シナリオ詳細
<マナガルム戦記>Fluctuat nec mergitur.
オープニング
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ドゥネーブ――それは幻想王国の片隅、美しい海を臨み、その傍らには聖教国ネメシスが存在する小さな領であった。
領主が病に倒れ、荒れ果てた領内を『代理』に統治すると決めたのはローレットのイレギュラーズである『黒狼隊』である。
隣接するファーレル領の令嬢であるリースリット・エウリア・ファーレル (p3p001984)のサポートもあり、ドゥネーブは嘗ての姿を取り戻さんとしていた。
「ドゥネーブの貿易港ですか? それを私に何とかしろと……」
彼女がいれば船は沈まない。船と言えば彼女だと領主代行ベネディクト=レベンディス=マナガルム (p3p008160)が招集したのは海洋王国では『青海の女神像』にその姿を模倣されるマリナ (p3p003552)であった。
「そんなに頼りにしないでくだせー」
「力を借りたいだけだ。そう気負わないでくれ」
小さく笑みを零したベネディクトの足下でポメラニアンが「あん!」と鳴いた。どうやら、使い魔のポメ太郎はマリナを安心させようとした様子である。
「それで? 貿易港が機能してねぇ理由は調べたのかよ」
応接間のソファーに深く腰掛けて居たルカ・ガンビーノ (p3p007268)はテーブルの上に並んでいる資料を流し見ながら問い掛けた。
ドゥネーブで御用聞きを行った際に領民達から出た意見は様々な物だった。その中の一つが折角の立地であるのに貿易港が機能をしていないという苦言だ。
「勿論。現地調査も事前に済ませてきたのですが……要因は二つあるようですね。
まず一つは『貿易相手』がそもそも存在して居ないという事です。領主不在による所が大きいのでしょう。此方は……追々、品々を他領に運ぶなどで解消できます。そして、もう一つが――」
「悪い奴がいたのです!」
リンディス=クァドラータ (p3p007979)の説明に続く『端的で分かりやすい言葉』。
ふんす、と鼻を鳴らしてそう言ったソフィリア・ラングレイ (p3p007527)はその大きな二つの瞳ではっきりと見たのだと力説する。
「はい。ソフィリアさんの仰る通り、賊が港を占拠していました。先程申し上げた貿易相手……と、言うのは所謂『良き意味合い』での相手です。
現状のドゥネーブの港は領内がある程度整備されたことで、荒くれ者等がその辺りへと逃げ果せ、商売を行っているようですね」
「唯でさえ勇者選挙で奴隷商人の姿があっただとか、国内情勢も荒れてるんだろ?
……まあ、だからかな。木を隠すにはなんとやら、だと聞いたこともある」
悪事を隠すならば更なる悪事が跋扈している最中に。秋月 誠吾 (p3p007127)は賊が『イレギュラーズが他事に目を向けている最中』だからこそ活発な動きを見せたのだろうと推測した。
「――それで? 賊を追い払って港を整備するってか?」
ルカの問い掛けにリュティス・ベルンシュタイン (p3p007926)は返答せずに視線を主人であるベネディクトに向けた。
リュティス・ベルンシュタインと言う娘はあくまでベネディクトの意見に従うという事なのだろう。
「……リュティス、賊は何の取引を港で行っている?」
「はい。調査に基づくと輸入されているのは『ペンシエーロ』と名の付いた粉末だそうです。
十中八九、麻薬の類いであると想定されます。取引相手までも摘発することは難しいでしょうが、港の賊掃討は可能かと」
ベネディクトは頷いた。
ドゥネーブという領を船とするならば、この船は沈みかけているところからゆっくりと体勢を立て直すことに叶っている。領民が前を向く限り、其れに黒狼隊が応える限り――決して沈むことはないと心に決意して、青年は言った。
「賊の掃討に行こう。船に関しては」
「はーい。任せてくだせー。乗りかかった船ですし」
ひらひらと手を振ったマリナに頷きベネディクトは作戦の書かれた羊皮紙をテーブルへと置いたのだった。
- <マナガルム戦記>Fluctuat nec mergitur.完了
- GM名夏あかね
- 種別リクエスト
- 難易度-
- 冒険終了日時2021年05月20日 22時20分
- 参加人数8/8人
- 相談8日
- 参加費---RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
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ドゥネーブ領の領主代行になってから幾許かの月日が流れた。その間にも『黒狼の勇者』ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)は幻想王国の『勇者』の代表の一角として数えられるようになった。
混沌各地の問題解決に走り続けてきたが、長らく手出しできていなかったドゥネーブの問題にも手を付ける頃だ。ドゥネーブの貿易港が賊に占拠され事実上、機能していないのは問題である。
「いつか、この港も貿易によって活気溢れる場所になるだろう。その為にも皆の力を貸して欲しい」
ベネディクトがそう声を掛ければ二つ返事で了承したのは『黒狼の従者』リュティス・ベルンシュタイン(p3p007926)。背筋をぴんと伸ばして凜とした様子で答える彼女は主人の命に背くことはない。
「了解致しました。御主人様の邪魔をする不届き者達に制裁を加えましょう」
活気のある港へ――港の問題となれば、とベネディクトが助っ人として声を掛けたのは青海の女神とも謳われし『マリンエクスプローラー』マリナ(p3p003552)。
「ベネディクトさんに頼られるなんて身に余る光栄って感じですが……海と言えば私ですからね…たぶん。まさに大船に乗った気でいてくだせー」
乗るのは小型船ですけど、と付け加える彼女をまじまじと見遣った『Mors certa』秋月 誠吾(p3p007127)は此れが女神かと感心した様子であった。
年の頃は自身と変わらぬ様だが、雰囲気があると感心する誠吾にとって港での悪党退治というのは『SRPG』のようだと言う認識であった。
彼にとって混沌世界で起こる事件はゲームそのものだ。誠吾の感性は再現性東京の人々にも近似しているだろう。だが、彼等と大きく違うのは、この非日常が『現実』で在る事を受入れているからだ。
「折角の港が、悪い奴のせいで使えないなんて勿体ないのです!
港が使えれば、こう、物とか運んで、皆に良い事があるって聞いたのです! 皆で悪い奴を捕まえて、安全に港を使えるようにするのですよ!」
ぷんすことでも良いそうな雰囲気で「悪い奴は許せないのです!」と力強く言った『地上に虹をかけて』ソフィリア・ラングレイ(p3p007527)に『夜咲紡ぎ』リンディス=クァドラータ(p3p007979)は力強く頷いた。
「ええ、港は海に面したドゥネーヴ領にとって発展の大動脈とも言える場所。少なくとも……人を壊してしまう拠点のままにはしておけませんね」
ソフィリアの言う通り、港を使用できるようになれば流通経路が増え、貿易拠点としても使用できる。その地を使用できるようになればドゥネーブ乗りが大きいとリンディスは推測していた。
「人を壊す拠点――なあ。『黒狼の勇者』様のお膝元で事を起こそうなんざ随分肝が太ぇじゃねえか。だがちっとばかし無謀だったな」
それとも、黒狼の勇者の膝元に居る事さえ気付いていないのだろうかと笑った『竜撃』ルカ・ガンビーノ(p3p007268)は「黒狼の勇者だけじゃなく、隣接地には『紅炎の勇者』も居るってのによ」と傍らに立っていた『紅炎の勇者』リースリット・エウリア・ファーレル(p3p001984)を見遣る。
ファーレルの令嬢も勇者の代表格の一人として数えられたのだ。ファーレル家が後見人となった証として『婚約者』となったリースリットは此の地では其れなりの発言権を持っている。それすら賊は把握していないか――「何にせよ、世情には疎いのかもしれませんね」とそう言った。
「ええ、けれど……流通しているモノが悪い」
「ああ。麻薬でラリるのは好きにすりゃ良いが、ばら撒くとなりゃ話は別だ。取引先も含めてきっちり叩き潰す」
「ペンシエーロ……賊が根城にしているだけでなく、麻薬流通の拠点の一つとは。ただ討伐する、というだけの話でもなくなってきましたね」
ルカとリースリットの二人が口を揃えていったペンシエーロ――麻薬こそがドゥネーブの港に蔓延る悪である。
勇者二人と共に往く。そんな『ゲームの様なイベント』を前にして誠吾は薄れ往く嘗ての日常を思い出しながら「行こう」としっかりとした声音でそう言った。
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「港の拠点と船の両方を同時に攻撃する必要がある、というのはその通りです。
今回は、相手の動きを見ての臨機応変なタイミングを測る必要がありません。よって、班を分けます。定刻は時計を使用して下さい」
リースリットはきびきびと作戦指示を下す。ベネディクト達と共に拠点側へと踏み入るリースリットにルカは「任せろ」と頷いた。
この作戦は何方が欠けても完全なる攻略にはならない。港の拠点を押さえて船を逃せば賊は何処かで麻薬販売を続ける事となる。船を先に押さえた事が知れたら拠点から証拠が消される可能性だってあった。
「それじゃあ、行きましょーか。相手が逃げないように船には準備は整えてありますよ」
マリナは『沈まぬ』太陽から名を取った白夜壱号には浮き輪やロープが準備済み。沖へと仲間を運ぶための出港準備は整っている。
「そちらは任せた。船乗りの女神が居るのだ、心配はしていないが」
ベネディクトの言葉にマリナはふふん、と胸を張った。流石は女神と謳われたイレギュラーズだ。『船が沈まない』だけでどれ程の安心を覚えられるだろうか。
マリナがいれば安心だと胸を撫で下ろす誠吾にとって頼りになるルカが同行してくれるのは更なる不安の解消であった。
だが、彼が唯一不安に思うのはソフィリアだ。やる気が前に出すぎているようにも思う――というのは彼女を大切にしているからであろうか。
「セーゴ、ソフィリアを守ってやんな」
ぽん、とルカに肩を叩かれてから誠吾は「ん?」と首を捻った。ソフィリアを守るのはお前だ、と彼に指名されたようなものだ。
「……まぁ。その。危なくなったらな?」
自身が足を引っ張らないかを気をつけるつもりであったが、ソフィリアを守るという役目を担うというのは何処か新鮮だ。
ベネディクトに行ってきますと手を振ったソフィリアがそっとマリナの船から賊が取引に使用する『レゾーネ・スタア』を覗き込む。
「悪い奴……なんだかふらふらしてるです?」
「ああ、足取りが覚束ないようだが……それでもいっぱしの賊だ。油断しないように気をつけなきゃな」
思わず誠吾に確認したソフィリアにとって『麻薬で朦朧とする賊』の様子は余程異質に映ったのだろう。油断しないように、と何度も繰り返す。
「確かに油断は禁物なのです! うん、怪我をしないよう、気を付けて倒していくのです!」
やる気を漲らせる。皆が怪我をしても自分が支えてみせると頷くソフィリアのやる気に当てられて、自身も頑張らねばと誠吾は強く誓った。
海へ向かった四人に「お気を付けて、無理はなさらずに」としっかりと見送る言葉を告げたリンディスは「こちらも四人、準備は整いましたね」とベネディクト、リュティス、リースリットを見回した。
時間の共有は忘れていない。マリナのファミリアーの鳴き声が自身らの突入の合図になる。敵の位置と地図を確認したリンディスが小さく頷く。
「ご主人様」
静かな声音で、リュティスが合図に気づきベネディクトへと号令を求めた。小さく頷く。使い魔の声は確かに聞こえていたからだ。
アジトの扉を開き、グロリアスペインを突きつけたベネディクトの後方よりペンが淡い文字を描き、少女の体に『鏡』の力を張り巡らせた。
暗黒の力を身に纏い、宵闇とその名を冠した魔力の矢を放ったリュティスは破滅へ誘うが如く静寂を切り裂いてゆく。
突如とした敵襲に身構えたベネロが「誰だ!」と叫ぶ。アジトを護っていた賊が前線に立っていたリースリットへと飛びかかるが、勇者と呼ばれた娘は表情を変えることなく緋色の焔を灯したクリスタルの刀身が賊達の思いの寄らない力を宿す。
荒れ狂う連環の雷が、鎖のようにぞろりと伸びた。雷の魔術を放ったリースリットを双眸に映し、ベネロは「お転婆なお姫様が来たみたいだな」と呟き、眼前へと飛び込んだ金髪の男にぎょっと息を飲む。
紅の稲妻――そう呼ばれた男がいた。だが、彼は死に絶えた。未完の技としか呼べない其れはベネディクトでは『扱いきれない』が、己の身を焼いてでも貫き通す意志がある。
逃走の暇さえ与えずに、ベネディクトはベネロが悔しげに表情を歪めた理由を察知し、堂々と名乗り上げた。
「ドゥネーブ領主代行、ベネディクトだ。大人しく縄につけ、命までは取る心算は無い」
噂の『領主代行』が乗り込んできたのだ。アジトに来ただけならば、まだ良いか。直ぐさまに船を遠ざけ、この場を辞せば良い。
「『どういうことか』は……おわかりですね」
リンディスはベネロが動かぬようにと低く、そう言った。穏やかな声色は今は冷たく、男をその場に縫い止める。
ベネロと、そして、彼の配下である賊を冷ややかに睨め付けていたリュティスは「覚悟はよろしいでしょうか?」と問い掛ける。瀟洒なメイドらしからぬ冴えた殺意は黒き魔力によるものか。
クリスタルの切っ先が真っ直ぐに男を見据えている。リースリットは男の思考を先回りするように、冷ややかに言い放った。
「船は押さえてありますよ。逃がしはしません。――此処までです、無駄な抵抗はお止めなさい」
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まるでパーティーでも行われているのかという騒がしさにマリナは仲間を振り仰ぐ。白夜壱号は堂々とレゾーネ・スタアの前へと躍り出た。
操船技術と航海術を駆使して逃さない。マリナの動きを確認しルカはその手に黒犬のレプリカを握りしめた。両手が塞がっていては勿体ない。青年は片手で巨大な剣を振り上げて、レゾーネ・スタアへと飛び込んだ。
「行くぜ、三下共ッ!」
飛び込んで直ぐに、その拳に宿した闘気が甲板へと叩き付けられた。手荒な真似をしても船は沈まない。女神が付いていることを確認し、暴徒鎮圧のために派手に賊共を吹き飛ばす。
「こっちにゃ青海の女神様がついてんだ。船が沈む事はねえ。セーゴ、ソフィリア!」
ルカの呼び掛けに頷いた誠吾は「行くぞ」とソフィリアを連れて船へと飛び移った。ジハードを前に、ソフィリアを後方に。庇う様にして乗り移れば、地に伏せていた賊が慌てたように起き上がる。
「年貢の納め時ってやつだな」
「はいなのです! ええっと、ねんぐ……? えっと、大人しくするのです!」
ソフィリアがびしりと指を差す。サポートなら任せてと眩い光を放ったソフィリアは「ねんぐって?」とぱちぱちと瞬いているが――誠吾は「後でな!」と合図をした。
マリナから見て、突然周囲へと弾き飛ばされることとなった賊達の目は焦点が合っていない。何処か楽しげに笑っているのも気味の悪ささえ感じられる。
「まー。聞きやしないだろうとは思ってたけどさ……」
投降すれば命までは奪わない。それが『礼儀』だとそう告げた誠吾にルカは「ありゃ、イっちまってるな」と囁いた。薬を船上で楽しんでいたのだろうか。どう見ても、纏う空気感は常人のものではない。
「――さぁ、母なる海へと還るがいいのです」
それならば、さっさと片付けてやればいい。多量の水を生み出して、マリナは魔導具に揺蕩う絶望と静寂の水素を揺らがせる。
タイダルウェイブ、敵を制圧する津波は、水辺であるが故に更に強固に賊へと襲い掛かってゆく。
その水の気配に「耐えろよ!」と声を掛けたルカへ誠吾とソフィリアが小さく頷いた。余りに大きな水の壁だ。
「もう一度行っておくが、投降しろ! 水に飲まれるぞ!」
――聞く耳を持たないか。
「せーごさん、だめっぽいのですよ」
ソフィリアに「そうだな」と頷いて、誠吾は殺傷力に優れた執拗なる攻撃を繰り出した。興奮状態の賊達は落ち着くことはない。多量の水に目が覚めたか、驚いた様子でルカを見遣った彼等を前に、青年は唇を吊り上げて小さく笑った。
「さて、おはようございますの時間だ。意識ははっきりしてるか? ぼーっとしてると、命の保証は出来ねえぜ」
甲板をける。誠吾は前衛で戦うが駆け出しだ。ソフィリアとマリナといった『女子供』はルカにとって護るべき存在だ。戦士であろうともサポートは怠らない。
「どうした三下ァ! 泣きわめいても鬼さんは勘弁してくれねえぞ!」
「これ以上、ドゥネーブの地で悪事を働く事は俺達が許しはしない!」
ベネディクトの言葉に、ベネロは「お前等に負けて堪るか」と叫んだ。喩え勇者であろうとも、幻想の認めた存在でも自身らも生抜くために必要に駆られていると声高に。
リースリットが躍る様に剣を振り下ろす。ベネロへと叩き付けられたそれは風火の理――風の精霊が刻印の焔と共に雷を作り出す。
爆ぜるその気配の中で、リンディスは前線で暴れる三人を支援し続けた。自身を狙ってくる可能性はある、が、どうやらベネロ達は『領主代行』と『ファーレルの令嬢』に夢中だ。
「ご主人様の命令を無視するなど……抵抗されると万が一もありえますのでその際は申し訳ありません」
命までは取らないと静かな声音で言うリュティスへと接近した賊へ、スカートの中からナイフが飛び出した。舞うような仕草で刈り取る一撃は弓兵と侮った賊のその体を固い床へと叩き付ける。
「リュティスさん!」
「――ええ」
リンディスの声に一つ、頷いた。リュティスがくるりとターンして、迫りくる賊を打ち倒す。放たれたのは夢幻。
言葉なくターンしたリュティスの位置へと賊が大ぶりに刀を叩き付けた刹那、ベネディクトの苛烈なる慈悲が飛び込んだ。
黒狼の牙は命を奪う事はしない。だがしかし、苛烈な獣はその鋭い牙を立て賊の意識を刈り取ってゆく。
くそ、と男が呻いたその言葉にリースリットはゆっくりとその頸筋へと剣を宛がって囁いた。
「これ以上の抵抗は無意味です。降伏なさい」
拿捕が完了したことを告げれば、マリナからもミッションクリアの合図が送られてくる。合流まで幾許か。アジトでは調査を行いたいと彼等は考えていた。
「お前達がペンシエーロという麻薬をやり取りしていた事は調べがついている。その事について聞きたい事がある」
ベネディクトのその言葉に識った事ではないとベネロが叫んだ。――彼の隣に何処からともなくナイフが突き刺さる。
「口の利き方が可笑しいようですが」と淡々と告げたのは彼の従者たるリュティスだ。
「どうせ調べれば判る事です。大人しく話して協力した方が身の為だと思いますが……?」
取引先もそうだが、麻薬の仕入れ先が気になるのだと表情を崩さぬリースリットにベネロは「知らない」と行った。
「リュティスさんは……程ほどにして差し上げてくださいね? さて、私が聞きたいのはこの港の使用用途です。あくまで流通の『末端』なのか、ここが『中継地点』なのか」
リンディスに頷いたリュティスがベネロと視線を合わせて首を傾ぐ。ナイフを指先へと近づけてゆっくりと突き刺せばぷくりと赤い血が滲んだ。
「話してくれないなら手が滑ってしまうかもしれませんね? ――でも大丈夫ですよ、喋って頂けるなら治療致しますので」
叫声が響くが、リンディスは聴かない振りをして目を伏せたのだった。
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「麻薬じゃねえ、武器もありやがる。随分手広くやってるな……こりゃあ後ろでバックがいるな」
「ははー……こういう賊は根から絶やさないと無限に湧いてきますからね」
まじまじと覗いたマリナは押収品はしっかりと分けておいて、証拠とするのだとてきぱきと奨めてゆく。
「粉? を探せば良いのです……?」
余り触らないようにと注釈を入れた誠吾にソフィリアはこくりと大きく頷いた。怪しげなモノがゴロゴロと転がっている。
「こりゃお前らの為に言っとくんだがな。早く吐いた方が身のためだぜ? あのメイドは容赦っつーもんを知らねえからなあ……
膝割られたり顔の皮剥がれるの耐えられるっつーんなら……ま、頑張れ」
ルカの言葉を聞いていたかは分からないが、リュティスが無表情で出迎えてくれる。明らかなメイド服姿の幻想種――彼女がその『容赦を知らない』存在なのだろうか……。
――その容赦を知らない光景を見てきたのだろうベネディクトが後ろで首で振っていた。賊達には『リュティスの手厚い支援』が降り掛かるだろう。
得られた情報はドゥネーブの内に新たな問題が存在することを示唆している事だろう。だが、港を確保できたのは大きな進歩である。
「さぁ、これで港が平和になりますね……これからこの港をどーするんでしょーか?
いずれはたくさんの船が行き交う大きな港になったり……もしくは軍港にするんでしょーか……」
「さあ。だが、ドゥネーブは此れからもっと良くなる」
其れは確かだと頷いたベネディクトに誠吾とソフィリアが「楽しみだ」と微笑み合う。
「現地の片づけやらが必要なら手を貸そうか。んで、時間あれば釣りとかしてぇなぁ……戦ってばかりじゃ息が詰まる。のんびりした時間も大事だろう?」
「じゃあ、釣りでもするか? セーゴ」
ルカの誘いにやった、と誠吾が微笑めば、リンディスが「楽しそうですね」と釣りの準備を進め始める。
「また頼りたい事があったらいつでも呼んでください。海のことなら私にお任せでごぜーますよ」
青海の女神の誇らしげな笑顔にベネディクトは有難うと大きく頷いた。
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
リクエスト有難う御座いました。
ドゥネーブが開拓されていくのを見ているとなんだか嬉しいですね!
GMコメント
リクエスト有難うございます。お船です。
●成功条件
ドゥネーブ港の奪還
つまり、ちょっかいを掛ければ、賊達は何処かにとんずらしますのでそれだけで成功になります。
ですが、今後の悪事を潰すことを考えれば2つのロケーションに同時に戦闘を仕掛けなければなりません。
●ロケーション:1
ドゥネーブ港はとても小さな港です。取引相手は天義の『神に背いた不届き者』であろうと創造できるような立地の領地です。(故に、取引相手は今回は摘発しません)
領内から港に存在する賊を倒すロケーションです。港沿いにアジトを作成しており、無数の賊が存在します。
船(ロケーション:2)に何かがあった際は賊は直ぐさまに姿を隠し、ほとぼりが冷めた頃にまた別の悪事を働くでしょう。
・賊のリーダー『ベネロ』
元々は海洋王国で海賊をしていた青年です。大号令の際の近海掃討に巻き込まれぬようにと幻想まで遙々逃げ果せたそうです。
剣銃を武器としており、非常に狡猾な男です。右半身に刺青がバッチリ入っているので遠目からも判別が付きます。
・賊のメンバー *6名
ベネロの傍でアジトを守っている精鋭です。下っ端を船に『お遣い』へと向かわせています。
ベネロの指示に従って戦闘行為を行います。
やや酩酊した雰囲気を感じさせるのは彼等も『ペンシエーロ』を使用しているからでしょうか……。
●ロケーション:2
近郊の港岸を利用して、ドゥネーブ港沿岸に浮かんでいる『取引場所』を強襲します。
取引が終わり、船には複数の『ペンシエーロ』が乗っているようです。取引相手は既に立ち去っており、ドゥネーブ港(ロケーション1)の賊の一員が存在します。
港(ロケーション:1)に何かがあったと気付いた際は直ぐさま港から逃亡します。
・船『レゾーネ・スタア』
ベネロ達の賊が使用する船です。一見すれば唯の小さな客船です。内部では麻薬取引が行われたあとのようです。
船内には『ペンシエーロ』の他、武器等密輸の痕跡も存在します。
・賊の下っ端 10名
レゾーネ・スタアの乗組員。ベネロ率いる賊の下っ端です。ペンシエーロを先に分けて貰える事を喜び船を担当しています。
酩酊していますが、自身らに与えられた仕事はしっかりとこなすようです。
●ペンシエーロ
少し流行中の麻薬。何処が生産地かは分かりませんが気分が良くなるお手軽ドラッグです。
●情報精度
このシナリオの情報精度はAです。
想定外の事態は絶対に起こりません。
どうぞ、宜しくお願いします。
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