シナリオ詳細
<Genius Game Next>闇に出流は妖の
オープニング
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深黒の夜に移ろう星の瞬きを数え。幾度、朝陽の眩しさに目を覆っただろう。
陽光より一段濃い色をした瞳は闇夜でこそ美しく輝いた。
砂塵渦巻く渇いた土地の太陽よりも、深淵の褥に揺れる灯火に褐色の肌は良く映える。
美しい肌に映える装束は、この地の巫女が身に纏うものである。
穢れなき乙女のみに許された聖域に立ち祈念すれば、優しい風が応えるように、その裾をふわりと浚った。
巫女は黄金の瞳を僅かに伏せて聖域へと足を踏み入れる。
此処は巫女の住まう村ハージェスの祭壇であった。
薄暗い聖域の中には、仄かな明かりが灯され中央には『絡む病毒の蛇の壺』が奉られている。
巫女は静かに歩を進め、壺の正面で立ち止まった。
――砂嵐の傭兵共と轡を並べ、伝承へと攻め入れ
巫女の脳裏に悍ましい声が聞こえてくる。身体の中を駆け巡る声は、巫女の指を震わせた。
その背に、頬に、首筋から胸元に――冷たい汗が滲み、滑り落ちていく。
小動物が捕食者から逃げ惑う本能といえばいいのだろうか。
この場から逃げてしまいたいと思ってしまう様な、恐怖を覚える声であるのだ。
されど、巫女はこのハージェスで産まれ育った子供である。
行き場を無くした流浪の暗殺者一族の末裔が得た安寧の地。
時の権力者同士の戦争に巻き込まれ掛けたハージェスを『救った』のは紛れもなく病毒、疫病の神――名前は伝わっていない――なのである。
だから、当代の『巫女』も悪神である神に祈りを捧げ声を聞くのだ。
例えこの場から逃げたいと本能が叫んでいても、それは許されない行為だった。
――此処に我が眷属魔人マイユエルを遣わす
巫女は砂漠の獰猛な悪漢、サンドストームなる盗賊まがいの傭兵達と共に、伝承で戦わねばならぬ。
それがこの装束を纏う者の逃れ得ぬ定めという訳だ。
魔力が爆ぜ、燃え上がる炎の放つ赤い光が、剥き出しになった美しい内腿を舐めるように揺れた。
――我ガ名ハ魔人マイユエル。汝ニ従ウ者也。
従うと云ったか。
果たして、従わされているのはあるいは己ではないのか。
胸中の自嘲も陰りも、炎はただあざ笑うかのように燃えさかっている。
巫女の――その美しい少年の名を『アーマデル・アル・アマル』といった。
●
伝承(レジェンダリア)西部にあるステアロンは比較的長閑な町並みが広がる田園都市である。
悪く言えば寂れた酒場で『花蝶』ファディエ(p3y000149)はイレギュラーズに手を振る。
「そんなわけで行きましょう!」
目指すはステアロン郊外にある廃砦『ジルヴァン』だ。
イベント
2021.06.01 Genius Game Next
いつも「Rapid Origin Online」をお楽しみ頂きありがとうございます。
2021年6月1日より新規イベントGenius Game Nextが開催されます!
Rapid Origin Onlineは練達の作り上げた仮想世界である。練達が混沌法則を打破するために用意した実験場。混沌世界を模した世界でバグが発生しているという知らせを受けてイレギュラーズの『戦力』が投入され始めたのはほんの一ヶ月程前だ。
R.O.Oはゲームさながらに、ネクストに囚われた人々を『トロフィー』として設定している。
ネクストの世界で救出する事が出来ればゲームクリアの報酬として『バグ』が彼等を解放する場合が此までにも見受けられた。
「そして今回のイベント告知ですよ」
道中ファディエがこれ見よがしに溜息をついた。
「イベント2021.06.01 Genius Game Nextか」
イズル(p3x008599)は目を覆い隠す布を触り、小さく首を振る。
このイベント告知は来る6月1日に砂嵐(サンドストーム)が伝承(レジェンダリア)に攻めてくるという大規模なものらしい。
練達が注目したのはゲームの内容ではなく、イベント告知そのものである。
この大規模イベントの告知自体に人為的な悪意を感じざる終えないからだ。
「何者かの意志が介在していると?」
イズルの問いかけにファディエはこくりと頷く。
「その可能性は十分に有り得ます。まあとにかく、R.O.Oのバグが用意した『遊べる』環境を攻略していくのが、一番の近道だいうことですね。そうすればきっとヒントが得られるはずなんです。だって、R.O.Oは『ゲーム』ですからネ」
ファディエはエフェクトを花開かせその場で一回転してみせる。
「それで、今回の私達のクエストは此処です!」
ステアロン郊外にある廃砦『ジルヴァン』は昔は重要な拠点だったらしい。
今は廃墟となってしまった場所だが、砂嵐側への国交に使われていたとも。
「すなわち、格好の根城ですよ! これ!」
砂嵐側の勢力が此処を占領したというのだ。ここを足がかりに伝承側へ攻め入る拠点となりえる。
「だから、占領しているサンドストーム側の勢力を撃退する、と」
「そうですよ! 話しが早いですね。イズルさん。でも、その中に気になる存在が居るんですよね」
イレギュラーズであり、そして本来はウォーカーである『アーマデル・アル・アマル』のような人物が、ネクストのNPCとして観測されたことだった。
だからかどうか詳細は不明だかが、ファディエ――つまり、練達のフィールドワーカー『ファン・シンロン』のアバターが同行している。練達上層部もこの現象に注目しているのかもしれない。
「それじゃあ、まあ。行きましょうか!」
ともあれ、イレギュラーズは廃砦に攻め入り、戦う他無い。
それがR.O.Oの定めた『大規模イベント』なのだから。
- <Genius Game Next>闇に出流は妖の完了
- GM名もみじ
- 種別EX
- 難易度HARD
- 冒険終了日時2021年06月21日 23時35分
- 参加人数10/10人
- 相談8日
- 参加費150RC
参加者 : 10 人
冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。
参加者一覧(10人)
サポートNPC一覧(1人)
リプレイ
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薄暗い雲がイージアン・ブルーの空を被っていく。
後ろは快晴なのに、目指す廃砦『ジルヴァン』には文字通り暗雲が立籠めていた。
――2021.06.01 Genius Game Next.
ネクストから告知された大規模イベント参加するべく『夜桜華舞』桜陽炎(p3x007979)はR.O.Oにログインしていた。砂嵐(サンドストーム)が伝承(レジェンダリア)に攻めてくる大々的なイベント内容。
「仕組んだ"何者"かは、私たちに何を求めているのでしょう」
「そうですネ。ゲームの序章には持って来いの題材ではありますよね」
桜陽炎の言葉に『花蝶』ファディエ(p3y000149)が小首を傾げる。
「クリアしていけば解けるのでしょうけれど……」
小さく溜息を吐いた桜陽炎は上空の暗雲を見上げた。
リセリア(p3x005056)は桜陽炎の隣に立ち、憂う瞳を僅かに伏せる。
「現実の人間と見紛うばかりの思考と行動をするNPCを、討伐対象のイベント敵扱い……」
「何者かのシナリオ通りに進むのも、恐ろしいところですね」
「ええ。このイベントには確かに何者かの意思を感じるし、それが成す事がこれなのだから……悪意……と呼ぶべきか」
「ですが止めなければそれこそ……それ以上に取り返しがつかなくなってしまうもの」
桜陽炎は空から視線を戻し、廃墟となった砦を見据える。
同じく『白竜』ベネディクト・ファブニル(p3x008160)も廃砦の中を注視した。
「この砦を占拠されたままではこれからのこちらの世界での戦いに悪い方向で影響を及ぼしそうだ。……ならば、勝たねばなるまいよ」
「はい」
ベネディクトの言葉に桜陽炎とファディエが頷く。
「砦に入り込んだ連中の掃討か。魔人とかいう厄介極まりないものもいるみたいだが、そんなもんを呼び出す力が砂嵐にはあるのか……。時期的にも色宝とは関係のないものだろうが」
『君の手を引いて』ディリ(p3x006761)は口に指を当てて考え込んだ。
ネクストは現実世界を模したものだ。だが、どの部分いつの時代がコピーされ存在するかは分からない。
バグの影響なのか敢えてそうであるのかは定かではないが。現実世界の事象と似ているけれど違う部分もあるという前提で居た方が良いだろうとディリは頷く。
「それにイレギュラーズの姿をしたNPCと。ネクストは再現するものも無遠慮なわけだな」
この世界でのNPCといえどイレギュラーズの仲間と戦う事になるのだ。共に戦ってきたからこそ、胸を締め付けられるだろう。
「砦入る時はぁ一番硬いエイラが先頭~」
薄暗い廃砦の入り口に『深海に揺蕩う月の花』エイラ(p3x008595)が一歩踏み入れた。
蛍光の明かりがエイラの身体から溢れ、前方の通路を照らす。
「砦内ぃ照らすよ~。目立つエイラを~狙ってもらえるならぁ願ったりかなったりぃ」
桜陽炎はエイラの光が届かぬ暗闇を注意深く観察する。彼の瞳は闇夜を見通すもの。
「地の利があちらにある以上死角はとられている。警戒しておきましょう」
「ああ」
桜陽炎の声に頷く『ノスフェラトゥ』ヨハンナ(p3x000394)は眷属として召喚した蝙蝠を砦内の、自分達を俯瞰した場所へと飛ばす。暗闇には片眼鏡の暗視端末を装着し対策を打った。
「速度は維持しつつ、奥へ急ぎましょう」
廃砦の奥。
所々崩れかかった天井は戦いの爪痕か自然劣化か。
壊れた両開きのドアを開け放ち、エイラは戦場へと駆け出した。
蠢く魔毒び蛇目がけ浮遊するは海月型の炎だ。魔力の風に乗って戦場の奥まで至る。
ペールブルーの火花が弾け、二体の魔毒蛇がエイラへと視線を上げた。
怒りに満ちた紅い瞳でエイラへと飛びつく蛇。魔毒蛇がやってきた方向にどうやら魔法陣があるらしい。
「み~つけたぁ」
エイラの瞳に暗闇に紅く光る魔法陣と、その後ろへ立つアーマデル・アル・アマルの姿が映し出される。
「味方と同じ姿の奴が敵に居るのは複雑だよなァ」
現実世界と同じ姿――厳密には普段より布面積が狭い――をした少年を見つめヨハンナは眉を下げた。
「しっかし、あの様子だと……此方のアーマデルは訳アリか?」
イレギュラーズに対する敵意は感じられない。されど、この場から退く気配も無い。
本心では戦いを望んでいないのだろうか。『人型戦車』WYA7371(p3x007371)は戦場の奥で祈りを捧げる少年に視界を向けた。
「アーマデル、あなたの意志は何を思うのか」
事情というものがあるのだろう。此処に居なければならない理由。
されど、それを知る術はWYA7371達には無かった。だからこそWYA7371は残念だと首を振る。
アーマデルの感情には寄り添えない。知らぬものを感知しえない。
だから、どうか自分自身の心で決断してほしいとWYA7371は願うのだ。
「Step on it. さっさと終わらせましょう」
WYA7371が戦場を駆け、マイユエルの眼前に立ち塞がる。
「魔人ねぇ。そんなのもこっちにはいるんだナ。いかにもゲームらしいじゃネーカ」
ギザギザの歯を見せながら『殲滅給仕』桃花(p3x000016)は声高く笑った。
「そんなレアモン倒せば経験値だってガッポガッポってモンだろ! ケケッ、楽しみじゃネーカ!」
掌側が黄色い手袋で円を作った桃花はくるりと振り返り桜陽炎を見遣る。
「しっかり働けよかげちー! 桃花チャンの弾除けとしてな! ヒヒッ!」
「あなたも無茶はしないように」
桜陽炎は双剣を抜き去り、クロスさせるように構えた。
「先ずは敵陣に穴をあけて、魔法陣を破壊。敵の増援を止めるのが先決だろう」
ベネディクトは桜陽炎と桃花に視線を向ける。
「魔法陣を破壊し、敵の増援を阻止できた後に魔人マイユエルを打ち倒す。そうすれば彼も撤退するかもしれない。できればそうしたいと思っている」
「ええ。そうですね」
桜陽炎の双剣に遠く魔法陣の奥に居るアーマデルの姿が映し出された。
「どんだけ大層なモンがいるんだろーなって思ったら」
腰に手を当てた『Lightning-Magus』Teth=Steiner(p3x002831)は口の端を上げる。
「……中々どうして、イカした欲張りセットじゃねーか」
アーマデルに魔毒蛇、傭兵と。狼のような顔に、熊のような身体。蛇の尻尾。鋭い爪をもつ、炎の魔人眷属魔人マイユエルが暗闇から姿を現した。漂う殺気が肌を焼く。Teth=Steinerは面白そうだと銃を構えた。
「そんじゃ。サポートは頼むぜ、ファディエ。ちっと大暴れしてくっからよ!」
「はい! お任せ下さい!」
ファディエとTeth=Steinerは魔毒蛇と砂嵐傭兵団員目がけ照準を向ける。
「まずはあの魔方陣をどうにかしねーとな。その為に、周りの邪魔者を潰さないとか!」
「そうですネ。道を防がれては辿り着こうにも無理ですからね」
「了解!」
Teth=Steinerはより多くのターゲットに照準を合わせ目標領域を定めた。だが。
――警告。パーティメンバーが領域に存在します。
このままでは先行して戦場に立つWYA7371を攻撃範囲に含んでしまう。
「それなら! こうだ!」
Teth=Steinerは照準を僅かにずらしてロックオンする。敵が含まれる範囲は減るが仲間を攻撃することは無い。逡巡の後、高濃度の個体プラズマを含む金属杭がZodiac Armsから射出される。
咄嗟の機転とTeth=Steinerの命中精度を持ってWYA7371の背後を通過する雷光。
数体の魔毒蛇と傭兵へと金属杭が的中しうめき声が上がった。
『夜告鳥の幻影』イズル(p3x008599)を操る現実世界のアーマデルは目の前の光景に困惑していた。
(……は? なんで女装? 巫女? 神子じゃなく? その格好で暴れたら大惨事なのでは?)
地面に配された魔法陣から放たれる光に内腿が照らされる。何処からともなく吹く風は腰布をひらひらと揺らす。脚に巻き付いた白蛇のアンクレットがゆるゆると動いていた。
(もう少し隠し……落ちつけあれは俺じゃない……せーふ)
心を落ち着かせ、R.O.Oのイズルへと意識を戻す。
「旅人ではないのだね。病毒、神官、暗殺者……根幹を引き継いでこの世界観に生まれるとこうなるのか」
属する集団から浮くのも変わらない。似て非なる者。
「従える? のは毒蛇と炎の魔神か。蛇と炎の性とは、なかなか執着の強そうな神だね? 継ぐなら毒麻痺系BSと耐性、呪殺辺りかな……?」
イズルはマイユエルの権能を注意深く分析する。
●
WYA7371の背面機装が意志を持った様に中空へ浮かぶ。
一斉にマイユエルへと照準を定めた機装が光を凝縮させ打ち出した。
鮮烈なる閃光は暗い廃砦の中を明るく照らし、白くなる視界にTeth=Steinerは目を細める。
エイラの視界にはWYA7371とマイユエルの戦いが鮮明に映し出された。
相手が眩しさに目が眩んだ一瞬の隙をつき、WYA7371が『次手』を繰り出す。
水光天の彼方を見据え翼を羽撃かせ――
ホワイトレーザーとも呼ぶべき純エネルギー物質が背面機装から前方へ開かれた。
扇形に走り抜ける光弾はマイユエルの胴を横薙ぎ、更には小型ビットからの援護射撃で狼の鼻先を灼く。
「カカッ。此レゾ戦イダ」
炎を燃え上がらせ、蛇の尾を地面に叩きつけるマイユエル。
WYA7371へ怒りに満ちた眼光を滾らせ遠吠えを上げた。
乱戦となるこの戦場で自分の出来る事を逡巡するエイラ。
「くらげ火は危ないからぁ。こっちぃ!」
金の魔眼に魅入られる――
月の花が傭兵達の瞳に浮かび、怒りのままエイラへと剣が振るわれる。
――たとえこの首が切り落とされようとも我は盾であり続ける。
そんな願いの花。
エイラの身体に斬撃が刻まれた。
それを直ぐさま回復するのはイズルだ。光輝が満ち溢れエイラの傷口が塞がる。
「巫女、か」
イズルは毒蛇の向こう。現実世界の自分とそっくりな少年を見遣った。
巫女の属性が高いアーマデルがこの場に居る理由。眷属魔人や魔毒蛇を世界に繋ぎ留める楔や魔方陣へ霊力を供給する役割かもしれないとイズルは推察する。
「蛇のわんこそばとか求めてねーんだよ」
Teth=SteinerはSt.Elmo's Fireを掲げ全長3mの魔導機構砲を中空に展開する。
呼び出された砲台は紫電の帯を纏わせ駆動する。吸収されていくペールアクアの光は熱を帯びた。
身体に受けた痛み。苦しみ。其れ等負のエネルギーを形に変え射出するのだ。
「消え失せな!」
生成した高温プラズマ柱を超高速で解き放ったTeth=Steinerの攻撃に貫かれる毒蛇達。
「次、行け!」
「最優先は魔法陣の破壊だナ!」
Teth=Steinerの攻撃に続くのは桃花だ。携帯式超小型火炎放射炉を前に突き出しギザギザの歯を開く。
少女体である桃花の身体に合わせて作った特注の放射炉の温度が上昇し空気が揺れた。
「ケッケー! 暑いのが得意なら焼き尽くしてやるゼェ!」
カーマインレッドの炎が戦場を走り魔法陣を着弾地点として広がる。
「……痛っ!」
魔方陣の傍に居たアーマデルの皮膚が焼け痛みに顔を歪めた。
桃花の攻撃で魔法陣の光が弱まる。魔物が出てくる速度が下がったように思えた。
アーマデルは不安げに視線を落とす。
リセリアは積極敵に前に走り込み、紫電を纏し銀閃を走らせた。
魔法陣に確実なダメージを与えるには前の邪魔な敵を一掃する他無い。
「それにしても魔法陣が分かりやすいもので助かりました」
アーマデルの傍にある魔方陣は彼の魔力で光を帯び、暗闇の中で輝いていた。
「一先ず、此処は私達に任せ、桃花さん達は魔法陣をお願いします!」
「あいよー! ケケッ。桃花チャンからは逃げられねえんだなぁ、コレガ!」
桃花の火炎放射炉から放たれる焔弾をひらりと交わし、魔毒蛇へと細剣を走らせるリセリア。
ディリは己へと敵を集めるため武器を担ぎ、そして高らかに掲げた。
「傭兵共から相手取らせてもらうとしよう。魔法陣の破壊のためには、とりあえずこいつらを始末しておいたほうが良さそうだしな」
金色の瞳を伏せたディリは口元に笑みを浮かべ傭兵共を煽る。
「こんなに簡単に殺せそうなのに。傭兵気取りなんて……」
「クソが! 女みたいな顔しやがって! ぶっ殺してやる!」
巨大な銃剣を振り回し、向かってくる傭兵を薙ぎ倒すディリ。
「口だけだなぁ。本当に」
一閃横薙ぎ、続けざまの至近距離からの弾丸に傭兵がディリに掴みかかろうと手を伸ばす。
それを狙い澄ましたかのようにベネディクトが背中側から噛みついた。
ディリが作り出した隙を挟撃して確実に仕留めたのだ。
「よく分かったな。俺の狙い」
「まあ、それなりに場数を踏んでいるからな」
ディリの言葉にベネディクトが返して。次の瞬間には二人とも左右に飛び退いた。
その間を毒液が走る。廃砦の床に紫色の液体がまき散らされ煙を上げた。
何処からともなく桜の花びらが吹き荒れて、魔毒蛇の視界を被う。
花吹雪の隙間から突き入れられた桜陽炎の剣尖が走り、蛇の頭を胴体と切り離した。
Teth=Steinerの背にヨハンナの背が重なった。
お互いに攻撃範囲が重ならぬよう頻繁に交差する。
「……槍を力任せに投擲して敵ごと魔方陣を貫けば陣にもダメージ入るか?」
ヨハンナは一瞬考えを巡らせ首を振った。
紅蓮戦槍陣であればそれが可能であろう。しかし、前線に出ている仲間を巻き込む形になる。
「ここは一つ一つ確実に。だな」
燃え盛る焔の如き赤髪が緩やかな風に揺れる。澄んだ蒼天の青を溶かした双眸は一点を見据えた。
アーマデルが作り出す魔方陣へ視線を向けるヨハンナ。
ナイフを指先に当て血を媒介に紅蓮の焔を呼び起こす。ヨハンナの血を喰らい顕現せし憤怒の焔。
荒れ狂う紅蓮は一直線に戦場奥の魔法陣へと飛来する。
亀裂が入り光を失った魔方陣は僅かに残った光輝と共に霧散した。
「あ……あ……どうしよう」
アーマデルもまた、この魔方陣を自らの血を代償に作り上げた。
彼が戦闘に参加していないのも、十分に戦うだけの力が残されていなかったからだろう。
しかし、魔法陣が壊れてしまった今。少なくなった駒を補うには自分が前に出るしか無い。
アーマデルは意を決してナイフを構えた。
「一応聞いておくけれど、退く気はない?」
イズルはナイフを構えるアーマデルに問いかける。
現実世界のアーマデルはイズルと元となったイシュミルに弱いが、それも長い付き合いがあっての事。
ネクストでは少年の傍にイシュミルの存在があるとも限らない。
説得され、情に絆されたとなれば悪神の怒りに触れてしまうだろう。
この場は決別すべきなのだ。
神命ならば簡単に退く事は出来ないと踏んだ上での問いかけ。
『アーマデル』であるという私情を除いたとしても、巫女である少年を殺せば悪神がどうなるか分からないとイズルは唇を引き結ぶ。
仮に捕まえ捕虜とすれば政争の道具にされかねない。
「『ゲームのイベント』なら条件を満たせば退くかもしれない、と期待したい処だね。条件はそうだな。魔方陣破壊と眷属魔人の消耗とか……? もしくは、アーマデル自身の消耗」
一つ目の魔法陣の破壊は満たされた。後は、力の続く限り戦うだけ。ゲームの中だからこそ出来る力業なのかもしれない。
「まぁそれとは別に『現実的に』退かせるよう押していきたい。実際に目の当たりにすると『イベント』ではなく『現実』だよね。これは」
アーマデルが怪訝そうな目で見上げてくる金の瞳も。その奥に隠した不安げな表情も。
別の世界から召喚された『アーマデル』にとって、無辜なる混沌とネクストは何方も等しく『故郷』ではないのだ。恐らく、純種よりもネクストを現実として受入れる土壌が『旅人』である彼にはあったのだろう。
「恐らく兵と蛇が全滅して魔方陣も破壊されたら、或いは更にマイユエルも退けられればアーマデルさんは撤退するでしょう」
リセリアは冷静な分析で戦場を見渡す。そこでアーマデルが退くならば後を追うことは無い。
イズルの言うとおり彼を殺す事によりどんな影響が出るか分からないからだ。
アーマデルは悪神を信奉する巫女だという。
下手に手を出せば取り返しの着かない事になるかもしれない。
「退いてくれるならまだリスクを取るタイミングでもないでしょうね」
リセリアは紫の瞳を戦場に転がった傭兵へと向ける。
「……しかし……砂嵐兵を見ても、やはり現実の人間と何処まで違うのかわからない。彼らを殺させる事に何か意味があるのか……?」
このネクストが我々イレギュラーズに求めるものは一体何なのだろう。
「俺達に出来る事はあるか?」
ベネディクトがナイフを向けるアーマデルへと視線を向けた。
今は敵であるけれど、本来であれば戦いたくはないのではないか。そう感じてならないのだ。
「……乗り気ではない、ようですが。あなたを動かすものは……何ですか」
重なる言葉は桜陽炎のもの。ベネディクトも桜陽炎もアーマデルの事を心配している。
アーマデルから感じられるのは殺気よりも怯え。イレギュラーズに怯えているのではない。
恐らく彼が信奉する悪神からの怒りに触れる事を恐れている。
今回は駄目でも、次の為に手を差し伸べる事だけはしておきたいとベネディクトは思うのだ。
その手を悲しげに見つめるアーマデル。
●
ディリは混戦になった戦場を見渡し汗を拭う。
魔法陣が壊れたいま、魔毒蛇が無限に湧き続ける心配は無くなった。
最初に出て来ていた分の蛇は殲滅できただろう。
だが、此方も相当な消耗を見せている。全員が体力ゲージを黄色まで減少させていた。
ディリは赤くなった己の体力ゲージを見ながら口の中の血を吐き出す。
持ってあと数回。
彼が傭兵達の攻撃を引き受けたお陰でリセリアやTeth=Steiner達の攻撃の手が増えたのだ。
現実と同じように痛みはあれど、ここはゲームの世界。多少の無茶はきくというものだ。
「なあ。魔人マイユエル。アーマデルに従う理由は何だ? お前の方が強いんじゃないのか?」
ディリは肩で息をしながらマイユエルへと問いかける。
「我ハ神命ヲ受ケ此処ニ居ルノダ。巫女ニ仕エルノモ、マタ、神ガ下シタ命令ダ」
「そうか……」
ディリはマイユエルへと剣を向た。敵もまた赤き焔を手の中に作り上げる。
剣と炎が交差し眩しい光が廃砦の中を包み込んだ。
ヨハンナはディリの体力ゲージが赤色から灰色へと変化するのを横目に歯を噛みしめる。
ゲームの中といえど医者として人が死んでいく様を見るのは心に来るものがあった。
しかし、彼が刻んだ好機を逃す訳には行かない。
ヨハンナは自らの血を焔陣へと変幻させ、怒りの礫をマイユエルへと向けた。
刻んで。刻んで。繋いで行く。
たった一人じゃ成し得ないものを託されたのだから。
自分の番で終わらせるなんて出来ないのだとヨハンナは憤怒の焔をマイユエルへ叩きつけた。
ヨハンナの対角線上、マイユエルの死角にTeth=Steinerの姿がある。
「ははっ! 隙だらけってね! 死角からブチ込んでいくぜ!」
Teth=Steinerは魔導機構砲を中空に展開。
召喚術式起動。
Set P.C.Driver all Green――
突抜ける白銀の閃光。
Teth=Steinerのエネルギー弾は戦場を白く染め上げマイユエルを貫いた。
重なる剣尖。桜陽炎が続ける双剣の光。
「……決して防御に長けているわけではありません、が」
花吹雪に炎が燃え上がる。黒く焦げて落ちて行く傍から増え続ける花。
桜陽炎の強き心を表した猛烈な花吹雪がマイユエルの視界を被う。
「舞い散る桜花、捕らえきることが出来ますか……!」
桜花の剣尖閃き――
桜陽炎はマイユエルへ斬撃を咲かせる。
「一つ聞きたい。魔神とやら、お前は今回の出来事をお前の神に報告は出来るのか?」
魔法陣は壊れ傭兵共は全滅。このままではマイユエル達の敗北に終わってしまうだろう。
それを報告しても神罰は下らないと思っているのだろうか。
「ククッ。神ノ望ミハ勝利ナドデハナイ。戯レダ」
その言葉にベネディクトは眉を吊り上げる。
悪神は勝利する事に重きを置いていない。世界の意志に合わせこの拠点を占領し戯れている。
勝てばそのまま近隣を蹂躙し、負ければ巫女たるアーマデルに罰を与える。
それはハージェスの巫女と悪神の間で繰り返されてきた歴史(きまり)。
「だからか。あんなに怯えているのは」
ベネディクトは怒りを込めた一撃をマイユエルに叩き込んだ。
「ならば、伝えて貰おう。貴様の思い通りにはさせん、とな」
そんな理不尽があってたまるか。
「どうしました、マイユエル。手も足も出ませんか?」
WYA7371は言葉で煽り続ける。彼女の封殺のお陰でマイユエル自体の戦力は半減したと言っても良い。
それ程WYA7371は健闘してた。
「汝強イナ。存分ニ楽シメタゾ」
「まだ、あなたを倒すまで終わりませんよ」
「よー、魔人チャン。アユとかげちーと遊ぶのは楽しかったか?」
桃花は武器を構え狙いを定める。
「ここからは桃花チャンが遊んでやるヨ!」
カーマインレッドの炎が吹き上がり射出された空のユニットがボロっと地面に転がる。
「オラッ! 経験値とレアアイテムドロップして死ネ!」
桃花の嗤い声が戦場に渡った。
ダイヤモンドの輝きを帯びた細剣が戦場を走る。
軌跡は氷上の雪塵の如く舞い上がった。
リセリアの紫の瞳はマイユエルを捉え、玲瓏たる銀閃剣が穿たれる――
●
「ヨー、巫女のネーチャン。ニーチャンか?どっちでイイや。やる気ネーなら返っていいぜ。桃花チャンも過剰労働はゴメンだしナ!」
桃花は面倒くさそうな顔でしっしっと手を振った。
見た目はイレギュラーズの仲間そのもの。此を攻撃し続けることは心身共にすり減るというもの。
「アーマデルぅ乗り気じゃなさそうだけどぉ。それでもここにいるということはぁ、止む得ぬ事情あるんだろうしぃ」
それならば、攻撃せざるおえない状況を作り出す方がアーマデルにとって、心理的にも立場的にも助かるだろうとエイラは考えた。
積み重なるアーマデルの攻撃に赤かったエイラの体力ゲージが色を失う
「エイラは死んじゃうけれどぉ。それもまたアーマデルの首級になって申し訳が立つ一助になれるならぁこれも、縁、だよね」
煌めくエイラの命の輝きが弾け、怒りの矛先を失ったアーマデルが身体を震わせる。
「あ……ぁ……違う。俺は」
神命を受けて此処にやってきただけで。殺したいなんて思ってなくて。
適当な所で帰ろうと思ったけれど。でも、負けて帰ったら神罰が下るかもしれないと気付いたのだ。
涙を浮かべ、それでもナイフを握ったままのアーマデルにヨハンナが近づく。
「俺の首でも何でもくれてやる。砦が奪われても、彼が大きな戦果を持ち帰れば悪神も無下にはしない筈……命を落とす前に撤退してくれ」
自分の命を差し出し戦果を上げればアーマデルは罰を受けないかもしれない。
「……っ」
アーマデルのナイフの刃を握り自分の首に押し当てるヨハンナ。
されど、アーマデルはそれを拒否するようにナイフを落とし、その場に倒れ込んだ。
余りにも精神的な負荷が掛かりすぎた為に意識を失ったのだ。
地面に転がったアーマデルへ手を伸ばすヨハンナ。
されど、触れる瞬間に紫色のシステムエフェクトが現れた。
――接触不能オブジェクト。
「どういう事だ? さっきまで触れる事が出来たのに」
ヨハンナが呟いたのと同時にアーマデルの周囲を炎の壁が包み込む。
WYA7371の前に居たマイユエルが放った焔の領域はアーマデルを守るように赤々と燃えた。
興味を失ったようにWYA7371の元からアーマデルへと歩みを進めるマイユエル。
それを引き留めようとするWYA7371が炎の魔人に触れた瞬間、先ほどのアーマデルと同じように紫色のシステムエフェクトが出現する。
「何故」
「神ノ守護ダ。何人タリトモ寄セ付ケヌ」
マイユエルはWYA7371の言葉に応えたあと、アーマデルの元へゆっくりと膝を着いた。
意識を失った少年の剥き出しになった美しい内腿と胴に蛇の尻尾を絡ませ、持ち上げるマイユエル。
次に何が起こるのか身構えるリセリアにファディエが笑顔を見せる。
「大丈夫です。恐らく、あの紫色のシステムエフェクトは彼等が戦闘オブジェクトでは無くなった事を意味しています」
「それってつまり……」
「此処ハ貴様ラニ預ケヨウ」
リセリアの言葉が続くより先に、マイユエルが闇の中へ消えて行く。
その瞬間魔物と傭兵の死体が光になって砕け、クエストクリアのシステムエフェクトが目の前に現れた。
「いやぁ、歯応えのあるバトルだったぜ。やっぱ、戦闘イベは高難度に限るな!」
Teth=Steinerの陽気な声に戦いが終わったのだとイレギュラーズが肩の力を抜く。
辺りは廃墟の静けさを取り戻し、陽光が欠けた天井の隙間から降り注いだ。
ベネディクトは伸ばした手を悲しげに見つめたアーマデルの瞳が脳裏に焼き付いていた。
――――
――
「ほう。それで『負けて』戻って来たというのか」
「……申し訳ございません」
穢れなき乙女のみに許されたハージェス聖域の中、地に伏したアーマデルの脳内に木霊する声。
悪神の命令を果たせなかったという事実を前に全身が恐怖に震えていた。
首筋から胸元に冷たい汗が滲み、滑り落ちていく。
「失態であるという事は分かっておるな? 罰を望むか、アーマデル」
「っ……」
ハージェス民にとっての悪神の言葉は決して逆らえぬ命令だ。
罰を望もうが望むまいが、答えなど決まっている。受入れるしかないものだ。
「はい。アーマデル・アル・アマルは神罰を望みます」
「良かろう。存分に己の罪を購うが良い」
「……ぁ」
此より自身へ降り注ぐ神罰に震えながらアーマデルは黄金の瞳を静かに伏せた。
成否
成功
MVP
状態異常
あとがき
お疲れ様でした。如何だったでしょうか。
厳しい戦いを奮闘していたと思います。
MVPは強敵の戦力を半減させた方へ。
ご参加ありがとうございました。
GMコメント
もみじです。
悪い魔物を撃退しましょう。
●目的
サンドストーム勢力と、悪い魔物達の撃退。
●ロケーション
古い小さな廃砦。
結構広いです。灯りは不明。
サンドストームのアジトの一つにされました。
●敵
『アーマデル・アル・アマル』
ネクスト世界のアーマデルさんです。
気乗りした感じではありません。
どこかで撤退する可能性が大きいです。
『魔方陣』
沢山の魔物を呼び寄せる魔方陣です。
破壊しましょう。
これにもHPがあるようです……。
『眷属魔人マイユエル』
相当強いです。
狼のような顔に、熊のような身体。蛇の尻尾。
鋭い爪をもつ、炎の魔人です。
高いタフネスと攻撃力、EXAに優れます。
単体、範囲、扇、貫攻撃。
BSは毒系、麻痺系、火炎系、暗闇、鬼道、必殺。
『魔毒蛇』×6~?
数メートルの大きな蛇で、時間経過と共に魔方陣から次々に沸いてきます。
BSは毒系、麻痺系。
『砂嵐傭兵団員』×8
アーマデルと行動を共にする、傭兵団の人達です。
剣や弓で武装しています。
●同行NPC
『花蝶』ファディエ(p3y000149)
ファン・シンロンのアバターです。
皆さんのサポートに徹しています。
自分の身は自分で守れます。
イベントの動向を観察する目的もあるようです。
●情報精度
このシナリオの情報精度はCです。
情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。
※重要な備考『デスカウント』
R.O.Oシナリオにおいては『死亡』判定が容易に行われます。
『死亡』した場合もキャラクターはロストせず、アバターのステータスシートに『デスカウント』が追加される形となります。
現時点においてアバターではないキャラクターに影響はありません。
※重要な備考『情勢変化』
<Genius Game Next>の結果に応じて『ネクスト』の情勢が激変する可能性があります。
又、詳細は知れませんが結果次第によりR.O.Oより特別報奨が与えられると告知されています。
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