PandoraPartyProject

シナリオ詳細

ローズタンドルの咲く

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


「やあ」
 眠たげな目をした少年は、もう慣れたような雰囲気でイレギュラーズたちの前へ立っている。情報屋ではない。コンスタントに依頼を持ち込む依頼人である。その名は夢売り――或いは、夢買い。彼としてみれば『どちらでも良い』のだそう。
「夢売りさんはその名の通り、皆さんが眠っている時に見るような夢を売買しているのです。皆さんも売りたい夢があったら相談すると良いのです」
「完全に見なくなるとは保証できないけどね。皆が心の奥に持っている『夢の切掛』を貰うだけだから」
 『新米情報屋』ユリーカ・ユリカ(p3n000003)の言葉に苦笑いを浮かべた彼はそう付け足す。彼に買い取ってもらったから今後一切見ないということはなく、再びきっかけがあったのならすぐ同じような夢を見ることだろう。
 人気店の菓子を食べる夢を売ったとしても、その後同じようなものを見て「いいなぁ」なんて思ったらまた夢に見るかもしれない、ということである。
「まあ、もし売りたい夢があるのなら追々に。今日は……いや、今日も、かな。皆の想像力で助けてほしいんだ」
 夢売りは「春の夢が欲しい」と言う。前回同様、やんごとなき方から依頼らしい。その依頼人が夢を見るのかと思えば、そうでもなく。
「冬眠中のペットに見せたいんだって」
「「冬眠中??」」
 ペットって冬眠するんだっけ、いやそもそも冬眠させていいんだっけとイレギュラーズの脳内に果てしなく疑問符が連なっていく。そんな様子をくすくすと楽しむ夢売りの傍らでユリーカが書類を出す。
「この子なのです。そういう種類みたいですよ?」
 羊皮紙には『ハムリス』なる小動物について記されていた。なんでもハムスターとリスを足して割ったような動物らしいが、これも摩訶不思議混沌生物の一種だと言う。とはいっても完全に愛玩動物であり、野生では生きられないのだとか。そして一番の特徴が先ほども上がった『冬眠』である。
 通常、冬眠とは野生動物が冬を越す為に極めて不活性な状態へ変化したことだ。冬を越すことにリスクがないのであれば冬眠をする必要はない。けれどもこのハムリスという動物はいつ、いかなる場合であっても冬眠行動をとるそうだ。
「その原因は未だ調査中、と。その可愛らしいペットに温かい夢を見せてやりたいってお願いなんだ」
 ペットの為に夢を買うなどなかなか聞かない話であるが、夢売りが引き受けたという事は可能ということである。最もそのネタはこれから――イレギュラーズが提供するわけだが。
「春なら何でも良いよ」
 眠れない者は夢売り自身が催眠によって夢へ誘ってくれるそう。極論、イレギュラーズは春について想像しながら目を閉じるだけで良いのである。
 春と言っても一概に表せるものではない。3月には春一番が吹き、一面の桜が埋め尽くし。シトリン・クォーツ(ゴールデンウィーク)が訪れたならばやがて紫陽花が咲き始める。それを越えてしまえば夏だろうが、そこまでに用意されているイベントも少なくはない筈だ。
「皆で1つの、大きな夢を見てもいい。もちろん個々に思いついたことを夢見ても構わないよ。依頼人は『全て買い取る』と言ってるからね」
 当たり外れ関係なく。ひとまず買ってしまおうという考えは流石貴族と言うべきか。まあ、何はともあれ――イレギュラーズに提示された選択肢は2つ。この依頼を受けるか、受けないかだ。

GMコメント

●成功条件
 春の夢を見る

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。不測の事態は起こりません。

●夢
 夢売りに『春の夢』を提供してください。夢を見るだけで良いです。夢は買われて一時的に見なくなりますが、切欠があればすぐにでもまた見るようになるでしょう。
 宿屋の一室を依頼の為に借りているため、そこで寝ることになります。「これがないと寝られない!」みたいな人は枕とか持って行っても良いです。眠れない人は夢売りの催眠によって夢へ誘われます。

 今回は『1人で夢を見る』『複数人で夢を共有する』の2択があります。複数人、はシナリオ参加者間でのみ有効ですので、参加していないPCは登場できません。
 複数人で共有したい場合はプレイング1行目に【】で括った共通のあいことば(タグ)を書いて下さい。

 春の夢であればなんでも構いませんが、言葉にされない意図を追うならば『楽しい、優しい、幸せに目が覚める』ようなものが好ましいでしょう。
 皆様の好きな場所、時間、イベント。春という季節に絡めて、少しだけ早く過ごしてみませんか。

●ご挨拶
 愁です。春生まれなので(?)寒いのはダメです。しんでしまいます。ぴぃ。
 ハムリスちゃんは期間中ずっと冬眠しているそうなので、夢が春だから現実と間違えて起きてしまう、なんてことにはならないそうです。ご安心ください。
 それではご縁がございましたら、よろしくお願い致します。

  • ローズタンドルの咲く完了
  • GM名
  • 種別通常
  • 難易度EASY
  • 冒険終了日時2021年01月28日 22時00分
  • 参加人数8/8人
  • 相談6日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

鳶島 津々流(p3p000141)
かそけき花霞
ポシェティケト・フルートゥフル(p3p001802)
白いわたがし
アレックス=E=フォルカス(p3p002810)
天罰
メーコ・メープル(p3p008206)
ふわふわめぇめぇ
テルル・ウェイレット(p3p008374)
料理人
クロエ・ブランシェット(p3p008486)
奉唱のウィスプ
ヴェルグリーズ(p3p008566)
約束の瓊剣
バーデス・L・ロンディ(p3p008981)
忘却の神獣

リプレイ


「さあ、目を閉じて」
 眠たげな少年――夢売りの言葉に誘われて、『天罰』アレックス=E=フォルカス(p3p002810)は寝転がり瞼を閉じる。体の力を抜いてしまえば、意識もまた体と同じように布団へ沈み込むようだ。深く、深く、睡眠の先にある『夢』という場所へ誘われていく。

 本日のこの1室は、アレックスを始めとしたイレギュラーズたちが売るために夢を見る場所。さて、彼らの見る夢とは――。


 そこは酷く暗い場所だったと思う。
 そこは酷く冷たい場所だったと思う。

 全てが『だったと思う』とついてしまうのは『忘却の神獣』バーデス・L・ロンディ(p3p008981)にとってあまりにも曖昧な記憶で、長い眠りの最中だったからだ。浅く、深く、眠り続ける中で時折それらの『外側』を感じた気がするけれど、本当にそうだったのかは起きていたわけではないから分からない。
 むしろ暗くて冷たいと感じたのは、その終わりを告げるものが温かいものだったからかもしれない。寒くて寒くて、体を縮めて丸くして、そうして暖を取ろうとしていたバーデスの背中に何かが乗ったのだ。
 それは小さな重みだった。そして人肌の温もりだった。じっとしていると暗くて冷たかったその場所の変化を感じた。
 明るく、暖かく――まるで、日差しの下にいるような。
 そっと目を開けたら、背中に居たはずの温もりは腹の方へ。敵対心の欠片も無く、警戒心もまるで無く、腹を枕にすやすやと眠る温もり。その様子に安堵してしまったのは何故だろう。
 ふと顔を上げれば、いつの間にやら花畑の中心にいたことに気付く。ひらひらと蝶が舞い、優しい風が頬を撫でる。よくよく耳を澄ますと小動物たちが駆け、戯れる音や声も聴こえてくるようだ。そこへ温もりがもぞりと動く気配がして、目を開ける。
 眠っていた小さき子がにぱぁ、と笑みを浮かべると空で小鳥が囀る。
 それは穏やかで麗らかな、春の訪れを知らせる声だった。



「おや、そこでいいのかい?」
「いつも座って寝るんだ」
 ベッドではなく椅子に腰かけた『行く雲に、流るる水に』鳶島 津々流(p3p000141)は夢売りへ頷いて、そっと目を閉じる。いい感じに眠れそうだ。
(とっておきの夢を見せなくては、ね)
 珍しい生態のペットに、幸せな春の夢を見せてあげられますように。

 津々流が思い浮かべるは故郷――鳶島山。別名である『桜山』のルーツは津々流ら一族にあった。己が身に季節を体現する四季告は、命を終えるとその植物へ姿を変える。津々流を始めとした先祖代々の『桜の四季告』がこの山で余生を過ごしたのだ。
 故に、この穏やかな山では春に満開の桜が咲き誇る。桜の花弁が暫くの間、風に運ばれていくほどに。
 そんな満開の桜の下、いつのまにやら津々流は佇んでいた。桜の枝の隙間から温かな日差しが差し込んで。優しい風がさわさわと桜を揺らし、時にその花弁を舞わせて運んでいく。ふわり、と髪についた花弁を指でつまんで、津々流は小さく笑った。
 この周辺、否この山一帯に春の匂いが立ち込めている。寒くて厳しい冬を耐え忍び、一気に膨らんだ暖かな匂いだ。生気が満ち溢れているというのは正にこのことである。
 こういった場所では新たな命が芽生え、目覚め、育まれていく。そうして成長して冬を迎え、また次の春には新しい命を宿す。そうして自然は巡っている。
(生き物って、冬眠している間はどんなことを考えているんだろうねえ?)
 地面を踏みしめながら桜の並木を歩く津々流は想像する。もしかしたらほとんどずっと夢の中で、考える時間なんてないかもしれないけれど、冬までの間の想い出だとか、美味しかったものだとか、飼い主のことだとか――色々思いついたりするのかな、なんて。
 津々流はどこまでも進み、桜はどこまでも続く。ひょこりと小動物が見え隠れするところへ視線を移し、咲き始めた花々の香りを胸いっぱいに吸い込んで。
 起きたらこんなに素敵な事がたくさんあるのだと、夢の中でも感じられるように。



 目を開ければ、まだほんの少し肌寒く。これまで自分が温め、温まっていた布団の中でずっと包まって居たくなってしまう。けれど長袖でどうにか起き上がった『料理人』テルル・ウェイレット(p3p008374)は窓掛けをシャッと引いた。
(温かい……)
 朝の陽光はすっかり春の温度。窓越しに部屋の中へ差し込んで空気を温め始める。そのまま外を覗くともうすっかり賑やかだ。
 少し前よりも薄手の服で仕事へ向かう人。
 以前より多くなった散歩する老人たち。
 元気な声を出して走り回る子供。もう少し視線を下げたら鉢植えの上で可憐な花が揺れていた。
 さて、まだテルルにも時間はある。店へ飾るための小物や食料品を買い出しにと出かけると、やはり市場も人が多い。春の野菜や果物が所狭しと並び、店主や客も活気があって良い。
「おじさま、いつものをお願いします」
 そう告げるテルルの声もまた、どこかふわふわと浮ついているような。そしてやっぱり、それに返事する店主の声も然り。
 食料品を買い込んだら次は雑貨を見に回る。ピンク色で溢れた小物に、話を聞いてみれば桜という花をモチーフとしたのだとか。混沌にも全くない訳ではないだろうが、ないところにはないもので。テルルにとっては豊穣出身者や旅人から聞く機会の方がはるかに多く、実物ではないもののとても興味深い。小さく、可愛らしいそれらの小物を買ったテルルは一旦帰宅した。
 窓掛けは開けたままだったからすっかり部屋は温まっている。片付けるものを片付けて、服を着替えて。廊下続きになっている喫茶店の机の上に、先ほど買った小物をそっと置く。決して大きく主張するものではないけれど、それでも春の訪れを感じるには十分で。
「……さて」
 仕事の時間だ、とテルルは踵を返す。扉の看板をひっくり返したならいつもの――より麗らかな――1日が始まるのだ。



 瞼を閉じた『優しい夢』メーコ・メープル(p3p008206)の脳裏にちらつくのは桜。ひらり、ひらりと舞い落ちる花弁。それはゆっくりと舞い降りて、メーコの鼻の先に零れ落ちた。
「んん……」
 ちょっと擽ったい。ふるふると首を振ったメーコに合わせ、花弁は今度こそ地面へ――すっかり敷き詰められた花弁のベッド、その一部になった。
(暖かいですめぇ……)
 これは夢の中。彼女が体感したことを夢に見ている、いわば追体験。それでもペットのハムリスが見たならばそれは新鮮な夢になることだろう。
 地面から、そして空からも春の香りが立ち上る。そよそよと流れる風は気持ちいいけれど、さっきみたいに花弁を運んできたりもするから少し悪戯っ子だ。それでも――この心地よさ、幸せ間違いなしである。
 ころんと仰向けに転がって、メーコは空を見上げる。桜のピンク色と空の青色が綺麗で、そこに浮かぶ雲は綿あめのよう。その中でもひときわフワフワした、まるで羊みたいな雲を見つけてメーコはふふりと笑う。その視界に風で舞った花弁がちらついた。
(ハムリスさん、これが外の大自然……春の山ですめぇ)
 視界の隅っこで、枝に登った小動物がメーコの事を窺っている。じっとしていれば満足したのか、どこかへ去って行ってしまったけれど。
(ふふ、このベッドはメーコが独り占め……じゃなくて、ハムリスさんが独り占めですめぇ)
 再びころんと横へ転がったメーコは目を閉じる。夢の中でも眠るなんて変な話かもしれないけれど、こんな素敵なベッドがあるのだ――寝なければ損である。
(ハムリスさん……素敵な夢に……出会えますかめぇ……?)
 うとうとと意識を手放しそうになりながら、メーコは仲間たちの顔を思い出す。彼らも夢を提供している筈だ。
 夢とは何にでも、どんなことでもできるけれど――メーコの選んだ、見たことのないだろう景色を好んでくれますように。



「夢売りさんは、ハムリスを見たことがあるんですか?」
「うん。冬眠してたから、小さくてふわふわしているっていうことしか分からなかったけれど」
 いいなあ、と『波枕の鳥』クロエ・ブランシェット(p3p008486)は目を輝かせる。可愛らしい生き物は好きだ。できる事なら自分も生で見てみたいし、欲を言うなら触ってもみたい。お仕事を頑張ったなら、春に目覚めたハムリスを見せてもらうこともできるかもしれない――なんて。
 つげ櫛で丁寧に髪をとかして寝転がる。それなりにスプリングの聞いたベッドで目を閉じれば、すぐさま眠気がやってきた。

 ふんふんふーん、と鼻歌交じりにクロエはキッチンへ立つ。サンドイッチは動物のお友達を誘っていくから多めに。紅茶のポットは良い色になったところで茶葉を出す。あとは昨日から用意しておいた苺のタルトもバスケットに詰めたなら準備は万端。
 忘れ物が無いかチェックして、髪を結ぶリボンが緩んでいないかもチェックしてクロエは外へ。途中で出会った兎や小鳥、ハリネズミを誘って彼女は花畑へ向かう。その足取りは軽く、ついつい歌だって歌ってしまうくらい。
 暫ししてついたのは一面に広がった青――ネモフィラの花畑。空の青と花畑の青が交じり合う地平線を眺めたクロエはくるりと振り返って笑顔を浮かべた。
「それじゃあ、ご飯タイムですね」
 手頃な場所にシートを引いて、バスケットの中から持ってきたお弁当を出す。この景色の中なら1人でだって美味しいけれど、皆で食べたらもっと美味しい。
 ニコニコしながら食べていたら、花々の間を縫って小人さんが顔をひょこり。どうやらこの花の妖精らしい。食べたいと言うように視線をタルトへ向けているものだから、クロエは妖精もシートの上へと招く。それは美味しそうにタルトを食べた妖精は「お礼」と言ってある方向を指さした。
「気球?」
 聞き返したクロエへ妖精は頷き、視線を空へ。追いかけると確かに空の青に混じって気球が飛んでいくのが見えた。その後にはもっと見つけやすい黄色や赤、緑……カラフルな気球たちにクロエは目を輝かせ、「行ってみよう!」と動物たちを促す。
 この花畑をどこまでも行くのも楽しいけれど、空の旅はきっと――もっと、もっと楽しいはず!



 『全てを断つ剣』ヴェルグリーズ(p3p008566)は春の町を夢に見る。冬眠するというペット、ハムリスが町の景色を見たことがあるかはわからないが、自然豊かな土地でなくとも春は感じられるのだ。
 ヴェルグリーズはのんびりと石畳を歩いていた。地面こそ殺風景なれど、少しでも視線を上げれば春の花が咲いたプランターがある。そしてもっと視線を巡らせればここにもあそこにも、向こうの方にだって草花は溢れているのだ。
 例えば、店の装飾。
 例えば、店頭に並ぶ季節商品。
 例えば、道行く人々の服装。
 町にも春が来たのだと思わせるそれらにヴェルグリーズは目を細める。すれ違う人たちが誰も彼もどこか楽しそうで、ウキウキした気持ちが広がっていくようだ。
 町中を風が遊びまわり、ついでに市場にある露店の匂いを纏っていく。美味しそうなその匂いにヴェルグリーズは自然と足をそちらへ向けた。そう、春だから。食べ歩きしても寒くないから。
 そうして食べて散歩して、お腹が良い感じになる頃合い。丁度一休みしたいなあ、なんて考えていたところで小さな公園へ辿り着いた。春の陽気の下、子供達が追いかけっこをして遊んでいる。遊具の他に小さなベンチもいくつか。その中でも木陰になっている場所へヴェルグリーズは腰かけ、ふうと力を抜いた。温かい空気、そして腹も満たされているから段々眠くなってくる。木陰に吹くそよ風も気持ちよく――。

 ぱち、と目を開けたら木製の天井が見えた。起き上がるヴェルグリーズは依頼を受けていたんだっけ、と眠る前の事を思い出す。悲しいかな、もう夢は思い出せなかった。
「お疲れ様。いい夢をありがとう」
 夢売りの言葉にヴェルグリーズは視線を向ける。きっと夢の近くで見て、それを回収したのだろう。
「同じような夢は……一時的に見られなくなるんだっけ」
「そう。でも見たいのならすぐにでも切欠(トリガー)を上げるよ」
 どんな夢を見たか。どんな景色が見たかったか。それさえ聞けばまた見られるだろうと夢売りは言う。けれどヴェルグリーズは少し考えて首を横に振った。
「きっと春になったら見られる景色なんだよね?」
 それなら春はもうすぐだから、ここで聞かずともすぐ取り戻せる。ならばそこまでの時間を、夢見るハムリスのように心待ちにしようじゃないか。



(鹿の夢、気に入ってくれたら嬉しいわ)
 『謡うナーサリーライム』ポシェティケト・フルートゥフル(p3p001802)は微睡み、夢まで揺蕩っていく間にそう祈る。勿論皆が素敵な夢を届けてあげるのだろうけれど、ポシェティケトの夢も同じくらい、とびっきり素敵なものになるだろうから。
 ふかふかもふもふなポシェティケト――鹿の時の姿だ――の感触も、異世界からの縁であるハシビロコウや犬のぬくもりも、そして瞼越しに淡く感じていたクララシュシュルカの煌めきもやがて遠くに。代わりにふわりと持ち上がるような感触がして、鼻を春の香りが掠めた。
 ぱちり、と目を開ける。森の中だ。おはようの季節を迎えた森はとても良い匂いがするし、ポシェティケトはまるで浮いているみたいにウキウキする。春ってそういう季節。
「さあ、フワフワの楽しい気持ちを込めて、美味しいものた~っぷりのご馳走パーティね」
 ポシェティケトは薔薇蕾のシュシュレを手にして一振り、二振り。たったのそれだけで素敵なパーティ会場ができあがる。お友達を沢山招いて、賑やかに過ごすからその規模も大きい。この季節の採れたてや咲きたて、綻びたての柔らかくて美味しいご馳走が並んだなら。
「さあさみなさん、お席へどうぞ」
 ポシェティケトに示されて、森のお友達が――そしてポシェティケトの夢に紛れ込んできたハシビロコウ達も寄ってくる。順番に席へ案内するけれど、主賓の席はひとつだけ、絶対に開けておくのだ。
(ここはハムリスちゃんに、取っておきましょう)
 1席だけ空いていたならここが自分の席だと気づくだろう。ポシェティケトはそこへ座るハムリスを想像してくすりと笑う。
「さあ、お花のお茶はある? 乾杯しましょう」
 あの、酒場などで見られるような乾杯の音頭はないけれど。同じものを、同じタイミングで飲んで、そうしたら感想からおしゃべりが始まるのだ。
 夢の中のご馳走は尽きない。もしかしたら、夢から覚めたあとにとってもお腹が空いているかもしれないけれど。
「どうぞ――たっぷりめしあがれ!」

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 冬もあともう少し。春は――もうすぐそこに。

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