シナリオ詳細
フリームファクシの魔女
完了
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オープニング
●魔女よりの依頼
ハイエスタの鉄騎種族、『フリームファクシの魔女』は誇り高き魔女の部落である。
鉄帝北東ノーザンキングス連合王国主張領土内、ノットの森を主戦場としてシルヴァンスの飛行種ファルコ族と長年にわたって空の技を磨きあってきた。
だがそんな戦いが第三者によって穢された。
正しくはフリームファクシから行方をくらませた魔女トバリによって。
「いい? 私たちフリームファクシの魔女は『魔術の血統』なの。術式を血のように混じり合わせて子とした魔女に受け継ぎ、それを繰り返す。私たちの多くは血の繋がらない他人同士だし、鉄帝のあちこちから流れてきた寄せ集めだわ。
けれど、血液だけが家族じゃない。私たちは魔術によってつながり、魔術によって家族になった。
同じ誇りを受け継いで、同じ森に暮らす魔女なのよ」
フリームファクシの魔女セラータは、組んだ両手に顎をのせて微笑んだ。
魔法によって灯った浮遊ランプが落ち着いたグリーンの光を放ち、煉瓦造りの家の中を照らしている。
「あの子……魔女トバリもそうして外から入ってきた血だったわ」
フリームファクシの村へと訪れ、彼女の話を聞くあなた。
あなたへセラータが語ったのは、ある女の話である。
ある女が、この村を歪めていった話だ。
トバリはホウケンという小部族から亡命という形でやってきた名も無き少女だった。
彼女に魔術の才能を認めたフリームファクシの魔女達は魔女集会の決議によって彼女を新たな魔女『トバリ』とした。
トバリは先達が教える魔術を驚くべき速度で学習し、みるみるうちに一人前の魔女となってしまったという。
だが彼女が成長するたび、村では妙なことが起こるようになっていた。
魔女の何人かが体調不良を訴えたり、戦いに嫌悪感を示すようになったり、魔法の力が急速に衰えたりし始めたのだ。
それは魔女ニュイ、ノッテ、ナハトの三人に顕著で、彼女たちは次第に他の魔女に対して言葉に出来ない不信感を抱くようになり、やがては村の魔女を避けるようにノットの森へと行くようになった。
はじめはファルコ族との戦いで鬱屈した気持ちを発散しているのだろうと放置していたが……。
「ニュイ、ノッテ、ナハト。彼女たちは、ノットの森へ入ったその時から既に、死んでいたのよ」
まさにアンデッドだ。
それも高い戦闘能力を持ったアンデッド。
高度に空を飛び、強力な魔術を行使するアンデッド。
そんなものは、古今東西見回してもそう類はない。
「私たちの教えた魔術がトバリのなかで混じり合い、突然変異的に恐ろしい魔術を作り出してしまったのか、それともトバリがそれだけの才覚をはじめから持っていたのか。それは分からないわ。
確かなのは、三人が森へ消えたのと全く同時にトバリも姿を消したってことだけ」
事件発覚後、不審に思った魔女たちはトバリに割り当てられた家を捜索。するとアンデッドに関わる魔術の資料が大量に見つかり、使役するための媒体も見つかったという。
魔女達はトバリこそが事件の黒幕であり、仲間達を殺してアンデッド化したのだと考えていた。
だが……。
「私はまだ信じられないのよ。あの子がニュイやノッテを殺すなんて。だって、あの三人はトバリを一番大事に育てていたもの。私たちを魔術の血統というなら、あの三人はトバリのママだわ」
だからこそ、確かめねばならない。
確かめた上で、決着をつけねばならないのだ。
●情報
それから一日あけて。
あなたは鉄帝の首都へ向かう蒸気機関車に乗っていた。
「トバリを、鉄帝のスチールグラードのある街で見たっていう情報が入ったわ。
今から私も街へ向かうけれど……私たちだけでは心細いの。
よかったら、あなたも一緒に街へ行ってくれないかしら。
手分けをして街を捜索できればもっといいわ。まずはあの子を見つけたいの」
車窓の景色は森から徐々に街のそれへと変わっていく。
次に止まる駅は、モリブデン。
モリブデンニュータウン駅である。
「ついたわ。この街よ」
- フリームファクシの魔女完了
- GM名黒筆墨汁
- 種別ラリー
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2021年01月30日 18時00分
- 章数2章
- 総採用数21人
- 参加費50RC
第2章
第2章 第1節
「フジャッケンナ! ジョーダンじゃねーぞ鳳圏の犬が! ぶっコロされたくなかったら帰れェ!」
そう叫ぶトバリの言葉から、ひとつの謎が氷解し、真実が浮かび上がる。
『トバリは、鳳圏の利のために動いたんじゃない』
捜索の末、トバリの潜伏するアパートを特定したイレギュラーズたち。
彼らはこちらを鳳圏からの刺客だと考えて興奮するトバリとしばらく交戦した後、彼女を落ち着かせることに成功した。
そしてついに、怪事件の真実が彼女の口から語られることとなったのだった。
「ニュイ姉さん、ノッテ姉さん、ナハト姉さんのことは……その、すまないと思ってるよ」
ナハトはパーカーのフードをかぶり、その先端を指でつまんで引っ張り下ろすようにしてうつむいた。
ここはトバリが潜伏していたというモリブデンのアパート。その自室内である。
一人暮らし用の小さな部屋のようで、僅か数人だけを入れて残るメンバーはアパート周りで待機することになった。そんな中での会話である。
「アタシが鳳圏から持ち出した術が、ニュイ姉さんたちを歪めちまったんだ。いろんな魔法を教えてくれたから、そのお礼になると思って……」
トバリにも解明できなかったという呪術書は、鳳圏から亡命する際何かの交渉材料に使えるかもと盗み出したものだったという。
ニュイたちはそれの解明に成功し、ニュイとノッテとナハトの三人で現状のフリームファクシに伝わる魔術との融合を試みた……のだが、それが歪みの始まりだったという。
彼女たちは呪術書に取り憑かれるかのように研究に没頭するようになり、誇りのために続けてきたノットの森での戦いを忌避したり、魔術の力を研究にばかり注ぎ込みそれを周りの魔女たちに隠そうとし始めたのだ。
「たぶん、ヤバイやつだったんだと思う。死んでも戦える術式とか、そういう……。アタシも怖くなって距離を置いてたんだけど、ニュイ姉さんたちが急にノットの森に飛び出していっちまって、追いかけて……それで……」
トバリは、ニュイたちがアンデッド化してしまっていたことにその時ようやく気付いたという。
なんとかして元に戻せないかと資料をあさるも成果はなく、最後の頼みの綱として、この町の地下闘技場に時折出没するという『中将殿』を頼ろうとモリブデンへとやってきたのだった。
「それで……その人とは会えたの?」
「んー……」
渋い顔で首を横に振るトバリ。
セラータたちは悲しむ一方で、どこかホッとした顔をしていた。
「なにより、あなたがまだ私たちの『家族』だってわかって、よかったわ。トバリ」
「けど、アタシのせいでニュイ姉さん達が……」
「それはそれ。死が世界の終わりじゃないってね」
複雑そうに笑うダスクとソワレ。
トバリが顔をくしゃっとさせた……その時だ。
ズズン、という轟音と共に建物が揺れた。
外から仲間達が叫ぶ声がする。
「襲撃だ! へんな軍服着た連中がいきなり攻撃してきやがった!」
「いや、あの軍服――鳳圏だ! 鳳圏のアンデッド兵だよ!」
部屋中、皆の視線がトバリへと集中する。
トバリは『やっぱアタシ狙いだよなあ』と額に手を当てていた。
竹箒をがしりとつかみ、窓から外へと飛び上がるセラータ。
「こっちは『家族と感動の再会!』って時なのよ。邪魔しないで!」
セラータに続いて、ダスクとソワレも空へと飛び上がっていく。
トバリは……その後ろ姿を見るだけだ。飛び立つ勇気は、まだないらしい。
戦いはそれでも、もう始まってしまっているのに。
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プレイング受付を開始します。受付期間は~1/29 22:00ごろを予定しています。
●第二章
・成功条件:アパート前の戦いに関わる
トバリという少女を見つけ、彼女からことの真相を聞くことができました。
どうやら彼女は鳳圏という小部族からの亡命者であり、その際にある呪術書を盗み出していたそうです。
ニュイたちがアンデッド化してしまった原因ではありましたが、それはトバリの意図しないことでもありました。
そして今現在、おそらくはトバリの呪術書を取り返すため、もしくはトバリを抹殺するために鳳圏は兵を差し向けてきました。
鉄帝首都にも近いこのエリアで白昼堂々襲撃を仕掛けるということは、それだけ自信があるということかもしれません。
こんな状況の中、あなたにもまた選択が求められていました。
・行動選択
あなたはこの状況で『どのように行動しても良い』です。
成功条件として、少なくとも戦いに何らかの形で関わるようにしてください。
現在、鳳圏の兵士と小型戦車が偽装を解いて戦闘状態に入っています。
フリームファクシの魔女セラータ、ダスク、ソワレの三名は高高度からの射撃戦闘を行う予定です。この三人は空中戦闘ペナルティを軽減するクラス効果を持っています。
・鳳圏
ヴィーザル地方の東に位置する『国』。ノーザンキングスやアドラステイア同様国家を名乗っているが列強諸国からはそれを認められていない。
ノーザンキングス同様支配するには痩せた土地であり制圧に要するコストの問題からかなり放置されているとみられている。
軍国主義国家で普天斑鳩鳳王を主とした軍主導の政治が行われている……はずだが、つい最近になって中枢部への立ち入りが禁止されるようになり、鳳圏内部がどういった状態にあるかを鳳圏出身のイレギュラーズたちも把握できていない。
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第2章 第2節
多脚戦車から放たれる砲弾がアパートの壁面にぶつかり、窓ガラスという窓ガラスを破壊していく。
すぐそばのベンチで軽くサボっていた『ザ・ゴブリン』キドー(p3p000244)はその最初の砲撃で飛び起き、そして反射的にナイフと手榴弾に手をかけていた。
仲間達からの情報伝達でハナシは伝わっているが……。
「ああ!? とんだファーストコンタクトだぜ! 敵兵をとっつかまえて情報吐かせるか? いやできねえな……」
「それは、どうして?」
『怠惰な新人』灰羽 裕里(p3p009520)が機関銃をオリーブ色の収納ケースから取り出すと弾倉を取り付ける。
「連中アンデッドだろ? てことは操り人形みてえなもんだ。持ち物から何か分かるかも知れねえからできるだけスリとってみる。援護頼むぜ」
「わかった。上手く、行けば、足止め、も、出来る、かも」
裕里は急いで外付け階段を駆け上がり、やや高所より機関銃の雨を降らせていった。
一部の兵士たちはその防御のために足を止め、運良く当たった者は吹き飛ばすこともできた。
その中を駆け抜け、手榴弾を放り込んでいくキドー。
展開した『妖精の霧』が兵士達をとりこんでいく。
その様子を、無表情に支援射撃で助けながら眺める裕里。
「鳳圏、の、アンデッド……確か、伊邪那岐型、だっけ」
キドーは爆発によって倒した敵兵から素早く認識用を奪い取り、弾幕に巻き込まれないように離れていく。
認識票には数字の列だけが書いてあり、名前や住所といったものは書かれていない。
「なんだこりゃあ。コードか?」
そんなキドーを追って、剣を抜き集まる兵士達。
そうはさせまいと『艶武神楽』ブレンダ・スカーレット・アレクサンデル(p3p008017)と『フロイライン・ファウスト』エッダ・フロールリジ(p3p006270)が割り込みをかけた。
「木っ端共が随分吹きあがっているでありますな」
「ああ、ぞろぞろと数ばかり。だが人捜しよりもわかりやすい」
ブレンダは剣を抜き、それぞれに暴風と火焔を纏わせた。
「後ろは任せたぞエッダ。手が足りなくなったら遠慮なく呼べ」
「手が?」
スラスターによって飛んできたガントレットを両腕それぞれに装着すると、握った拳を胸の前で打ち合わせる。
「これしきの鉄火場、手は二つあれば充分であります」
斬りかかる兵士達をガントレットによって防御し、飛んできた砲撃をクロスアームでガードする。
その隙にブレンダは剣をクロスし、兵士を一人また一人と切断していく。まるではさみで糸を切って回るかのように。
「はっはっは! 軽い軽い! 今何体目だエッダぁ!」
「……自分はこれでやっと一体目でありますよ、やれやれ」
殴り倒し、『やっぱり腕が四本あってもいいのでは』などと妄想するエッダだった。
「奴らの狙いはおそらくトバリ嬢。まずは彼女の退路を確保致しましょう」
「賛成だ。ゴブリンと……そこの新人も手伝ってくれ!」
呼びかけるブレンダに、キドーと裕里がサムズアップで応えた。
成否
成功
第2章 第3節
「胸クソ悪い兵器をヒトのシマに持ち込むなんて! カクゴは出来てるんだろうなッ!!」
兵士の一人を殴り倒し、『業壊掌』イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)は怒りに目を見開いた。
このタイプの兵士達と戦ったのはこれで二度目。多脚戦車の装甲をひっぺがした後のあの風景を、今でも悪夢に見る。
イグナートにとって許せない三つのことのひとつ。力ない存在を虐げる者、だ。
「こんなものが蔓延る世の中のなにがいい。こんなもので成り立つ平和の、なにが素晴らしい!」
自分に至近距離から向けられたライフルの銃口を握りしめ、へし折り、その勢いで敵兵の顔面を殴り潰す。
『アサルトサラリーマン』雑賀 才蔵(p3p009175)はその様子を物陰からうかがっていたが……。
「鳳圏からの亡命者の噂を聞いて来てみれば……鳳圏の連中め随分と派手にやってくれているな」
グレネードオプションを備えたアサルトライフルを取り出し、セーフティーを解除。
そして物陰から姿をみせて呼びかける。
「イグナート、その戦車の対空砲火が厄介だ。魔女達の支援をするために優先的に倒したい」
「……わかった。えんごは任せる」
何か思うところのあるらしいイグナートが気になったが、一旦横において才蔵は援護射撃にはいった。
戦車めがけてグレネードを山なりに発射。
爆発によってこちらに注意を向けたところで、別のものかげめがけて走りながらライフルをフルオートで撃ちまくる。
当てる必要はないが、外すつもりもない。兵士を数人転倒させてから、馬車の裏へと転がり込んだ。
直後、イグナートの拳が戦車の装甲を打ち抜き小さく爆発させた。
成否
成功
第2章 第4節
戦車からの砲撃によって次々と吹き飛んでいく馬車。
駐車場を駆け抜ける『トンネル掘り魔法』江野 樹里(p3p000692)は、背負っていた真魔砲杖のロックを解除。馬車の列から抜けるタイミングを狙って魔力ホーミング弾をばらまいた。
半数ほど着弾。それを基準として、樹木の裏へとスライディングで隠れた。
戦車からの機関銃が樹木を激しくゆらし、そして削っていく。
(書の奪還に来るにもタイミングが遅すぎる気もします
魔女達が研究して、狂うほどの時間が経っているのにどうして今更トバリ様が奪ったとわかったのか…不思議ですね?
わざと泳がせて書の新たな可能性を探したかったのか、別の作戦の陽動か……)
予測はいくらかたつが、証拠はない。
いま出来ることは、たったひとつ。
ホルダーから取り出したイラストカードを杖のマガジンに数枚さしこみ、樹里の魔力を急速充填。
「願い給え、祈り給え、許し給え――受理あれかし也」
跳ね上がったレバーを掴み、『受理』と書かれたスイッチを押して握り込む。と、樹木をぶち抜いて戦車へ激しい光線が浴びせられた。
呪力障壁によって一瞬だけガードされるも、螺旋状に打ち抜いた光が装甲もろとも破壊していく。
「そのまま抑えておいてください!」
弾幕が僅かに空いたその隙を、猛烈に駆け抜けていく『折れぬ意志』日車・迅(p3p007500)。
と同時に、アパートの一室から助走をつけてベランダに飛び出し手すりを飛び越え宙返りからの飛翔蹴りの姿勢をとった郷田 京(p3p009529)。
「めっちゃくちゃ燃える展開じゃない――の!!!」
流星の如く繰り出された蹴りが戦車に直撃。
と同時に迅のパンチが戦車を思い切り吹き飛ばした。
「軍事国家から亡命した少女!
怪しい実験で生まれたアンデッド兵!
あっはっは、悪のそしきっぽい!
そのうえ感動の再会ってやつを邪魔するんなら、ぶっ飛ばすのがジャスティスってもんでしょ!」
アンタもそのクチ? と顎を動かしてジェスチャーする京。
迅は格闘の姿勢をとると、一斉に集まってくるアンデッド兵たちの銃撃をパンチで強引に打ち落としていった。
「か弱い子供を動力にする兵器。
話は聞いていますし僕もこの目で見ましたが、祖国にこのような物を作る輩がいるのは嫌な気分です」
「そっちもワケありだねぇ」
「動力になっている子を楽にしてあげなければ」
迅はフッと残像を半分残してかき消えると、周囲の兵士たちの間を五芒星ラインでも描くように駆け抜け次々に殴り倒していった。その間およそ二秒半。
「ワオ」
ややあって、セラータたちによる空からの魔術爆撃が始まった。
駐車場がたちまちのうちに爆ぜ散らかっていく。
成否
成功
第2章 第5節
爆発の続くアパート前。時折赤く白く煙る窓の外。
屋内で立ち尽くしていたトバリめがけ、呪術ミサイルが煙をひいて飛来した。
「トバリちゃん!」
目を見開いて動かずにいるトバリを抱え、部屋に押し倒す『キールで乾杯』アーリア・スピリッツ(p3p004400)。
「ごめんなさいねトバリちゃん、貴女を疑ってしまって。
貴女を家族の元へ――あの美しい花が咲き誇るフリームファクシの村へ帰せるように、私が貴女を護るわぁ」
腕の中のトバリを強く抱いて、アーリアはそう囁いた。
フレームごと吹き飛んだベランダへの扉を踏み、『祈りの先』ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)と『雷はただ前へ』マリア・レイシス(p3p006685)が外へと向く。
「さて! ヴァリューシャ! 私達の得意分野だよ! ぶっ飛ばしてしまおう!」
「そうですわねマリィ、不届きなお客様にはお帰り頂かなくては!」
そう言いながらも、ヴァレーリヤはちらりとトバリを見て、目を細める。
(自分のせいで大切な人達がああなってしまって、とても辛かったですわね)
今すぐ自分に出来ることは、確かに戦うことだけなのかもしれない。けど、まだもう一つ。もう一つだけある気がした。
「トバリ、貴女も手伝って頂戴! これ以上、被害を出さないためにも!」
「けど……」
すぐにイエスとは言えない。分かってる。人間はそんなに強くない。
ヴァレーリヤは笑って、そしてマリアの手をとった。
「行きますわ、マリィ」
「へっ!? あ、うん!」
二人は走り、既に崩壊して手すりもなくなったベランダから飛び立った。
翼もニトロエンジンもないけれど、繋いだ手があれば飛べた気がした。
リニアレールを空中に作り豪速で飛行するマリア。
彼女に抱えられる形で、ヴァレーリヤはメイスから激しい炎を放出していく。
セラータやダスクたちを狙ってライフルを撃ちまくっていたアンデッド兵たちが燃え上がり、ついでとばかりにパージされ着地したヴァレーリヤが兵士を頭から殴り倒していく。
更にはマリアがヴァリューシャの真上で蒼雷状態へシフトチェンジ。垂直軸回転しながら両手を広げるような姿勢をとると、周囲へ幾本もの雷を落としていった。
戦いの音はやまない。
起き上がったトバリの手をひいて立たせてやる。
「しゃっきりしなさい」
彼女の目は、キッカケを待っている。
アーリアにはそう見えた。
「フリームファクシの魔女達は、皆本当に美しく空を飛んでいたわ。
あなたに飛び方を教えたのは誰。あなたには、その『魔術の血統』が流れているんでしょう」
「血統……」
めそめそしないで、飛ぶのよ。
アーリアは強引なくらいに手を引いて、そしてベランダから飛び降りた。
「え、ちょ、待っ――なんだよフジャッケンナ!」
咄嗟に。いや待っていたかのように、トバリは部屋の隅に転がっていた竹箒を召喚。手に掴むと、アーリアを抱えて飛行した。
「そうでなくちゃあ、ね」
「滅茶苦茶だあんたたちは」
苦々しい顔をしながらも、しかし、トバリは三色の光を空に浮かべ、敵兵たちへ次々に発射していく。
アーリアはカクテルの入った小瓶『月雫ヴァイオレット』を放り投げ、魔術爆発を引き起こす。
パープルカラーの爆煙を突き抜けて、アーリアを抱えたトバリが飛び抜けていく。
「アタシは、帰っていいのかな。あの森に」
問いかけるような言葉はしかし、答えが分かっているようで、アーリアは何も言わずにトバリの頭を撫でてやった。
成否
成功
第2章 第6節
戦いは終わり、滅茶苦茶に荒れ果てたアパートとその周辺が残った。
この辺りはさすが鉄帝と言うべきか、彼らはテキパキと清掃業者と建設業者を呼んで慣れた様子で後片付けをしていく。戦闘も爆発も日常茶飯事だとでもいうかのように。
一方でこちらも慣れたもので、事件の中心とみられたトバリはとりまアパートを追い出され、段ボール箱を抱えてぽつんと路上に立つハメになっていた。彼女が当局に拘束されなかったのは、エッダをはじめ多くの地元有力者たちの口添えがあったことは言うまでもないだろう。
そして、なるべくしてなったかのように。
「帰りましょうか、トバリ」
セラータの差し出した両手に、胸に、トバリが飛び込んでいく。
フリームファクシの魔女。
魔術の血統をもつ家族達。
これは、家族の再会と再生の物語である。
GMコメント
このシナリオはラリーシナリオです。仕様についてはマニュアルをご覧ください。
https://rev1.reversion.jp/page/scenariorule#menu13
■グループタグ
誰かと一緒に参加したい場合はプレイングの一行目に【】で囲んだグループ名と人数を記載してください。所属タグと同列でOKです。(人数を記載するのは、人数が揃わないうちに描写が完了してしまうのを防ぐためです)
このタグによってサーチするので、逆にキャラIDや名前を書いてもはぐれてしまうおそれがあります。ご注意ください。
例:【もふもふチーム】3名
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●第一章
・成功条件:モリブデンで捜索を行う
あなたはトバリという少女を探すべく、鉄帝の街モリブデンへと入りました。
手がかりとして渡されているのは詳細な人物画のみ。背格好やセラータが語る普段の言動などは教えられていますがあまり参考にはならないでしょう。セラータからこれ以上引き出せる手がかりもなさそうです。
まずは街に出てトバリの捜索を行いましょう。
街にはセラータの他、魔女ダスク、魔女ソワレという二人が一緒に入っています。とはいえ三人だけですし、彼女たちは戦闘技術には優れていますが探索能力はとても低いので歩き回って人物画を見せるくらいしかできません。
なので必然的に、PCの誰かと一緒に行動することになるでしょう。
・戦闘の有無
場合によっては戦闘が起こることがあります。
モリブデンは元スラム街という側面があるためワルめの人間も多く、情報を引き出すのに腕っ節を要求される場面もあるからです。
■オプション要素
今回の事件に関して、どんな裏があるかをプレイングで予想してみましょう。
その正否はどうあれ、予想することに意味が生まれます。
■解説
●モリブデン
かつてはスラム街でしたが色々あって新闘技場を中心とした都市開発が進んでいます。
開発中の都市というだけあっていろいろな人が出入りしており、既に稼働しているモリブデンスーパーアリーナ周辺は観光地化しています。
店も多く、おニューでオシャレな町並みが魅力です。
●アフター要素
こちらのシナリオは、下記のアフター要素を含んでいます。シナリオに参加していなくても、リプレイを読んでいなくても充分に参加が可能となっています。
『天空と大地の間、空飛ぶものたちのレイヤー』
https://rev1.reversion.jp/scenario/detail/4786/1#replay
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
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