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シナリオ詳細

<ヴィーグリーズ会戦>下らぬ誇りと生き様を胸に

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 野外に張られた天幕の内、老齢の男が瞑目していた。
「――お館様」
 信頼する家令に声を掛けられ目を開ける。
「戦の準備はどうなっているか」
「全て恙なく進んでおります。決戦までには十分間に合いましょう」
「そうか」
「マーリア様、グレーティア様は無事領地を出られたそうです」
「……そうか」
 家令の言葉に、老齢の男――ミーミルンド派の幻想貴族フレート・ティファートは再び静かに目を閉じる。
「よろしかったのですか?」
「構わぬ。あれらはもうティファート家の人間ではない」
 家令の問いかけに、フレートが答えた。
(マーリア、グレーティア……)
 心の中だけで、名前を呼ぶ。
 マーリアは今は亡きフレートの息子に一般家庭から嫁いできた女性。グレーティアはその二人の間に生まれた一人娘だ。
 平民であるマーリアを、ただの地方の一領主とはいえ――幻想貴族の家が正式な嫁として迎え入れることに異論がなかったわけではない。フレート自身も当初は二人の婚姻に反対したものだ。
 しかし、マーリアは聡明な女性だった。本人の努力もあり、次期当主夫人として周囲に認められるようになるまでそう時間はかからなかった。
 一人娘のグレーティアが生まれ、伴侶たる夫が病死してからも……マーリアはティファート家の夫人として家臣に、あるいは領民に慕われ続けた。
「今となってはマーリアが平民の出で良かったのかもしれぬな」
 自嘲気味にフレートが呟く。ミーミルンド男爵が本格的に暗躍を始める少し前、フレートはその血筋を理由にマーリアとグレーティアに離縁を言い渡した。
 ティファート家に残り続けるなら、ミーミルンドと運命を共にする他ない。その発端がどれほど下らぬ、どれほど哀れなものだったとしても。
「いずれにせよティファート家は儂の代で仕舞いだ。そなたも残る必要はなかったのだぞ?」
 傍に控える家令に声を掛けるフレート。ティファート家に仕えていた者たちにはそれらしい理由をつけて暇を出した。なのにこの家令は頑としてそれを受け入れようとしなかった。
 まあそれは離縁を言い渡したにもかかわらずギリギリまでティファート家に残り続けたマーリアとグレーティアも似た様なものだったが……。
「『家』に仕える者ならそれも良いでしょう。ですが私はフレート様、貴方にお仕えする者です」
「――そうか」
 変わらぬ返事に苦笑して、フレートは軽く息を吐く。
「ではこの下らぬ騒ぎに付き合ってくれ。……最期までな」
「はい、お館様」

 数多の異形とただ一人の従者を従えて。
 幻想貴族の下らぬ誇りと生き様を胸に、老いた男は死地へ往く。


「幻想王国で起こっていた一連の事件の黒幕はもうご存じなのです?」
 集まったイレギュラーズの面々に『新米情報屋』ユリーカ・ユリカ(p3n000003)は確認するかのように問いかける。
 大量発生した魔物たち、レガリアの盗難、奴隷市、あるいはイレギュラーズの領地を狙った襲撃。一連の事件を引き起こしたのはベルナール・フォン・ミーミルンドを中心としたミーミルンド派の幻想貴族だった。
 彼らが望んだのは王権の簒奪――目論見のことごとくをイレギュラーズに阻止された彼らは幻想中部にある『ヴィーグリーズの丘』や『その周辺』に集い最後の攻勢に打って出ようとしている――。
「幻想王国に平和を取り戻すために、皆さんにも協力して欲しいのです」
 言いながらユリーカが提示したのは、ヴィーグリーズの丘の一角に陣取ったミーミルンド派の幻想貴族フレート・ティファートの軍勢の討伐依頼だった。
 ユリーカによれば、ティファート家というのは幻想ではかなり「まとも」な部類の貴族であったらしい。当代のフレートの評判もおおむね好意的なものであり、発生した一連の事件にも直接的には関わっていないことがわかっている。
 にもかかわらず、彼がミーミルンド派としてこの暴挙とも言えそうな戦いに参加したのには理由がある。
「ティファート家はミーミルンド家に大きな借りがあるのだそうです」
 昔々、まだミーミルンド家にかつての栄光が残っていた頃。冤罪で取り潰されそうになったティファート家を救ったのが、ミーミルンド家だった。
「それ以来ずっとティファート家はミーミルンド派なのだとか」
 フレート・ティファートはその借りを返すためだけにベルナール・フォン・ミーミルンドに最期まで付き合うと決めたらしい。
「彼の軍勢はほぼ全てが魔物……多分、スラン・ロウから現れたモンスターたちで構成されているのです」
 軍勢の中にいる「ヒト」はフレート・ティファート本人と、長年彼に仕える家令一人だけ。
「どうも一連の事件が起こる直前くらいから少しずつ従者や家臣にまとまったお金を渡して暇を出していたらしいのです。早世した息子さんの奥さんやその娘さんと暮らしていたようですが、そちらにも離縁を申し渡して家から出したと……」
 幾人かの胸の内に「身辺整理」という言葉が浮かんだ。おそらく彼は、自分たちがしていることの愚かさに気付いている。勝ち目などほぼない、ということにも。
「ともあれ、ミーミルンド派として反旗を翻すなら討伐する他ありません」
 フレートにも付き従う家令にも、イレギュラーズと渡り合えるような力はない。
「魔物たちを倒してしまえばこちらの軍勢との戦い自体は終わると思うのです。その後、残った二人をどうするか、あるいは二人がどう動くかは……」
 言葉を濁すユリーカ。ふぅ、と小さく息を吐き、改めてイレギュラーズに視線を向け言葉を紡ぐ。
「……まずは騎士団と協力して魔物の討伐に専念してください」

 どんな結末が待っているにせよ、二人が逃げるということはありませんから――。

GMコメント

 乾ねこです。
 幻想王国を騒がせた一連の事件に決着がつこうとしているようです。こちらのシナリオは『古廟スラン・ロウ』から現れたモンスターたちを中心としたミーミルンド派の幻想貴族の軍勢を討伐するシナリオとなっております。

●成功条件
 全ての魔物の討伐
 ミーミルンド派の幻想貴族フレート・ティファートとその家令の討伐または捕縛

●戦場
 幻想中部『ヴィーグリーズの丘』の一角、遮蔽物も何もない広い平原が戦場となります。
 幻想の騎士団が雑魚モンスターの相手をし、ボス格のモンスターへの道を切り開いてくれています。

●敵の情報
 幻想貴族フレート・ティファートとその家令、そして『古廟スラン・ロウ』から現れたモンスターたちが相手です。

・黒き巨人
 禍々しい気配を放つ赤黒い鉈を手にした巨人です。体力があり攻撃能力に長け、近くの敵単体に強力な一撃を放つ、鉈を振り回し周囲の敵全てを攻撃する、鉈をブーメランのように投擲し遠距離にいる敵を狙うなど多彩な攻撃をしてきます。

・白き巨人
 アンデッドのような見た目をしたおどろおどろしい気配を纏った巨人です。ガリガリの見た目に反し打たれ強く、広範囲の敵に対し呪縛や魅了を伴う攻撃を多く行います。たまに行う距離を無視した単体攻撃には致命の効果が伴うこともあるようです。

・その他の魔物(数十体)
 上記二体より小型の巨人やアンデッドで構成された魔物の群れです。特殊な攻撃などはしてきませんが数が多いです。
 その大部分は幻想の騎士団が相手にしていますが、いくらかの魔物がイレギュラーズに向かってくることがあります。ボス格の巨人二体を討伐した後はこちらの掃討に協力することになると思われます。

・フレート・ティファート
 この軍勢のモンスターを使役するミーミルンド派の幻想貴族です。
 彼自身に大した戦闘能力はなく、どういう意図があってかは不明ですが「逃げる」という選択肢もないようです。

・ティファート家の家令
 長年フレート・ティファートに仕え続けてきた家令です。
 彼もまた戦闘能力は高くありません。主に最期まで付き従う、と決意しているようです。

●士気ボーナス
 今回のシナリオでは、味方の士気を上げるプレイングをかけると判定にボーナスがかかります。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • <ヴィーグリーズ会戦>下らぬ誇りと生き様を胸に完了
  • GM名乾ねこ
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年07月03日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ヨゾラ・エアツェール・ヴァッペン(p3p000916)
【星空の友達】/不完全な願望器
ゴリョウ・クートン(p3p002081)
黒豚系オーク
アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)
蒼穹の魔女
ヴィクトール=エルステッド=アラステア(p3p007791)
懐中時計は動き出す
リズリー・クレイグ(p3p008130)
暴風暴威
ソニア・ウェスタ(p3p008193)
いつかの歌声
グリーフ・ロス(p3p008615)
紅矢の守護者
皿倉 咲良(p3p009816)
正義の味方

リプレイ


 西に傾いた太陽が、緑の草地に幾つもの長い影を映し出す。影に沿うように視線を上げれば、そこには魔物の群れ……否、軍勢がいた。
 どす黒い肌の巨人とボロボロの布を纏ったアンデッドの混成部隊、その一番奥にひと際大きな黒と白の巨人が見える。
 ソレらと対峙するのは、イレギュラーズを主力に据えた幻想の騎士団。騎士団の隊長がイレギュラーズに改めて作戦を説明する。
「『道』は我々が作ります。皆さんはあの巨人二体の相手をお願いします」
 それぞれに了承の意を示すイレギュラーズ。
「騎士団の皆が魔物を相手取ってくれるの、すごく助かる!」
 『希う魔道士』ヨゾラ・エアツェール・ヴァッペン(p3p000916)の言葉に、頷き返す隊長。彼らにとってもイレギュラーズはこの上ない助っ人だ。
 隊長を、そして騎士団の面々の見回した後、『希望の蒼穹』アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)が口を開いた。
「私たちが負けることがあれば、もっと多くの犠牲が出る」
 彼女の言葉を聞いていた騎士たちの表情が、より一層引き締まった。
「でも安心して、私たちがみんなのことを護るから。絶対に勝つよ!」
 力強い宣言を受け騎士たちの士気が上がる。それに合わせるように、突撃の命令が下った。
「「「うおぉお!!」」」
 鬨の声を上げ魔物の群れに向かっていく騎士団。その勢いに圧されるように魔物の群れが割れ、奥に構える二体の巨人への道が開く。
 騎士たちの脇を駆け抜けるイレギュラーズ。その途中、騎士団の猛攻を受けた巨人が地に倒れ伏すのが見えた。
 ここぞとばかりに『正義の味方(自称)』皿倉 咲良(p3p009816)が騎士たちに檄を飛ばす。
「よっしゃー! バンバン倒してガンガン進んでいこう!」
「「応!!」」


 騎士団の助力で魔物の群れを抜け、一気に二体の巨人に近づく。
「よぉ、ずいぶん痩せてんなぁデカブツ! メシしっかり食ってんのかぁ?」
 金眸に明確な挑発の意思を込め、『黒豚系オーク』ゴリョウ・クートン(p3p002081)は骨と皮だけの……ミイラとも見紛うような青白い肌をした白き巨人を睨みつける。
 白き巨人は感じた視線を辿るように顔を動かし、その光無き落ち窪んだ双眸がゴリョウを捉えた。白き巨人が一歩前へ踏み出そうとしたその瞬間、アレクシアが打ち出した小さな魔力片が幾重にも重なる花火の如き煌めく花弁となって巨人に襲い掛かった。
 タイミングを合わせるように巨人の懐へと飛び込んだ咲良がそのまま肉弾戦を仕掛ける。
 続くようにして『厳冬の獣』リズリー・クレイグ(p3p008130)もまた、白き巨人の足元へと潜り込んだ。
「ガンガン行くよ!」
 見上げんばかりの大きな巨人の骨張った脚部、その膝関節目掛けてガントレットによる強打を放つ。
 ぐらりと揺れたミイラのような巨体に『いつかの歌声』ソニア・ウェスタ(p3p008193)の魔光閃熱波が襲い掛かった。
 破壊的で圧倒的な威力を持ったその攻撃で大きく身を仰け反らせた白き巨人を、『決死防盾』ヴィクトール=エルステッド=アラステア(p3p007791)がぴたりとマークする。
「あなたがたがいてはまともに話もできませんので」
 囁くような言葉と共に伸ばされた毒手が白き巨人に享楽の悪夢を知らしめ、その身を苛む病と毒を注ぎ込む。
『アアァァアァ……』
 白き巨人が声を上げた。どこか物悲しい、しかしどうしようもなく耳障りな声が衝撃波となり一帯を襲う。
 幾人かのイレギュラーズが心をざらつかせるような不快感に顔を顰める。幸いにしてイレギュラーズがその不快感に囚われることはなかった――が。
「う……わ」
 敵陣深く入り込んでいた一部の騎士が巻き込まれたのだろうか、後方で呻き声のようなものが聞こえた。
(騎士団が巻き込まれちまったか)
 思わず舌打ちしかけたゴリョウの耳に、後衛として控えていたヨゾラの声が届く。
「大丈夫、任せて!」
 ヨゾラの背に光の翼が現れる。その羽ばたきに舞い踊る光刃が白き巨人の皮膚を裂き、さらには騎士たちを正気に戻してみせた。
「君達ならこのままいける! 皆で生きて勝とう!」
「はい!」
 ヨゾラの発破にもしっかりとした返事が戻ってくる。
「助るぜ! こいつの攻撃は面倒だからな、できるだけ離れとけよ!」
 改めて散開の指示を飛ばすゴリョウにもう一体の巨人、墨のような黒い肌をした巨人が視線を向けた。ゴリョウに向き直り血がこびり付いたようにも見える鉈を振り上げようとした黒き巨人に、『白き不撓』グリーフ・ロス(p3p008615)が迫る。
「貴方の相手は私です」
 静かな声が黒き巨人の怒りを呼び覚ます。力任せに振り下ろされた鉈がグリーフに襲い掛かった。
 それに構うことなく、グリーフは改めて遥か上にある黒き巨人の小さな瞳を見つめて言葉を紡ぐ。
「どうぞ私だけをみて、狙って」
 この名乗りが他の魔物をも引き寄せるというなら、その魔物も諸共に引き受けましょう。
 ――私は決して、倒れませんから。


 戦場に、白き巨人の嘆きとも怨嗟とも聞こえる声が響き渡る。
「ぶははっ! 痩せぎすの割にはずいぶん頑丈じゃねーか!」
 それに怯む様子もなく不敵に笑い、その意思の力を衝撃波へと変え白き巨人へと叩きつけるゴリョウ。
「くっ……」
 声の呪縛を受けた咲良の微かな異変を察知したアレクシアが、あたり一帯に浄化の魔力を拡散させる。
 小さな、色とりどりの花弁の姿を取った魔力が見る者を鼓舞し、咲良や、騎士たちの呪縛を解いていく。
「私がみんなを護るんだ!」
 アレクシアは間髪入れず白き巨人に手を伸ばし、葬送の霊花を放つ。
「ありがとっ!」
 気合を入れ直し、白き巨人に格闘戦を挑む咲良。本職は後方支援だというソニアも積極的に攻撃に参加し、白き巨人の体力を削り取っていく。
 白き巨人に接敵したまま攻撃集中し、それを粉砕せんと猛獣の一撃を放つリズリー。
 彼女はほんの一瞬、巨人たちのわずか後方に目を向けた。
 そこにあるのは二つの人影――この魔物の軍勢を率いるフレート・ティファートとその家令の姿がある。
 位置的に言えば広範囲に届く白き巨人の『声』に巻き込まれそうな場所なのだが、二人が傷つく様子はない。
「巨人共の『味方』だから影響は受けないってことかね?」
 リズリーの声を拾ったヴィクトールが、白き巨人に向けて享楽の悪夢を見せる毒手を伸ばしながら答える。
「おそらくはそういうことでしょう。こちらの攻撃が当たらぬよう注意しておけば巻き込む心配はないかと」
「……ま、敵をぶん殴る事だけ考えりゃいいってのは助かるけどね!」
 一族に伝わる宝剣を構え、白き巨人に向かっていくリズリー。『声』による攻撃でジリジリと削れる仲間の体力を、ヨゾラのサンクチュアリが強烈な支援でフォローする。

 ――白い巨人と黒い巨人、なんか両方ともめっちゃ強そうだな。

 戦闘前、二体の巨人を目にした咲良はそう思った。
 そしてその感想は、間違ってはいなかった。
 白き巨人の声は耐性のない者の心を縛り、惑わせる。黒き巨人が鉈を振るう度、ブォン! とその分厚い刃が空を切る音がする。グリーフの張った保護結界がなければ、今頃黒き巨人の周囲の地面は鉈で抉られ刻まれ見る影もなくなっていたに違いない。
 その耐久性もまたかなりのもの……しかしここには、それに負けないだけの十分すぎる面子が揃っていた。
『アアアァァ……』
 七人のイレギュラーズから集中攻撃を受け続けた白き巨人の巨体が揺れる。アレクシアの葬送の霊花がそれを取り巻くように中空で煌き、巨人を追い詰める。
 煌めく花弁が消える瞬間を見透かしたようにリズリーが放ったフェイタルブロウに耐えきれず、白き巨人の巨体が音を立てて地面に倒れ伏す。
『ア……アア』
 なおも立ち上がらんと顔を上げる巨人。両手を地につき四つん這いになった巨人に咲良が鋭く踏み込み肉薄する。
 振り上げられた拳が狙うのは巨人の米神、生物にとっての急所ともいえるその場所を咲良の拳が直撃した。
 ビクン! と一度激しく痙攣し、顔面から地面に崩れ落ちる白き巨人。その最期の確認を仲間に任せ、ゴリョウは一人黒き巨人と対峙するグリーフの元へ走った。
「アレを抑え切るたぁやるねぇグリーフ!」
 振り回される鉈を寸でで躱し、声を掛ける。
「……鉈を処理できれば良かったのですが」
 ゴリョウの称賛にグリーフが冷静な声で返した。
「ぶははっ! 今まで抑えてくれただけで十分さ!」
 いくら「倒れぬ」とはいえ攻撃に長けた巨人を一人で抑えるのは大変だったに違いない。
「白の巨人は咲良さんによって討たれました! もう一息です!」
 黒き巨人と対峙する二人の耳に、ソニアの声が届いた。目一杯張り上げられた声が騎士団にも聞こえたのだろう、後方で「うおおお!」と歓声とも雄叫びともつかぬ声があがる。
「よっしゃ、コイツもさっさと片付けちまおうぜ!」
 他のイレギュラーズの面々も二人に合流し、黒き巨人との本格的な戦闘が始まった。


 魔力の花弁が爆ぜるように煌き、光刃が舞い踊る。伸びた毒手が悪夢を知らしめ、破壊的な魔術が圧倒的な力を振るう。
 ガントレットの強打でバランスを崩した黒き巨人を衝撃波となった意志の力が強かに打ち、細身の体から繰り出されたとは思えぬ鋭い打撃が急所を狙う。
 イレギュラーズと黒き巨人の戦闘は、終始イレギュラーズ優勢で進んだ。黒き巨人が振り回す鉈の威力は脅威であったが、グリーフとゴリョウ、二人に対する怒りに囚われた巨人は彼らを狙った攻撃しかしてこない。そして彼らは盾役として高い性能を持っている。
 予備動作なしに行われた振り回し攻撃にもっとも体力のない咲良が巻き込まれてしまいヒヤリとする場面もあったが、以後の攻撃から彼女を庇ったヴィクトールと強力な癒し手達の力で事無きを得た。
 イレギュラーズの連携の前に、黒き巨人はどんどん追い詰められていき――。
「あたしはリズリー・クレイグ! この名前を覚えて逝きな!」
 リズリーが放った敵対者を粉砕する一撃が、黒き巨人の命を刈り取った。
 地響きを立てて倒れる巨人の骸。巨人との戦いの決着をソニアが宣言すれば、再び騎士団から歓声が上がった。
 残るは騎士団が相手取る有象無象の討伐と……この軍勢を率いるフレートと家令への対処。息つく間もなくイレギュラーズは次の行動を開始する。

 魔物たちに圧される騎士がいた。アンデッドの骨のような手が騎士に向けて伸ばされる。
「くそ……!」
 逃げられない、騎士が悪態をついたその瞬間。
「正義の味方に任せろっ! てやぁっ!」
 横合いから伸びてきた咲良の拳がアンデッドを思い切り殴り飛ばした。
「ありがとう、騎士さん達! 残りも倒していこう!」
 礼を言いながらヨゾラが光翼乱破を発動させる。
「大丈夫大丈夫! 落ち着いて確実に倒していこう!」
「君達ならこのままいける! 皆で生きて勝とう!」
 当代の英雄たるイレギュラーズとの共闘に、騎士団の士気は更に高まり魔物たちが次々と倒されていく。

 騎士団を手伝うべく走り出す仲間を見送り、アレクシアとヴィクトールはフレートたちに対峙していた。
「降伏していただけませんか」
「それはできぬな」
 ヴィクトールの勧告に返ってきたのは拒絶だった。
「我らの軍勢はほれ、まだそこに残っておる」
 老齢の男が顎で指すのは、騎士団やイレギュラーズと戦う魔物の群れ。
「『アレ』がある限り、降伏はできん。我らを降伏させたくば先にアレを片付けてくることだ」
 二体の巨人が倒れたことで事実上勝敗が決した。にもかかわらず彼らにはそれを悲嘆する様子も悔しがる様子もない。
(誇りと生き様を抱えて、ですか)
 おそらく貴族にとっては大事なことなのだろう。余人を巻き込まぬよう自分たちだけで抱えて、そのまま死ぬ。
(なるほど、実にかっこよく……実に、くだらない)
 心の中だけで吐き捨てるヴィクトール。家族のためを思うならば、こんな戦いになど参加せずいつも通りの日々を過ごしたほうが幸福だろうに。
「今ここでケリをつけても構わんぞ? 儂が死んでもそなたらがやることは変わらんが」
「死なせませんから!」
 どこか面白そうな男の発言にかぶせるようにしてアレクシアが叫んだ。
 突然の宣言に一瞬呆気に取られたような顔をした後、男は微かな笑みを浮かべながらこう言った。
「ならばあの魔物の群れを早く片付けてくるがいい。そなたらが向かえばもっと早く片が付くのだろう?」
 二人の自害を警戒するアレクシアの内心を見透かしたように男が付け加える。
「案ずるな、そなたらが戻ってくるまでは死なぬよ」
 ――全ては魔物の討伐が終わった後に。


 戦闘はほどなく終わり、フレート・ティファートとその家令はイレギュラーズによって捕らえられた。
 罪人として即護送すべきという騎士団の主張を抑え、ゴリョウを覗くイレギュラーズの面々は彼等と共に騎士団が張った天幕の一つの中にいる。
 ちなみにゴリョウは早った騎士たちが暴走しないようにと抑え役を買って出た。今頃は騎士団と共に天幕の外で待機しているはずだ。
「君達の意思を……本心を、聞きたい」
 ヨゾラが切り出す。捕らえる際も、得物を取り上げ持ち物をチェックした時も、彼らは一切抵抗しなかった。
「本心と言われてもの」
「逃げずにココで散るのが美しいと思っていたなら――いえ、そうは思っていないのでしょう?」
 ヴィクトールが指摘した。もし本気でそう思っていたなら身辺整理などしないはずだ。
「逃げられない理由があるなら、話してください。それからもわたしたちは開放しましょう、手を貸しましょう。無理を通し、無茶を通し、夢物語もできる限り叶えますから、どうか」
 ヴィクトールの訴えに、フレートは心底困ったように苦笑して見せた。
「理由など存在せぬよ。ミーミルンドへの貸しを返すためこの戦に参加した。戦に負けた以上我々は滅ぶ、それだけだ」
「逃げないで!」
 穏やかな、諦念を含んだ声にアレクシアが反発するように言い返す。
「私は貴族というのは本来多くの人を、領民を、護るべき立場の人だと思ってる。ここであなたが生命を散らせば、今まであなたに護られてきた人たちはどうなるの?」
 アレクシアに続き、グリーフも口を開く。
「私には貴族社会はわかりませんが、『償いのため』でなく『守るため』に生きて欲しいと思います」
 例え針の筵であっても自らを批判の矢面に晒し、自分たちが守ろうとした人々を守り続けて欲しい。
 守りたかった人々に火の粉が飛ばぬよう、火の粉が飛んでもできる限り救いの手を伸ばせるよう。
「何もできなくても貴方たちが生きていることが、彼らにとって救いになることも、あるかもしれません」
「捕まってでも生きて。どの位経ってでも、大切な人達が生きる所へ行くんだ」
 ヨゾラもまた、訴える。
「それが……誇りや忠義を胸に持つ君達にできる事、だと思うよ」
 誇りや忠義を貫く人間に死んでほしくない。第一、彼等の死後大切な人達が何にも狙われずに済むとは限らない。
 イレギュラーズの言葉を黙って聞いていたフレートが、小さく息を吐いた。
「……つまりそなたらは儂に死ぬな、生きろというのだな?」
 その通りだと頷く面々に、今度は大きく……はっきりとため息をつくフレート。
「儂はそならたらに負けたのだ、そなたらが生きろというなら自害などという真似はすまい……だがそなたらは甘いの。いや、若いのか……」
「どういう意味ですか?」
 尋ねるソニアに視線を送り、フレートは言葉を紡ぐ。
「此度の戦にミーミルンド派として参加した貴族が本当に生き永らえられると思うか? これはただの戦ではない、我々は王家に、幻想王国という国そのものに弓引いたのだぞ?」
 フレートの問いに答えられる者はない。微妙に重苦しい雰囲気に包まれた天幕の中に、フレートの声だけが響く。
「ここで全て終わらせたほうが楽だろうに」
 呟くように言って、フレートはゆっくりと頭を左右に振った。
「まあ、これは老いぼれの戯言よ。そなたらはやるべきことをやった、それでよい」


「何度聞いても貴族社会ってのは面倒そうだねえ」
 騎士団に引き渡され護送されていくフレートたちの後ろ姿を見ながらリズリーがぼやいた。面子や貸し借りが大事、という考えは理解できるが貴族のソレのいかに面倒なことか。
(お父様はこういった争いもたくさん見てきたし、鎮めてきて)
 リズリーのぼやきを聞きながら、ソニアは考える。
(元の世界に帰って、私が正式に当主になれば、今度は私がその矢面に立つことになるのでしょうね)
 不謹慎だが「いい経験ができた」と思うべきなのだろう……。

 愚かと知りつつ貴族としての誇りと生き様に殉じようとした男がこの先どうなるか、今は誰にもわからない。
 いつの間にか太陽はその姿を消し、残光だけが西の空を赤く染めていた。

成否

成功

MVP

グリーフ・ロス(p3p008615)
紅矢の守護者

状態異常

なし

あとがき

 お疲れ様でした。
 二体の巨人、及び魔物の群れは全て討伐され、軍勢を率いていたフレート・ティファートと家令の身柄も確保されました。
 MVPは黒き巨人を一人で抑えてくれた方に。

 ご参加ありがとうございました。ご縁がありましたらまたよろしくお願い致します。

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