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シナリオ詳細

呪術師、阿近の木像。或いは、苦悶する樹鬼の怪…。

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●呪術師の木造
 精巧に造られた木彫りの竜に魂が宿り飛び去った。
 そんな逸話の残る古寺には、今なお100を越える木造が祀られている。
 それらの木造を作製したのは、既に故人となったある呪術師だ。
 “阿近”と名乗るその男は、各地で妖を模した木造を彫ってばらまいた。
 阿近の込めた呪詛によるものか。
 木造たちは各地に不幸をもたらした。
 嘆き悲しむ人々を見て、阿近は笑っていたという。
 彼がどうして、そのような行為に至ったのかは分からない。
 当の阿近も既に故人だ。
 けれど、しかし……。
 阿近の残した木造たちには、今だに彼の込めた呪詛が宿り続けているという。

「さて……どうしたものかな、これは」
 と、そう呟いたのは僧衣を纏った長身の女である。
 長い黒髪。額には角。
 180に近い背丈と、僧衣の上からでも分かるほどに鍛えられた肢体。
 その外見も口ぶりも、およそ尼僧のようには見えない。
 それもそのはず。
 彼女は流れの武芸者であった。旅の途中で偶然立ち寄った古寺で、ほんの一時、世話になっているだけの身だ。
 本来、寺……正確には納められている木造たちを管理する役目は、和尚が担っているのだが……。
「今は留守にしているからな。しばらく帰って来ないという話だが……さて、どうしたものか。アタシ1人じゃ、これはどうにもできないぞ?」
 なんて、言って。
 女武芸者……サラシナの見つめるその先には厚い木扉の蔵がある。
 ドンドンと激しく扉を打つ音が境内に響いた。
 蔵に納められているのは、阿近の造った木造だ。
「木造は封印されてるって話じゃなかったのか? これ、明らかに出てこようとしているではないか」
 困った、なんて呟いて。
 サラシナは肩に担いだ長巻を抜く。
 その口元に浮かんだ笑みは、獣のように凶暴かつ好戦的なものだった。

●樹鬼の復活
「先だって豊穣の地で起きた争乱の余波か……蔵の封印が壊れた結果、木造の呪いが活性したということだろうな」
 と、そう言って『黒猫の』ショウ(p3n000005)は小さく吐息を零す。
「依頼主はサラシナという女武芸者だ。寺の留守を任されていたところ、今回のトラブルに巻き込まれたということらしい」
 任務の内容としては、寺へ急行しサラシナと共に木像を再封印するというものになるだろうか。
 現在1人で樹鬼を抑えているサラシナが、まだ無事ならば……ではあるが。
「戦場は寺の境内だ。封印の蔵に近いほど木像の力は弱くなる。もう一度蔵に押し込めて、蔵の4方に4枚の札を貼れば再封印は完了だ」
 再封印さえしてしまえば、後は返って来た和尚が上手く鎮めるだろう。
 サラシナ1人では、木像……現在は鬼の姿を取っている……を境内に留めるだけで精一杯だった。
 そのため木像……樹鬼はすでに境内の端にまで移動している。
 また、和尚が用意している封印の札は本堂に保管されているらしい。
「なるほどのう。つまり樹鬼を蔵に押し止める役と、札を探して蔵に貼る役に分担する必要がありそうか? それで、なにゆえわしが呼ばれたのかのぅ?」
 はて? と首を傾げて問うた瑞鬼(p3p008720)に対し、ショウは小さな笑みで返した。
「姿こそ違うが、お前さんは以前にも阿近の像と関わったことがあるからな。話を聞ければ良いと思ったのだが……」
「以前にも? まさか……」
 瑞鬼の脳裏によぎったそれは、ほんの数ヵ月ほど前に起きたある凄惨な事件の記憶。
 牛鬼を模した木像を拾った少年が、牛鬼と化し村人たちを食い殺したというものだ。
 そして牛鬼に食われた者もまた牛鬼と化し人を襲った。
 事件の起きた周辺はまさに屍山血河の有様だったことを覚えている。
「ということは、樹鬼とやらは……」
「感染するのだろうな。あの時は木像1体……今回は、100体分だ。もっとも1つ1つの木像は、長い封印のせいで弱っているようだがな」
 100体の木像は、樹鬼の体内に格納されている。
 容易に破壊することは叶わないだろう。
「あぁ、それと樹鬼の能力として以下のものがあげられる」
 樹鬼は自身の分身を生産することができる。
 なお分身体の核は、樹鬼が体内に格納している木像1つだ。
「もっとも、分身体を作り過ぎれば本体が弱る。分身できて20体というところか?」
 分身体は本体から呪力を供給されることで動く。
 つまり分身体を破壊するほど、樹鬼は弱体化するということだ。
「だが、分身体とはいえその核は紛れもない呪具だ。もしも逃がせば、木像が市井に解き放たれることになる。イメージしづらいのなら、ウィルスのようなものと思ってくれ」
 感染爆発。
 木像によって妖と化した人が、家族や隣人を食い殺す。
 食い殺された者もまた、人を喰らう妖と化す。
 そんな悲劇がカムイグラの各地で起きることになる。
「和尚がいれば、札を探す手間はかからなかったんだろうが、いない者に縋っても仕方ないからな。【呪縛】や【不吉】、【泥沼】には気を付けながら行動してくれ」
 また、樹鬼の特性として【棘】を備えている。
 それもあって、サラシナ1人では対処しきれなかったのだろう。
「あぁ、それと……誤って蔵を破壊してしまわないようにな」
 再封印が出来なくなるから。
 なんて、注意を促すショウの瞳には不安の色が浮いていた。

GMコメント

こちらのシナリオは「<巫蠱の劫>或いは、感染する牛鬼の怪…」のアフターアクションシナリオとなります。
https://rev1.reversion.jp/scenario/detail/3982

●ミッション
木像(樹鬼)の再封印

●ターゲット
・樹鬼(妖)×1
呪術師・阿近の彫った木像。
呪詛の媒体が妖へ変じたもの。
木像の状態では持ち主を妖へ変える能力を持つが、現在は巨躯の鬼の姿を取っている。
身体は樹木で出来ており、体内に木像を格納している。
【棘】を備えている。
最大20体まで分身体を作製可能。
分身体はさほど強くない。また、封印により弱っていることもあり積極的に分身することは無いようだ。

呪腕:神遠単に小ダメージ、呪縛、不吉、泥沼
 呪力によって形成された巨腕による殴打

樹腕:物近単に特大ダメージ
 剛腕による殴打


・サラシナ(鬼人種)×1
黒の総髪を後ろでくくった女武芸者。
180近い長身と鍛え上げられた肉体を持つフィジカルに優れた女性である。
寺の和尚に留守を任されていた。
木像を境内に留めるため戦闘中。


・阿近の木像
妖を模して作られた木像。
持ち主を妖に変じさせる呪具。
妖化は他者にも感染するため、一度呪いが発動すれば被害が拡大することになる。
そのため、寺の蔵に封印されていたがこのたび復活。
呪具の集合体(樹鬼)となって行動を開始した。

●フィールド
寺の境内。
遮蔽物などはない。
入ってすぐの場所(北端)で樹鬼とサラシナが交戦中。
境内の広さは直径100メートルといったところだろうか。
西端に蔵、東端に本堂がある。

本堂にある“封印の札”によって樹鬼を蔵に再封印できる。
蔵に近づくほどに樹鬼は弱体化する。

●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • 呪術師、阿近の木像。或いは、苦悶する樹鬼の怪…。完了
  • GM名病み月
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2020年12月28日 22時30分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ベーク・シー・ドリーム(p3p000209)
泳げベーク君
ゴリョウ・クートン(p3p002081)
黒豚系オーク
新道 風牙(p3p005012)
よをつむぐもの
如月=紅牙=咲耶(p3p006128)
夜砕き
彼岸会 空観(p3p007169)
天目 錬(p3p008364)
陰陽鍛冶師
フリークライ(p3p008595)
水月花の墓守
瑞鬼(p3p008720)
幽世歩き

リプレイ

●鬼化した木像
 空は快晴。
 空気は冷たく、乾燥していた。
 飛び散る木っ端と、そして血飛沫。
 身の丈を超える長巻を振る、長身黒髪の女武芸者・サラシナの腹部を太い樹木の拳が穿つ。
「ぐ……ぁ」
 腹部を抑え、サラシナは地面を転がった。
 巨体を揺らし、拳を振るう樹の鬼が倒れた彼女に1歩迫る。
 その正体は、身の内に100体分の木像を内包した、呪物の集合体である。
 今より遥かな昔に生きた“阿近”という名の呪術師が作った木像は、呪詛を周囲に感染させる。それを危惧した当時の僧が寺の蔵に封印していたのだが、封印が解けてこの有様。
 偶然、寺の留守を任されていたサラシナが対処に当たるが劣勢を強いられているのが現状である。
 サラシナとて決して弱者では無いのだが、いかんせん1人で樹鬼を相手取るには聊か手数が不足していた。ましてやこの怪異、当時の僧が破壊ではなく“封印”という手段を用いたことからも分かるように非常に強力な存在である。
 サラシナ1人で押し留めることは出来ても、再封印を施すまでは手が回らない。
 けれど、しかし……。
「逃がしちゃ不味いものだってのは、学の無いアタシにだって何となくわかる。死ぬまでやって駄目ならそれで仕方ねぇけど……死ぬ気でやりゃ、何とかなるかもしれんしな!」
 傷ついた身体で、肩に長巻を担ぎ上げサラシナは門の手前で腰を落とした。 
 寺から出ていこうとする樹鬼は、まっすぐに門へと迫る。
 1歩ずつ、互いの距離が近づいて……。
「疾!」
 樹鬼が間合いに入った瞬間、サラシナは渾身の力を込めて長巻を振るった。
 風を切り裂き、迫る刃が樹鬼の腕を切り落とす……。
 だが、しかし……。
「うっ……おぉ!?」
 切断された樹鬼の腕が形を変えて、新たな樹鬼を産み出した。その頭部付近には精巧に造られた鬼の像が埋まっている。樹鬼の分身体は、分裂と同時にサラシナの腹部を拳で打ち抜き、その身を後方へと弾く。
 門が砕け、サラシナの身が階段を転がり落ちていく。
 サラシナの身体が、地面に落ちるその直前……。
「久しいのうサラシナ。息災か?」
 トン、とその背を支えて止めた『幽世歩き』瑞鬼(p3p008720)は、呵々と笑ってそう告げた。

 唖然とした表情を浮かべるサラシナ。
 その横を、大質量の何かが疾駆し門へと向かう。銅色の全身鎧を着こんだ『黒豚系オーク』ゴリョウ・クートン(p3p002081)である。
「ぶはははっ、こっから先は通行止めだぜ! 大人しくおうちに帰りな!」
 強烈なタックルをかまし、樹鬼を地面に転がした。
 ゴリョウの頭上を跳び越えて『天翔る彗星』新道 風牙(p3p005012)が樹鬼へと迫る。
 構えた槍を力いっぱい、樹鬼の胴へと突き降ろし彼女は告げる。
「人の世に仇為す『魔』を討ち、平穏な世を拓く!」
「風牙、樹鬼の相手は封印班に任せて俺たちは本堂へ向かうぞ」
「っと、そうだった!  今回のオレの役目は、お堂でお札を見つけることだった!」
 樹鬼を無視して本堂へ向かう『魔剣鍛冶師』天目 錬(p3p008364)を、風牙は慌てて追っていく。

 分身体の拳を回避し『泳げベーク君』ベーク・シー・ドリーム(p3p000209)が冷や汗を流す。思ったよりも分身体の攻撃に迫力があったからである。
「奴らに食欲とかそういう概念があるのかはわかりませんが……これ【甘い香り】で気を引けてますね?」
 境内を転げまわる巨大たい焼き。
 ある種異様な光景であるが、分身体に追い回されるベークは割と必死であった。
「あれは……妖か?」
「いや。あれも仲間であるな。それより、無理はせず暫し休んでおるがよい」
 長巻を取り、立ち上がろとするサラシナを制し瑞鬼は階段を昇って行った。
 
「数が増えても面倒であるからな。樹鬼の分身を片づけていくでござる」
「一つ一つでも、禍根は潰して行かねばなりますまい」
 空を駆ける鎖鎌。
 それを手繰るは『闇討人』如月=紅牙=咲耶(p3p006128)だ。鎖鎌の後を追い大太刀を構えた『帰心人心』彼岸会 無量(p3p007169)が分身体の背後へ迫る。
 腕を一閃。
 刹那、その後頭部を鎖鎌が貫いた。
 衝撃によろけた分身体の胴へ向け、無量が太刀を叩き込む。
 真っ二つに切り裂かれた分身体が、枯れ木のように砕けて散った。

 樹鬼の拳がゴリョウの顎を打ち抜いた。
 よろけた彼の喉元に、樹鬼の肘が突き刺さる。
 さらに追撃を見舞おうと、樹鬼が腕を振り上げたが……。
「木 悪用 フリック 悲シイ。コレ以上 悲劇 起コサセナイ」
 樹鬼の拳を受け止めたのは鋼の拳。『水月花の墓守』フリークライ(p3p008595)は淡々と言葉を紡ぎ、樹鬼を数メートルも後方へ向け押し返して見せた。
「……あれは妖だろう?」
「人ではないがの……。頼れる味方よ」
 構えた刀に火炎を纏わせ、瑞鬼は進む。その後に続くサラシナの身に、淡い燐光が降り注いだ。それを行ったのはフリークライだ。
「サラシナ フリック達 味方。目的一緒。木像 封印。協力 願ウ」
 サラシナの傷を癒しつつ、フリークライはそう告げた。

●樹鬼の封印
 2体、3体と樹鬼の分身体が増えていく。
 多勢を相手に個で抗うには限度があるのだ。木製の像が本体とはいえ、その程度の知能は備えているらしい。
 樹鬼本体の援護に加わり、ゴリョウや瑞鬼に襲い掛かる分身体。
 その前に転がり込んだ巨大たい焼き……ベークは告げる。
「駄目ですよ、こっちで少し遊んでいてください」
 転がるベークの胴へ向け、分身体が拳を放つ。
 衝撃でベークの身体が宙を舞う。呻き声を上げ、地面に落ちたたい焼きは血を吐き、悶え苦しんでいた。
 なかなか良い位置に拳を貰ったようである。
 そんなベークを追いかけて、3体の分身体が移動を開始。
 その眼前に回り込むは無量と、そして咲耶の2人であった。
「木彫りの置物如きが見た目だけは一丁前でござるな。然らばその見栄えの良い張りぼてを一気に剥いで差し上げる」
 手にした刀と、その身に業火を纏った咲耶が分身体に切り込んだ。
 一閃、二閃と彼女が刀を振るう度、分身体の身が削げ、焼けて、木っ端が散った。
 分身体の放つ呪力の拳が彼女を殴打するが、その動きは止まらない。
 縦横に分身体の周囲を駆け回りながら、火炎と刃による連撃を見舞い続けた。
 一方、無量はというと真正面から分身体の拳を刃で受け止めた。
 その身に殴打を浴びながら、彼女は1歩も後退しない。
 血を流し、痛みに顔を顰めながらも集中力を研ぎ澄ます。
「貴方も望んで呪物として生まれた訳では無いでしょう……せめて此処で引導を渡して差し上げます」
 狙うは刹那。
 防御不能の斬撃を、その胴体へと叩き込む。
 深く抉れた分身体が、よろりと揺れた。
 追撃。
 遠心力を活かして振るう大斬撃が、分身体の胴を二つに斬り裂いた。
 
 外から聞こえる戦闘の音を聞きながら、錬と風牙は本堂内部を駆け回る。
 神仏の像を初め、様々な祭具や経典の中から探すはたった4枚の札。樹鬼を蔵に再封印するためには、それが必要不可欠なのだ。
「だぁ! こっちも外れか。大事なものだろうから、ちゃんとした箱とか引き出しとかに仕舞ってあると思うんだよなぁ」
 引き出しの中身を床にぶちまけ風牙が叫ぶ。
 蝋燭に線香、香木といった祭具ばかりで、肝心の札はそこになかった。
 風牙の手により、探せるだけの場所は探した。
 引き出しの中身も、押し入れの中身も、棚に収まる書物の類も全てが床に散らばっている。
 頭を抱え、雄たけびを上げる風牙の周囲を一体の式が舞っていた。2人の捜索を手伝うために、無量により遣わされた式神である。
 その様子を眺めながら、錬は顎に手を当てる。
 物を納めるべき場所は、しかしすべて探した後だ。
 それでも札が見つからないとするならば、考え方を少し変える必要があるのかもしれない。
 彼の備えた【無機疎通】により得た情報では、確かに札は近くにあるのだ。
 で、あれば……。
「術体系が違えど封印の札とあれば……」
 樹鬼……阿近の木像の封印は、この寺において何よりの大事であるはずだ。
 ならば、それを封じるための札を適当に保管するはずはない。
 寺の和尚がどのような人物かは知らないが、整理整頓、清掃の行き届いた本堂の様子を見る限り、かなり信心深い性質だと予想された。
「風牙、こっちだ!」
 錬が駆ける先には、本堂の最奥に設置された神仏の像。
 その背後に回り込んだ錬は、像の背に小さな収納スペースを発見する。
 
 門の前に位置取って、フリークライは癒しの波動を振りまいた。
 自身に根を張る植物たちも、フリークライに生命力を分け与えてくれる。
 冷たい鋼の身であれど、生命の息吹と暖かさはいつだって身近に感じていた。
 そんなフリークライにとって、人に害成す木の像は到底許容できない存在である。
 ならばこそ……。
「樹 力 呪ウ 違ウ。樹 力 生命 息吹ク」
 鳴り響く福音が、最前線に立つゴリョウや瑞鬼、サラシナの身に降り注ぐ。

 樹鬼の前進を、ゴリョウはその身を使って阻んだ。
 巨躯と巨躯とがぶつかり合った衝撃はかなりのものだ。地面が揺れると錯覚するほどの迫力に、思わずサラシナは足を止めた。
 樹鬼の拳がゴリョウの頬を強く打つ。
 それを受け止め、ゴリョウは樹鬼の顔面に掌打を放つ。
「こいつぁつまり相撲だな! 相撲ならオーク的には負けられんぜ!」
 突進。
 地面を抉りながら、樹鬼の巨体が蔵へ向けて押されていく。
 援護の為に樹鬼は数体の分身体を産み出した。波状攻撃がゴリョウを襲う。フリークライの回復速度を上回るほどの殴打の嵐。
 膝を突くゴリョウの左右から、サラシナと瑞鬼が駆け寄っていく。
 同時に降り抜かれた刀が、樹鬼の脚を斬り裂いた。
「木を相手にするなら火と相場は決まっておる。像にするほど乾いた木ならよく燃えるじゃろう?」
 脚を斬られた樹鬼がその場に膝を突く。
 瑞鬼に斬られた脚など火炎に飲まれ、再生するにも暫く時間が必要だろう。
 その間にも2人に向けて、分身体の殴打は降り注いでいるが、現状優先すべきは樹鬼の抑えに回ることだ。
 分身体は放置しておいても構わない。そのうちベークが回収してくれることを信じて、サラシナと瑞鬼は樹鬼に斬撃を見舞い続けた。
「フリック 癒ヤス」
「よろしく頼まぁ。俺ぁ、ヘイトを稼いで壁になるぜ!」
 フリックによる回復を受け、ゴリョウは前へ。
 サラシナ、瑞鬼とスイッチして、立ち上がりかけた樹鬼の顔面に渾身の殴打を叩き込む。

●蔵への封じ込み
 斬って。
 殴られ。
 また、斬って。
 ぞろぞろと湧く分身体に太刀を叩きつけながら、無量はふっと吐息を零す。
「ようやっと一先ずの落ち着きを取り戻したこの国がまた、争乱の世とならぬ為にも……」
 災いの種を未然に枯らすことが出来るというのなら、死力を尽くさぬ理由など無い。
 あばらの数本には罅が入っているだろう。
 内臓を痛めたのか、喉から溢れる血が止まらない。
 けれど、武器を振るうことを止めることは決してなく。
 また、前へ前へと歩を進める。
 1体。
 分身体が地に伏した。
「よし」
 額に開いた第三の目で捉えた線をなぞるよう、彼女は刀を振り抜いた。

 自身に回復術を行使し、ベークはよろりと立ち上がる。
 少年の姿を取ったベークの頬を、分身体の拳が打った。
 地面に転がるベークを追って、さらに2体の分身体が迫り来る。
 その様子を見て、ベークは笑った。
「分身がわらわらと、いくら出てきたって無駄ですよ!」
 これで良い。
 これが、最適解である。
 ベークがどれだけダメージを負うことになろうと、最終的には樹鬼本体を蔵に封じてしまえば良いのだ。
 ベークが分身体を引きつけたことにより、仲間が活動しやすくなるなら本望だ。
「特に蔵に被害が出ないのが、何より“良い”ですね」
 肝心の蔵が壊れてしまっては、せっかくの努力も水泡と帰す。
 そうならないための犠牲がいるのならば、それは自分が努めよう。幸いなことに、守勢に長けた身でもある。
 分身体の拳に頭部を殴られて、薄れる意識の中でベークはそんなことを考えた。
 任務を成功させるため、もうしばらくは堪えて見せよう。
【パンドラ】を消費し立ち上がりながら、ベークは笑った。

 ベークに迫る分身体。
 その背後に咲耶は音も無く駆け寄った。火炎を纏った斬撃で、分身体の首筋を深く斬り付けながら、彼女は呟く。
「この様な物を再封印するしかないとは口惜しい」
 呪詛を振りまく木像など、滅してしまえるのならばそれが何より上等なのだが、生憎にもそれは叶わない。
 事実、ゴリョウや瑞鬼、さらには戦線に加わった錬と風牙の攻撃を受けながらも樹鬼は未だ健在であった。
 やはり、再封印を施す以外に現状取れる手段は無いのだ。
「いずれはこれとも決着を付けてやらねばなるまいが……」
 今は被害の拡大を防ぐために尽力する時。
 そう判断し、咲耶は武器を鎖鎌へと変態させると即座にそれを鋭く放る。
 ひゅおんと風を斬り裂いて……飛翔する刃が分身体の脚を抉った。

 樹鬼の殴打をその身に受けて、サラシナは意識を失った。
 倒れ伏すサラシナ目掛け、呪力の拳が降り注ぐ。
 けれど、しかし、その拳がサラシナを殴打することは無く……。
「呪ウ 能ワズ。コレ以上 悲劇 起コサセナイ」
 フリークライの言葉と共に、淡い燐光が降り注ぐ。
 燐光による治癒を受けつつ、瑞鬼が間に割り込んだのだ。
 その身を挺してサラシナを庇った瑞鬼の身体が地面を滑る。
 白い肌は傷だらけ。
 しかして、その瞳に宿る闘志は未だに消えず。
「やっと豊穣も落ち着いてきた。お前なんぞに荒らしてもらっては困るのでなぁ!」
 即座に彼女は立ち上がり、蔵へと向けて駆けだした。
 瑞鬼と入れ替わるように、ゴリョウはその巨体でもって樹鬼の視界を塞いで見せる。
 そして……。
「ぶはははっ。むざむざ目の前で、仲間をやらせるわけにゃいかんわなぁ!」
 樹鬼の胸部に掌打を見舞い、その身を蔵へと弾き飛ばした。 
 その隙に気絶したサラシナは、フリークライが救出して後退。戦場に残しておけば、分身体や樹鬼の攻撃を受けかねないと判断したのだ。
「良ク 頑張ッタ」
 これ以上彼女が傷つくことの無いように。
 サラシナを優しく抱きかかえながら、そんな言葉を投げかける。

 蔵の周囲を風牙が駆ける。
 左右と後方の三ヶ所に札を貼り付けた。残すは一か所。蔵の扉のみである。
「おっしゃ! 押し込んじまえ!」
「承知した!」
 風牙の叫びに応と返して、錬は樹鬼に手を翳す。
 解き放たれるは青い魔力の波だった。
 ドン、と空気を震わせてそれは樹鬼の身を打ち据える。
 浮き上がり、後方へと跳ぶ樹鬼に駆け寄り瑞鬼は刀を振り抜いた。
「どうでもよいがの……ちょっとわしと名前が似ててむかつくんじゃ」
「如何な怨念が込められているかなんて知らないが、今の豊穣にその呪いは過ぎたものだ、大人しくしてもらおうか」
 蔵に樹鬼を叩き込んだその直後、錬の手により重い扉が閉ざされた。折れた閂は後で作り直すとして、まずは封印を施すことが優先だ。
「っし!  もう二度と出てくんじゃねえぞー!」
 そうして最後の札を扉に貼り付けて、風牙は呵々と笑うのだった。

「なぁ……あれは、何をやっているのだ?」
 包帯だらけの身体を起こし、サラシナはそう問いかけた。
 視線の先には、蔵に張り付き槌を振るう錬がいる。
 ボロボロだったはずの蔵が、何やらピカピカと光って見えた。よくよく見れば、作り直された閂には蔦の意匠が施されている。
「和尚になんて説明すりゃいいんだか……」
「かっかっか! ありのままを説明するしかあるまいよ。あぁ、それとな……あまり無理だけはするでないぞ?」
 倒れた時は肝が冷えたわ。
 なんて、言って。
 瑞鬼はサラシナの髪を荒い手つきで撫でるのだった。

成否

成功

MVP

ベーク・シー・ドリーム(p3p000209)
泳げベーク君

状態異常

彼岸会 空観(p3p007169)[重傷]

あとがき

お疲れ様でした。
樹鬼の再封印は無事に成功。
本体、分身体ともに逃がすことなく任務は終了を迎えました。

この度はご参加ありがとうございました。
また機会があれば、別の依頼でお会いしましょう。

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