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シナリオ詳細

<ヴァーリの裁決>二つの黒を纏いし亡霊騎士

完了

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●亡霊騎士はただ進む
 暗雲は空を閉ざし、恵みの陽光は阻まれていた。分厚い灰色の雲の下を、百近い数の騎士の一団がガシャリ、ガシャリと金属音を立てながら真っ直ぐに進んでいく。騎士達の纏う全身鎧は黒いのであるが、よくよく目を凝らして見たならばその黒は同一のものではなく、二つの黒であることがわかるだろう。
 一つは、元来の鎧の色であろう漆黒。そしてもう一つは、殺戮の返り血がこびり付いたわずかに赤の混じった黒。
 さらにこの騎士達の不気味なところは、その行軍が一糸乱れぬと言うことだ。それも、統率が取れているなどと言うレベルではない。ただ機械のように、一切の生気を感じさせることなく騎士達は歩を進める。さもあろう、全身鎧に包まれて外からはわからないが、その中身はスケルトンやゾンビ、ゴースト、ワイトなどのアンデッドなのだから。そう、この騎士達は亡霊騎士なのであった。
 亡霊騎士達は、これまでに遭遇した生者をことごとく鏖殺してきた。それだけでは飽き足らず、さらに生者を死の底に叩き落とすべく街道を進む。街道は、亘理 義弘(p3p000398)の治める領地へと伸びていた――。

●執政官の対処
 各国からイレギュラーズに与えられた領地には、執政官と呼ばれる者が置かれている。それは、義弘の領地においても例外ではなかった。執政官は、依頼などによって領土を離れることの多いイレギュラーズに変わって、実質的に領地の管理を担っている。
 道々で殺戮を繰り返してきた亡霊騎士達が自領に接近しているという報を受けた執政官は、驚きながらもすぐに指示を下した。
「急ぎ、領主様に戻って下さるよう連絡を! それと、ローレットに救援の依頼を出して下さい!
 それと、動かせる兵士を出来るだけ集めて下さい!」
 執政官は領地の民衆に状況を説明し、万一の際には速やかに避難できるよう準備を促すため、執務室を出ていった。義弘の帰還とイレギュラーズの到着が間に合うことを祈りながら。

●開戦直前
 夜の闇が辺りを覆い尽くした頃、亡霊騎士達は義弘の領地までもう少しという所にまで到っていた。
「俺の領地に手を出そうとは、ふてえ奴らだ」
 近くまで迫ってきた騎士達の足音を耳にした義弘が、拳を組んで骨をゴキゴキと鳴らす。ここまで手をかけて育ててきた領地を、そこに住む領民達を、亡霊騎士などと言う連中に無茶苦茶にされるわけにはいかない。
「――奴らは、何としてもここで止める! すまないがおまえさん達、俺に力を貸してくれ!」
 義弘は決意を込めて言い放つと、後ろを振り返り協力を乞うた。義弘の視界には依頼を受け駆けつけてきたイレギュラーズ達と、執政官に集められた兵士達がいる。彼らとても、思いは義弘と同じである。
「おおっ!」
 皆、武器を高く掲げ、気勢を上げた。

GMコメント

●ブレイブメダリオン
 このシナリオ成功時参加者全員にブレイブメダリオンが配られます。
 ゴールド、ミスリル、アダマンタイトとメダルごとにランクがあり、
 それぞれゴールド=1p、ミスリル=2p、アダマンタイト=5pとして扱われブレイブメダリオンランキングにて総ポイント数が掲示されます。
 このメダルはPC間で譲渡可能です。

 こんにちは、緑城雄山です。今回は、<ヴァーリの裁決>のうちの一本をお送りします。
 生者を鏖殺せんとする亡霊騎士を迎え撃ち、義弘さんの領地と領民を守って下さい。

●成功条件
 亡霊騎士の全滅

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

●ロケーション
 街道の敷かれている平地です。背の低い草が生えていますが、これによる戦闘へのペナルティーは発生しません。
 時間は夜であり、しかも亡霊騎士の鎧は黒いため、亡霊騎士に遠距離以遠の攻撃を行う際は命中に、また亡霊騎士からの遠距離以遠の攻撃を回避する際には回避に、それぞれペナルティーを受けます。これは、暗視と超視力でそれぞれ軽減することができ、両方揃っていれば完全に無効化出来ます。
 亡霊騎士達との距離がどの程度になった時点で攻撃を開始するかは、イレギュラーズ達が自由に選択出来ます。亡霊騎士達は超遠距離の射程内に敵が入ってこない限り、攻撃はせず毎ターン20メートルずつ距離を詰めてきます(これは、亡霊騎士の機動力が2と言うことではありません。仮にイレギュラーズ達が逃げようとすれば、本来の機動力で全力で追いかけてきます)。
 なお、亡霊騎士達は互いに間隔を取った横陣を組んでいます。

●亡霊騎士 ✕約80
 生者をことごとく殺めんとする、アンデッドの騎士達です。
 全体的な特徴として、攻撃力、生命力、防御技術が高い一方で、回避、反応については極めて低くなっています
 特殊抵抗は高くはありませんが、【火炎】系、【凍結】系、【乱れ】系、【足止め】系、【不吉】系以外のBSは無効となります。
 また、神気閃光やアンデッドに対しては【不殺】とならないスキル、他フレーバー含めて聖なる属性を持つと判断される攻撃は、亡霊騎士達には【防無】扱いとなった上で、追加ダメージを与えます。加えて、大天使の祝福のような聖なる属性を持つと判断される回復スキルは、亡霊騎士達には攻撃として作用し、やはり【防無】扱いとなった上で、追加ダメージを与えます。

・亡霊騎士(スケルトン、ゾンビ)
 亡霊騎士の大半を占めます。武装は槍とクロスボウです。

・亡霊騎士(ゴースト)
 亡霊騎士の中では少数です。武装はスケルトンと同じです。
 ただ、実体がないため物理攻撃は最終ダメージが半減されます。
 攻撃力、生命力、防御技術はスケルトンより低いですが、以下の魔法を使ってきます。
 ダークネス 神中単 【暗闇】
 ヴォイド  神中単 【弱点】

・亡霊騎士(レイス)
 ゴーストよりもさらに少数です。武装はワンドとなっています。位置は基本的に横陣の最後列です。
 こちらも実体がないため物理攻撃は最終ダメージが半減されます。
 防御技術はゴーストよりさらに低いですが、以下の魔法をはじめ様々な攻撃魔法を使ってきます。
 攻撃魔法には大体【災厄】【必殺】が乗っていると考えるべきでしょう。特殊抵抗は極めて高くなっています。
 ディスペル 神/至~超/範 【ブレイク】 距離を使い分けて撃ってきます。
 アースシールド 神自単 【副】【自付】 土塊の盾で、HPと防御技術、特殊抵抗を増やします。

●兵士 ✕50
 執政官がかき集めた兵士です。そこらの並の兵士よりは多少強いですが、一国の騎士レベルとまではいきません。
 亡霊騎士(スケルトン、ゾンビ)と1:1でやりあったならば、しばらく持ち堪えることが可能です。
 白兵戦、遠距離戦闘、どちらもこなすことが可能であり、何を装備させて如何配置して戦わせるかは義弘さん、あるいは義弘さんに任された方がプレイングで指示を出せます。

 それでは、皆さんのご参加をお待ちしております。

  • <ヴァーリの裁決>二つの黒を纏いし亡霊騎士Lv:15以上完了
  • GM名緑城雄山
  • 種別通常
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2021年03月24日 22時05分
  • 参加人数10/10人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(10人)

ヘイゼル・ゴルトブーツ(p3p000149)
旅人自称者
ラダ・ジグリ(p3p000271)
灼けつく太陽
ココロ=Bliss=Solitude(p3p000323)
華蓮の大好きな人
亘理 義弘(p3p000398)
侠骨の拳
サンディ・カルタ(p3p000438)
金庫破り
ユゥリアリア=アミザラッド=メリルナート(p3p006108)
氷雪の歌姫
アリア・テリア(p3p007129)
いにしえと今の紡ぎ手
レイリー=シュタイン(p3p007270)
ヴァイス☆ドラッヘ
ロロン・ラプス(p3p007992)
見守る
天目 錬(p3p008364)
陰陽鍛冶師

リプレイ

●戦端開かれる前
「さて、今回の仕事は……」
 ゆっくりと迫ってくる亡霊騎士達を前にして、『仁義桜紋』亘理 義弘(p3p000398)は口癖のように言いかけてから、途中で止めた。
「……いや、仕事じゃねえな。領土と領土に住む人達を守る為の、俺自身の戦いだ。
 気合だけじゃねえ。魂、身体の全てを賭けて、勝利を勝ち取らなけりゃならねえ!」
 胸の前で、掌に拳をパン! と叩き付けながら、義弘は全身に気力を漲らせた。
「亡霊騎士の集団か……まさか自然発生したアンデッドの群れってだけじゃないだろうな」
「アンデッドが群れるのはともかく、指揮もなく進軍してくるとはどういうことだろうね?」
「単なる魔物の襲撃……にしましては規模が大きいですね」
 味方の最前線にバリケードを構築しながら、『魔剣鍛冶師』天目 錬(p3p008364)は首を捻る。錬の構築するバリケードは腰の上までの高さがあり、さらにそれが茨で覆われている強固なものだ。
 『無垢なるプリエール』ロロン・ラプス(p3p007992)と『旅人自称者』ヘイゼル・ゴルトブーツ(p3p000149)も、亡霊騎士達の様子に常ならぬものを感じている。それも無理からぬ事で、百近いアンデッドが一斉に襲撃してくることも、それだけのアンデッドが死霊術士などの使役者の存在も無しに進軍してくることも、常ではあり得ないことだった。
「……幻想中で起きている魔物の襲撃事件、さて何処が手を引いているのか」
「確かに、此処だけではなく各地で襲撃となれば、キナ臭いことになりそうなのです。
 ですが、先の事を考えますのは此処を凌ぎきってからなのですよ」
「そうだね。考察するのはこの場を凌いでからにしようか。
 生きていようと死んでいようと、そこに在るなら飲み干すのみだよ」
 錬の言うように、魔物の襲撃は義弘の領地だけでなく、幻想の各地で発生している。ヘイゼルもこの襲撃は、何らかの騒乱の予兆だとは見ていた。だが、それらに対処するにしてもまずはこの場をどうにかしなくてはならない。ロロンもヘイゼルの言に同意を示し、亡霊騎士達をそのスライムの身体に取り込んで同化してやろうと意気込んだ。
「……死霊操術、ですかしらー? お父さまの使われるそれとは違って、不気味な感じがいたしますわねー」
 百近いのアンデッドが一斉に進軍する要因として、『氷雪の歌姫』ユゥリアリア=アミザラッド=メリルナート(p3p006108)は父親が使う術を想起した。だが、亡霊騎士達の醸し出す雰囲気は術によって使役されるものとは違っていた。まるで亡霊騎士達が意志を持って進軍しているかのように、ユゥリアリアには感じられた。
「なんだかなぁ……まぁ、そんなもんか」
 普段の依頼ではまず見かけない多数によるアンデッドの襲撃、そして、幻想の各地を襲撃する魔物達に、『風の囁き』サンディ・カルタ(p3p000438)は不思議なことも起こるものだと思い、何とも言えないような顔をする。だが、こう言うこともあるものかと、サンディは目の前の事態を受入れて戦いに意識を集中した。
「死者は穏やかに眠るべきだと思うし、こんな形で人に害をなすのは許せないわ」
「そうだよね、義弘君が手塩にかけた領地を蹂躙するのは、許せないよ! 死霊だかなんだか知らないけど、相手してあげる!」
 この領地の執政官達の集めた兵士達が、戦いを前に緊張しながらも気合いを入れていく。その姿を目にした『ヴァイスドラッヘ』レイリー=シュタイン(p3p007270)は、自らも気合いを入れつつ静かにつぶやいた。『希望の紡ぎ手』アリア・テリア(p3p007129)もレイリーに意気投合して頷くと、後ろを振り向いて義弘の領地の方をじっと見つめて、亡霊騎士達への戦意を高めていった。
(敵はたくさん……でも、味方もたくさん。誰も彼も一つの命、見捨てはしません!
 勝っていきましょう! ここを突破されれば他の場所が危機に陥るのだから)
 『医術士』ココロ=Bliss=Solitude(p3p000323)は、亡霊騎士達を、そして味方の兵士達をぐるりと見渡して、その数の多さを改めて感じる。だが、ココロは兵士達の誰一人として死なせることなく、亡霊騎士達の襲撃をここで止めると心の中で固く誓った。
(亘理の領地が危ないとなれば、気合いを入れないわけにはいかないな)
 義弘とは身内同然の付き合いをしている身として、義弘の領地の危機と聞けば『剣砕きの』ラダ・ジグリ(p3p000271)は動かずにはいられなかった。そうして駆けつけたラダは義弘から兵士達の指揮を任され、後方から兵士達にこれからの戦闘に際する指示を、再確認すべく出していた。
 なお、五十名の兵士達はラダの判断により、白兵戦装備の前衛三十五、射撃戦装備の後衛十五に分けられ、前衛のうち三名は松明を持ち戦場を照らす役割を担った。

●攻勢阻むバリケード
「仕掛けるぞ! たーまやーっ、と!」
 亡霊騎士達がバリケードの四十メートルほど先まで来た所で、まず錬が動いた。
 式符から創り出された炎の大砲が、亡霊騎士達の最前線目掛けて火の弾を撃ち出す。 火の弾は最前列にいる亡霊騎士の頭上で弾け、色とりどりの炎で亡霊騎士の数体を包んでいく。
「これから、亡霊騎士が迫ってきますー。ですが、この後ろには皆様の家族や御友人など、大事な人達がいるはずですわー。
 亡霊騎士の魔の手からその人達の安寧を守れるのは、今ここにいる皆様をおいて他にはいないのですわー!」
「おおーっ!」
 錬が亡霊騎士に仕掛けると、ユゥリアリアはすぐさま『氷水晶の戦旗』を大地に立てながら、兵士達の戦意を鼓舞するべく檄を飛ばした。ユゥリアリアの檄は兵士達の心を見事に掴み、元よりラダの指揮によって高まっていた兵士達の戦意をさらに高めていく。
 一方、錬に火の弾を撃ち込まれた亡霊騎士達は、それまでの遅い歩みが嘘のように速度を上げてイレギュラーズや兵士達の方へと殺到する。が、その進撃は錬の用意したバリケードによって阻まれた。中がスケルトン、ゾンビの亡霊騎士は仕方なくバリケード越しに兵士達を攻撃したり、山なりに弓を撃ったりする。中がゴーストの亡霊騎士は、虚無や暗闇の魔法を放った。そしてレイスの亡霊騎士は自身の前に盾たる土塊の壁を創り出す。
 だが、スケルトンやゾンビの槍も、ゴーストの魔法も、前衛の兵士達のいくらかを傷つけはしたもののバリケードを盾にされて、十分と言える戦果を挙げることは出来なかった。中列から放たれた矢も、後衛の兵士達の何人かに傷を負わせたのみで終わる。
「熱砂の精よ。砂嵐を起こし、敵陣を乱せ」
 亡霊騎士達が進んできたタイミングを見計らって、ヘイゼルは熱砂の精に命じ、渦巻く砂嵐を巻き起こす。砂嵐は亡霊騎士達に猛烈な勢いで無数の砂を叩き付け、その動きを鈍らせた。
「大丈夫か!? 無理はするな!」
「この程度……まだ行けます!」
 ラダは矢を受けた兵士達の傷を確認するが、幸いなことに深手と言える傷を受けた者はいなかった。その結果に安心すると、鋼の雨を降らせて、亡霊騎士達を貫いていく。
(ユゥリアリアとラダのおかげで、俺は目の前の敵に集中出来る。ならば、それに応えなくてはな)
 「他人を指揮するなんて器用な真似は出来ねえ」と自認する義弘にとって、兵士達の指揮を任せておける二人の存在はありがたいものだった。義弘にとってその二人に報いるために為すべき事は一つ。先頭に立って戦い、士気を上げることだ。
「無事に終わったら皆で宴会だ! この戦い、勝つぞ!」
「うおおおおっ!」
 バリケードを越えて敵中に突入した義弘は、小規模な嵐と化して、亡霊騎士達に幾度も拳を叩き付けていく。領主自らが最前に出て武勇を示す姿に、兵士達の士気は最高潮に至った。
「生者が手塩にかけて育てたものを、死者が破壊していい道理はないよ! さっさと、二度目の永眠をしてきなさい!」
 アリアは自らの身体に不敗の英霊の闘志を宿して鎧とすると、土塊の盾を展開したレイスの亡霊騎士の一体に向けて、悪しき神々の怨嗟の込められた歌を歌う。その歌は、土塊の盾など意味がないと知らしめるかのように、レイスの亡霊騎士を蝕んだ。
「私の名はヴァイスドラッヘ! 民を滅ぼす者共を討ちにきた!」
「援護するよ! 聖なる破邪の光よ――!」
 レイリーは愛馬『ムーンリットナイト』を駆り、バリケードを飛び越えさせると、義弘の側まで進ませた。そして、高らかに名乗りを上げると、義弘を庇う盾となった。ヴァイスドラッヘがある限り、この戦いの大将である義弘を倒させたりはしない。
 そのレイリーを、そして義弘を援護するべく、ココロは愛馬『赫塊』にバリケードの直前まで進ませると、邪悪を灼く神聖なる光を発して義弘達の周囲の亡霊騎士達を照らしていった。神聖なる光は鎧など存在しないかのように、その中身を灼き、浄化していく。ガランガランと、中身を喪った騎士鎧が、その場に転げ落ちていった。
「これだけいれば飲み込み放題だからね。最初から全力で行くよ!」
 ロロンは減った気力は亡霊騎士を取り込んで回復すればいいとばかりに、最初から大技を繰り出した。後列にいるレイスの亡霊騎士を狙い、全身の魔力を極限まで凝縮して収束した魔弾を放ったのだ。アリアの発した怨嗟の歌に蝕まれていたレイスの亡霊騎士と、その射線上にいた亡霊騎士三体が、魔弾に貫かれてことごとく崩れ落ちていった。
「ゴーストはそこか! 霊体だろうと、こいつで撃ち抜いてやる!」
 殺人剣の極意を瞬時その身に宿したサンディは、弓を強く引き絞り、虚無の魔法を放ったゴーストの亡霊騎士目掛けて矢を放つ。「天さえ穿つ」と言われた弓から放たれた矢がゴーストの亡霊騎士に直撃しその鎧を貫通すると、中身のない騎士鎧が虚しく地面に落ちた。
「前衛はバリケードから出ずに、目の前の敵を攻撃! 三~四人で一体に当たれ!
 後衛は射線が見いだせる者は、誤射に注意しつつ前衛に接している敵に援護射撃!
 そうでない者は味方の頭越しに、敵中列を狙うんだ!」
 ラダの指揮に、兵士達が攻勢に出る。その指示どおり、前衛は数人がかりでバリケードの前の亡霊騎士を攻撃し、後衛は前衛への援護射撃か中列への射撃を行った。これで倒れた亡霊騎士こそいないものの、ラダの鋼の雨を受けてかつ兵士達に攻撃された亡霊騎士は、明らかにその動きを鈍らせていた。

●レイスの亡霊騎士、全て消ゆ
 数では勝る亡霊騎士達だったが、イレギュラーズと兵士達の奮闘により、徐々にその数を減らしていった。バリケードに守られた兵士達は何人かが傷こそ負っていくものの、ユゥリアリアによる天使の救済の如き歌によってすぐさま癒やされたこともあり、深手に至ることはなかった。それどころか、その歌は亡霊騎士の中のスケルトンやゾンビを浄化することで、負の生命力とでも言うべきものを徐々に削り取った。
 レイス、ゴーストの亡霊騎士は、バリケードに守られた兵士達への攻撃があまり通じていないとみるや、その前に出ている義弘とレイリーを狙い集中攻撃を仕掛けた。爆炎が、轟雷が、吹雪が、暗闇が、虚無が、二人を襲う。
 それらの魔法は義弘の盾となっているレイリーに集中することになり、ヘイゼルの調和の力による癒やしとココロによる魔法式医術、ロロンが創った調和の力による癒やしの水、さらに自身の不死性による回復を以てしても、可能性の力を費やす寸前まで追い込んだ。
「まだまだ……私がいる限り、仲間は倒させないわ」
 それでも、レイリーはなお仲間の盾たらんとする。
 無論、イレギュラーズ達とて二人への攻撃を延々と許しはしない。特に威力の高い様々な魔法を放つレイスの亡霊騎士は、イレギュラーズ達に最優先で狙われた。錬が式符で生成した無数の木槍で土塊の盾を破壊すると、レイスの亡霊騎士の側まで接近した義弘が気を込めた掌打を叩き付ける。さらにそこにバリケードのすぐ後ろまで前進したラダによる魔力の砲弾や、アリアの発する怨嗟の歌、サンディの弓から放たれた矢によって、レイスの亡霊騎士達は徐々に消滅していった。

 やがて、残るレイスの亡霊騎士は二体にまで減少する。まだゴーストの亡霊騎士は残っているが、レイリーを襲う魔法の圧は大きく減っていた。
「レイスさえ全て倒してしまえば、あとはしのぎきれるはずです」
「レイリーさんも、義弘さんも、倒させはしません」
「キミが倒れると皆が危なくなるからね。もう少しだけ、耐えきってよ」
「ありがとう! 皆が支えてくれる限り、怨霊如きに倒されたりはしないわ!」
 ヘイゼルが調和の力で、ココロが魔法式医術で、ロロンが調和の力で創り出した癒やしの水によって、今にも倒れそうなほどに傷ついているレイリーに癒やしを施し、その傷を塞いでいく。まだ傷の多くは残っているものの、馬上槍を地面に突き立てることで辛うじて落馬せずに耐えていたレイリーの身体には活力が漲り、馬上で姿勢を整えられるまでに回復した。
「逃がすものかよ! 仕留めるぞ、亘理!」
「おう、こいつはここで終わりだ!」
 既に土塊の盾を破壊され、攻撃を受けて動きの鈍っているレイスの亡霊騎士に、ラダと義弘が仕掛けた。ラダが魔力の砲弾を撃ち、レイスの亡霊騎士の騎士鎧に大穴を穿ち、背後まで貫き通す。その衝撃にレイスの亡霊騎士がグラリと大きくよろけたところに、義弘が気を込めた掌打を叩き込んだ。これまでに受けた攻撃に加え、ラダの魔力の砲弾で霊体の大半を喪ったレイスの亡霊騎士は、鎧を貫通した義弘の気を受けたことで消滅し、崩れ落ちる騎士鎧だけをその場に残した。
「木剋土。土の盾など、この樹槍の前には無意味だ。アンタ達が何者かは知らないが、好き勝手はここまでだ!」
 錬は最後に残ったレイスの亡霊騎士の土塊の盾を、式符から創造した数多の木の槍で破壊する。木の槍はさらにレイスの亡霊騎士に迫り、その鎧を深く穿った。
「こっちも決めちゃおう! サンディ君、いくよ!」
「任せろ! これ以上、レイリーさんをやらせはしない!」
 アリアの呼びかけに、サンディがこくりと深く頷く。アリアが悪しき神の名を持つ歌を歌い、サンディが天を穿つ弓を目一杯強く引く。怨嗟の歌に苛まれ動きを止めたレイスの亡霊騎士は、サンディが放った矢に鎧ごと撃ち抜かれた。レイスの亡霊騎士は杖を頼りにまだ倒れずに立ち続けようとしたが、その姿勢のまま消滅した。杖が地面に倒れ、その上にガシャガシャと騎士鎧がばらけて崩れ落ちていった。
「厄介なレイスの亡霊騎士は全滅しましたわー。この戦い、勝てますわよー。あと少し、力を振り絞って下さいませー」
 ユゥリアリアはレイスの亡霊騎士達の全滅を周囲の兵達に報せながら、最も深い傷を受けている兵士達の側に移動し、天使の救済の如き歌を歌う。救いの音色は兵士達の傷を癒やすと同時に、周囲にいる亡霊騎士達を中から浄化し、そのうち既に負の生命力が尽きかけていた数体を消滅させた。
「おおおおおおっ!」
 領主とイレギュラーズ達が強烈な魔法を放つレイスの亡霊騎士を撃ち倒した姿に、そしてそれを改めて知らしめ勝てると告げたユゥリアリアの鼓舞に、兵士達の士気は再び最高潮に至る。そして、兵士達の前衛は既に弱っている亡霊騎士に数人がかりで攻撃を集中し、後衛も前衛の狙う亡霊騎士を集中して狙うか、前衛の頭越しに中列に攻撃を行っていく。バリケードの前で、さらに数体の亡霊騎士が力尽き、その騎士鎧が地面に転がった。
 スケルトンやゾンビの亡霊騎士達は、変わらずバリケードを突破すべくその奥の兵士達やイレギュラーズに攻撃を仕掛けるが、与えられた損害は大きくはない。
「さぁ、怨霊如きが私を倒せるかやってみなさい!」
 ゴーストの亡霊騎士達は暗闇や虚無の魔法をレイリーに放つも、それらを全部受け止めてもなおレイリーが倒れることはなかった。

●命、喪うことなく
 レイスの亡霊騎士が全て消滅した時点で、イレギュラーズと兵士達と、亡霊騎士達とではその数が逆転していた。さらに、片や最高戦力たるイレギュラーズが全員残っており、片や最高戦力たるレイスの亡霊騎士が全滅しているとあっては、戦闘の行方は火を見るより明らかだった。
 ゴーストの亡霊騎士は義弘に魔法を集中するものの、レイリーに全て受け止められた。そのレイリーは、ヘイゼル、ココロ、ロロンによる癒やしを受けていることもあり、一向に倒れる気配を見せない。逆に、義弘、ラダ、錬、アリア、サンディらによって次々とその数を減らされた。
 スケルトンやゾンビの亡霊騎士達も、バリケードの突破に拘泥している間に、みるみるその数を減らしていった。特に前衛の兵士達が二対一以上で亡霊騎士達を相手取れるようになってくると、そのペースはますます加速する。
 程なくして、義弘の領地に迫らんとしていた亡霊騎士達は全滅した。兵士達に負傷者は出たものの、命に関わる深手を負った者は皆無。ラダはこの結果に、預かった命を失わずに済んだと胸を撫で下ろした。

 錬はヘイゼルと手分けして亡霊騎士達の武器や鎧を検めながら、その魂を弔った。
(統一された鎧に横陣を組むアンデッドの襲来を、『ただの魔物の襲撃』で終わらせられるわけないだろう。
 ……せめて、紋章などで身元の特定が出来ればいいのだが)
 だが、亡霊騎士達の武器や鎧の紋章は、全て削り取られていた。
「紋章を削り取られるなんて、相当酷い扱いを受けたみたいね……」
 同情を込めて、ヘイゼルは独り言ちた。
 ユゥリアリアは残された騎士鎧に触れながら歌い、亡霊騎士達が体験したことを追体験しようとする。結果、『古廟スラン・ロウ』から出現した事だけは判明した。だが。
「その先は、残念ですがわかりませんわねー」
 ユゥリアリアが追体験出来たのは、そこまでだった。
「『古廟スラン・ロウ』、ね……」
 アリアが放った式神が探った亡霊騎士達の足跡も『古廟スラン・ロウ』の方から続いており、亡霊騎士達が出現した場所はそこで間違いないという結論に至った。

 義弘の領地に帰還したイレギュラーズと兵士達は、翌日は一日中疲れた身体を休めた。そして数日後、この戦いの労を労うべく、参戦したイレギュラーズと兵士達を招いて義弘は宣言どおりに酒宴を開いた。
「乾杯だ!」
「「「乾杯!!」」」
 義弘の音頭に、ラダ、レイリー、ココロ、ロロン、サンディ、他その場にいる者全てが唱和する。そして、今回の勝利を喜び合ったのだった。

成否

成功

MVP

天目 錬(p3p008364)
陰陽鍛冶師

状態異常

レイリー=シュタイン(p3p007270)[重傷]
ヴァイス☆ドラッヘ

あとがき

 シナリオへのご参加、ありがとうございました。皆さんの活躍によって、義弘さんの領地と領民は守られました。また、兵士達も負傷した人は幾人も出ましたが、命に関わる深手を負った人はゼロで戦いを終えることが出来ました。
 MVPは、バリケードを構築して味方の損害軽減に大きく寄与した錬さんにお送りします。

 それでは、お疲れ様でした!

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