PandoraPartyProject

シナリオ詳細

邪摩都へようこそ

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●ロケーションリポップバグ
「マジカヨぉ。マジヤバくね……」
 猫のマークがついたグリーンの帽子を脱いで、少年はあんぐりと口を開けた。

 たとえばある少年の話をしよう。
 御柱の塔『邪摩都』のふもとで物資配達の仕事をしていた少年は、ある事件の現場に居合わせたその日に仕事を失った。
 運送会社の主からクビを言い渡されたからでも、運送先の塔にひどい迷惑をかけたからでもない。
 塔が、どころか塔にまつわるすべての施設が、関係する兵士たちさえも消えてしまったのだ。
 届け先の塔がまるごと消えたことにあわをくった少年はその足で運送会社の事務所へとってかえしたが、事務所もまた消えてなくなっていた。
 会社は正義国の騎士団に所属していて、たしか今日は多くの人員が『死出の谷』という場所へ物資配達に出かけていたはずだ。大量の魔物が出る地域だからということで、少年は安全な塔への配達にまわされたのだったが……。
 少年に残ったのは残り僅かな給金と運送用の馬車だけ。幸い物資は届ける先も戻す先もないので、捨てるのももったいないと自分で使わせて貰ったが……。
「マジヤバ……」
 物資を開けば食料やら生活必需品やら。
 金はなくともしばらく暮らすくらいはできるだろう。受取名義人のイデアという人物には申し訳ないが、建物事なくなったのだから仕方ない。
 少年は次の仕事を探しながらのんびりとすごしたが……ある日、ふと塔があった場所へ通りかかった時にその事件は起きた。
 周辺のすべてがまるっきり消えていた塔が、すっかり元通りになっていたのだった。
 いや、元通りと言うには少々雰囲気が違うように見えた。
 兵士たちは依然いかつい装備に身を包んでいたが、彼らはどこかにこやかで、道行く老婆の荷物を持ってやるような余裕を見せていた。
 どころか。塔の前には人がごったがえし、まるで観光地の様相である。
 そんな中で、ワッと歓声があがる。
 まるでアイドルでも現れたかのような盛り上がりようだが……実際、そうだ。

「皆さん。今日も街に幸福がありますように」
 桜色の髪をした、巫女服の女性だ。どこか幼げな顔立ちだが、物腰は柔らかく笑顔がとても大人びている。
「あ、ああ、『さいん』ですか? どうぞ、どこに書けばいいでしょう」
 その割に世俗には若干疎いようで、集まる人々の差し出す手帳やTシャツの腹などに筆をはしらせている。字はとても美しく、赤い墨で『桜咲』と書いていた。
 そこからは流れるようで、握手を求められたり手紙を渡されたりと、しばらくもみくちゃになってから女性は塔へと戻っていく。
 あれは? そう少年が訪ねると、とろんとした顔で塔を(というより巫女様を)見ていた門番の衛兵がハッとして振り返る。
「桜咲様だよ。知らないってことはボウズ、よその街のヤツだな? この町じゃあの人は大人気だよ。あの人が毎日塔を動かしてくれてるおかげで、この街は栄えてるんだからなあ」
 ニコニコとした顔でいう衛兵。少年はポケットにずっと入れていた伝票を取り出し、それをかざした。
「この塔にイデアって人、いないか?」
「誰だそれ? 俺はここに務めて長いけど、そんなヤツはいないな」
「マジカヨ」

●復活した街とその調査
 『観光』、と言っても過言ではない。
「今回やってもらうのは、正義国の邪摩都っていう街の調査です。
 まあ調査といっても我々はなんの情報も持っていませんし、伝え聞く限りではみな平和に暮らしているということですので、やるべきことは現場取材ということになりますね。
 まあ要するに……観光です、観光!」
 叩いた両手をパッと開いて、情報屋は笑った。
 そんな情報屋の向かいの席に座っていたのは蛍(p3x003861)と珠緒(p3x004426)。
 ROOネクスト内、正義国のレストランに、彼女たちはいた。

 練達の混沌法則解明計画ProjectIDEA。その中で作られた仮想世界再現装置ROOは不明なバグで歪み、混沌と似て非なる世界ネクストを生成した。
 そのバグによって飲み込まれたログイン中の研究員たちの多くを救い出し、仕上げとばかりに『大規模イベント』を攻略したローレット・イレギュラーズたち。
 彼らはさらなる探索や調査のため、ROOへのログインを挑むのだった。

 今回練達から課せられた依頼はそんな調査の一環。一度不明な理由で消滅した街が、突如として再生したというバグを調査すべく街へはいり観察するというものだ。
「『邪摩都』というこの街は、依然研究員救出クエストの舞台にもなりましたね。その際は、クエスト達成と同時に塔も街も消えてしまいましたが……いつの間にか街は再生し、塔も『ずっと昔からそこにあった』かのように建っています。
 また不思議なことに、塔の扱いや人々の雰囲気が依然あった街とは少々異なっているようなのです。
 どこがどう違うのかまでは調査しきれていませんので、皆さんにはそういった部分を肌で感じてきてもらえればと思います」
 街の外からでも入手できる程度の観光情報をまとめた資料をかざし、情報屋は首をかしげる。
「よほど酷いことでもしない限りは、命を落とすような危険はないはずです。
 それでは、よい旅を!」

GMコメント

●オーダー
・成功条件:邪摩都を観光する
・オプションA:街の人々と交流する
・オプションB:街の魅力を知る
・オプションC:『御柱』の塔を訪れる
・オプションD:桜咲という巫女を見る。または出会う。

 邪摩都は『御柱』という塔を中心とした豊かな街です。
 御柱が毎日生産するエネルギー資源によって経済的にも豊かで、その資金を塔の景観に注ぎ込んだことで観光資源にもなっています。
 塔の周りには多くの店が並び、ちょっとへんなお土産屋から美味しい料理の食べられる店まで幅広く存在しています。
 ここではそんな観光地としての邪摩都について解説していきましょう。

●人柄と風土
 この季節は暖かく、気候も安定した地域です。気候の安定化には塔も一役買っているようで、ひどい嵐や水害といったものとは無縁の街です。
 人柄はみなおおらかで、犯罪率も非常に低いことから『世界一平和な街』と呼ぶひとすらいます。
 全体的にゆったりとした時間感覚で生活しており、逆にせかせかした人や怒りっぽい人はあまり見られません。そうしたところも、観光地としての魅力の一つといわれています。
 町並みは沖縄にちょっと近く、古い日本の風景にも似ています。

●グルメスポット
 邪摩都は歴史ある街らしく、和食と中華の中間くらいの食文化が一時期流行したことで、そういった方向性の店が多く見られます。
 日本によくある中華料理店の品揃えを想像すると近いでしょう。

 一応食べようと思えばイタリアンやらケバブやらハンバーガーやら食べられますが、観光地に来たらその土地の流行り物を食べたいものです。

●桜咲の巫女
 この町のアイドル的存在であり、この町の象徴ともいうべき巫女。それが『桜咲』です。
 塔の主体でありエネルギー資源を引き出す儀式を毎日行っており、それによってこの町は栄えています。
 といっても、『桜咲』にできるのは塔からエネルギーを引き出すことだけであり、桜咲は任命制であるためこの人物自体の重要性はそれほど高くはありません。
 利益を狙って攫ったり暗殺したりという勢力が現れないのはそのためです。害するよりエネルギーを安く買う交渉をしたほうが(邪摩都の人柄的にも)効率的かつ生産的なのです。

 当代の『桜咲』は穏やかでおっとりとした性格をしており、世俗に疎いのかカタカナ言葉をひらがなみたいに発話する癖があったりしますし、コンピューター全般を『ぴこぴこ』って呼びます。
 とても美人で人当たりもよいため、街のひとはおろか観光客たちからも親しまれています。
 一日一回は塔の外に出てそうした人達とふれあう機会を設けているらしいので、見たくなったらその機会を使うのがよいでしょう。

●おまけ
情報屋の説明の通り、この街は一度消滅しているのですが、その際の様子が描かれたリプレイがこちらになっております。
今回は特に続き物というわけではないので、観光地のパンフレット感覚で読んだり読まなかったりしてください。
https://rev1.reversion.jp/scenario/detail/5823

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

●ROOとは
 練達三塔主の『Project:IDEA』の産物で練達ネットワーク上に構築された疑似世界をR.O.O(Rapid Origin Online)と呼びます。
 練達の悲願を達成する為、混沌世界の『法則』を研究すべく作られた仮想環境ではありますが、原因不明のエラーにより暴走。情報の自己増殖が発生し、まるでゲームのような世界を構築しています。
 R.O.O内の作りは混沌の現実に似ていますが、旅人たちの世界の風景や人物、既に亡き人物が存在する等、世界のルールを部分的に外れた事象も観測されるようです。
 練達三塔主より依頼を受けたローレット・イレギュラーズはこの疑似世界で活動するためログイン装置を介してこの世界に介入。
 自分専用の『アバター』を作って活動し、閉じ込められた人々の救出や『ゲームクリア』を目指します。
特設ページ:https://rev1.reversion.jp/page/RapidOriginOnline

  • 邪摩都へようこそ完了
  • GM名黒筆墨汁
  • 種別通常
  • 難易度EASY
  • 冒険終了日時2021年07月12日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

雀青(p3x002007)
屋上の約束
Teth=Steiner(p3x002831)
Lightning-Magus
蛍(p3x003861)
屋上の約束
珠緒(p3x004426)
屋上の約束
桜聖(p3x004665)
旅する
イズル(p3x008599)
夜告鳥の幻影
アイシス(p3x008820)
アイス・ローズ
コーダ(p3x009240)
狐の尾

リプレイ

●邪摩都
 とまった馬車からおりる『旅する』桜聖(p3x004665)。
 エスコートでもするように手を出すと、さんま ナオミという妹NPCがその手を取って馬車を降りてきた。
「今回はどんな観光旅行になるのかな? わくわくするね! さんまちゃん!
ちょっとディープなお店にも寄って行こうよ。何か刺激的な面白い体験やお話ができるかもしれないよ!?
 あちこち歩いて見て聞いて調べよう!
 きっと何か面白い日常の冒険が転がっている筈だ!」
 早速出発だとばかりに桜聖は妹の手をひいて通りを歩いて行く。
 あとで合流することになっているらしく、まずはバラバラに自由行動……ということらしい。
 邪摩都の街は天義の標準的な道路標識や舗装が成されているが、建物の様式はシンボルであり中心でもある御柱の塔の雰囲気に寄せて作られているようだった。その上でどこか中華風の、そして複雑に文化の入り交じった風情をもっている。まさに観光地といった有様だ。
 同じく馬車を降りた『氷華のアイドル』アイシス(p3x008820)。
(一度消滅した街が何事もなかったかのように復活してしまうなどゲームではよくあることなのでしょうか?
 よくは分かりませんがそれも含めて調査なのでしょう。余り深く考えないで観光と割り切って自由に動いた方が逆に良いかもしれませんね)
 折角着たのだからと、観光……というよりほとんどお仕事気分でキャリーケースを馬車から降ろす。路上ライブを行うのにそこそこ必要な品が詰め込まれたケースである。
「それじゃあ、私は路上ライブの許可を貰ってくるので」
 ぱたぱたと手を振って歩いて行くアイシス。
 桜聖といいアイシスといい、これが普通の反応というものだろう。
 一度消えた街が異なる形で再出現するなんていう謎は、かじりつくには大きすぎる。
「さりとて、思いつきで解けるほど安易な謎にも思えないな……」
 腕組みし、塔へと振り返る『Lightning-Magus』Teth=Steiner(p3x002831)。
「あんときに消えた筈のヤツ、だよな。
 こんな大規模なモンが、こうもさくっと復活したりするのか?
 いや、そういうバグだって言っちまえば終いなんだが。
 ……規模がデカすぎんだろ。
 メンテでロールバックしましたって言われた方が、まだ納得できるぜ?」
「何か裏のある理由によるものか、それともゲームだからこそ可能な事象か。
 考えても分からん以上、情報を集めるしかないだろうな」
 横に並び、同じように腕組みする『狐の尾』コーダ(p3x009240)。
「けどその前に、一旦情報を整理しようか」
 ジャケットの内ポケットから手帳を取り出し、親指で弾くように開く。
「まずこの塔は、以前Tethたちが攻略した際に消えた。
 そのことを覚えているのは俺たちだけ……じゃあ、ない。
 再出現にあたって塔だけでなく人も出現して、話を聞く限りは歴史ごと生成されたみたいだ。
 その内容は前回と大きく違う。ところで『正史』……というか元になったっていう外世界はどっちが近かったのかな?」
「え?」
 謎の大きさに頭を抱えていた『R.O.O tester?』蛍(p3x003861)が、まばたきをして振り返った。
 彼女たち。もとい蛍たちがずっと前に経験していた実験は、桜咲 珠緒の出身世界の情報を抽出、記録することだった。その手段として、蛍たちは珠緒の世界をシミュレートした仮想世界で一定のクエストを満たすという作業を行ったわけだが……。
「言われてみれば、よね。私達はあたかも珠緒さんの世界を経験したつもりでいたけど、あれは珠緒さんの肉体やインタビュー記録をもとに人工的にいちから作成された空間でしかない。あれが『本当の邪摩都』だとは、断言できない……」
「そもそも、自身が真実を知らない以上確証をもつことはできません。第三者が意図的に補完したとしか……」
 『R.O.O tester?』珠緒(p3x004426)は自分の手のひらを見つめた。
 『祭壇』に繋がれ、その生涯を終えるはずだった自分。祭壇の外がいかなる風景であったかなど、知るすべはほとんどなかった筈だ。部分的にはともかく。
「少なくとも、珠緒が知る限り……前回も今回も、『塔』の役割がどちらも本来の状態と大きく異なるというのは確かです。
 特に今回は考え得る最大限、都合良く再現されている印象ですね」
 ずきりと頭が痛む。塔を攻略したあと、『接続』した瞬間に脳裏によぎったイメージ。それがどんなものだったのか、思い出そうとしても思い出せない。
「……どうにも『叶い得なかった望みの幻影を見せられている』気分です」
「前回のはダメ出しされたから作り直してみました、ってことかな?」
 早くもそのへんをひとまわりしてきたらしい『夜告鳥の幻影』イズル(p3x008599)が、手にパンフレットらしきものを持って現れた。
「こうまで様変わりして『正常になった』訳ではなくて……これもまたバグなのだよね?
 それも、ひどく作為的なバグだ」
 もっとも、このROO自体が混沌を摸して人為的に作られた仮想世界だ。元々は混沌に忠実に作られる予定であったはず。
 バグによって歪んだ際、それが偶発的なものだと当初思われていたが……もし何らかの人為的な介入があったのだとしたら。
 そしてその歪みに、珠緒の意志……いや、珠緒と同種の何かの意志が、働いたとしたら。
「珠緒のアナザー固体……いや、まさかね」

「邪摩都に来るのは二度目……とは言えないか。前回は周りで敵将蹴散らしただけだし」
 『ガジェッティア』雀青(p3x002007)はじゃらりと細い鎖を手で弄ぶと、それをポケットへと滑り込ませた。
(『イデアの棺』の装置とログイン過程……ROOに関係してるのは間違いない。けど、『同じもの』と考えるには規模やシステムが違いすぎる。もし技術の一部が転用されたなら、その仮定で何かが感染してもおかしくない。そしてそういう動きをするとしたら、間違いなく……)
「とはいえ風土自体も変わってるようだし、息抜きとしては丁度良さそうだな。調査がてらブラブラするか」
 それまでの考えを一度拭い去り、雀青はぶらりと街へ歩き出す。

●観光
「あーむ」
 煎った白ごまに包まれた餅米による団子。囓ればなかにはこしあん。
 いわゆるひとつのごま団子だが、観光意識が『邪摩都団子』という名前で売られていた。
「名前はともかくウマい……」
 商品名をかいた幟旗がならぶ道。ベンチに座って紙皿から団子をつまむ雀青がいた。
「私は、どうしようかな……ひとまず、『死出の谷』について調べるか。知ってる人間がどこかにいるはず」

 一方。
「これって、やっぱり、で、デデデデート……なのかな?」
「ええ、でーと。よいものですね」
 蛍の手をそっと握る珠緒。
 賑やかな大通りを、手を繋いで歩いていた。
 考えるべき事が山のようにあったはずの蛍はしかし、顔を真っ赤にしてほわほわな気分に包まれている。このまま歩いているばかりもよくないと、二人で立ち止まったのは料理店前。
「お食事をしていきましょうか」
「えっ!? あ、う、うん。そうだね。これが終わったら穴場のスポットとか調べよっか」
 二人で入っていく料理店はとても綺麗で、さすが観光地といった風情だった。いや、むしろテーマパークのそれにすら近い。
「もう少し落ち着いたら、お仕事交じりでないこんな日も欲しいですね」
 店に入りながら思う。
 邪摩都ももしかしたら、自分の見えていない場所はこんな風だったのかもしれない。
 自分が守ってきた平和が、あったのかも。
 けれど、いまはこれでいい。
(笑顔の蛍さんが隣にいるからこそ、珠緒は前に進めるのですから)

「お兄様が行かれるならば、私も参りますわ!」
「お兄様、私あれが食べたいですわ!」
「お兄様、ナオミも協力致しますわ!」
「お兄様ぁ〜! 桜咲様に会いに行く時間ですわよ。お会計はお済みになりまして?」
「お兄様、お兄様、待って下さいお兄様!! それはダメです、お兄様ぁ〜!」
 表情豊かによくしゃべる妹NPCと共に、桜聖は中華街めいた通りを歩いていた。
 古くからあるという料理店で話を聞いた限りでは、この街はずっと昔から塔の恩恵にあずかる形で回っていたという。
 巫女は2度ほど代替わりをしたが、塔での役割やその方針が変わったこともないという。
 ふと見ると、アイシスが路上で音楽を流し、なんだかキャッチーなふりつけで歌っていた。
 観光地の路上芸はそう珍しいものでもないようで、街を訪れた観光客や近くの人々もやや集まってアイシスの歌と踊りを楽しんでいる。
 どうやら宣言通り、アイシスは役所(ここでは塔がそうだ)で路上イベントの許可をとってからイベントを行ったらしい。
 そもそも塔は路上での芸に申請を求める方針ではないようで、『なんだか丁寧なステップを踏む人だなあ』程度に思われたようだが。丁寧ついでにイベントをやるのに適した公園の場所を押しててくれたのだった。
『教えて頂きありがとうございます。
 私は駆け出しですがアイドルとして活動しているアイシスといいます。
 まだ場所は決めていませんがこのあとライブをする予定ですので是非聴きにいらして下さい』
 というようなことを言って、今のライブがある。
「本日は私、アイシスの邪摩都の初ライブに来て頂きありがとうございます。
 拙い歌かもしれませんが是非楽しんでいって下さい。
 先ずは私のデビュー曲【氷雪乱舞】聴いて下さい」

「『世界一平和な街』ねぇ……」
 両手をポケットに入れたまま、街をぶらぶらと歩くコーダ。
 目につく人物に声をかけたり小さな困りごとを解決したりしながら話しかけ、街の情報を集めて回っていたが……。
「どうも、ちゃんとし過ぎてるな」
 ここまで出会った人々は、ある程度の脚色やごまかしがあったとはいえ、この街に対して非情に好意的だった。
 観光地としての側面に目を付けて金儲けにやってきた人間も多々いたし、善意の募金を求めてくる詐欺師もいた。良くも悪くも『ちゃんとした』観光地だったのだ。
「誰かがいちから作ろうとしても、こうはならない。少なくとも、俺には無理だ」
(この結末が何処へ向かうのか。仕事になるなら俺は変わらず必要なものを護るだけだがな……)
 心の中でそっとつぶやき、そして、広場前に合流してきたTethとイズルへ振り返った。
「で、二人の収穫は?」

 Tethとイズルは観光らしい観光をしてきたが、逆に言えばそれだけだった。
 景色のいい街を歩き、シンボルとなる塔を眺め、邪摩都クッキーだの邪摩都パフェだの邪摩都クレープだの邪摩都饅頭だのをぱくついて一回りしたところだ。
 一日ですべて回りきれるような規模ではなかったが、一部をちょこっと回っただけでなんとなくわかる程度には、同じような店はあちこちにあった。
「ガイドブック通りに回るって手もあるが……ものによって違いすぎてな、選別するのも本末転倒な気がした」
 Tethは何冊かたばねたガイドブックをくずかごへ放り投げた。
「いかにも観光地って感じだったしな。整備もされてたし、美味いもんもいくつかあった。逆に、不自然に思えるような所は特になかったな。イズルはどうだ」
「いや、特には……」
 イズルは肩をすくめてみせた。
「博物館というか、塔の歴史を解説する施設があったから見てみたが、まあ……普通だったな。普通じゃないとすれば、『塔』だけだが……」
 なんでも祈りによってエネルギーを発生させる施設らしい。巫女の仕事はそのエネルギーを定期的に作り続けること。代替わりもしており、特定の誰かでなくてはならないわけではないらしい。
「そういえば、コーダが『ちゃんとしている』と言っていたね。巫女への感情も、確かに『ちゃんと』していた。ポジティブな意見が殆どだけど、下心をもって見ていたり、嫉妬を向けていたり、あわよくばその座を奪おうと考えてる奴もいた。いたように見える、というのが厳密なところだけど……」
「それに、なにか問題があるのか?」
 Tethの問いかけに、イズルとコーダは『ああ……』と顎をあげた。
「今現在もこの街が、だれか一人の感情や価値観によって統括制御されていたなら、こうはならないってことだ。清濁併せ持つ動きを人間は簡単に模倣できない。これだけの規模であればなおさら」
「つまり……」
 Tethは腰に手を当て、深く息をついた。
「仮に誰かが人為的にこの町を再構成したんだとしても、人為的なのは『再構成した』その時点のみってことか」


 アイシスがライブを終え、桜聖が桜咲の巫女へサインを貰いに行く頃。
 Tethたちはドローンを使ってその様子を俯瞰していた。
 厳密には、巫女の周り、それも遠巻きに見ているであろう人物を探すことにした。
 はじめは空振りに終わるかもと思われていたこの観察だが……。
「――!?」
 Tethとイズルを見てぎょっとした衛兵が、そそくさと持ち場を離れてどこかへ走り出したのを見つけた。
 逃げ出す兵士を追いかけ、まして先回りすることなど、イズルとTethの機動性をもってすれば容易いことだ。
 そこにコーダも加われば、捕まえるどころか人目につかない場所へ追い込んで囲むことだってできる。
「さぁて」
 ドン、と塀の肩越しに壁へ手を突き、イイ顔を近づけるコーダ。
「なぜ逃げた?」
「なぜって……いやまて、あんたら、俺を知っているのか?」
 コーダの後ろ。Tethたちを指さして震える兵士。
 顔を見合わせ、首をかしげるイズル。
「俺は……あんたに殺された、はずだ。塔もこんなじゃなかった。俺だけがおかしくなったんだと思ってた。あんたらが……あんたらが何かしたのか!?」

 丁度同じ頃、雀青は街である人物と出会っていた。
 いや、出会ったと言っていいのだろうか。
 『私は戦争で右足を失いました』という札をさげた老人が、ウワアと叫びながら足にしがみついてきたことを。
「え、は――なんだ? 誰だ、俺に一体」
「あんた!」
 半分以上歯の抜けた口で叫ぶ老人。
「あんただろう! 鎖の邪神を倒した勇者! なぜあんたは歳を取ってない! イデアさんは、みんなは、どこへ行ったんだ! 谷はあった! あったのに……!」

 蛍と珠緒は、桜咲の巫女のもとへ会いに行っていた。
 いつも決まった時間に塔から現れるという巫女に、桜聖が妹NPCと一緒に手帳へサインをもらい、ほくほくした顔で帰って行く。やることを一通り終えたアイシスも一旦合流したが、特別話すこともなかったようで一緒に帰って行った。
 並んでいた蛍たちの順番がやってくる。
「こんにちは。旅の方ですか?」
 優しい声で語りかけてくる巫女。
 雰囲気としては、珠緒にちょっと似ている。珠緒があと10年くらい普通に歳を取ったら、そして元々健康だったら、こんなふうになっていたかもしれない。
 そんな雰囲気の女性だった。
「その……似た世界からの旅人でして。差の知識が学びになるかもと」
 珠緒の言葉に、巫女はピンとこないようだった。
「ウォーカーの方、なのですね。私達の暮らしがなにかのお役に立てるなら、嬉しいのです」
 にっこりと笑う巫女。
 そんな彼女に、蛍はついくちをついたように問いかけた。
「ねぇ桜咲の巫女さん、貴女は今、幸せですか」
 言われてきょとんとした巫女だが、すぐにくすくすと笑って首をかしげた。
「ふふ、そんなことを聞かれたのは初めてです」
 そして、答えになるかわからないけれどと前置きしてからこう言った。

「幸せです。明日も明後日もこの生活が続いて欲しいということが、『幸せ』なのだとしたら」

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 ――クエスト完了
 ――街の調査が終了しました
 ――以前の街の記憶、ないしは死出の谷の記憶をもった人間をつかまえ、追加調査のため確保しました。
 ――調査は継続されています……




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