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シナリオ詳細

<フィンブルの春>昏き卵殻のエンブリオ

完了

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●ウィツィロに春は来るか
 神翼庭園ウィツィロは、神翼獣ハイペリオンの伝説が眠る土地である。
 いや、であったというべきか。
 今のこの場所には……。
「スヤァ」
 実際に神翼獣ハイペリオンがすやすや眠っていた。
 土地の、というか土地復興のためのテーマパークハンマーランド再建のために日夜尽力していた男ハロルド(p3p004465)は、ファームの一角に作ったハイペリオン専用の寝床を前にして満足げに腕組みしていた。頭には工事用ヘルメット。後ろには建設に携わった作業員達。
 彼らは両目と歯ぁむき出しにして今にも人殺しそうな笑顔を浮かべつつ――。
「ハイペリオン様は可愛いぜェ」
「キヒヒヒヒィッ!」
「三徹して寝床を建設したかいがあったってもんだぜ!」
「たまんねぇなぁ!」
 なんか満足そうだった。
 そこへ、二人の足音。
 よく整えられた芝をふんだ男女の姿に、ハロルドは振り返る。
「おお、よく来てくれたHLRC名誉会員ジェェック!」
 三徹してるだけあってテンションが劇画だった。
 が、それに慣れてるのか素から気にしてないのか、ジェック・アーロン(p3p004755)はガスマスクを胸に抱いたまま『ん』と手をかざしてこたえた。
「ハイペリオンハウス建設祝いを開こうと思ったが情勢が情勢でな。都合のつく者しか呼べなかった……いま暇か?」
「いや、暇ではないけど」
 ジェックは巨大な鳥の巣めいたベッドで眠るハイペリオンを眺めてほうっと息をついた。
「ハイペリオンは、見たかったし。メダルを貰った報告もしたかったから」
 ジェックがかざしたのは、ウィツィロを守護した者たちに王から贈られた記念メダリオンだった。ジェックの名前が直接刻まれている特別製だ。なんでも集計日から表彰式の間のわずかな期間でウィツィロの古代獣を数百体屠りいきなり上位にランクインしたという。
「噂は聞いている。それと……」
 と、ハロルドはジェックの横に並んでいた男性に目を向けた。
 白い服に血液パックを備え、かなり特殊な装備に身を包んだ蒼白な男性。ヲルト・アドバライト(p3p008506)である。彼の胸にも特別なメダルがさがり、刻まれたヲルトの名前が光っている。彼の希望から『リーモライザ家のヲルト・アドバライト』と刻まれており、そのことにハロルドは小さく頷いた。
「ヲルト・アドバライト。お前もよくウィツィロを守ってくれた」
「いや、オレは別に……」
 彼は勇者になろうとしている。
 それも、彼を引き取った幻想貴族リーモライザ家の地位を高めるために。
 日夜己の心血を捧げる令嬢のために。
「あの人のために、やっただけだ」
「……」
 ハロルドの心の中で、何かがずきりと痛み、そして自分の中の自分と違う誰かが『わかるで』と言った気がした。
「まあ、見ていけ。アンタが守ったものを確かめるってのも悪くないだろ」
 毎日のように古代獣が湧き出し、その一部は土地に残って人類文明の破壊と根絶をはかろうとしていたウィツィロ。
 大勢のイレギュラーズの活躍によって沈着した古代獣たちは倒され、その中でも格別の働きをしたジェックやヲルトたちをハロルドは自分のツテを使ってここハイペリオンハウスに招待していたのだった。
 一時はどうなるかと思ったが、なんとか自体も収まった。このままこの土地が平和になってくれればいいんだが……。
 と、その時。
 景色が突如傾いた。

●激震と、崩壊と
 暗転していた。目を開き、一時平衡感覚の失われた頭を押さえながらも身体を起こす。
 そして目の前に広がった光景は、完全に倒壊しめちゃくちゃになったハイペリオンハウスだった。
「お゛あ゛ああああああああああああああああああああ!?」
「親方まてまておちつけ!」
「無事! みんな無事だって!」
 咄嗟に走り出そうとしたハロルドを羽交い締めにする作業員達。
 ふとみると、ジェックとヲルトが怪我をした作業員たちを地面におろしている所だった。
 そのそばには3m雛鳥(グローイングフォーム)のハイペリオン。
 そして。
 その更に向こうに。
 天を突くほど巨大な黒い卵が出現していた。
「こ、こいつは……」
「分からん。けど、コレが地上に飛び出したせいでまわりの建物がぶっ壊れちまったみたいだ」
 ヲルトは突然の揺れに気付いて作業員たちを抱えて建物を飛び出したが、その最中ハロルドは運悪く瓦礫に頭をぶつけて気絶していたらしい。もしかしたら記憶も飛んだかもしれない。
「そうか、お前が俺を?」
「いや、気絶はしてたが何か叫びながら自力で外に出てた」
「親方バケモンかよ」
 一方で、ハイペリオンもぺふーと息をついた。
「私もすぐに目覚めて他の方々を抱えて脱出しましたが……」
 振り返ると瓦礫の山々。ハイペリオンハウスの他にもあちこちで建物の倒壊が起きていたらしい。
「ひとまず救助だ。再建くらいどうにでもなる。できれば周辺領地から人を呼んで……」
「待っテ」
 ジェックが、ガスマスクを装着していた。
 その意味するところを、ハロルドは知っている。
 『戦いが始まる』……そういうルーティーンだ。
 更には鋭敏になってきた感覚が、おぞましい気配を察知する。
「この土地へ敵が迫ってる。それも、かなりの数」

●ウィツィロ防衛作戦
 突如現れた巨大な黒き卵。しかし現れたっきり沈黙した卵を前にできることはない。
 それよりも、時を同じくしてこの土地を目指し大量の古代獣たちが集結していることにこそ対応せねばならなかった。
 緊急救援信号を発したことで集まったイレギュラーズたちは自領の人員やハロルド領の人員を用いて防衛陣地やフィールドを急ぎ建設。大規模迎撃作戦を開始することとなった。
 有翼の獅子や巨大な蛇、暗雲をつれた鴉や一つ目の巨人たちが迫るこの土地を、果たして守り切ることはできるのか。
 否、守り切らなければならない。
 古代獣たちがここまで一斉に動くだけの理由が、必ずあるのだから。

GMコメント

■シチュエーション
 あなたはハンマーランドに招かれた、もしくは救援信号をうけて駆けつけたイレギュラーズです。
 神翼庭園ウィツィロに古代獣が大量に迫っているという報をうけ、急ぎ防衛陣地を建設し迎え撃つこととなりました。
 このためこのシナリオは『建設パート』『防衛前半戦パート』『防衛後半戦パート』に分かれます。それぞれの解説は後述していきます。

・部下を連れて行こう
 たまたま一緒に来ていた、ないしはこのために連れてきた部下を率いて陣地建設、および防衛戦を行うことができます。自分のとこの領民はこんな人達だよという紹介をプレイングに加えてもお楽しみいただけます。

・五つエリアにチームを割り振ろう
 神翼庭園ウィツィロにはABCDEの五つの方角より古代獣の群れがそれぞれ迫っています。
 彼らは途中で合流するため接近が送れているようですが、着実にかつ同時にむかってきているため防衛陣地はAエリア担当Bエリア担当――と五つに分けておく必要がありそうです。
 そのため、今回のメンバーも相性を加味しつつ2個小隊5組の大隊をそれぞれ組んでおくのがよいでしょう。

■■■パートごとの解説■■■
●『建設パート』
 自分の領民、またはハンマーランドのスタッフを借りることで防衛陣地の建設を行います。
 あなたは現場監督として、人手を沢山つかって陣地を作っていくことになります。普段はちょっとできないような陣地をこしらえるのもいいでしょう。
 ただ時間がそれほどないので、いまある瓦礫をかきあつめて作る形になりそうです。
 襲ってくる敵の性質や自分たちのチームの個性にそった陣地をこしらえてみましょう。

・Aエリア
 獅子型古代獣の群れが迫っています。
 彼らは飛行能力を持ちますが主な戦闘は地上でかつ近接で行われます。
 物理攻撃に優れ、近接での一撃必殺系の技を持っているようです。

・Bエリア
 蛇型古代獣の群れが迫っています。
 かれらは空を飛び毒の霧や毒の牙を用いて戦います。
 ただ体表に毒の体液を分泌することでその効果を発揮しているらしく、水を浴びせるとその効果が薄れるようです。

・Cエリア
 一つ目の巨人たちが迫っています。
 彼らは手先が器用で大抵の仕掛けは突破して突っ込んでくるでしょう。
 ただし戦闘が格闘攻撃に限定されるため、障害物を沢山おいて砲撃するスタイルに弱い用です。

・Dエリア
 巨大な鴉の群れが襲来します。
 彼らは高高度を飛行してくるため地上の罠やバリケードがほとんど通用しません。
 そのかわり固定砲台での攻撃や、高台からの射撃など、対空防御を意識した防衛が有効です。

・Eエリア
 謎の古代獣が接近しています。
 闇の霧に覆われているためどんな連中かわからず、注意が必要です。
 何にでも対応できる陣地をこしらえるのはかえって非効率なので、あえて『自分の強みを活かしまくる陣地』を作るとよいでしょう。

・オマケ:装備アイテムの建設利用について
 樽やロープといったアイテムを持っていなくても防衛陣地は建設できます。逆に毒薬や接着剤などのアイテムを持っていたとしても大型陣地をこしらえるだけの分量を持っていないものとして判定します。(その人が軽トラ満載の毒液ポリタンクで日夜移動してると想像すると怖くて眠れないので)

・オマケ:ハイペリオン様に手伝って貰おう(╹v╹*)
 ちょっとだけならハイペリオンさまに手伝って貰えます。
 具体的に何が出来るってわけではありませんが、でっかくて空を飛べるのでものを運べたり毛並みがよかったりします。

●『防衛前半戦パート』
 部下を率いて戦いましょう。敵のデータは前パートで紹介した通りです。
 戦闘には小隊指揮ルールが適用されます。

【小隊指揮ルール】
・このシナリオには小隊指揮ルールが適用されます。
 PCは全員小隊長扱いとなり、十名前後の配下を率いて敵部隊と戦うことができます。
・兵のスキルや装備といった構成内容はおおまかになら決めることができます。
 防御重視、回復重視、機動力重視、遠距離砲撃重視、特定系統の非戦スキル重視……といった感じです。細かいオーダーは避けましょう(プレイング圧迫リスク回避のため)
・使用スキルや戦闘パターンの指定は不要です。(プレイング圧迫リスク回避のため)
・部下の戦意を向上させるプレイングをかけることで、小隊の戦力が上昇します。
 先陣をきって勇敢に戦って見せたり、笑顔で元気づけたり、料理を振る舞ってみたり、歌って踊ったり、格好いい演説を聴かせたり、効率的な戦術を指示したりとやり方は様々です。キャラにあった隊長プレイをお楽しみください。
・兵のデザインや雰囲気には拘ってOKです。
 自分と同じような服装で統一したり、自分の領地にいる戦力を選抜したり、楽しいチームを作りましょう。特に指定が無かった場合、以下のデフォルト設定が適用されます。
・兵のデフォルト設定:ハンマーランド警備兵
 多種多様なビルド構成。主人に似て大体何でも出来る。

●『防衛後半戦パート』
 後半戦は敵部隊のボスが出現します。
 同種固体ですがひときわ強力です。ここぞとばかりに必殺技をたたき込んだり仲間を力を合わせて戦いましょう。

【選択要素『撤退と死力』】
 『ラスボスパート』直前、自分の小隊が一定以上の損害を受けていた場合以下の二点から対応を選択することになります。
 『自分を残して撤退させる』か『全員で死ぬまで戦う』かです。
 皆さんはイレギュラーズとして運命に愛されています(通称パンドラ復活が使えます)が部下たちはそうではありません。
 部下達を撤退させた場合、身軽になり覚悟が座ったことで単独の戦闘力に若干補正がかかります。
 全員で死ぬまで戦う場合、小隊全体の戦闘力が平たく上昇しますが部下死亡のリスクが急激に高まります。





●ブレイブメダリオン
 このシナリオ成功時参加者全員にブレイブメダリオンが配られます。
 ゴールド、ミスリル、アダマンタイトとメダルごとにランクがあり、
 それぞれゴールド=1p、ミスリル=2p、アダマンタイト=5pとして扱われブレイブメダリオンランキングにて総ポイント数が掲示されます。
 このメダルはPC間で譲渡可能です。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • <フィンブルの春>昏き卵殻のエンブリオ完了
  • GM名黒筆墨汁
  • 種別EX
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年04月29日 22時45分
  • 参加人数10/10人
  • 相談6日
  • 参加費150RC

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(10人)

ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)
願いの星
ハロルド(p3p004465)
ウィツィロの守護者
ジェック・アーロン(p3p004755)
冠位狙撃者
シャルロッテ=チェシャ(p3p006490)
ロクデナシ車椅子探偵
ミエル・プラリネ(p3p007431)
新たなるレシピを求めて
わんこ(p3p008288)
雷と焔の猛犬
鏡禍・A・水月(p3p008354)
鏡花の盾
天目 錬(p3p008364)
陰陽鍛冶師
ヲルト・アドバライト(p3p008506)
パーフェクト・オーダー
リュコス・L08・ウェルロフ(p3p008529)
神殺し

リプレイ

●心と嵐
 領地に迫る古代獣。一人だけ嵐の中を駆け抜けるみたいな顔とBGMをした『聖断刃』ハロルド(p3p004465)が人混みのなかをかき分け現れた。
「一度ならず二度までもハンマーランドを破壊しやがって、許せねえ!」
「まじゆるせねーのだ! ぶっとばすのだハンマーマン!」
「応ッッ!」
 シュッシュとシャドウパンチしてるサニーサイド・ウィツィロの横に立つと、ハロルドは凶悪かつ獰猛に笑った。
「やっと復興が終わったとこなんだ。これ以上邪魔されてたまるかよ、なあ!」
 同意を求められた『黒の猛禽』ジェック・アーロン(p3p004755)はといえば、ハイペリオンの頭にかかったほこりや木くずをぱしぱしはらい落としていた。
「折角のハイペリオンの毛並みが……ハウスが崩れたせいで乱れちゃったじゃん。
 そっちは後で整えるとして……アイツらも倒したらもっと力を取り戻せるかな?」
「どうでしょう。しかし私の力を奪っているのは確かなこと。古代獣たちと戦うにはいずれ力が必要になるでしょう」
「そっか。なら、戦う意味はあるね」

 はるか遠くに見える巨人の姿。
 いずれ来る襲撃に備え、『被吸血鬼』ヲルト・アドバライト(p3p008506)たちは既に準備を始めていた。
「いいさ。勇者になるついでだ、オレがウィツィロを守りきってやる」
 ぎゅっと握った拳には確かに力がみなぎっている。
 そんな彼に並ぶようにして、『鏡越しの世界』水月・鏡禍(p3p008354)は手鏡を胸に抱いた。
「今更ながら領主ということと自分の兵を率いることに不安が……ってこんな顔みせてられないですよね。僕の本懐は護ることです」
 ぱちんと頬を叩いて気合いを入れ直す鏡禍。
「ヲルトさんは不安じゃない?」
「いや、オレは領主ってわけじゃないしな。むしろ逆だ」
 だから領地の兵も連れてこれなかった、と話すヲルト。兵力的にはハンマーフォース(ハロルド領の兵隊)を借りる形になったが、実質的にはハロルドに全権を委任して自分はあるいみ一人で戦うというスタイルでいくようだ。
 けれど、『護る』という部分には共感できた。
「人も領地も僕らで守ってみせます。頑張りましょう!」
「ああ……」
 そんな二人の様子を、『祈りの先』ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)は静かに見つめていた。
 護る。その言葉はヴァレーリヤにはあまりに重く、罪の味をもって喉を滑り落ちる。
(司教様を討ったハロルドに、全く思うところが無いと言えば嘘になります。
 ですがそうせざるを得ない状況であったのは事実で、ここに住まう人達には何の罪もありません。だから私……)
 黒き鋼の手を胸に当て、ヴァレーリヤはうっすらと目を開けた。
「司教様がいらっしゃったら、きっと仰るはずですもの。精一杯助けなさい……と」
 そこまでいって、ヴァレーリヤは『ハンマーワイン』て書いてあるボトルを一気飲みした。
 そしてヴォンと音をたてて地面に空き瓶を叩きつける。
「やぁぁぁぁっってやりますわ!!!!」
「よかったいつもの同志ヴァレーリヤだ」
「ハンマーランドに行くって言ったときはへこんでたけどあれなら大丈夫だな」
「亡き司教様もお喜びになられる」
「いや司教がいたらまずあのボトル没収するだろ」

 電動車椅子を押す少年風執事オートマタ『A・バトラー』。
 その横には少女風メイドオートマタ『A・メイド』がアタッシュケースを手に立っている。
 車椅子には『ロクデナシ車椅子探偵』シャルロッテ=チェシャ(p3p006490)が腰掛け、肘を突いて立体ボードに各方角の戦力図が表示されていた。
 後ろからささやきかけるA・バトラー。
「ハンマーランドより工兵の編成が整ったようです」
「ご苦労さま。急ピッチで復興事業をしてると聞いていたからアテにしてみたけど、どうやら期待には添いそうだね。散水設備が欲しいから、建設スタッフを主に借りたい。そっちはどうかな?」
 ちらりと横を見ると、机に設計図を広げて大量に書き込みを加える『陰陽鍛冶師』天目 錬(p3p008364)がはたと顔を上げた。
「いや、こっちは大丈夫だ。こんなこともあろうかとカムイグラの領地から工兵を出張させておいた」
「大規模な工事を行うんだろう? ホームの人員を使わなくて大丈夫かい?」
「安心しろ。俺はアウェイ戦に強いんだ。それに……この設計図を俺の領民以外が理解できると思えない」
 身体をのばしてのぞき込んでみると、たしかに常人が理解するにはあまりにも専門的かつ高度な技術があちこちに取り入れられていた。
 というか、普通に提案したらまずムリなことた書いてあった。
 錬ならではというか、この状況だからできるような作戦をどうやら展開するつもりらしい。
「俺たちの作る防衛陣地を容易く抜けるとは思わない事だ」
「そうだね。心強いことだ。ボクも……溢れる策の吐き出し先が足りなくて破裂しそうだったんでね、丁度良かったよ」
「皆さん、編成が済んだようです。防衛地点へ向かいましょう」
 話しかけてくるハイペリオン……のおなかに『新たなるレシピを求めて』ミエル・プラリネ(p3p007431)がもっふり埋まっていた。
「はっ、お仕事ですか! 終わったらまたもふもふしていいですか!? いいですか!?」
「よいのですよ、地上の子よ」
 ふぁっさふぁっさと翼を上下させるハイペリオン。
 同じく背中にもっふり埋まっていた『うそつき』リュコス・L08・ウェルロフ(p3p008529)が顔を上げる。
「ハイペリオン……とハンマーランドもぼくたちが守る!
 そしてハイペリオンをまたもふもふするんだ、もふもふ……遊びに来たわけじゃないよ! まじめにがんばるもん!!」
「そうです真面目に頑張るのです! アクアパッツァとか作ってきましたから今日!」
「みんな宜しくね!」
「お初にお目にかかりマス、ハイペリオンサマ! 準備できました!」
 よその様子を見に行っていた『シャウト&クラッシュ』わんこ(p3p008288)が迎えに戻ってきて、Y字ポーズでずざーっとブレーキをかけた。
「それにしても黒い卵に押し寄せる敵。無関係とは思えマセン……ハイペリオンサマ、心当たりは」
「あるといえばあるのですが……おそらくは、力と共に奪われた記憶のなかにあるのでしょう」
「なるほど!」
 わんこの脳内でいろんな目的がぽこーんと一つに定まった。
 要するに古代獣をボコボコにやっつければ今の問題はおおむね解決である。
「任務了解デス! さあ――」
 穴あきグローブをキュッと締め直し、にんまり笑うわんこ。
「迎撃作戦を開始しマスッ!」

●迎撃作戦
 防衛地点へと迫る獅子型古代獣の群れを、リュコス隊の警備兵たちが高所より観測していた。そこへリュコスをのせたハイペリオンが通過し、地上へと着陸。羽ばたきによる風が放射状に草を倒していく。
「……隊長?」
「決してぼくがどさくさに紛れてもふもふしたいわけじゃないから!ぼくもちょっと休憩がいるかなーって思ったからで!!」
 いつまでも頭の上にのっかっていたかったリュコスだが、がばっと顔をあげて観測員へと振り返る。
 観測員は『わかるで』って顔をしたあとスクロールを取り出した。
「まだ時間はありそうです。それと、リュコス隊長が考案した作戦ですが、丁度良い素材が瓦礫の中にあったので時間までに完成できると思います。ただカモフラージュが難しいですね」
「大丈夫だよ。誘い込むのが狙いだから」
 その役目も任せてあるし……と別働隊であるヴァレーリヤ隊の様子を見てみた。
「なんという事でしょう、せっかく買った酒樽を材料にしなければならないだなんて……でも大丈夫。きっとハロルドが損失を補って余りあるほどの補償をしてくれるはずですから」
 とかいいながら樽にワインシーフ(ガラスとかでできたワイン樽ようのでかいスポイトのこと)でワインを抜き取ってはちゅーちゅー飲むヴァレーリヤ。
 どうやら落とし穴をメインとした作戦を考えたようだが、部下の一人が設計図(飲みながら書いた奴)を縦横斜めに回転させながら顔をしかめた。
「同志ヴァレーリヤ、たしかこの地点で相手する古代獣って飛んでるんですよね?」
「ですわねえ」
「なのに、落とし穴を作って酒を流し込む作戦なんですか?」
「ですわねえ」
「……飛んでる相手に?」
「あなた、よく考えてご覧なさい」
 びっとワインシーフを突きつけるヴァレーリヤ。
「普段飛んでる人が穴に落ちたら、それはもう大混乱するでしょう? そこへお酒を浴びせたらどうなります」
「なるほど確かに……で、どうやって落とすんです?」
「それは」
 ヴァレーリヤはもっかいワインを吸い上げると、スポイトを掲げた口にだぱーって流し込んだ。
「なせばなるという言葉がありますわね」
 口元を拭うヴァレーリヤ。
 その顔をじっとみていた部下。
 二人は同時にワインボトルを手に取ると、コルクを抜いてラッパ飲みして地面に叩きつけた。
「つまりはそういうことですわ!」
「そういうことか!」
「飛んでいてもその辺の煉瓦とか投げれば当たるから充分ですわ!」
「なるほどたしかに!」

 一方こちらは蛇型古代獣を迎え撃つためのエリア。
 飛行するこの古代獣は体表の毒液を洗い流すことで戦闘力をおとせるということで、シャルロッテ隊と鏡禍隊は放水専用の防衛陣地をこしらえていた。
 元々夏場をプール系レジャー施設にするはずだった場所を強引に改築し、大型のホースと二人がかりで動かす人力ポンプをこしらえた。
「また、ずいぶん仕事が早いんですね……」
 資材の運搬を主に担当していた鏡禍は、汗を拭って樽を置いた。
 同じく運搬にあたっているのは遠い豊穣の地より今回の異変にあわせて出張させてきたわずかな兵たちである。彼らは運搬を終え次第スコップをもって大きく広い穴と堀をつくり、ホースからの給水で大きな池をこしらえていた。
 シャルロッテ隊が水をかけることに集中する一方で、鏡禍隊は飛行する固体を落としてからの安定的な戦闘陣地を作っているのだった。
 バトラーに車椅子を押させ、設計図と放水設備をそれぞれ見比べるシャルロッテ。
「部隊の半数には戦闘能力よりも工作能力を優先させたからね。といってもあの放水設備はすぐに破壊されるはずさ。要するに囮だよ。結局は各兵の装備がものをいう」
 他のエリアもうまく罠をはってくれていればいいけど……と、シャルロッテは肘掛けによりかかった。

 一つ目の巨人達が迫るCエリア。ミエルはハイペリオンに頼んで沢山の土嚢の運搬をしてもらっていた。
「有り難う御座いますぅ、ハイペリオン様ぁ」
「大地の子らの役に立てるなら、このくらいなんてことはありません」
 シンプルな翼をはばたかせ、これまたシンプルな脚で掴んだコンテナをふらふらしながら運搬していく。ミエルはその背に乗って、『いまのうち! いまのうち!』て言いながら顔を埋めて深呼吸していた。
「っと、この辺で大丈夫ですよ」
 ミエルの指示通りにコンテナを投下するハイペリオン。
 落ちた先には、大量のなんかあのなんだろう白い猫みたいなスーツを着た謎の集団が『ニャ……ニャ……』ていいながらせっせと土嚢を運び、高い山状に積み上げていた。
「じぇっく……山ができたニャ……」
「卜口のこと……褒めてくれるニャ……?」
 ふらふら群がってくる卜口集団から、ライフル抱えて後じさりするジェック。
「ふつうの兵隊を集めたはずだったのに……どうして……」
「おいていくなんて、ひどいニャ……」
「卜口のこと、忘れちゃったのかニャ……?」
「ひぃっ」
 部隊の外見はともかくとして、卜口部隊はスナイパーとスポッターで構成され、高価で連射の効かない弾を次々に供給して撃ちまくるという火力に優れたチームだ。
 ミエルのアタッカーに偏ったチームとあわせ、かなり火力でゴリゴリといくスタイルになりそうだ。
 逆に言えば敵からの攻撃に弱いので、巨人たちの足をどれだけとめられるかが勝負の分かれ目になるだろう。

 固定砲台と高台。
 わんこ隊と錬隊が求められたのはこの二つで、内わんこ隊は木組みの高台を複数たてて鴉型古代獣の群れへの迎撃陣地とした。
「おっちゃんら、今日はよろしくお願いしマス!」
 またY字ポーズで叫ぶわんこに、わんこ島の漁師たちはビッと親指を立てた。
 鯛やヒラメやイワシといった種類のディープシーたちだが、腕はぶっとく胸板は厚く、平和な海洋諸島のなかでも割とゴリゴリの武闘派があつまった印象だ。
「普段は鯨相手に捕鯨砲ぶっ放したり船みてーにデカい車海老をぶち抜いてんだ。海洋の漁師を舐めたら痛い目ぇみるって教えてやらねえとな」
「デスネ!」
 べつに誰も海洋漁師をナメちゃいないが、やる気になってるみたいなのでわんこはそのまま同意しておいた。というかあんまりその辺考えてなかった。Y字のままだし。片足もあげはじめたし。
 そうして一通りの高台が出来たところで、平行して砲台作りをしている錬へと手を振った。
「錬サマー! そっちはどうデスカー!」
 その一方。
 手を振られ、設計図片手に指示を飛ばしていた錬は手を振り返した。
 がっつりと工兵ばかりで構成した錬ならではの部隊は、瓦礫やらなんやらをうまきう組み合わせてバリスタ砲台を複数建設していた。
 今まさに敵が迫っている真っ最中にここまでできるのは、錬の類い希なるセンスと部隊の高い技術力とその組織力ゆえだろう。
「敵は高高度を抜けてこの防衛陣地をスルーするつもりだろうが、逆に言えば落としてしまえばこっちのものだ。
 バリスタでダメージを与えて墜落させ、高台からの射撃で押さえつける」
 が、そんなスーパー工兵部隊でもバリスタを何台も並べていますぐ実戦可能な状態にもっていくには死ぬ気で働く必要があるようだ。
「ここが俺たちの正念場だ。しっかり要望以上に仕上げるぞ!」
 銃のみならず武器というものは撃つ瞬間よりそれを作る時間のほうが長く、それを怠ればすべてが崩壊する。
 これこそが、錬の主戦場なのだ。

 そしてこちらが最後となるEエリア。
 闇の霧が群れを成して迫る防衛陣地。
 いかなる敵が現れるかもわからないその場所で、しかしヲルトは落ち着いていた。
 丸太を担いで運び、メガホン片手に大声で指示を飛ばすハロルドにこたえて複数のバリケード……もとい丸太のフェンスを作っていく。
 そうしていると、ハンマーフォースの兵士が話しかけてきた。
「あんたは部隊に指示を出さないのかい?」
「あー、人の上に立つとか柄じゃないんだよな。そもそもオレ奴隷だし。だから、オレの指示には従わなくてもいいと言ってある」
 ヲルトは『余所者のオレに使われるのは癪だろう』とも考えていたしそれを兵士も察していたが、兵士たちからすれば『いつでもどこでもなんでもできる』というハロルドのモットーをまもっているので、ヲルトに命令されても特に嫌な気はしないつもりだが……気遣われて嫌な気もしない。といった具合である。
「ただ、お前らのことはオレが守ってやる」
「おう、期待してるぜ未来の勇者さんよ」
 その一方で、ハロルドは爆裂に張り切っていた。
「手札の多さによって敵に合わせた戦術を構築し有利に立ち回るのが俺達だが、それには敵の弱点が分かっていなければならん!
 そのために必要なのはなんだ!?」
「「ハンマー!」」
「そうだ! が、ちがう!」
 使用済みハンマーをゴンッて地面に叩きつけると、ハロルドはメガホンごしに叫んだ。
「時間だ! いま作ってる陣地はな、敵を倒すためでも弱体化するためでも、俺らに無敵の護りを与えるためのものでもない。『時間稼ぎ』だ!」
 『く』の字に荒く組んだ丸太をおよそ2メートルくらいの柵にして並べていく。固定は縄で、地面に杭打ちもしない。
 これをとにかく大量に作って敵の迫る方向へととがったほうを向ける。
 攻撃一発でぶっ壊れそうだし防御力もさしてなさそうだ。が、こちらの人数や位置が分かりづらく、交戦するにも相手が探り探りになる。こちらもこちらで攻撃しづらいが、分散しながら色々な攻撃方法をぶつけていきエネミースキャンを走らせることで敵の分析を効率よく進めることが出来るのだ。
 柔軟さを旨とし、そのための『模索』を欠かさないハロルドならではの作戦と言えるだろう。
 ハロルドは獰猛に笑った。
「いいことを教えてやる。世界に不変のものなどない。
 夢も平和も奪われる。命も未来も、どれだけ大切にしようといずれ何かに奪われる。
 だが悲しむことじゃない。それは『奪える』という事実に過ぎん。
 奪われたら奪い返せばいい。愛も平和も、夢も未来も、命も希望も約束も――燃える怒りを嵐に変えて、なにもかもを奪い取れ!」
 両目を見開き、聖剣を握る。
「俺はできたぞ、お前もやれ!」

●古代獣
 鐘が打ち鳴らされ、兵隊がトンネル前へと集中する。
 ヴァレーリヤ隊、及びリュコス隊はそれぞれ迎撃装備を構えると、猛烈な速度で迫る古代獣の集団へと反撃を開始した。
「これで勝ったら飲み放題でしてよ! 鉄騎の恐ろしさ、心に刻みつけてやりなさい!」
「「ウラー!」」
 メイスを振りかざすヴァレーリヤ。酒瓶を振りかざす隊員達。
 その様子にリュコスとその隊員たちは思わず二度見した。
「運び込んだ酒樽が設計のわりにやけに多いと思ったら……!」
「突撃ぃー!」
 低空飛行状態をとり、牙をむき出しにして襲いかかる獅子型古代獣たち。
 ヴァレーリヤ隊に遅れをとってはならぬとばかりに飛び出したリュコス隊。
 高機動スタイルのリュコスを先頭として、致命傷をさけるための防御専門のスタッフと援護射撃を主体としたスタッフ。
 古代獣にリュコスの跳び蹴りを炸裂させると、射撃をしながら部隊は勢いよく引いていく。
「敵の様子は?」
 誰よりも素早く古代獣から距離をとるリュコス。追いつこうとする古代獣を盾によってギリギリ防ぐと、援護射撃チームによる一斉射撃で強制的に【怒り】状態を付与し、仕掛けておいたトンネルへと逃げ込んでいく。それを追って潜り込んだ古代獣――を待ち構えていたのは酒樽を掲げて逆さにしたヴァレーリヤだった。どうやら戦乱にまぎれてトンネルへ回り込んでいたのだろう。
 滝のように落ちる酒を顔面であびながらがぶ飲みし、空っぽになった樽にオーラの炎を灯した。左右を抜けて走って行くリュコス隊。
 ヴァレーリヤは片足を大きく掲げての投球フォームでせまる古代獣へ樽を投擲。と同時にヴァレーリヤ隊が一斉に酒瓶で殴りかかった。
 飛行能力があるとはいえせまいトンネル内。更にはリュコス隊の援護射撃によって回避能力を制限されていた古代獣は直撃によって墜落し、地面をすべるようにしてトンネルそばの落とし穴へと転落していった。
「ほらごらんなさい、作戦通りですわ! 酒ェ! 酒を振りまくのですわー!」
 オリャーといいながら酒を樽事ぶっこんだ後ついでとばかりに火炎瓶を投げ込むヴァレーリヤ隊。燃え上がる古代獣。笑い出すヴァレーリヤ隊。
 リュコスは『こんな作戦だっけ?』と首をかしげた。

「僕たちの得意なことは護ることのはずです。土地は違えどやることは変わりません、全力で守り抜きますよ!」
 蛇型古代獣が高度をさげ、毒の霧を纏ってはばたく。
 鏡禍および鏡禍隊はそれぞれ自らに『不完全な不死』の術をかけると鏡禍を先頭とした防御陣形をとった。
 陰陽師めいた格好をした隊員が呪物の火箸を握りしめ、炎と灰の鳥を次々と作り出しては古代獣めがけて発射していく。
 空中で激突し爆発を繰り返すが、その一方でシャルロッテは畳んだ扇子でビッと攻撃開始の合図を出した。
 爆発を抜け鏡禍へ食らいつこうとする古代獣へ、大きな幕によって姿を隠していた放水部隊が出現。一斉放水を浴びせることで体表の毒を洗い流していく。
 それを嫌がってか放水機のうち一機へと食らいつき破壊。が、その隙を突く形で散開したシャルロッテ隊が破裂することでバケツ一杯分は散水できる道具を次々に投げつけていく。木桶のような形をしているが激突と同時に輪がはずれ水がばらまかれる仕組みだ。
 それを嫌がり空へ逃げようとする古代獣だが、シャルロッテはその動きを予め読んでいた。
 いや。読んでいたというより……。
「このエリアへ襲撃をしかけた時点で、こうなることは決まっていたのさ」
 次なる合図を出すと、高所に仕掛けられたタンクが破裂。古代獣へ大量の水が浴びせられる。
 そこへ一斉射撃と式神術による砲撃が浴びせられ、抵抗力を失った古代獣は浅池へと転落。もうこうなれば、蟻地獄のようなもの。
「詰め、だ」
 シャルロッテはパチンと扇子を成らし、鏡禍と鏡禍隊が素早く取り囲んでいく。

「ニャ……」
「ニャ……」
「ニャ……」
 やや高い位置に作られたトーチカから、狙撃銃を構えた卜口たちが一つ目巨人へ射撃を集中させていく。
 一発撃てば終わりという高価な弾だが、すぐそばに控えているスポッターの卜口たちが素早くリロード。次なる射撃を指示していく。
「じぇっく……弾ニャ……」
「使ってほしいニャ……」
「ぐっ」
 こいつらに爆弾巻き付けて放り投げたいなって気持ちに襲われつつも、ジェックはライフルに特殊な弾を込めた。
 弾頭に美しい流線の彫りがはいった、まるで芸術品のような弾。
 スコープで狙いをつけ、巨人めがけて発射する。
 飛び出した弾頭は空中で分離し多段ロケットのようなブーストをかけ回転。巨人の眼球を打ち抜いていく。
 派手に転倒する巨人だが、そのあとに続いた巨人が土嚢の山を腕でなぎ払い、勢いをつけて跳躍。
 飛び越えて着地――した所にピンポイントに浅い掘が作られていた。
 ゲリラ的な屋内防御にも用いられる『窓内トラップ』のひとつ。またいだ先に釘のでた板やねずみ取りや穴を仕掛け、意識の死角をついてくずすというものだ。
「今――DEATH!」
 ミエルがびっと指を突きつけると、ガトリングガンを構えた兵士がヒーハーと言いながら転倒した巨人めがけて一斉砲撃を浴びせていく。
「さあ皆様、牡蠣のアクアパッツァですよ!」
 イェーアとテンションをあげまくる兵士達。
 ミエルは両手にお皿を持って砲手たちの間を素早く駆け巡りながら、彼らの口に直接ぱっくんと手料理をねじこんでいった。
「頑張ってくださいねぇ! これを食べてパワー全開で行きましょう!」

 黒煙の空を割って、巨大な鴉の群れが現れる。
 空を指さした兵士たちのなかで、双眼鏡をおろした錬が一言。
「さあ、ゲームスタートだ」
 と、囁いた。
 彼が迎撃陣地に展開した無数のバリスタと即席の矢が、高高度を抜けていこうとする鴉の群れへと一斉に向けられる。
「俺たちの職人魂の結晶は古代獣にも通じるということを見せてやれ、撃ち方始め!」
 ドゥ、という轟音をもって大量の矢が天空へと発射された。
 『戦い』を左右するものは何か。戦術研究家や軍将校たちが様々な真実を述べる中で、こういうものがある。
 『戦いは始まるまえに決している』というものだ。より厳密にいうなら、実力が拮抗した場合より準備した方が勝つ。陣地を作る時間という意味ではない。その技術を培う期間や、教育機関や、その志と協力者たちのかけた長い長い『準備』が、今このときに凝縮された実力として爆発するのだ。
「今後十年防衛しようっていうんじゃない。この数分間ぶっ放せればそれでいい。なら、構造も素材も極限まで単純化できる。量産化できる。まあ、今回ならではのスペシャルな手だけどな!」
 上空を勢いで抜けてしまおうとしていた鴉たちは矢に打ち抜かれ、そうでない者もあまりの衝撃に高高度飛行を中断。
 自分まで同じ目にあってはいけないと低空飛行状態をとり、バリスタたちの破壊を始めた。
 が、それは錬の思惑通りであった。
「わんこぉ! 出番だ!」
「かかって来いよ、鴉野郎!!」
 高い見張り台に偽装していた射撃台から偽装用ベニヤ板がはずれ、銃砲や魔法の弓矢を構えたわんこ隊が出現。中でも年季の入った捕鯨砲を構えた鯨系海種のおっさんが『カーニバル!』と言いながら鴉たちへとぶっ放し始めた。
 量産バリスタの破壊など一瞬だ。しかしその一瞬の隙こそが、鴉たちを一網打尽にするチャンスとなる。
 高所より打ち下ろしたわんこたちの射撃が鴉の群れを散らし、バリスタを破壊し終えて上空へ逃げようにも射撃位置自体が高いせいで逃げ切れない。
「とどめ――デス!」
 高台からジャンプしたわんこが、空中の鴉に飛び乗って手を押し当て、空気砲を零距離で撃ちまくる。

 発砲音……が、聞こえた気がした。
 腕を組み、風にさらされていたハロルドは、迫る黒い霧へと……目を開く。
「おら、テメェら分かってんだろうなぁ! 『お客様がお見えになった』ら最初にすることは何だ!」
「「笑顔で挨拶ッ!!!」」
 今にもだれかヤっちゃいそうな殺人笑顔で叫ぶハンマーフォース。ついさっきまで『ハイペリオン様は可愛いぜェー!』『キヒヒヒヒ!』とか言ってた奴らのある意味本領である。
 彼らは一斉に斧やバットやハンマーを振り上げ、青い遊具カート(うきうきウィツィロくんカート)にコインを投入し跨がると、ハンドルを掴んで爆走しはじめた。
「よろしい!さぁ行くぞ! 俺に続けェッ!」
「「ウェルカム、ハンマーランドォォォォォ!!!」」
 そんな彼ら……の後ろからついていくヲルト。
「……え?」
 単独で回避盾になるべく部下(というかハロルドから借りた兵士)をそのままハロルドに移譲したヲルトは、軽く残される形になりつつもハロルド&愉快な仲間達を追いかけた。
 かくして霧の中から現れたのは、巨大な黒き巨人であった。
 ねじれた山羊のような角をもち、大きな黒き翼をもつ。が、本来一対ずつあるはずの翼は片側三枚のみしかついていなかった。
 どころか、腕は片側、足も片側しかついていない。巨人は片足で器用にぴょんと飛ぶと、手にした槍で空を薙いだ。すると突然、空間と地面がまとめて吹き飛び、そこへ大量の黒い怪物の群れが湧き出していく。
「任せろ」
 そこへ割り込み、攻撃をしかけるヲルト。
 彼を排除すべく群がった怪物たちの牙や爪や黒き焔を、ヲルトは赤い残像を残しながら次々と回避していく。
「こいよ、全部避けきってやる。――オレが勇者だ!」
「度胸があるじゃねえか。オメェらあいつの侠気を無駄にするんじゃねえぞ! ハンマーパレードォ!」
「「ウェルカム、ハンマーランドォォォォォ!!!」」
 一斉に突撃するハンマーフォース20名そしてハロルド。
 戦いの行方や、いかに。

●快進撃
 各エリアは激しい戦いに晒されながらも、各チームが見事に迎撃に成功していた。

「私には、彼らを生きて家族の元に帰す義務があるのですから」
 ヴァレーリヤは炎をはく巨大な獅子を前に酒瓶を放り捨てると、撤退する味方を庇うように立ちはだかる。
 その横には崩れる見張り台から飛び降りたリュコスが着地し。崩壊とふくらむ炎を背に身構える。
 更に吐き出された炎が陣地の様相を激しく破壊していくが、その中をリュコスは豪速で駆け抜け、その風をうけてヴァレーリヤもまた走り出した。
 リュコスの跳躍。と同時に獅子の頭上に飛び上がっていたヴァレーリヤが、詠唱をはじめていた。
「『主よ、慈悲深き天の王よ。彼の者を破滅の毒より救い給え。毒の名は激情。毒の名は狂乱。どうか彼の者に一時の安息を。永き眠りのその前に』」
 繰り出される打撃が獅子の頭を、そしてリュコスのスピードをのせたパンチが顎をそれぞれ打ち、獅子の顔面を破砕していった。

 同時刻。シャルロッテの部隊が撤退を開始。ひときわに巨大な空飛ぶ蛇が暴れるのを、シャルロッテはしかしうっすらと浮かべた笑みで見つめていた。
「作戦通りに僕の部隊も撤退させましたけど……これから二人でどうするんですか?」
 鏡禍はシャルロッテを護るように立ちはだかり、握りしめた手鏡から肉体再生の魔力を引っ張り出していく。
「もう部隊は残っていません。僕ら二人以外は」
「ああ、残っているね。ボクら二人が」
 シャルロッテはコミカルに片眉をあげてみせ、そしてパチンと指を鳴らした。
 そばに控えていたメイドオートマタがバズーカ砲を取り出し、シャルロッテの真横に立った。まるで意思を持って動いているように見えるが、今はシャルロッテから伸びた魔法の糸によって直接操作されている。つまりは、彼女の手足である。
「アレの攻撃を三度うけてくれ。三度でいい。それで、こちらの勝ちだ」
「なるほど……」
 鏡禍は頷き、そして安堵したように笑った。
「それは僕の得意分野だ」
 蛇が吐き出す毒の霧を、鏡禍は鏡で振り払う。否、鏡の魔力によって生み出された巨大な『砂の腕』が毒霧を振り払った。
 霧を抜けて食らいつく蛇。牙が鏡禍を貫くが、彼の肉体を破壊しきることは未だできない。
 ギリギリ残った力を振り絞り、鏡禍は蛇の顎を抱き込んだ。地面に両足をしっかりと埋めて固定したせいで、蛇は離すことも離れることもできない。
 そんな蛇の顔面に、シャルロッテはピッと指をつきつけた。
 両サイドに立ったバトラーとメイドがバズーカ砲とガトリングガンを撃ちまくり、蛇を鉛と炎で粉砕していく。

 一方、鴉の群れを倒しきり巨大な鴉をも撃退したわんこ隊と錬隊。
 多少余裕があるとはいえ、罠という罠を破壊され部隊も消耗した今、継続して部隊を運用するのは難しい。
「錬隊、わんこ隊の負傷者を抱えて撤退するんだ。工兵の仕事は済んだ。完璧にな」
「島で待っててクダサイネ!」
 そう言って錬とわんこはバイクへと跨がる。
 アクセルをひねるわんこ。ヘルメットシールドを下げる彼に部隊の漁師たちが問いかけた。
「あんたはどうする」
「仲間が待ってマス!」

 バイクの行き先はそう、ハロルドとヲルトの部隊が黒き片翼の巨人とぶつかる戦場であった。
 槍による豪快ななぎ払いを次々と回避し、スタンと着地するヲルト。
 『時間稼ぎ』のために作成した大量のバリケードは有効に働き、ハロルドの部隊が消耗した頃には巨人の特性が把握できていた。
「こいつ、初見殺しみたいな能力しやがって。決め打ちで突っ込まなくて正解だったな」
 流れる血をぬぐって立ち上がる。バリケードの殆どは破壊され、ほとんど丸裸の状態だが、ハロルドもヲルトも充分戦闘続行が可能である。
「部隊は撤退させよう。あって数時間かそこらの奴らのことを背負いきる覚悟はオレにはない。
 あとはオレに任せておけ。お前達はこの戦いが終わったあとにこそやることがあるだろう。
 倒壊した建物の修復とかな」
 負傷したハンマーフォースへ振り返り、手をかざすヲルト。
 彼らは頷き、あとをヲルトに任せて撤退した。
 そこへバイクにのって駆けつけるわんこと錬。
「待たせたな!」
 錬はバイクの後ろから式符を連続展開。
 式符・樹槍――氷薙――炎星による怒濤の三連コンボが巨人へとたたき込まれる。
 わんこはバイクに跨がったまま加速し、ハンドグローブからの指鉄砲を撃ちまくる。
 ハロルドから伝令ファミリアー越しに聞いていた巨人の特性。もとい弱点。一見して足を狙うべきその構造はある意味で罠だった。
「奴の弱点は――翼デス!」
 翼を一枚、二枚、立て続けに破壊すると巨人はみるみるバランスを崩し、地面にずずんと手を突いた。
 追撃に身構え、ハロルドにいつでもいけと合図を出すヲルト。
「オーケー、行くぜ――!」
 残った数人のハンマーフォースがギラギラと目を光らせる。
 彼らの力がハロルドへと集中し、激しい光となって身体を包んだ。
「ハンマー・シャイン!」
 と同時にハロルドの光がエネルギージェットとなって彼を打ち出し、一個の巨大な弾丸となる。
「ハンマースパァァァァァァァァァァァァクウッ!」
 すさまじい距離をまっすぐに飛び越え、光の弾――否、『銀の弾丸』となったハロルドが巨人の胸を打ち抜き、黒い霧を晴らしていった。

 残るCエリア。
 爆裂に重火器を撃ちまくっていたミエル隊の攻撃陣地は破壊され、大量の足止めトラップもあらかた破壊されていた。
「皆様は下がって。傷を癒してください。後はわたしにお任せくださいっ!」
 ミエルはおやつのバスケットを部下のひとりに預けると、指輪から魔法の光を十字に走らせた。
「じぇっく……」
「卜口たちはずっといっしょニャ……」
「……」
 一方のジェックはスッとアバンギャルドな腹巻きを取り出した。具体的にはダイナマイトいっぱいの腹巻きである。
 二度見するミエル。
「今からこれを撒いてあの巨人に抱きついて」
「「ニャ……」」
 卜口たちはハッとした後、いそいそと腹マイトしてジッポライター片手に走り出した。
 二度見するミエル。
「卜口のこと忘れないでニャ……! これでずっといっしょニャ……!」
 巨人へ次々に抱きついては自爆していく卜口たち。
 呆然と見上げるミエル。
 が、ハッとして魔法のフリスビーを生成。巨人めがけてぶん投げる。
「わたしは女中ですが、戦うこともできるんですよ!」
 度重なる自爆攻撃によって激烈に動きが鈍っていた巨人にそれは直撃し、がくんと体勢が崩れていく。
「サヨナラ」
 ジェックはクールにつぶやくと、発砲。
 打ち出された弾は土煙の中を抜け、巨人の脳天だけをピンポイントで打ち抜いていった。
 崩れ落ちる巨人。
 それによっておきた風に髪をなびかせて、ジェックは背を向けた。
 やけにおびえていたとはいえ領地の仲間を失ったショックはいかばかりか。
 ミエルはそっと手を伸ばし、肩へ触れた。
「ジェック様……」
「じぇっく……」
「じぇっく……」
「じぇっく……」
「じぇっく……」
 と同時に足とか肩とか手とかにガシィってつかまってくるズタボロの卜口。
「卜口!? 死んだハズじゃあ……!」
「卜口はじぇっくとずっといっしょにゃ……!」

●エンブリオ
 こうして古代獣の大進撃を防衛しきったウィツィロのローレット・イレギュラーズたち。
 しかし大きな問題が残っている。
 領地のど真ん中に出現したこの黒く巨大な卵のような物体。これは一体……。
「なにか、卵の中から力の鼓動のようなものを感じます。最悪の事態は免れましたが……一旦、領内の人々を避難させた方が良いかもしれませんね」
 ハイペリオンの言葉に、ハロルドたちは頷いた。
 この卵のなかで、一体なにが育とうとしているのか。
 何が起ころうとしているのか。
 大きな戦いの予感を抱きながら、ウィツィロは避難活動へと動き始めた。

成否

成功

MVP

天目 錬(p3p008364)
陰陽鍛冶師

状態異常

なし

あとがき

 神翼庭園ウィツィロの防衛に成功しました。
 これによって領内での活動が可能になったローレット・イレギュラーズは、次なる危険を避けるべく周辺領地への避難誘導を行っています。

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