PandoraPartyProject

シナリオ詳細

煙燈

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●あなたの望む世界を
 1年に1度、大切なヒトへ自分の特別を贈ってみませんか?
 瓶の中に広がる世界があなたを、そしてあなたの大切なヒトを引きつけます。
 朝焼けも、黄昏も、満点の夜空だって思いのままに。あなたを表すモチーフも瓶に込めて、たった1つの世界を創りましょう。
 瓶の大きさは小さなものから、両手で抱えるような大きいものまで。持ち込みも歓迎します。

 依頼は瓶詰め屋『エアインネルング』へ──。


●一緒に行こう
「やあ」
 ローレットの扉を開き、フランクに声をかけて片手をあげる。その姿を見た『新米情報屋』ユリーカ・ユリカ(p3n000003)はぱっと瞳を輝かせた。
「ミーロさん! 生きてたんですね!」
「もう、人聞き悪いなー」
 けらけらと笑う彼女、ミーロの目元にクマはない。最後に会ったのは去年のシャイネンナハト前だったが、あの時は無理に無理を重ねていたのだからその謂れようは自業自得とも言う。
 ミーロは瓶詰め屋『エアインネルング』の店主であり、ローレットの顧客(依頼人)でもある。彼女がこうしてやってきたということは、つまりそういうことなのだろう。
 採取依頼か、それともイベントへの誘いか。そう問うユリーカにミーロはどちらでもないと首を振る。
「今日は護衛がほしくて。何人必要とか、そういうのわからないから教えてくれるー?」
「お任せください! 敏腕情報屋の出番なのです!」
 胸を張ったユリーカとミーロは席につき、ユリーカは依頼書を作成するために羊皮紙とペンをとる。そしてミーロの話にふんふんと相槌を打ちながらメモを取っていった。
「煙燈ですか。聞いたことがなかったのです!」
「時期も随分絞られるみたいだからねー。私も又聞きだけどー」
 ミーロが護衛をつけてでも行きたい場所、というのがその『煙燈』というものであるらしい。今の時期、特定の場所でしか見られないそれは幻想的で美しいのだと、ある筋では有名なのだとか。ミーロは顧客からその話を聞いたと言う。
「この辺りって言ってたよー。どうかな?」
「ローレットから……ここまでですか」
 地図で示された場所とローレットを指でなぞり、ユリーカはふむと小さく呟く。道中に危険が無ければ大人数を雇用する必要はないし、逆に危険と思しき存在が確認されていれば人数を揃える必要がある。
 ローレットに寄せられている情報と照らし合わせる限り、現時点で危険は確認されていないが――改めて調べ直す必要はあるだろう。
「人数は追ってご連絡するのです。護衛依頼として受け付けますね!」
「うん、よろしくねー」
 正式決定とまでは行かないが、ひと先ず受け付けたユリーカ。あまりにも強大な敵がいるとなればまた相談すれば良い。

 この数日後。作成された依頼書を手にイレギュラーズへ説明するユリーカの姿があった。
「敏腕情報屋であるボクは煙燈までの経路をくまなく調べたのです。結果として、とーっても強いモンスターなどはいませんでしたが……強い賊はいるみたいなのでした」
 こちらなのです、とちょっと余白多めな羊皮紙が差し出される。出没する賊の情報らしい。余白の多さは情報不足の印だ。
 この賊は煙燈を見られるようになって程なくした頃に出没し始めたらしい。煙燈を見に行く者を狙った犯行であり、煙燈の時期を外れたならまたどこかへ移るのだろう。必ずしも襲うわけではないらしく、その幸運を願い、護衛を伴ってでも裕福な者たちは向かうのだそうだ。
 必ず襲われるわけではない――それでも被害が出るときは出るのだ。実際、何件かの報告が上がっている。
「タフな人たちなのです。あまり深追いせず、追い払ってさっさと煙燈を見に行くのが良いと思います! よろしくお願いするのです!」

GMコメント

●成功条件
 ミーロの護衛完遂

●情報精度
 このシナリオの情報制度はBです。不明点もあります。

●エネミー
・『赤鷹』ノルズ
 煙燈目的の観光客を狙う『赤鷹盗賊団』のトップです。スカイウェザー。真紅色の額当てをしています。
 彼らが煙燈へ向かう人々を狙うのは単純に、その方が富裕層の人間を襲いやすいかららしいです。量を狩るより質を取っている、とも言えるでしょう。
 短剣の使い手であり、非常に手数が優れます。その武器は曰く付きの物であるらしく、【呪殺】効果を持ちます。また、相手に対して【重圧】をかけてくることがあります。
 その他のステータスは不明ですが、盗賊団の頭領ともあれば一筋縄ではいかないでしょう。しかし撤退の必要があると判断すれば、手下たちと驚くほどの逃げ足で逃げていきます。

・手下たち×10
 赤鷹盗賊団所属のメンバーです。いずれもスカイウェザーの男で真紅揃いの額当てをしています。比較的年齢層は若いようです。
 ノルズからの指示がない限りは各々が自由に判断して動きます。
 大きめの武器を持つものはおらず、全員ともアタッカー気質のようです。中には武器に毒や麻痺毒を塗っている者もいます。他にもBSをかけてくる可能性があります。
 素早い動きと受け身を得意とし、相手を翻弄して攻撃を放つスタイルです。

●行程・フィールド
 街を出たらしばらくは穏やかな街道が続き、山の麓まで辿り着いたら少し登ります。煙燈の見られる場所は山の中腹にあるそうです。
 賊たちは街道の後半から山の中腹にかけてで確認されるそうです。

・街道
 見晴らしの良い道です。ちらほらと人がいるかもしれませんが、多くはないでしょう。

・山
 煙燈の見られる場所です。傾斜は緩やかで長く、途中からは明かりが必要になるでしょう。また、道を外れるならそれ相応に足元の悪さを感じることとなります。
 山へ入るのはイレギュラーズ一行くらいのものです。

●煙燈
 えんとう、と読みます。淡く発光する煙のようなものが発生する現象を指します。
 これは発生条件が判明しておらず、いくつかの植物と時期・時間帯が関係している説が出ています。
 煙燈自体は小さな生き物の集合体とも、植物が発生させるエネルギー体とも、精霊の類とも言われています。
 これまで何人もが捕獲を試みて失敗しているため、ここを訪れる人々は捕まえるのでなく見て楽しむ方向性にあるようです。
 ですからどうか、皆様もミーロと眺めてお楽しみくださいね。

 今回は山の中腹、暗がりになっている場所で見ることができます。非常に幻想的な光景で、この周囲で危険はありません。

●NPC
 ミーロ
 瓶詰め屋『エアインネルング』の店主。今回はインスピレーションを高めるため、煙燈を見に行くそうです。
 道中はお喋りにも付き合ってくれるでしょう。また、戦闘中はイレギュラーズの指示に従います。

●ご挨拶
 愁と申します。
 ミーロの見に行きたいもの、一緒に見に行きましょう。
 それではどうぞ、よろしくお願いいたします。

  • 煙燈完了
  • GM名
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年05月18日 22時20分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

鳶島 津々流(p3p000141)
かそけき花霞
キドー・ルンペルシュティルツ(p3p000244)
社長!
亘理 義弘(p3p000398)
侠骨の拳
炎堂 焔(p3p004727)
炎の御子
閠(p3p006838)
真白き咎鴉
ジョージ・キングマン(p3p007332)
絶海
長月・イナリ(p3p008096)
狐です
佐藤 美咲(p3p009818)
無職

リプレイ


「ミーロちゃん! 良かった、元気になってたんだね!」
 駆け寄ってきた『炎の御子』炎堂 焔(p3p004727)に女性――瓶詰屋店主のミーロは小さく苦笑する。心配をかけた自覚はあったらしい。
「いやーごめんねー。元気になったから、今日はよろしく、ね?」
「勿論だよ!」
 任せて、と胸を叩く焔。目的地まで安心安全で送り届けてあげなくては!
 『真白き咎鴉』閠(p3p006838)は彼女の姿に2年も前の事を思い出す。ああ、もうそんなに経ってしまったのか。あれは初めて戦闘を伴った依頼だったと記憶を手繰り寄せる。
 戦いは、幾度経験しても慣れる事がなくて。体が思い返そうとする感覚に引きずられないよう、静かに深呼吸をした閠もまたミーロへ挨拶しにいく。
「またこうして、瓶詰め屋さんの、お手伝いが出来て、光栄、です」
「こちらこそー。何度も受けてくれる人はやっぱり、信頼できちゃうからねー」
 閠ににっこりと笑ったミーロ。いつまでも話していては何だから、と一同は煙燈の見られる山へ足を動かし始めた。閠の眼前に下がった黒布は視界を遮ってしまうけれど、耳が拾う音の反響があれば一同と共に進むことは難しくない。
「えんとう、かあ……幻想的な淡く光る煙、きっととても綺麗なんだろうねえ」
「ええ。随分と珍しい現象らしいわ」
 楽しみだと言うように『行く雲に、流るる水に』鳶島 津々流(p3p000141)がふんわりと笑う。中々得られない情報のはずだ。それを護衛として同行することで見られるのだから、依頼主たるミーロには感謝せねば。
(何事もなく辿り着けるよう、僕も頑張らなくてはね)
 彼も、彼へ首肯した『狐です』長月・イナリ(p3p008096)も、思い浮かべたのは盗賊が出るという話だ。道中に盗賊たちが出て来さえしなければ護衛という名目の観光だが、そう都合よくはいかないだろう。出来てくれなければ護衛として肩透かしを食らわされるわけだが、それはそれとしてなるべく穏便に終わらせたかった。
 とはいえ依頼を受けた以上、出てきたならば全力で追い返すのみである。
(まあ、相手はモンスターじゃなくて人間っぽい生き物だし……)
 大丈夫っスよね、と若干不安を覚えているのは一同の後方につく『ダメ人間に見える』佐藤 美咲(p3p009818)だ。その心配はこれが初仕事だからではなく、手にした武器の信頼性である。何とか調達した武器はジャンク品の修理物である。折りたためる分不具合も多いこの相棒が、今回を無事に乗り切れると信じるしか……信じて良いのだろうか。とまあ、そんなところであった。
「暫くは平和そのもの、って感じだな」
 『仁義桜紋』亘理 義弘(p3p000398)は鋭い聴力で複数の足音を捉える。馬車の音も聞こえてきた。街道にちらほらといる人々の行きかう音だろう。とはいえ、その中に紛れているとも限らないと義弘は皆から遅れないようにしながら注意深く進んでいく。
「そうそう! シャイネンナハトの時の瓶詰、買いに来てくれた人は皆すっごく喜んでたよ」
「そっか、それは嬉しいなー。どれも頑張って作ったからねー」
 一同の緊張感でミーロを委縮させないように、と彼女に語りかける焔は、去年末のシャイネンナハトでイレギュラーズが出店を手伝った際の話をする。あの時は多くのイレギュラーズたちが入れ代わり立ち代わりで手伝ったので、店番を名乗り上げた者もそうでない者と近いくらいには楽しめたのだ。
「今年はちゃんと皆の笑顔を見る為に、あんな無理しちゃダメだからね!」
「うっ……あはは、善処するよー」
 ビシッと言われたミーロの言葉に焔はもう、と口を尖らせる。まあ、きっと、また今年もああなっていたら助けてしまうのだけれど。
「俺は瓶詰め屋というものを初めて聞くのだが、良かったらその話を聞かせてくれないか? 煙燈も、その瓶で、再現するのか?」
 瓶詰め屋に興味を示した『絶海武闘』ジョージ・キングマン(p3p007332)にミーロは持っていた小瓶を取り出す。瓶の栓をするコルクへ穴を開け、チェーンを通してキーボルダーのようにしているらしい。こんなものを作ってるよ、と説明するミーロはこれまでの作品について、依頼人を特定されない範囲で語ってくれた。
「……とか、そんな感じなんだー。でも煙燈は……どうかなー? 再現してみても、本物には負けちゃうから」
 あくまで本物は本物。そこからきっかけを得て想像を膨らませたいのだと彼女は答えた。
 和気あいあいと進む彼らについていきながら、美咲はすれ違った通行人へ世間話ついでに賊やモンスターの話を聞いているかと問う。イレギュラーズたちとは反対側からやってきたものの、別の街からこの街道を使っているという通行人は小さく首をひねった。
「いやあ、あまり聞かないねえ。たまに出るって話は聞くが、頻繁で困るってほどでもないよ」
「なるほど。ありがとうっスよー」
 美咲は通行人に手を振り、若干離れた一同へ駆け足で追いつく。その頭上をイナリが召喚したファミリアーが飛んでいった。
(今のところは大丈夫そうかしら。上空にもそれらしき影はないみたい)
 集中し過ぎると足が止まって遅れてしまうので都度確認していたが、今のところ上空にも地上にも怪しい集団は存在しない。このままいけば街道を外れ、山道だ。そうなれば木々に阻まれて空からの視界は多少悪くなってしまうだろう。
 しかし地上から空を見上げるのもまた、難しくなる。閠もまたそれを懸念し、山へ入る前に空へと飛び立った。辺りを見回せば、嘗てこの山で暮らしていた動物だろうか――の、霊魂が見つかる。彼らへ木々の間の索敵を手伝ってもらいながら、閠は敵影を探した。
「美しいだけのものを、求める人を、襲って利を得る、というのは、関心しません、からね」

 一方、地上から向かっている面々も上空のみならず多方面への警戒を怠らない。津々流も山人としての素養を十二分に発揮しながら前後左右どこから来ても良いように心構えをする。焔は一同の行く先を照らせるよう、辺りの小石を集めるとギフトで炎を灯した。荷物にならない程度に、枝なども拾い上げて進んでいく。
 山道は街道と比べて道が舗装されておらず、時には獣道のような場所もある。それらに躓かないよう低空飛行するジョージは暗視の利いた視界で辺りを見回した。
「スカイウェザーなら、翼の音なんかも聞こえそうだが……さて」
 義弘は上空の他、崖や岩肌などがないかも確かめる。隠れられる場所はなにも空だけではない。彼らは『空中』を飛ぶのだから。
(賊もこの暗さ、何か対策してるのかね。……してるか、流石に)
 暗視を利かせ、明かりを頼りに。そうしなければ中々思うようには動けないだろう。周囲には他の旅人らしき者はいないから、なりすまして近づいてくる輩はいなさそうだが。
「動物も見かけないね……時間のせいかな?」
 もしくはこの暗さのせいか。焔は枝や石を集める道すがらに何度か確認していたのだが、一度も動物に会えなかった。
(もしくは……盗賊のせい?)
 怯えて逃げてしまっているのかもしれない。そうならば、ここはすでに彼らのテリトリーということになる。
 焔の炎と、それから津々流の持ってきたカンテラ。それらが足元を照らす中、美咲は少し遅れた状態で静かに進んでいた。後方を警戒しつつ、敵に認識されるのを遅らせるためだ。
 辺りをふよふよと漂う精霊に周囲の様子を窺いながら進む『最期に映した男』キドー(p3p000244)は、自分ならばどうするかを考える。
 木々が多く、視界の悪い場所。スカイウェザーの集団。護衛もつけている相手を襲撃するならば。
「多方向から――か?」
 その時。何人もが一斉に周囲を見渡した。閠も霊魂の導きを借りて仲間たちに合流する。空から向かっている影があるという報告と、周囲を警戒していた仲間の言う左右から近づく気配。ミーロを囲むように警戒する一同は、やがて接近する一団を視認した。
「はん、あっちこっちの三流盗賊がいるもんだ。どこで商売しようと勝手だが、俺達の邪魔をするならお引き取り願うぜ!」
 キドーは素早くミーロの傍へ位置取り、ブラックドッグをけしかける。イナリも近づかれないうちにと精神を狂わせる毒霧を敵へ放った。
「毒酒のお味は如何かしら?」
 敵一同は誰もが身のこなしが良いようだが、イナリを相手に完全な回避はできなかったらしい、何人かが霧を吸い込む様が見えた。
 一方、空からの敵襲も到着する。相手も木々の下までは視認できなかったようで、着地の勢いで攻撃を仕掛けられないその隙にジョージが名乗り上げる。
「俺はキングマン。ジョージ・キングマン! 『赤鷹』! 俺が相手になろう!」
「へえ。海洋でよく聞く名前だな」
 『赤鷹』ノルズは彼へと目を細めた。海洋にも伝手があるのか、それとも海洋出身か。どちらにしても、ジョージの名はノルズをいたく刺激したようだ。
「君たちはボクが相手だ!」
 ミーロを守る為、傍にいるのではなく打って出た焔から火のついた石や枝がばらまかれる。辺りが明るくなり、敵が一瞬怯むも延焼しないと気づいてすぐさま立て直した。そこへ焔は炎の斬撃を飛ばす。
「やっちまえ!」
「生きて帰りたきゃ何もかも置いていきな!」
 斬撃を凌ぎながらも盗賊たちが方々へ襲い掛かる。近づかんとする敵に津々流は神聖なる光を激しく瞬かせた。
「生憎、君たちに渡すものはないよ」
「その通りだ。おまえさんたちこそ、官憲に突き出されたくなければ退くんだな!」
 義弘は津々流の言葉に同意しながら敵へ肉薄し、自分を中心とした小さな暴風域をその肉体で作り出す。
 言葉でああは言ったものの、今回そうする気はない。したいのは山々であるが、優先すべきは依頼者の安全だ。
 分散して襲い掛かる敵をいなしながら、閠は「離れて!」と仲間へ忠告する。放つのはその場にいる誰もを苦しめる殺傷の霧だ。しかししぶとく食らいついてくる敵に悪戦苦闘していると、不意に聞こえた発砲音と共に敵の1人が倒れた。
「当たってなによりっス。まずは1人」
 後方より静かに、不意打ちの一撃を狙っていた美咲。研ぎ澄まされた一撃が敵を戦闘不能たらしめたのだ。
 しかし戦いは美咲も含めた乱戦へと様相を変えていく。イナリは足元に気を付けながら、炎を纏った獲物で敵を斬りかかった。
「何度まで耐えられるかしらね」
 そう易々と反撃の隙を与えはしない。的確かつ手数の多さで確実に1人を攻めていくイナリの横を盗賊がすり抜けていく。その先にいるのはミーロ――と、間に立ちはだかるキドーだ。
「おいおい、そう簡単にいくと思ってんのかい?」
 キドーから放たれる衝撃波。間髪入れず彼に召喚された邪妖精たちが楽しそうに盗賊たちへ飛び掛かる。盗賊たちが集まっているところへ焔は緋燕をすかさず叩き込んだ。
(あちらは……まだいけそうか)
 義弘はジョージの様子を見る。敵の頭は彼が押さえてくれているが、いつまでもつか。それに彼を倒さなければ撤退しないと言うならば、こちらも覚悟を決めて戦わねばならない。
 そのジョージはと言えば、周囲にいる部下ごと拳による乱撃を入れる。ノルズはジョージのお手並み拝見といった風情で、ひと先ず仲間たちの元へ行く様子は見られない。
 だが、行かせるつもりもない。
「相手が悪かったな。金の代わりに、ゲンコツをくれてやろう!」
 苛烈な乱撃。いつしか周囲をジョージごと桜吹雪が取り囲む。季節は外れたというのに舞うそれは本物ではなく、津々流の霊力によるものだ。猛烈な勢いで降りかかるそれはジョージ以外――津々流が敵と認識した者だけを激流に捕らえていく。
「もうちょっとスかね?」
 敵の攻撃をいなし、時に距離を取りながら美咲は射撃で確実に敵を削らんと翻弄する。例え外れたとしても、確実に彼らの余裕は削いでいる筈だ。
「ええ、もう少し――そろそろお引き取りいただきたいものですが」
 閠が刹那に生み出した疑似生命体が盗賊へ向かってけしかけられ、その意識を失わせる。今回は護衛依頼であって討伐依頼ではない。無理に倒す必要もないのなら、さっさと諦めてもらおうというのがイレギュラーズたちの方針であった。
 頭を潰せばわかりやすくて良いが、損害を実感させるならば手下狙い。頭が不利だと確信すれば手下の意志如何問わず撤退してくれるのだから。
「ま、単純に多いと気が散って厄介なんだけどな!」
 邪妖精たちによって倒れる盗賊にキドーは笑い声をあげる。あと一撃で倒れそうな盗賊へは焔が炎縛札を放った。殺す必要はない――殺さない必要もない――が、生きていればその分撤退が早くなるかもしれない。多少の怪我は仕方ないと言わざるを得ないが。
「成程、強いのはあんただけじゃないってか」
 ノルズがその状況に気付いて動こうとしたが、ジョージは徹底的にブロックしてそれを許さない。あちらも仕事ならばこちらも仕事。ここから進ませるわけにはいかないのだ。
「そろそろお帰りになりますか?」
 死霊弓で敵を射抜きながら閠が頭へ問う。その傍ら、津々流が霊力で生み出した龍笛を口元にあて、その響きでジョージを癒した。
「僕たちも不要な争いは好まないから、撤退してくれると嬉しいんだけれど」
「まだまだぁ……!」
「待て」
 津々流の言葉に色めき立つ部下を制したノルズはジョージを見て、それから他の面々を見て、やれやれと言わんばかりに小さく肩を竦めた。
「あんたら、まともにやり合うとなったら面倒そうだ。――いいぜ、今回は見逃してやるよ」



「あー……この仕事した感じなんか久しぶりっスねー……」
 疲れを滲ませながら美咲は辺りを見回す。敵はあっという間に飛び立って逃げて行ったが、追いかける気にはならない。ちょっと今日はもう戦えなさそうであるが、周囲の警戒くらいはできるだろう。
 焔の炎を明かりにしながら進む一同。その先にやがて、ボウと淡く光るものが見えた。
「わぁ……!」
 炎を消した焔はその光景に目を見開く。瞳に反射して揺れるのは、淡い光の粒子。
「これがミーロちゃんが見たがってた煙燈なんだね!」
「色々な光景は見てきたが、これは……一際、美しい光景だな」
 ジョージも感嘆しながら視線を下げる。何かの植物の群生地であるようだが、何もなければ雑草畑にでも思われてしまいそうだ。
 一見変哲もない場所の、この時期この時間にしか見られない光景。これを見られただけでも、仕事の対価としては十分と思わせた。
「すごい、ね」
 ミーロもまた光景に圧倒されながら瞳に焼き付ける。不思議な光景が、彼女にとってどのように映っているのかは彼女自身にしかわからない。
(それでも……彼女にとっても、僕たちにとっても、価値のあるものになりますよう)
 津々流は横目でミーロを見てから、自身も煙燈を見上げる。細く空へ昇っていく光は、どこまでも美しく、儚げで。
(正体を精霊疎通で探れるか……? いや、野暮だな)
 どんなものであるのか分かればもっと多くの者が見られるかもしれない。その情報もかなりいい値で買われるだろう。けれどもこれを前にしてそんなことをしようと思えなかった。この場に来た者だけが得られる権利で良いのだ、と。
「燃えてる……わけじゃなさそうっスね」
 恐る恐る手を差し込んだ美咲も目を瞬かせる。特に何も感じない。熱いとも、冷たいとも。目が見えなかったらそこに在ることすらわからないに違いない。
(マジで異世界なんスねー……ここ)
 流石に元の世界でこんな現象は無かったと思う。だからこそ、ようやく。『自身は異世界へ召喚されたのだ』と実感が湧いた。
 そんな彼らより少し離れて、閠は一同から自身の姿が見えないことを確かめるとそっと黒布を外す。近づいてきたらすぐにつければ問題ないと、布を手に持ったまま。
「これは……確かにすごいですね」
 先ほどまではミーロたちの話だけで煙燈を想像していたけれど、こうして実際に見れば圧倒される。圧を感じるというわけではなく魅入られる、魅了されるとでも言うのか。
 この景色に、彼女を連れて来られて良かった。登っていく光の粒子を目で追いながら閠はそう思った。
(煙燈を見て、ミーロさんが作る、瓶詰め。是非とも見てみたい、ですね)
 それは物を作る者として、同じ立場であるミーロへの純粋な期待。今度お願いしてみようか、などと思いながら閠は皆と合流すべく、黒布を顔にあてた。

成否

成功

MVP

炎堂 焔(p3p004727)
炎の御子

状態異常

なし

あとがき

 お疲れさまでした、イレギュラーズ。
 ミーロはこの後、自身の工房へ引き籠ったようです……。

 それでは、またのご縁をお待ちしております。

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