PandoraPartyProject

シナリオ詳細

今生く者から花束を

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


「ミス・プルー。あの花畑はどうなったのだ?」
 ラパン=ラ=ビット(p3p004304)は『色彩の魔女』プルー・ビビットカラー(p3n000004)へ問う。動けるようになったうさぎの縫い包みは、それでもやっぱりヒトと同じ視線には程遠くて、椅子の上によいしょと登り机を支えに背伸びする。その姿に目を細めたプルーは手元の羊皮紙へ視線を落とした。
 1枚の報告書。そのタイトルは『先逝く者から花束を』。ライラックなお客様――未練を残した青年の霊体は無事天へ召されたという。
 けれどもラパンはひとつの心残りがある。彼が家族と、村の皆と過ごした思い出の花畑は、その道中に魔物が出現するのだ。このままでは村の皆が安心してネルイネの花畑へ向かえない。幼少期を彼と過ごした思い出の花畑を、ラパンは返してあげたかった。
「ネルイネの花は変わらず。魔物も変わらず、といったところね」
「どうにかできないのだ? あの花畑はミスタ・ディアンと、村の人たちの思い出の花畑なのだよ」
 ディアンは逝ってしまったけれど、あの花畑に行ったならば『また会う日を楽しみに』できるとラパンは信じていた。そうして村の皆が前を向いていけると。
 その象徴となる場所を、返してやれないものか。
「ふふ、キャロット・オレンジね」
 ラパンの言葉にふっと笑ったプルーは報告書と別に、1枚の羊皮紙を差し出す。依頼人は『ネリの村』。ディアンの故郷だ。村も魔物の被害に遭っているという文字にラパンは飛び上がる。
「た、大変なのだ!」
「村の人たちで撃退はしているみただけれど、大本を叩かないと意味がないもの。その役目をイレギュラーズにお願いしたいそうよ」
 この依頼が出されたのは偶然か、必然か。もしかしたら、ラパンの願いがどこかで届いたのかもしれない。
 最も――彼自身の願いが叶えられるか否かは依頼の成否にかかっている。



「こんな場所までご足労くださって感謝します」
 道中、依頼主であるネリの村へ足を運んだイレギュラーズたちは村長の家へ通された。初老の男性と、男衆が一同に会すこの場は集会場としても使われているらしい。
「森に住みついたハニベアが餌を求めて出て来るんだ」
「1体程度なら俺達で追っ払えるが、何回も出てこられちゃそれでもたまらん」
「怪我人も出始めていてな。このままだと農業が疎かになっちまう」
 男衆曰く、ハニベアは1体ではないらしい。出てくるのは1体だが、持ち回りでもしているのだろうか。傷を負わせて追い返した翌日にピンピンした個体が出てきたと言うことだ。
 家族連れか、ただ群れているだけなのか定かではない。しかし度重なる襲来に少しずつ男衆が疲弊しているのは確かである。
「元々は森に住みついただけだったんだ。あの先にあるネルイネの花畑には行きづらくなっちまったが、森から出ないってことで俺達もある程度許容してた」
 ネルイネの花畑――いつしかラパンたちが花を摘みに行った場所である。あの花畑に行けないことを残念がる村人も多かったが、如何せん多少の距離がある。仕事を放り出してまで討伐に行く余力はなかった。
 しかし森から出たとなれば話は変わる。これ以上の被害を出す前に、というのが依頼を出すまでのあらましなのだ。
「――あの花畑には、皆の思い出が詰まっているのです」
 村長は口を開き、静かに告げた。それに男衆もどこか懐かしいような表情を浮かべる。彼らは皆、決まった季節にかの花畑へ花を摘みに行っていたそうだ。それは別れを惜しむものであり、再開を願うものであり、故人を偲ぶものであったから。
「村に被害を出さないことは勿論ですが、あの花畑へいつかまた……行くことができるように。助力をお願いいたします」

GMコメント

●成功条件
 ハニベアの巣を駆除する

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。不明点もあります。

●ハニベア
 大きなクマさんです。森の道から外れたどこかからやってきます。数体で群れを形成し、巣を作ったようです。全部で何体いるか定かではありません。
 元来は大人しい性格ですが、縄張りに入った者に対しては非常に攻撃的です。食糧が減った際は人里まで降りてくるとも。食欲は非常に旺盛で、彼らの腹を満たすことは難しいと言われています。
 彼らの攻撃は単調ですが、攻撃力はとても高いです。また、その皮膚の厚さは相当なようです。

突進:木くらいは容易にへし折ります。【防無】【体勢不利】
引っ掻き:鋭利な爪が迫ります。【流血】【致命】【必殺】
咆哮:森に響きます。【ブレイク】【攻勢BS回復60】【仲間を呼ぶ可能性があります。】

●フィールド
 森の中です。依頼のあった村からは少し離れています。
 道なりに行くとネルイネの花畑へ到着します。道を外れると冬らしく葉の落ちた木々が多く、視界はちょっと悪いです。
 この森は岩場に接しており、洞窟や小山のような岩が見られるということです。

●ご挨拶
 AAありがとうございます。愁です。
 村の人たちがまたネルイネの花畑に行けるよう、また村への被害を出さないよう。御力添えください。
 それではよろしくお願い致します。

 以下、前作です。読まずともご参加いただけます。
 『先逝く者から花束を』https://rev1.reversion.jp/scenario/detail/4823

  • 今生く者から花束を完了
  • GM名
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年03月18日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

アルペストゥス(p3p000029)
煌雷竜
鳶島 津々流(p3p000141)
四季の奏者
ヴァイス・ブルメホフナ・ストランド(p3p000921)
白き寓話
ラパン=ラ=ピット(p3p004304)
優しきうさぎさん
マヤ ハグロ(p3p008008)
ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)
戦輝刃
アーマデル・アル・アマル(p3p008599)
灰想繰切
月錆 牧(p3p008765)
Dramaturgy

リプレイ


 イレギュラーズ一同が足を踏み入れたその森は、少しずつ春の準備をしていることを伺わせる。膨らんだ蕾、起き上がった草花――それらを横目に、一同は道を外れる形で歩みを進めていた。
「もう春だものね。熊さんだって出てくるわよねぇ……」
 『白き寓話』ヴァイス・ブルメホフナ・ストランド(p3p000921)はどこかしみじみとしながら、栞を手に目覚め始めの植物たちへハニベアの行方を問う。行方でなくても良い、この辺りを良く通るのかとか、何をしているのかという手がかりでも良いのだが。
(そこから大雑把な巣の方向なんかを把握できたら良いのだけれど……できるものなのかしら?)
 はてさて、そればかりはやってみないとわからない。故に彼女は色々な植物たちに声をかけて回っているのだった。
「あの時の花畑か……」
 アーマデル・アル・アマル(p3p008599)は以前も訪れたこの森を見て目を細める。あの時は先程の道を辿り、モンスターを蹴散らして花畑へと向かったのだ。花に込められた『また会う日を楽しみに』の想いを村人たちへ届けるために。
(……だから、再会を楽しみにしてるのはくまじゃないんだよな)
 何とも言えない表情を浮かべるアーマデル。その傍らで『行く雲に、流るる水に』鳶島 津々流(p3p000141)森の奥の方を見やる。あちらにその花畑があるはずなのだ。
「思い出の詰まった、大切な花畑……大事な場所なんだよね」
 今はもう会えない者たちの存在も、その思い出も、その場所に行けば感じられる――繋がりを得られる場所。津々流は以前の依頼にまだ関わったわけではないけれど、話を聞けば『何とかしてやりたい』と思うのだ。
 ヴァイスと同じように植物へ情報協力を得る津々流は、同時に音や匂いでも感知できないかと感覚を巡らせる。アーマデルは探索する彼らからそっと視線を外し、あたりをふよふよと漂う酒蔵の巫女へ小さく口を開いた。
「追加がどの方向から来たとか見ててくれないか?」
 えぇ、と返ってくる不満声。酒をちらつかせれば多少はそれも収まるものの、果たしてやってくれるのか。いや、やってもらおう。
(手負いにして逃げられるのも良くないしな……)
 あちらにも事情があるのかもしれないが、こちらにも事情がある。このままでは遠からずして村に本格的な被害が及ぶと『曇銀月を継ぐ者』ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)は表情を険しくした。
「人間も生きていかなくちゃいけないものね。倒さなきゃいけないのもしょうがないわ」
 頷いたヴァイスはそれから、私は人間じゃないけれどと小さく笑う。人ではない――人形だけれど、その花畑と人々を守りたいと思うのだ。
「依頼を引き受けた以上はやり遂げてみせよう。またその花畑に足を運べるように」
 以前の報告書にも目は通したから、どういうものかは知っている。きっと、そこで過ごし思い出を作った彼らほどではないだろうけれど。
「あ、ここ」
 津々流がハニベアの爪痕を発見する。どうやらこの辺りを通ったようだ。
「グルルル……」
 『煌雷竜』アルペストゥス(p3p000029)が唸り声を上げ、そこの匂いを嗅ぐ。そして別の場所から同じ匂いがしないかと頭を持ち上げた。
「ハニベアは食料を大量に保管しておくため、広い場所を巣として選ぶらしい」
 それが洞窟か、あるいは森の中かは定かでないようだが、巣が大きいからと言って落ち着かないということもないようだとベネディクトは言う。そしてついでに、ネリの村で聞いた話を思い出した。なんでも――。
「毛皮は立派な防寒具になるらしいな」
 この先の季節はまだまだ不要だろうが、そう言っていたということは捌くのも慣れているだろう。ここで害獣として駆除されるだけでなく、無駄にならないよう使い切ってくれるなら倒した後に案内すべきか。
 痕跡を探す仲間の前を『Dramaturgy』月錆 牧(p3p008765)は姿勢低く、ハニベアから視認しにくいよう注意しながら進んでいく。ゆっくりとした歩調でやがて見えてきたのは、岩場だ。
「隠れる場所はなさそうですね」
「グゥ」
 アルペストゥスも岩場は気にしているらしい。牧は大きく跳躍して木の上へ上がり、アルペストゥスはその翼を広げて空へ舞い上がる。さあ、敵影は。匂いは。
 空中から岩場を見下ろしたアルペストゥスは小首を傾げた。痕跡らしい匂いはある。けれどもそれほど強烈というわけではない。
 なんか、おもってたのとちがう。
 牧も牧で、高い視点から岩場を見下ろしてみるもそれらしき影はなく。『優しきうさぎさん』ラパン=ラ=ピット(p3p004304)が洞窟を見つけたことで彼女は木の上から降りた。
「何かいるのだ?」
 それらしき気配はないし、降りてきたアルペストゥスも尻尾で地面に文字を書いて音や強い匂いはないと告げる。
 それでも、念のため。何かあってからでは遅いから。
 ラパンは近くにいた蝙蝠をファリミアーで使役し、中へ侵入してもらう。真っ暗な中でほとんど前はしないものの、共有する五感からは――内部に入っても尚、それらしき姿は感じ取れなかった。

 一同は岩場を離れ、再び森の中へと出る。匂いからして全く向かわない場所というわけではなさそうだから、近くにはいるはずだ。もしかしたら他の岩場の方が良い洞窟があったのかも知れない。
 そんな矢先、アルペストゥスが唐突にベネディクトのマントをぐいぐいと引いた。
「ギャウ!」
「どうした、アルペストゥス。何か解ったのか?」
 ベネディクトの感情探知には特に引っかかっていない。されど、アルペストゥスは何かを拾い上げたようだった。
 地面にガリガリと書かれたのは、先程の爪痕と同じ匂いがこの先から漂ってくること。複数体かは定かでないが、おそらくこれは残滓でなく本体だ。
「あっちの方向なのだ?」
 森に入ってすぐに鳥類を探し、小鳥をファミリアーにしていたラパンがそちらへと向かわせる。その途中で、戦いやすそうな場所を探すことも忘れずに。
「みんな、こっちなのだよ」
 なるべく近く、されどハニベアも見つけられるよう誘導するラパン。途中で対象を見つけた牧は皆は周知するとともにハニベアからやや離れた場所――開けた方へ向かうように幻影を作り出した。
 もやもやとした何かにハニベアは警戒しながらも近づいていく。それがなんであるのかを判断するように首を伸ばし、背後からの刃たる機動の慣性に鳴き声を上げた。
 すかさずアーマデルは未練の結晶から音色を奏で、焦燥を誘っていく。視線を素早く巡らせてみるが、今のところ他のハニベアはいないようだ。
(複数体なら家族……流石にくま寄りの生物なら、10体はいないと思うんだが)
 頼むぞ、というようにアーマデルの視線が酒蔵の巫女へ一瞬向く。やる気を出してくれたなら酒が待っているのだから、是非とも頑張ってほしい。
 ハニーとつくからミツバチなどに生態が近いのかとも疑ったが、ネリの村人曰くそういうわけではないようだ。ひとまず可能性がひとつ潰れたことに安堵しつつ、そう安心してばかりもいられない。
 ハニベアは背後を取った牧に怒りを燃やし、咆哮を上げながら牧へ鋭利な爪を振りかぶる。大ぶりなそれをひらりと躱しながら牧は相手を観察した。
(戦い方は獣らしく、その威力は……当たらなければどうともありませんが)
 牧は空振って抉れた木の幹を一瞥する。ああはなりたくないものだ。
 それでも恐れず至近距離で戦う牧。共に戦っていた『キャプテン・マヤ』マヤ ハグロ(p3p008008)は背後から差した影にはっと振り返った。
「早いな」
 ベネディクトは新たに現れたハニベアに目を眇める。これ以上は思うようにさせてなるものか。
「お前達をこれ以上、放置しておく訳にはいかない。その命――貰い受けよう」
 アーマデルにより降りかかった焦りに混じり、ベネディクトの敵意がハニベアへとぶつかる。津々流はこれ以上ハニベアが増えないかと辺りを素早く見渡した。
(一網打尽に出来るならいいけれど、あまり集まっては大変だ)
 その敵視を一手に引き受けんとするベネディクトの余力と、津々流とラパンのヒールが間に合うだけの数でなければ押し負ける。あの図体では皮も厚く、防御も堅そうだが内側からならどうだ。
 津々流の霊力がうねり、薄らと紅を帯びる。美しくも荒々しい桜吹雪がハニベアたちを取り巻いた。ヴァイスも合わせるように己の身から茨を伸ばす。冷たい毒を、チクリと棘から刺すために。
「まだ温存が吉かしら」
「かもしれないね。これだけとは限らない」
 呟くヴァイスに頷く津々流。ラパンは回復に時間を取られぬ今のうちにと攻撃手たる妖精をけしかける。その後方よりアルペストゥスはハニベアたちを睨み据えた。
(つよいえもの)
 獲物だと認識している。どれだけ強かろうとも、あれは『狩られる側』なのだと。自分たちが『狩る側』なのだと。アルペストゥスは魔力を練りあげ、確りと狙って魔弾を撃ち放つ。
 ハニベアの咆哮は未だ1度きりながら、援軍の来るタイミングは複数回にわたる。恐らくは別々の場所で同じそれを聞き、次々と寄って来ているのだろう。横合いから飛び出してきたハニベアに、アーマデルは引くのではなく1歩を踏み込んで闇の一撃を見舞わせる。間髪入れずスーパーノヴァを叩き込み、たたらを踏ませるが――さすが、強靭な毛皮を持つだけある。
 しかしてその脇から鋭く牧が袈裟懸けに切り下ろす。鋭いそれに毛皮が赤へと濡れた。
(常のわたしであれば『迂回の道でも作ればよいではないか』とでも言うのでしょう)
 怒りに勢いよく振り下ろされた爪を刀で受ける。踏ん張る足が後方へと押し出される。
(しかし、今回は別)
 死は悲しい別れである。それを牧は夫との死別で知っている。
 墓には魂があり、訪れれば思い出と安らぐひと時があるように――村人たちにとってそんな場所である花畑を、奪わせるわけにはいかないのだ。想いと共に牧の手へ力が籠り、爪をはじき返す。
「お手伝いしましょう。わたしは……会えない苦しみを知っているゆえに」
「ありがとうなのだ! 回復は任せて!」
 ラパンの超分析が牧へと届き、流れ続ける血を止める。同時にベネディクトが途中合流したハニベアの敵視を拾い上げた。
 不調回復はラパンに任せられると津々流は霊力で生み出した龍笛へ唇を近づける。神の声の如き響きをベネディクトへ届けんと、津々流は美しき調べを奏でた。
 それを受けたベネディクトは敵の頭数を減らすべく、裂帛の気合と共にハニベアの喉を狙って穿つ。再起を許さぬ必殺の一撃に、ハニベアはどうと倒れた。
 森の中を風が突き抜け、木々がざわざわと音を鳴らす。それに混じり、狙うは――。
「グァアアアアアウッ!!」
 喰らわんという意思と共にアルペストゥスが側面から飛び出し、邪悪を裁く光と共に襲い来る。赤を跳ねさせながら後退したそこへ、ヴァイスは狙いすまして雷を発生させた。何よりも早さを、逃す事なき瞬間に重きを置いたそれは的確にハニベアを撃ち抜く。
「……ねえ、どうかこの一帯から退いてくれないかしら? そうすれば殺さないわ」
 ヴァイスはギフトの力を込めながらハニベアたちへ語り掛ける。その言葉は伝わっているはずだ。最も、
「聞いてくれるとは思ってなかったけれど」
 変わらず牙を剥く彼らにため息ひとつ。嗚呼、終わりはいつ来るだろう? 
 長引く戦闘の最中に咆哮がひとつ、ふたつ。どれが更なる敵を呼び寄せるかもわからないけれど、警戒するに越したことは無い。現れたハニベアたちへアーマデルは怨嗟の音色を響かせる。狂気のような不協和音を奏でながら、アーマデルは視線を巡らせた。
(普通のくまよりちょっと多い程度……で、収まりそうか?)
 思い込みや油断は大敵――それを表すかのように新たなハニベアが襲い来る。
「させないのだ!」
 そこへ飛び込んできたのは小柄な影。縫い包みに道を隔たれ、ハニベアはいらだちと共に爪を振り下ろす。びっと布地が破ける音がした。
(ミスタ・ディアンはもういない。だから、ボクが代わりに叶えるのだ!)
 思い出と共に、村の皆と在れるように。彼らが幸せな思い出と共に笑えるように。皆が安心できるように!
「ボクは――負けない!」
 汚れても、破けても尚立ち上がる縫い包み。その小さな姿を一際大きな竜が背中へ隠す。
「グラァウ……!」
 代わりに食い止める、といっているようだった。勿論、アルペストゥスとて自らの脆さを理解しているけれど。
(けがをおそれては、狩りはできない!)
 あくまで狩るのはこちらなのだと、翼を広げて威嚇するアルペストゥス。彼らが押しとどめている間に他のハニベアを集めきったベネディクトがその1体も注意を向けさせる。わらわらと集まったそこへヴァイスは大きな雷を打ち落とした。
「ごめんなさいね。でも、自然界は強きが生き残るの」
 きっと、彼らも理解していること。だからこんなにも必死になって縄張りを守ろうとする。それが例え、数を減らし――1体になったとしても。
 津々流の放つ自然の大いなる流れがハニベアを翻弄し、牧の拳がトドメを刺さんと握られる。直撃とならずともベネディクトの槍術がハニベアの喉を傷付け、もう先ほどまでのような咆哮は上げられまい。
「鬼の拳、お見舞いしてやりましょう」
 その、傲慢なる左手は。頑強な毛皮をものともせず、最後のハニベアの命を刈り取った。



「あちらから来ていましたね」
「ああ、進んでみよう」
 ハニベアたちが比較的よく向かってきた方向を牧が示し、それに同意したアーマデルを先頭として一同は森の中を進む。
 寄ってきたハニベアは残らず対峙したが、残党がいるとも限らない。別の群れだとしても『居心地の良い場所』があるのなら塞いでおきたいというもの。
「ここか?」
「グゥ」
 洞窟を除くベネディクトにアルペストゥスが首肯する。ここからはより一層濃いハニベアの臭いが残っていた。最も、戦闘時に嗅いだ臭いを思えば――これも残滓であるのだが。
 中は随分と広く、これを見れば最初の洞窟は狭かっただろうと察せられる。もしかしたら巣になりそうな場所を探して通りかかったために、臭いが残されていたのかもしれない。
 そこを恙なく塞ぎ、一同は道へと出て花畑の方へと向かった。きっと、ここが通れるようになった何よりの便りになるから。
「グ?」
 ふわりと香ってきたそれにアルペストゥスは小さく鳴き、翼を広げて空から花畑へ舞いおりる。強い、強い、けれど優しい花の香り。きょとんとしたような顔のアルペストゥスは高い音で鳴き、花を潰さぬようくるりと丸まった。
 目を閉じたなら、感じるのは柔らかな風と、運ばれてくる匂い――ああ、ねむくなってきそう。
 ラパンはそんなアルペストゥスの姿にふふりと笑い、ネルイネの花をいくつか摘む。村の皆が喜んでくれるようにと願いながらそれを花束にしたラパンは、ベネディクトと共に村に向かった。花を差し出しながら依頼完了の報告をすると、村人たちに笑顔が広がっていく。
「ようやく、全部依頼が果たせた気がするのだよ」
 耳をぴこぴこと揺らして、ラパンは空を見上げる。

 ――ねえ、ミスタ・ディアン。きっといつか、また会えるのだ!

成否

成功

MVP

アルペストゥス(p3p000029)
煌雷竜

状態異常

ラパン=ラ=ピット(p3p004304)[重傷]
優しきうさぎさん
マヤ ハグロ(p3p008008)[重傷]

あとがき

 お疲れさまでした、イレギュラーズ!
 また、花畑へ行けるようになるでしょう。

 それではまたのご縁をお待ちしております。

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