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シナリオ詳細

<ヴァーリの裁決>ローズ・クラウンに迫る

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 常に門扉が開かれ、誰の訪れをも拒むことのない庭園――ローズ・クラウン。そこでひと時を過ごしていたヴァイス・ブルメホフナ・ストランド(p3p000921)の表情は、その風景に見合わず難しいものだった。
 口元で静かにカップを傾けるけれど、その表情が晴れることはなく。甘いお菓子を口にしてもそれが変わることは無い。

 それは今、ここにヴァイス以外誰もいないからではなく。
 それは今、ローズ・クラウンの天気が悪いわけでもなく。

「……一体、誰の仕業なのかしら」
 ヴァイスはため息をひとつ落として立ち上がる。このまま優雅にお茶を飲んでいる場合ではないのだもの。そんなことをしていたらローズ・クラウンの周囲は――果てはローズ・クラウン内でさえも荒らされかねない。
 『彼ら』が何を言おうとも、思おうとも。この場所を、そして訪れる者を害そうとするならばそれはヴァイスにとって敵である。
(誰か手伝ってくれると、良いのだけれど)
 その足が向かうはギルド《ローレット》。ヴァイスと同じイレギュラーズである者たちが集う場所。『彼ら』がこの地へ到達するまで今暫しの猶予があるならば、皆の助力を乞うこともできるだろう。

 ローズ・クラウンへ先ほど舞い込んだ知らせ。それは『彼ら』――幻想各地に出没した魔物の一部がこちらへ向かってきているというものだった。



 つい先日、ラサを主として商人たちが幻想における奴隷売買を行ったことは記憶に新しい。悪徳商人達、そして彼と手を組んだ貴族たちを抑え込むため、奴隷の救出や商人の捕縛などがローレットへ依頼として出されていた。
 そんな最中だ――これから告げる事柄は極秘事項である。

 その一。王権の象徴となる物品、そのひとつが眠る『古廟スラン・ロウ』の結界に何者かが侵入し、それが奪われた。
 その二。伝説の神鳥が眠る『神翼庭園ウィツィロ』の封印が暴かれた。

 事態はこれだけに留まらない。幻想各地に多くの魔物が出現し始め、古廟スラン・ロウ近くの街が何者かに破壊しつくされたと言う。
 突如として発生した数々の事件。由々しき事態に幻想貴族たちはローレットへ依頼を持ち込んだ――だが、イレギュラーズたちにとっても放っては置けない事態が生じている。
「魔物から領地を守る……ということですね」
「まさか、こちらにも来るとは思わなかったけれど……ローズ・クラウンへ踏み込もうと言うのなら、情け容赦はしないわ」
 『新米情報屋』ユリーカ・ユリカ(p3n000003)はヴァイスから庭園ギルド《ローズ・クラウン》の周囲について情報を得る。そして知らせが来たと言う魔物についても。
「湖の方角からですね。今から行けば丁度はちあわせるでしょうか?」
「ええ、きっと。そこで迎え撃たないといけないわ」
 ヴァイスはユリーカの言葉に頷いた。湖の傍を抜けてしまえばローズ・クラウンはすぐそこだ。多少の損害があったとしてもそこで阻まねばなるまい。
「ヴァイスさんの庭園ギルドは良い匂いがいっぱいなのです。絶対に、魔物なんかいれちゃダメなのです」
 ユリーカはむん、と気合をいれて――彼女が戦いに行く訳ではないけれど――ヴァイスの領地を守ってくれる仲間を探すべく、他の依頼書が貼りつけられたコルクボードへぺたりとそれも掲示したのだった。

GMコメント

●ブレイブメダリオン
 このシナリオ成功時参加者全員にブレイブメダリオンが配られます。
 ゴールド、ミスリル、アダマンタイトとメダルごとにランクがあり、
 それぞれゴールド=1p、ミスリル=2p、アダマンタイト=5pとして扱われブレイブメダリオンランキングにて総ポイント数が掲示されます。
 このメダルはPC間で譲渡可能です。

●成功条件
 魔物の討伐

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。不明点もあります。

●エネミー
・オーガ×10
 3mほどの全長を持つ大柄な男たちです。でっぷりとした体つきで、斧を始めとした鈍器を持っています。
 ヒトの姿をしていますがモンスターであり、知性は非常に低いです。攻撃も酷く単純かつ強力なものとなるでしょう。反してその図体から動き出しはニブそうです。
 攻撃範囲は至近~中距離程度と予想されます。出血系、乱れ系のBSが付与される可能性があります。

・『マグマ起し』ラヴァー
 オーガの1体が突然変異した生物――怪王種です。
 オーガたちより一回り大きく、やはりでっぷりとした体つきの男です。戦斧を所持しています。知性は若干あるようですが、大した会話もできないでしょう。
 その二つ名の通り、何もない場所からマグマを起こします。この攻撃に対する射程距離は不明であり、付随するBSも不明です。
 オーガ同様に攻撃は単純かつ強力なものが多く、動き出しはニブそうに見えます。ただし耐久力はオーガの比ではないでしょう。

●フィールド
 ギルド《ローズ・クラウン》のすぐ近くにある湖のほとりです。
 花なども咲く風光明媚な場所で、皆さんは比較的開けた場所で戦闘することになります。
 この地域の動植物は生命力が強く、ちょっとやそっとでは死に絶えません。戦闘後も暫くすれば戦闘前と変わらぬ景色を見せてくれるようになるでしょう。

●怪王種(アロンゲノム)とは
 進行した滅びのアークによって世界に蔓延った現象のひとつです。
 生物が突然変異的に高い戦闘力や知能を有し、それを周辺固体へ浸食させていきます。
 いわゆる動物版の反転現象といわれ、ローレット・イレギュラーズの宿敵のひとつとなりました。

●ご挨拶
 愁と申します。
 ヴァイスさんの領地が狙われているようです。食い止めねば悲惨なことになるでしょう。
 ご参加をお待ちしております。

  • <ヴァーリの裁決>ローズ・クラウンに迫る完了
  • GM名
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年03月26日 22時10分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ヴァイス・ブルメホフナ・ストランド(p3p000921)
白き寓話
シャルロット・D・アヴァローナ(p3p002897)
Legend of Asgar
ハロルド(p3p004465)
ウィツィロの守護者
Tricky・Stars(p3p004734)
二人一役
天之空・ミーナ(p3p005003)
貴女達の為に
長月・イナリ(p3p008096)
狐です
ラムダ・アイリス(p3p008609)
血風旋華
アスル=トゥルエノ(p3p009254)
蒼雷玉

リプレイ


 春の暖かな風が吹く。花々が咲き乱れる美しい湖のほとりで、『白き寓話』ヴァイス・ブルメホフナ・ストランド(p3p000921)はひとつため息をついた。
(敵性生物が来たことはない、なんて言わないけれど……これほどの戦力は初めてだわ)
 オーガが数体に、怪王種が1体。ローレットの応援が間に合ったのは不幸中の幸いと言うべきか。最もその不幸――領地襲撃事件はヴァイスのそれだけに止まらない。
「領地が襲われるなんて前代未聞……ってわけでもないけど、怪王種の存在と規模が違うわね」
「ええ。あなたも、非常事態に備えておいた方が良いでしょうね」
 ヴァイスの言葉に『オトモダチ』シャルロット・D・アヴァローナ(p3p002897)は頷く。彼女もまた幻想のアーベントロート領一部を預かる身である。ここまでのモンスターハザードとあれば、領地側から音沙汰がなくとも防備を固めておいた方が良さそうだ。
「ウィツィロとハンマーランドの平穏のためだ、俺も手を貸そう」
「助かるわ」
 『聖断刃』ハロルド(p3p004465)はウィツィロの未開発地域の開拓・運営、そしてハンマーランド復興の責任者である。ウィツィロに関係があるのだと聞けば動かずにはいられない。その平穏を守り、更なる発展復興をすることこそが使命なのだから。
 どんな形であれ、助力してくれるのであればヴァイスにとってはありがたい。取り立てて戦闘が得意なわけでもなく、されどこのような暴威を見逃すことはできないのだから。
(責務としても、気分としても、あまり良くはないもの。できる限りを尽くしましょう)
 この一連の事件――イレギュラーズや三大貴族の領地侵略、そしてそれ以前の古廟への侵入などなど――に何者かの思惟を感じている者はちらほら存在する。『蒼雷玉』アスル=トゥルエノ(p3p009254)もその1人だ。
(ですが、今は眼前の脅威の排除を優先します)
「――目標、補足」
 待ち受けるイレギュラーズの遥か前方より大柄な、この場には似つかわしくない巨人たちが姿を現す。それは超視力を持つアスルを始めとして、少しずつ他のイレギュラーズたちにも視認できた。
「イレギュラーズの領地を狙う、か」
 自らもまた巨人たちの姿を視界に入れながら『黒花の希望』天之空・ミーナ(p3p005003)がぼやく。これらの騒動への貢献者へはブレイブメダリオンと呼ばれるアイテムが配布され、それによって勇者総選挙が行われているのは周知の事実である、が。
(それ以前にこんなの、魔種絡みじゃないと考えにくいんだよなぁ……)
 一種のきな臭さを感じながらもミーナは瞑目していた瞳を開く。その辺りは追々だ。今すべきは眼前に現れしオーガ達の排除である。
「荒らされる前に吹っ飛ばしてあげるわよ!」
 この美しい場所を守らんとする『狐です』長月・イナリ(p3p008096)の言葉を皮切りに、イレギュラーズたちはオーガ達へ向かって駆け始めた。




「それなりの礼儀というものがあるだろうに、大勢でぞろぞろと」
『ヴァイス君の……仲間の大事なものに手を出そうってんなら容赦しないぜ!』
 『二人一役』Tricky・Stars(p3p004734)――稔と虚が交互にオーガ達へ対する嫌悪を漏らす。ただ無遠慮に荒らそうという輩に容赦など不要だ。彼らは仲間たちと並行して駆けつつ、ラヴァーを相手取る仲間へ順に聖躰降臨をかけていく。
 しかしてそれをかけられた彼らよりもわずかに早く一手を打ったのはミーナだ。紡がれるディスペアー・ブルーにラヴァーより一回り小さい――とはいっても十分に大きいのだが――オーガ達が巻き込まれる。
(知性が低いって事は、だ。場をかき乱せば同士討ちを始める確率が高いって事だ)
 あの図体だ、繰り出される攻撃もかなり痛いだろう。ならば真正面から殴り合うだけでなく、搦め手も使って被害を減らしていかなければならない。
 その歌に呑まれなかったモノもいるようだが、彼らとて完全無傷とはいかないようだ。
「暑苦しいと言うかむさ苦しいと言うか……恐ろしくこの場に不釣り合いな相手よねぇ」
 より近くまでくればその違和感が浮き彫りになる。『咎人狩り』ラムダ・アイリス(p3p008609)の嘲りに、言葉は理解していないだろうがその雰囲気は察しているのだろう。ミーナのディスペアー・ブルーに呑まれなかったモノたちが怒声を上げてアイリスへと襲い掛かってくる。
 躱し、武器でいなし、或いは受け止め。攻撃の波が止んだ瞬間にアイリスは精神を蝕む攻撃術式を唱えあげる。
「――対群精神感応攻撃術式「狂月」!」
 恍惚に、あるいは狂気に。暗闇に。呑まれてしまえと。
 その遥か後方にてイナリは自らへ疑似的な悪性変質を起こす。さぁ、この一瞬。雷でこんがり焼いてしまいましょう。
 オーガの丸焼きが果たして美味しいのかわからないけれど、それこそ焼いてみればわかること。
「『レア』『ミディアム』『ウェルダン』、好きな焼き方で焼き殺してあげるわぁ!」
 うっそりと嗤うイナリの手が地面につく。再現せしは異界の神。空より降ろすは――無数の雷撃。
 同じように超遠距離より電磁砲を放っていたアスルは体力の減りが激しいオーガへ照準を合わせる。射程に問題はない。暴発のリスクが上がろうと、常に全力で撃ち放つのみだ。
 その一方で、ラヴァーの元へまず駆け付けたのはハロルドであった。闘気より生み出される青の刃がラヴァーへと殺到する。攻撃を受けつつもラヴァーの表情に変化はなく、しかししっかりとハロルドの闘気には当てられたらしい。
「物騒なお客さんね。この先に何か御用かしら?」
 その後方からヴァイスが声をかける。あわよくば対話で引き下がってくれないか、と淡い願いを抱くも、あちらに対話の意思はないらしい。そしてその強さが他のオーガの比でない事をヴァイスはひしひしと感じ取っていた。
 彼女の操る結界術がラヴァーを捉え、業炎の地獄へと敵を誘う。流石に『マグマ起し』の二つ名を持つ怪王種に炎自体はそこまでの威力もなさそうだが、その足はしっかりと鈍っていた。
 ハロルドの眼前で雄叫びを上げ、ラヴァーは戦斧を振り下ろす。以外にも的確なそれはハロルドをしかと捉えていたが――当の彼はニィ、と笑った。
 硬質な音を立ててハロルドへの威力が相殺される。ラヴァーの表情が驚きに、初めて変化を迎えた。
「そう簡単にやられるかよ」
「立ち去ってくれるのなら、私たちも不要な戦いはしないわ。どうかしら?」
 ヴァイスの言葉にラヴァーが立ち去る素振りは尚もない。さらに返答を待つ間もなく、遅れてシャルロットがラヴァーの食い止めに加わった。
「アヴァローナ領領主シャルロット、義によって助太刀するわ」
 速さを捨て、代わりに威力を得たシャルロット。その性質は敵とも近しいものがある故に――その威力が笑えない事もわかるだろう。
 黒の顎がラヴァーを呑み込まんと口を開く。大きく、鋭い牙でその厚い皮膚をも貫かんと言うように。
 そうしてハロルドが敵を引き付け、時に注意が外れながらも高威力のシャルロットという存在によってラヴァーは足止めされる。彼らを回復し、士気を上げるのはTricky・Starsだ。
「もう少し押し込みたいわね」
 ヴァイスは周囲に咲く草花に視線をくれ、その自然からエネルギーを引き出す。溜めて溜めて、一気に放たれた力は暴風となってラヴァーを吹き飛ばした。そこへTricky・Starsも合わせて衝撃の青を放ち、一気に遠方へとラヴァーを押し出していく。これで多少は領地の被害が小さくなるだろうか。
 すぐさまハロルドとシャルロッテがラヴァーを再度足止めするために駆け出していく。その背中を見ながらヴァイスはこの件に関する何度目かのため息をついた。
「私、戦うのは得意ではないの。けれど、この先へ進むと言うならば――」
 真っすぐに、怪王種を睨みつけ。この地の管理者たる人形はその武をふるう。その前方でハロルドは再び闘気を敵へ流し込んだ。
「ははははっ! おら、掛かって来いよ! テメェがウドの大木じゃねえってんならなァ!」
 怪王種故か、他のオーガより多少の知性があるモンスターだ。言葉の意味を何となくでも理解したのだろう。怒りの形相を浮かべると同時、戦斧が赤く変質する。色だけではない。武器の周辺にある空気がまるで蜃気楼のように揺らめいていた。
「グオォォォ!」
 雄叫びを上げながらそれを振り下ろすラヴァー。当たる瞬間、ハロルドの表情がはっと一変する。その体は吹き飛び、受け身をとった彼から赤が流れた。
 すかさずTricky・Starsの回復がその出血を止めて行くが、顔を上げたハロルドは――それはもう、生き生きとした表情で。
「いいじゃねぇか……今みたいにもっとこいよ! おらァ!」
 戦闘狂(バーサーカー)らしい一面と共にハロルドはスーパーノヴァを叩き込む。そこへ追撃しながらもシャルロットはラヴァーを観察した。
(怪王種とは2度目。前のやつは人語を解する程に知能が高まっていたものだけれど……このオーガは正反対ね)
 知力ではなく武力。滅びのアークとは如何様にも生物の力を変異させるのか。それともモンスターが元々持っている素質なのだろうか。警戒を強めながらもシャルロットは剣の柄を握りしめる。
「ハロルドの力の見せどころね。最も、私の剣も決して鈍らではないけれど」
 彼女が扱うは二振りの刀。自らの引き出せる最大限の力で以て、他の誰へも視線を漏らさせまいと攻撃を叩き込む。
 対オーガ側は状態異常を狙いながらも少しずつ数を減らしていた。アイリスは闇の一撃を叩き込みながら瞬く間に離れ、そして次の瞬間に肉薄する。
 味方より多い敵数と慣れぬ土地――だとしても複雑な地形ではないが――を可能な限り頭の中へ叩き込み、体術で攻め立てながら同士討ちしてくれと誘導する。
(とはいっても完全にうまくはいかないか……できればあの攻撃は受けたくないからな~)
 初めに猛攻を受けた際もかなり痛かった。もう受けたくはないものの、自爆を誘発するということは敵を密集させるということで、逆に袋叩きのリスクも負っている。気を抜けばあっという間に転がることだろうとアイリスは気を引き締め直した。
 序盤にありったけの全力を出したイナリは一気に肉薄し、炎を纏いながら連撃を加えていた。的確に入っていく攻撃は止まず、呻き声を上げてオーガの1体が地面へ転がる。
「次はこっちを頼む!」
 そう声を上げたのはミーナだ。観察していればおのずと体力の減っている敵もわかるもの。とにかくこの乱戦を終わらせなければと彼女はより倒しやすい敵へ味方を集めて行く。
 不意に振りかぶられた槌をひらりと躱し。ミーナは口端を上げながら手に虚無の剣を生み出した。
「生憎と、私は距離を選ばないんでな。如何にも勇者っぽいだろう?」
 斬撃。次いで彼方から放たれた一撃がオーガの息の根を止める。それを撃ち放ったアスルはハイペリオンの羽根の力を感じていた。かのオーガ達は神翼庭園ウィツィロ、あるいは古廟スラン・ロウ――そこから現れたモンスターであるらしい。
 アスルは示されたそれを皆へ伝えるべく、声を張り上げた。

「はははっ! いいぜ、もっとだ……!」
 結界を壊されては張り直し、血を流しながらも笑うハロルド。まだ戦い足りないという思いにパンドラが呼応して力を与える。ゆらりと立ち上がったハロルドは自らの速度に任せたスーパーノヴァを叩き込んだ。
 しかしながら、それでも尚立ち上がるラヴァーも中々のものだろう。
「そろそろ倒れてくれると嬉しいのだけれど、どうかしらね」
 自身の可能性を纏うたヴァイスがより強固な結界術を行使する。まだだ、もう一押し足りない。ヴァイスの周囲を突如発生した熱が包み込む。
 そんな時――ヴァイスの後方から黒の影がラヴァーへと飛び込んだ。
「硬いな」
 虚無の剣で切りつけたミーナはその手ごたえに眉を寄せる。Tricky・Starsがクェーサーアナライズでヴァイスたちの治療をする中、オーガを相手していた仲間たちが続々と加勢し始めた。
「結局、観察する暇もなかったのよね」
 アイリスはため息でも吐き出しそうな口調で呟き、ラヴァーへ肉薄していく。これ以上長期戦となればこの場所にとって痛手となるだろう。そろそろ退場してもらおうか。
 続いたイナリもまたラヴァーへと接近していく。先ほどヴァイスの足元へ発生したそれは十中八九ラヴァーのもの。なれば距離を置いて攻撃を回避とはいかないだろう。
 片足を狙うイナリの攻撃にアスルの電磁加速した砲弾が重なる。それに気付いた仲間たちも重点的にそこを狙い、ラヴァーはそれに耐えきれなくなったか片膝をついた。
「ガァァァァァ!!」
 苛立つような声とともにマグマを起こすラヴァー。その熱にシャルロットは興味を持ちながらも剣を構える。
 強くなって熱さを得たか、それとも強さの原動力がその熱さなのか。しかしいずれにせよ、相手にはそれを使いこなすだけの知能がない。
「やっぱり、武器は知能技術と合わさってこそ真価を発揮するものね……紅流!」
 磨き上げられたひとつの紅き流れ。それをこの戦いで幾度も見ただろうラヴァーは、されどそれを避けることもできずに――巨体を沈ませたのだった。



 怪王種が倒れたことに、一同は揃ってほっと息をついた。彼らのいない場は先ほどと打って変わって静かで、平穏だ。……そこに多少の跡が残っていたとしても。
 シャルロットはその痕跡が消えてしまう前にとラヴァーたちが侵入した時についた足跡や遺骸を調べる。植物や砂、本来ここにないはずのものが落ちていたとしたら、それは彼らが運んだものだ。
(怪王種は滅びのアークが高まったことで発生した種……けれど、ここまで一度に怪王種が出るもの?)
 ただアークが高まったから、で納得して良い話なのだろうか。シャルロットはアークを操れる力、或いはその力を持つ者がいるのではないかと疑いを持つ。
 先の海洋、ブルー・タイラントのような七罪絡みでないと良いのだが――いつだってその事態を念頭に置いておいた方が良いだろうか。
 一方、イナリは彼らの痕跡でなく別のものを探していた。きょろきょろと辺りを見渡したイナリは「あった!」と声を弾ませる。
 それは種だ。春の目覚めに少し出遅れて、まだ目を出していないもの。半ば土に埋まったそれをめざとく見つけた彼女は、種へ育てと力を込める。
 彼女のギフトは五穀を実らせ、それ以外も種さえあれば育てられる。みるみるうちに目を出したそれにイナリは自慢げだ。
 ミーナは植物を見て周り、踏まれながらも早速身を起こし始める野花を見る。こうして他の植物も復活し――或いは新しい命として種を落とし――元に戻っていくのだろう。最初に見た景色を思い出してミーナはつと目を細める。
(見事な場所だよな、ここは)
 生気に満ち溢れた場所。だからこそ尚更、それが見る影なくなるほどに暴れられなくて良かったと思う。
 シャルロットと共にラヴァーの体を調べていたアスルだが、変異の切っ掛けを見つけ出せずに瞑目する。
(要因が残留しない……故に、突然変異)
 怪王種は突然変異による産物だ。そう言われても何かと思ったが、やはりそう簡単には見つからないらしい。
 それでも、とアスルは顔を上げ、柔らかな風の吹く遠い景色を見る。
 この景色が無事に済んだこと。これが一番、なのかもしれない。

成否

成功

MVP

ハロルド(p3p004465)
ウィツィロの守護者

状態異常

ハロルド(p3p004465)[重傷]
ウィツィロの守護者

あとがき

 お疲れさまでした、イレギュラーズ。
 皆様によってヴァイスさんの領地は守られました。

 それでは、またのご縁をお待ちしています。

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