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シナリオ詳細

<ヴィーグリーズ会戦>まなざす、まなざせ、まなざすとき

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●前提のモノガタリ
むかし、むかしのモノガタリ。

遙か昔、幻想建国以前、勇者王アイオンが、まだ勇者であったころのこと――。

クラウディウス氏族と、イミル氏族。
勇者アイオンは、二つの氏族の講和をかって出た。
これからは手を取り合って生きていこう――。
首尾よく話を取りまとめると、アイオンは、次の旅へと歩みを進めた。
その場で、悲劇が起こるとも知らずに……。

講和の席で、クラウディウスは裏切った。
毒を盛り、イミルの戦士たちを殺戮したのだった。

イミル氏族のフレイス姫は、巨人を顕現するための邪法をとり行い、自身や戦士達の命と引き換えに、巨人を呼び覚ます……。

とまあ、このモノガタリの筋書きは、こんな感じである。

●コンパスが正確な方向を指し示さず、強烈な磁石に惹かれるように
 さて。
 思惑は、どうだっただろう。
 フレイス姫に生み出された魔物たちは、際限なく、「人」を憎んでいた。
 集まった奴隷商人たちは、ただ単に利益を求めただけだったかもしれない。

 宙から零れ落ちた悪意が、ぽたりと、領地を濡らしていった。
 しかし、そこは物語の皿の上だった。
 オラボナの支配する、「にくばたけ」。

 Nyahahahahahahahaha!!!

 ハーメルンの笛に惹かれるように。その嗤い声がずっと頭に響いていた。
 奴隷商人、――愚かな貴族たち、魔物でさえ、狂気に陥った。

 浮かぶ三日月。

 ここは皿の上。
 気が付けば、目の前には一面の花畑が広がっていた。

 何をしに来たのだったか。
 そうだ、講和条約を結びに来たのだ。
 そうだ、だって今日は偶数の日だし、目が8つもあっては非常に天涯孤独というものだ……。

 まるで意味をなさないワードサラダを、とびっきりのドレッシングで和えよう。

 狂気に身をゆだねれば、なんと世界は理解しやすいのか!
 にくばたけとまじりあい、……ぱりんと、世界が割れた。割れてしまった。
 ひとたび知ってしまえば、世界は、もう二度と元には戻らない……。

●狂気にむしばまれ
 魔物と、悪徳貴族の討伐が今回のミッションのはずだった。
 オラボナの領地にやってきたイレギュラーズたちは、実に奇妙な光景を目撃することになる。
 空に浮かぶ、真っ赤な三日月。
 そして、陽気に狂ったパーティーである。

「おお、君たちもパーティーに来たのかい?」
「もうすぐ、俺たちは仲直りするんだよ」
 欲深く、狂った奴隷商人と魔物たちが、なぜか、争わずに陽気なパーティーを開いている。
『講和のためのパーティー』と、彼らは自称する。
 ホイップクリームで祝い、陽気に寿ぎながら、『破滅の物語』が始まるのを待っている。

 彼らの中心に据えられていたのは、オラボナ=ヒールド=テゴス――と自身を認識している何か。彼ではない。見つめすぎて溶けあい、ただ、同じものと思っているだけの存在だ。
 人々はホイップクリームをすくいとって、満足そうに歌――おぞましい音に合わせて、ゆらゆら揺れて、意味のない文字列を唄っている。
「もうすぐ、生まれるんだよ!」
「あの存在が! 喜ばしい!」

 鏡合わせは割れる。
 どちらかがオラボナである。同時に一つだけが存在することになるだろう。

『誰かの好きな御伽噺』。
 それもまた、誰かの物語であると、一文が記される。

『こうして、勇者一行は、講和の席にやってきたのです』。
 定義によれば、ホイップクリームは無限に掬い取ることができる。
 まがまがしい存在は脈打っていて、どんどんと圧を増しているように思われる。つまりは現状、この存在は「無限のいけにえ判定」があり、対価が無限につりあがっていくのだ。
 理解はできないが、とにかく……この狂気に終止符を打たなければ、破滅が待っていることだろう。

GMコメント

雨に映える紫陽花の花も美しい頃、イレギュラーズの皆様、いかがお過ごしでしょうか。
”おなじ”物語の1ページに、皆様をお招きしたく思います。
……例によってだいぶ思わせぶりなんですが、そして今回は紛れもなく強敵なんですが、
「みんな狂ってて、儀式っぽい何かをしている」「阻止しなければまずい」という感じです。

●趣旨:
『???(未定義)』の顕現の阻止
・パーティーを妨害して、あるいは乗っ取るといいでしょう。

●場所:
バルツァーレク領(幻想)「にくまみれ」。
あるかも定かではない、一面の■■が咲き誇る場所にて、”講和の議”を行います。

●相対:
オラボナ=ヒールド=テゴス(と自身を認識している何か)
『同一奇譚』オラボナ=ヒールド=テゴス(p3p000569)を見つめ続けることで、そういう存在になりました。
どういうわけか、「無限のいけにえ判定」を持ち、そのせいで状況がまずいことになっています。
・基本的に、高い再生力を誇る塊です。無限に再生する肉体を無限に差し出すことで、なにかやばい『上位存在』を呼び覚まそうとしています。
・基本的に、『棘』によるカウンターダメージを持ちます。

煽動者たち×30名程度(偶発的発生)
事態を混乱に陥れる煽動者たちです。
物語を定型的な帰結に導くべく、一定の意思を持って争いをあおり立てています。神秘属性です。

●味方:
『おにくではない』……×10塊程度
裏方たち。
不定期に発生して、イレギュラーズ達の物語に従って動きます。イレギュラーズ達に味方する友軍です。

●特殊な状況:
SANが0の、同情の余地のない悪人の狂人たちが「講和パーティー」を行っています。
魔物、人、入り乱れて、二色の帽子をかぶっています。
一応、赤がクラウディウス派、青がイミル派であるようです。狂人なので言ってることがすぐ変わるかもしれませんが。
このまま放っておくと、赤が青を裏切って毒を盛り、青がおぞましい儀式を行い、何かやばいのが完全に目覚めますので、予定調和を防ぐ必要があります。
不確定要素を入れ込んで、筋書きを乱すと弱体化します。
たとえば「でも赤は黒だし白なんじゃない?」みたいな意味不明なことを言うと、辺りはざわついて「なるほど!」と納得し始めます。
物語を妨害したり、手助けしたり、あるいはパーティーを乗っ取ったり、予想外の行動をとると、少しずつ物語が崩壊していきます。そうすれば付け入るスキができるはずです。信仰を集めるのもいいですね。

この奇妙な状況を引き起こしているオラボナ=ヒールド=テゴス(と自身を認識している何か)と相対することになるでしょう。しっちゃかめっちゃかな『モノガタリへの妨害』が多ければ多いほど完全ではなく、弱体化していくことでしょう。反撃ダメージも抑えられると思います。

●士気ボーナス
 今回のシナリオでは、味方の士気を上げるプレイングをかけると判定にボーナスがかかります。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はEです。
 無いよりはマシな情報です。グッドラック。

●Danger!
 当シナリオにはパンドラ残量に拠らない死亡判定が有り得ます。
 予めご了承の上、参加するようにお願いいたします。

  • <ヴィーグリーズ会戦>まなざす、まなざせ、まなざすときLv:10以上完了
  • GM名布川
  • 種別通常
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2021年07月06日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

オラボナ=ヒールド=テゴス(p3p000569)
同一奇譚
イーリン・ジョーンズ(p3p000854)
天才になれなかった女
ジョセフ・ハイマン(p3p002258)
異端審問官
フルール プリュニエ(p3p002501)
夢語る李花
シラス(p3p004421)
竜剣
クレマァダ=コン=モスカ(p3p008547)
海淵の祭司
ヴェルグリーズ(p3p008566)
全てを断つ剣
ライ・リューゲ・マンソンジュ(p3p008702)
あいの為に

リプレイ

●理解
「では――振り出しに戻る準備は良いか」
『同一奇譚』オラボナ=ヒールド=テゴス(p3p000569)がはじまりを告げた。
 画面の中央に輪が生じ、四角を連ねた方陣が――簡単に言えば一時停止のマークが生じる。
「もしくは好いかと問答を始めるべきで、この状態は異常としか言いようがない。最も、全ての開幕は私自身の心臓(ない)で有り、眼球は心からの贈り物だろう――」
 オラボナは「未定義存在」と向き合った。
 片側は赤と青。もう片側は――不確定の玉虫色。
「しかし貴様等、色付けが危ういではないか。この土留色のカスタードクリームを臓腑(シュー)に注ぎ給え。酩酊とした筆は最終的に『上位存在』とやらを冒涜するだろう」
 オラボナの姿は七色に揺らぎ、鮮やかな色を失い土留色に輝いた。

 再開。

「狂気に対して狂気的に振る舞っては呑まれるぞ」
『海淵の祭司』クレマァダ=コン=モスカ(p3p008547)は理解する。
 肌で旋律を識った。未熟な客達の群れの息づかいには、一定の規則がある。オラボナを模した何かは”ともかく”、信者の複雑に絡んだそれは単なる繰り返しだ。
「なるほどこれは過去への冒涜、あるいは私の信じた未来の成れの果て」
『騎戦の勇者』イーリン・ジョーンズ(p3p000854)は割り当てられた役割を理解する。
 少しだけ遠くの、波の音を。

「ええいいわ、踊ってあげましょう。私の歌が届く限り
アリスは胎児、何故踊る?」
――ボくがソれを望ムから。
 司書がたゆたう奇書のひとつだ。
「……まあ、本当に“おかしい”のが誰かはいずれ分かろう。
 そして何かを降そうというなら、”手伝おう“じゃないか」
 未定義存在の鼓動に合わせるように、とくんと心臓が一つ動き、波濤が広まった。

●観測者たち
「なんだあれ」
『竜剣』シラス(p3p004421)は、脈打つ肉にも戦意を失うことはない。ただ見るだけだ。いくつもの修羅場を潜り抜けてきた子竜は鋭い目で敵を見据える。
「悍ましいの一言だな」
「適度に距離を取っていれば狂気に飲まれることも無いでしょう。
ええ、ええ、私は正気でありますとも」
『あいの為に』ライ・リューゲ・マンソンジュ(p3p008702)はいたいけなシスターだ。
 正気で優しく敬虔なシスターは模範的で冷静だった。
――黒を塗りつぶすことは不可能だ。
「このような事が赦されるのか」
『異端審問官』ジョセフ・ハイマン(p3p002258)はわなわなと震えて憤っていた。
 机にこぶしを打ち付ける。
「私はこの国の有り様にも歴史にも詳しくはない。ここ最近の混沌全体の情勢にすら疎いのだ。だが分かるぞ。これはとんだ冒涜だ!」
「あぁ、あぁ。講和、仲直り、違う種族同士で優しく愛しく共に在ろうとするのは素晴らしいわ。とても、とても。素晴らしいと思うわ」
『夢語る李花』フルール プリュニエ(p3p002501)は少女らしい、夢見るような表情を浮かべた。青と赤の境界で、にこりと花が咲かんばかりの微笑みをこぼす。
「だけれど、今は。この宴を台無しにしましょう。争わなければわかり合えないのがこの状況。悲しいけれど、私達はここから出なければならないから」

「人は本当に興味深い。自身の想像力と認知の歪みだけで驚くほど深い狂気に陥ることがある」
『全てを断つ剣』ヴェルグリーズ(p3p008566)は歪んだ空間を見据える。
「でも本当の狂気からすれば……狂気と認識する隙を貰えてるだけマシだったりするのかな?」
(あのオラボナっぽい何かを止める必要があるわけだ。
けれども力押しではどうやら骨らしい……いや、肉か?)
 並一通りの者なら戦意を失うだろう肉塊を前に、シラスは攻略方法を探る。スキはある――おそろしく痛そうな棘を抜きにしたら。
「先ず作戦の大きな流れの一つは儀式を遅らせること」
「うむ、違いあるまい」
「クラウディウスとイミルの伝承というか過去の事件を模してるのは分かる……」
「まったく、ひどい冒涜だ!」
「それなら歴史通りに進まないように誘導しよう。
この際は言葉は適当でいい。
と言うか真面に考えたらこっちがおかしくなっちまう」
「うん、それがよさそうだ」
 ヴェルグリーズは頷いた。ヴェルグリーズにはこの空間のつぎはぎが見えた。
 ライがまっすぐに、指で3を示した。
「彼らのパーティを乱し、予定された破滅という定型的帰結を変える事。
狂人達の信仰を反らしオラボナさんへ向ける事」
そして、正気である事」
 ぱちん、とまた乾いた音。
 シーンの転換。
(なすべきことはそう。皿をひっくり返す。儀式を台無しにすることだ)

●闖入者
「今日は何かある日なのですか? 何でもない日ですか?
それはおめでとうございます」
「やあ、お客人!」
(まだ大丈夫、適度な距離です)
 ライはゆっくりと歩み寄った。
 信者たちに交じり、狂ったふりをしてみせる。
「こんにちは。満員? 満員? どこが満員ですか、いっぱいあいてるじゃありませんか」
「おお、それはすまなんだ」
 ぐしゃりと一体が崩れ落ちて、席をあける。ライは動揺をみせなかった。
「ありがとうございます、席がちょうど空きましたね」

 にぎやかな喧騒。
「何故赤と青が争わねばならないのか、全ては剣の丘の戦いの仕業!」
 はっきりと、ヴェルグリーズの声は場を切り裂いて塗り替える。
 天眼の魔女は状況を見下ろす。有力者を見分ける。それは、この場で最もみすぼらしい乞食。理屈は逆転している。
 段落の切れ目がそこにある。
 パン、と軽やかにイーリンが手を打つ音が響き渡った。
「なぜ青と赤なのかな。クラウディウスもイミルも講話する理由を考えてみなさいな! それはボクたちの知る歴史は既に死んでいるからだよ。では赤と青が紫の地平に浮かぶ白虎夜は誰に向くのか、そう[我々]だ!」
 イーリンは、大声で手を叩き歩く。
 続きを見守る招待客たち。イーリンは、朗々たる声で台本を塗りつぶしていった。
 フルールはにこりと見つめる。オラボナを見つめる。意味ありげな視線。息をのむようなしぐさ。それは祝福であり神性の付与だ。
 場が震える。
「不思議な世界ですねここは、正気の世界とは一線を画しています」
 ライは、そっとオラボナに椅子を引いた。
「このパーティは何処へ向かうのです?
彼女の方へ向かってみては? 立ち止まっているだけでは、同じ場所に居続ける事も出来ませんからね!」

●衆目を集める
「それにしても不愉快な状況じゃな、これは。
何がなのかはわからないがこの敵自体が何かの冒涜のようで心の芯が喰われるような気がして……」
 ふるりと震える代わりに、クレマァダが吐き出したのは自嘲だった。
「そうして薄皮一枚の理性(しょうき)が溶かされれば、己の裡にある真実(ほんしょう)が曝け出されるようで、堪らなく可笑しくなる」
(あちらのオラボナおねーさんも同じものを持ってるのかしら。どちらがより強く信仰を集めるのかしらね?)

 劇は停滞する。
 赤と赤が殴り合い、青と青が殴り合う。
「あはは♪ 楽しいパーティーです! 皆もっと近づいて!」
 混沌としていた。起こるべき対立は起こらない。
「我々は赤と青、それが交わるのは敵が居たから? それって誰かな、ボクだよね。私かな? 君たちじゃないよ、私達!」
「Nyahaha!!! 色の輪の如く赤と青は隣り合い混ざり合え!」
 さあ、この声はどちらのものだったか。ライ? それとも?
 オラボナは喉をさすった。
 イーリンは歌うように旗をひるがえしていった。赤に青に、いや。紅と蒼に。
「さあ手を取り合ってほら、君達を扇動していたのは誰? 歌ってごらんよ腹の底から、きっと違う音が出るよ、ボコボコ、ゴボゴボ、あれあれ、溺れてるよ」
――つまり、一つ目の作戦は、扇動者たちとイレギュラーズたちを敵と思わせること、だ。
「そこの「扇動者たち」にはわからないんだね。きっと、じゃああれは、私達!」
――だって、煽り立ててるじゃない?
 ホイップクリームと樽の中身がまじりあった。
 倒すべき敵。モノガタリは軋む。 
「翻せ旗を! 熟した林檎を今こそ放り投げる時!!」
 ヴェルグリーズは叫び、舞台を飛んだ。
「青は毒の色だ、並の毒では及ばない。肉だ、肉を持って肉を制しろ」
 シラスは言葉を吐いた。「そうだ」と、客が、我さきへとなだれ込んだ棘にまみれる。自滅してくれれば結構だ。
 イーリンが振り上げる見果てぬ先。揺らめく旗。先導者であり先導者たる旗を目印に、人々は群がった。
 傷口を頁で塞ぎ、言葉は修復される。
 ふわりと、ヴェルグリーズは姿を変じていた。
「剣は踊る、舞台の上で。チャカチャカ、キィキィ。インクの羅列を咀嚼する」
 降臨とも呼ぶべき美しい光景。人々は泣き、祈りをささげた。

 ああ、どうして人は争うのだろう。
 この場においても、フルールは思うのだった。
 どうして仲直りはこうもうまくいかないのだろう。皮肉な笑みが漏れる。
(『言葉』で引っ掻き回したら次は『暴力』ね)
 精霊天花の焔が、フルールを覆いつくしていった。両腕両足が焔に染まった。紅蓮閃燬。めらめらと燃えていく炎はろうそくごと燭台を溶かしていった。狂喜して飛び込む招待客。……フルールだって、争いたくはないのに。
(儀式の中心を破壊して、潰して焼いて砕いたら、何が起こるのかしらね)
 虚像が、ぐらりと歪んだ。
「あのイレギュラーズではないオラボナおねーさんを退治しましょ」
 あきらかに、にくの再生が鈍っている。
「にくは永久に不滅なのだ!」
 かそけき声。なみうち再び満たされる肉。

「楽しいですね! 楽しいパーティですね!
人は夢と希望が詰まった、肉の生地に赤いソースがいっぱい詰まった苺のタルトです!!」
 パアンパアンとライの銃声が響き渡った。
「だから皆が空いた穴から零しているのは、夢と希望の苺ソースだと正しく理解していますとも!
私は正気ですからね!! あはは♪」
 絶望した表情を浮かべた客はぱあと笑顔になる。
「やはりそうだったのですね!」
「貴女様が正しい!」
 そのとおり、と肯定して救いを差し上げる。
「正気の人間は楽しいと笑います!
あはは♪ だから笑う私は正気です!」
 ライは満面の笑みを浮かべる。
「ばんざい、ばんざい!」
「我々の元にこそ黒ありて! 星のデッサンをもってここにティータイムのなれの果てを!」
 ヴェルグリーズが段落を割いた。

 オラボナであるべきものに流れ込むべき神秘が。
 穴が開いたように、ずるずると引きずり込まれていく。
 失われたパーツを補う時。
 うたが、響き渡った。
「おんぐ だくた りんか、ねぶろっど づぃん
ねぶろっど づぃん、おんぐ だくた りんか
おんぐ だくた りんか
おんぐ だくた りんか
やーる むてん
やーる むてん」
 新しい旋律が、其処へ流れ込む。

 空がかきかわる。
 肉の傷口から、どうと潮があふれ出した。

(儀式というのは、大雑把で無意味で狂気的であっても、あるからこそ、緻密に組み立てられた意味が存在する。
丸い石だけで積み上げた城のようなものじゃ。
違う意味を噛ませてやれば、それは違うものになる)

「神に奉ぜよ。
歌を奉ぜよ」
 そそぎ込まれた蒼が、変質させていく。

(相変わらず、理屈はわからないが)
 攻め手があることはわかる。
 波と波の合間に、凪が見える――。
「試してやるぜ」
 シラスは攻勢に転じた。
 嵐止まぬ突撃。鍛えた読み。
 先の手の先を読み仕掛ける攻勢。
 指先から放たれた閃光があたりを覆いつくした。
「これは『私』の行いとしては不十分だ。
おにくではないには『カスタードクリーム』役になってもらおう。つまりホイップクリームは在り得ないのだ」
 オラボナが宣言した。
 それはホイップクリームではない。
 それはオラボナではない。
「彫刻してやるよ。神性も怪異も欠片もないただの人間の姿にな」
 美術の彫刻の要領で、一撃で形をとる。すぐさまに膨らんで元に戻そうとするが、鈍っている。いけにえにはならない。
 死の多い海は幸いである。
――祝福だった。
 鯨のむくろだ。美しい歌声が傷をふさいだ。作り出す、ほんの少しの凪。揺らめく歌声。
いあ いあ!
(あんまり素敵な歌だから、ちょっと手伝ってあげるのも悪くないと思うのね)
 カンパリ=コン=モスカの歪な歌声が、どこかから輪唱として聞こえていた。
「紛い物のものがたりなんかで崩せるほど、コン=モスカのストーリーは安くなくってよ?」

 偶然にも持っていた銃が身を守ってくれた。なんて運が良いのでしょう、と、ライは微笑み、嘘を吐いた。見てくださっている。
 信仰の鎧は一発の銃弾。
「父と聖霊の……何でしたっけ? まあいいでしょう!」
 ライは祝福されている。運よく? 刃物を持った男と距離をとり、微笑みながらテーブルクロスを引っ張った。重心は乱れる。そう簡単に接近を許すわけもなかった。
 平和への祈りを込めて、お祝いのクラッカーだ。
 塊はオラボナを見つめる。
 オラボナは、突撃のラッパを鳴らした。
 ちゃかぽこカーニバル。
 手当たり次第になんでもかんでもしっちゃかめっちゃかのずったずた。
 クラムベリー何とかソースを添えて。
 門にして鍵。神性に贋り無く、全(ひとつ)は存在する。
 たたきつけるような一撃。滴る血液は元通りになる。
「青空に向かって吐瀉物を撒き散らせ。病的な面で再生を望むとはつまらない怪奇(ありきたり)ではないか。絡み合った形容詞が新たな台無しを孕み、グチャドロのカーニバルを目撃させる。そうとも。私の思考回路とは即ち同一奇譚(にんげん)の恐れだ、真逆、私が『何かを呼ぶ』糧だと思っているのか。私らしくもない」
「しかし」
「しかし? だと」
 オラボナは嗤い、攻撃に巻き込んだ。棘が突き刺さる。ジョセフは嗤った。
「三日月が口だと誰が描写したのだ。私だ。しかし私は同時に空だとも表現する。宙は色を塗りたくるが、嗚呼、愛しくも人に観察されたがっている」

「愈々、この物語(わたし)に終焉を与えねば成らない。残酷な事だが、私は人に見つめられ、人と同じ領域に堕ちた。それ=『オラボナ=ヒールド=テゴス』と言えよう
愛しのジョセフよ。【私をどう見ている】」
 ジョセフは顔を上げた。
 これが『オラボナ』の模倣などとは、考えてもみなかった。
「これは全く不完全だな。哀れみすら感じるよ。冒涜とすら思わん。そも、誰だ?『彼』などと書いたのは!」
 ばらばらと翼が解体される。
「些か情報が古すぎるな。何も、何も分かっていないのだ。見つめただと?見えているものか。紙の表面を撫ぜて読み解いたと気取るだけだろう」
 空に浮かばない三日月を知っているか。
「『彼女』だ!私の!私のものだ!私は凝視した。愛と共に、苦痛と共に、独善と飢餓と焦燥と愚昧無知な我儘な欲望と共に!」
 紫苑の騎戦乙女を知っているか。
「貴様は緑色の瞳を知っているか?心臓を抉った虚ろな孔をしっているかしらないだろう?
彼女は人間なだ。僕の愛しい心そのものだ」
 ジョセフは惑わない。ただ一つはそこにあった。

 シラスの鋭い一撃で、肉の塊がそぎ落とされる。
 殺しきれない。
 なら、加工するとどうだ?
 シラスはふるう。
 塊は、ただの人型に貶められていく。

●儀典
 それでこそ。
 それでこそだ、とジョセフは思った。
(心臓を掲げ、全て打ち壊そう)
 審問官のトランクから流れ出す悲哀。
 異端審拳壱之型。それは、苦痛を与えるための一撃。再生。恍惚を浮かべ、そしてまた……。
 
「ここまで見つめ続けて練り上げたのは大したものだけど、最後は狂気に崩れて呑まれるのがお似合いだよ」
 ヴェルグリーズが空から降ってくる。
 黒顎魔王が、肉を切り裂いた。
「今度は人型とは言わずに細切れの肉片してやるよ」
 シラスが急所を――ヒトには急所がある――貶めてしまえばそれは、もう、耐えきれぬとばかりに揺れた。
 肉だ。
 肉体に閉じ込められた人となり果てていた。零落し、ボロボロの表象が見える。シラスの皮膚を鋭い棘が切り裂いた。
 歌が響き渡る。
 勢いはずいぶんましになってきていた。
 フルールが微笑み、イーリンが波を打った。
 人は波。
 そして、凪ぐ。
「狂った意識と認知の果てに、押されて潰れて消えてしまえ」
 ヴェルグリーズが、見えない行間を断つ。

 シラスが頼みにしているのは素手。それは、鋭利な武器となる。
――『ハルピュイアの魔爪』が、未定義の喉元を切り裂いた。

 それでは、
私は、
 なんなのですか、ご主人様。

 すでにそれは奴隷だった。
 奴隷だったモノだった。
 実在がずれていく。
「そもそも『召喚』すると決め付けた時点で滑稽なのだ。上位存在とはつまり私を『作り出した』もので有り貴様等を編み出したゲーム大好きっ子なのだ。物語を成立させてはならない。何故ならば『それでは』私が満足出来ないのだよ『私』――Nyahahahaha!!!」
 オラボナを定めることなどできない。

ふんぐるい むぐるうなふ
くつるう るる=りぇ
うがふなぐる ふたぐん

 まだ歌が響き渡っている。
「あなた達のせいでボクの計画が台無しなんだよねぇ」
 イーリンはにっこり笑った。
「でもいいじゃない、こうしてわかり合うことができるんだから。私の魔眼は紅と蒼だから。二人いるのよ」
 髪は紫苑へ、精気は幽世へ。赤と青というのは色あせたものだ。カリブルヌス・改が魔力塊を構築する。
 イーリンは冷たく言い放ち、扇動者を切り捨てる。
「――下らない夢は終わりにしなさいよ。酔っぱらい。
無限なんて、有るわけ無いでしょ」
 伸ばされた手を、フィニクスが払いのけた。
「私は帰って会いたい人がいるのよ。愛しい愛しいおねーさん。だからごめんなさいね」
 誰かの声がした。
 後ろ髪を引くような音。
 ユニゾンが巻き起こった。
「僕がそれを望むから」
(紫の光があんまり綺麗だから、中てられちゃってもしょうがないよね。
 だって僕ら、昔はおんなじひとつだったんだから)
 振り返ってはいけない。今は狂気の世界にあった。道理が曲げられ、はっきりと反響する。
 わけのわからないくらいに不透明な蒼。
(さあ、まだまだ歌えるよ、僕)

●終焉
 鼓動は一つ。
 恋人・物語・人間の心臓は一つ。
 ジョゼフは棘を引っこ抜き、巨大な敵を崩れ落ちる様すら見なかった。顧みることはない。
 狂気には限りがある。
 ひっくりかえった皿の上、ガラスがひび割れるように世界が割れた。
「なりそこないね……」
 フルールは生まれなかったものに思いをはせた。
 呼べるはずもないもの。未定義を参照して世界は黒く染まる。
 零落した奴隷の翼が抜ける。にせものとは呼ばない。
「狂気の中で踊るのはあまり無い経験で少し楽しかったよ。狂気の宴へのご招待ありがとう」
 ヴェルグリーズの一撃が、追いすがる手を弾き飛ばした。
「ああ……肉もホイップクリームも当分ごめんだぜ」
 シラスは血液をぬぐった。
「おかえりはどちら? ああ、そっちか。そういえば、俺達が今狂気に堕ちていない証拠はどこにあるのかな?」
 ヴェルグリーズは幕をくぐった。イレギュラーズたちは舞台袖へと向かう。
「なんて。
素直に夢でも見られれば良かったのじゃがな。
我は正気じゃよ。いつだって。口惜しいがな」
 クレマァダは振り返った。そこにはもう誰もいない。


 おしまいだね、と、空白の終止符がうたれる。

成否

成功

MVP

クレマァダ=コン=モスカ(p3p008547)
海淵の祭司

状態異常

オラボナ=ヒールド=テゴス(p3p000569)[重傷]
同一奇譚
シラス(p3p004421)[重傷]
竜剣

あとがき

書いている間、わりとしっちゃかめっちゃかな夢を見ていました。
お疲れ様です!

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