PandoraPartyProject

シナリオ詳細

悪い子だから、天使になれたの

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●常闇への手招き
 腐敗の香りとたかる蟲。月明かりが僅かにさしこむスクラップだらけの廃墟群。
 ひとたち踏み込んだなら、『彼ら』はあなたを歓迎するだろう。
 町いっぱいの亡霊達が、クリスマスツリーやプレゼントボックスになってあなたを出迎えてくれるだろう。

 どうぞ奥へ。どうぞ奥へ。お代は結構。
 チップにあなたの命をもらうから。
 そしてあなたも、町の飾りのひとつとなるのだ。

●きっと楽園だったかもしれない場所
 監獄島旧監獄街。この場所をどういう場所かと説明するのは難しい。
 幻想王国内の実質的な治外法権地帯である監獄島。殺人を犯して収監された貴族ローザミスティカによって完全に支配されたこの島に手を出せる者などいない。それが幻想三大貴族レイガルテ・フォン・フィッツバルディであってもだ。
 故にレイガルテからの間接的な依頼として、ローレットはローザミスティカとその派閥から出される沢山の依頼を受けることになったのだった。
 当然というべきかここは犯罪者しかいない無法の地。独自のルールができあがり、独自の文化が組み上がる。その中でも奇跡的に表の世界に似通ったのが監獄街と呼ばれるエリアだった。
 囚人達があつまり、どこからか調達した物資を取引する。床屋や食べ物屋、酒場に警備会社、娼館までもが集まったそこは文字通り監獄の中の町であった。
 島内だけで流通する独自通貨ローザコインを主とした流通は島を図らずも発展させた……かにみえたが。
 しかしそこは無法の町。天才的殺人鬼の登場によってたちまち悪魔の屠殺場と化し、住民の悉くは愉快なオブジェに成り果てた。
 その状況に『飽きた』のだろう。ローザミスティカの命によって殺人鬼は抹殺され、町の平和は取り戻された。
 ……かに、思えたが。

「あの町はダメだね。バケモンだらけで近づけやしない。入った奴は今頃奴らのお仲間さ」
 扇情的な下着のうえにロングコートを直接羽織った女が、けだるい顔をして煙草をくわえていた。情報屋から代金として支払われた煙草である。
 煙を胸いっぱいに吸い込んで、ため息のように吐き出す。
 長く伸びたブロンド髪をかきあげて、こちらを睨むように見た。
「死んだ人間が亡霊になって出てんのさ。あそこじゃ酷ェ死に方した奴がゴロゴロいるからね。あたしのばーさんの言葉を借りるなら、儀式魔術が完成したのさ」
 先ほど述べた監獄街の経緯が、凶悪な亡霊だらけのリアルお化け屋敷を完成させたというワケである。
 看守のひとりが駆除しようと中に入ったが戻ってこず、ファミリアーを忍ばせたところ五体バラバラの亡霊になって天井からぶら下がりながら笑っていたという。ファミリアーにしたネズミをかみ砕きながら。
「『誰のせい』なんてこたぁ言わねえよ。この島でンなこと言い出したらキリがないからね。
 けど、せっかく住み着いてた場所がホラーハウスになったんじゃやってられないのさ。
 商売にだって差し支えるしね」
 だから、と煙草を手に取って親指を立て、そして下へ向けた。
「あのくたばり損ないどもをもう一度ぶっ殺してきな。もちろん、うまくやれりゃあお代は弾むよ」

GMコメント

■オーダー
 亡霊だらけとなったエリアへ侵入し、亡霊達を残らず撃滅します。
 現れるのは亡霊系モンスターのみですが、若干の強弱とタイプの違いがあります。
 フィールドの様子も含めて解説しましょう。

■フィールドデータ
 監獄島の中に作られたスラム街。もといスラム街跡地です。
 スクラップの寄せ集めでできた町並みは血と泥に汚れており、あちこち分解し飾り付けられた死体だらけになっています。それもだいぶ前のことなのでひどく腐敗しているようです。
 この場所で死んだ者たちが亡霊となってモンスター化し、侵入するものを無差別にとりころそうとしてきます。
 町は主に四つのエリアに分かれており、『bar visiv』『リトルリリス』『黒縄地獄』『中央広場』とそれぞれ呼ばれていました。便宜上今回もそう呼びます。

・チーム分け
 亡霊の著しい偏りや不慮の事態を避けるため、今回のメンバーを『3チーム』にわけて別々の入り口から侵入させます。
 『bar visiv』『リトルリリス』『黒縄地獄』のそれぞれをチームで攻略後、『中央広場』にて合流し最も凶悪かつ強力であろう亡霊の退治にかかります。

■エネミーデータ
・浮遊霊
 『bar visiv』『リトルリリス』『黒縄地獄』に現れるノーマルな亡霊です。
 小動物を弱らせる程度の力をもちますが、戦闘力は大してありません。
 これらに掴みかかられるとステータスダウン系のBSにかかることがあります。

・蠢く死体
 『bar visiv』『リトルリリス』『黒縄地獄』に現れる死体にとりついた亡霊たちです。物理的なダメージをあたえやすく、ポルターガイスト(周囲の物体を浮かせて投げつける)などの攻撃方法をもちます。
 一方で浮遊霊のようなBS攻撃をもちません。

・ゴーストリリシー
 三チームが合流する『中央広場』に居着いている『リリシー・ショトゥール・ベズモリコン』の亡霊です。
 あまりに天才かつ凶悪かつ無邪気な殺人鬼として大量の人間を斬殺し遊び尽くした末に死亡しましたが、まだ遊び足りないのか凶悪な亡霊となってモンスター化しました。
 半透明な人間型のモンスターですが、戦闘に関してはずば抜けて強いため皆で協力しなければ勝利は難しいでしょう。

■おまけ解説
 本件は以下のアフターシナリオですが、このシナリオ内容を知らなくても充分にお楽しみいただけます。
『天使が来たから、いい子じゃない』
https://rev1.reversion.jp/scenario/detail/3440
『いい子はおやすみの時間』
https://rev1.reversion.jp/scenario/detail/3832

●注意事項
 この依頼は『悪属性依頼』です。
 成功した場合、『幻想』における名声がマイナスされます。
 又、失敗した場合の名声値の減少は0となります。

●Danger!
 当シナリオにはパンドラ残量に拠らない死亡判定が有り得ます。
 予めご了承の上、参加するようにお願いいたします。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。
 情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。

  • 悪い子だから、天使になれたの完了
  • GM名黒筆墨汁
  • 種別通常(悪)
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2021年03月02日 22時05分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

夢見 ルル家(p3p000016)
夢見大名
エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)
愛娘
極楽院 ことほぎ(p3p002087)
悪しき魔女
シラス(p3p004421)
超える者
ジェック・アーロン(p3p004755)
冠位狙撃者
ピリム・リオト・エーディ(p3p007348)
復讐者
ヴァイオレット・ホロウウォーカー(p3p007470)
咲き誇る菫、友に抱かれ
鏡(p3p008705)

リプレイ

●天使が来たから、いい子じゃない
 監獄島。重大な殺人を犯した貴族ローザミスティカが収監され、それゆえに彼女の権力によって支配された治外法権の島。
 政治ゲームのカードとして非常に有効かつ強力なこれを手に入れるべくフィッツバルディはローレットを『何でも屋』として派遣し、ローザミスティカとのコネクションを強めるコストとして支払っていた。
 そうした側面ゆえに、幻想貴族レースにおいてフィッツバルディ派に属する『離れぬ意思』夢見 ルル家(p3p000016)は幾度もこの島を訪れていたが……。
「監獄島に町があるとは初耳ですね。まあ、今や巨大なお化け屋敷ですけど」
 ローザミスティカの暴君っぷりを例に挙げるまでもなく、この島における非業の死など掃いて捨てるほどある。化けて出ないほうがおかしいくらいだ。
 そして『掃いて捨てる』仕事が、自然と自分たちに回ってきたのだろう。
「ま、そういうこと。……受けた依頼はこなさないとね。それじゃ、お化け退治と洒落こもうか」
 監獄街に近づく馬車の上、『黒の猛禽』ジェック・アーロン(p3p004755)は手にしたガスマスクを顔にはめた。
「この腐った空気、嗅ぎなれた臭いですけど。
 別に好きな臭いじゃないんですよねぇ、私は死体が好きなんじゃなくて。
 人を斬るのが好きなんですからぁ。
 あ、リリシーちゃんって可愛かったです?
 それを愉しみにするしかないかぁ」
 刀の柄頭をゆびでとんとんとゆっくりしたリズムで叩く鏡(p3p008705)。
 彼女のためにも(?)少女リリシーについて説明すべきだろうか。
 リリシー・ショトゥール・ベズモリコン。
 幼い妹を殺害したとして収監された彼女はその異常な精神構造ゆえにローザミスティカの目にとまった。『殺しを楽しめない自分は悪い子だ』という考えに支配され、いいこになるべくローレットを頼る形になった彼女は、結果として『いい子』になることに成功した。
 恐るべき才能によって殺人術を素早く習得し、監獄街というスラム以下の環境によって瞬く間に成長したリリシーは猟奇殺人を死ぬまで楽しんだ。
 ローザミスティカが『ただの天才殺人鬼』となったリリシーに飽きたというのが根本的な理由だが、その始末によって彼女と彼女に虐殺された死者達、そして町の環境によって死んだ者たちが儀式魔術的にゴースト化。このまま町を放棄するのも勿体ないと思ったのか、此度改めて『お掃除』が始まったのである。
「…………」
 『鳶指』シラス(p3p004421)はそんな話の裏、もしくはもっと裏のことまで考えながら、しかし考えすぎないように頭の回転をゆるめながら、馬車の揺れに身を任せていた。
 ここまで解説してしまってナンだが、もしかしたらものは知らないほうがずっと楽に生きていけるのかもしれない。ことと次第によっては。
 『《戦車(チャリオット)》』ピリム・リオト・エーディ(p3p007348)はその辺りにおいてぬかりないというべきか、自分の世界半径を固く定めて生きていた。
「生きていた……いや、化けて出たのですかー。
 こーいう場合イーゼラー教ではどういった解釈になるんでしょーねー。
 んなことはどーでもいいですがねー。
 私は脚を頂くだけですのでー。
 と言っても以前痛い目みたので今回は油断せずいきましょー」
(パーティーの熱は、冷めやらず。
 寝かしつけた子が、起きてしまった、か)
 以前の戦い。天才殺人鬼として成熟したリリシーとそれを巡った殺し合いに巻き込まれた『金色のいとし子』エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)たちは、当時のことを思い出しながら……止まった馬車から降りた。
 いつの間にか車輪をとめていた馬車の外はじっとりと生臭く、いつまでも掃除をしていない家や放置された排水溝のようなにおいがした。
 それが放置された死体とそれをあさる動物たちによるものだと、エクスマリアはすぐに気付く。
「前回は辛勝っつーカンジだったし、リベンジにゃイイ機会だな!」
 『悪しき魔女』極楽院 ことほぎ(p3p002087)はそれこそ前回とは大きく異なる呪術体系を備えて監獄街の前に立っている。
 厳密にいえばチーム黒縄地獄の囚人たちによって負った怪我の思い出だが、町そのものへのリベンジととって間違いないだろう。
「リリシー。かの少女と再び相見える事になるとは……」
 あのときと大きく変わったのはことほぎだけではない。
 『影を歩くもの』ヴァイオレット・ホロウウォーカー(p3p007470)もまた。
 そっと手を額に当て、中指でなぞるように鼻先までおろす。
「死して尚遊び足りないとは。どうやら、借りを返す機会が出来たようですね」

 扉が開き、それぞれの入り口へと通される。
 悪者達の『幽霊殺し』が、始まるのだ。

●リトルリリス
 監獄島の歓楽街……といえば聞こえはいいが、監獄の中で勝手に娼婦たちがコミュニティを作りルールを作りローザコインを稼ぐ窓口とした娼婦共同体。商売の邪魔をすれば、もしくは娼婦に手を出せば、見せしめとして吊されるのがこのエリア……だったが。
「死体、死体、全員死体! これじゃあお客もつきませんよ!」
 ルル家は深くかかった前髪を指ではらうと露わにした瞳から虚無の波動を放射。
 死体たちをその場に呪詛で縛り付けると、宇宙苦無を抜いて斬りかかった。
「ていうかなんでリリシーなんていう危険人物収監したんですか! さっさとその場で処刑して下さいよ! おこですよ!」
「そりゃ、『収監してください』って貴族サマがいったからだろ。幻想王国は民主主義国家じゃねぇんだ。百人殺そうが貴族サマなら無罪にだってなるだろ」
 ことほぎはくすくすと笑うと紫煙の吐息を吐き出した。監獄魔術によって死体たちが煙の枷にとらえられ、周囲の死体やゴーストへと掴みかかっていく。
「おっと、トラップには気をつけときな。リリシーってのは趣味の悪いトラップが得意らしいからね」
「チッ……」
 シラスは舌打ちをひとつすると囮罠のベアトラップを投石によって空振りさせ、本命のワイヤーとラップをスライディングでくぐりぬけていく。 
 ナイフのようにといだ小指の爪を交差させてぴっとワイヤーをきると、掴みかかってくるゴーストたちの間を強引にすり抜け手刀を振り抜く。
(このゴミ溜めみたいな空気……懐かしすぎて吐き気がするぜ)
 切り裂いたアストラル実体が渦をまき、魂は存在を維持できずに崩壊していく。
 『おばけなんてこわくない』。殺せるならば、みな同じだ。

●bar visiv
「このコンビ、いいですね。おなじみって感じで」
「利害も一致するのでー、私も楽ですー」
 次々起き上がる腐乱死体たちを前に、ピリムと鏡は刀を納めた状態でゆっくりと歩いて行く。
 死体たちが一斉に掴みかかる――かに見えたその時。鏡は特殊な歩法で死体たちの間をすりぬけ、そして刀の柄をトンと叩いていた。
「あなた……もう斬っちゃいました、死体に言っても意味ないですけどぉ」
 一拍遅れて死体たちの腕が切り裂かれ、バランスを崩し始める。
 ピリムはグッと姿勢をひくくとり、顎が地面にこするのではと思うほどの低さを豪速で走り抜けていく。
 得意技というべきか、趣味と言うべきか、ないしは……必殺技というべきか。ピリムは死体たちの脚をのこらず切り落とし、その一本を手に持ってじっと見つめていた。
「んー、やっぱただの死体を斬っても酷い味ですねぇ、おぇー、です……珍味と言えば珍味なんでしょうか」
「私はアリですねー。平等に脚を頂……いやイーゼラー様のもとに送ってあげましょー」
「ふむ……そっちは、まかせた」
 エクスマリアは死体たちの処理をピリムたちに任せると、空中を泳いでこちらに掴みかかりに来るゴーストたちを視界に捕らえた。
 ゴーストになどまるで興味が無いといった風のピリムや鏡へ掴みかかり肉体へ侵食しようとするゴースト達。
 しかしエクスマリアは頭髪にバチバチと魔力のスパークを起こし、味方だけを傷つけないようゴーストたちだけに魔力を流し次々に破裂させていった。
「急ごう。本命は、この先、だ」

●黒縄地獄
 監獄街の中でももっとも栄えていた……とされるエリア。それが『黒縄地獄』である。
 ローザミスティカのたわむれや気まぐれによって生まれた規則のエアポケットを、住民(囚人)たちによって擬似的にルールを定めて一定の生活空間を確保した場所……だが、住民達が残らず斬殺されたことでルールはたった一つだけになった。
 ルール第一……『生者を殺せ』。
「憐れ……というべきなのでしょうか」
 ヴァイオレットは胸元から取り出したタロットカードを返すと女帝の絵柄を示した。
 途端豊穣の結界が張り巡らされ、射撃姿勢にはいったジェックのマガジンが補充されていく。
 それをちらりとだけ見ると、ジェックはライフルを両手でしっかりと握り、機敏なターンと高速照準でもって取り囲もうとするゴーストも死体も残さず破壊。
 数に任せて迫りジェックへとしがみつくゴーストたちが現れるも、ヴァイオレットが新たにめくった塔のカードが雷を起こし、しがみついたゴーストの腕を無理矢理引きは合していく。
「アチコチに敵が隠れてる。慎重に進もウね」
 狙い澄ました銃撃によって死体とその後ろに隠れたゴーストをまとめて打ち抜くと、ジェックは空っぽになったマガジンをポケットへと入れ素早くリロード。
 残る敵を撃ち殺すと、しっかりと構えたまま通路を進んでいく。
 ちらりと見上げた『WELCOME』と血文字で描かれたゲート。
 ヴァイオレットは『あの頃と変わりませんね』と、まるで昔を懐かしむような皮肉を言った。

●ゴーストリリシー
 人間の腕や脚が柵のように並び、大きな木には腐った生首が大量にぶら下がっている。
 悪趣味極まるクリスマスツリーの下には、少女がすやすやと眠っていた。
 否。
 眠るふりをして、獲物が近づくのを待っていた。
 ゴーストリリシー。かつてこの町で生まれてしまった、もしくは生み出してしまった天才殺人鬼の亡霊である。
 ことほぎは当時を僅かに思い出しながらも、紫の煙を吐いて魔弾を生成。
 無数に生まれた弾丸がゴーストリリシーへと殺到する。
 直撃――かに思われたが、弾はすべて木の幹へとめりこんでいた。
「こんにちは、おねえさん! 一緒に遊びましょう!」
 声が聞こえたのは、まさかの背後からだった。
「遊びは終わりだっつってんだろーが! あんまダダこねてんじゃねェぞクソガキ!」
 大量のゴースト生首がことほぎにかじりつくが、その場から転がるように距離を取って今度こそ監獄魔術『プレガーレ』を発動。呪いの魔弾がゴーストリリシーの腕へとめり込んでいく。
「この一太刀の後はもう私は何もできません、任せましたよぉ」
「いつぞやは頂けなかったその脚、今日こそ手に入れますよー。ついでにその魂、イーゼラー様の元に送ってあげましょーねー」
 止まる動きは一瞬。
 攻める動きもまた一瞬。
 鏡とピリムはぞれぞれ抜刀し、ゴーストリリシーの腕と足を素早く切り落としていった。
 交差した白黒の影がちいさなつむじ風を作って停止。
 ゴーストリリシーは切り離された両腕のまま、両手をぐーぱーと動かしてから180度振り返って……笑った。
 キャハハ、という笑い声と同時に空中へ生まれる何十本もの腕。すべての腕がボウガンを掴み、二人へと狙いを定めている。
 一斉発射――に紛れて一発。
 崩れた屋台跡の隙間から狙っていたジェックの狙撃がゴーストリリシーの脳天へと直撃した。
(随分と、まぁ──純粋な娘だったんだろうね。知らないけどさ)
 パッと花火でもあがるように吹き飛ぶ頭部。
 しかしそれでも、ゴーストリリシーのボディは変わらずカタカタと笑うように動いていた。
 残った下顎から僅かに上顎が再生し、カチカチと歯を鳴らし始める。それからすぐにリリシーの笑い声が広間一帯に反響し始めた・
「久しぶりだ、な。リリシー。愛らしい顔がまた見られたのは、幸い、だ。前は砕いてしまったし、な。
 今度こそパーティーはお開き、だ。リリシー。良い子でも、悪い子でも、夢でなら好きなだけ、遊んでいい。だから、おやすみ」
 迫るエクスマリア。
 見えないトラップが彼女の腕や足に絡みついて血を吹き出させるも、強引に距離をつめ『満ちぬ伽藍瞳』を発動させた。
 攻性呪法によってゴーストリリシーのやや半透明だった肉体がくっきりと色をもつ。
 今こそ攻撃のチャンスだ。そう考えたシラスは急接近をかけ、肉体をブースト。腕や足が無数に増えて見えるほどの連撃をゴーストリリシーへとたたき込んでいく。
「悪いな、パーティーはおしまいだ」
 と同時に、地面から無数の鉈をもった腕が出現。一斉に暴れ始める。
 跳躍して逃れたシラスと入れ替わるように、建物の屋根からルル家とヴァイオレットがそれぞれ飛んだ。
「元気な幽霊ですねえ」
「以前は敗けましたが……此度は、そう簡単には捕まりませんよ」
 バッと無数に分身を作り出し、ひとりでゴーストリリシーを取り囲むルル家。
 それぞれ装備した宇宙暗器を一斉にたたき込むその中で、ヴァイオレットは第三の目を開き一時的に邪神の力を解放。
 分身ルル家たちに全身を切り刻まれながら、ゴーストリリシーは眼球と唇だけを再生させた笑顔でヴァイオレットへ銃口を向けた。
 ヴァイオレットの額を打ち抜く銃弾――と見せかけて、ヴァイオレットは既にゴーストリリシーの背後から手を回していた。
 首から頬に手を這わせ、脇腹から胸へと手を這わせ、それぞれを紫色の爪をたて、ずぶりと肉の内へと沈めていく。
「おやすみなさい。リリシー」
 手の中で、何かが握りつぶされた。




 亡霊が駆除された監獄街には、再び平和とは真逆の世界が戻ってきた。
 いずれここは悪徳の巣。住み着くものが生きているか死んでいるかの違いでしかない。
 だがいずれにしても……。
 この島で生まれてしまった殺人鬼が、もう現れることはないだろう。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 ――依頼達成

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