PandoraPartyProject

シナリオ詳細

黄金迷宮と死者の宮殿

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


「よお、サンディ!」
 聞き慣れた――聞き慣れて『しまった』というべきか――声にサンディ・カルタ(p3p000438)は瞑目した。さあ、今日は何がくるか。自慢か? それとも厄介事か?
 その声の主はベンタバール・バルベラルという顔すシードの青年だ。幻想王都《メフ・メフィート》の酒場に良く現れるこの青年は、何の縁かサンディによく絡んでくる。それは時として自らが成したことの自慢であったり、彼が対処しきれなかった厄介事を押し付ける類であったり。先日彼が起動させたゴーレム生成遺跡の後処理をしたことはまだ忘れていない。
 なのでサンディはこう言うつもりだったのだ。『この前のゴーレムの貸しは残ってんぞ』と。
「ベンタバール、この前のゴーレムの――おい、そいつは何だ? 遺跡から連れてきたお宝か?」
 その言葉が途切れてしまったのも仕方ないと言えばそうであろう。その原因となったベンタバールの連れは目を細め、呆れたように視線をベンタバールへと流した。
「おいおい、先に伝えておくんじゃなかったのか?」
「いやー、サンディに先を越されちまったな!」
 悪い悪い、と言葉でこそ謝罪をしているが悪びれた様子は全くない。その口ぶりから察するに、サンディに聞かれる前に言えばOK、とでも思っていたのだろう。その姿にサンディはがっくりと肩を落とした。
「あー……少なくとも、ベンタバールが見つけたお宝ってわけじゃねーんだな」
 この事態の元凶は目の前でからからと笑うベンタバールにある。その共通認識を得たサンディとエメラルドグリーンの宝石眼を持つ男――ザイードはここでようやく自己紹介と相成ったわけであった。
「へえ、ウォーカーなのか。ローレットで見たことはなかったが……」
「仕事をまわすコミュニティはいくらでもあるさ。ま、イレギュラーズとも関わりは持っちゃいるが」
 イレギュラーズだからローレットに属さなければならない、という決まりはない。そして表社会にも裏社会にも、仕事と名のつくものを受ける方法はいくらだって存在する。ザイードもまたそのようなコミュニティのどこかにいるということだ。
「そういやなんで2人が一緒にいるんだ?」
「ああ、それはだな――」
 サンディの問いへベンタバールが返そうとした、その時だった。
「お、サンディじゃねえか!」
 聞き覚えのある声。そちらへ視線を向けると緑肌をした小柄な、ぎろりと吊り上がった目の男――ゴブリンと呼ばれる種族の者がよお、と片手を上げている。その姿を見たサンディは目を瞬かせた。代わりに彼へ返したのはザイードである。
「中々来ないから仕事の話を始めるところだったぜ」
「おっと危ねえ。だが間に合ったんだからセーフだろ?」
 ザイードとキドー(p3p000244)の会話を聞くに、彼らはそこそこ親しい仲であるらしい。彼が先ほど言っていたイレギュラーズとの関わりというのもキドーのことだろう。
「俺たちゃ『燃える石』の常連よ。店主の口は堅えし、酒を呑むには勧めるぜ。メシは……まあ食いたきゃ食えばいいさ」
 さて、とザイードがキドーの言葉に次いで話を仕切り直す。今度こそベンタバールとザイードが共に現れた理由、そしてキドーも呼ばれた理由を説明してもらおう。


「黄金迷宮、ねえ」
「死者の宮殿とも呼ばれてるらしいが、そんなモンを気にしてたら遺跡荒らしなんてできないさ」
 呟くサンディにベンタバールが肩を竦める。暫し前には呪いの仮面に操られた前科持ちだというのに、その辺りの危機感は相変わらずないようだ。
「ま、全く気にしないってわけにゃいかないだろうが……手つかずの、しかも黄金の遺跡だろ? いいねえ、腕が鳴るぜ」
 キドーはニヤリと笑う。手つかずということはまだお宝が沢山残されている可能性がある。上手くいけば瀕死の財布も全回復だ。
 深部までは調査されていない。しかし遺跡の手前こそごつごつした岩肌が見えているものの、途中から床も壁も金に包まれているのだとザイードは告げた。そしてその遺跡には大事に保護された宝が眠っているのだ、とも。
 とはいえ、ザイードとベンタバールがこうしてイレギュラーズたちにも情報を流したのだ。遺跡荒らし、盗賊と呼ばれる彼らがわざわざ提供してきたということはそれなりの危険が伴うということである。
「黄金迷宮は全く手つかずってわけじゃない。遺跡手前の岩肌も、元は金で塗られていたようでな」
「金を削った痕はあっても、それを持ちだして売りさばいたって奴は見つからない。つまり……帰ってきていないのさ」
 一般人が聞けば背筋が粟立つような話である。しかしそこでニヤリと笑みを浮かべてしまうのは、未知の先を求める者故だろうか。
 こうして、幻想王国の傍らで小さくも大きい冒険が始まろうとしていた。

GMコメント

●成功条件
 宝を見つけ、生きて脱出する事

●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。不測の事態に気を付けてください。

●黄金遺跡
 別名『死者の宮殿』。ラサの一角にある未踏破の遺跡です。
 遺跡の手前こそごつごつとした岩肌が見えていますが、途中から壁も床も一面の金色に装飾されています。岩肌の見えている部分は、過去踏破しようとした者たちが削り取っていったものと想定されています。
 遺跡は長年放置されており、場所によって脆くなっている可能性があります。また、光源はありません。
 金に彩られた内部より先は不明ですが、以下は確実です。

・それなりに入り組んだ作りをしている
・後述モンスターが徘徊している
・最奥に『宝』が眠っている
・『宝』は遺跡の主を象徴するような物であるらしい

●エネミー
・ガリンペイロ×???
 金色のオオトカゲ。遺跡内部を徘徊しています。彼らは遺跡の道を塞ぐように歩くため、両脇を通り抜けるためには工夫が必要そうです。
 一説ではこれまで遺跡に侵入しようとした者の成れの果てがガリンペイロであるとも言われています。
 彼らは個々に『遺跡の守護』を任された存在であるようで、互いのことを敵ではないと認識しますが、積極的な連携などを自らしようとはしないようです。

・『黄金守護者』バジリスク×1
 最奥の『宝』を護るための守護者。8本の足を持つトカゲのような姿です。やはり金色です。最奥へ踏み入った者へ容赦なく制裁を下します。
 非常に大きな体躯故に、1人でブロックするのは無理があるでしょう。繰り出される攻撃も広範囲に渡ると予想されます。
 またその瞳から放たれる怪しい光は【石化】にかかり、口から吐き出される炎は【紅焔】にかかるようです。その他BSや付与効果を持つ攻撃を繰り出す可能性がありますが、現時点では不明です。

●NPC
・ベンタバール
 サンディさんの関係者『ベンタバール・バルベラル』。ナイフ使いのカオスシードで、それなりに実力のある青年です。
 飄々としていますが仕事となればちゃんとするでしょう。安易な判断をすることもありますが、基本的には真剣です。

・ザイード
 キドーさんの関係者『ザイード』。こちらは槍使いのウォーカーで、右目はそこそこの治癒能力を持ちます。
 盗賊、暗殺者としての顔を持つ彼の実力は十分でしょう。ですが戦士でもあるが故に、強敵と相対した折には逃げの一手を打つよりも好戦的な一面を見せるかもしれません。

●ご挨拶
 愁と申します。
 お待たせいたしました。お宝を見つける為、非戦スキルや戦闘で道を切り拓いていきましょう。
 それではどうぞよろしくお願い致します。

  • 黄金迷宮と死者の宮殿完了
  • GM名
  • 種別リクエスト
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2021年05月08日 22時04分
  • 参加人数8/8人
  • 相談8日
  • 参加費150RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

キドー・ルンペルシュティルツ(p3p000244)
社長!
※参加確定済み※
ラダ・ジグリ(p3p000271)
灼けつく太陽
志屍 志(p3p000416)
天下無双のくノ一
サンディ・カルタ(p3p000438)
金庫破り
※参加確定済み※
エルス・ティーネ(p3p007325)
祝福(グリュック)
ウィズィ ニャ ラァム(p3p007371)
私の航海誌
アーマデル・アル・アマル(p3p008599)
灰想繰切
アリス・アド・アイトエム(p3p009742)
泡沫の胸

リプレイ


 ひた、ひた、ひた。
 冷たい岩肌の感触を足裏に、或いは手をついた壁に感じながらイレギュラーズたちは遺跡の最奥へ向けて歩いていた。まだ金の塗装が存在しないと言うことはまだここは『安全地帯』と言って良いのだろう。
「ベンタバールさんとザイードさんはお久しぶり、かしらね」
 相変わらずといった2人――ベンタバール・バルベラルとザイードに視線を向けた『竜首狩り』エルス・ティーネ(p3p007325)は、未だ金の見えぬ遺跡奥へそれを移す。
「この遺跡……どう攻略していこうかしら。ほとんど手を付けられていないのでしょう?」
「おうよ。金が見えりゃそこからは完全に未知の場所さ」
「解明されぬ謎の遺跡でお宝さがし。いやーロマンだねェ」
 ベンタバールの言葉にニシシと笑う『最期に映した男』キドー(p3p000244)。だが、とそこで浮かれた顔ひとつ見せないのは『剣砕きの』ラダ・ジグリ(p3p000271)だ。
「手つかずの遺跡っていうのは魅力的な言葉だが、相応の理由もあるんだろうさ。先日のゴーレム遺跡みたいにならない事を祈ってるよ」
 その視線はベンタバールへ。仕方なかったんだと言わんばかりの表情で肩を竦める彼だが、うっかり遺跡の仕掛けを動かしてイレギュラーズへ対処を任せた件はそう遠い過去の話でもない。
「ガリンペイロが盗人の末路、なんて噂もあるんだ。気を付けるに越した事はない」
「お宝と一体化しちまった男の言うことは重みがあるぜ」
 キドーが見上げた先はザイードの右目――それは元々彼の右目だったわけではない。こことは別の世界で起こったことではあるが、全ての原初の礎たる混沌でも十分起こり得ることだ。
「ま、今回は探索がすげー得意そうなメンバーが集まってるし、俺としちゃだいぶ楽ができそうだ」
 『皆が無事であれと』サンディ・カルタ(p3p000438)が肩越しに仲間を振り返ると、手にしていた明かりが小さく揺れる。普段は探索で特に気を張る役回りも多いが、今回はそうならないだろう。
「そろそろみたいだぜ」
 視線を戻したサンディは、明かりに反射した煌めきを目ざとく見つける。ただの岩肌ではない。もっと綺麗に平らな『壁』であり、かつそこに光をはじくようなものが広がっている。
 それがまだ削り取られていない金であると分かった瞬間、一同の表情が揃って喜色に彩られたのは仕方あるまい。
「これがもっと先まで続いているんだ……! ラサって本当にいいとこだねエルス!」
 皆がそれをマジマジ見る中、『私の航海誌』ウィズィ ニャ ラァム(p3p007371)はもっと奥へと目を凝らす。わくわくソワソワとしたウィズィにエルスはくすりと笑った。
(久しぶりだからかしら、気合入ってるわね。私も……ラサの遺跡だもの、奮っていきましょ!)
 立ち止まってばかりではいられない。一同は更に奥、床も天井も金に飾られた場へ踏み込む。ここも完全な手つかずではないのだろうが、侵入を果たしたはずの者たちは帰ってきておらず、そしてこの辺りに死体も見当たらない。それを確認した『霊魂使い』アーマデル・アル・アマル(p3p008599)はふむ、と小さく呟いて顎に手を当てた。
(トカゲの類が守る遺跡か……人工生命でないなら、食事や水は何処で調達しているんだ?)
 見たところ草木が生えている様子はないし、水の流れる音も聞こえない。しかし生命であるならば命を維持するために何かしら必要なはずだ。
 しかしここで考えてばかりいてもわからない、とアーマデルは顔を上げる。まずは踏破を目指さなければ。
(ダンジョンって……いうんだよね……こういうの……)
 わくわくする一方で、ドキドキもする。『蕾蜘蛛』アリス・アド・アイトエム(p3p009742)はガリンペイロという敵性存在の情報を思い出してぎゅっと手を握りしめた。
 ここには――自分より強いかもしれないけれど――女の子がいる。ならば彼女たちは絶対にアリスが守ってあげないと。そんな決意の証だ。
「宝探しのためにダンジョンへ挑むのは初めてかもしれませんね……」
「他に理由があったってェことか?」
 キドーの問いに頷いた『遺言代筆業』志屍 瑠璃(p3p000416)はこう答えた。『レストランを探しに』と。
「「「レストラン……?」」」
 複数人が異口同音に復唱する。ええ、と再び頷いた瑠璃だが、自分でも結構意味不明だと思う。でもこれは事実だし、そのために罠が張り巡らされたダンジョンへ挑んだことも事実である。

 まあ、何はともあれ。全ては1歩を踏み出してから。
「ウィズィ、情報の集約を頼む」
「うん、任せて」
 ラダは聴力を研ぎ澄ませ、サイバーゴーグル越しに遺跡の先を見通す。併せて瑠璃のエコーロケーションで地形をより詳細に把握し、違和感のある部分は調べて罠を解除していく。
「こういう時の定番アイテムですね」
 3メートルの棒で怪しい床をコン、とつつくと瑠璃の目の前でぽっかり空間があく。どうやら落とし穴らしいが――やはり、ここにも死体の類はない。
 前方で仲間たちがマッピングを順調に進める間、後方を警戒するキドーは暗闇を見通す。ガリンペイロらしき影はまだ見えない。
(挟み撃ちの心配はまだなさそうだ)
 まだ遭遇もしておらず何もかも順調そのもの。それは返って不安を煽るものでもあったが、十二分に注意しているのだからこれ以上注意する余地もない。
 さて、進んでいく間も周りは金で隙間なく埋められていたが、イレギュラーズたちはこれに手出しをしないという方針を固めていた。あくまで目標は最奥の宝であり、ここで下手に刺激したくない。
「ベンタバールとザイードもそれでいいな?」
「異論はない」
「仕方ねぇ」
 首肯するザイードにやれやれと溜息をつくベンタバール。そして誰より悔しがっているのは――。
「持ち帰ればぺったんこの財布があっという間に回復するのによぉ、クソッ」
 常に財布が瀕死状態のキドーである。わかっている、わかっているとも。イレギュラーズの方針にはキドーも前もって賛同している。……が、理解していても惜しいものは惜しいのだ。小鬼はどこまでも強欲な生き物であるが故に。
「ベンタバール、敵襲の気配は」
「まだだ。静かすぎて不気味だぜ」
 だよな、とサンディは頷く。ここまで何も出てこないなら、もっと金が剥がされていてもおかしくない。だというのに気配もしないのははやり『一行が金を剥がしていないから』だろうか?
 ともあれ、邪魔が入らないのは良い事だ。ウィズィたちが地図のマッピングをしながら道を探している間、サンディは生存者がいないかと人助けセンサーを走らせる。ここまで死体がないことも不思議だが、生存者の声も聞こえない。過去侵入した者たちは何処へ行ったのか。
(ガリンペイロの総数は分からないし……油断せず、慎重に進まなきゃね)
 エルス、そしてアリスも周囲を警戒しながら仲間たちについていく。しかし不意にラダからの合図があり、一同は少し戻って脇道へと逸れた。
「……いるな」
「動いてる?」
「ゆっくりと、だが」
 ようやく1体お出ましらしい。未だこちらに気付いている様子はなく、巡回中と言った所か。アリスが息をひそめてじっとしていると、仲間内で誰が引き付けるか決まったらしい。
 ラダは転がっていた小石を握ると、自分たちがいるのとは別方向の道へと投げる。カツン、と小さく音が響いた。
(いけるか……?)
 壁などと同様に金に覆われていた小石。その音は存外小さく、しかし気配を可能な限り殺している一同はガリンペイロがそちらへ向かっているか容易に確認することもできない。
 しかし。ほどなくしてガリンペイロはのしのしと動き始め、小石が転がった方へと向かっていった。イレギュラーズたちが隠れていた脇道には、目もくれずに。
「……行こう」
 ラダの言葉に一同は頷き、ガリンペイロが戻ってこないことを願いながら足早に道を進んでいく。一瞬見えたガリンペイロの身体も金色だったが、もしかしたらこの遺跡の金に関係ある事なのかもしれない。
「そういえば、最後にここへ侵入されたのはいつなんだ?」
「定かなことは言えないが……」
 アーマデルの言葉にザイードがベンタバールへ確認を取る。こっそり侵入した者もいる可能性はあるが、はっきり確認されているのはそう遠い昔という訳ではないらしい。
(それにしては霊がいないな……)
 さっさと成仏したのか、とアーマデルは視線を巡らせる。死体も、魂も――まるで全てを食われてしまったかのようだ。
「また来てる、隠れて!」
 小さく、されど鋭く。3つの道が合流する地点で放たれたウィズィの言葉に一同は再び安全の確認されている脇道へ逸れた。どうやら先ほどとは別個体が奥から向かってきたらしい。
「今度は私の番だね」
 ウィズィは準備万端に用意していた石を取り出す。これは遺跡の外で拾ってきたものだ。気配を殺し、こちらへガリンペイロが来ないことを祈りながら通り過ぎるのを待って――元来ていた道へ向けて、投げる。
 良い塩梅に響いた音と共に、ガリンペイロがぐるんと首を向けた。同時に再び気配を殺した一同は、ガリンペイロが元の道へ戻っていくのを待つ。
 段々と敵の巡回が増えてきた実感は、同時に奥へ進んできた証にも感じられる。脆い場所が付近に無いか確かめながら進むアーマデルの耳に、三度「隠れて」の声が聞こえた。
「……動きませんね?」
 様子を伺っていた瑠璃。一同も怪訝に頷く。
 道に仁王立ちで、周囲には誘導するような場所もない。その佇まいはまるで――門番。
(これの出番はなさそうです)
 そっと焙烙珠をしまう瑠璃。真っ向から戦うしかないだろう。その意思を固めた一同だが、不意にサンディが先へと躍り出た。
「おい、お前! 元に戻りたいなら俺に従いな!」
 もしも、人の言葉が分かるのなら。彼らが本当に『元人間』であるならばという一縷の望みにかけて声を上げるサンディ。戦いを回避できれば――あわよくば味方に引き入れられたならという考えだ。勿論戻る術なんて知らない。
 しかしガリンペイロはサンディを視認すると低く唸り、牙を剥く。「ダメそうだな」とキドーは前へ躍り出て熱砂の精を放った。恐らく隙を見てこの先へ逃げる、なんてできはしないだろう。ならば倒して進むしかない。
 アーマデルの放つ酒の香がガリンペイロを苦しめ、虹の如く煌めく雲を瑠璃が頭上へ作り出す。暴れまわるガリンペイロの前へ立ちはだかったのはウィズィだ。皆には可能な限り温存してもらうためにも、ここでの消耗は全て引き受ける――そんな覚悟で。
「残念、伝わってくれりゃ良かったが」
 サンディも戦いへと参じ、呪いを帯びた一撃を打ち放つ。勢いづかせてなるものか。そこへアリスもレジストクラッシュで畳みかけた。
 ガリンペイロの図体では満足に動きまわることはできないが、それはイレギュラーズも同じ。決して広くないフィールドで、けれど確実にダメージを蓄積させていく。
「はぁっ!」
 エルスの放った黒い斬撃がガリンペイロを噛み砕かんとする大顎へ変わり、その金色の肌を傷つける。ラダはその眉間に銃口を向けた。
「――終わりだ」
 一発、二発。放たれた銀弾がガリンペイロへめり込んだ。未知の真ん中にどうと倒れたガリンペイロが絶命していることを確認し、そして増援もないことを確認した一同。瑠璃のギフトが使い終わるとその報告も受けながらさらに先へ進む。
 相変わらず遺跡は金で覆われており、そしてガリンペイロの巡回も増えていく。その何度かを回避し、或いは交戦しながら一同はようやく最奥付近まで辿り着いた。
「ヒトをトカゲへ変化させる罠……そんなものがあるとすれば、この辺りに置きそうな気がするんだ」
 そう告げたのはアーマデルである。瑠璃のギフトによって記憶はガリンペイロであった時のみ――遺跡を巡回し、イレギュラーズに倒されるところまでであることは確認されている。ヒトであった頃の名残は消失しているのだ。
 それほどの罠、道中や手前に置くとは思えないというのがアーマデルの言だ。対策されてしまえばあっという間に最奥まで辿り着いてしまうのだから。
 しかし――注意深く観察し、罠を察知できる者がいてなお。そのような仕掛けを見つける事なく最奥まで辿り着く。一同は引っかかるものを感じながらも、ようやく宝を目前としたわけだ。
 そして。
「漸くご登場ね……『黄金守護者』バジリスク!」
 エルスは8本の足を持つ大きな蜥蜴を見上げ、睨みつける。神々の加護をおろしたウィズィは前へと駆けだしながら声を張り上げた。戦いの、始まりの合図を。
「――さあ、Step on it!! お宝は私たちのもんですよ!」
 バジリスクの咆哮が遺跡全体を震わせる。キドーはフーアと呼ばれる邪妖精を呼び出すと敵へけしかけた。
「ガンガンにせめてお宝はいただきだぜ!」
「おうよ。ベンタバール、頼むぜ!」
 アリスと共に補助へ回るサンディ。彼の言葉にいつも通り軽薄な笑みを浮かべたベンタバールがナイフを構える。アーマデルはそのナイフがバジリスクへ飛んでいくのを目で追いながら、英霊残響を奏でた。その怨嗟がバジリスクを絡めとらんと取り巻いていく。
 そしてベンタバールのナイフに続いて――ラダの放った毒塗りナイフもまた投擲される。宙を飛ぶ様は魚のよう。的確に刺さったそれはあらゆる苦痛をバジリスクの体内へ流し込む。
「この高火力、疾くと喰らいなさい!」
 さらに苦痛を与えんと振りかざされるエルスの鎌。しかし痛みに呻いたバジリスクは力いっぱい飛び跳ね、重力に任せて地面を揺らす。
「っ……目が、」
 横へと回り込んでいた瑠璃がはっと顔を上げる。トカゲの目は前方と言うより横向きについている。とっさに魔眼を使おうと目に力を込めたが――間に合うか。
 バジリスクの攻撃は広範囲であるものの、最もそれを受けるのは引き付けているウィズィだ。バジリスクの肌色に目を奪われながらも、アリスは彼女の回復を忘れない。
(ホントに金色……綺麗でも……女の子に危害……許さない……)
 盾として立つ人だから。その理由も勿論あるけれど。何よりウィズィが女の子だから守ってあげなくちゃと思うのだ。
 仲間たちの傷を癒して回るアリスとサンディ。それに助けられながらもアーマデルは万死の一撃をたたき出す。無傷では成せぬ技、故に飛びぬけて苛烈な一撃。
 しかしこれで終わりではないのだと、アーマデルは自らの余力を考えながら次にどの技を繰り出すか頭の中で瞬間的に判断する。
「ザイード!」
 バジリスクが首を振りながら炎をまき散らす。キドーの声にザイードは右目の力を解放した。
(全く、厄介だぜ)
 せめてひとつでもその攻撃を封じることができたなら。キドーは僅かな望みを込めて、敵の瞳めがけブラックドッグをけしかけた。瞳自体を攻撃することは難しいが、それを躱すような動きで力の発動自体は遅らせられたか。
「攻めてってくれ! 回復は全て任された!」
 自らもイモータリティで持たせながらサンディが叫ぶ。少しずつ余力が削れている自覚はある。なればこそより苛烈に。より短期決戦を目指さなければ。
「ええ、お願いしたわ!」
 エルスは彼の言葉を信じてひたすら前へ。強者へ挑む姿勢を崩さず黒顎の斬撃を放つ。次の瞬間、黒く大きな棺がバジリスクを閉じ込めた。
「檻術空棺……棺の心地は如何ですか?」
 瑠璃が棺を見上げ――不意に、それが壊れる。内部から這い出てきたバジリスクは、しかし相当疲れていることが誰の目にも明らかだった。
「ここが勝負どころだ」
 ラダの放つ銀弾が数えきれないほどに放たれ、それでもまだ足りないと駆けだす。至近距離で放つは惑わしの一撃。
「ウィズィ……守る……」
 手負いの獣よろしく暴れまわるバジリスクからウィズィを庇ったアリス。そしてすぐさま血を蜘蛛の出すような糸へ変え、レジストクラッシュを叩き込む。
「大丈夫……まだ、いけるよ!」
 その背後でウィズィは立ち上がった。可能性がまだ、この胸に。発揮する時は今だと燃え上がっているから!
「防御は任せて――行っちゃえエルスっ!!」
「ええ! この大鎌で……撃ち斬ってやるわ!」
 バジリスクの背後から大きく跳躍したエルス。鋭利な刃は金色に輝くバジリスクの命を刈り取っていった。

 絶命したことを確認した一同は宝の安置された奥へ向かう。ラダはしかし、と呟いた。
「奴等なりの宝って、トカゲの卵があっても驚かないぞ」
 先ほどの石化攻撃に、ガリンペイロの話。もうこの先に何が在ろうと動じることは無い気がする。
「あ、遺跡の主ってさっきのバジリスク? ここを作った人物なのかと思っていましたが……」
 どっちだろうかと考えるウィズィ。その答えは宝を見れば明らかなもので。宝の安置された場所を見るや否や、ラダ以外の一同はあんぐりと口を開けた。
「「……」」
「……ほら、やっぱりじゃないか」
「これ、生まれるのか……?」
 最初に立ち直ったらしきキドーがまじまじと――金色の卵を見る。装飾の類か、それとも本物の卵か。エルスは周囲を警戒しながらそっと近づき、卵を手に取った。仕掛けが作動する気配はない、が。

「……温かい、わね?」

 どうやら……この卵、生きているらしい。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

ウィズィ ニャ ラァム(p3p007371)[重傷]
私の航海誌

あとがき

 お疲れさまでした、イレギュラーズ。
 金色の卵をお持ち帰りしました。

 ガリンペイロの噂と侵入者の末路については……さて。どうなのでしょうね?

 それでは、またのご縁をお待ちしております。

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