シナリオ詳細
君可愛いね~ちょっとウチで反転してみない?
完了
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オープニング
●「君可愛いね~ちょっとウチで反転してみない?」
「えっ?」
練達。依頼で訪れた貴方は後ろから声を掛けられた。
振り向いてみれば――そこに居たのは『見知らぬ誰か』
しかし言葉は間違いなく貴方に向けられていて。
「おっとっと、怪しいモノじゃないよ。ただちょっと実験に協力してほしいんだ」
「……実験?」
「そう。いわば反転体験システムかな――知ってるでしょ、反転」
この混沌世界の中において反転を知らない者などいるのだろうか。
ソレは純種が何がしかの理由により存在が『裏返る』事象だ。いずれもが語り掛けてくる謎の『声』に応えて、存在そのものを変質させる――原罪の呼び声と称されるこの世の神秘が一つ。そしてこの世を滅ぼしうる要素……
例外は外の世界より召喚された旅人だけだ。
彼らはこの世の者――純種ではない故に反転する事はない。尤も……安全かと言われればそうではなく、呼び声の影響を受けて『狂う』事はある。あくまでも思考、精神の狂気の範疇であるが為、存在が変質している訳ではないが。
ともあれマトモに生きている者にとっては須らく危険な事象が『反転』である。
一度反転してしまえば戻れる事はない。
少なくとも戻れたという報告は未だかつて観測されていない。
それの――体験システム――?
「うん。つまり仮想空間でね、君達が『反転したであろう』という状況を見せて欲しいんだ。傲慢、強欲、嫉妬、憤怒、色欲、暴食、怠惰……そして旅人は狂気を受けたという前提で。いずれかの感情を揺さぶって、仮想空間で自由に行動してもらう。
そしてその最中のあらゆるデータを収集したい」
「なぜ――? 反転のメカニズムでも解明しようと?」
「まぁそういう理由がない訳でもないけれど」
ふっふっふ、と不敵な笑みを見せるその人物は語る。
「純粋に興味があるんだよね。皆が反転した時――どんな姿を魅せてくれるのか」
反転した者は魂はおろか、その姿そのものを変質させる事もある。
元の面影を残した状態から化物の様な姿まで。
それを見たいのだ。魅せてほしいのだ――純粋な好奇心で。
「ああ当然だけど、あくまで仮想空間での出来事だからね。この実験に参加したからって本当に反転したりとかそういう事はないよ。それと、データを入力してくれれば親しい人物を投影する事も出来る。うん、あくまでデータであって本人じゃないけどね」
「……まぁ依頼というならやぶさかではない、が。そもそも……」
「ああこっちの事は気にしないで! ただちょっと本当にね――」
訝しむ貴方。しかし大仰に手を振り笑みを継続するその人物は、語る。
「ただちょっと可愛い君達の反転した姿が――見たいだけなんだ!」
- 君可愛いね~ちょっとウチで反転してみない?完了
- GM名茶零四
- 種別ラリー
- 難易度EASY
- 冒険終了日時2021年02月28日 23時58分
- 章数1章
- 総採用数26人
- 参加費50RC
第1章
第1章 第1節
「ええ……何この人胡散臭……可愛いですか? 最近仕入れたCGなんですよね」
「え、CGなの? 本体は……え、バイク? かわいいね~」
この人なんでも可愛いって言うんじゃないかとアルプスは思考しながら、しかしとにかく仮想空間へのダイブを決意する。勿論アルプスは旅人であるので反転こそしないが――狂気に蝕まれた状態を想定して、だ。
「あまりリアルでない方が後々を考えると助かりますが……さて」
深く潜る度に魂を揺さぶる何かがある。
これが――いわゆる呼び声なのだろうか――?
降り立つはローポリな練達。
リアルとは異なる、故にフラッシュバックもしないであろう地。
その道路上をアルプスは突き走っている。制御などという言葉すら頭の中になく、ただただ往くは己が自己存在の為だけに。
――元より、本質は世界征服の為に作られたマシンだったのだ。
しかしながらその在り方が乗りてとなったヒーローによって変わっただけに過ぎない。ある意味では今の状態こそ『捻じ曲げられた』姿――なのかもしれぬ。
故に原点回帰。
「あぁ――成程。そもそもこういう道筋こそが、そうだったのかもしれませんね」
途上。こちらを見てくる者を轢き潰す。
見れば殺す。見なくても殺す。知覚する前に潰す。車で逃げんとする者を潰す。
命乞いの声が届く前に。
音の壁すら超えて――超速の彼方へと。
誰も追いつけぬ領域へと。
成否
成功
第1章 第2節
えぇ……反転、って言われてもなぁ……
だいじょーぶだいじょうぶ。心のままに委ねてみればいいんだよぉ~
カイトは依頼人と会話し、頭を掻きながらとりあえず仮想空間へと。
感情の高ぶり? 何をされたら?
思考して思考して――そして『もしも』があるとするならば。
強欲。
獲物を、好きなヒトを、夢を奪われたら?
「――許せねぇよなぁ、オイ」
一面に広がるは夜の海。嵐にて荒れ狂い、誰をも拒絶する闇の世界。
その帳を裂いて飛翔する紅き閃光があった。
それは怨嗟の塊。雷光を纏う火炎の鳥人にしてカイト・シャルラハの終焉点。
ウィルオウィスプ。
奪った奴が憎い。手に入れられないソレが憎い。そんなことを許す世界が憎い。
憎い憎い憎い。壊してしまおう、海に沈めてしまおう。
狂気に呑まれた航海士は数多を滅ぼし、船を横転させ壊し尽くして尚留まらぬ。
風の往くまま。暴風の概念を超えて、セントエルモの緋と成らん。
「いーい天気だよなぁ」
かの旅路に安寧なく。
かの行き先に晴天なし。
――であるからこそ導こう。先導の灯として、悲嘆を、憤怒を、嫉妬を。
「荒れ狂う感情の航路をなァ!!」
抗わんとする海人共よ。如何に矮小な存在であるか知れ。
お前達に俺以外の船頭などいないのだ。
さぁ共に来い。他者の全てを奪い、俺のモノとしようじゃないか――ッ!
――尤も。彼が欲しいモノは、もうこの世のどこにもないのかもしれないが。
成否
成功
第1章 第3節
呼ぶ声がする。
……?
わたしを呼ぶ声がする。
いかなくちゃ。どこへ?
「まぁ、いいか」
アイラが手に抱きしは子供の『頭部』
怖いと泣いて煩いから引き裂いた。あのくだらない領主の喉も裂いてあげました。
やめてと泣くあの子をぐちゃぐちゃに、絶望したあいつをぼろぼろに。
――その手は血に染まっている。
多くの怨嗟がまとわりつくも彼女の瞳にはただ一つ。
ねぇ、にいさま! ボクを、ボクだけをみていて、くださいね。
兄しか映らぬ。
後ろからは声が聞こえる。『戻ってこい!』だの『まだ引き返せる!』だの――
煩いな。
ちょっと払ったら頭が潰れた。ちょっと蹴ったら呻いて動かなくなった。
嘆いたって、後悔したって。
遅いんだよ。
「――ああ。可愛い可愛い俺のアイラ。そうだよ、お前の事なんて誰も見ていなかった。
そうだよ。それでいいんだ! 俺だけが愛してあげる。ずっとずっと……」
死ぬまで、永遠にね。
アカシ・ローリイットの腕に誘われ。その腕の中で安堵しながらアイラは往く。
何の未練もなく、何者の声も聞こえず。
『――続いてのニュースです。ローレットの――さんが狂気に堕ちた――』
聞かなくていい。
……うん、そうだよね、にいさま。
幸せ気に微笑む二人。ちょっと『細工をして』連れ出した甲斐があったというものだ。
アイラ――愛しいアイラ。
嗚呼、早く、殺したいな。
細首撫でて――そして。
成否
成功
第1章 第4節
ジルーシャの瞳に映ったのは、何の色だったか。
色とりどりの花が咲き乱れて精霊達が笑っている。
「アタシが」
アタシが『大好きだった』筈の場所。
心地の良い光景なのに――右目が痛い。
何かが蝕んでいるかのように熱く、痛く。
世界が極彩色に染まって、精霊たちの囁きが頭痛の様に頭に響いて。
やがて何もかもが煩わしく映る。
煩くて、汚くて、穢れた■■
「こんな世界は――アタシの“香り”で彩ってあげるわ」
香水瓶の蓋が開かれると共に溢れ出る煙が世界を染め上げる。
人間の骨と肉と心臓と。
精霊の血と涙と眼球と。
全てをすり潰して混ぜて作った最高級の香り。
毒? いいえ、これぞ至高の香り。
羽虫の様に地に落ちる精霊を指先で捕まえてその首筋を捻じ曲げた。
可愛らしく抵抗する有り様が愛おしくて――四肢を捥いだ。
それを投じて一つ。花を朽ちさせまた一つ。
世界を壊す禁忌の香術。
――ほら、花が枯れていく。
――ほら、人が死んでいく。
「だって貴方達、臭いんですもの」
ジルーシャは微笑んだ。心の底から思い、おかしい世界が可笑しくて。
右目から零れるのは涙か血か。
汚れた指先から香るモノを甘いと感じる己が嗅覚は既に戻れぬか。
禁忌に手を染め嗤うアタシは――二度とアタシには戻れない。
「あぁ、いい香り」
愛おしい黄昏に祝福を。
呪われた大地。ジルーシャの瞳に映ったのは何の色だったか。
もう思い出せない。
成否
成功
第1章 第5節
窓の外に見える世界は澄んでいた。
フラーゴラは手を沿える。窓を開く様に、外の空気を引き込む為に。
同時――太陽の光が彼女を照らす。
雪の様に白かった髪はカラスの様に真っ黒で。
『あの人』が綺麗だと言ってくれたアクアマリンの目は、地獄の釜の様に赤く、紅く。
――濁っている。
吐息は死の影。木々の葉に掛れば欠片の如く崩れて往く。
歩けば草花が枯れて水分が蒸発し。
何もかもを奪っていく。
――居城から遠くに見える集団は騎兵隊だろうか。
まっすぐ至る影はきっとそうだ。
「お師匠先生、怒ってるかな」
怒ってるよね。
出迎えなきゃ。扉を開いてようこそと。
拒絶する理由がない。
「ねぇ■■さん」
紡ぐ言葉が上手く認識できない。でも、覚えてるんだ。
――ピースメーカーの火薬の香り。鼻先を擽る、あの匂いね。
「ワタシあれ結構好きだったんだよ」
今はその銃口がワタシに向いているけれど。
手向けの白薔薇が散り、好きな人の視線が真っ直ぐワタシを射抜いている。
――喉が震える。
不思議だけれど、それが。その視線が救いのように感じて。
目の奥に熱を感じる。痛むほどに。蝕むほどに。
ワタシは――笑っているのか泣いているのか。
自分でもよくわからない感情に包まれて――彼らを迎えた。
ねぇ……■■さん。
もしも『もう一度』があったとしたら。
願った果てにそんな事があったなら。
――もう一度ワタシと出会ってくれますか?
成否
成功
第1章 第6節
世界にヒビが入った気がした。
崩れる。脳髄の奥にあった『何か』が呂色の瞳に溢れてくるのだ。
それは忘れていた光景。忘れていた世界。
自らが辿っていた筈の全て。
「あぁ……」
どうして、忘れていてしまったのか。
即座に理解する。これは――奪われたのか。
自らから全てを。忘れてはならぬ事を。
要らぬ祝福の権能によって。
例え忘れたかったとしても……それでも抱きたかった記憶を。
煮え滾る。胸の奥で怒りの焔が。
忘れさせた人に、忘れていた自分に。
そしてそれを知らずのうのうと生きる他人に。
――駆ける。
憎い。殺したい。赦せない。許さない。死ね――
街へと駆ければ目に付いた者の頭を打ち砕いた。
悲鳴を挙げた者の喉を捌き、逃げんとした者の胸を貫き。
特に人の姿を司る人間種の者を優先し、殺す。
抵抗の刃を受けようと――止まらない。今更自分が傷付く事など厭おうものか。
「今の今まで腑抜けていた」
こんな感情が、事実が眠っていたのだと知っていれば――オレは――
「――――」
最早誰にも止められぬ。
彼の暴走は。狂気のままの行動は渇望するかの如く。
もうどこからも聞こえない『彼女』の声を――求めるが如く。
「もし、オレが鬼人じゃなかったら。オレがこんなギフトじゃなかったら」
きっと、きっと。
「普通に幸せに生きていけたんだろうな」
それでも『きっと』はないのだ。
もしも本当にこうなってしまったのなら……
成否
成功
第1章 第7節
仮想空間? 関係ない。魔種を生み出す機械など製作者諸共俺が破壊する――
例え空想であっても存在してはならんものだと意気込んだハロルドだった、が。
「しまったこれは与太空間か――!」
気付くハロルド! しかしもう遅い。彼が辿り着いたのは空中庭園であった。
「いや……だが、これは……!?」
しかし見慣れている筈の此処には在り得べからざる物があった。
それはざんげハンマー。
一つや二つではない。これは――ハロルドが消費してきた無数の使用済みハンマーだ! 自らの頭をさすればそこにはタンコブが! されど……それとは別に妙な感覚を感じる。これは……?
「な、無い……俺の、名前が!?」
クラスを見つけた者――その者の名、此処に記す。
そこに己の名がない。馬鹿な! ざんげ教授、これは一体!?
しかしざんげは黙って首を振るのみ。
まさか……そんな! こんな、こんな世界など!
「ああああああああ!!」
血涙と咆哮を天へと向けたハロルドは姿を変質させる。
その名は――『妖怪ハンマー男』
「オレ外道ハンマー男コンゴトモヨロシク。サァ、頭ヲ出セ」
奴は襲撃する。殴った者の記憶とスキルは失われ……再取得が始まるのだ。
「オレ、求メル。オレガ殴リ続ケテ、イツカ見ツケル」
世界の総てを。
自らの名が残らぬのならば、せめて自らがハンマーの化身と成ろう。
さぁ頭を出せ! おらッ! 忘れろ! ハンマー! ハンマァァァア!!
成否
成功
第1章 第8節
眼前に広がる光景は、なんだ?
人の命が奪われた光景。贓物の飛び散る現場。
壊滅的な被害に遭い略奪され、虐殺された死屍累々。
……今までにも傭兵としてその光景を見る機会はあった。
されど慣れるかは話が別だ。
命を奪い続け、それらを背負い続けてきた彼女は――
「なぜだ?」
ついに限界を迎える。
背に感じる重圧に潰されるのだ。『コア』が起動し、彼女の身体は贄となる。
言語機能譲渡――生命維持機能譲渡――
オール・クリア。『ルクト』は沈む。顕現するは破壊の神にして内に潜むモノ。
――求めたモノがどこまで行っても遠かった。
ただ自由が欲しかった。もっと他の子達みたいに、武器に、戦場に囚われず。
休日に穏やかな日光の下でレモネードを楽しむような。
傭兵じゃなくて、平和な日々を……
『しかしこの贄は家族に捨てられた。
贄を拾った者はもう居ない――この贄は世界に囚われたまま、壊れた』
で、あれば。
『全てを壊し、無へと返す』
戦場を、愚かなる者を、その全てを壊し。
『――世界そのものを、始まりへと還す』
コアが語っている。が、ルクトにとってはもうどうでもいい。
辿り着けなかった世界など。自由のない世界など。
無数の銃撃。激しく瞬く閃光が都市を吹き飛ばし、焼き尽くす。
滅んでしまえ。それでこそ『届く』のだ。
――神は叶える。少女の願いを歪ませながら。
全てが失われた世界でこそ――安らげると。
成否
成功
第1章 第9節
天義。純白の祝福に包まれた聖堂にて。
異端審問官……アネモネ・バードゲージの身体が天使の肖像の前に。
まるで導かれる様に。
まるで天へと召される様に。
その体は――血濡れの衣で満たされていた。
もはや温もりはなく、力なく。
二度と目覚めぬ旅路へと赴いた彼女には誰も追いつけない……だから。
「――なんて醜い鳥籠だ」
ベルナルドは狂い果てる。
これだけ近いのに、どれだけ探しても見つからない――
その事実が彼に正気を失わせるのだ。
……かつて身分違いの彼女へ身の丈に釣り合わぬ感情を抱いた。
憤怒を向けるは鳥籠。彼女を閉じ込めた天義という国そのもの。
故に――目覚めしは籠を超えし者。
誰にも縛れず、止めれぬ究極点。青い塗料を滲ませた鉤爪が万物を引き裂くのだ。
「この国が白だなんて嘘っぱちだ。見ろよ、こんなにも彼女が赤く染まって――」
こんなものは彼女じゃない。
だから砕こう。砕いて壊して、俺の色に染め上げて。
白でも赤でもない――青い色で、この汚れたキャンパスを塗り潰す。
壊し尽くせ。
彼女を認めない汚れた国など存在価値はない。
檻は砕かれ炸裂する爆発が絶対たる城壁すら突き崩して。
ああ――青き魂に染め上がった彼の姿に、もう面影はない。
成否
成功
第1章 第10節
「はいはーい! 可愛い可愛いボクも反転体験してみたい!!
ちょっと行くだけでいいんだよね?
え? 知らない人に声をかけられても付いていくな? なにそれ?」
「そうだよ。挨拶した仲だからね。ボク達は知らない人じゃなくて、もう知り合いだよ」
だよね! 元気よくリコリスは依頼主に付いていき仮想空間にダイブ。
潜る度に感じる『何か』の揺さぶりが彼女に纏わりつき――変質させる。
それは怒り。それは本能。それは苦しみ。
一見無邪気な犬種であるリコリスだが、その遺伝子は感情の高ぶりと共に不安定の塊であった。いつ、なんときに『獣』となるかも分からぬ渾沌の権化。肉体に掛かった負荷が彼女の存在そのものを狂わせて。
「ぉ、ぁ、ア」
さすれば新生する魂は『リコリス』という個我を脱ぎ捨てる。
僅か一瞬。彼女自身が抗う暇すら存在せずに、鱗が剥がれるかの様に全ては虚空へ消えた。
――残るはただ一つの『獣』のみ。
『獣』には何もない。ただ心赴くままに牙を振るう怪物。
理性ありし獣などこの世に居らず、都市の隙間を駆け抜け往くは神代の化物。
都市伝説は具現した。
恐怖を知らしめ、己が存在を現実とせんが如く。
「――!!」
もはやターゲットすら存在しない。赤い瞳は闇夜に軌跡だけを残して全てを滅す。
――キメラ。
誰が称したか、彼女を『そう』だと定義した人物がいる。
正に今の彼女は――『そう』なったと言えるのだろう。
成否
成功
第1章 第11節
エルの心に思い浮かんだのは、雪景色だった。
とっても大好きな、冬。とってもとっても、冬が大好きです。
皆さんは、寒いからって、嫌うけれど。
どんなに、皆さんに、冬が嫌われても。
「エルは、冬が、大好きです」
――だから願う。この大好きな冬がいつまでも続いてほしいと。
――だから願う。ずっとずっと愛せる様に、冬がいつも恋人の様にいてほしいと。
――だから願う。
「お母さんのような、冬の女王の、ように」
なるのだと。
彼女の微笑みは絶対零度の性質を携えている。誰に対しても開かれた笑みは全てを包んで――次の瞬間には氷へと。
誰も彼も動けなくなってしまう。ああ、それでいい。これでいいんだ。
エルの願いはかなっていく。彼女が祈りを捧げれば目に入る所が全部『冬』になって。
吹雪が轟き、雪が埋めて、温もりを全て奪って寒さに帰る。
「ああ、やっと、やっと冬だけになってくれました」
彼女は欲が叶えられた――凍えた世界の光景に、彼女の性が昂って。
罪が顕現する。
凍える姿に、微笑もう。嘆く姿に、喜ぼう。
「だって、これが冬なのですから。これがエルの世界なんですから」
もう誰の声も届かない。
静寂しかない世界で彼女は微笑む。
誰も生きられぬ世界で、初めて得た――安堵と共に。
成否
成功
第1章 第12節
夜の闇。天には月。
輝く日にその存在は現れる。
ラムダ・アイリス――魔導機巧人形としての姿、双角に翼持つ球体関節人形。
暴走により不定形と化した蠢く偽装外殻を外套のように纏い、駆ける。
「……ニガサナイ」
主なき人形は常に願っていた。人と共にあろうと。人の様になろうと。
狂おしい程に求めた。渇望する程に求めた。
けれど――どれだけの時を得てもその手には何も掴めず無為だけが常に。
「ひ、ひぃい! やめろ、助けてくれええ」
だからラムダは遂に堕ちた。
無力を実感し、理想との剥離、自らへの失望――全てが重なり人には成れぬのだと。
精神は振り切れ、破綻した心はもう戻らない。
どう足掻いても人に届かないという『理解』を放棄し。
「……ニガサナイ……ボク二キミヲモットリカイサセテ?」
彼女――? は刻む。
人をより深く深く理解するために枷によって拘束し。
刃物と化したその爪で皮膚の一枚一枚表情筋の一筋を、臓器の一つ一つに至るまで――解体観察するのだ。優れた偽装外殻を外套の様に纏っている彼女に不可能はない。
絶叫を聞きながら情報収集。
舌を噛んで勝手に死なぬ様に布を口へと叩き込み、より観察の度合いを高めていく。
「……コレハナニ? コタエテ?」
分からねば問おう。これも理解へと至る為のプロセスならば。
「ネェコタエテ……ハヤク、ハヤク……」
神経を直接引っ搔いて答えを急かす。
ああ――人の道はまだ遠い。
成否
成功
第1章 第13節
沙月の見た狂気の世界は地獄であった。
略奪の現場。男を殺し女を奪い金品をこの手に。
悪徳貴族の屋敷を襲撃。彼女の率いるゴロツキ共が好き好きに略奪、拷問、虐殺を愉しんでいる……民を虐げていた者が奪われる様は見ていて心地が良く。
「さぁ――早くそこへ」
奥から強引に引きずられてくる貴族の者を拷問台へと示して。
其処で行われるのは只の解体ショーだ。
「ま、待て! こんな事をしても討伐隊が――ぐあああ!」
股間に振る降ろされるは大型の包丁の様な一閃。
一撃目は皮を斬った程度であり、二でようやく肉の一部を。
三でより奥へ。四で少し奥へ。五で六で――
時間を掛けてじっくりと壊してあげよう。
悲鳴が喜びの声に聞こえちゃうぐらい気持ちがいい――のに。
「お前等誰だよ」
その現場に踏み込んでくるクズ共がいた。
親友? 恋人? なんだお前ら知らんぞ。
「殺しなさい。ねぇ、ご褒美が……欲しいでしょう?」
圧倒的物量差で押し潰そう。
大勢の中で特に上手に言いつけを守れた子には――後でご褒美も挙げるから――
「げ、ほっ! はぁ、はぁ……あれが、私……!?」
瞬間。沙月の計測が終了する。
――ドス黒い自身の有り様に吐き気を。
「……狂う訳にはいかないわね」
だからこそ……彼女は誓う。
仕えるマスターと先輩親友達、多くの人々の為にもこうはならないようにと――強く。
嬲り殺してしまったあの光景を――脳裏の片隅に抱きながら。
成否
成功
第1章 第14節
可愛い美しい素敵。
ああなんと甘美な言葉なのでしょうか。
「……折角、二度と呼び声に身を委ねる事はすまいと心に誓いましたのに」
もしもあの時本当に委ねていたのならばと仮想空間へ潜るエルシアは思考する。
脳髄に響くは似た感覚。我が母――イルシア・ユーリオータの。
『あえて』の道を歩んでみよう。自省の材料になるに違いないと確信しながら……
――燃やす。
全てを燃やす。気付くエルシアの眼前に広がっていたのは、炎で満たされた世界。
母の狂気を受け入れてしまった彼女は『こう』なるのだろう。
何も分からない。何も解らない。唯々燃やさねばという使命感にだけ駆られて。
「あぁ……」
だけれども、忘れない。
忘却へと至った母と異なり己は違うのだ。何もかもを覚えている。
――だから余計に苦しい。
嘗て大切にしていたものが失われてゆくことが。
哀しい。
だからこの痛みを取り除こう。完全に燃やし尽くし、次は連想させるものを燃やして。
全て壊す。全て燃やす。全て総て凡て……やがてエルシアの炎は世界に到達する。
宇宙の闇すら燃やし尽くし、只一人己となった世界でようやく安堵を――
否。
「どうか……殺して……」
それでも己の脳髄にある欠片もやがては燃やそうとするのだろう。
愛しい愛しいものがそこにあるから。
誰か私を止めて。
誰か私を救って。
誰か私を――燃やして。
どうか、どうか殺して……
私自身が果てるまで……
成否
成功
第1章 第15節
ねぇナチュカ。
私――頑張ったよ?
「はは、ははは」
茄子子は笑う。運命に導かれるままに運命を否定し、翼を手に入れてしまった――彼女は。
空から地上の愚者共を眺め、遂にその精神は現人神の領域へ到達したのだから。
羽衣教会信者の祈りや願い。それらを総て受け止めてしまったが故の狂気。
全て私が導くとした――大傲慢。
背中に携えるは純白の翼。
一切の穢れもない、できることの無い天使の翼。
もう面影すらない。彼女の『本当』の翼は、茶色く可愛らしい雀の翼だったのに。
「でも仕方ないよね」
だってみんながソレを望むのなら、応えよう。
――私は神にだってなってやる。
……神聖宗教国家『羽衣教会』成立。
神の国は誕生し、紛い物たるネメシスすら染め上げる。
全ては翼を手に入れるべし。
かの国家の祭壇――蒙昧なる他国が言うには非道なる監獄――の地にては次々に信者が誕生し、新たな翼を甘受する。神に捧ぐ実験と投薬の結果を此処に。貴方が為の尖兵は此処に。いざや混沌全土へ号令を……
ねぇ、ナチュカ。
私頑張ったよ。
貴方のために、沢山家族を作ったの。
「え、何?ㅤ誰?ㅤ家族ってなんの事? 約束って、返すってなんなの?」
これで、約束は守れたかな?
だから、私の事、思い出してほしいな。ねぇ。ねぇ。
返して欲しいな。
たったひとりの、友達なんだから。
ほんとは私が――■■■■なんだから。
成否
成功
第1章 第16節
「我はイレギュラーズなり……一度は降ったが再び戻る……」
オウェードは狂い果てた。しかし彼は変わらなかった。
滅びのアークを溜めさせないという一点に邁進している。魔種に堕ちてもなお、だ。
されど彼はもうイレギュラーズではない。
その目は血走り、想像に支配されている。
「目を覚ますがいい! 非常なる災厄は神殿と大魔種が手を組んだ物である!
空繰パンドラと滅びのアーク……汝らは一時も疑問に思った事はないのか!
対の存在とはいえ、似ていると思わぬか!」
彼が唱えるは神殿陰謀論。
ざんげは悪であると。敵に通じているとする想像を妄信しているのだ。
故にざんげを殺す。
故に空中神殿を陥落させる。
そして――空繰パンドラは真実を知る己こそが握り、溜めるべきなのだと。
彼は狂い、その言を真剣に語っている。故に同志を求めるが――
邪魔をする者。批判をする者は全て敵と認識している。
ざんげに絆された悪魔めが――!
切る。斬る。殺す。
陰謀に加担する者は全て敵だ。我のではない、世界の敵だ。
辻斬る彼は恐れられ、討伐対象にもされ、しかし圧倒的な力で夢を叶える。
自らが世界を救い――そして幼女も救うのだ。
最終的には暗殺令嬢をこの腕の中に……
「さあ……我と共に新世界の最初の人類となろう……」
彼が自らを神と認識する日も――近いのかもしれない。
成否
成功
第1章 第17節
ニコは疲れ果てる。
泥の中に沈むような感覚だ。疲れて、悲しくて、もうどうでもよくて、だから。
――反転してしまうんだと思う。
「……ずっと。ずっと、なりたかったから」
物言わぬ人形に。
いつも抱いていた人形達にあったのは憧れだったのかもしれない。
己もそうなれれば良いと――心のどこかで。
……されど反転の影響は自らの内に向かう欲求が外へと流れ出た。
すなわち『皆にも静かになって欲しい』
「うん。そうだ、それがいい」
だから彼は街へ往く。花屋のお姉さんを殺して、郵便局のお兄さんを潰して。
いっぱいいっぱい人を殺して――そしてぬいぐるみにしてしまおう。
世界は嫌い。
人間も、みんな怖い。
だってきっと、人がいるから争いも起きるし、悲しみも増える。
でも皆が人形に成れば――
「だよね」
だから、ニコがみんなぬいぐるみにしてあげるの。
それで、静かな世界になったら。
「きっとニコにも、怖いものがなくなって」
静かな世界で、休めるはず。
「きっと、幸せになれるはず」
おやすみ、ニコ。
静かな世界を夢見て誰もいない世界で安堵を得るニコ。
――もうおにんぎょうは必要ないニコ。
おやすみ、世界。
成否
成功
第1章 第18節
もしも。
もしも『あの時』――選ばれなかったのなら?
「あ……ぁあ、あ……」
シフォリィは知った。家族も、故郷を失って。
信じた人に裏切られていた――あの日。
思わず世界を駆け出した。当てもなく、しかし留まりたくはなかった。
だけれども逃げられなかったのだ本来は。
もしも神に愛されなかったのなら――今も『あそこ』にいたかもしれない。
体に巻かれる拘束が増えて、口には布を噛まされ舌も噛めぬ。
戸は堅く閉ざされ、入る者はいても彼女は出れない。
花嫁のような薄布は彼女を守らず。
ただ増え続ける。
――自らの魂と肉体を穢す日々が。
やがて彼女は振り切れる。
穢された回数を体に刻み、喪失を忘れず、屈辱を忘れないように。
瞳に溜まるは憎悪と復讐。
――私は許さない。
「許さない、許さない。どうして、なぜ、私を……許さない」
私から信じる事を奪った何もかも。
私は殺す。この身に宿した憤怒のままに。愛した幻想の町で、私を捕まえた男達を。
私を売った人を、私を買った人を、愛する幻想の人達を。
皆皆必ず殺す。
「あ、はは、ははは」
拘束が破られる。彼女の魂は深淵に達し、もはや戻る事はないのだ。
さぁ――繋ぎ留めましょう。
大事な兄姉を、親友を、これから育む私の子らを。
私から、もう何もかも奪わせない。
「――ぷ、はッ!」
思わず息を吸った。現実に戻ると同時に。
『違う』のだと確信して――思わず身を抱きしめる。
ああ……
「違う。あれは……現実じゃない」
信じて安堵する。
『もしも』が訪れなかった――事に。
成否
成功
第1章 第19節
「――ぉぉおぉお!! 凄まじい程の力が溢れてくるぞ!!
なんだこれは……!? まさかこれが……噂の……!?」
ルウ・ジャガノートは自らに溢れる力に歓喜していた。
振るうだけで全てを壊せる。抱きしめるだけで全てを殺せる。
そして同時に。
「この力を……存分に振るいたい……あああそうだ! 振るわねばならない!」
胸に湧いて出て来るは欲望――いや衝動というべきか。
降りる。領民の街へ、そして殴る。
頭がはじけ飛んだら死んだ。盾で防いだ奴は辛うじて生き残った。
「はは、はははははは! いいぞ、お前はいいぞ!!」
死んだ奴に興味は無いが、生き残った者は――眷属にしてやろう。
そうして彼女は練り歩く。自らの街を総て破壊すれば次の街へ。
隣に。次の隣に。ああ次はあの城で良い。其れも終わったらあの要塞を落とそうか。
強い街には強い者達が沢山いて――実にタノシイ。
「さぁ行け眷属たち。破壊しろ! 破壊して破壊してまた眷属を増やして……
この混沌中を破壊しろォ!!」
命じる。彼女は己が衝動のままに。
全てを破壊し、凌辱し、自らの至高のみを追求し続ける。
己が認めた眷属たちと己だけで――この世界を満たそう。
ああ……考えただけでも興奮してしまう……!
「あは、はははは。はははははは!」
猛る声は天に。
全てを破壊しつくしたら――ああ、神の所へも行ってしまおうか?
成否
成功
第1章 第20節
――フェリシアは夢を見る。
海種の多足、獣種の手。
飛行種の羽に覆われた腕、鉄騎種の鉄でできた首。
それら――あらゆる種族の要素を詰め込んだ、つぎはぎの姿の夢を。
「これだけ沢山あれば……どれか一つぐらい『前の私』と被っている物もあるはず、です」
頭はどこかにいってしまったけれど、些細な問題だ。
どこが腕でどこが足でどこが胴体かも分からぬが。
――それも些細な問題だ。
それより、そう。そんな事より重大な事がある。
「ああ……見つけないと」
わたしを知ってる人を見つけに行くんです。
大きな街に行って、一人一人に尋ねましょう。『わたしを知っていますか?』って。
何故かみなさん走っていくんですけれど……
捕まえたら、どうしてか消えちゃうんですよね。
「でも、どこかにきっといるはずですから」
自らの事を知る者を。
――フェリシアは進む。数多を取り込み肥大化し、街を食いつぶして次の街へ。
触れるだけで取り込む。命を殺して肉を我が身へ。
気付いてすらいない。彼女にとっては、もう本当に一つ以外の事を認識していないから。
「あの。わたしをしっていますか?」
■■。■■■■■■■■■■■■?
意味不明な金切り声。彼女以外には正常に聞こえぬ声を撒き散らしながら。
彼女はただただ探し続ける。
自らを自らで消しながら。何処までも――
成否
成功
第1章 第21節
ラクロスは恋をした。胸の内に落ちた飴玉が、確かに在ったのだ。
舐めれば舐める程に甘美で、蕩けて。
もっと欲しいと願う飴玉。
けれど――その飴玉は毒でもあった。
募らせる想いが深く深く沈んでいく。思考が彼へと潰される程に。
「――違うんだ。君を困らせたいわけじゃないんだ」
上手く言葉にする事が出来なくて。
君は優しいから、沢山の人に囲まれていて。
……中にはとっても可愛い女の子やセクシーな女性も居たね。
どうして?
――いや違う。違うんだ。君を縛り付けたくないのに。
でも――飴玉を舐める度に二言目には苦くなる。
「ねぇ。どうして昨日、彼女と一緒に居たんだい?」
『嫌だ』と思ってしまって、その度にその感情を無視し続けて。
そして私は踊り付かれてしまった。
……口の中にはもう何も残っていない。
違うんだ……私は、只……
私だけのお姫様でいて欲しかった。
私だけの行人君でいて欲しかった。
只、愛して欲しかった。
私を見て、一緒に蕩けて欲しかった。
君も一緒にこの感情を……抱いてほしかった。
――ねぇ行人君。
「お手をどうぞ、プリンセス」
世界の果てで、私と踊ってくれますか。
どこまでもどこまでも。蕩けて無くなってしまうまで……
成否
成功
第1章 第22節
私は──敬愛なる神の僕。
正義の名の下に、我が片翼の聖剣が反徒に裁きの雨を与える事でしょう。
彼女は。チェルシー・ミストルフィンは心底そう抱いている。
髪をおろし、純白のドレスを纏いて。
黄金と白銀の片翼の翼を持った聖剣へと――反転した彼女は。
その姿は見る者に神々しさを感じさせる。ほぼ問答無用に。
まばゆい光で呑み込むほどの輝きは――穢れし者を浄化させるのだ。
「神がそれを望まれる」
浄化された者は無垢なる塵へと還り、花へと生まれ変わる事でしょう。
この大地を構成する――一片となるのです。
そう。この新聖都ネメシスの都にて。
愚かなものが真実存在しない――聖都にて。
「皆を神への信仰へと目覚めさせる事が我が使命です。
さぁ――神の声を聞くのです。神の望みを知るのです」
皆理解せよ。
神の望みを。神の教えを。
我々は来たるべき神々の黄昏の足音となりましょう。
ミストルフィンに迎合する者らは彼女を称えて誉れとする。皆で合掌するのだ。
――神がそれを望まれる!
――神がそれを望まれる!
「よろしい」
それでは我らは参りましょう。
我が聖剣ミストルフィンを持つに相応しい神と成る者を探し出し。
「象徴とするのです……! 黄昏に栄光を! 真なる世界に祝福を!」
おお、我らが聖剣! 我らが正義!
――神がそれを望まれる!
――神がそれを望まれる!
成否
成功
第1章 第23節
もし。
もしもであるが『彼』の方が狂気に染まり、こちらに手を伸ばしてくれたとして。
或いは彼の方がこの世からいなくなったとして。
「彼の方の三月うさぎな私が」
狂気のその手を取らない理由と染まらない理由はもうなくなるでしょう?
卯月の狂気は『彼』に依存する。『彼』が至れば己も至るだろうと。
だけれども――そう至っても尚
「彼の方は私自身を見てくれない」
なんで?
どうして?
私が彼の方と同じ世界出身だったら、見てくれた?
「羨ましいな」
妬ましいな。彼の方の隣は私が良いのに――
そうだ。だから、殺そう。
特異運命座標(アリス)が全員朽ち果てれば――己しかいなくなれば!
「ねぇ、特異運命座標(アリス)たち! 聞いて!」
偶像だった私の為に、尊さでしんどさで苦しさで。
「身悶えながら逝ってくれないかな!?」
狂気の笑顔は張り付き、彼女は舞う。
己が望みの為に。
己が全てを――叶える為に。
成否
成功
第1章 第24節
魔種? 反転?
「ええと……つまり反転の体験が出来る、と」
「そうだよ~まぁ旅人さんは反転しないから、狂気かな?
まぁ仮想空間だからやれば出来るけどね~」
ウォーカーである縁は反転は出来ない。が、狂った想定で言うならば……
「……私の気が狂ってしまう事……」
想像する。
精神的ショックを受けるのはどのタイミングか?
――それは大事なものを奪われた時。
「そして……」
私の縋る道。帰還への道筋が閉ざされた時。
もうどうしても戻れないのだと知った時、正気を保っている自信がない。
ああ、だから――
大好きだったあの人のように、髪を白く染めましょう。
「あの人がそうだったように」
須らくを楽しみましょう。
『あの人』自身になるかのように。
――彼女は狂う。戦いさえも、争いさえも。刹那的な享楽に身を任せて。
殴り、蹴り、壊して。もう歌は聞こえない。
やがて見据えた鏡には、血に染まった白き髪が見えて。
「……あれ? どこでそれを見たんでしたっけ?」
覚えてないな。
まぁいい。どうでもいい。心底興味がない。
それよりも『彼』だ。
曇った瞳ではもう何も見えないし、見たいものだけしか見えないけれど。
「待っていてくださいね」
今、お側に行きますから。
彼女は満面の笑みを顔に貼り付ける。
ああだって――会いに行くのだから。
あの人に。会えないあの人に。
成否
成功
第1章 第25節
大切な人が亡くなったと自覚した時、葉月の魂は振り切れた。
悲しくて辛くて、怠惰な狂気に狂わされ。
「――何をやるものをめんどくさくなっちゃった」
活力が湧かない。胸の内に何も宿らない。
ああ――今だったら昔から憧れてた、きらきら可愛い物言わぬお人形さん。
「あれになりたいな」
今だったらなれる気がするんだ。
茨の鎧で身を守って、マリオネットダンスで同じ人形を作って……
たのしいタノシイ人形劇――
「あぁでもやっぱりめんどくさいな」
やりたくないな。誰かにやらせてしまおうか?
しかしやはりそんな気も湧かない。
私は大切なみんなと一緒にいれたら良かっただけなのに。
「なんでそれを奪っていくんだろ?」
疑問符が浮かぶ。されど、それを考える事すら面倒くさくなるものだ。
横になって天を眺め――あれ?
「……一緒にいたかったあの人たちって誰だっけ?」
思い出せない。
まるで喪失したかのように脳裏によぎる事すらない。
思い出そうと試して――しかし。
「まぁいいか」
やっぱりやめた。
お人形(私)には、必要ないもんね。
知り合いも。友達も。みんな、みんな……
成否
成功
第1章 第26節
「……反転? 私は旅人だが? 心配するな狂気がある?
……いや、それはそうだろうが……まぁ、実害は無いであろうし私は構わないが」
アレックスは吐息一つ。妙な人物に絡まれたものだと思いながら。
依頼ならばと承諾し――仮想空間へとダイブする。
されば降り立つはネモフィラの花畑。ここは……
「――この景色は」
瞬間、気付く。
己が目から滴り落ちる血涙に。指で掬えば脳髄を叩くような感覚が。
そうだ、これは。これは私の始まりの――
「……ああ。狂気とはこの事か。なるほど、なるほど。そうさな。
私は確かにこの時願ったな」
思い出す。
アレックスの始原を。彼は願った――この日この時。
『こんな世界、壊してしまいたい』
だから自らに刺さる七つの楔を今、解いた。
金色の拘束具が壊れて外れた。水晶の体から翼が、角が、尾が育つ。
ネモフィラの色をした水晶の翼ある蛇が今生まれ落ちた。
或いは新生というべきか? 蛇は衣を脱いで新たな身を――魂を晒す。
アレックスは一度『至れば』もう止まらないのだ。
今まで制御していた筈の者が――溢れて零れて世界を埋め尽くす。
『――? なんだ、だれだ?』
瞬間。視線を感じ、そちらへ向ければ。
『誰か』がいた。
何故、見る? 何故、私をそんな悲しそうに見るのだ。
『……私?』
私とはなんだろう。ワタシとはなんだ? わたし、ワ、ワタ、私?
記憶も意識も全てがネモフィラの色に塗り潰されていく。やがてアレックスという『我』もなくなるであろう――しかしその前に、ひとつの叫びだけが発せられた。
魂に響く――たった一つの叫び。
『姉上の体で、そのような目を向けるな!!』
脳髄に衝撃を受けたかのような感覚と共に、アレックスは――
成否
成功
GMコメント
恐らくですがこのラリーは一章のみで終了します。
それでは、ご縁があればよろしくお願いします!
●依頼達成条件
自身が反転した(旅人の場合は狂気に染まった)……
という想定での行動を見せてください。
傲慢、強欲、嫉妬、憤怒、色欲、暴食、怠惰。
いずれかの影響を受けた貴方は――どのような行動を行うのでしょうか――?
●フィールド
ここは仮想空間です。貴方が指定した場面が再現されます。
それは貴方の故郷であったり、或いは思い出の地であったり、どこかの国家の街だったり、戦場・病院・図書室・役場・虐殺されている現場・略奪にあっている村・焼かれた孤児院だったり――どんな指定でもOKです。
『自らが反転している』であろう場面をプレイングに御記載ください。
それを元にシミュレーションが行われます。
●シミュレーション内容
基本的に『自分ならこうするだろう』という行動をしてください。
理不尽が降りかかり反転した貴方は復讐を遂げようとするかもしれません。
悲しみにより反転した貴方は欲望のままに行動するかもしれません。
怒りにより反転した貴方は。喜びにより反転した貴方は。
喪失により反転した貴方は。失望により反転した貴方は。
如何なる行動をするのでしょうか。
巨大な力により愚かな者を屠るも良し。
絶大な力により己が望みを叶えるも良し。
至高の力により討伐者達を返り討ちにするも良し。
その狂気を魅せてください。
●依頼主
ちょっとウチで反転してみない? と色んな人に声をかけている謎の人物です。
何度聞いても名前を伏せる為、その正体は謎に包まれています。
一応、ちゃんと練達に所属している人物の様ですが、正式な書類の名前も伏字になっていました。一体何者なんだ……
●情報精度
このシナリオの情報精度はAです。
想定外の事態は絶対に起こりません。
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