PandoraPartyProject

シナリオ詳細

灰薔薇の便り

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●幻想種の森
 ――何処に行っても、異質な者を見る目をされた。

 人間種と呼ばれる此の世界では最もポピュラーな種に生まれついた青年は冒険家であった。幻想王国の貴族の三男坊に産まれ、優秀な兄二人の背中を見詰め続けてきた。
 家を継ぐ事も無い彼は父兄にも疎まれた存在であった。『立派な貴族となるために世界を見て回る』という理由を付けて息苦しい家から抜け出してきたのだ。
 だが、彼の冒険もある一瞬の隙に楽しみから苦しみへと変化した。青年が幻想王国の貴族で有ることに目を付けた破落戸達は彼を拉致しようとしたのだ。
 命辛辛辿り着いたのは迷宮深林。破落戸はその地に踏み入れる事はせず、青年が野垂れ死ぬだろうと哀れに思ったと後の取り調べでそう言ったそうだ。
 青年が幸運であったのはその一部始終を深緑の遊撃部隊である『迷宮深林警備隊』が見て居たこと。その身柄を直ぐに確保し、アンテローゼ大聖堂の旅人たちの宿に保護されたことであった。
 幻想王国の貴族出ある青年は深緑のしきたりや伝統を知らない。故に、彼に対して幻想種達は『国へと送還する』事が決定された。
 ――だが、彼は冒険家である。事情がどうあれ、此の地に踏み入れ居住区域まで辿り着けたのは幸運であった。願わくば何か父兄へと誇れる冒険の功績を残したいと彼は考えた。

 ……そして、青年は大樹ファルカウ付近に存在した霊樹が眠る地に辿り着いた。
 アンテローゼ大聖堂がその地を管轄し、関係者以外は立ち入りを禁ずる場所である。
 ファルカウへの信仰心の薄い青年はその地で『冒険家』として何らかの功績を残したい。

 優秀な兄に――厳格な父に、少しでも認められるために。

●アンテローゼ大聖堂
「気持ちは分からなくは無いわ。貴族なんて、決められた『道』を辿るものでしょうからね」
『灰薔薇の司教』フランツェル・ロア・ヘクセンハウス(p3n000115)は肩を竦める。
 このアンテローゼ大聖堂は大樹ファルカウを望む迷宮深林に存在する信仰の場所である。旅人達のケアを行い、迷宮深林に迷い込んだ者の保護とケア、そして送還までの一時的な宿として解放されている。
「ご存じの通り、アンテローゼ大聖堂の司教である私はイレギュラーズのお手伝いをしているわ。だから、アンテローゼ大聖堂にいる者は『外』に対しては寛容なの。
 けれど、国としてはまだまだ閉鎖的。幻想種以外に対して畏れを抱く者が多いのは確かよ。……イレギュラーズには好意的な目を向ける幻想種も多く居るけれど、ね」
 イレギュラーズでなければ『偽ザントマン』の一件もある。旅人の一人歩きは良くは思われない。
「数日前に、冒険家を名乗る男性が破落戸に襲われて森林内に逃げてきたの。
 身柄は保護して居たのだけれど……彼、深緑で冒険をしたいと常に言っていてね。
 幻想の貴族『ラパラ』家の三男坊らしいのだけれど、優秀な兄や厳格な父に認めて貰うために冒険家として功績を欲しているみたいなの」
 フランツェル曰く、青年の名前はドナルド・ル・ラパラ。ラパラ家の三男坊であり、優秀な騎士と学者の兄に対して劣る自分を少しでも父に認めて貰うために冒険家として各地を旅しているのだそうだ。
 閉鎖的な深緑国内にはまだまだ未開である遺跡が残されている。ドナルドがその地を探索し、冒険家として功績を残したいという気持ちは彼の境遇を考えれば分からなくもない。だが、現在の彼は『賊に追われて保護され、幻想王国に送還される』立場だ。決して、冒険を許可されたわけでも無ければアンテローゼ大聖堂から出ることすら許可されていない。
 彼は世話役のシスター達の目を盗み、抜け出してアンテローゼ大聖堂が治める地の一つである霊樹『グラシエ』の存在する古代遺跡へ向かったらしい。
「下手に霊樹に触られても困るの。もう、グラシエの遺跡へと辿り着いているでしょうから……申し訳ないのだけれど彼を確保してきてはくれないかしら?」
 出来れば事は穏便に計って欲しい。けれど――周囲には守護者であるゴーレムが作動している為に、ドナルドが怪我を負う可能性もある。彼を護衛しアンテローゼ大聖堂まで戻ってくることをお願いしたいとフランツェルは申し訳なさそうに告げた。
「此の国は――私が言うのも可笑しな話だけれど――幻想種の国よ。
 私は幻想王国で生まれた、元・貴族。定められた道が存在することは理解しているわ。
 ……けれど、幻想の貴族に『ルール』が存在するように此の国にだって存在して居るの」
 彼には申し訳ないけれど、此の国では此の国のルールに従って貰わなければ。
 そう困り顔で告げたフランツェルは「貴族って、いやね」と苦い笑みを噛み砕いた。

GMコメント

夏あかねです。

●成功条件
 ドナルド・ル・ラパラをアンテローゼ大聖堂まで護衛する

●グラシエの遺跡
 深緑国内、ファルカウの程近い場所に存在する霊樹の遺跡。
 内部にはゴーレムが動き回り、氷を思わせる冷たい色をした霊樹が中央に鎮座しています。
 内部に入ったドナルドはゴーレムに見つからぬように息を殺しています。見つかるのも時間の問題でしょう……。

 また、グラシエの遺跡からアンテローゼ大聖堂までは少しの距離があります。
 その道中もモンスターなどが存在する可能性がありますので、警戒をしてあげて下さい。

●ドナルド・ル・ラパラ
 戦闘能力は余り高くなく、頭も良いとは言い切れない凡人。幻想貴族の三男坊。
 優秀な兄二人へのコンプレックスと父に認められない苦しみから冒険家として何とか功績を残したいと考えているようです。
 フランツェル曰く「気持ちは分かる」「貴族っていやよね」とのこと。

●ゴーレム*5
 グラシエを護る為に遺跡内を徘徊するゴーレムです。凍て付く氷を思わせる体をしています。
 多種多様な攻撃を行います。守護者ですので其れなりに堅牢です。
 ドナルド一人では5体のゴーレムには対処できないでしょう。かろうじて1体くらいなら……。

●フランツェル・ロア・ヘクセンハウス
 アンテローゼ大聖堂の司教。元は幻想貴族であり、人間種ながら立ち入ることを許され司教としてファルカウに遣えています。
 年齢不詳、ある意味謎の多い彼女ですが、何となくドナルドの気持ちは分かるそうです。
 アンテローゼ大聖堂で皆さんのお帰りを待っています。帰り着いたらお茶でもしましょうね。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • 灰薔薇の便り完了
  • GM名夏あかね
  • 種別リクエスト
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2021年02月08日 22時00分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費150RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

クラリーチェ・カヴァッツァ(p3p000236)
安寧を願う者
アト・サイン(p3p001394)
観光客
シラス(p3p004421)
超える者
※参加確定済み※
アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)
大樹の精霊
※参加確定済み※
新田 寛治(p3p005073)
ファンドマネージャ
ルカ・ガンビーノ(p3p007268)
運命砕き
アーマデル・アル・アマル(p3p008599)
灰想繰切
袋小路・窮鼠(p3p009397)
座右の銘は下克上

リプレイ


「頼もしいメンバーですね。こうも手練れが集まるとは」
「勿論、イレギュラーズはいつだって頼もしくって、『彼の心も折れてしまうかもしれない』わ?」
『ファンドマネージャ』新田 寛治(p3p005073)が集まった面々を見て口にしたその言葉を続けたのは『灰薔薇の司教』フランツェル・ロア・ヘクセンハウス(p3n000115)。アンテローゼ大聖堂は旅人達の保護を行う宿としての役割を担っているらしい。彼女が『彼』と呼んだのは現在、大聖堂に保護されて滞在していたドナルドと言う幻想貴族兼『冒険家』志望だ。
「功名心大いに結構! いいじゃねぇか、その勇気と行動力にゃ敬意を払うぜ?
 ま、ルールを破っちゃ世話ねぇがな。国際問題なんて笑えねぇだろうに。俺は笑うが」
 からからと笑みを漏らした『座右の銘は下克上』袋小路・窮鼠(p3p009397)にそういうのは好きだと『観光客』アト・サイン(p3p001394)は返す。
「名誉欲に駆られてダンジョンをアタックする。いいね、そういうのは好きだよ、実に『観光客』的だ……だがまあ、死なれたら困るってのがオーダーなら仕方ないねえ」
 ダンジョンアタックで死ぬのも『観光客』的な事ではあるが、相手が貴族で国が絡む可能性があるならば致し方ない。そもそも、これがオーダーなのだから其れに背く訳にもいかないか。
「これは俺たちもちょっとした冒険気分だね」
 深緑は未だよく知らない場所も多いのだとシラス(p3p004421)は此れより向かうことになる『グラシエの遺跡』の事を思い浮かべる。幻想種達の国と呼ばれ、長らく閉鎖的であったこの迷宮深林には立ち入ることを禁じられる場所も多い。
「大聖堂で旅人の保護をしてるのは知ってたけれど……抜け出しちゃう人もいるんだね。少し、気持ちはわかる気もする」
 自分も窓の外には憧れていたから、と。『希望の蒼穹』アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)はそう呟いた。グラシエの遺跡へはそう迷うこともない道のりだ。それでも、冒険者志望であるだけの実力も分からぬドナルドを放置するのは忍びない。
「決められた道を歩むことへの不満……ですか」
 抜け出した理由が、功名心のためだった。そんな冒険家を目指す青年は本来ならば『冒険家』になどなる事ができない立場なのだという。『罪のアントニウム』クラリーチェ・カヴァッツァ(p3p000236)にとって彼が然うして抗いたいともう気持ちは理解できなくはないが、同時に、抗えるものではないだろうという考えが自身の中に在る事も理解していた。
 生まれ落ちた場所、生まれ落ちた環境で一生が決まる者が多い。それが国家の在り方なのかもしれないが、自由に行く道を決めれる者など殆ど居ないのだから。フランツェルの言った『貴族って、いやね』という言葉をなぞるように呟いてクラリーチェは何とも神妙な心地に陥った。
「貴族っつーんは面倒なもんなんだな。ま、そこんとこは同情するが、だからって何やっても良いっつー事にゃならねえわな。仕事を片付けるついでにちっとお灸をすえるか」
 それでも、禁じられたことを他者に迷惑を掛けてまで行うと言うならば『竜撃』ルカ・ガンビーノ(p3p007268)は彼を叱らねばならないと考えていた。アーマデル・アル・アマル(p3p008599)とてそれは同じだ。
 分からないわけではない。父に、兄に、認められない三男坊。彼が認められたいが故に行った行動は決して理解できない事でないのだ。勇気と、無謀は異なるものであることを彼は知っているのだから。


 モンスターに会わぬように気を配り、グラシエの遺跡へと辿り着いたイレギュラーズ。その視界での警戒を受け持った寛治と植物たちと会話をしながら耳を頼りにするアレクシア、植物たちと霊魂との対話を行い出来る限りの敵を避けて遺跡へ辿り着いたクラリーチェは傍に存在する草木や霊魂達へと目的を告げるように静かな声音で「まずは彼を見つけなければ」と囁いた。
 ドナルドの痕跡を捜索するアトは「此処は温度が低いね。それに深緑は森林地帯だ。特有の湿度の高さがある。……と、なれば、遺跡の内部には霜が降りることが多いんだ」と『観光客』としての知識を生かすように周囲を見回してゆく。焦りの感情を探すシラスは仲間達の探知能力を合わせ、人の気配を探っていた。
「僅かに焦ってる気配は感じるけど、その前にゴーレムが歩き回っているんだな……」
「うん。ドナルドさんの周辺にゴーレムがいるの音がするね。けど……」
 シラスはゴーレムも必要な存在なのだとアレクシアに頷いた。出来る限り此の地に必要な物を壊すことは避けたい。アーマデルは聞き耳を利用して、周囲の捜索を続けていた。
「ゴーレムは無闇に破壊しないで了解だ。大事な番人で、侵入者はこちら……やたらに壊して護りが薄くなるのは確かに宜しく無さそうだ」
 殺さぬ事を留意すれば自己修復などするのだろうかと考えるアーマデルに後ほどフランツェルに確認をとろうと寛治は頷いた。先行する鼠の情報を得て窮鼠は「ゴーレムが離れそうだけど、どうするか」と仲間を振り返る。ゴーレムとは戦闘しないという事に倣うならば此方が見つかる事は避けたい。
「じゃあ、ゴーレムが離れたタイミングに距離を詰めようか」
 アトの言葉に小さく頷いたクラリーチェは「行きましょう」とドナルドの元へと足早に駆け寄っていく。姿を隠し怯えていたドナルドの元へと滑り込んだイレギュラーズはゴーレムがずん、ずんと音を立てて歩みとってくることに気付く。
「よう、生きてるか? フランツェルが探してたぜ。言いたいことあるだろうけど一人で先には進めないだろう?」
 ほら、と指さした先にゴーレムが此方を発見している気配を感じる。シラスは「作戦変更。取り敢えず無力化しようか」と囁いた。
「やあ、話すのは後だよ、名声を求める冒険者。一先ずここを出てもらわなきゃ君に待ち受けるのは称賛の声じゃなくて首縊りの縄だ!
 ――逃げるよ、ゴーレムを傷つけるとドナルドの立場がより悪くなる」
 アトがそう囁けば、一先ず、と言うようにクラリーチェは彼を庇う様に声を掛ける。
「今はこの場を切り抜けることが最優先。私たちの傍から離れずに、じっとしていてくださいね」
 幼く見える少女――幻想種であるクラリーチェはドナルドには自身よりも随分年若い娘であるかのように映ったのだろう――に庇われる自分という立場に青年は妙な恥ずかしさを感じた。
 だが、その暇もないか。聖なる哉、鮮やかなる光を放った窮鼠は「まあ、貴族の三男坊にこれ以上負債被せんのも可哀想だしな! かっかっか」と大仰に笑う。ゴーレムが此処で倒されていたとなれば彼が犯人だと言われても致し方ないだろうか。
 弱体化を狙うようにアーマデルはゴーレムを牽制し、ルカはゴーレムをその拳で殴りつける。遺跡の一部である其れが一時停止程度に止まることを狙っての行動だ。
「お前さんらにゃ悪いが、こっちも事情があってな!」
 地を蹴ったルカの傍らで、クラリーチェは「ドナルドさんを無事確保できたことですし、なるべくこの場を荒らすことなく離脱致しましょう」と後を振り返った。
「OK、こういうことを見越して準備してきた物があるんだ!」
 発煙手榴弾を投げて逃走しようと計画する後にシラスは頷いた。他のゴーレムの目眩ましになる筈だ。幻の集団を作り出したシラスの傍らでアレクシアはドナルドの応急手当をし、じりじりと交代する。
「あのゴーレムが倒れたら走るよ。ドナルドさん、立てる?」
「た、立てる……」
「後で説明するから――行こう!」
 ずん、と音を立てルカが倒したゴーレム。其れに合わせてアトが投げ込んだ発煙手榴弾で周囲に煙が蔓延していく。シラスはドリームシアターでその煙の中で逃げ惑う自身を投影し一気に走り出した。
「君たちは……」
「アンテローゼ大聖堂のお遣いです。一先ずは貴方の無事を確保しに来ました」
 クラリーチェの言葉にドナルドはぐ、と唇を噛んだ。アンテローゼ大聖堂――自身が一度は保護されたあの場所は居心地は良いが、もう少しで自身が幻想に帰ることを知っている。故に、兄と父があっと驚く実績をこの深緑で残したかったのだ。それでも、実力不足か、こうして『聖堂の遣い』に助けられて道中の安全も確保され護衛されているのだから。
「……ちくしょう」
 呟きに、ふと寛治が彼の肩を叩く。「一つ、良いでしょうか」と問い掛けられたその声にドナルドはびくりと体を硬くした。
「ドナルドさん、貴方は冒険家になりたいのですか? それとも、ご実家に認めてもらう事が目的ですか?」
 寛治の問い掛けにドナルドはぐ、と息を飲んだ。そう問われたら痛い所を突かれたと実感してしまう物だ。冒険が目的だとするならば、アトが得意分野であろう。だが、ドナルドはどちらかと言えば自身の家に認められることを目的にしているようだった。
「冒険家を名乗るならばラパラ家の名声など関係なく、貴族ではない立場となります。
 基礎となる技能や知識もない、一から自身を鍛えねばならない。道のりは長く、その間に死亡するリスクも高い。お分かりでしょう?」
「……分かってるさ。そうした技能だって、二人の兄の方が持ってるんだから」
 兄へのコンプレックスの結果なのだろうと、とルカは感じていた。でも、とだってを繰り返す。冒険家になるための覚悟も何も備わっていない男に痺れを切らしたとでも言うように拳骨を落とす。
「テメェ、恩人の大切なモンを踏みにじる気か」
「……恩人……」
「大聖堂はお前の命を救ってくれた恩人だろ。その恩を仇で返すのかっつってんだ。
 そんなつもりがねぇ事ぐれぇわかってるが、お前がやろうとしてんのはそういう事なんだよ」
「そ、それは――」
 助けを求めるような視線を寛治へと向けたドナルド。だが、寛治は何も言わない。そもそも、ルカが腹を立てたのは自分勝手な行いに大してなのだ。
「自分が何しようとしてるのか足を止めて考えろ。やる気と行動力は買うが、考えと慎重さが足りねえ。
 今のままだとお前自身が死ぬのは勿論、周りにも迷惑かけるだけだぞ」
「確かに。それは一足飛びに得られるものではなくて、少しずつ……煉瓦をひとつずつ積み上げて壁を作るように、若木が年輪を重ねて大樹となるように。基礎の積み重ねが必要なものなのだろうと思う」
 アーマデルはルカの言葉に大きく頷いた。勇気と無謀は別の物だ。ドナルドの行いは只の無謀に過ぎず、護るべき理が異なる地を悪戯に踏み荒らしているだけに過ぎない。
「まずどこをどう攻めるか。絞り込んで、計画を立ててみないか? 上手く注意を惹けば、同行したい奴もいるかもしれないぞ」
「……けれど、私にはそうした技量もありませんし……」
 もだもだと言葉を繰り返すドナルドにアーマデルは小さく溜息を吐いた
「貴族のことはわからないけれど……認めてもらいたい、冒険したいって気持ちもわかるつもりだよ。私もそうだもの。
 だからこそ、無茶しちゃダメ。信頼も、功績も、一朝一夕にはいかないんだ。……何より、あなたに何かあったら必ず悲しむ人がいるんだから」
 優しくそう言ったアレクシアに痛む頭を抑えながらドナルドは「悪かったよ……」と小さく呟いた。もうすぐアンテローゼ大聖堂に着く。寛治は「困難な事は沢山あるでしょうが、考え方によれば可能性です」とドナルドへと向き直った。
「例えば商売で名を挙げるのは如何ですか? 一からの勉強でも、少なくとも命の危険は無いでしょう。
 一応は生業でそれなりの『コネ』がありましてね……それで、就職先の斡旋もできる。貴族のコネが商売の助けにもなるでしょう」
「……後で詳しく聞いても?」
 勿論だと寛治は頷いた。後ほど、霊樹見学に行けないかと問うてみるつもりだと付け加えた。
 正式な許可をアンテローゼ大聖堂が出せばゴーレムの制御なども行ってくれることだろう。折角の冒険心を無駄にしないように、と。
 そう考えたイレギュラーズ達を出迎えたのは『ドナルドが留守にしている訳がない! 今は寝ている』と嘘を吐き乍ら茶会の準備をしていたフランツェルだった。


「名声は大事だが、こういう依頼も入るくらいだよ。深緑と幻想の国際問題にもなりやすい。
 皆に言われて善く善く分かっていると思うけれど、フランツェルの立場を危うくするのはよくないねえ?」
 アトが溜息を混じらせてドナルドへと告げたその言葉は彼を落ち込ませるには十分であった。道中にでもドナルドへ向けられた言葉の数々は彼がどれ程に浅慮であったかを嫌でも理解させたことだろう。
「貴族ならば、立場あるものが下手をすると国同士の争いになりかねない事はご存知でしょう。
 今回は大事には至りませんでしたが……少しだけその事も考えてくださいね」
 クラリーチェはお小言は此処までです、とそう囁いた。彼の冒険心を此れからの人生に生かせる道があれば良いと願いながらも擦り傷へとガーゼを被せて応急処置を行い続ける。
「……いや、面目ない……本当に……私の考え足らずだった」
 俯く彼の肩を叩いたルカは「分かったろ」と苦い笑いを浮かべる。窮鼠は「三男坊、随分とヘコんだ顔して」とドナルドへと笑いかけた。
「さぁて、三男坊。随分張り切ったな? 無茶した結果はどうだい? 楽しかったか? いい経験したんじゃねぇの?」
「まあ……」
「そんだけの勇気がありゃ、まだまだ抜け出すチャンスはあるだろ。頑張れよ若人! っても、今の俺もガキみてぇなもんだったわ」
 けらけらと笑った窮鼠にドナルドはまだまだ此れからチャンスがあるのだと実感したように大きく頷いた――が、彼にとってはこれは大冒険だったのだろう。その表情は青ざめておりクラリーチェは彼に休息を勧める。
「お招きに預かりどーも。三男坊に同情的なのは何か理由がおありで?」
 テーブルに着いて、窮鼠はフランツェルへとそう切り出した。ぐったりとしたドナルドは休憩すると言って貸し与えられた部屋へと戻っていった。彼がこれ以上何らかの粗相を叩くことはないだろう。
「ええ、まあ。私も元々は幻想貴族だったから。何となく彼の境遇は分かるような気がしたのよ」
「幻想貴族……フランツェルもさ、貴族だったんでしょう。どうして幻想を出たの?」
 前々からアレクシアがフランツェルについて話していたこともあり、シラスはどうにも彼女が気になってしまうとじろじろと眺めて居た。彼女はそれに対して何ら反応を示さないがシラスの問い掛けに「んー」と悩ましげな声を漏らす。
 若く見えるその風貌で、ついつい同年代のように話しかけてしまうが彼女も其れなりの事情がありそうである。
「まあ、お約束、というか。私は二つの選択肢があって、片方を選んだだけかもしれないわ?」
「へえ……?」
 シラスは首を傾げる。フランツェルは「おばあさまは幻想種なのよ」と柔らかに付け加えた。それ以上語ることはないが紅茶は如何と問う声は常と変わりない。
 どうしてその道を選んだのかは人それぞれだ。その場所を進んで手放したというならば、其れがどうしてなのかをシラスは聞いてみたかった。自分が命がけで這い上がってる先の向こう側――その過去を彼女が語るなら聞いてみたい。けれど、話さないならば話さなくて良いとアレクシアは考えていた。
「司教になるか、幻想貴族として過ごすか。司教になるなら『ヘクセンハウス』を名乗りなさいと。魔女として過ごしなさい、と。
 貴族となるなら此の儘、のんびりと過ごして良いと言われたわ。私ったら冒険心が強くって――窮鼠さんが言ったとおり『ドナルドさんに同情的』なのは私と彼の性格が似ていたからかも知れないわ?」
 自分はそれでも、行くべき道がある程度定まっていたからこそ、彼のように悩まずに済んだのかも知れないとフランツェルは小さく笑みを零す。
「ねえ、フランさんって何か夢とかあるのかな? やってみたいことって言ってもいいけど……あっ、最強の魔女になるのはもちろんとしてね!」
「そうね。情報屋さんをしてみたくってローレットに遊びに出掛けてきたの。だから、此れからも皆と楽しく出来れば嬉しく思うわね。
 ……ま、まあ、司教をちゃんとしないとリュミエに怒られてしまうんだけれど。ヘクセンハウスはもっと確りした魔女でした、って」
 肩を竦めたフランツェルにシラスとアレクシアは顔を見合わせる。そうやって叱るリュミエも何処か見てみたいものだと揶揄えば和やかなお茶会はのんびりと過ぎ去った。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 部分リクエストでした。ご参加有難う御座いました。
 フランツェルともお話有難う御座いました。マイペースな魔女ですが、こうして皆さんとお話しできる事が兎に角楽しいようです。
 また機会がありましたら遊んであげて下さいね!

 ドナルドさんも、良い未来が待っていると良いですね……!

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