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シナリオ詳細

<ヴァーリの裁決>猫の首の皮

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●ねこ畑を襲う悲劇
 幻想・アーベトンロート領内、通称『ねこ畑』。ここでは、猫が畑から採れる。
「にゃー」
「うにゃー」
「ふしゃー」
 ……というのが真実かはさておき、ミミ・エンクィスト(p3p000656)の領地はなべて猫が多く、この地に関しても例外ではなかった。
 かのユリーカランドを擁し、立ち並ぶ住宅と学舎、それぞれの窓からは中央付近に座す城の姿が見て取れようか。
 猫がそのへんを歩き回り、しかしその全てが餓えや乾きを訴えていないと慣れば、人々がどの程度満たされているかなど一目瞭然だ。……然るに、ミミの領主としての統治はひとまずのところ、大きく成功しているということにほかならない。
 そんな領内で、今日も猫達は呑気にその辺を闊歩し、人々と戯れ、その多くを癒やしていた。
 いつもどおりの、平和な日常の一幕……そこに、「奴ら」が現れた。
 ピィー、ヒョロロロロ……と響き渡る鳴き声は誰がどう聞いても鳶(トンビ)のそれだ。
 だが、上空から振ってきたのはそんなものではなかった。否、鳶ではあるのだろう。
 鳶の翼を持ち、人の肉体……一般的にハーピー、またはハルピュイアと呼ばれる類の怪物だ。
 それらは次々と猫を、そして人を掴み上げると高々と飛び上がり、それらを地面目掛けて解き放つ。
 猫はまだ、いいだろう。首根を掴まれても皮が引っかかる程度で傷にもならぬ。落下しようと、よほどの高所でなければ無傷か軽症で済む。……人はどうか。
 そも、首を(衣類ではなく)爪で鷲掴みにされれば無事ではすまない。そして人は、高所から落ちたときに身を守るすべに乏しい。
 必然、『ねこ畑』の一角は凄惨な光景が広がることとなった。
 だが、人々は疑問に思う。今襲われたのは、何れも軍務に就く者、あるいはそうなる予定の……所謂軍事力に分類される者達だ。
「聞け、地上でしか生きる術を持たぬ愚鈍な者共よ! 我ら空の神に選ばれし『新たな空の民』はここに貴様達を粛すことを宣言する!」
 鳶の声ばかりを発するものと思われたそれらの中から、3対6翼、それぞれが別種の鳥の翼を持った鳥人が高らかに叫ぶ。他のハルピュイア達と異なるのは、言語力もだがその体躯。概ねふた回り……それ以上はあろうか? 他の鳶達が彼(男性体とみられる)を守るように飛び回ることから、明らかなリーダー格であることは明らかだ。
「だが、我とて徒に貴様らを殺す気は更々ない! まず貴様等のなかで武に秀でたものを粛す! 仮に貴様等の中で空を舞う力ある民がいれば、見逃すこともあろうがな!」
 しかし、とリーダー格の鳥人はちらりと猫を見て、満足げに鼻を鳴らした。
「我が名はマケマケ! この勇名を恐れぬ者あらば、命を惜しまずかかってくるがいい!」

●空の民を地に堕とす
「……ということがあったと執政官から報告を受けたのですよ!」
 ミミはローレットに飛び込んでくるなり、自身の領地で起きた悲劇を語った。ハーピー達の反応をみるに、猫達は最初の接触以降は無闇に捕まえられることはなくなったという。……翻って、それは兵士達に(散発的ながら)犠牲がでているということの裏返しでもある。
 そして、ケースこそ違えど幻想王国内、こと三大貴族の権力圏にある領地が多く襲われているのだという。
 更に、これは極秘情報となるが……伝説の神鳥が眠る『神翼庭園ウィツィロ』の封印が暴かれたという。
 今回現れたハーピー、そしてマケマケら『新たな空の民』はその影響が強いとみられた。
 マケマケの身体的特徴とその強度を見るに、恐らく『怪王種(アロンゲノム)』化しているとみて間違いない。一般人ではなく兵力を狙い、猫を襲わなくなったのは、マケマケがハーピーを統率しているからと考えれば辻褄も合う。
「マケマケ以外は基本的に接近戦しかしてこないそうですから、一方的に攻撃だけを受けることはないのですよ。ただ、マケマケがいることで非常に統率が取れているから気をつけて……と、言われたのです」
 助けてくれますか? と訴えかける彼女の望みを、誰が断れようか。
 イレギュラーズは、空の民を引きずり下ろすべく行動を開始する。

GMコメント

●達成条件
 『マケマケ』および『ハーピー』の殲滅

●エネミー共通事項
・空の民(P):飛行によるデメリットを被らない。
・空圧適正(P):高所からの攻撃時、最終ダメージに「レンジ×0.2倍」のダメージを加算する。
(例:レンジ4空中からの攻撃はダメージ1.8倍)

●マケマケ
 『新たな空の民』を名乗る鳥人型モンスター。3対6翼を有し、それぞれ別種の鳥の翼です。
 戦闘中の最高到達高度は50m。戦闘力は高水準で、特に命中とEXAが高いです。
・翼の矢(A):物超ラ、【万能】【スプラッシュ】【虚無1】翼を飛ばしてきます。
・音速落下(A):物中域、【飛】【副】【移】【流血】落下地点を中心に旋風を発生させ、吹き飛ばしつつ切り傷を与えます。
・ランディングアタック(鳥人)(A):物超単、CT高め。【失血】【崩れ】【移】足の爪による強烈な一撃です。『ハーピー』が使った場合のデメリットを蒙りません(後述)。
・グロリアスソング(A):神中範、【治癒】【H/A回復(中)】【BS回復(小)】その詩は戦意を鼓舞し、継戦能力を高めます。

●ハーピー×10
 人間の腕に当たる部位を翼として持つ鳥の魔獣です。飛行種と異なり、変化できません。
 戦闘中の最高到達高度は30m。
・ランディングアタック(A):物遠単、CT高め。【出血】【崩れ】【移】足の爪による強烈な一撃です。
 使用後、1ターンの間「抵抗」「回避」が減少します。
・スイングライド(A):物中単、【ブレイク】【移】 【多重影(小)】ランディングアタックの撫で切り型。デメリットがない分威力に劣りますが、鋭い軌道は読みづらいです。
 

●怪王種(アロンゲノム)とは
 進行した滅びのアークによって世界に蔓延った現象のひとつです。
 生物が突然変異的に高い戦闘力や知能を有し、それを周辺固体へ浸食させていきます。
 いわゆる動物版の反転現象といわれ、ローレット・イレギュラーズの宿敵のひとつとなりました。

●ブレイブメダリオン
 このシナリオ成功時参加者全員にブレイブメダリオンが配られます。
 ゴールド、ミスリル、アダマンタイトとメダルごとにランクがあり、
 それぞれゴールド=1p、ミスリル=2p、アダマンタイト=5pとして扱われブレイブメダリオンランキングにて総ポイント数が掲示されます。
 このメダルはPC間で譲渡可能です。

  • <ヴァーリの裁決>猫の首の皮完了
  • GM名ふみの
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年03月23日 22時40分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

オデット・ソレーユ・クリスタリア(p3p000282)
鏡花の矛
サンディ・カルタ(p3p000438)
金庫破り
ミミ・エンクィスト(p3p000656)
もふもふバイト長
善と悪を敷く 天鍵の 女王(p3p000665)
レジーナ・カームバンクル
イーリン・ジョーンズ(p3p000854)
流星の少女
リオーレ(p3p007577)
小さな王子様
冬宮・寒櫻院・睦月(p3p007900)
秋縛
ヲルト・アドバライト(p3p008506)
パーフェクト・オーダー

リプレイ

●空の民は地を値踏みして
「よくもやったな、なんて事しやがるですかー!!」
「ボクは攻げきはできないけど……攻げきがとくいだからって、だれかをきずつけちゃ、だめなんだよ!」
 『もふもふバイト長』ミミ・エンクィスト(p3p000656)と『小さな王子様』リオーレ(p3p007577)は『ねこ畑』に辿り着くなり、空を我が物顔で闊歩するマケマケを指差し、怒りを顕にした。
 事態が起きてから1日挟んでいるため、既に最初の犠牲者に関してはその場に残っては居ないが……それでも、その地から漂う死の気配、犠牲となった人の存在感というものは肌身を通じて伝わるものだ。領主であるミミはその気配に沈痛な面持ちを一瞬浮かべるが、敵意がそれをかき消していく。
「傷付ける? 異なことを。これは『選別』である。我等と同じく空を歩む資格ありし者が貴様らの中にいればよかった、それだけの話。そうでなくとも地に這いつくばって生きる者など見るに堪えぬ」
「新たな空の民、ねぇ。こっちの世界では旅人とはいえ、なんか精霊や妖精を差し置いて言われてるの腹立つんだけど」
「突然やってきて領空権を主張するとは無礼な鳥ですね……」
 『1680万色に輝く』オデット・ソレーユ・クリスタリア(p3p000282)は『妖精』として、空を舞う存在として在る己や飛行種達を差し置いて空を支配するかの如くに振る舞うマケマケの姿に憤りを覚えていた。
 『しろがねのほむら』冬宮・寒櫻院・睦月(p3p007900)は怒りや不快感以前に、鳥の類縁如きが仲間の領地を我が物顔で闊歩していることにこそ不満げであった。何れにせよ、己の価値を過大評価する輩というのはイレギュラーズと頗る相性が悪い。両者の憤りは当然のものといえよう。
「空の神? 選ばれた? ひっでぇ国だよな、幻想もさ。魔物まで貴族意識もってやがんの!」
「空でしかイキる術を持たないくせにな」
「地にしがみついて這いつくばるだけの虫が騒ぎよる。不平不満があるのなら、毒虫らしく角でも見せてみるがいい。我も少しは余興として楽しんでやろうぞ」
 『風の囁き』サンディ・カルタ(p3p000438)と『被吸血鬼』ヲルト・アドバライト(p3p008506)、2人の挑発にマケマケは激昂するでもなく鼻で笑いながら返してみせた。思わぬ反撃を受けた格好だが、さりとて両者ともに気にした様子でもない。どちらにとっても、負け惜しみを叫ぶ子供にしか見えていないのだから。
 だが、ハーピー達はそうでもないらしい。言葉を解せずとも、己が心棒する相手が愚弄されたのを肌で感じ取ったのだろう。いまにも飛びかからんと騒ぎ出した。
「鎮まらんか、童共。我の前に立ち、我等の所業を知り、なお牙を剥くほどの無法者、この後そうは見られんぞ。恐れず歯向かう貴様等を、我が心に留め置いてやろう」
「汝勇を示し、英雄たらん。我業を示し、悪逆たらん。
 此の身は大罪女王、汝が不倶戴天の敵である。
 我(わたし)はレジーナ・カームバンクル
 善と悪を敷く天鍵の女王……この悪名を恐れぬのならかかって来なさい」
 『レジーナ・カームバンクル』善と悪を敷く 天鍵の 女王(p3p000665)の堂々たる名乗りに、マケマケは小さく眉を寄せる。こういうとき、人間というやつはやれ正義の味方だ、弱者を守るだと通り一遍の言葉に酔うものだ。それを『悪逆たらん』とは。英雄たる己への意趣返しか?
「英雄はなぜ英雄と呼ばれるか知ってる?」
 『天才になれなかった女』イーリン・ジョーンズ(p3p000854)はマケマケに対し、出し抜けにそう問いかけた。顎をしゃくって先を促した彼に、イーリンは「悲劇的な結末を迎えるからよ」、と続けた。建物の屋根に陣取った彼女は、如何にも不安定そうに見える。自分達に近付こうと足掻いた結果と見れば、哀れみすら覚える模倣だ、と。
「さあ、貴方の英雄譚(ひげき)を聴かせて頂戴」
「そうなのです、これ以上当領での乱暴狼藉は許さねーですよ、鳥公! ミミ達……当領領主とイレギュラーズが、お前を成敗してやるです!」
「ハハハハハ、よく吠えた! であれば我が従僕に食い散らされて無様に果てるがいい!」
 マケマケの合図にあわせ、漸くと言った様子でハーピー達が降下態勢に入る。天から降る悪意は、地上の星を啄むべく翼を打った。

●翼人は地上を嘲り
「さぁさ、砂嵐を巻き起こすわよ。もう飛べないようにしてあげるわ!」
 地上へと質量弾の如くに降り注ぐハーピーの群れは、しかし唐突に眼前に迫った砂嵐をまともに受け止めた。オデットの憎まれ口のおまけつきで、だ。
「地上目掛けて襲ってきた割には、随分とのんびり屋なのね? 待ちきれないから来てあげたわよ」
 他方、砂嵐に巻き込まれない位置にいた数体は、横合いから突進するように飛び込んできたイーリンの強烈な一撃を受け、テンポを乱される。
 上と下、その程度の概念しかないから、屋根を蹴って相手が『飛んだ』事実を理解できなかったのだ。
「痛ってぇ……傷つけたのはそっちだぜ、後悔すんなよ?」
 ヲルトは落下にあわせた流し斬りを敢えて受け、反撃とばかりにその血をハーピーへとむけた。知らず、意識を操られたその個体はヲルトへ強力な感情を顕にし、勢いよく飛びかかる。……彼にとって想定外があるとすれば、感情など関係なしにあと数体が己へと向かってくる現実か。
「まずはあなた達の動きを鈍らせます。猫さんを怖がらせた恨み、ここで晴らして差し上げましょう」
「……嬉しいけど、ちょっと怖いのですよ」
 睦月は当たるを幸いに神気閃光を放っていく。次々とその光によって動きを鈍らせた個体と、睦月自身の恨み節。そのどちらもが「ちょっと怖い」と、ミミは思ってしまった。
 そうは言っても相手が相手だ。既に命尽きた兵士や、無事で済まなかった猫を思えば彼女とて平常心ではいられまい。
(これ以上は、もう誰も倒れさせんですよ!)
「ヲルトお兄ちゃんはボクがなおすし、ほかの人たちだってミミお姉ちゃんがなおしてくれる……だからだいじょうぶ!」
 ミミは、そしてリオーレは癒やし手として全霊を尽くす構えでいた。
 すでに失った命、そして今まさに戦闘の中で消費されるイレギュラーズの命。その何れもが、ミミにとっては最重要。
 リオーレは、サンディとヲルトが敵をひきつけてくれるから安全に戦えているという自覚がある。だからこそ、仲間が最高のパフォーマンスを発揮できるよう尽力すべきだと思っているハズだ。
「啄まれて死ぬだけの哀れな者共にしては、少しは楽しませてくれるようだ……なれば、我も弄れねばな」
 声は、上空から振り下ろされる。
 マケマケの翼が振るわれたかとおもえば、恐るべき落下速度で地上へと到達し、周囲に風を巻き起こす。再び飛び上がると、それは翼を撒き散らした。
「少し高いところで遊戯に興じた程度で我等と同格などとは思うまいな? 空の民は、自由であればこそなのだ」
「何が空の民だ……アンタは大したモンだろうが、空ってのは誰のもんでもねー、『風』の領域だぜっ!!」
 サンディは降り注ぐ羽根を掻い潜り、ハーピー達へと次々と石を投げつけていく。
 いかにも遊戯然としたそれはしかし、挑発としても目を引く手段としても優秀であったらしく、瞬く間にその群れの一端を引き受けた。そしてそれは、布石だ。
「心技、無欠にして磐石……この円に入る者その悉くを鏖殺しましょう。
 畏れなさい、祈りなさい、そして願いなさい」
 破壊神のカードを手に、レジーナはその群れへと飛び込み、圧倒的な破壊力を手に暴れまわる。
 ハーピー達はサンディを、レジーナはハーピー達を、そしてサンディはそれらを誘導するように駆け回る。
 ……ヲルトといいサンディといい、相手の扱いをよく心得ているではないか。
 空を我が領域とする者達が、しかし地上で追いかけっこをさせられる。児戯の如き行いは、しかし相手の持つ猛禽の爪を思えば決死行にも似たそれだ。
 その合間を縫って、オデットの砂嵐が、イーリンの放つ紫耀が、そしてマケマケの翼と睦月の放つ光がぶつかりあう。
 空に地に、戦いは広く乱れていく。……それは、空の民らしからぬ争いではあったのだろう。
 だがきっと、ハーピー達は「そう」であることすら気づけぬままだ。

●誰が為の英雄譚
「さあどうしたの英雄様! 女が全員死ぬまで高みの見物をするつもり?」
「まさかここまで来て尻尾巻いて逃げるなんて言い出さねぇよなあ?」
 マケマケは、イーリンとサンディの挑発に対し、怒り心頭に発していた。娘……とは言わずとも、それなりに愛着のある者達だ。同じく封じられてきた同胞(はらから)だ。
 自分ほどの力は持ち得ずとも、同類として捨て置けるわけがない。
 だが、だからこそ打ち振るった翼でイレギュラーズを狙い、地に縫い付けるべく腐心した。ハーピー達の動きに合わせ、狙い定まらずとも十分な痛撃を与えられるよう立ち回った。彼は狡猾であるがゆえに過ちを犯していない。
「皆もっと頑張れー、なのですよ! この程度の敵、やってやれなのです!」
「優秀な仲間がじきにお前等の英雄様を倒してくれる。だから少し暗い、遊んでやるよ」
「ヲルトお兄ちゃん、まだギリギリをたもてる!?」
 ミミの声援を背に、ヲルトはハーピー2体を向こうに回して身構える。既にそれなり以上の傷を受けているが、彼は多少傷が重なってからが本番だ。リオーレは癒し手としてその有様を見ることに引け目を覚えながらも、彼の決意と本意気を邪魔せぬように問いかける。返答は、問題ないという頷きだ。
「もうそろそろ耐えられなくなってきたでしょう? 砂嵐に飲まれて落ちちゃいなさい!」
「毒で治癒すらままならなくなりましたね……あなた達が味あわせた恐怖の味、自身で受けてどうですか?」
 オデットの放つ砂嵐はハーピー達を巻き込んで荒れ狂う。地上に縫い付けられたハーピー達は堪らず上空へ逃れようと動くが、中途半端に上空へ逃げたとて睦月の与えた毒はマケマケの唄を拒み、じりじりと死へのカウントを進めていく。それどころか、彼等が精一杯空に逃れたところでオデットの砂嵐も、ましてイーリンの眼光からも逃れ得ぬ。ハーピー達はその攻撃の特性から、飛び回り続けねばならず、そして遠間からの攻撃に頗る弱かった。
 空を往く同胞が地上の獣に負ける道理はない。マケマケは、ゆえに最初の一手を除き地上に降りるということをしなかった。神威は見せぬことに意味がある。空の民は空に在りて意味がある。
 であれば、地上で散っていくだけのハーピー達は……果たして空の民たりうるのか?
「……愚かしくも愛おしい同胞よ、最早、貴様等にくれてやる情も、見せてやる余裕もありはせぬ。我は今より、英雄などとは言えぬ」
 朗々と響いたその声とともに、マケマケの3対の翼が打ち振るわれる。それは羽根を撃つ前兆ではなく、高らかな天より舞い降りる予兆――降下点はオデットの真横。放たれた砂嵐をかき消すがごとく暴風で彼女を含むイレギュラーズを、手負いのハーピー諸共吹き飛ばした。
「おい……」
 ヲルトが声を吐き出す間もなく、マケマケは地上スレスレで再び翼を打ち、音速で正面へ向けて『落下』する。
 地上を嫌った空の民は、今ここで地上を蹂躙すべく翼を広げたということか。
「ちょっと……ミミ!?」
「平気なのですよ。だから、早くあの不届き者を倒すのです」
 1度目の衝撃波で吹き飛ばされたオデットは、しかし2度目を受けることはなかった。彼女の被害を肩代わりする形で、ミミが瓦礫に背中を叩きつけられていたからだ。
 地面から体を引き剥がしたミミは、度重なる負傷をおして踏ん張ると、アクアウィタエを嚥下する。それが必要なほどに、追い詰められている現状……マケマケの一瞬の翼の躍動「だけ」ではそうもなるまい。
「汝(あなた)、自分の部下を殺してまで勝ち誇るつもり? 本当に救えないのね」
「飛べるだけでいい気になって、仲間を信じる心もないのかよ? 選民思想極まれリだな」
「……好きに囀るがいい。だが我が同胞に、そして我を地上に張り付けた無粋は生かしておけぬぞ」
 レジーナとサンディ、2人の強烈な挑発行為に対し、マケマケは抗えなかった。否、もとより抗うつもりがなかったのだろうか? 翼を小刻みに震わせ、地上を揺らぐ姿に先程の居丈高な雰囲気は微塵もない。
 地上へと風を吹かせ、石畳を、人々を巻き上げる。まさしくその暴威は嵐のそれではないか。……やはり、というか。それはサンディにとっての宿敵であったのだ。
「あなたの術理は封じました。これ以上、飛び回って暴れることは許しませんよ」
「そうか? ……そうか、それは誠に好都合だな。殺す相手を選ぶ自由が我にはある」
 睦月の放った封印術式は、不意の彼に覿面に作用した。翼の動きが僅かに鈍ったのを感じ取り、マケマケはしかし笑みをこぼす。いまから怒りを覚えた相手を屠るのに、小細工など……そんな顔だ。
「あ、そう。殺す自由があっても、殺される自覚はなかったのね?」
「強い奴ってのはいつもそうだ。最後までその足音には気付かない」
 咆哮とともにサンディへととびかかったマケマケの背後から、呆れたような声とともに紫耀が突き刺さる。前後して、その耳朶を打つのは亡者の行進そのものを体現した足音。逃げられないという直感、避けられなかったという実感、そして耐え難い苦痛の気配。
 しかしそれでもマケマケの翼の音は止まない。鉤爪を以て暴れ、暴風を伴って薙ぎ倒し、狂気を手にイレギュラーズを蹂躙せんと吼える。
 だがそれにも限度はある。限界は来る。背後から、ひたひたと、死の気配とともに。
「――緋璃宝劔天!!」
 不意の一撃。
 レジーナの放った魔術と格闘の混合技は、初見ならずとも怒りに濁った視野には見えず。
 そして、それが空の民を僭称した者を落とした一撃へと繋がった。

「うちの猫と比べて丸々可愛らしいこと……」
「うちの自慢の猫達なのです。思う存分もふもふしていいのですよ」
 イーリンは、戦いの終わった自分達へ歩み寄る猫を見ながら息を吐く。自分のところの猫にこの可愛げが少しでも備わっていれば、と思わずにはいられない。
「そういえば、猫が畑で採れるというのは……」
「秘密なのですよ?」
 矢も盾もたまらずと言った様子で問いかけた睦月に、ミミは口元に指を当ててそう告げた。ひどく残念そうな睦月は、いつかその謎が解き明かされれば……などと考えるのだった。

成否

成功

MVP

サンディ・カルタ(p3p000438)
金庫破り

状態異常

オデット・ソレーユ・クリスタリア(p3p000282)[重傷]
鏡花の矛

あとがき

 お疲れ様でした。
 敵の特性や性格をうまく利用した戦闘だったと思います。
 辺に居丈高だったのが引き算になってしまっているのが、まったく惜しい敵でした。

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