シナリオ詳細
<アアルの野>双刃を貶める罠
オープニング
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遺跡群『FarbeReise(ファルベライズ)』とその中に眠っていた『小さな願いをかなえる宝』
様々な形状を取り、『色宝』と呼ばれるそれをめぐって、イレギュラーズとパサジール・ルメス、ラサの三勢力と敵対している『大鴉盗賊団』
彼らの動きは活発の一途をたどっていた。
部下たちに対して、『色宝の分け前を与える』と通告することで強奪をより過激に、より苛烈に進める頭領・コルボは、こともあろうに『ネフェルスト』への直接的な襲撃を図った。
その目論見自体はファルベライズ中核への侵攻も含めて食い止めることができたものの、状況はそれだけで終わりそうにはなかった。
そしてファルベライズ中核に浮かぶ扉より姿を現した『イヴ』なる少女の姿をした人形は、イレギュラーズへ語り掛けるのだった。
●
この地の守護者であり、人ではないと語った『イヴ』は土塊で固めた人形にかりそめの命を与えたかのような『ホルスの子供達』なる存在をイレギュラーズに告げる。
「……死者蘇生の研究か」
ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)は思考の整理を兼ねてそう1人呟く。
仲間達を連れて歩みを進めるのは、ファルベライズ・中核に広がる遺跡の中だった。
絢爛なりし美しき遺跡は、クリスタルで形作られており、ふと視線を横に振れば、反射した己の顔が見れるほどだ。
どれくらい進んだだろうか。幾つかの階段を下りて、幾つかの階段を上がってきた。
今のところ、この付近には出口の類が見受けられなかった。
「この方向は失敗だったか……」
「いや、あれを見てください!」
言われた方向を見れば、四角にくり抜かれたような白――光があった。
「出口か……行こう」
警戒を解くことなく、歩みを進め――光の向こうへ。
そこに広がっていたのは、あり得ざるものだった。
左右に広がるのは、芝生と均された地面。
見上げれば陽光が輝き、周囲を見渡せば円柱に支えられた屋根の渡り廊下に、レンガ造りの建築物。
――ありえない。
ここが遺跡の中だから? 否。
いや、それもではあるが――そうじゃない。
ありえない。『この景色がこの世界にあってなるものか』
「――学校がなぜここにある?」
マナガルムの声は、思いがけず震えていた。
仲間の呼ぶ声に我に返って前を向き――再び声にならぬ音が喉をついた。
「目標 視認 ――髪、金色」
初めに声を出したのは、紅髪の貴人であった。
黒衣のマントが吹くはずもない風に揺れ、美しき槍が微かに動く。
「瞳――青」
続くように声を発したのは、紫髪の美女であった。
腰ほどの長髪を靡かせ、腰の剣を抜き、片手で静かに構える。
「黒衣、マント――」
「――槍」
続けるように、単語ずつ。2人――あるいは2体が声を紡ぐ。
「「これより、与えられた名の下に、願いを遂行する」」
全く同時、重なった声と共に、2体の視線が真っすぐにマナガルムを射抜いた。
「ホルスの子供達か――!」
手に握る槍に力が入る。
2体が踏み込みを放つその寸前――マナガルムは殆ど経験則で後ろへ跳んだ。
そうだ、彼が――彼女が、ここにいるはずがない。
『彼』は『レイル=ヴァン=ヘインズルーン』はあの日死んだ。
何らかの奇跡でその寸前、いつの間にかこちらへ飛んだ可能性もおおよそゼロに近い。
そして――少なくとも『彼女』は『ルナ=ラーズクリフ』は――この手で殺したのだから。
刹那――ほとんど咄嗟に構えた槍が、跳びこんできた2人の刃と激しい金属音を走らせた。
その双撃は『恐ろしいほど軽かった』
ふと周囲を見れば、いつの間にか士官学校時代の制服を纏った人型の怪物が近づいてきている。
- <アアルの野>双刃を貶める罠完了
- GM名春野紅葉
- 種別EX
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2021年01月20日 22時05分
- 参加人数10/10人
- 相談7日
- 参加費150RC
参加者 : 10 人
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参加者一覧(10人)
リプレイ
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振り下ろされた刃を跳ね返して間合いを開けた『黒狼領主』ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)は、眼前の敵を静かに見据えていた。
(俺の最後の記憶から、まるで『変わらない姿』だ)
握る槍が鈍らないように、心を落ち着かせる。
「お前達は俺の過去から産まれた創造物に過ぎない──故に、過去へと帰って貰おう」
周囲で動き始めた泥人形たちに視線を向けながら、定めた覚悟のままに声に出した。
「なるほどね、ベネディクトの死んだ……あるいは殺した仲間ってやつか。
(メイドの時も思ったが、こりゃまったく趣味が悪い。
故人の記憶を利用するなんざ胸糞悪いぜ)
黒犬を抜きながら、『竜撃』ルカ・ガンビーノ(p3p007268)はマナガルムに近づくと、ばしっと肩を叩いて隣に立った。
「気負うなよベネディクト」
「あぁ、大丈夫だ」
ルカにより振るわれた漆黒の斬撃は近づいてきていた泥人形を纏めて削り取る。
それに続けるように力で捩じり取るようにマナガルムが槍を振るい、一帯の泥人形に追加の傷を刻んでいく。
斬った、打ち据えた感触のない泥に突っ込んだかのような手応えだ。
(ベネディクト……振り払った過去に襲われるとは、不運ね)
「何よりも『これを為してしまった相手』には同情するわ。
この先の末路をね――始めましょう。神がそれを望まれる」
魔書より抜いた戦旗を構え、『天才になれなかった女』イーリン・ジョーンズ(p3p000854)が告げる頃、戦端が開かれつつあった。
「ベネディクト君には世話にもなっている。彼の心情を察する事はできぬが。
彼が子供と相対できるようにするのが僕の「仕事」だ」
匂いで大まかな位置取りを合わせながら、『砂の幻』恋屍・愛無(p3p007296)は静かに自らの粘膜を明確にあふれ出させる。
「個の戦闘能力よりも群れでの動きの方が厄介そうだ。まずは連携を断たせてもらおう」
半透明な粘膜を半ば怪物の姿に形成させた愛無は、その姿のまま静かに殺気を放つ。
中てられた複数体の泥人形が愛無に敵愾心を向け、近づいてくる。
泥だけあって、多少無理な体勢からも、振り返って走ってくる様は異様でさえあった。
「さあ愛無、耐久テストと洒落込みましょうか!」
その様子を見据えたイーリンは押しては返す波涛のように、己が鼓動と向き合った。
引いていく精気は幽世へ、双眸がただ紫苑を引いていく。
「この程度なら、イーリン君の手を煩わせるまでもない。その力。存分に奮ってくれ」
到達した1体の泥人形の剣を受け流しながら告げた愛無が人形を押し返した直後――姿を変じた戦旗が真っすぐに近づいてくる3体の人形を薙ぎ払う。
(ホルスの子供達……はて、死者を模した人形遊びをするのが当世の流行りなのかね?)
緩やかに鎌を構えた『闇之雲』武器商人(p3p001107)は一気に前に出た。
ぴたりと張り付くは子供達の一方――女。
(ホルスの名が伝わる界(さかい)での復活の考え方として、
確かに名前(レン)が必要になってくるけど……なんだか中途半端な感じが否めないねぇ……?)
ぎこちなくこちらを見ながら構えを崩さない女モドキに立ちふさがる。
(犠牲にした、と、あの時彼は言っていた。
あれが彼が元の世界に残してきた悔いなら、彼は……このお二人を……)
緋炎の刀身に魔力を通した『春告げの』リースリット・エウリア・ファーレル(p3p001984)はそれを鞭のように振るう。
蒼き蛇となった雷霆を一帯の泥人形へと叩きつけ。
その視線は複数の泥人形を薙ぎ払うマナガルムに向けられていた。
(大丈夫なようには見えるけれど……少なくとも、常の平静ではありえない。
……ならば、私たちが支えましょう)
「趣味が悪いコピーだよね。オレもやられたけれどトモダチの粗悪品を作られるなんてゾッとしないよ」
拳を握る『業壊掌』イグナート・エゴロヴィチ・レスキン(p3p002377)は仲間たちの連続攻撃を浴びる泥人形を突っ切るようにまっすぐ走り抜けた。
気功を用いて生じた虎爪の構えごと、真っすぐに掌底を叩き込むはレイルを模すモノ。
拙い体捌きで僅かに避けようとしたそれに、気功の爪が傷を付ける。
(またか……いったいどうしてこんな性質を持っているのだろう。
……どんな理由であっても思い出を勝手に使われてはたまらないけれど。)
「姿だけとはいえベネディクトの大事な人達を破壊するのは気が引けるけど、
このまま放っても置けないから……なるべく早く決着がつくよう力を尽くすよ」
待機に満ちる魔素を取り込み臨戦態勢へ持って行きながら、『洗礼名『プィリアム』』ウィリアム・ハーヴェイ・ウォルターズ(p3p006562)は告げる。
狙うは愛無の殺気に反応するように近づいてくる幾つかの泥人形たち。
魔力を静かに魔法陣へ注ぎ込み、放つは連なる雷。
バリバリと音を立てる雷霆は一定空間の泥人形をまるで牢へと包み込むかのように取り囲み、焼き払う。
(……これが、ベネディクトさんの故郷の景色ですか。
そして、ベネディクトさんが思い入れのある方々……)
幻想に近いようでいて、幻想とも違う不思議な光景に視線を向ける『夜咲紡ぎ』リンディス=クァドラータ(p3p007979)は白紙の頁を開いた。
「本物であればベネディクトさんのお話をお伺いしたかったのですが」
物語の一つを記して写し取ると、マナガルムら最前衛の近くまで進み出る。
「ホルスの子供たち。ですか」
静かにこちら――特にマナガルムを見据える2体の『子供達』を見て、『罪のアントニウム』クラリーチェ・カヴァッツァ(p3p000236)は直ぐにその視線をマナガルムに向ける。
(蘇った死者『のようなもの』……死者は蘇らない。
その魂は罪を許されて須らく天に還る。それがこの世界の理です)
送り人として命の冒涜でもある模倣など許すわけにはいかない。
(…が。どのような形であろうと『もう一度逢えるならば』と願う人が途絶えないのもまた現実)
彼はこの状況をどう思って槍を握っているのか。
「……ともあれ、皆様が十全に動けるようサポートいたします」
神秘との親和性を高めながら、クラリーチェは静かに告げた。
向かってくる泥人形の一つへ、隆起した地面が襲い掛かり、大地へと呑み込んでいく。
這いずり出た泥人形が、身体の再構成に手間取っている。
●
剣閃が奔る。残像に紛れた剣が武器商人の身体に触れ――その身体を刻むよりも前にぴたりと停止する。
斬れないことに気づいたホルスルナが後退していくのと合わせるように、前に向かって走り抜ける。
「――対象を捕捉。離脱を優先する」
マナガルムの方へ走らんとするホルスルナの前に立ちふさがるように、改めて張り付けば、ホルスルナの方も合わせて引き剥がそうと動く。
(はて……動きが鈍いねぇ……まともに戦い方が分かってれば対応しそうなものだけど……
する術がないのか、或いはする脳がないのか……)
再度の剣閃――今までよりも深く放たれた剣に纏われた冷気が微かにその身を凍てつかせる。
それを気にすることなく、鎌を振るう。影の中に潜む者達が蠢動し、武器商人の身体に吸い込まれ、その気力を充足させていく。
紅い雷光が爆ぜた――否。
雷光の如き苛烈さと速さを持つ薙ぎだ。
イグナートはそれに合わせて腕を伸ばし、勢いを殺すと共に抱え込む。
微かに纏われた痺れを無視しして――槍を握ったままホルスレイルごと振り上げ、大地に叩き落とす。
受け身を取ることなく叩きつけられたホルスレイルが、ふらふらと立ち上がってくる。
「ハハッ、見た目ほど強くないね」
構えを取り直しながら、立ち上がったホルスレイルを見据える。
(この調子なら攻撃パターンは読めそうだけど……カクはどこかな)
今のところ、外見から色宝の位置は見えなかった。
(ドウカしてるなら打ってみて確かめるけど……ヨロイの奥かな?)
荒れ狂う蒼き雷霆が迸る。リースリットの握る緋色の魔剣が蒼を纏う姿は幻想的ですらあった。
爆ぜるように走る蒼雷が愛無の近くに向かっていたゴーレムを撃ち抜いた。
スパンと音を立ててその身体が木っ端微塵に吹き飛んだ。
――しかし。周囲へと散らばった破片たちがまるで巻き戻るように一体化していき、再びその姿を制服を着た男へ改める。
「やはり倒しきれませんか……ですが」
殺せそうな相手は必殺で殺した方がいい。
そうはいっても、相手が泥人形に過ぎぬこともあって外見だけで判別しにくい部分がある。
とはいえ、多少のブレで倒れた相手が再生したところで、1度再生(EXF)が起これば、次に確実に殺すことは難しくない。
「外見から判別がしにくいのは困るけど……」
ウィリアムは魔法陣を展開すると、地表を蛇のように稲妻を走らせた。
泥人形の足元を這い、絡み取った雷霆はその動きを止めると同時、焼き切るように爆ぜる。
雷光を受けた泥人形が動きを鈍らせていた。
銀槍を握るマナガルムは力でねじ伏せるように周囲の泥人形たちを薙ぎ払う。
偶然に強く入った泥人形の1体――その腹部を横殴りにした途中で槍が止まる。
「――――」
一瞬、息をのんだ。
見たことがあるような、見たことともないような顔だった。
朋友と呼べるほどでも、知り合いと呼べるほどでもない。
たまたま歩いていたのを見ただとか、そんなレベルの――同級時代の士官生にいたような。
――だが、そのレベルでは槍は鈍らない。
泥の奥で穂先を縦に。そのまま振り上げて腹部から逆に切り開く。
それが、どろりと溶け、再び姿を再生させる。
「ルカ! これなら倒せるはずだ!」
背中を合わせるように立っていたルカに叫べば、飛ぶように跳ねたルカが泥人形の頭を掴む。
「任せろ!! ラァッ!!」
そのまま、力いっぱい、その泥人形を吹っ飛ばす。
円を描きながらすっ飛んだ人形が花壇へぶつかり、その身体を四散させ、小さな核らしきものがピシリと砕けるのが見えた。
「そちらに行ってもらっては困る――」
遥かな向こう、ホルスの子供達を抑える仲間の背後を取らんとする泥人形を見据え、静かに粘膜を指先に集める。
硬質化したそれを、静かに放てば、真っすぐに飛んだそれが泥人形の背後に炸裂する。
動きを鈍らせたそいつがその視線をこちらに据えた。
リンディスは白紙の魔導書に描いたさる魔導師の治癒魔術を再現する。
伝承以上の何も知らぬその者の癒しの魔術が集中攻撃を受ける愛無に齎された。
白いオーラが愛無に触れ、そこに刻まれた傷跡を洗い流すように打ち消していく。
(今のところ、ホルスの子供達はお二人に掛かり切り……このままであれば問題なく進められそうですが……)
最後まで素直に二人に抑えられていてくれる相手かどうか、まだ分からない。
思考するリンディスの視界の端で矢が飛翔する。
最前衛で戦う者達を避けるようにして放たれた矢は、射程の関係上やや後衛気味にいたウィリアムとリースリットを貫いた。
纏わりつく泥が、その身動きに不確定要素を齎さんと叩きつけられる。
それを見たクラリーチェは2人とマナガルムを射程に入れるように動くと、呪文を紡ぐ。
風が放たれ、3人の身体に纏わりついていた穢れと泥を吹き飛ばしていく。
イーリンは真っすぐに範囲攻撃で疲弊する土人形が射程圏内に2体入ったのを確認すると、魔眼の視線を向けた。
紅と蒼の螺旋が泥人形たちの彼岸を映し出す。
それに生命の類が無いのだとしても。
内側から核を破裂させた泥人形がその場でどろりと土に還っていった。
(この調子なら、思ったよりも早く片が付きそうね)
後方に展開した式神に警戒させた包囲の可能性は今のところ感じ取れなかった。
●
呼吸に合わせ、気の流れを変える。
呪腕にバチバチと黒きスパークが生じていく。
「今なら中てられる――」
自然に、抗わず、ただ拳を前へ。
「――絶招・雷吼拳」
インパクトの直後、捩じるように鎧を撃ち抜いた。
心臓辺りであろう位置の装甲が、罅を割れる。
その向こう、僅かに見えたのはホルスレイルの髪とも似た紅の宝玉――
打ち据えて、体勢を立て直したその視界が紅を引く。光が走る。
しなり、曲線を描く刺突を合わせて動こうとしたがしかし、槍は生き物かの如くしなり、イグナートの腹部を貫いた。
力量の問題で受けた傷は致命的ではない。その穂先が追撃とばかりに振り下ろされ、関節を強かに打ち据える。
「そうこなくちゃ」
自然と浮かんだ獰猛な笑みと共に、温かな光がその身体を包み込んだ。
それはリンディスが放つ未来の福音。
穏やかな調を奏でるある偉人の癒しの唄。
歌に導かれるように、イグナートの腹部の傷が痛みを失っていく。
収束させた影より魔力のような何かを自らに還元していく。
武器商人は不敵な笑みのままにホルスルナとの対峙を続けていた。
時折だが、彼女の剣を躱しきれない時がある。
問題にならない程度の回数ではあるが。
(こちらの動きを抑えられるのは問題じゃない……
けれど、後れを取ってマナガルム卿の方へ向かわれると面倒だ……
ヒヒ、どうしようか)
念のために持ってきたハッキングには何も触れてこない。
残念ながらというべきか、これを仕掛けてきた相手は目の前のこいつらに指示を与えているわけではなさそうだ。
土人形共も、ホルスの子供たち同士も意思疎通はさほどしていないように思える。
(我(アタシ)がこの子に構っている間に土人形は順調に削ってるみたいだし、問題はないかもねぇ)
魔術の音が轟くのが聞こえる。
土人形の性質上、剣戟の音は聞こえないが、振り返らずとも戦況はこちら有利だと確信できる。
リースリットは魔力を収束しなおしていた。
(残りの数は……11ですか……)
泥人形の数を目視で数えながら、一番まとまっている場所――リースリットとウィリアムを撃ち抜かんと構えを取る腕の先が弓とかした泥人形たちに視線を向けた。
斬り上げるように振るった細剣がしなりを上げて真っすぐに飛び、蒼き軌跡を描き泥人形複数を横薙ぎにすっぱ抜く。
胴部を真っ二つにされた1体が地面に落ちた腹部から再生し、胴部を吸収していく。
「次はあれにしようか」
術式を変えたウィリアムは大気に干渉する。
転換されるは破壊。圧縮された空気は刃となり、起き上がったばかりの土人形へと叩きつけられる。
刹那――土人形の身体が破裂した。
超振動により、無数に刻み付けられた土人形は核ごと崩壊し、その場に倒れ伏す。
リンディスはイグナートへの治癒を施した後、一つ息を整えた。
戦闘はかなりイレギュラーズ有利の状況だった。
範囲怒りと範囲攻撃の連発が土人形たちの数を順調に削り落としている。
(私達の作戦勝ちのようですね……あと11……いえ、10体ですか)
そのまま視線をマナガルムの方へ。
愛無の怒り付与を無視した幾つかの個体は、ルカとマナガルムの方へと近づき攻撃を繰り返すものと、ウィリアム、リースリットと中、遠距離を繰り返す個体に分かれていた。
(支えきれないことはありません。このままいけるはず……)
マナガルムは跳びあがった。纏わりついてくる土人形たちを振り払い、同時に諸共に叩きつけられる位置へ。
複数の土人形を薙ぎ払い、うち2体が吹き飛んで姿を戻し――そのうちの一方めがけてルカが突貫する。
峰打ちを叩きつけたルカは、そのまま勢いに乗せてその泥人形を遥か遠くへめがけて吹き飛ばす。
大地へ転がった土人形は吹き飛び、核を割って止まる。
「イーリン! 俺ごと撃ち抜け!」
起き上がったルカは自身へと殺到してくる土人形を見据えながら声を上げた。
「――死ぬんじゃないわよ」
静かに告げたイーリンの声の後、紫苑の柱が戦場に突き立つ。
柱――いな、柱を思わせる長大な剣身と化した魔力の奔流。
幽玄を揺蕩うかのような独特な輝きを放つ砲撃――そうとしか形容しかねぬ剣が、一直線上に並んでいた3体の土人形を諸共に消し飛ばす。
紫苑の燐光を引いた、消し飛ばされた直線上に淡い軌跡を残していた。
「これで残りは6体か……」
眼前にて愛無自身へ刃を向ける4体の土人形と、リースリットとウィリアムと戦う2体の土人形。
「彼らも僕が請け負うとしようか」
硬質化させた粘膜の塊を弾丸に、弓を形どるそれら目掛け放り投げた。
弾丸は弓の腕を消し飛ばす。瞬く間に再形成されるが、その視線が今度はこちらを見ていることを見届け、愛無は静かに立ちふさがる。
クラリーチェはイーリンの砲撃に自らを巻き込む形で吹っ飛ばされたルカへと近づいていた。
魔力を高め、鈴の音をならせば、穏やかな天使の福音がルカの身体を温かく包み込む。
癒しを齎し、救いを奏でる福音の導きが、受けたばかりの生々しい傷の幾つかを癒していく。
●
「――目標視認、対象を変更します」
ホルスレイルと相対を続けていたイグナートの耳にそんな声が響いた。
間合いを開けて、ホルスレイルが疾走する。
「──紅の稲妻、レイル。お前が俺に一度だけ見せてくれた技だ。
俺には扱い切れんこの技、お前が本当にあいつなら、俺以上の物を撃てる筈だ!」
その声が、背後から聞こえてくる。
振り返るのとほぼ同時、戦場に紅の稲妻が奔った。
マナガルムの全身を迸る紅の闘志が銀槍を鮮やかな紅に彩り。
一瞬の刹那、雷電の如き超高速の薙ぎ払いがホルスレイルの身体へと叩き込まれた。
あまりにもお粗末な防御の直後、その身体がくの字に曲がって吹っ飛んだ。
「ベネディクト――!」
彼の声で、その名を呼んで立ち上がったホルスレイルの身体から、同じく――けれどあまりにも弱弱しい闘気があふれ出し、マナガルム目掛けて叩き込まれた。
それは――致命傷を与えるには遠く及ばない。
リースリットは魔晶剣に手を翳す。
それは風の精霊との誓約。どこからともなくあふれ出した旋風がその身を包み、やがてその全てが剣身へと収束し――そのまま真っすぐに横に引いた。
魔晶の紅と混じり、迸る雷光が走り出す。
強烈な光はリースリットの視界を、ホルスレイルとの一直線上を真っすぐに焼きながら、飛翔し、ホルスレイルの身体へと一本の斬撃となって貫いた。
ホルスレイルがお粗末ではあるものの、僅かにその斬撃を心臓辺りから避ける。
ルカは黒犬(偽&誤)に漆黒の闘気を収束させながら跳躍、ホルスレイルの眼前へ一足飛びに跳びこんだ。
「お前さん達がホンモノならもっといい勝負が出来たろうにな!」
充足した濃密な闘気は黒き顎を作り出し、正中線を抉り取るように振り下ろされた。
ホルスレイルはまたもほんのわずかに打ちどころを変えるが――強靭な顎がその身を大きく削り取る。
ウィリアムはその様子を見届けながら、術式を展開する。
陣より呼び出すは一本の雷槍。
魔力で簡易のガントレットを作り出し、それを握り締めるとそれをホルスレイルめがけて投擲する。
まっすぐ走りだした雷槍は防御線としたホルスレイルの槍を貫通し、その肉体に風穴を開け、美しき稲妻の花を咲かせた。
ほぼ同時、イグナートは拳を構えていた。
握りしめた拳が、大きく身体を崩したホルスレイルの胸部の甲冑をはぎ取り、蹴り飛ばす。
後退するホルスレイルの甲冑の内側――輝く紅の宝玉。
「――獲った」
黒きスパークを引く掌打が露出した核を捉え――削り取る。
土塊の身体から、引きずり出された宝玉が空へ舞い上がった。
「ベネディクト……本当に切っ先が曇らないなんて、強いのね」
ほんの一瞬の攻防の果て、土塊をその場に遺すホルスレイルだったモノへ、イーリンは魔力の奔流を叩き込んだ。
鮮やかな閃光を引いて、核を失った土塊が胴部を真っ二つに切り裂かれ――落ちた。
(もう一人の方は落ちたか……となるともう抑える必要はないか)
武器商人は自らの魔性をほんの僅かに覗かせた。
鎌を軽く振るえば、その足元のそれらがホルスルナの身体を捉え、そのわずかな魔力を削り取る。
後退するホルスルナの様を見ながら、ソレは静かに嗤った。
「お前達程度に邪魔をさせるわけにはいかないな」
纏わりついてくる土人形を見つめ、愛無は静かに体表粘膜を変質させた。
うねる無数の触腕が土人形のうち、一番傷の深いものを縛り上げる。
ぎりぎりと締め続けた触腕は、やがてその土の肉体を裂き、核を潰す。
リンディスはホルスルナの方へ向かおうとする仲間たちの様子を見つめ、さらさらと物語を紡ぐ。
書き出した物語は、囮役を務めていたイグナートの身体を照らし出す閃光となり、温かく包み込んでその傷を癒し尽くしていく。
クラリーチェは武器商人から離れようとするホルスルナへ視線を合わせた。
後退直後の着地――その瞬間、魔術を励起させ、隆起させた土が四方からホルスルナの身体を押しこんでいく。
捕らえた。しかしその直後、土葬した土に閃光が走り――何層にも見える地層が吹き飛び、その一部がクラリーチェにも炸裂する。
●
「先生、貴女が本物なら俺の槍を容易く避けてカウンターを合わせるくらい訳が無い──そうでしょう?」
マナガルムはホルスルナの眼前にまで到達すると同時、握りしめた銀槍を走らせた。
全身に迸る黒き狼の如き闘気を穂先に収束させて放たれた打ち上げと打ち下ろしの同時打撃が、ホルスルナの身体を刻みつける。
直後に放たれた刃がマナガルムにも傷を付ける。
その直後、踏み込みと共に放たれた剣が、真っすぐにマナガルムに駆ける。
――その一瞬に、武器商人は割り込んだ。
まるでとっておきはマナガルムのためにといわんばかりの剣閃は、足止めの最中では見たことが無かったもの。
身を躍らせた武器商人の身体を強かに打ち据え、けれどもその斬撃は武器商人には当たらない。
(この感じ……単体技じゃなさそうだね)
ちらりと後ろを見れば、まだ誰にも傷はついてない。
近接にいるのはマナガルムと自分のみ、あとの8人はまだ遠距離レンジ以上の場所にいる。
(となると……行っても中距離ぐらいだろうね)
リースリットはその姿を見つめ、深呼吸する。
冷静に、静かに。魔術制御に集中する。
無理矢理に限界以上を引きずり出し、魔水晶の輝きは普段以上の輝きを放つ。
内側から神経が焼き付ける痛みをそのままに、真っすぐに剣を振るう。
放たれた緋焔が真っすぐにルナの身体を焼き付け、そのまま振るいなおした第二撃も炸裂する。
直後に放たれた斬撃が、リースリットにも傷を付ける。
ウィリアムは直後に動いていた。
再度放つ雷霆の槍。狙うはホルスルナの中心――心臓がある胸部装甲付近。
ルナの剣が振るわれる。尾を引きながら真っすぐに飛んだ槍が装甲に風穴を開け、金色の花を咲かせた。
その直後、ウィリアムに到達した斬撃が浅くその身を裂いた。
イグナートはその直後に踊りこんだ。
虎爪へと構えた掌底がルナの装甲を大きく切り裂くと同時、反撃の斬撃がその身を斬りつける。
リンディスは最後となるであろう軍略の記録を指し示す。
導き出された戦略を後続の仲間達へ伝達すれば、その動きが変わる。
クラリーチェは魔力を再度こめると、再び大地の隆起による土葬でホルスルナの動きを遮った。
続けるように放たれたのはイーリンの魔術。
紫苑に輝く翼をはためかせ、放ち足るは輝く光刃。
返すようなホルスルナの斬撃も気にしない。
それに続くように、ルカは真っすぐにルナの前に踊りこんだ。
収束させた黒き顎を、力任せに振り抜けば、その牙が、漆黒の闘気がホルスルナの心臓――輝く紫の宝玉を抉り取った。
それとほとんど同じころ、愛無は怒り付与から立ち直って仲間たちの方へ動き出した泥人形を拘束し、締め上げてその核を穿つ。
振り返った仲間たちの攻撃が土人形に放たれていく。
●
「安心して眠りな。あのクソ真面目なお人好しは、俺らが力になるからよ」
土塊へと戻りつつあるホルスの子供達を見下ろし、ルカは目を閉じた。
それはここではないどこか、その現世ならざる地にてコレを見ているかもしれない『彼ら』への手向けだ。
「どうにも面白みがないのよね、記憶を読み取り、それを核に生み出し続けて。何になるの?」
周囲を見渡しながら、イーリンは呟いた。
探す物は、自分たちの踏み込む前後で何かしらの変化が起きた物――だったのだが、ある意味では上手く行かない。
『変化がない』のではなく、『何もかも違っている』からだ。
戦闘を終え、2つの宝石――『色宝』が泥人形から取り出されたのと殆ど同時、周囲を構成していた風景は変貌を遂げていった。
ここまで来るときに見慣れた、美しきクリスタルに。
(例えば一から作られた『ひと』ならばいざ知らず。
一度天命を全うした者を『模した』ものはあり得ない)
心臓部辺りに存在していた色宝を拾い上げながら、クラリーチェは思案する。
色宝がそれを可能にするのであれば、容易く扱える状態で存在していてはならない。
(……人の願いを叶えるにしても、常識から逸脱している)
見る限り、ルビーのような輝きを放つ掌よりやや大きなそれを見据え、一つ息を吐く。
「……やはりこれは然るべきところで保管するべきですね」
妖しささえ帯びて輝く宝石を見つめながら、嘆息する。
「月光人形より趣が無いのは確かだね」
冠位魔種が権能も加味された月光人形と比べるべくもないが、多少なりとも『その人間らしさ』を保持した月光人形と比べれば、『皮のみ』沿わせただけのこれらにはあまりにも――
「このクリスタルの迷宮そのものになんらかの仕掛けを施してるかもね。ヒヒヒ……」
壁のクリスタルの一部を取り外して眺めてみる。
光に照らしてみても、魔力的な何かを注いでみても、これと言って何かが起こるようなことはない。
どうやら正真正銘でただのクリスタル、仕掛けの類があるわけではなさそうだった。
「二人のホルスの子供はトモカク、周りの景色はどうやって投影したんだろう?」
イーリンと同じように室内を見渡すイグナートは、そのままふと、部屋の奥に視線をやる。
元からそうだったのかまでは知る由もないが、唯一、不自然な部分があるとするならば、それぐらい――ひび割れた宝玉。
近づいたイグナートが触れてみても、何もない。
ただの玉だ。少し力を籠めて握れば、あっという間に砕けて落ちる、そんなもの。
「ベネディクトの学び舎か……」
消えゆく光景を眺めていたウィリアムはぽつりと呟いた。
興味深く眺めていたウィリアムは、少しだけ息を吐いた。
旅人(ウォーカー)たちの故郷の世界の景色。
なかなか見れないその光景はどうしても興味が尽きない。
そう。あの光景は、マナガルムにとっての故郷の景色。
たとえ誰かから過去を語られようが『光景まで』知るのはかなり難しい。
人のことはどこかで語られても、景色や場所まで聞かされることは多くない。
(公言するでも無ければ、旅人の過去を探るのは難しい)
土塊から目を外し、愛無は思考を纏めていた。
(となると、この場合、ベネディクト君に近しく、
彼に悪意を持つ者が敵にいると仮定するのが妥当か……)
愛無が結論をまとめるのとほとんど同じころ、リースリットも同じ結論に達していた。
「……魂無く、心も想いすら無い。挙句、実力さえもなんて……本当に、見るに堪えないものですね」
もはや完全に土塊へと還った人型を見下ろすリースリットはその視線をマナガルムに向ける。
(動揺を狙って不覚を誘うなら、弱くする意味は無い……)
驚くほど手ごたえのなかった2体の子供達には違和感しかなかった。
(とはいえ嫌がらせとしては実に有効です。分かっていても心が乱されるのは彼を見れば分かる)
丁寧に『彼にとっての大切な時間』を再現してでの戦いだ、
ホルスの子供達という皮だけ誂えただけの物のみならず、そこにその人たちとの時間を加えれば、動揺をせずいられる者は少ない。
(……あるいは、そこまで含めて想定通りの挑発ということか)
僅かでも心が乱された事実こそを見ようとしたのならば。
「これが『先客』の仕業なら……」
それをするには、マナガルムだけでは足らない。
きっとホルスレイルだけでも、ホルスルナだけでも足らない。
彼ら全員を深く知っている誰かでなくては。
「……気を付けてください。私達も、出来る限りの事は」
複雑な表情を浮かべて土塊に視線を向けていたマナガルムへと。
何の慰めにもならないであろうことは分かっていても、それでも言わずにはいられなかった。
「――ベネディクトさん、いつかお二人の話を聞かせてください」
リンディスの言葉に、マナガルムは静かに声を引きつらせた。
けれど、無理矢理に笑うマナガルムが再度、土塊に視線を向ける。
「……――生きているのか? ローランド……」
きっと手にかけて、姿を消したかつての友人の名が、空気に溶けて消えていく。
●
音がした。
まるで、軍靴で何かを踏み抜いたような音。
遥かな後ろ――彼らが歩いてきたその方角。
遥かな廊下の向こう側で、赤と青が見えた気がした――――――
成否
成功
MVP
なし
状態異常
あとがき
お疲れさまでしたイレギュラーズ。
ひとまずは2人の形を取ったホルスの子供達も土に還りました。
とはいえ、ホルスの子供達。名を呼べば幾度だって産まれるモノです。
また出るかもしれないですし、出ないかもしれない。
それでは、一旦はこれにて。
GMコメント
こんばんは。ファルベライズ関連へ初参加となります春野紅葉です。
故人いないかな~って探してたら見つけてしまったんですね。
それでは早速、詳細をば。
●オーダー
『ホルスの子供達:レイル』『ホルスの子供達:ルナ』の撃破
●戦場
ベネディクトさんとホルスの子供達の原型となった2人が共にいた士官学校。
中庭風の場所です。植木やら鉢植えやらが並び、ベンチもあります。
また、一応は校舎へ続く渡り廊下も存在していますが、触れると壁になっており、
ちょうどプロジェクターで景色を反映させているような感じで校舎内に入ることはできません。
非常に奥行きがあるように感じられますが、せいぜいが100m四方です。
なお、これらは元からそうだったというより、
元々あった部屋が発動と同時に変質、上書きされるトラップの類です。
●エネミー
・『ホルスの子供達:共通』
本来であれば、両人とも相当の実力者ですが、
埋め込まれた色宝の出力が低いのか、名を与えた人物が意図的に弱めに想像したのか、
本人というか、姿を取られた相手よりはかなり弱体化しています。
・『ホルスの子供達:レイル』
紅の髪にやや紫がかった灰色の瞳をした槍を持つ騎士。
かつてベネディクトさんとの同朋であり、既に故人。
【電撃】系、【防無】【弱点】【追撃】【連】のBSを用いるパワーアタッカーです。
・『ホルスの子供達:ルナ』
紫色の長髪をした、両手にも片手でも震えるサイズの剣を持つ騎士。
かつてのベネディクトさんの恩師であり、ベネディクトさんが己の手で討ち取った人物。
【氷】系、【乱れ】系、【弱点】【カウンター】【多重影】のBSと【反】を用いるテクニカルアタッカーです。
・ゴーレム×18
泥で出来た人型のゴーレムです。
士官学校の制服っぽいものを着ており、
恐らくは部屋のトラップと同時に発動する迎撃用モンスターです。
剣やら槍やら弓矢やら持っていますが、武器というよりもそれら含めて本体です。
【足止め】系、【不吉】系のBSを有します。
基本的に大して強いステータスなどはありませんが、
『泥』らしく殺すのが難しいのか、EXFの値がえげつないです。
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
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