シナリオ詳細
アンダーテイカーと鬱金香
オープニング
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ざくざく。ざくざくざく。
土を掘る音がした。ゴシックロリィタのドレスに身を包みシャベルで土を掘り続けるのは一人の幻想種である。
葬列には不似合いな豪華なそれに身を包んでいた彼女は棺の中で眠る死者の硬い指先に白銀の薔薇を差し入れて微笑んだ。
――どうか、良き旅路を。
死がどのような物かを生を受けてから死の傍らにあった彼女にはまだ理解が遠い。
死することの恐ろしさは、死後の旅路を願う己には到底理解できない物で。死後が恐ろしいならば、己の行いとは無為ではないか、と。
そう思わぬ為に墓守の娘は穴を掘り続けた。
碧空に揺らいだ散り際の花のたもとに。風に揺らいだラーレが咲いている。
淡く色付く炎の色にも似たそれに寄り添うのは色とりどりのラーレであった。
「まあ、もうそんな季節になるのだわね」
ころころと鈴鳴らすように笑み溢して、娘は少しばかり冒険の旅に出掛けることとした。
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「御機嫌麗しゅう」
深緑、大樹ファルカウのその傍で微笑みを浮かべ待っていたのは『アンダーテイカー』と名乗る幻想種であった。
「お見知りおきの方は、お久しゅうございましてよ。ご存じない方に改めて自己紹介いたしますわ。
あたくしは『アンダーテイカー』、白銀の薔薇を胸に一刺しする墓守なのだわ。どうして薔薇を刺すかって? 死者の命の花を咲かせてるだけなのだわ、深い――それほど深い意味などないの」
風変わりな乙女は笑みを浮かべる。昏色のロリィタドレスに無骨なシャベルと似合わぬ装備を手にした彼女は「お願いがありますの」とゆったりとした口調でそう言った。
「あたくしも里帰りをと思ったのですけれど、とても素敵な話を聞きましたの。それで、皆様に是非ご紹介頂きたくて」
こてりと首を傾いで。
彼女の向かいたい場所は妖精郷なのだそうだ。華やかなる春、絢爛なる花。常春とも呼ばれしその場所へと行きたい。
アンダーテイカーは『白銀の薔薇』で死者を弔う一族の娘だ。
彼女にとって、花は死者への手向け。死者の良き道程に添える花がその地にあるのではないか、と考えたそうだ。
「その地には沢山の花が咲くのでしょう? あたくし、とても見てみたいのだわ。
その花たちが、あたくしの『守るべき方々』の夢(ねむり)を良き物にして下さるというなら……花の種を分けて貰いたいのだわ」
そう微笑んだ彼女を妖精郷に連れて行くだけは容易であった。
踏み入れた先で待っていた妖精フロックスは「お願いしたいことがあるです」とイレギュラーズへと告げる。
花の種を分け与えるのは構わない。アンダーテイカーの仕事道具である『白銀の薔薇』を妖精郷の片隅で育てるのも良いだろう。
それは『おねがい』をこなしてからだという。
「実は、冬が来てから花が咲かなくなった場所があるのです。妖精のみんなは、寄りつかなくなってしまって……。
沢山の邪妖精達やモンスターが集まってくるようになって仕舞ったのです! それで、その場所を……」
「ああ、成程。その場所をあたくしの畑にしても良いから、美しい花を咲かせ、守って欲しいと言うことなのだわね。
ええ、ええ。あたくし構わないと思いますわ。みなさまは? あたくし一人では成せません物。良ければともに護って下さいません事?」
土は疎らに穴をぽこりと開いていた。花翅の娘達は「おばけの出る場所だわ!」と囁きあった。
そんな、みかがみの泉郊外はしんと静まり返り春の気配を遠ざける。
冬のかおりが残ったままに芽吹きも知らぬその場所は沢山の邪妖精やモンスターが集まる場所となっていたのだろう。
妖精郷の片隅に。アンダーテイカーはその場所を『アルジャンローズ』と名付けたそうだ。
「アルジャンローズには鬱金香(ラーレ)を先ずは育てましょう。春にぴったりの花なのだわ。
けれど、育てるためには……土の中のモンスターに『おかえり』頂かなくっては!」
- アンダーテイカーと鬱金香完了
- GM名日下部あやめ
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2021年04月23日 22時15分
- 参加人数8/8人
- 相談7日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
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スケッチブックを悪戯に塗りつぶしたかのような色彩の数が、鮮やかなまでに包み込む。キャンバスの中に落とされたクレヨンで描いたその景色はどこまでも美しい。其れこそが、常春と呼ばれた場所なのか。
美しいと唇乗せれば召喚されて幾日経てども、飽くなき世界を見遣る瞳は喜色が滲んで。『特異運命座標』鬼灯 長門(p3p009738)にとって見知らぬ景色だらけのこの場所は発見ばかりだとでも言うような。此の地に冬が訪れた――僅かな気配。春で包まれた花の楽園を鎖した短い夏の冬。
「その一角だけが冬のまま、では寂しいでしょうね……微力ながら、アンダーテイカーのアルジャンローズを美しくする手伝いをさせていただきます!
……それに、なんだか此処は、かつての僕のいた世界と似ていて、とても落ち着くんです」
「まあ、それは素敵な世界なのだわ」
躍る様な声音と共に、シャベルを担いだ白銀の娘が目を細めた。コミュニケーションは良好。その身に纏うは黒一色、良き旅路へ魂を送るための正装と彼女が位置付けたのゴシックロリータにも似た宵の色の喪服。
「白銀の薔薇……アンダーテイカー。薔薇園の時の」
ぱちり、と瞬いて『黒のミスティリオン』アリシス・シーアルジア(p3p000397)はほう、と息を吐いた。驚いたのはその娘は生に頓着せず死を怖れぬばかりであったと言うのに生きとし生けるものへと慈しむ心を胸に抱いて居るというその全て。
「ご無沙汰、だったかしらん」
「……少し……見違えました。雰囲気が……何より、あの頃と比べても良い表情をするようになりましたか。未だ、答えを探し続けていらっしゃるのですね」
答え――どうして、人は死を怖れるのかしら。
誇りとして贈る白バラは忌避される悍ましき風習だと揶揄される。自身の生きる理由のように、快く送り出した其れが忌むべき物だとされるなら。アンダーテイカーはその理由が知りたかった。死とは、生とは、何なのか。
薄らと笑みを浮かべる彼女の傍らで、しじまに響く声音で囁いて。『夜のいろ』エーリカ・メルカノワ(p3p000117)は優しく優しく手を拱いて。
「グノーメ。大地の守人、花守のきみよ。どうか――どうかちからをかして。あなたたちの愛した彩を、取り戻せるように」
この景色は冬のいろ。溢れる花々の気配さえ、遠く過ぎた停滞。夏の雪、積もり積もった氷の景色。
其れを思い返しては『カースド妖精鎌』サイズ(p3p000319)は僅かな苛立ちを禁じられなかった。常春に、舞踊る花翅の娘達。彼女達を苦しめたあの冬にサイズは「まだ残っていたのか……」と小さく呟いた。
「其れに、此処にはモンスターがいる……妖精達に危害を加えるなら何とかしないとな……」
一匹残らず叩き切るしかないかとサイズと同じく『平和を乱す輩は皆殺し』と決意する『聖断刃』ハロルド(p3p004465)は「お帰り頂く」では済まなくなると魔を討ち滅ぼす邪を祓う刀を握りしめる。掌によく馴染んだその武器は土を盛り上げ冬のかおりを漂わせた邪妖精を容赦はしない。
『邪』妖精――それでも、この世界での妖精は何かと興味をそそられた『鬼火憑き』ブライアン・ブレイズ(p3p009563)は遙々と妖精郷までやってきた。出迎えてくれた花翅の愛らしい少女達は妖精(フェアリー)と称される存在だろう。だが、この田畑を荒らし回るのはそんな愛らしいものではない。
「妖精って言ってもまるでただの穴鼠みてーだ。ピンキリの下の方はこんなモンなのかね」
肩を竦めたブライアンは肩透かしを食らったと呟いた。仕事とも思えば敵が単純であればあるほどに楽が出る。可愛らしい妖精との戯れはまた後ほどに、アンダーテイカーの『アルジャンローズ』からそれらを追い払わなければならないか。
「モグラかぁ……それは困ったね。地面が穴だらけじゃちゃんと育たないし、ここに遊びに来た妖精が襲われるかもしれない。
トンネルを通って他の邪妖精もやってくるかもしれないし、見逃す理由が何もないね。
モグラ叩きはちょっと大変かもしれないけど、一匹残らず排除できるよう頑張るよ」
やる気を一つ、『魔風の主』ウィリアム・ハーヴェイ・ウォルターズ(p3p006562)はうん、と頷いた。パエリアを食べた腹ごなしだ。早速とアルジャンローズへ向き直れば命の法衣を春風に揺らしたマルク・シリング(p3p001309)の指先が鳥を宙へとお送り出す。
「それじゃ、花畑の整備と参りますか。きれいな花でいっぱいにしてあげたいよね」
此の地は『アルジャンローズ』――冬の残った、春を待ち望む静かな場所。
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精霊多の囁きを聞きながら、エーリカはアンダーテイカーに共に居てね、と囁いた。守り切るにはともに、ぐるりと周りを花弁のように囲って欲しい。
分散しすぎれば個々の負担が高まると理知的な声音で囁くアリシスに「作戦という人間の頭脳は生者の特権なのだわ」と少し外れた言葉を彼女は返す。アンダーテイカーの穏やかな笑みを見遣ったアリシスは「行きましょう」と呟いた。
整地の時間だと張り切ってサイズはその小さな身の丈よりも尚大きい本体(かま)を握り占める。上空より響いた鳥の声、マルクが淡々とした声音で「出たよ」と囁けばブライアンが我先にと先陣切って飛び込んだ。
支援を行う仲間達に己の体の無事を任せば良い。穴より顔を出すならば其れ等全てを受け止めてやろうと焔憑きの青年は己が体をぐるりと包んだ水精の加護に小さく笑んだ。焔の右腕に力を込めて、声を張る。吾は個々だと告げるかの如く――「こっちだ!」
「そんな齧り甲斐の無いヤツを襲うんじゃねーよ。鍛えぬいた俺の腕の方が噛み応えがあるぜ?」
齧れば一溜まりもなく花散るように手折れるアンダーテイカーよりも、己の方がかみ応えがあると朗々と笑い地中より飛び出したラーレ・トープを受け止める。
静寂の傍らで、長門が降ろしたのは神の加護。まじないの刻まれたグローブが纏う加護がブライアンがその身を翻す為の目を与える。涼やかなステップを踏むような凜とした神の聲。
「妖精郷の景色に見惚れていたいですが……荒らされ続けては整地に時間が掛りますね。――右翼です」
その邪妖精が身に纏った温度に、植物たちの囁きを聞く。長門は上空から見下ろすマルクの鳥のように『眼』を用いてラーレ・トープの居場所を突き止めた。
――ならば、その場所へ。ハロルドは飛び込んだ。翼十字(ウィングクロス)は聖なる哉。光を纏い前進する青年は決意の証と己の身に滾る信念を力に変えた。幾重にも張り巡らされる結界は敵を逃さぬと己と地より飛び出したラーレ・トープを閉じ込める。
地団駄を踏むように地を鳴らした青年の唇が三日月よりも尚、鋭く上がった。飛び上がったラーレ・トープを受け止めた聖剣リーゼロット。柔らかな光のように、美しい乙女が受け止めたかの如くラーレ・トープがふわりと躍る。
「ははははっ! なんだそりゃ。『かくれんぼ』か?
遊んでたって俺は殺せねぇぞ。おら、殺れるものなら殺ってみろよ! テメェらに俺の翼十字が貫けるとは思えねぇがなぁ!」
言葉は鋭い刃の如く。ラーレ・トープを集める前線の二人を俯瞰して降注いだのは停滞の呪術。それは、失意の敗北へ近付く跫音の様に厳かに降る。
浮かび上がっていたウィリアムは空を泳ぎ、冬の気配を纏う霊刀を振り下ろせばそれは停滞に近付いた。此の地に漂う空気のような冴えた気配に邪妖精は怖れるように地へ潜る。
「……また、逃げちゃったか。モグラ叩きも大変だね」
その呟きに、ハロルドは逃さないと囁いた。彼の言葉の通り少しでも頭を出せば飛び込んでくるのはマルクの放った極めて破壊的な魔術。光の如く、圧倒するそれにラーレ・トープが塵の如く霞んだ。
「……アンダーテイカー……一つ思うのですが、」
「ええ、なにかしら」
アリシスの指先で永遠を語った文様の環が魔力の気配を讃える。逸脱者と、総称された娘はどこか悩ましげに首を傾ぎ唇に指先で触れた。
超自然的存在との交信や干渉が可能が可能であった女は『気になる』事があった。アンダーテイカーが理解出来ぬ死への恐怖のその先の彼女の領域について。墓守である彼女の領域は、死者の弔い――見送ること。
「この邪妖精達もまた生在る者、死すればその魂は風に溶け消える定め。
……この世界の在り様故に彼らは拒絶され、今私達が滅ぼす事となりました。それでも、彼らもまた産まれ生きて死に行くもの」
「ええ、ええ、その通りなのだわ。先程彼が言っていたのです。『殺せるものなら』ならば、それは命の奪い合いなのでしょう?
ならば、あたくしたちは彼等を勝手に殺す身。勿論、迷惑なお客様なのでしょうけれどね、この子達は。それでも彼等だって生きているもの」
「ええ。妖精達にはあまりいい顔はされないかもしれませんが……簡素にであれば良いでしょう――弔いませんか、彼らの死後の旅路を祈って」
アンダーテイカーは頷いた。妖精の『味方』であったサイズにとっては其れも良いことだろうと感じていた。妖精達を害する存在であろうとも、この冬の気配を好ましく感じようとも邪妖精は『妖精』の一種であった筈だ。
「其方の妖精さんは、花翅のお嬢さん達のお友達でしょう? 弔ってよろしくて?」
「……構わない……。その前に、『妖精の敵』を倒して此の地を救わなくては、だろ?」
音立て揺れたのは青い鎖であった。サイズが地を蹴るように飛び込めば氷のバリアを展開した彼の体がハロルドの下へと飛び込む。防御攻勢は攻めるために適している。
淡く揺れたのは青い翅。蝶々がひらひらと躍る様だとエーリカは瞬いた。美しい深緑に、残された素肌のような土。その傍らで指を組み合わせて星へと願う。さちあれかしと、願いと祈りに光を込めて。ウンディーネはエーリカの言葉に応えるように囁いた。
「もう、おねむり――花の香があなたたちを、きっと、導いてくれるから」
導きを与える仲間を癒やした水の精霊は楽しげに微笑んで。その声音に手を伸ばせば指先が触れる。一瞬の逢瀬、その刹那に眼前へと飛び込まんとしたラーレ・トープを受け止めたサイズの鎌が振り下ろされた。
「………見た目以上に痛いぞ! 食らうがいい、妖精の敵よ」
ラーレ・トープが跳ね上がれば直ぐさまにブライアンがその腕を突き出した。がぶり、と齧り付いたラーレ・トープに怯むことはなく。
「けどな……ハッハー! やっぱり実家のペットにじゃれ付かれた程度の刺激だ! そんな弱い顎じゃ老後が大変だぜ・
――おっと! そんな心配は必要ないか? 今すぐ俺たちにぶっ飛ばされるんだからな!」
腕を振り回すブライアンへと強烈な支援を送ったマルクは目を細める。その数も大きく減った。アリシスの握る戦乙女の槍が作り出した光刃は、巨大な剣のようにラーレ・トープを貫いた。
美しい、ひかり。眩い其れを眺めながら「それが命を奪うのだわ」とアンダーテイカーは囁いた。そうして、小さないのちが潰えていく――エーリカはぐ、と息を飲んでから祈るように「おやすみなさい」と囁いた。
まるで眠りへと誘うかのような。そんな優しい気配の中でサイズとアリシスがハロルドとブライアンを支え続ける。
「――右!」
鋭く、ウィリアムが上空から告げた言葉に、同じく俯瞰し確認する眼を伴っていた長門は頷いた。アルジャンローズから逃げ出そうとする一匹を捕えるように伸ばされた魔力。
その体を絡め取っては離さない。べちゃりと袋が風に吹かれたかのように潰れて手折れたその小さな体を見遣ってからウィリアムはまじないを刃に乗せた。
エーリカが地へと叩き付けた拳は潜んだラーレ・トープ達を慌てさせるように。まるで地上で動く方法を知らぬとでも言うように足をばたつかせた小さな土竜の体をアリシスの光が包み込む。
「そろそろお終いにしましょうか」
冬の気配を遠ざけるような。冷たい刀を振り下ろすウィリアムの傍らで、冴えた声音で女は言った。
アリシスの光の目映さにマルクは目を細めた。それが、お終いの合図だと言うようにハロルドは握りしめた剣を一気に振り下ろした。
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「さて、花を植える為にもまずは穴だらけの土地を整地していかないとな……」
スコップが壊れても鍛冶道具と修理のスキルならば持っていると胸張ったサイズに「あたくしのシャベルが駄目になったら任せようかしら?」とアンダーテイカーがくすりと笑う。
「おうちから、わたしも色々持ってきたの。スコップ、じょうろ、それから……お花の種!」
エーリカは傍らで沢山の荷物を積んでいたサラマにおねがい、と囁いた。植える花の準備は十分。花については詳しくは知りやしない、それでも畑を耕すことならばと杭を打整地を続けるハロルドに「手際が宜しくてよ」とアンダーテイカーは楽しげに微笑んだ。
「俺は花に詳しくないんでな。死者の手向けの花と言われても菊くらいしか知らん」
「聞くも素敵なのだわ?」
折角ならば花をしっかりと育てたい。マルクは資料検索で花野を立て方や植え方に関する知識を得ていた。白薔薇を――それはアンダーテイカーが死者を弔うのに捧げる花よりも尚、澄んだ生きた気配をしていて。
「彼等の弔いになるかしら」
「彼等? ……ああ、ラーレ・トープ」
先程アリシスと邪妖精を弔うと決めたのだと言うアンダーテイカーにマルクは頷いた。白銀の薔薇を此の地にも。そう願いて作業するマルクは覗く妖精達へと柔らかに声を掛ける。
「バラは手入れが大変だから、植えた後の世話も妖精さんたちにお願いできるかい? できるだけ病害虫に強い品種を選んだけれど――」
勿論だと妖精達が踊れば丸くは小さく微笑んだ。屹度、此の地で花は美しく春を告げることだろう。
「アンダーテイカー、埋めるのはこの球根達かな?」
「ええ、冬の気配のこの場所に植えましょう。常春に本当の春が来るように、お願いするのだわ」
ウィリアムは小さく頷いてから球根の向きを揃えて花を植え続ける。
「ねえ、アンダーテイカー。手向けのラーレに、薄紅を植えてもいいかな。
死は避けられぬ別れだけれど、『あい』を音にして、かたちにして届ける。それが残されたものに出来ることなんじゃないかって、思うから」
「ええ、ええ、素敵なのだわ。あたくしのラーレ以外にあなたの心を植えて下さいな」
此の地は皆で守らねばなりませんものと微笑んだアンダーテイカーのエメラルドグリーンの瞳に、エーリカはぱち、と瞬いてから花綻ぶように笑みを零す。
「土いじりはかつての世界での嗜みでもありましたので……妖精さん達に花の種を譲って貰ったのですがアンダーテイカーさんどうでしょう?」
フロックスを用意したのだと長門は微笑んだ。彼女が植えるラーレの爪先を華やかに彩るそれは『彼女』達も喜ぶはずだとアンダーテイカーは手を打ち合わせて。
「アドバイザーの精霊に手伝いを頼んだんだが……植えたい花はアザミなんだ。薔薇――は格好付けすぎだろ。俺の故郷と縁のある花だ。全員、見たことは?」
「あたくし、薊は好きよ。鋭くって指先にチクリと痛いの。いい女みたいではなくて?」
アンダーテイカーの言葉にブライアンは違いないかとからからと笑った。エーリカはそっと立ち上がる。植えた花は、まだ眠たげに息を潜めているから。
「わたしがアルジャンローズに託すのはリスラムとヒース……父さま、母さま。
ふたりが花に託したねがいを、いのりを。いまは、まっすぐに受け取れる。そう、……そう、思ったの」
「ねがいと、いのり。ええ、それは大切なことだわ。死して口がなくなってしまえば、終わってしまうから。
だから、あたくしは花を添えるの。その花が美しく咲き誇って最後の言葉になってくれるはずでしょう。心を受け止められるように、弔いを」
それが、墓守である彼女の矜持。アンダーテイカーの白銀の薔薇は死を怖れることはない。悼む心はあれど死は新たな道であるかのように。
故に――彼女はまだ、分からない。死を怖れる人々の気持ちが。アリシスがまだ悩んでいるのだと彼女に囁いた言葉の通りに。
「これで春になれば綺麗に咲いたラーレ達が迎えてくれるだろう……とても楽しみだ」
そう微笑んだウィリアムにブライアンは仲間を振り返って自身が芽吹きを囁いた薊をそっと見下ろした。
「……アザミを見た事が無いヤツが居るなら植えたのが咲く頃にまた見に来ようぜ。きっと悪くない光景になる、今回の追加報酬だ」
成否
成功
MVP
なし
状態異常
なし
あとがき
この度はご参加有難うございました。
アンダーテイカーは皆さんに作って頂いたアルジャンローズで沢山の花を育てることとなるでしょう。
また、ご一緒に花の世話をして上げて下さいね。
GMコメント
妖精郷でお花を育てませんか。日下部あやめです。
●成功条件
土の中に居るモンスター『ラーレ・トープ』を撃破する
●現場情報
妖精郷アルヴィオンに存在するみかがみの泉郊外に存在する空き地です。邪妖精達が占拠していた場所であり、広大な敷地が『冬』の気配を残しているように感じられます。
春の訪れのためにその地『アルジャンローズ』を整地し襲い来る邪妖精を退けて花を育てましょう。
今回はその地中に占拠するラーレ・トープを撃破することが目的です。ラーレ・トープは土に潜み、妖精や花を喰らい尽くす邪妖精です。
●邪妖精『ラーレ・トープ』 10匹
もぐらに似た姿の邪妖精です。土の中を縦横無尽に穴を掘り動き回ります。
土の中から不意を打つように攻撃を行う事を得意としますが音や振動などで居場所を感知することは可能です。
とてもすばしっこく動き回ります。土の中で姿を隠して居る間は命中力の高い攻撃を行いますが、地上ではその動きは鈍重なります。
●アンダーテイカー
実年齢は不明。少女の外見をしています。長い髪に硝子の色の瞳。
ロリータドレスにシャベルを背負った墓守。本名不詳です。
墓守の一族の娘。白銀の薔薇を使者に一刺しする事で安寧へ導くそうです。最近元気を無くした白銀の薔薇を育てる場所と、死者の手向けの花を求めて妖精郷へ訪れました。
ある程度の戦闘はこなせるようですが、本人談の通り『一般人よりましかな』程度です。
(過去登場はとっても過去になりますが、『アンダーテイカーと薔薇の園』『アンダーテイカー曼珠沙華』です。ご存じ無くとも大丈夫です。)
●成功後
アルジャンローズに『ラーレ(チューリップ)』を植えることをアンダーテイカーは提案します。
勿論、皆さんは他の花を植えて頂くことも出来ます。また、妖精達が傍で伺っているようですので、皆で花を植えたりするのもいいかもしれませんね。
●情報精度
このシナリオの情報精度はAです。
想定外の事態は絶対に起こりません。
どうぞ、宜しくお願い致します。
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