩っている。

 ――爪を染めた鳳仙花の赤が、初雪が降るまで残っていたら恋が実る。

 それは豊穣では有名な伝承であり、神光に生まれた怪異ツマベニチョウの起源でもある。
 ツマベニチョウの贈る爪紅も同じだ。揺れる想いの中で少女たちが己の想いをしっかりと抱き続ければ、爪が爆ぜることは無い。時間はとてもかかるかもしれないが『必ず恋は実る』。たとえ相手に慕う相手が居たとしても、己の気持ちと爪の赤を大事に抱き続けることがかなうのならば、恋という果実は瑞々しく赤々と実る。
 けれど心を揺らし続ける乙女たちが、それでもと想い続けることは難しい。
 短気を起こした者だけが己の気持ちを爆ぜさせ――『これ以上私の心に触れないで。私ももうあなたへ手を伸ばしはしない』と爪紅は爪を爆ぜさせていた。

 ツマベニチョウは、恋を叶える怪異である。

●カフェー・ヱテ
 乙女の夏は暑さも憂わず楽しめり。
 向日葵めいた笑みを向けるのは、太陽だけとは限らない。
「まあ、軍人さんったら。口がお上手なのね」
「そうでしょうかねぇ。お嬢さんたちが愛らしいからあっしも口が軽くなっているだけでさぁ」
 江戸言葉を操る外套を羽織った軍服の男が軽く軍帽を上げ「情報ありがとうございやす」と乙女たちから離れていく。楽しげに華やぐ声を背に、『複羽金剛』ビャクダン(p3x008813)は今しがた聞いた情報を整理する。
 確かに爪紅の噂はあるし、爪紅を贈ってくれる占い師はいるけれど、恋が叶ったと喜ぶ乙女たちが多いこと。
 占い師は毎日同じ店にはいないため、運が良ければ会えることしかわからないこと。
 そしてやはり、顔は知らない……と、結果としてはあまり情報らしい情報は得られなかった。
(さて、と――)
 時刻は昼を少し過ぎた頃。そろそろ各カフェーに占い師たちが商いに来ている頃合いだ。コロンと澄んだ音のベルを鳴らしてビャクダンも『カフェー・ヱテ』の店内へと入れば、奥の席に既に客を取っている占い師の姿が僅かに見えた。
 席の案内に出てきた店員へ奥の席を望み、「ビフテキをくだせぇ」と注文してから店に置いてあった新聞を広げた。――席へ向かう途中、ビフテキにナイフを入れる色打掛の女性の机に紙を置いたことに、店員も他の客も気付きはしなかった。
(さて、はて)
 ビャクダンが聴き込んだ情報を記した紙を手の内側で確認した『しろきはなよめ』純恋(p3x009412)は、唇に付着した脂をナプキンでそっと抑えた。目ぼしい情報は無いが、彼が来るには良い頃合いだった。純恋のビフテキはそろそろ無くなりそうだし、先に話している客もそろそろ席を立つ頃だろう。
 純恋が肉汁たっぷりのビフテキを堪能しナイフとフォークを置く頃、先に占い師と話していた女性が席を立つ。それにあわせ純恋も席を立ち、打掛が他の洋机(テイブル)に当たらぬように器用に捌きながら占い師の元へと向かった。
「もし。恋占いをお願いしたいのですが」
 よろしいでしょうかと尋ねる純恋へ、占い師は席を勧める。彼女たちの動向を、少し離れた席からビャクダンも目と耳で追いかける。
「実はわたし、婚活惨敗中なのです」
「まあ」
「好きな人へのアピールとして林檎を砕けるようになったのですが……」
「……ん?」
 ぐしゃっと何かを握り潰す仕草をする純恋に、占い師は首を傾げる。
 その間にも純恋の口からはするすると言の葉が零れ落ちていく。今までどんな相手を好きになったのか、どんな感じに恋が破れてしまったのか、次こそは必ずやと常に思っているのに何故上手くいかないのか……。
「ですので、どうすれば良いのかアドバイスを頂きたいのですが……」
「そう、ですね……」
 明らかに占い師が困っている。
「正直大変難しいかと思われます。押し付けるのではなくお相手の言葉に耳を傾け、お相手が何を望んでいるのかを知らなくてはなりません。そして次なる運命のお相手ですが――」
 ふ、と口を噤んだ占い師が、ごそりと何かを取り出す。
 ――水晶玉だ。
「この水晶を毎日磨き祈りを捧げ続ければ、運命のお相手のお姿が――!」
 いいえ、結構です。ありがとうございました!
 純恋とビャクダンは店を後にし、予め決めておいた待ち合わせ場所へと向かった。

●ミルクホウル桔梗
 乙女心は風船花。ぽんと花開き気高き紫星となりて、永遠の愛謳う。
「話を聞かせてくれてありがとう。では」
「あのっ、お姉さまのお名前は……」
「私の名か? 私の名は――」
 夏らしいレモンの絵柄のアッパッパに身に纏う黒髪のモガ(モダンガァル)――『闇祓う一陣の風』白銀の騎士ストームナイト(p3x005012)は微笑みを残し、話を聞いていた女学生然とした乙女たちに背を向けた。
 占い師の服装が知れればと聞き込みをしてみたところ、どの占い師も似たような姿だと言うことしか解らなかった。みすぼらしい姿ではカフェーは占い師に席を貸してはくれないため、ミステリアスさを備えつつ清潔さを保った姿……となると、そうなってしまうらしい。
 昼過ぎに『ミルクホウル桔梗』のドアベルを鳴らしたストームナイトは、案内に出てきた給仕服姿の女性へ隅の席をと願った。店内の様子や、占い師の行動を見守るためだ。
「では、こちらへどうぞ」
 ニコリとストームナイトへ笑みを向けた給仕の女性は気付いていない。彼女には小さな『連れ』が居ることに。
(こういう時、小さな体は便利なのです……!)
 サササッ! 店員や客たちの視界から外れた足元を、『ウサ侍』ミセバヤ(p3x008870)は素早く移動する。
「こちらになります」
「ありがとう」
 頭上で言葉が行き交う間にササッとストームナイトが案内された洋机の下へと隠れる姿は、侍と言うよりは忍者のようであった。
「……ミセバヤ殿、どうぞ」
「ありがとうございます」
 去っていく店員の背に視線を向けたまま、こっそりと足元のミセバヤへとメニュウを渡し、自身も洋机の上でメニュウを開く。メニュウの文字を追う振りをしながら、その視線は見える範囲の店内の情報を集める。
 ミルクホウル桔梗は、店の名の通り、桔梗の意匠をあしらった家具や小物が多い。店内が落ち着いた雰囲気だからだろうか、客層の年齢も高いようだ。ストームナイト同様にモガなご婦人が小洒落た殿方と同席している姿が多い。占い師はまだいないようだ。
 一人でその量を? と言いたげな視線を気にすること無く料理の注文をすれば、暫し後に洋机の上には料理が並ぶ。魚介の浮かぶクラムチャウダーにサンドイッチ、それから珈琲。因みに、サンドイッチはふたつ――片方はミセバヤの分だ。
「……あ、めっちゃうまい」
 思わずロールプレイを忘れ、『素』が出てしまう。
「ミセバヤ殿、ミセバヤ殿、これいけますよ!!」
「本当ですね、野菜たっぷりで美味しいのです。あ、人参!」
 声は勿論、ひっそりと。
 出してもらった料理をしっかりと堪能していると、ドアベルがカランと鳴って。
(――あ!)
(来ましたね、占い師!)
 しずしずと入ってくる占い師が席に着く前に急いで残りのクラムチャウダーを頂いて、ストームナイトは席を立った。クラムチャウダーは冷めると牛酪(バター)が固まってしまうのだ。
「あ、あの! 占いを頼めるだろうか! お、おお思い人がいるのだが!!」
 緊張した面持ちで眼前に立った彼女へ、占い師は座るようにと前方の席を掌で示した。

「普通にいい人だったな」
「ですね」
 店を出たふたりは、仲間との待ち合わせ場所へと向かった。

●カフェー・ミツバチ
 乙女たちは飛び回る。話題を咲かせた花から花へ、夏の盛りの蜜蜂のように。
 そこに真実があろうと、なかろうと。
 楽しげに会話を弾ませる女性たちが多い店内は、ハニカム柄を多く取り入れた明るい内装になっていた。店内のふたりがけの席を選んで腰掛けた『Lightning-Magus』Teth=Steiner(p3x002831)は夏の花のように笑顔を咲かせる女性たちを眺めて口の端を上げかけ、ふぅと小さな吐息とともに頬の緩みを自重する。
(将来を知るのは占いの範疇だが、望んだ結果を得ようとするのは呪い(まじない)の域だ。その字の如く、一歩間違えば破滅を呼ぶ呪い(のろい)と化す)
 ――ンなもん、放置する訳にはいかねーよ。
 今楽しげな彼女たちも、夜妖を放置すれば犠牲者となる可能性もあるのだ。
 思わず心の裡の断片が外へと溢れてしまったことには、Tethの脳内に響いた不明瞭な『声』によって気が付いた。『誰も居ない』向かいの席へと視線を向け、解っていると言いたげに浅く顎を引く。
 よくよく気を配って見れば、Tethの前方の席の洋椅子(チェア)が凹んでいる事に気付けるだろう。それはまるで『誰かが座っている』ようで――実際、居るのだ。透明化していてTethにも他の誰にも視る事は出来ないが、『不明なエラーを検出しました』縺薙?荳也阜縺ョ繝舌げ繧(p3x001107)が、そこに。
「カリーライスひとつ。激辛で宜しく。大の辛党なんでね」
 Tethは手を上げて店員を呼び、名物というカリーライスを注文する。
『いいだ』
 ホニャホニャと不明瞭な声が羨望を伝えてくる。《蟄伜惠蟶碁㊧》の使用中、縺薙?荳也阜縺ョ繝舌げ繧は移動以外をすることが出来ないせいだ。一応Tethに出された水を飲めないかと挑戦してみたが、失敗に終わった。
 美味そうに激辛カレーを口に運ぶTethから視線を外し、店内を観察する。店内の隅に占い師らしき人物が客を取っているようだが、それがツマベニチョウであるかは解らない。
 姿が見えないことを良いことに占い師へと近付き占いを見れば、占い師は客の手に触れている。前の客が席を立つ旨をテレパシーで知らせれば、Tethはナプキンで唇を拭って席を立った。
「気になる人が居て……恋占いをお願いしたい」
「どうぞお掛けください」
 Tethが座るのを待ってから、面紗の奥で占い師が口を開く。
「手をお貸し頂けますか? お相手のこともお教えください」
「……魅力的な耳と瞳のひとなんだ」
 そうして語るのは、『にゃーん』ネコモ(p3x008783)のこと。猫のことは好きだし、全てウソという訳ではない。
 占い師は相槌を打ちながら、爪が見える形で差し出されたTethの手をひっくり返した。
(……外れか)
 しっかりと最後まで手相占いを受けたTethは丁寧に礼を言ってから席を立ち、透明化したままの縺薙?荳也阜縺ョ繝舌げ繧を連れてカフェー・ミツバチを後にした。

●純喫茶ハツコイ
 初めての恋の味はどんな味? 檸檬、それとも桃? わたしの恋の味はね――。
 乙女たちは甘い話囀って、しゅわりと弾けるソーダを口にする。
「ボクの目星的には純喫茶ハツコイが怪しいにゃね」
 つまり、ここである。ビシッと店を指差してみせたネコモは『???』シャナ(p3x008750)を伴い純喫茶ハツコイへ入店した。時刻は、占い師が来るよりも少し早いくらい。昼を過ぎると席が全て埋まってしまうのか、店内は既に結構な賑わいだ。
 数名でキャアキャアと楽しげな声を上げる女学生たちの居る席の側についたふたりは、まずは周囲に不審がられないようにメニュウを開いた。
「ボクはプディングにしようかにゃ。シャナくんはどうするにゃ?」
「……何か頼みたいが、人気メニュウすら聞き慣れないモノばかりだな……?」
「それならシャナくんはアイスクリンにするのはどうかにゃ? シェアするといいのにゃ」
「そういうのもあり、か」
 決まりだと機嫌良く尾を立てたネコモが店員を呼び手早く注文すると、ふたりは暫し甘味で舌を楽しませる。耳だけはしっかりと、他所の席へと向けながら。
 アイスクリンでもご馳走してツマベニチョウの噂を聞こうと目論んでいたネコモだが、乙女たちは流行りの噂に敏感だ。耳をそばだてていれば、その噂はすぐにふたりの耳へと飛び込んでくる。
「今日こそは会えないかしら」
「会えたら彼のこと、占ってもらうの?」
 どうやら彼女たちもツマベニチョウに会いたいようだ。
「――ネコモ」
 ふたりが乙女たちの会話に意識を向けている間に、占い師が入店していることに気付いたシャナがネコモを促す。すぐに占い師の近くの女学生が席を立ち、占い師の前へ行ってしまった。
「前の人が居なくボクが恋占いしてもらうにゃー」
「えっ……そ、そうか」
「シャナくん、したいにゃ? それならボクもついていくにゃ」
 シャナのアバターは一見男子だが、中身は列記とした女の子。口添えするにゃとネコモが尾を揺らして笑んだ時、占いを終えた女学生が席を立ち、ふたりはそそくさと占い師へと接近した。
「あの……占いをお願いできるか」
「申し訳ありません、殿方は……」
「こういう格好だけどこの子は女の子なのにゃ」
「実は……はい、そうなのです」
 普段通りの声で告げれば、失礼しましたと占い師が眼前の席を掌で示す。
「私には片思いしている人が居ます」
 けれど彼は人気者で、彼を慕う人は多い。他の中のひとつで良いと思う時もある。けれどそれは、臆病の己が心を偽っているだけだ。本当は、彼の一等になりたい。自分を一等に見て欲しい、想って欲しい。
「……どうすれば、この恋は叶うのでしょうか?」
「手をお見せ願えますか?」
 差し出したシャナの手に、占い師は優しく触れる。労るように触れて、努力されているのですねと面紗の裏で微笑む気配がした。
 占い師は告げる。どうしようもならないこともあるけれど、諦めた時に全ては終わることを。結末はまだ見えていない。なればこそ、努力を続ける価値はあるだろう。
「あなたに、これを。その爪紅はあなたに勇気をくれます。けれど、心はすぐに裏切ってしまう。不安になったり、誰かを憎んだり……そうならぬようにあなたは己を律し、常に前向きであってください。恋が叶うと諦めず――もし、諦めてしまう時は、」
 最後まで話しを聞いたふたりは占い師に礼を告げて、席へと戻った。少しだけ会話をして、不自然でないようにネコモだけ仲間に伝えるために店を出ていく。
 ひとり席に残ったシャナは、渡された赤い爪紅を静かに見つめる。
 カランと氷を鳴らして口に含だアイス珈琲が、ひどく苦かった。

 ――もし、諦めてしまう時は。
 誰も恨まず、あなたの愛した彼の選択を祝福してあげてください。

●日が暮れて……
 ツマベニチョウ以外の占い師には、今日はあの道は使わないほうが良い旨を占い時に伝えてある。勿論、他の一般人が来ないようにと人払いもしっかりと済ませてある。
 ネコモから連絡を受けた神使たちは路地に潜み、ツマベニチョウが現れるのを待った。
 その場にはシャナの姿だけが無かったが、かれはカフェーからツマベニチョウをつけている。
「占い師……いいや、ツマベニチョウ」
「あなたは先程の」
 路地へと足を踏み入れた白いローブを纏った女性が、シャナの声に振り返る。
 何か用だろうかと窺う気配が、後方に現れた神使たちによって警戒へと変わった。
「ツマベニチョウ。お前を討つ!」
「恋を悲劇で終わらすのは気に入らねぇ。だから、ここで消えろよ」
 スラリと剣を抜いたストームナイトが地を駆け、Tethが壁を走りツマベニチョウへと迫る。
 乙女の恋が儚いように、恋を叶える怪異もまた儚い。種の対処さえ誤らなければ、ツマベニチョウを倒すことは簡単だ。彼女に攻撃が届きさえすれば、彼女はすぐに命を散らすことだろう。
 ふたりの得物が届いてしまえば、きっとそれで終いだ。
 けれどその、ひと呼吸前。唐突に路地内に数多の鳳仙花の実が生まれ、ふたりは足を止める。
『さがっぺ』
 ホニャホニャと脳内に響く不明瞭な声に合わせ、実やツマベニチョウから近い仲間が身を退く。踏み込めば範囲攻撃に巻き込まれ、運が悪ければ排除しきれなかった実の攻撃を受けてしまう。
 実を排除するならば、高威力の範囲攻撃で。
 威力に不安が残るならば、互いに補い合って。
 縺薙?荳也阜縺ョ繝舌げ繧に合わせてTethとシャナが動き、実の誘爆を防ぎ確実な排除を狙う。
 実が無くなれば、後は本当に一瞬だ。
 ツマベニチョウに逃げ場はなく、囲い込んだ神使たちがにゃんっと飛んでいく気弾を追いかけるように距離を詰め、それぞれの渾身の一撃を叩き込む。
 大きな翼が薙ぎ払い、ウサギキックの後に鋭い剣捌きが続き――そうして最後に、ひいらりと紫の蝶が舞う中に歌声が響いた。
 ツマベニチョウの姿が夕焼けの中に溶けるように消えていき、同時にシャナの懐にしまわれた爪紅の小瓶も消えていく。すぐに捨ててしまうことも出来たのに、恋の苦しさを知るシャナにはそれができずにいたのだ。
 電子の粒子となって消えゆく最中、はらりと落ちた面紗の奥のツマベニチョウのかんばせが顕わとなる。そこに後悔の色は無く、悲しむ色もない。ただ慈しむような微笑みの形を保っていた唇が微かに動き、居合わせた乙女たちを見て囁いた。
 ――あなたの戀が、いつの日か叶いますように。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

シナリオへのご参加、ありがとうございました。

みんなしあわせになれますように。
おつかれさまでした、イレギュラーズ。

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