シナリオ詳細
紅の雨
オープニング
●狂乱もたらす紅い雨
スウィードの街に、ザアザアと血を思わせる紅い雨が降る。
この雨自体は血ではなかったが、雨に降られたスウィードでは至る所で雨と同じ色の血が流れていた。
と言うのも、この雨には触れた者の認識をネガティブに歪めつつ、人々が持つ心の奥底の攻撃性を増進させ表に出させる作用があったからである。そして、悪いことにスウィードの街の住民には、その作用を強く受けてしまう要因があった。
もっとも、これはスウィードの街の住民達が悪いわけではなく、アドラステイアから聖獣ゴールデンロータスが放たれたことに起因する。ゴールデンロータスがイーカタの街を壊滅させた際、イーカタからスウィード間の街や村の住民はスウィードに避難していた。しかしゴールデンロータスがイレギュラーズ達によって討伐された後も、避難していた住民の多くがスウィードに残留することを望み、元の住処へは帰らなかった。さもあろう、いつアドラステイアから聖獣が放たれるかわからない以上、その近くに戻りたいとは思うまい。
しかし避難民の存在はスウィードの街の環境を悪化させた。それでも領主の努力や住民達の持つ信仰や善性もあり、元々の住民と避難民との間で諍いが発生することはなかったが、元々の住民達には街の環境の悪化と食料含む物資の不足へのストレスが、避難民達には元の住処に帰るに帰れないまま食うもままならない不自由な生活を送る事へのストレスが、確かに存在したのは事実である。
故に、スウィードの住民達がこの雨に濡れた時。
「とっとと元の家に帰れよ! お前達がいると暮らしにくいんだよ!」
「うるせえ! そうやって自分達だけ安全なところでぬくぬくしてようってのかよ!」
このように元々の住民と避難民との間で、そして元々の住民達の間や避難民達の間でも衝突が発生し、流血の惨事が発生した。
●狂乱を眺め愉しむ仮面の子供
「あははははは! 不心得者同士が争い合う様は楽しいなあ!」
白い騎士鎧を纏い白い仮面を被った子供が、掌に浮かぶ水晶球に映し出されるスウィードの光景を見て楽しそうに笑う。
「前の聖獣様は残念だったけど、この街には今度の聖獣様で滅んでもらうよ!」
仮面の子供が空を仰ぐと、その視線の先には全体が血のように紅い色をした巨大な天使がいる。その真紅の天使が、スウィードに紅い雨を降らせていたのだ。
「おっと、君達は邪魔だね。大人しくしててもらうよ」
「Ah――――!」
水晶球の中で騒動を抑えるべく兵士達が出動したのを確認した仮面の子供がそう言うと、真紅の天使が口を開いて歌うように叫ぶと共に、ブレスの如く衝撃波を吐き出す。
「うぐっ、ううっ……」
瞬く間に衝撃波に吹き飛ばされた兵士達は、その場で苦痛に呻くことしか出来なくなってしまった。その様子を見て、仮面の子供は満足そうに笑う。
だが、仮面の子供はまだ知らない。スウィードの領主から依頼を受けたイレギュラーズが、真紅の天使を討つべく迫っていることを――。
- 紅の雨Lv:15以上完了
- GM名緑城雄山
- 種別通常
- 難易度HARD
- 冒険終了日時2021年02月23日 22時02分
- 参加人数10/10人
- 相談6日
- 参加費100RC
参加者 : 10 人
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参加者一覧(10人)
リプレイ
●紅の雨降りしきる中で
ザアザアとスウィードに紅い雨が降り注ぐ中、イレギュラーズ達は真紅の天使と対峙する。
「うええ……紅い雨だ……きもぢわるい……。
あの天使——天使っていうには気持ち悪いけど、を倒せば解決できるんだよね?
ああもう、さっさと帰ってお風呂入るっ!」
透明であるはずの雨が、紅い。『希望の紡ぎ手』アリア・テリア(p3p007129)はその光景に、そして身体が紅く濡れる様にげんなりとする。そして真紅の天使を見上げると、早々に決着を付けて身を清めようと決意した。
本来、この雨は不快感を抱かせるだけでなく触れた者の認識を歪ませて攻撃性を増進する効果を持つのだが、可能性の力であるパンドラを有するアリアはその影響を免れている。
「いやあ、雨じゃん! もうめっちゃ雨。ごはんも食べてばっちりだったのにっ!
運動会は雨天決行とかチラシには書いてなかったぞー!
それに赤い天使サマはどうよ? 地に足つけて戦えー! なんつってなー! ぐははー!」
一方、『奏でる記憶』茶屋ヶ坂 戦神 秋奈(p3p006862)はこの雨が紅いことなど気にならないのか、戯けた風に叫んでいる。
「……へくちっ!」
だが、体温を奪われて身体が冷えたのか、可愛く小さなくしゃみをしてしまった。
(……不和を誘う、紅い雨。聖獣の名にも、天使の姿にも、似つかわしくない、な。
あれも、イコルによって変異させられた者なら、哀れ、だ)
『金色のいとし子』エクスマリア=カリブルヌス(p3p000787)は、表情を変えぬまま、真紅の天使の姿を見上げる。だが、エクスマリアの昏い金色の髪は萎れたように垂れ下がり、聖獣の元となった者への同情、憐憫を示していた。
「血に塗られた紅い天使っつー具合か。ケッ、聖獣如きが天使の姿してんじゃねぇっつーんだよなあ」
蔑むように吐き捨てたのは、『太陽の勇者』アラン・アークライト(p3p000365)だ。
「……それに、この天気。中々に気持ちが悪いな」
勇者を自認するアランであっても、それが直接的な影響を及ぼすことはないにしても、雨が紅いことへの不気味さは否めないでいる。だが、それで怯むようなアランではない。勇者として討たねばならない敵がいるならば、敵が何であろうと、周囲がどうであろうと、討ち果たすまでだ。
「……やれやれ、天使の姿なんてよく取ったものだな?」
『騎士の忠節』アルヴァ=ラドスラフ(p3p007360)も、人々を害する聖獣が天使の姿をしていることに呆れた様子を隠さない。
(安心しろ、無駄に苦しませたりはしない。すぐ楽にしてやるから)
街に、人々に被害が出ている以上、元が人間だろうと放っておくわけには行かない。ならば、せめて早々に逝かせてやるのが情けであるように、アルヴァには思えた。
「やれやれ、物騒な天の使いもいたもので御座るな……迷惑極まりないというか。
避難民がいる街を狙ってくるとは、みみっちいで御座るな……聖銃士が聞いて呆れる。
そんな戦法がアドラステイアとやらのやり方なのだとしたら、程度のたかが知れてるで御座るなぁ。
とはいえ、あの紅い奴の力は本物……油断は出来ぬか」
「そのとおりだ、幻介。どんなに卑劣なやり様であっても……いや、だからこそ負けられない」
『裏咲々宮一刀流 皆伝』咲々宮 幻介(p3p001387)は、聖獣の姿ではなく、そのやり様に呆れ返っている。だが、それ故に敵の実力を見誤ったりはしない。幻介に応じた『風の囁き』サンディ・カルタ(p3p000438)の口調は柔らかではあったが、その瞳には幻介の盾となる覚悟が宿っていた。
「以前あった弱点を修正してきたようで、不気味ね……能力まで悪趣味になっているし……。
成り立ちといい、あれを聖獣と呼ぶのは嫌なのだけど」
はぁ、と嘆息しながら『舞蝶刃』アンナ・シャルロット・ミルフィール(p3p001701)は独り言ちる。そもそも、以前のゴールデンロータスにせよ、今回の真紅の天使にせよ、罪なき人々を無闇に殺戮する存在を「聖」なるものと称すること自体がアンナには堪え難い。
「攻撃性を増進させる紅い雨ね……たしか聖獣は人をイコルとやらを使って改造して作るんだっけか?」
ましてや、『揺るがぬ炎』ウェール=ナイトボート(p3p000561)が言うように、聖獣はイコルなるものを長期間、あるいは過剰に人に摂取させることで生み出されたものなのだ。
そのウェールは、過去に生物兵器とされ洗脳された過去から、聖獣には同情的であった。故に聖獣を倒すことで楽にしてやりたいと考える。
それに加えて、家族や隣人、あるいは同じ街の住民同士が操られたまま互いに殺し合ったとなれば、残った方が未来を生きるにあたって深く辛い傷になる。
さらに、もう二度と会えぬ息子梨尾も、この惨状を知れば「パパ、止めてよ」と涙ながらに願うだろう。だからこそ、ウェールは真紅の天使を必ず止めると固く意を決した。
「……あまりに、残酷な行為だ。人の心をかき乱し悲劇を誘発させる行為を、許してなるものか」
『白獅子剛剣』リゲル=アークライト(p3p000442)は、これまで人々の笑顔のために戦ってきた。それだけに、真紅の天使の所業を許せようはずはない。その義憤を表わすかのように、リゲルは拳をギリ、と握りしめた。
「――不正義を、ここに糺す!」
『白銀の剣』を鞘からスッと引き抜くと、リゲルはその切っ先を真紅の天使へと向けた。
●最大の武器は封じられて
「んじゃ、いこうぜ、幻介」
「ああ、頼むでござるよ、サンディ殿」
サンディはもう一人の自分の力を用いて、虚空から在りし日の紋章を召喚して展開する。その紋章によって飛行能力を得た幻介は、急速に飛翔してしていく。
「高空で見下しおって……気に食わぬな、実に不愉快で御座る。貴様の様な化生には、天空より地べたが似合いで御座るな。
さぁ、貴様の犯した罪……堕ちたその身で償うが良かろう!」
幻介はそう宣するとともに神刀『命響志陲(真)』を大上段に構えて、勢いよく振り下ろす。その一閃は、幻介の急速飛行の勢いも加わって、飛翔する刃となって真紅の天使の右翼に迫り、縦に大きく傷を刻んだ。
その間に、サンディも幻介を追って飛翔する。だが――。
「Ah――――!」
真紅の天使が口を開いて歌うような叫びを上げると、衝撃波の如きブレスが放たれる。ブレスは幻介とサンディを捉え、サンディの召喚した紋章を消滅させた。サンディは辛うじて体勢を崩さずに空中で持ち堪えたが、付与されていた飛行能力を消去された幻介は吹き飛ばされつつ地上へと落下する。
「幻介!?」
「心配ない! 任せろ!」
背中から地面に衝突するかに見えた刹那、幻介の下に潜り込むように滑り込んでその身体を受け止めたのはリゲルだった。
「大丈夫か、幻介。今、癒やす」
「本職ではないけれど、そうも言っていられないわね」
その様を目の当たりにしたエクスマリアは天の救済の如き力で、アンナは調和の力を活力と為して、ブレスによるダメージを受けた幻介を癒やしにかかる。
「た、助かったで御座るよ……ありがとうで御座る」
リゲルの救援と二人がかりの回復に礼を述べると、幻介はすぐさまその場で立ち上がった。
「空中戦は俺の得意分野でね。好きにはさせないさ」
アルヴァは瞬間加速装置を噴かして、真紅の天使のさらに上まで一気に飛翔する。
「これ以上、空を侵させるつもりはない。絶対に仕留めてやる!」
そして複雑な空中機動を交えた急降下で真紅の天使との高度を合わせると、『魔導狙撃銃BH壱式』でその右翼を撃った。弾丸は命中し、紅い翼の中に食い込んでいく。
「高みの見物しやがってクソ天使が……降りてきやがれ!」
英霊の鎧を身に纏ったアランは、怒鳴りつつ掌から赤黒い鎖を顕現させ、真紅の天使の右翼に向けて放つ。ジャラララ、と金属音を立てながら伸びていった鎖が右翼に命中すると、アランの内に在る憤怒の炎が鎖を伝わり紅い翼に引火した。
「歌でそんなことをするなんて……これ以上、その歌は歌わせない……!」
音を愛する精霊であるアリアは、真紅の天使が歌うように叫びながらブレスを吐いてくることを、音楽に対する侮辱と感じた。加えて、単純に攻撃としてみても、その性能は危険であるように感じられた。故に、これ以上ブレスを吐かせないよう簡易結界を施して封じようと試みる。
「A――!?」
結果、真紅の天使の喉に封印の印が刻まれ、真紅の天使のブレスは封じられた。
「空中戦としては初陣だ、行くぜ相棒!
デウス・エクス・マキーナ、ウェール=ナイトボートとちび天つ狐、出撃する!」
防具『デウス・エクス・マキーナ』の能力で飛翔したウェールは、自らの生命力を狼と黒虎の姿をした焔へと転換し、真紅の天使へと放つ。二つの焔は連携するようにして真紅の天使を惑わし、その右翼に食らいつき、爪を立て、火を着ける。その火はアランの着けた炎と一つになり、右翼の半ば以上を炎に包んでいった。
「戦神戦闘術肆の型、椿姫の刀。いくよぉーっ!」
秋奈は姉妹刀『戦神異界式装備第零壱号奏』のうち長刀の方を、居合術の如く鞘からスラッと抜き放つ。抜刀と共に発生した飛翔する刃は燕の姿を取り、燕は真紅の天使の右翼に数多の傷を刻んでいく。度重なる右翼への集中攻撃に、真紅の天使はたまらずがくりと体勢を崩してよろめいた。
●聖銃士の参戦
真紅の天使は、最初こそ幻介を狙ったものの、次からは弓矢でリゲルを集中的に攻撃してきた。真紅の天使の攻撃を誘引するべく『スーパークールなチョコミント』を食していたサンディは自分が狙われないことに首を捻ったが、これはリゲルが同様の効果を持つ『星の加護』を携行していた事による。
どちらも同じ効果を持つ以上、真紅の天使の敵意は的確に痛打を与えてくるリゲルの方に向いた、と言うわけだ。
故にサンディは幻介のフォローを続けるか少しだけ迷いを見せたものの、幻介の方には攻撃が向かないこともあってリゲルの盾となることを選択する。
一方、イレギュラーズ達は真紅の天使を地に墜とすべくその右翼を集中攻撃しており、時間こそ要したものの片翼を潰して地に足を着けさせることに成功する。
だがここで二度も与えられた聖獣を喪うわけにはいかないと、遠方から督戦するだけであった聖銃士、白い騎士鎧の仮面の子供が参戦する。アランのファミリアーをはじめとして、真紅の天使を督戦している存在には警戒している者が多かったため、イレギュラーズ達としては想定内ではあったのだが。
「よくも、よくもよくも……イレギュラーズめ! 二度も邪魔をして!」
聖銃士は片手の掌に水晶玉を浮かせつつイレギュラーズ達との距離を約四十メートルまで詰めると、もう片方の手に握った剣の切っ先をリゲルに向けて、そこから光線を放つ。
「出てきたな、アドラステイアの聖銃士!」
だが、その一撃はリゲルを庇うサンディに受け止められた。
「出張ってきたで御座るなら……逃がさぬで御座るよ」
「くっ、馬鹿な!」
幻介は聖銃士を捕えようと、その後方に回り込む。だが、聖銃士も当然易々と捕縛される気はなく、抵抗を試みる。
「やむを得ないで御座るな」
そうつぶやいた幻介の掌には、燃え盛る炎の扇があった。幻介がその扇を横薙ぎに払うと、炎はバッと大きく拡がり、聖銃士を焼いていく。
「く、くそっ。聖獣様、不心得者達をその剣で薙ぎ払って!」
聖銃士の指示を受けた真紅の天使は、リゲルを狙って紅く巨大な剣を横薙ぎに振るわんとする。
「ぐっ! かはっ!」
真紅の天使の剣もサンディが受け止めるがその衝撃は完全に殺しきれず、さらには聖銃士の光線と立て続けに攻撃を受けたこともあり、口から血を流す。
「聖銃士、手強い。でも、負けない」
「そうね。盾役を早々に落とすわけにはいかないわ」
だが、すかさずエクスマリアとアンナがサンディを回復しに回る。天使の祝福と調和の力とが、共にサンディを癒やしていく。その癒やしは、常人ならば満身創痍であろうとほぼ全回復に到ったであろう。それでも真紅の天使と聖銃士の攻撃による傷はそれ以上に深く、サンディが完全に癒えるには及ばない。だが、サンディの動きは癒やしを受ける前と後とで明らかに見違えていた。
リゲルは自身を狙ってきた聖銃士に駆け寄ると、審判の一撃を繰りださんとする。聖銃士はその一撃を辛うじて剣で受け止めた。そのまま、二人はギリリと鍔迫り合いに入り、片手に水晶玉を持つために片手しか使えない聖銃士を膂力に勝るリゲルが押していた。
「……この『真紅の天使』は、イコル多量摂取により変化させられてしまった子供、なのだろう?」
「……な!? お前は、何を言っている!?」
そして繰り出されたリゲルの問いかけに精神の隙を衝かれた聖銃士は、動揺で身体から一瞬力を抜いてしまい、派手に転倒してしまう。
「君は、アドラステイア自体が如何に危険な場所なのか、自覚は……ないのかな?」
聖銃士が聖獣の正体を知っていると予想していたリゲルは、聖銃士の反応に少し戸惑いながらも言葉を続ける。
「いずれにせよ、不正義は必ず糺される。悪の心を持ち、罪に手を染め続ける限り、君は逃げられはしないよ」
「……黙れ、黙れよ不心得者がぁ! そうやって、惑わせようと言うんだな!?」
リゲルが聖銃士を不正義、悪と言ったことで、立ち上がろうとする聖銃士は激昂した。無理もない。聖銃士の認識では自らが正義を為しているのであって、それを妨げるリゲル達の方が悪なのだから。
「へっへーん、恥ずかしがり屋さんめー。やっと出てきたねぇ。それじゃ、いくよぉー」
「ぐああっ!」
さらに聖銃士へと駆け寄ってきたのは、秋奈だ。秋奈は駆け寄り様に閃光の如き一閃を繰り出し、白い騎士鎧ごと聖銃士の身体に大きな傷を刻んだ。騎士鎧の白色が、紅く染まっていく。
「その光線も、撃たせないよ」
聖銃士の放った光線が驚異であると見たアリアは、聖銃士にも簡易封印を施さんと試みる。結果、聖銃士の剣を持つ手を覆う手甲に印が刻まれて、聖騎士は光線の射出を封じられ、接近戦のみで戦わざるを得なくなった。
その間にも、真紅の天使へはアラン、アルヴァ、ウェールが攻撃を仕掛けている。
「こっからが本番だ。絶対逃げるなよ? おらおらおらあっ!」
アランは右手に太陽の聖剣『ヘリオス』を、左手に月輪の聖剣『セレネ』を顕現させると、紅と蒼の閃光を迸らせて真紅の天使の脚に斬りつけていく。幾重もの斬撃を一点に受けた真紅の天使は、脚をガクガクと振るわせた。
「一斉に仕掛けよう。ウェールさん、奴の後ろに回ってくれ」
「任せろ、アルヴァさん!」
アルヴァは前後左右だけでなく上下をも交えた三次元的な機動で真紅の天使を惑わせ、ウェールはその間に真紅の天使の後方に回る。
そしてアルヴァは真紅の天使の頭部に向けて狙撃を行い、ウェールはその背中に狼の姿を取った炎を放つ。真紅の天使はアルヴァからの銃撃は腕で受け止めたが、その分ウェールからの攻撃には無防備となった。ズン、と炎の狼が真紅の天使の背中に直撃すると、大きく仰け反って体勢を崩しかける。
●紅の雨は止みぬ
その後、真紅の天使と聖銃士は二人がかりでリゲルを集中的に狙ったものの、その攻撃は盾役となったサンディにことごとく阻まれる。だが、エクスマリアとアンナの二人がかりの回復、それにサンディの自己回復を合わせてもパンドラを費やす寸前まで追い込まれ、サンディは盾役からの離脱を余儀なくされた。
そしてリゲルが直に真紅の天使と聖銃士の攻撃を受けるようになると、やはり二人がかりの回復を以てしてもパンドラを費やす直前にまで到る。
だが一方で、アリアによる簡易封印や行動阻害系の状態異常によって本領を発揮出来ないまま、アラン、アルヴァ、ウェールの攻撃によって真紅の天使が、幻介、リゲル、秋奈の攻撃によって聖銃士が、次第に傷を受け満身創痍となっていく。
やがて、聖銃士は真紅の天使を捨て石に逃亡を図ろうとしたが、幻介に追いつかれて足を止められたところにリゲルと秋奈の立て続けの一撃によって昏倒に追い込まれた。捨て石とされた真紅の天使もアラン、アルヴァ、ウェールがほぼ同時に仕掛けて止めを刺した。
同時に、降りしきっていた紅い雨は止み、陽光が周囲を照らし出す。それに伴い、スウィードの人々も正気を取り戻していった。
真紅の天使が討伐された後のスウィードは混乱に包まれていたが、イレギュラーズ達が手分けして状況を説明し、住民の救護にあたったことで落ち着きを取り戻していく。
「いがみ合ってしまうような発言をしてしまったのだとしても、貴方達の本心ではないはずです。
力を合わせ困難に打ち勝ち、生きて未来を紡いでいきましょう!」
天義において広くその活躍が知られているリゲルがこのように訴えたことと、エクスマリア、アンナが傷ついた人々を癒やしていったことが、特に功を奏した。
聖銃士については一先ずスウィード領主の預かりとなり、正式な処遇は追って決まることとなった。
「これで襲撃は二度目、だっけ? 執拗に狙ってきてるみたいだし、反撃の狼煙を上げたいね」
「ああ。このままやられっぱなしってのは、胸クソ悪ィな」
「同感だね。アドラステイアの聖銃士を捕まえたことで、何かその手がかりが得られるといいんだけど」
ひととおり自体が落ち着いた後に発されたアリアの言葉に、アラン、サンディが同意を示す。幻介、アルヴァ、ウェールも言葉にはしないものの、深く頷いた。
一方その頃――。
「うぅ~、へくちっ!」
他の仲間達より一足先に湯を借りて、紅い雨に濡れて冷えた身体を温めていた秋奈は、可愛いくしゃみを発したのだった。
成否
成功
MVP
状態異常
あとがき
シナリオへのご参加、ありがとうございました。かくして真紅の天使は討伐され、聖銃士は捕えられました。
実は聖銃士は逃亡成功させる予定だったのですが、幻介さんのプレイングと機動力11を見て「これは無理だ、逃げようにも逃げ切れない」と判断しました。
あと、真紅の天使の元ネタの半分である歌うような衝撃波のブレスが封印されたのがGMとしては悔しくてなりません(苦笑)
もっとブレスで暴れさせたかったなぁ、ぐやじい……とGMを一番悔しがらせた←と言う理由で、アリアさんにMVPをお送りします。
まぁ、こう言う予想外があるからGMはやってて楽しいとも言えるのですが。
それでは、お疲れ様でした!
GMコメント
こんにちは、緑城雄山です。
今回は天義の街スウィードに紅い雨を降らせて流血の惨事を引き起こす聖獣、真紅の天使の撃破をお願いします。
なお、今回の敵は空中敵でそこそこの高度を取ります。飛行スキルあるいは射程超の遠距離攻撃の用意をお勧め致します。
●成功条件
真紅の天使の撃破
●注意!
ジェットパックなどによる簡易飛行、あるいは媒体飛行は戦闘で用いることは出来ません。
もしプレイングでこれらを使おうとした場合、GM判断で命中と回避に通常の飛行ペナルティーに加え重篤なペナルティーを課すか、簡易飛行あるいは媒体飛行の部分をスルーするかして戦闘に参加させます。
くれぐれもご注意下さい。
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
●ロケーション
天義、スウィードの街。天候はOP描写のとおり紅い雨が降っています。
しかしながらこれに関する戦闘へのペナルティーは無いものとします。
●真紅の天使 ✕1
アドラステイアから放たれた聖獣です。
全高10メートルほどの全身が血のように真っ赤な天使の姿をしており、地表から数十メートル(※1)の高度を飛行しています。
OPにも描写したとおり、触れた者の認識をネガティブに歪ませ、心の底の攻撃性を増進させる紅い雨を降らせます。この雨の効果については個人差がありますが、パンドラを持っているイレギュラーズには効果を及ぼしません。また、真紅の天使が倒されれば紅い雨は止み、暴れている人達も冷静になります。
能力傾向として、巨体であることから攻撃力と生命力が高く、回避が低くなっています。
・攻撃手段など
天使の歌 神/至~超/域 【弱点】【変幻】【飛】【必殺】【体勢不利】【ブレイク】
OPで兵士達を襲った衝撃波です。距離を使い分けて撃つことが出来ます。
紅の矢 物超単 【万能】【必殺】【弱点】【出血】【流血】
紅の剣 物/近/単~範 【多重影】【弱点】【出血】【流血】【失血(※2)】
精神無効
【怒り】無効
※1:40メートルを超えることはありません。角度にもよりますが、射程超の攻撃を用いれば地上からでも攻撃は届くものとし、それ以上高度を取ることはありません。
※2:攻撃範囲が「単」の時のみ適用されます。
●仮面の子供
遠方から真紅の天使を督戦している、アドラステイアの『聖銃士』です。
戦況次第では戦闘に参加するかも知れませんし、参加しないかも知れません。
●スウィードの街
スウィード領の領主が拠点としている、スウィード領の中では規模人口共に最大の都市です。
先の聖獣ゴールデンロータスの襲撃によってイーカタからスウィード間の街の住民が難民として逃れてきており、しかもその多くがこの街に残留しているため、住環境は一気に悪化しました。
そのため元の住民、避難民双方がストレスを抱えたまま生活している状態であり、そこを真紅の天使の紅い雨によって暴発させられました。
●独立都市アドラステイアとは
天義頭部の海沿いに建設された、巨大な塀に囲まれた独立都市です。
アストリア枢機卿時代による魔種支配から天義を拒絶し、独自の神ファルマコンを信仰する異端勢力となりました。
しかし天義は冠位魔種ベアトリーチェとの戦いで疲弊した国力回復に力をさかれており、諸問題解決をローレット及び探偵サントノーレへと委託することとしました。
アドラステイア内部では戦災孤児たちが国民として労働し、毎日のように魔女裁判を行っては互いを谷底へと蹴落とし続けています。
特設ページ:https://rev1.reversion.jp/page/adrasteia
それでは、皆様のご参加をお待ちしております。
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