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シナリオ詳細

<アアルの野>それが生み出すいくつかのもの

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●ホルスの子供達とは
 『願いを叶える秘宝』が眠っていると噂され、学者達が調査を行っていた遺跡群『FarbeReise(ファルベライズ)』。
 その中に眠っていたのは、『色宝(ファルグメント)』と呼ばれる物。小さな願いを叶えるというその宝を巡り、『大鴉盗賊団』という存在も現れた。
 『FarbeReise』の最奥地へと向かうべく急ぐイレギュラーズ。
 彼らの前に現れた『イヴ』という存在より教えられた、『ホルスの子供達』という存在。
 土塊で固めた人型に、魂が宿ったように動く人形。
 ファルベライズを居所とした大精霊『ファルベリヒト』の力の欠片である色宝で『死者蘇生の研究』に利用されてきた存在であると説明された。イヴという少女もまた、土塊の人形であるという。
 『ホルスの子供達』が生まれる条件は、『名前』を呼ぶ事。
 だが、『名前』を呼ばれて生まれたそれに魂など無い。魂が在るように見せるだけの人形だ。死者蘇生と呼ぶには些かお粗末とも言える。
 生まれたばかりの人形の声は人の言葉を流暢には紡げない。それが出来るようになるまで時間がかかる。時間をかければかけるほどに喋る事が出来るようになるなど、まるで成長のよう。
 そのような相手がこの先に多く現れる事が推測された。そして、彼らと戦う事も覚悟しなければならない事も。
 イレギュラーズにもそれはわかっている。だが、先に進まねばならない。
 『大鴉盗賊団』に、より強力な色宝を手に入れさせるわけにはいかないのだから。

●少年少女のホルスの子供達
 ファルベライズ遺跡の中核であるクリスタルの迷宮へと足を踏み入れたイレギュラーズ。
 着いた先は開いた洞窟のような薄暗さで、広さは七十メートル四方ほど。
 辺りには岩と土ばかりの地面から所々突き出ている岩の柱がちらほらと点在している。子供一人なら隠れそうな太さと大きさ。高さは一メートルを少し超えた、ぐらいだろうか。
 思った以上に『ホルスの子供達』の姿が多く、数は正確には分からないが十五名近くは居るように思う。遭遇した子供達の姿は多くが十歳前後の少年少女で、中には幼いとしか思えぬ姿の子供も見られた。
 その中にいる少女の後ろ姿が、新道 風牙(p3p005012)の視界に入る。
 セミロングの髪に、村娘のような服装。
 自分の記憶にも新しいその存在と重ねて、彼は思わず『その名前』を口にした。
「セリシール……?」
 呼ばれ、振り返った少女は、全く違う顔をしていた。
 違う人の姿だった事に安堵を覚えた彼の前に、新たな土塊の人形が生まれた。
 その姿を正面から捉える事で、風貌が明らかになる。
 色素の薄いセミロングの髪。そのサイドで結ばれたリボン。控えめに広がるワンピース。
 それに何より、開いた金色の瞳も、ぱっちりとした目も、眉も口も鼻の位置も、全てが記憶と違わなかった。
 唯一違う事と言えば、失明していた筈の目が、自分を真っ直ぐに見つめている事。
「あ……ぁ……」
 喪ったはずの少女。
 自分を兄と思い、それでも最期は別人と知っていても慕ってくれた、妹。
 彼女に似た『人形』が唇が言葉を紡ぐ。
「ニィサ……ン……」
 瞬間、風牙の中で何かが弾けた。
 『ホルスの子供達』の話は聞いていた。死者蘇生ごっこのようなものであると理解もした。
 『名前』を呼ぶ事で生まれる事もわかっていた。だからこそ、今目の前にこの少女のような形をした人形を生み出したのは自分のミスに憤りも覚える。
 だが、それ以上に彼を憤怒させたのは――――
「許せねぇ……!」
 名を呼ぶだけで生み出すようにしたこのシステムの存在だ。過去の錬金術師の所業に、彼は憤る。
「あああああぁぁぁぁ!!!!」
 叫ぶ、咆える。
 『ホルスの子供達』へ、呼んでしまった自分へ、命を冒涜する所業へ、怒りの声を上げた。
 周りのイレギュラーズが彼を諫める。冷静になれ、と。
 彼が落ち着く前に、『ホルスの子供達』が襲いかかる。
 十歳前後の少年少女の姿が多い『ホルスの子供達』。風牙の知り合いと思われる少女の姿も混じる彼らを、討つ戦いが始まろうとしていた。

GMコメント

 そんなわけで、『ホルスの子供達』と戦闘です。
 故人と戦うなんて、そんな美味しいの、逃すはずないじゃないですか!

●成功条件
・『ホルスの子供達』の撃破
(オプション)・新道 風牙(p3p005012)によるセリシールを模した人形の撃破

●戦闘場所
・洞窟のような薄暗さ
・広さは七十メートル四方ほど。
・地面は岩と土ばかり。所々突き出ている岩の柱がまばらに点在。高さは一メートルと少し。子供なら隠れられる太さをしている。

●ホルスの子供達(共通)×十五名ほど
 『名前』を呼ばれた事で生まれた人形。全て片言ないしは奇声を発する。
 【混乱】【攻勢BS回復(小)】を有する。

●セリシール
 色素の薄い髪と金の瞳を持つ十一歳の少女。故人。
 【不吉】【麻痺】【スプラッシュ(中)】を有する。
 HPは他の個体より多めです。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • <アアルの野>それが生み出すいくつかのもの完了
  • GM名古里兎 握
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年01月29日 22時55分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

クロバ・フユツキ(p3p000145)
深緑の守護者
シフォリィ・シリア・アルテロンド(p3p000174)
白銀の戦乙女
ヴァイス・ブルメホフナ・ストランド(p3p000921)
虹色
新道 風牙(p3p005012)
よをつむぐもの
箕島 つつじ(p3p008266)
砂原で咲う花
笹木 花丸(p3p008689)
堅牢彩華
ジュリエット・ラヴェニュー(p3p009195)
ゴーレムの母
ニコル・スネグロッカ(p3p009311)
しあわせ紡ぎて

リプレイ

●洞窟のような場所で広がる仮初の命の海
 怒声にも似た叫び声を発した『よをつむぐもの』新道 風牙(p3p005012)の肩を、『死神二振』クロバ・フユツキ(p3p000145)が掴む。
「落ち着け」
 ふーっ、ふーっ、と肩で荒い息をつく彼を見守る。
 しかし、のんびりもしていられない。ホルスの子供達が彼らへと襲いかかってきた。
 戦況が始まろうとするのを感じ取った『白銀の戦乙女』シフォリィ・シリア・アルテロンド(p3p000174)が叫ぶ。
「来ます!」
 各自、戦う構えを取る。
 赤髪を揺らし、傍らのゴーレムに手を添えて『在りし日の片鱗』ジュリエット・ラヴェニュー(p3p009195)はホルスの子供達を見つめる。
 彼女はホルスの子供達というものへ個人的に興味があった。技術や作業過程、ひいては成長の仕方など、それらの事を知ってみたかった。
 だが、結局の所ホルスの子供達というのは死者蘇生を真似ただけの代物。
 目にした時、瞬く間に彼女の興味は失っていった。
 ホルスの子供達に対して冷たい声色で呟く。
「死者蘇生の研究なんて興が削がれるものじゃなければ破片の回収でもしたかったけど、この場で全部壊すほうがよさそうね」
 少し離れた位置にて、『しあわせ紡ぎて』ニコル・スネグロッカ(p3p009311)がホルスの子供達の攻撃を避けつつ、冷静に観察する。
「ふむふむふむ。記憶からの再現物、というわけね。
 偽物とわかっていても、やり辛い、或いは逆に憎たらしいほどに殺してやりたいというようなこともあるのでしょうね」
 先程の風牙の様子から推測した彼女は、ホルスの子供達に向けて無銘のコンバットナイフを振るう。
「もう、まったく。できの悪い人形ね……作成者は何を考えてるのかしら」
 『白き寓話』ヴァイス・ブルメホフナ・ストランド(p3p000921)もまた、ホルスの子供達の様子を見て眉を顰めた。そして距離を取る事に専念する。
 持参したカンテラで周囲を照らす『砂原で咲う花』箕島 つつじ(p3p008266)は、ホルスの子供達の動向を窺う。岩場はちょうど隠れるぐらいの大きさだ。隠れた者が居ないか注意を払う。
 『人為遂行』笹木 花丸(p3p008689)は一体のカラスを召喚し、それを上空へ解き放った。カラスから伝わる視界を通じてホルスの子供達の様子を確認していく。
「つつじさん、奥の岩場に一人隠れてます」
「その手前にもおるな」
 情報を共有し、纏めると仲間へ伝達する。
「助かります。そのまま情報収集は可能ですか?」
「やってみます!」
「やってみるで!」
「お願いします」
 シフォリィの質問に二人が回答する。戦闘にも参加はするが、情報の継続を止めはしない。
 後方では風牙が何事かを叫んでいた。彼の前に立つクロバが何事かを話す。叫びや会話は戦闘の音がやかましく響く故にか、周りの仲間には届かない。
 少しずつ、風牙の息が整っていく。
 二人の参戦も、近い。

●仮初、されど、その様はまるで――――
 風牙の視線は一つに固定されていた。
 死んだはずの『妹』。セリシールへと。
 その足で、立っている。
 その目で、見つめている。
 その顔で、自分の中の感情をぐちゃぐちゃにかき混ぜる。
「なんで! なんでなんでなんで!!
 よりによってお前が出てくるんだよっ!!」
 ホルスの子供達についての話は聞いていたが、よもやこのように心をかき乱されるようなものだとは思っていなかった。
 故に、彼の口から出た叫びは、八つ当たりに近いようなものであった。
 心が乱されれば、行動も錆び付く。
 そんな彼を見かねたクロバが一喝する。
 風牙の胸ぐらを掴み、眉を逆八の字にして腹の底から低い声を上げる。
「テメェはあいつの一体『何』だ!! 彼女は死んだんだろう、ならお前がするべき事は、お前しかできないことはただ一つ!! あの子と生きた時間を『守る』だけだろうが!!!」
 クロバのそれは、死神ならではの説得力。
 そう、死んだ人は戻らない。
 生きている者に残るのは、その者が存命の時に過ごした時間だけだ。時にそれは、思い出と称される。
 風牙の脳裏を走馬灯のようによぎるのは、残り一年の命であった『妹』と過ごした時間。
 『妹』が遺してくれた最期の言葉が、彼の背中を後押ししてくれた。
 安心させるような笑顔を薄く浮かべて、風牙はクロバの手に自分の手を添えた。
「……ありがとう、もう大丈夫だ……」
 彼の表情を見たクロバが手を離す。風牙は足を進める。師匠に作って貰った槍を一度回転させて、構えを取った。
 深く息を吐き、整える。自分の中の『気』を巡らせて、彼は技を溜め込む。
 そこへ踏み込んでいくセリシールと周りの子供達。
 間合いに入ってきたのを確認して、風牙は技を披露する。
 子供達の中心部に『気』が叩き込まれると同時に爆散。これにて何体かに何かしらの効果を与えられれば良いのだが、虚ろな目の多い子供達では判断がつかない。
 彼らへの次の攻撃を、周囲に居る仲間達が行なっていく。
 ホルスの子供達の反撃を受けるべく、盾役として前に出た花丸とニコル。
 花丸は先程のカラスを通じて、動きを察知していた。
「ニコルさん、左手の方向へ!」
「了解! さあ、おじゃま虫さんたちはこちらですよ!
 ニコル・スネグロッカが相手をしてあげるね!」
 ホルスの子供達の注意を自分へと引きつけ、出来るだけ風牙とセリシールのみになるように引き離していく。
 それでも足りない場合は、花丸が名乗りを上げて注意を引きつけてくれていた。
「笹木 花丸ちゃんだよ! さぁ、子供達はこっちにおいで!」
 見事に左右へと分かれる二人。
 それぞれが着込む鎧や甲冑。ホルスの子供達の攻撃を自身の鎧で受け止めていく。
 頭がくらくらするのを感じ取れなくはないが、耐えるのみとして唇を強く噛む。
 応戦とばかりに花丸が拳を振るうが、くらくらするものの影響でか、狙い通りにはいかない。そしてそこを狙って再びやってくるホルスの子供達。
 一人では対応しきれないと感じた時、後方からクロバが前に出てきた。
 彼は黒い刃に鬼気を込めると、ホルスの子供達とすれ違う際に投身を閃かせて土塊の人形を数体斬った。
 ダメージを与えられただろうが、まだ倒れはしない。意外としぶとい。そして彼自身にも反動が起きて唇から呻き声を零す。
「……引きつけ、助かった」
「いいえ! こちらこそ助かったんだよ!」
 花丸へ礼を言うクロバ。その言葉に対し、謙遜する彼女。
 とはいえ、悠長にはしていられない。引き続き花丸はカラスを通じた視界でホルスの子供達の居所を確認する。
 情報を逐一報告してくれる花丸の声が少し離れた場所から聞こえる。
 彼女の情報だけに頼るのではなく、ニコルもまた、敵を発見しやすくなる察知能力を用いて、探っていた。
 その結果、自分へと注意を逸らしたホルスの子供達は誰一人欠ける事なくついてきている事を理解する。
 纏めて対応しようとしたが、ホルスの子供達の後方から追いかけてくる影を見つけて、引きつけに専念する事にした。
 戦衣と彼女の戦闘用ドレスを組み合わせて作り上げたそれを身に纏う女性――シフォリィは、片手刃をひらめかせて、一歩、二歩、とそれぞれ移動場所を変えながらホルスの子供達へと斬りつけていく。
 彼女の動きを止めようとするホルスの子供達に対して、見知らぬ岩肌のゴーレムがその身体を盾にして道を塞ぐ。
 そのゴーレムへ攻撃をしようとするホルスの子供達だが、ゴーレムは痛がる様子も無い。
 岩肌ゴーレムの主であるジュリエットは、少し離れた所でホルスの子供達に向けて呟く。
「私も死霊術やゴーレムを操る者の一人、そこらのものに負けるつもりはないから」
 そう言ってタップを踏んで踊る彼女。タンタンタタタン、という軽快な足のリズム。そして、土塊の人形一体を切り裂いた。しかし、まだ傷は浅く、彼女は再び踊る。その後ろには、成人男性の高さ程の石造りのゴーレムが控えている。いざという時の為にこのゴーレムを控えさせていた。
 後方での支援をするジュリエットの動きで人形の動きが鈍い事を悟るヴァイス。
 彼女は出来るだけ後方の味方や盾役となって動いてくれた二人を巻き込まないように前へと躍り出ると、暴風を生み出して辺りへと拡散させた。
 それなりに質量があるとはいえ、土塊の人形のサイズは子供のそれだ。吹き飛んで天井に叩きつけられてひび割れたのもいれば、岩場に激突して砕けたものもいる。
 大体の人形を吹き飛ばせただろう事を視認した後、ヴァイスはその場に膝をつく。身体に負担をかけて暴風を起こしている故に、その反動は大きい。
 すぐには動けない彼女を岩肌のゴーレムが仲間の待つ岩陰へと連れていく。そこにはつつじが待っていた。
 彼女を岩陰に置いて主人の下へと戻っていくゴーレムを見送りながら、つつじは辺りを警戒する。この岩陰に入るまでの間、音速の秘術にて土塊の人形達へと傷を負わせたのだが、凍らせようと、痺れさせようと、彼らは少しずつ回復していくのだ。
 ひとまずは岩陰に避難し、ヴァイスが動けるようになるまで守る事に専念する。フクロウの目の護符を握りしめて、彼女は見つけた土塊の人形達へと力を放っていく。それ以上仲間の下へは進ませないという足止めの目的だ。
 彼女の足止めを見つけたシフォリィが、一体へと一閃。土へと還るそれを見たのは一瞬で、彼女の目はすぐに次の標的を捉えていた。
 剣を構える彼女の目に映る土塊の人形達はその数も少なくなりつつあった。
 視界の端に捉える、風牙。
 彼と対峙する少女の土人形。
 その行く末や、如何に。

 未だに倒れぬ『セリシール』を模した土人形。
 槍で防戦をしつつ、風牙は絞り出すように吐き出した。
「なんで消えてくれない……直接お前に武器を振るえってのか?
 この槍を、お前に突きたてろっていうのか?!」
 振り切ったはずの迷いが少しずつ心を浸食していく。
 目の前には両の足で立って、目を開いて自分を見ている『セリシール』。
 彼女と過ごす時間の中で願い、祈って、それほどまでに見たかった元気な姿が、そこに。
「……ああくそっ、くそっ! でも、でも、わかっちまう! どうしようもなく、わかっちまうんだ……!」
 遠かった距離を一瞬で詰めて、槍を突き出す。
(オレの目が、オレのギフトが、お前が違うモノだとわからせちまう!)
 彼のギフトは人の感情を色として認識するものだ。
 それ故に、目の前の者からは何も色が出ていない事を、知ってしまった。

――――彼女は、そんな『色』は絶対出さない事を。

 一撃目。流し込んだ不安定な『気』が彼女の中で弾ける。
 生前の彼女の『色』が、思い出される。

――――病気が悪化して苦しそうにしてても、彼女はいつだって綺麗で暖かい、優しい輝きを放っていた。

 『セリシール』の持つナイフが風牙へと届く。当たり所が急所ではなく腕であった事が幸いだった。
 痺れを感じつつも、なんとか二撃目を叩き込む。

――――『兄さん』と呼んでくれた。

 三撃目。
 その呼び名は、いつだって彼の胸を締め付ける。
(あいつの兄貴を殺したのはオレなのに! 知ってたはずなのに!
 それでもずっと、オレを慕ってくれてた! 優しかった! 暖かかった!)
 彼女の優しさに泣きそうになった日は、一体どれくらいあっただろう。
 それぐらいに、彼は彼女をこう認識していた。

――――大事な妹だ!!

 『セリシール』のナイフを受けながら、少年は高らかに叫んだ。
 そして少年の身体は『セリシール』による複数回の攻撃を受けて後方へと下げられた。
 よろめいた彼の背中を、後ろから花丸が支える。
 彼の前には、ニコルが立つ。
「やらせませんわ!」
 気付けば、仲間が集っていた。
 ジュリエットはゴーレムと共に、残り少ない人形達への一掃へと乗り出している。
 つつじも彼女と共に、刃を叩き込んでいく。
「風牙の戦いは邪魔させへんよ!」
 その声を聞きながら、風牙は足に力を込める。
 シフォリィとヴァイスが、彼に問う。
「手助けは、必要ですか?」
「少しなら、干渉できるわよ」
 答えを返す前に、クロバが彼の前に立つ。
「妹を手にかける兄貴の辛さなんて嫌というほど知っている。
 だけどな、それでも――妹の笑顔を守るのは兄貴の役目だろうが……!」
 数秒の後、返ってきたのは、力強い目。そして、声。
「少しで良い。助けてほしい。トドメは、俺が刺す」
 仲間もまた、頷いた。
 地面に足をつけて立つ風牙。
 彼が走り、槍を振るう。
 『少女』の人形は後退し、距離を取る。
 その動きを阻害するべく、ヴァイスの身体から茨が生まれ、『少女』を捕捉した。
 凍らせ、同時に痺れも与えるその攻撃に、動きが鈍っていく。
 風牙の横からシフォリィが通り抜け、剣を振るう。『少女』の弱点を点いたか、身体が少し崩れた。
「今です!」
 その言葉を受けて、風牙が速度を上げて距離を詰める。
 『セリシール』の目が彼を見た。
 その目と真っ直ぐに向き合って、彼はその土塊の身体を土へと還したのだった。

●命の価値、想いの相違、そして宿す炎
 周りに散らばる土塊の残骸と、地面に膝をついた風牙の止まない嗚咽。
 それらを見ながら、シフォリィは思う言葉を零す。
「……いくら姿を模倣しても、記憶の中から生んだとしても、その人は決して本物にはなれません。この先にいる何者か……目的は解りませんが、悲しみを呼び起こすこれを、私は許さない」
 自分もかつて同じように大事な人を模したものと対峙し、手をかけた記憶がある。
 仲間である風牙の思いは察するに余りある。
 だからこそ、このような所業をする者を許せなかった。
 「同感だ」とクロバが言う。
「俺も死神故に、こういう命を冒涜するような真似は許せん」
 命の冒涜、という点においては同意する者も多い。
 その中で、ジュリエットがぽつりと呟く。
「死んだ者はどうしたって生き返らないから死んだ人間なの。
 例え身体の構成、記憶の一片まで再現したとしてもそれはただの再現。……悪趣味ね」
 彼女の言葉を聞いていたヴァイスは少し逡巡する。
 思いとしては概ね同意であり、それゆえに感想としての言葉はこうなる。
「月光人形の時も思ったけれど、人の心を弄ぶような輩はあまり好きには成れないわ」
 嘆息、それから肩をすくめて。
(まぁ、私は人ではないのだから結局その怒りも悲しみも理解しきれないのだけれどね?)
 口に出さずにおいた言葉は胸の内へ秘め、土塊を爪先で小突く。
 つつじが手を合わせて祈る。
 正直に言って、イライラは続いている。
 しかし、それでも、ここには仮初とはいえ、子供の命があったのだ。ならば弔いはきちんとしておくのが、彼らを倒した者にとっての筋の通し方だと思った。
「ごめんな、先に行かせてもらうで」
 花丸は、風牙の背中を見つめながら、胸の内でのみ言葉を紡ぐ。
(私はあの子と風牙さんの間に何があったのかは知らない。
 ――――けど、それだけ風牙さんにとって大切で、穢されたくない存在って事だよね?)
 拳を握りしめる彼女の肩を、ニコルが軽く叩く。
「どうしましたの?」
「いえ、その……許せない、と」
「誰を」
「彼等の存在が、です。亡くしてしまった大切な誰かを、憎むべき相手を模するなど、許せません。
 そんな彼等を生み出したっていう博士という人も、許せないです」
「それは同感ね。私も彼らが許せないわ」
 うなずき合う二人。彼女達の視線は風牙の背中へと向く。
 彼は土塊を掴んだまま嗚咽を続けていた。
 『彼女』の姿は、かつて望んだ『妹』の姿だった。
 模したものであったとしても、それを手にかけた彼の胸中は複雑なもので。
 ああしてまざまざと見せつけられて、彼の中の後悔が溢れ出さない筈が無く。
 出来る事なら自分が治してやりたかった。失明した目も、うまく動かない足も、病気も、全て。
「ごめん! 本当にごめん! 助けてやれなくて! 治してやれなくて!
 偽物の兄貴で、ごめん……っ!!」
 それでも、彼女は彼をもう一人の兄として慕ってくれたのだ。
 あの柔らかい暖かな光が、彼を照らす物として残してくれた。
 ならば、自分がこれからするべき事は何か。もう分かる。
 彼の後ろにクロバが立つ。
「いつまでそうしているつもりだ」
「……ああ、すまねえ。もう大丈夫だ。
 悪い……ちょっと立つの手伝ってくれ」
「仕方ないな」
 彼の手が風牙の腕を取って引き上げる。
 前髪の隙間から見えた、風牙の緑の瞳に込められた感情に、クロバは一瞬だけ息をのんだ。
 そう、それは激しい――――
「行くぞ」
 感情の意味を問う事はせず、先を促す。
「ああ」
 力強い声を発し、風牙は土塊の残骸が数多残るその場所の土を踏みしめた。
 彼らを先頭に、仲間達も一緒に歩み始める。
 つつじは皆の後をついていき、最後に振り返って、土塊となったホルスの子供達へ声をかける。
「ゆっくり休んでな」
 そして、彼女はもう二度と振り返らなかった。
 一行は先へと進んでいく。
 胸に何かしらの炎を宿して。

成否

成功

MVP

新道 風牙(p3p005012)
よをつむぐもの

状態異常

なし

あとがき

お疲れ様でした!
少しでも記憶に残る戦いとなれば幸いです。
個人的には、葛藤しながら戦うというのは、美味しいシチュエーションだと思ってます。

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