PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<希譚>阿僧祇霊園石神支社

完了

参加者 : 30 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●P-Tube 生配信
「はい、どうも。何時もご覧下さって有難うございます。配信者のヒダルです。んで、こっちが相棒の~」
「ゆうちゃんです」
「今日は二人で、石神市街に来てまーす。ゆうちゃん、カメラに俺映ってる? はは、ズレてるズレてる。何処撮ってるんだよぉ、ちょ、おま、どこっ」
「空」
「空じゃね~~~~!」

 ――それは何気ない生配信の様子である。カメラを手にした配信者の青年二人は石神地区の中をテレビレポーターのように撮影して歩き回っているのだ。

「実はね、前回の放送のコメで石神山上ダムの近くに焼き肉屋さんがあるって聞いたんですよ! 秘境の焼き肉屋ってヤバくね? ってことで、レビューも禁止らしいその場所に凸って見まーす!」

 ――二人は石神地区の山を登っていく。傷んだアスファルトからは雑草が飛び出している。

「歩きは結構キツいね~。あ、お地蔵さんだ。ゆうちゃん、挨拶するよ-」

 ――カメラが『ヒダル』を捉えてからお地蔵さんに移り……、間にズタ袋が置かれている。

「えっ!?」
「ゆうちゃん、どうした!?」

 ――もう一度、『ヒダル』を撮影するため画面が動く。
 ズタ袋はない。その代りごろんと転がった人の脚と『ナニカ』が――画面が暗転した。

●阿僧祇霊園
 配信者『ヒダル』が行方不明になったと言うネットニュースが希望ヶ浜には流れている。
 それは『皆さんは来名戸になんて行っていない。ないも見て居ない。誰も、連れて帰ってきていない』と音呂木・ひよのが告げて否定した『あの秋祭り』より数ヶ月が経過した後の話であった。
  9月30日に行われた来名戸の秋祭り。どうしたことか呼ばれた気がすると声に導かれてイレギュラーズ達が『ダムに沈んだ村』へと訪れたのは報告書の通りである。
 ひよのは「読んではいけません」と何度も繰り返していたが、人間というのは禁止されれば『行いたくなる』ものなのだ。此処に訪れた者達は皆、報告書は読了済みなのだろう。
 だから――

 ――だから、『配信者が行方不明になった石神山上ダム』の事が気になったのでしょう?

「石神山上ダムの近くに『秘境の焼き肉屋』なんてありません。そして、配信者の『ヒダル』という青年もなんとも皮肉な名前をしているとは思いませんか?」
 ひよのの問い掛けにあなた は「どういう意味だろう」と感じただろうか。それとも、ひょっとすれば「ああ、あれかあ」と合点がいったかも知れない。
『ヒダル神』――それは行逢神または餓鬼憑きの一種である。
 山道などを歩いている人間に空腹感をもたらす悪霊の類であり、酷い場合は其の儘死に至るとも言われている。古く逸話としては徳川家康なども曰くのある存在だ。
 その名を冠した青年が焼き肉屋を探していなくなったという。そして、動画に映り込んだ『人の脚』や『ナニカ』も気がかりだ。ひよのは其れを見たときに『普通の生き物』の仕業ではないと考えたそうだ。
「で、此方が問題の動画です」
 再生する。確かに、噂の通りにズタ袋が映された次には其れはなく、人間の脚が並んでおり、ヒダルに向かって飛びかかる『ナニカ』の存在――猿にも見える……――が映り込んでいる。検証のためにあなたは「もう一度」とひよのに巻き戻しをお願いした。
 ……巻き戻しても何も映っては居ない。

「……」
 ひよのは其れを見た後に溜息を吐いた。
「さて、気を取り直します。来名戸村の調査でいくつか分かったことがありました。
 先に其方のおさらいをさせて頂きますね」

 来名戸村――それは石神地区という場所に存在『した』ダムに沈んだ山中の村である。
 村ではこの山を岐の神とし神域であるとされている。そして、風習も存在して居た。

 ――『申の日に亡くなった者達を土葬し神へとその忌むべき日に亡くなった穢を祓って貰う事ができる』
 ――『死者は神へ仕え、共に仕える者を鬼籍へと導くそうだ。来いようと手招き、神域の中で神隠しに遭う』

 これで、二人の死者が完成だ。だが、時折『招けぬ』呼べずの者が発生する。その鎮魂と人柱を立て神様に捧げるのが秋祭りであるとされている。

 イレギュラーズはこの秋祭りになんの因果か招かれた。
 そして、その場で『神に来ていることを存在として認知された』という。
 この場合の神というのは人為の及ばぬ怪異や其れに類するものである。
 所謂、倒せる夜妖(悪性怪異)とは違ったホンモノの霊的存在を指し示すと考えて欲しい。

「そちらで、見つけた情報は――」

 ダムは、本来『この怪異と遭わないため』に存在したのだろう、と。
 そしてそれは自身らを護るための護身のすべであったのだろう。それ故に、『沈んでいるモノは本来は有り得やしないもので憶えて居てはいけない』と言うこと。

「まあ、これは報告書を読むと……『知ってしまい』ますから。呪われると同義です。次、」

 そして、もう一つ――報告に上がった『阿僧祇霊園』について。
 それは希望ヶ浜地区では冠婚葬祭を担う組織であり、澄原病院と同じく、知らぬ者はいない筈だ。
 だが、それらが来名戸村にサルユメなどの夜妖を潜ませていたというならば――『現人神』と云う夜妖憑きを生み出そうとしている可能性はある。
 これは非常に『混沌世界の依頼』らしい結果である。無論、前述された『怪異』が夜妖と異なるというひよのの言を信じるならば――『怪異』に対してなせる対策は存在しないのだ。

「――つまり、今回は『阿僧祇霊園』に参りましょう。
 幸いにして石神地区にも支社が存在して居ました。そして、お誂え向きにも、石神山上ダムの付近より『地下道』を通って内部に入ることが出来るようです」
 それが何の為に掘られた物かは分からないが、位置関係的に来名戸村の死者の運搬に使用されていたのではないだろうか。
「そちらより内部へと入りましょう。これだけなら皆さんが希望ヶ浜の外で行うローレットの依頼らしい依頼です。一先ず、潜入後『何が有るか』は分かりませんが……」
 敵勢対象が居たならば一先ずぶちのめして調査をして帰ってきて欲しい。
「阿僧祇霊園の噂話って聞いたことないですか? 小学生の頃に皆が良く言っていたんですよ。
『おばけがでるぞ!』じゃなくて『ゾンビが出るぞ!』って。まあ、そういうのが居るかも知れませんね。何せ……そう言う場所ですし」
 くすり、と小さく笑みを浮かべたひよのは「帰りを待っています」と目を伏せてからあなたの背にぴたりと張り付いた『ヒトガタ』を摘まみ上げた。
「……お祈りでもして」

●此れは貴方がひよのと話した後に偶然見た動画。
 祈れば祈るほどに、その存在は神聖化していきます。
 故に、祈りましょう。『お嬢さん』もそれを求めていらっしゃいます。

 まずは『お嬢さん』に食事を用意致しましょう。
 次に『お嬢さん』が気に入るおべべを用意致しましょう。
 最後に『お嬢さん』におやすみなさいと告げましょう。

『お嬢さん』は美しいおぐしを持っていらっしゃいます。
 ひたりひたりと歩く音さえ愛おしい。ころころと鈴のように笑う声も愛らしい。

『お嬢さん』は電車に乗って遣ってきた皆さんを歓迎しています。
『お嬢さん』は遣いの者達に祭り囃子で皆さんを歓迎するようにと仰いました。

『お嬢さん』は洞を抜けたお堂で貴方達を待っています。

 ―――ねえ。  私の大切なオトモダチ候補

GMコメント

 夏あかねです。<希譚>は『希望ヶ浜関係』のシナリオより無差別に蒐集した『皆さんのアフターアクション』で派生していく長編シリーズです。
 当依頼は『石神地区』をお送りしています。

●注意事項
 当依頼の参加者は『<希譚>石神地区来名戸村』の報告書(リプレイ)をローレットで読んだとして認識されます。(前回参加者は元から呪われてます)
 以下のようなことがキャラクターの身に起ります。

 ・呪われます。常に何かに呼ばれている気がして気になります。
 ・背中にヒトガタが張り付いています。呪われてます。

●シナリオ達成条件
 阿僧祇霊園の調査を行い音呂木ひよのの元へと誰か一人でも帰り着くこと
 ※ひよのの元へ戻る分だけにはオーソドックスな戦闘依頼であると考えて下さい。

●石神地区/来名戸村
 調査は『<希譚>去夢鉄道石神駅』『<希譚>石神地区来名戸村』にて行われました。

 特異な信仰で成り立っている希望ヶ浜と練達のハザマの地域。石神は周囲に山が存在する田舎の村です。メインとなる部分を石神中央、または石神市街と呼びます。山手には『石神山上ダム』や『旧山道』が存在していました。
『石神山上ダム』の底には来名戸村が沈んでいるようです。
 この村は希望ヶ浜の中でも特に田舎や土着信仰にスポットを当て作られたものであり、特に今はダムに沈んでしまった来名戸村では外界を隔てるこの山を岐の神とし神域であると定義し、歪な信仰で成り立たせているみたいです。

●阿僧祇霊園
 希望ヶ浜には有名企業がいくつか存在して居ます。そのうちの一つ、冠婚葬祭を担当するのが、『皆さんの人生に彩りを、揺り籠から墓場まで』でお馴染みの阿僧祇霊園でございます。
 来名戸村のダム計画には深く関わっていたとされ、阿僧祇霊園の子会社であります『石神建設』がダムを建設したそうです。
 来名戸村の土着信仰や風習に対して理解をし、葬儀関係を取り仕切っていたようです。その為か、山上ダム近く、来名戸村の程近い場所に阿僧祇霊園石神支社への裏口の『洞』が存在して居ました。

 また、石神支社に『入り込むのは夜』です。日中は社員が働いている可能性があるからです。
 『夜』とはいえ周囲にはお気をつけ……いえ、『夜』であるが故、お気をつけを……。

●推定情報1:『洞』
 この入り口は『立ち入り禁止』の看板とガードフェンスが斜めに傾いで建てられています。
 余り使われていないのか草が茂って一見すればそれが入り口には思えません。乱雑に立ち入りを禁止しています。その入り口には何かを引き摺った後が存在して居ます。
 覗き込んだ限りでは、灯りと成り得るものはありません。人が二人程度並んで進めそうです。中は、足場の悪い下り坂です。イメージとしては『先の見えない真っ暗な洞穴』が存在して居るようです。
 怖いですね.入ってください。どうしてか『入らないと行けない』気がしませんか?

●推定情報2:『穴の先』
 推定情報1の次『洞』の先です。此れはどうしたことか分かりませんが皆さんはその奥には広いフロアが存在して居るという『認識』があります。
 そのフロアにはお堂が存在しており、周囲にはいくつか扉があるようです。その扉の先が何かは分かりません……。
 *此処では戦闘が行われます。所謂『良く在る戦闘依頼のように敵勢対象が出てくる』のです。
 *この敵勢対象が何かは分かりませんが戦力を分断しておいた方が良いかも知れません。

●推定情報3:『扉の先へ』
 扉の先へ往くことが出来ます。推定情報2のホールの探索やお堂について探索した方が良いでしょう。
 また、『扉の先』こそ本当に何が存在しているか分かりません。数個存在するうちのどれが危険でどれが安全かさえ分かりません。これは『危険を顧みない』行動です。ですが、『調査する上では重要かも知れない』ものとなります。
 ……まあ、開けてみたらオフィスに繋がっていて拍子抜け、かもしれませんが。
 *此処での情報精度はF。何もないに等しいです。戦闘があるかどうかさえ分かりません。
 *『無事に帰ってこれないかも知れない』です。『保証はなにもありません』

●音呂木ひよの
 音呂木神社の巫女。皆さんを石神駅で待っています。
 送迎役としてご一緒しました。また、嫌な気配を感じているのか『帰り道の為に』警戒し続けているようです。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はD-です。
 基本的に多くの部分が不完全で信用出来ない情報と考えて下さい。
 不測の事態は恐らく起きるでしょう。

●Danger!
 当シナリオにはパンドラ残量に拠らない死亡判定、又は、『狂気に陥る』可能性が有り得ます。
 予めご了承の上、参加するようにお願いいたします。――扉の先は……。

  • <希譚>阿僧祇霊園石神支社完了
  • GM名夏あかね
  • 種別長編
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2021年01月19日 22時10分
  • 参加人数30/30人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 30 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧 (30人)

ヨタカ・アストラルノヴァ(p3p000155)
戦場のヴァイオリニスト
那木口・葵(p3p000514)
布合わせ
リュグナー(p3p000614)
虚言の境界
マルベート・トゥールーズ(p3p000736)
饗宴の悪魔
東雲・リヒト・斑鳩(p3p001144)
胡乱な渡り鳥
古木・文(p3p001262)
想心インク
アルテミア・フィルティス(p3p001981)
プロメテウスの恋焔
黎明院・ゼフィラ(p3p002101)
夜明け前の風
赤羽・大地(p3p004151)
未来を、この手で
ユゥリアリア=アミザラッド=メリルナート(p3p006108)
氷雪の歌姫
茶屋ヶ坂 戦神 秋奈(p3p006862)
奏でる記憶
ルチア・アフラニア(p3p006865)
「Concordia」船長
恋屍・愛無(p3p007296)
飢獣
ニコラス・コルゥ・ハイド(p3p007576)
博徒
シルキィ(p3p008115)
la mano di Dio
ルーチェ=B=アッロガーンス(p3p008156)
異世界転移魔王
散々・未散(p3p008200)
L'Oiseau bleu
スカル=ガイスト(p3p008248)
フォークロア
楊枝 茄子子(p3p008356)
羽衣教会会長
ボディ・ダクレ(p3p008384)
痛みを背負って
浜地・庸介(p3p008438)
凡骨にして凡庸
天雷 紅璃(p3p008467)
新米P-Tuber
ロト(p3p008480)
精霊教師
グリム・クロウ・ルインズ(p3p008578)
誰かの為の墓守
バスティス・ナイア(p3p008666)
猫神様の気まぐれ
越智内 定(p3p009033)
凡人
白夜 希(p3p009099)
神は許さなくても私が許そう
咲野 蓮華(p3p009144)
黄野(p3p009183)
愉快な麒麟
ノワール・G・白鷺(p3p009316)
《Seven of Cups》

リプレイ

●音
 ギーーーーーーーーーーーィ

「何か聞こえましたか?」

 ギーーーーーーーーーーーーィ

「私? 何も聞こえませんけれど……行くんですよね?
 まあ、此処まで来て調査を止めるのも……ええ、分かっています。それでも、嫌な予感がしますから。
 此れは非常に『イレギュラーズ』の皆さんには良く在る仕事になるかも知れませんね。
 ああ、先にお伝えしておこうかなあ、と。悪性怪異:夜妖<ヨル>は倒せる怪異、とお伝えしましたが、倒せない存在は真性――」

 ギーーーーーーーーーーーーーィ

「―――と、言うわけです。え? 聞こえなかった? ……ふむ、まあ、こんな場所ですし。
 その音も聞こえます。どうか、気をつけて『帰り道は私が護っています』から」
「本当? うーん、ひよのくんの声が聞こえなかったけど、まあいいや!
 会長、阿僧祇霊園と静羅川立神教には目を付けてたんだよ!ㅤ今回は霊園のほうだね!
 希望ヶ浜だろうがどこだろうが、練達の冠婚葬祭を担当するのは羽衣教会なんですけどー?
 揺り籃から天国まで飛翼を、羽衣教会をよろしくお願いします!ㅤつってね!!」
 にんまりと微笑んで『羽衣教会会長』楊枝 茄子子(p3p008356)は以前は穴を掘ったが、今回は『帰るため』だとひよのと約束を一つ。誰かが帰ってこなくては、全てが取り込まれてからは遅い。
 誰かが――『その場所を知っている』誰かがいることが何かの解決の糸口になるはずだから。
「ひよのくん、そろそろ知ってることだけでも話しとかない?
ㅤ会長訳もわかんないまま洞に入りたくなりたくなるのとかもうやなんだけど。まぁ、ほんとに知らないって言うなら信じるけどさ」
 ――これは、嘘。茄子子は一つ理解していることがあった。『人の思念の集合』から悪性怪異は生み出されることがある。何も考えず、何も調べない。その先に何が有ろうとも耳を貸さないべきなのだ。
 茄子子はひよのを信用していない、更に言えば誰も信用していない。けれど、ひよのは『信頼』できる。彼女はこの場で唯一の『希望ヶ浜に縁深き神職』である。
「分かっていることは私にとっても少ないです。皆さんが纏めた報告書通り。
 ……ですが、ひとつだけ。今、気付いたことを伝えても良いですか?」
「うん、いいよ。会長は、『ちゃんと向かって帰ってくる』ために聞きたいんだ」
「……何か、ずっと憑いてきています。茄子子さんにもそうですし、ロトさんにも、バスティスさんにも、『今までの積み重ね』のように。
 それがずっと手招きしているのが見えています。より石神地区の『神』に近い者に対してそうしているのでしょう――私は……真逆、決して呼ばれることのない存在のようですが」
 其れしか分からないと言ったひよのに茄子子は「居るんだ」と小さく呟いた。ひたひた、と後ろから聞こえる足音が何かなんて、気にしては負けだ。

●立ち入り禁止区域に立ち入るという事(著:佐伯製作所 石神研究室)
 立ち入り禁止とは複数の意味が存在している。
 先ず前提にその先が私有地であった場合、縁もゆかりのない存在が立ち入ることは禁じられる。今回はそうした意味ではない怪異と言う存在にフォーカスを置いた『立ち入り禁止区域』について解説しよう。
 一つは其の儘の意味だが、その先が危険である為だ。この危険という言葉が厄介だ。
 身体的危険があるか、それとも精神に害を及ぼす可能性があるか。例えば、地盤が緩く滑落の危険がある場所や危険物質の発生区域は生命に害を及ぼす可能性があるために危険とされる。だが、そうした意味合いと違う危険は怪異によるものであろうと我々は考えた。
 怪異による危険とは、精神的に影響を及ぼし帰還を困難にする場合も多い。そうした場所に踏み入る際には先ずは現世への帰り道たる存在を帰路に設置しておくべきである。そして、帰路に立った存在は怪異に話しかけられようとも一度も反応してはならない。此れが難しいのだ。大体の怪異とは人を惑わすために存在して居る。危険区域とされた異界に囚われた場合は、内部に入った者諸共、帰り道を失うこととなるだろう。

●山道を進む
「へぇ、中々良い雰囲気だね。『立ち入り禁止』の看板がより恐怖感を増長させている。
 山道で有ることも相俟ってか、それとも別の要因かな? ほどよく涼しいし、邪悪の気配もする。
 散歩に来るには悪くない場所だと思うよ。ワインでも持って来れば良かったかな?」
 涼やかな顔をした『饗宴の悪魔』マルベート・トゥールーズ(p3p000736)が覗き込んだ洞は斜めに立てかけられたガードフェンスが歪み、奥へ進むことが叶いそうであった。草が茂り足下も入り口もお粗末なものだが、そこから入ることが出来ると言われれば確かにそうだと納得が行く。
「うーん……なんだかずっと妙な感じがするのじゃ……。
 音呂木神社の巫女と見た動画で示唆されていた『お嬢さん』なるものと、霊園であるという情報から『ゾンビ』の存在が示唆されておるが……」
 洞を覗き込んで『正直な旅人』黄野(p3p009183)は背筋に冷たいものを感じずには居られなかった。
「非常に嫌な予感が致しますがー、虎穴に入らずんば虎子を得ず、と言います。行かぬ事には何もわかりませんよね?」
 呟いた『《Seven of Cups》』ノワール・G・白鷺(p3p009316)は一先ずはこの洞に降りなければ何も始まらないかとまじまじと見遣る。覗き込めば灯りになるものは存在しないが夜目を生かせばそれが下り坂で有ることは分かる。
「鬼が出るか蛇が出るかっていう感じアルか。何が起こるか分からないのはドキドキするアルな……!
 これが入り口アルな、ホラーゲームとかでよく見る感じで入ったら危ない感じがあるアルが……何故だか入らないといけない気がしてするアルな」
 ふむ、と小さく呟いた咲野 蓮華(p3p009144)の脚は寧ろ竦むことはない。在り来たりだからこそ分かりやすい導入なのだ。それは『露骨に呼ばれている』のだと『精霊教師』ロト(p3p008480)は感じていた。元来、霊園とは死者が静かに眠る場所である。そして、阿僧祇霊園石神支社はそうした死者の眠りをサポートする事業を行っているれっきとした希望ヶ浜の会社である。
 もしも、『戦場のヴァイオリニスト』ヨタカ・アストラルノヴァ(p3p000155)が日中に訪れたとしても何も疑問は抱くことはなかっただろう。昼間に社屋へと真っ正面から入れば社員達は微笑み何事も無かったように「どのようなご用件でしょうか」と声を掛けてくれるはずだ。
 故に、社員達が殺されているのではと推察した『白い死神』白夜 希(p3p009099)の調査は半分は外れで、半分は正解であったのかもしれない。『社員達は殺されていない』だろうが、『社員以外がどうか』という話だ――そう、例えば。

「P-tubeの配信者……」

 機材を用意していた『スレ主』天雷 紅璃(p3p008467)へと望は神妙な顔をして頷いた。来名戸の異界へと『散歩』してきた希にとって其れに取り込まれた存在が生存していることはどれ程に絶望的かと言うことは分かりきっていた。
「はい! というわけで今日は石神市街の霊園にきてるよ! 怖いからみんなコメント絶やさないでねー!」
 だが、紅璃から見た石神地区とは希望ヶ浜でも有数のがちホラースポットであるという認識だ。それは本来の怪異が存在して居るか否ではなく『噂話』の一種だろう。来る事になるとはなあと呟く紅璃は音呂木神社でひよのと共に見た動画を思い出す。

 ――はい、どうも。何時もご覧下さって有難うございます。配信者のヒダルです。

 ヒダルと名乗った男は姿を消した。その動画を最後にして、だ。彼のようなことになるのでは、という考えがよぎったのは嘘ではない。すう、と小さく息を吸って吐いて、緊張する紅璃とは対照的に希は常の通りの落ち着き払った風貌で、とん、とん、と鞠を突いていた。
「私は日本という場所に余り詳しくないんですけど、葬儀会社の子会社に建設会社があるというのは一般的なんですかね?」
 悩ましげに呟いた『布合わせ』那木口・葵(p3p000514)の問い――それに答えたのはaPhoneで通話が繋がっていたひよのであった。
『阿僧祇霊園は葬儀会社ではありますが、冠婚葬祭全てを取り扱っています。
 希望ヶ浜では大きな財閥が参入し、様々な分野を網羅してその生活基盤を支えているのですよ。なので、阿僧祇霊園が建設会社を持っていたり、澄原病院が学校を運営していても何ら誰も疑問に思わないわけです』
「そういうものなのですね……」
 ふ、と葵が俯いた。入り口に何か引き摺った後が存在して居る。それは真新しい物のように感じられた。
「これって『ヒダルさん』を引き摺ったあと――あれ……?」
 どうやらひよのとの通話が途切れてしまったようだ。来名戸村は本来はダムの底に存在する村である。現実に痕跡が残っているとするならばヒダルと名乗った実況者の物であると考えた方が良いだろう。
「報告書で読んではいるけれど……何が起こるか分からない場所、ね。『そういう場所』だと分かっていれば警戒を緩めずに行動出来るからいいけれど、はてさて鬼が出るか邪が出るか……」
 灯りを付けてこちらに気付かせてしまうことも恐ろしい。息を飲み目薬で暗い夜に適応する目を得た『プロメテウスの恋焔』アルテミア・フィルティス(p3p001981)はそろそろと歩き出す。見えてしまうことで良くないことになる可能性も否定できないが――妙な気配がその脚を進ませる。
 下り坂。何かで滑ったりしないようにと気を配るアルテミアは『敢て下を見なかった』。見ては為らないという気配を強烈に感じるからだ。
「前々から、石神地区、とやらは気になっていたけれど、ついに、ここまで、来てしまった。
 ……確かニ、夜に来るような所じゃねぇナ、此処ハ。下、見たカ?」
「いいえ」
『遺言代行』赤羽・大地(p3p004151)の問い掛けにアルテミアが首を振った。大地は周囲に漂っていた霊魂と疎通しようとし、其れが上手くいかないと呟いた。下り道の最中に何かが足を引っ張る感覚がする。それが『この世為らざる者』であることに気付いているからこそ、敢て問うたのだろう。
「見ない方が良い」
 きっぱりと、呟いた大地の言葉にアルテミアは頷いた。ずんずんと、下る。
 それは異界に繋がる穴であるかのように。昏く、昏く、深い底へと沈んでいくかのように。
「いやー、立ち入り禁止の看板といいギリ入れそうなフェンスといい。
 まさにホラゲーのスタートボタン押した直後って感じっ! テンアゲしちゃうわっ」
 にんまりと微笑んで『奏でる記憶』茶屋ヶ坂 戦神 秋奈(p3p006862)は『洞』を目指してぐんぐん進もうと「えいえいおー」と言わんばかりに腕を掲げてみせる。
「情報が集まるほど真に求む情報が分からなくなり、調べるほど身に危険を感じてくる。
 分の悪い賭けなど、性に合わぬ……だが、それでもこの好奇心は抑えられぬ……厄介なことだ――実に、厄介だ」
 相手にしているのが人間であれば、此程までに身の危険を感じずに居られたのかも知れないと『虚言の境界』リュグナー(p3p000614)は考えた。洞を進む仲間の背を見送って、彼はゆっくりと歩き出す。

●洞へ
「全く持って嫌な気分だよ。出来の悪い喜劇の操り人形にでもなった気分だねぇ」
 溜息を吐き出して『胡乱な渡り鳥』東雲・リヒト・斑鳩(p3p001144)は調査を行う別動班の情報を待っていた。洞を抜けた場所に広々と存在して居たホールはぽっかりと空いた洞であると感じた方が正しいのかも知れない。
 無数の扉がずらりと並んでいる。それは分かりやすいまでの境界線であり、区切りだ。外から此処へ入ってきたとしても『それを許して貰える』範囲が此処なのだろうと、嫌というほどに感じさせた。
 そも、何もないかも知れないし、何かあるかも知れない。『かもしれない』だらけの曖昧な情報に身を賭けなければならない。それに価値を見出してはいけない。ただ、赴くままに進むことを決めることが必要なのだ。
「知りたいことは複数ある。……けど、此れは複数のパターンがありそうな気がするね」
 いくつかの調査目的を固めてきていた『文具屋』古木・文(p3p001262)はぽつりと呟いた。
 彼の調査目的はいくつか存在する。『石神地区』における呪いとは『怪異の目的』とは――それから……怪異に協力する存在がいるのか、だ。
「情報を消す以外に怪異に対抗する方法はあるのか、というのも気になるけれど……」
「それに関しては音呂来ひよの女史の言葉の通りであるかもしれない。
『悪性怪異:夜妖』は必ず倒せる――が、倒せない存在は真に人の手の及ばぬ存在である、と。
 例えば、神や本来意義的な怪異、『真性怪異』と呼んだならば分かりやすいかな……」
 呟く『夜明け前の風』黎明院・ゼフィラ(p3p002101)の背中に張り付いていたヒトガタを文はそう、と取った。ああ、これは何処までも着いてくるのだ。
「……有難う。
 以前の調査報告書を読んだが、中々興味をそそられるよ。土着の信仰、文化。それらは私の研究対象だからね。ま、今回の件は論文を書くわけにもいかなそうだけれども……」
 それでも心揺さぶられないと言えば嘘だ。この様な寂れた雰囲気だ。苦手意識があろうとも『そうした存在がいる』と認識した上で表面上は敢て平静を装った『氷雪の歌姫』ユゥリアリア=アミザラッド=メリルナート(p3p006108)はお堂が一つ設置されたその場所に立っていた。
 何かを引き摺った痕を見下ろして歌を歌ったユゥリアリアは、ぴた、と手を止めて首を振る。

 ――助けて! 助けて! どうして、こんなことに!

「……聞きたいのは此方ですけれどー……」
 何も知らぬとでも言うように。その『痕』は叫び続ける。屹度、この痕は何も分からぬ者達による行動の結果なのだろう。
「私を呼んでいるのは誰……? こんな感覚は初めてだわ。怖くて、でもどうしても気になるなんて……。おかしいことは分かっているのに。行かなきゃいけない、絶対に――」
「……大丈夫だ。『誰も呼んでいない』」
 ひゅ、と息を飲んだ『「Concordia」船長』ルチア・アフラニア(p3p006865)の傍らで『砂の幻』恋屍・愛無(p3p007296)は静かに囁いた。そう、そもそもに於いて『呼ばれている』と言う感覚を抱くことがこの場では危険なのである。愛無が言った通り、『誰も呼んでは居ない』のが正解だ。
 現に、神職であるひよのには一切合切、此の地からの呼び声は聞こえていない。来名戸の村へと辿り着くことも出来なければ怪異を見えていながらも其方の世界に踏み入ることを拒絶されている。それが神に遣えるが所以であるかは分からないが――
「此処が阿僧祇霊園の敷地で在る事は確かだろう。簡単な考察をしてみよう。
 例えば、彼等が元凶として――『神の再臨』と『国産み』が目的だとすれば。
 命題たる『帰還』が叶わぬ彼等が『街』だけでなく世界を産みだそうとしているとは考えられないか」
「どうだろうな。『遭ってはならぬ神を見た』『祭囃子に誘われて在りはしない村へ行った』『神を認識した』『神を連れ出した』――なら次の役割はなんだ?」
 呟く『博徒』ニコラス・コルゥ・ハイド(p3p007576)は愛無の言葉は理解は出来るのだというように頷いた。
 そうだ。神を認識しようとも『他の神に遣えた娘』には神を外に連れ出すことは叶わない。ならば、全くの異界――この場合は、再現性東京の外を指す――より訪れた異形(ひとならざるそんざい)が態々、鉄道に乗って怪異の村にやってきたのだ。
「……この地は『境界』の概念が付きまとう。再現性東京2010街『希望ヶ浜』と外界との境界、都会と田舎、スポットフォーカスの変化……。そうした無数の『境界』の場所。
 此岸から彼岸。『死』のイメージだが、『再生』という要素も内包するのではないか。蛇。猿田彦。来世信仰。『揺り籠から墓場まで』とは暗示的だが……」
「これは、妄言だと思ってくれ。ただの考察だ。『口にして意味を持ったならば謝ろう』」
 ニコラスに愛無は小さく頷いた。愛無は彼が言い渋った意味を理解している。そうだ、こうした場所では言葉は力を持つのだから。
「……なら、先に私が告げよう。
 ある地では鉄道で人が死んだ場所へ赴くと死神が憑りつくらしい。そして山は境界。根の国。この地は『回帰願望』を利用した魔所なのか?」
「恐らく。今まで死が関与してきた。だったら今回もそうだろう。ならばこれは冥界下りで胎内くぐり。だったらそこにいるナニカに神が憑いて外に出たら現人神になるんじゃねぇか」
 例えば――

●『神に至る』(著:葛籠 神璽)
 私は神と言う存在に非常に懐疑的である。祭祀を意味する『示』、音符『申』を付した字で構築された『神』とは日本に於いて神霊であるとされる。そもそに於いて、私はこの目で見えぬ存在に対しては全てが懐疑的である。
 だが、人というのは全ての事柄に対して何らかの理由を与えたくも為るのだ。人為の至らぬ事柄を祟りや呪いであると考え、霊力が強力に発現した結果であると理由を付与し続けた。また、崇高なる存在であるとする為に心の拠り所としても使用されることも多い。
 だが、神とは? 目にも見えぬ存在を信じる事に対して懐疑的になる事は間違いでは無いだろう。
 そこで私は神に至らんとする娘との邂逅に成功した。彼女には名は存在して居なかったが、村の人々からは『木偶』と呼ばれていた。木偶、つまりは木彫りの人形である。彼女の住まう来名戸では郷土神信仰が根付いている。だが、昨今はその信仰心に翳りが見え忌むべき申の日の死者をも土に返さず火に焼べて仕舞う者まで出てきたそうだ。
 来名戸では神にその身を返すが為に土葬を重んじていたそうだ。葬儀には阿僧祇霊園が協力し滞りなく進んでいたが、その信仰心に翳りが出た事で事情は一転したそうだ。
『木偶』は神となるべく世俗より隔絶された洞に埋められる事となったそうだ。彼女曰く、自身の元に死者の身を運び、神力を分け与えて遣いを作成するのだという。そうして呼べずの者が出て村人の人柱が必要なくなるようにと来名戸の神の妻と為り支えることを目的としているらしい。
 生娘である木偶は来名戸神社の一人娘だ。本来の名を捨て去り、ただの木偶(人形)として此れより神に至る彼女が不憫で為らないが――彼女は言った。
『村が無くなるまでの辛抱です。どうせ、近い将来あの村は無くなることでしょう。深い水の底に沈んでしまった方が良いのですよ。風習も、神も何もかも』

●洞
「そういえば、まあ、僕も色々と調べたんだけどさ。ヒダル神が何故生まれたかって知ってるかい?」
 妙な使命感を感じて、穴の先の空洞まで遣ってきた『凡人』越智内 定(p3p009033)はここまでだ、と認識していた。この先に行ったとて自身が役に立てやしないと認識している。
 そもそも、ひよのは『帰ってきて欲しい』と言っていた。ならば、カッコ悪くてもダサくても良い。此処から一人でも帰るために、自身は帰ることを優先しなくてはならないのだ。
「何故?」
 問い掛けた『異世界転移魔王』ルーチェ=B=アッロガーンス(p3p008156)は浮き上がり足場に気を配りながら傍らの定へと問い掛けた。
「昔々、山越えなんかで遭難して食糧不足に陥った時空腹と糖分の不足で恐ろしい幻覚なんかを見てそれが空腹を呼ぶ餓鬼の仕業だ。
 ……って言うんで山を登る時には食糧を絶対に切らさない様にって教えから来ているんだ。でもさそれはあくまで教えであって本当にヒダル神や餓鬼が居たら?」
「それが幻覚ではなくそうした存在だというなら、恐ろしい目に合うのは道理だな」
「まあ、そうだよね。居るか居ないかなんて、結局僕ら次第なんだよね。
 ……僕? 僕かい? 僕はいると思うぜ。そう思わないと、本当に居た時に耐えられないからね」
 居ないと目を伏せることは簡単だ。そこまで口にしてから定はふと、何かを思い出したような顔をした。ルーチェは「まあ存在はしているのだろう」と呟いて周囲の確認をする。
「まあ、ひよのさんの言を考えれば『居ないと考えた方が良い』『何も聞かない方が良い』『何も言わない方が良い』んだけどさ」
「まぁ……そうだよねぇ……居ると言ってしまえば出てきてしまうかも知れないものねぇ……。
 けど、わたし達は何かを聞いたよぉ。誰かに呼ばれている気がするのはきっと気のせいじゃないんだろうねぇ。何せ、ここに居る皆が『何かに呼ばれた気がしている』んだから……」
 石神地区の調査は久しぶりだと『la mano di Dio』シルキィ(p3p008115)は小さな声音で呟いた。立ち入り禁止区域に入るというのは衝動に突き動かされたわけではなく、あくまで調査のためだと自身に言い聞かせて。
「向こうにいくつか扉があるみたいだけれど……入ったらどうなるか全く予想が付かないねぇ……」
 シルキィが困ったような顔をしたその傍らで「あれ」と『L'Oiseau bleu』散々・未散(p3p008200)は小さく呟いた。
「どうかしたのぉ……?」
「ひよのさまとaPhoneでチャットアプリを使用して連絡を取ってたんですが……ずぅっと既読にならないのです。電波は立っているのに」
 ひよのは皆からの連絡は優先して確認すると言っていた。洞を下るまでの間は彼女と無意味なスタンプを連打し合い繋がっていることを確認できていたというのに。
「……心地が悪かったのですよ。
 私達は推定情報であれども『識っていた』のですから。あの細い管のような洞の先、この空間が広がっていることを。
 まるで胎内巡りの様だ。揺り籠の中より、もっと前の……暖かい母の胎。
 残念乍ら、心身の新生では無く――死の匂いが立ち込めている様で御座いますが」
 そう呟いた未散。恐怖という感情に薄い彼女は其れさえも、些か理不尽な空間に自ら足を踏み入れただけであるかのように感じていた。疎い感情であるからこそ、最も理解に遠い。
「阿僧祇霊園、あの組織は何故村にこのような支社を作ったのでしょうか」
 呟いた『痛みを背負って』ボディ・ダクレ(p3p008384)に『凡骨にして凡庸』浜地・庸介(p3p008438)は「希望ヶ浜全域をカバーする冠婚葬祭のため、と表向きには」と呟いた。
 それでも、その阿僧祇霊園が来名戸の土葬や様々な事に繋がっていることは想像に易い。庸介は自分には調査の能力も無く、棒振りだけが得意だとそう認識していた。それでも、扉までで止まり帰還するのもどうにも完全燃焼には程遠いと感じていた。扉の先まで進み、その目でしっかりと見ていきたいと――
「家の霊園とは趣が違うが……ここも霊園であるならば死者の眠る場だ。
 ゾンビという形ある遺体が出るのならば、それは埋葬の仕方が悪かったか死霊術によるモノ。
 ……若しくは肉無き魂ではなく、肉有る体でないとなし得ない何かがあるからだろう」
 墓守である『誰かの為の墓守』グリム・クロウ・ルインズ(p3p008578)は僅かな苛立ちを感じていた。どのような事情があれども、ゾンビとは何か。腐っているではないか。エンバーミングを怠った結果だとすれば苛立ちを感じずには居られない。確りと埋めるための墓穴が欲しくなるではないか。
「墓穴……。まるで『ダム』こそがそれのようだ」
『フォークロア』スカル=ガイスト(p3p008248)の言葉にグリムははた、と顔を上げた。全てを鎮めて水で埋めてしまった来名戸村――その場所に一度は来訪した『猫神様の気まぐれ』バスティス・ナイア(p3p008666)は「あーあ」と小さく呟いた。
「なんと分かりやすい冥府来訪譚だろうね。地の底にあるのは死者の国。それは全ての死者が知っている……。
 『阿僧祇霊園』――聞けば神を造ろうとする団体と繋がっているらしい。死者の国で神を造る。現代に於いて行う神代の如き所業ではないか。
 ……なーんてね、でも気分のいい話ではないよね。神様は其れを許すこと何て出来ないよ。
 けど、それが『神』を作りたい訳ではなくて他の何かというならば聞いてみなくちゃいけないけれどね」
 バスティスはゆっくりと顔を上げる。広い洞。お堂の奥の扉が一つ、がたがた、と音を立てて開く。
「それはそうと洞の中。ここからは夜妖の領域。
 それとも、もっと厄介な、怪異その物の胎の中。
 藪の中に手を突っ込んで蛇の頭を抑えつけてやろうじゃないか――先方の神の走狗、猿は出てくると思うけれどね」
「ああ、バスティスさん。こう言う時にぴったりな言葉を返しても?」
「勿論」 
 ロトは低く呻くようにこう言った。
「まさしく、彼方の遣いがお迎えに来たようで」
 そこに存在したのはゾンビと呼ぶべき存在ではなかろうか――

●腐り墜ちたヒトガタ
「大丈夫大丈夫、怖くない怖くない!ㅤ会長が一番怖いからみんな情けない会長を見て落ちついて!」
 膝が笑って、帰りたくて。茄子子はそう言ってにんまりと微笑んだ。aPhoneでのやりとりが出来なくなってきた。寧ろ、今、情報があれども中身を見る気は無い。電話にも出る気も無いのだ。
「まるで、其処に赴くのが当然の様に歩が進みますね」
 呟くノワールは待機をして様子を見続ける。開け放たれた扉の向こうからぞろぞろと現われたゾンビ達の相手をするのは自身らを『A班』を位置づけた『扉の先に向かわぬ者』達だ。
「まあ、そうじゃのぅ……役満じゃ。葬儀会社が関わった常世、黄泉。根の国、根の堅洲国。あるいは根の国底の国。
 動く死体が此方に対して挨拶半分に無礼にも出てきて居るのじゃから……『見た動画のお嬢さん』は言葉だけ聞けば母神というより姫神っぽい気もするが……ま、これはあんまり意識せんでもいいかもしれんの」
 黄野はぽそりと呟いた。どうやら此の集団にはお嬢さんらしき存在は混ざっていない。ゾンビだけがぞろぞろとイレギュラーズを迎えるように出てきたという事だろう。
(神に近づいていくものだとするなら、元は神でないものやもしれんしな……ま、それは言わずにおいておくが)
 言霊は、余り発さぬ方が良い。集団行動を、と黄野は仲間の側を離れぬように気を配る。
「ここで一人になったが最後、そんなん呼び込まれとるも同然じゃ!」
「OK、なら任せるである」
 蓮華がすう、と息を吸った。アクロバティックにゾンビ達の相手取る蓮華に続き、魔力撃を放ったグリムが開け放たれた扉を確認する。数は二つ――まだ、開かれていない場所も存在するか。
 ロトはその様子を見詰めていた。戦略眼を用いて見遣ればひよのが示唆していた『ゾンビ』たちは阿僧祇霊園での葬送を受けた者達であろうか。濃く死臭を発する其れ等には僅かに何かの糸のようなモノが付着している。
(穴の先の敵勢対象――が、まさに言うとおりのゾンビだなんてね。本来的な危険な存在は『此の次』か)
 現われて蠢くゾンビに対してスカルは攻撃を重ね続けた。それらは来名戸の住民や石神地区に住まう者達なのだろう。真新しいジャンパーを纏った男を見つけて、スカルは「あれは」と小さく呟いた。それはひよのと共に動画で確認した『ヒダル』と名乗った配信者ではないか。
「――お嬢さん」
 唇が震えている。ゾンビの言葉だ、それを聞いた瞬間に全身の血の気が引いた気さえした。
 ルーチェの放った攻撃に遭わせてシルキィは雷を落とし続けた。ゾンビはなんてことない、『普通の戦闘』だ。だが、その背に張り付いた髪の毛がやけに気になって仕方が無いのだ。
(あれって何だろうねぇ……ヨルの払い方で対応できるのかなぁ……
 校長先生、存分に頼らせてもらうからねぇ……!)
 秋奈は「ほんとに出た!」と叫ぶ。
「ゾンビが出る? ここってニホンよね? 火葬じゃないわけ? くわばらくわばら」
「来名戸は土葬だったみたいだから」
 ルチアの言葉に「そうだったー」と秋奈は困った様に肩を竦める。呼ばれている気がした扉を目指したいがゾンビが邪魔してくるなら相手にするしかなさそうだ。
 ヨタカはゾンビに対して攻撃を重ね続けた。ここで、ゾンビ如きに負けてはいられない。大切な番が外で待っている――呪われても良い、とそうは思っていた。だが、ひよのに聞けば『報告書を読んだ皆さんの背中に』とあまりに困った言葉が重ねられていたのだ。
 紙の式に背を護るようにと頼んでいた葵はぱち、という音と共に自身の式神が落ちた事に気付く。
「え――?」
 背に張り付いていたのはヒトガタだ。ヨタカは葵の背中には常にヒトガタが張り付いていた事に気付くいていた。

●『怨恨』
 希は――否、座敷童は考える。扉には様々な種類があった。
 先程のゾンビが出てきた扉は破壊痕が存在して居た。それ以外の扉はしっかりと鎖されており、『こちら側』から開くことも難しい。
「ダムを作った石神建設を子会社に持つ霊園。つまりスパイ、来戸名の敵。
 ……ダム建設後も石の力を弱めるために残留した職員は、帰ってきた若い衆に報復されただろうか」
 考える――だが、『このダム建設が村人達との合意の元』であったならば。
 鞠を付いて霊魂に疎通しようとするがこの場に存在する霊魂達は何も知らぬと言うように「助けてくれ」ばかりを繰り返す。
 ――来名戸の村の人々は再現性東京に存在する田舎というロケーションを好んだ者達だ。その中でも郷土信仰というテクスチャを貼りつけられた者達があの村を好んでいただろうが、所詮はまやかしである。
 その地に纏わる『害』が大きくなれば取り潰すのは自明の理だ。来名戸の風習が『本来ならば存在してはいけない怪異』を生み出しているとなれば、その怪異が日常に滲み、侵蝕する事を怖れる者が居たのは想定内だ。
 希が期待した『阿僧祇霊園や来名戸を知る霊魂』は数少なかった。存在していたとしても、そう、それは――『来名戸で死した者達』のものだった。
 皆、ダムの話など知らず、此の地で何かを信仰している。
 来名戸の神を。彼等が此処に居ると言うことは、彼等は『呼べず』の儘だったか――遣える神の許へと迎えなかったか。
「ふむ……」
 鞠をとん、とんと突きながら希はその場を後にする。

 その地に存在した者は、皆、信仰者。――神様を尊び、『神の存在を信じるが故に』、神を生み出した哀れな者達。

●『希望ヶ浜譚』序文 抜粋
 石神地区に存在した信仰は寄る辺なき人々たちの支えとなるべく存在したが、『魔が差した』と表現するのが正しいだろう。
 生活の隙間に顕現する悪性怪異。正しく『魔が差した』結果、本来ならば起こりえない、説明もつかぬ事象が一つ存在したのだ。其れ等を無かった物にすべく希望ヶ浜では石神山上ダムの建設を決定した。
 今は其れしかできなかった。人間とは斯くも勝手な生き物であろうか。勝手に創り出し信仰し、それらが助長した結果に生み出された『怪異』に太刀打ちするために全てを沈めてしまえというのだから。

●お堂
「うーん、お堂と扉があるけどみんな見える? 私は専門的な知識とかないけど霊園マニアの人とかから見るとどうなんだろうねこれ」
 aPhoneを向ける紅璃に「遂に調査パート」と言ったコメントが流れ続ける。
「ちょっとした遺跡調査と考古学気分で楽しませてもらおうかな。
 後は折角だから何か興味深い物があれば調査資料の名目で記念品に持って帰ろうか。
 バチ当たり? 何を今更。悪魔が神や呪いを恐れるとでも?」
 くすくすと笑ったマルベートに「やめた方がいいのかもしれませんね?」と首を傾いだ葵。どうにも、この地の物を持ち出せば帰れなくなる可能性を感じてならないのだ。
「ふむ、それにしてもさっきのゾンビは『美味しく』なかったね。あまりに味がしない。
 寧ろ、髪の毛一本に無理やりにでも動かされたというか――神の眷属にもなれやしない存在は『ああ』なんだろうか」
 マルベートの問いかけに葵は「眷属ですか?」と問う。
「そうさ。あのゾンビは阿僧祇霊園が供物としてお嬢さんとやらにプレゼントした物だろうね。
 まあ、どうしてなのかは分からないが……そうしなくてはならなかったという理由があるのだろう」
 マルベートに葵はなるほどと呟いてから周囲を見回す。お堂にはお嬢さんのヒントは存在していない。
 扉の先にお嬢さんが居るならば会うことは叶わない――だが、『おべべ』というと服だ。
「形や色の好みなどはあるのでしょうか。気に入るものがあればいいんですが……」
 名前も分かれば、と独り言を繰り返す葵の傍らで――

 ――真赤な色よ。

 何かが、聴こえた気がした。
 秋奈は「呼ばれてる気がする扉に行くしかないぜ」と真っ直ぐに見遣るが、穴の中は音が良く響く。出来る限り足音を立てない様にとそろそろと進む彼女の背に愛無は「ゾンビの居た部屋の扉は空いているようだな」と声を掛けた。
「うんうん。お嬢さんは居なさそう。……まあ、お嬢さんとやらを神聖化させてやるつもりもないし祈らないぜ? 私が私である限り」
 秋奈は周辺の捜索を始める。ゾンビの身に着けていたものを見遣るに年代だけは把握できそうだ。
「これは? 石アルか?」
 傾いだお堂の中に祀られていたものをまじまじと見詰めてから蓮華はぱちりと瞬いた。
 欠けた石がお堂の中には鎮座している。仕掛けがあるわけではなさそうだが――どうやら先程『こちらをお出迎え』してくれたゾンビ達はこの洞穴を護る為に存在して居たのだろう。
「引き摺った痕もあるのでアルな。それも、奥の方へ続いて……此の奥は扉しかないでアルよ?」
 蓮華にボディは小さく頷いた。お嬢さんと呼ばれた存在はここには居なかった。お堂の中に存在した『石』は来名戸の神を指しているのだろうか。
(此処で作られるのは来名戸の『滝』で人形の四肢を引きちぎった存在とは別なのかも知れない……)
 ボディは複数の扉を見遣って悩ましげに首を捻る。さて、ここから先に進まねばならない。 
 シルキィはその様子を見詰めていた。誰がどの扉に入ったか。誰が戻ってこなかったかは記憶しておかなければならない。注意して見ていれば、呼び戻すための切欠になる可能性もあるからだ。
 ユゥリアリアは持ち込んだ酒をお供えしておこうと一先ずそう、と置いて見せた。一応はこの場所が墓所であると認識しての行動だ。ユゥリアリアがまじまじとしゃがみ込んで周辺を確認して見遣れば、お堂の中に存在する『来名戸の神』は設置されているだけである事が認識される。
「この石は神聖なる気配もしませんし、厭な予感も何もありませんのね」
 ユゥリアリアにふむ、と首を傾いだ大地。扉の意匠や、置かれている石、堂内の雰囲気を見るに資料として閲覧してきた来名戸神社で用いられるものと同じである。
 ゾンビを斃し、お堂の様子をぐるりと見て回れば来名戸の信仰とこの地に存在する者が同義であることはよくわかる。
「ふむ……阿僧祇霊園が来名戸村の信仰形態に関与していたのは気になる所だね。
 今回は、霊園が意図的に信仰を歪めたという推論に基づいて調査するけれど……土着信仰の正体がこれでは、些か興ざめだけれど」
 ゼフィラの呟きに首を振ったのは大地。どちらかと言えば、来名戸の進行に関与し『歪めた』のではなく、押しとどめたの方が正しいのかもしれない。
「しっかりト神への経緯は払っているように思えルし、来名戸村自体が『再現されていた』……土着信仰そのものも『誰かが持ち込んで混ざり合ったもの』なんダろ?」
「ああ……なら、そうだね。ヒダル神が派遣され、この地に無数の人柱が集められる。
 そも、ヒダル神自体が『山の神』であると考えられるなら、それは来名戸神の眷属であるかもしれない」
 そこまで口にしてからゼフィラははあ、と小さく息を吐いた。黄金の昼下がりの様に、その場の食事を此処でもとれるだろうかと考えるがこの場では事情が違う。食べれば戻れないという事を想定する仲間たちも多く、別物であると認識を強くした方がいいのだろう。
「あの……お堂の中をいくつか見ても地盤とかもあるなあ、と思ったのだけれど。
 『よく見かける何の変哲もない普通の扉』が妙に気になって……可笑しいかしら?」
 アルテミアが指さした扉は何の変哲もない物だった。だが、それに興味を示す者も数人存在している。
「それから、ここに来てから妙に寒いの。けれど、『この御堂の中は違う空気』がしている気がする。
 どうしてかしらね。この中は寒々しい空気とは別に懐かしい香りがする。どうして懐かしいのかは分からないけれど、そうだと認識させて来るから……」
 アルテミアの言う郷愁。それを感じるものは数人いたのだろう。文は「あった物から推察したんだけれど」と顔を出す。
「これって何か分かる?」
「……髪の毛?」
「そう。頭陀袋。遺髪に枕団子、死装束。
 どれも葬式を連想する物ばかりだ。さすが霊園と言うか、気味が悪い。実際に出たには出たけど、ゾンビが出るとの噂もあったし、此処は死者と生活して死体の状態を確認する殯宮の役目を果たしていたのかも。なら扉の向こうは……」
 文の言葉にアルテミアははっとしたように息を飲む。お堂は来名戸の村の者が殯宮として使用していた名残であるかもしれない、と。
 申の日の死者が不吉であるとされ、彼らはそれが『死していない事を願って』一夜を共にしたのかもしれない――
「それなら死の匂いが絡みつくのも確かなのかな……」
「いや、でも……ウン、どうにも嫌な気配があるのは確かだよ」
 斑鳩へとヨタカは頷いた。「聞こえるだろう」と震える声で問いかけて。
「……聞こえる?」
「聞こえる。その声は何処か夢の中で聞いたことのある声に似ている気がする。
 ――嫌だ、いやだ、俺を誘おうとするな。そんな声を俺に掛けないでくれ」
 ポケットの中のお守りを握りしめる。霊魂たちから感じられる混乱が、己にも伝わってくることをヨタカは気づいていた。
「……そうだ、帰るんだ、元の所まで、還らなきゃ。
 ……かえるって、何処に? 家に帰る? 土に還る? 生き返る?
 かえる道はどこだっけ、かえり方はどうするんだっけ」
「大丈夫?」
 問いかけた斑鳩に大地がはっと息を飲む。斑鳩のファミリアーは無音で飛ぶフクロウであるが、先ほど先行した際に薄らと空いた扉の向こうに呑まれるように消えて連絡が途絶えている。
「……戻ろう。僕はただの一般人だ。
 僕は絶望の海なんざ越えちゃ居ないし、カミサマとだって対峙してない。僕は『希望ヶ浜には在り来たりな男』だよ」
 出入り口にサイリウムを設置した。それを辿れば帰れるようにと、ぽきり、ぽきりと音を立てて折り続けてきたのだ。
 定は決めていた。絶対に帰る。これは勇気のある人にも、責任感の強い人にも成せなかった。
 人間は『目の前に調査する箇所が更に存在した場合、背を向ける』かどうかを問われれば、一先ずは進むことを選択する場合が多いからだ。臆病で自己保身であると彼は言うが彼の友人たる猫憑きの娘に言わせれば「当たり前の行動だよ」だ。
「黄泉戦や黄泉醜女の類も危険。けど、僕は……この地下に長く留まる事こそが最も拙いと思うかな。
 だから、此処から戻る人は、戻ってくれ。進む人は共に」
 ロトの言葉に茄子子は「じゃあ会長は帰るね」とけろっとした表情でつげた。ぎょっとした定は頭の中で『何か一つ思い出す』。PINEを通じて行ってきますと行ったときにわざわざ電話まで掛けてくれた友人の一声だ。

 ――いいかい? 定くん。人間で一番馬鹿に出来ないのってね、『この先に行くと死ぬ』って感じる危機感だよ。

 ああ、そうだね。なじみさん。君は――僕のモノマネをして悪戯に笑ってくる君だって、この行動を詰らない。僕はこの先に進むことが『危険だ』と感じだんだ。

「……僕は感じたものをひよのさんの許に持って帰る。帰り道を辿って、外に出れば、此処に訪れた人が、外に出れば――『皆が戻れる可能性』が広がるだろう?」

●扉
「……できるかはさておき、だがな。ああ、らしくはないが、せめて形だけでも先に祈っておこう。
 無事に帰ってこれるように……と。そうしなければ、『思い出す』こともできぬからな」
 ロープを縛り付けたリュグナーは扉の先に向かった際に自身らを結び付ける様にとロープをマルベートへと投げ渡していた。護衛として外で待つ彼女はそれを握り「皆の帰りを待っているよ」と囁く。
 穴の先での戦闘でリュグナーは子供だましの様に出てきたゾンビと相対した。だが、此処よりが本拠だと考えた方がいいだろう。
「さーて、これまでの配信から想像は付いてると思うけどこの先は色々と危ないから覚悟が出来てない視聴者さんは退散した方がいいよー、呪われるかもしれないしね! え、言うのが遅い?」
 からからと微笑んで、配信機材を担いだ紅璃は滲む汗を拭った。流れるコメントをの数は極端に減っている。先程のコメントには「やらせ」などと流れていたがさて...…。
「私だって怖いけど呪われて招かれたんだもん、手段はどうあれ……受けて立つよ! お化けだろうがモンスターだろうが招いたからには、姿を見せてよね!」
 女は度胸、aPhoneを銃のように構えた紅璃は扉を開け放つ。複数の扉の内、先ずは一つ。やけに締め切られたその扉に手を掛ければ――広がっていたのは普通のオフィスだ。
「あれ?」
 調査は危険性が伴うからと全員でまとまって動いていた。紅璃がまずは、と開いた扉の先にはオフィスが広がっており、「あれれ?」と何度も彼女は繰り返した。
 阿僧祇霊園の石神支社のオフィスに普通に繋がっていたのだろうか――だが、視聴者は「次の扉にいけ」と彼女に言い続ける。
「ぼくは此方で調査を」
 静かな声音でそう言った未散が調べるのは葬儀の書類や手配した物の名前や日付だ。申の日に亡くなった者達についても全て残っているだろう。鬼籍へ『呼んだ』者――呼ばずの者、それぞれの名も全て残っている可能性もある。
 村向けのパンフレットや独自のものが手に入らなかったのはどうやら、阿僧祇霊園自体は来名戸の特異的な文化にはそれ程染まっては居ないのだろう。
(まだ、ここは危険ではない、と言うことでしょうね。まあ、そうだ。
 ぼくが帰れなかったら――窓際のサボテンの様な彼の人のお世話をする者が居なくなるなあ。
 嗚呼、其れは一寸、困るな……心配とか、掛けさせてみたいんですけどね)
 小さく笑みを零した未散は小さく息を飲む。人気の無い此の場所は、まだ『うつつ』の世界であるかのようで。
 好奇心で進むけれど、猫のように殺されないようにと静かに、静かに未散はそう念じた。
「あんまり長く居たいところじゃないのは確かだけど、ここはまだましだねぇ……。
 あー、でも、見てよ。今日は私ちゃんたちが来ることが分かってたのかなって感じだよね」
 ほら、と指さした秋奈。開け放った扉の周囲には無数の鍵がついていた。だが、今宵は全ての鍵が開け放たれた状況になって居る。嫌な感じだと秋奈は頬を掻いた。
「あーもう、帰って先輩にお祓いして貰わないと!」

「往くか」
 次に、進もうと言ったのは黄野だ。「うん」と頷いた紅璃の手元でaPhoneの充電が突如として落ちた。
「え、どうして――!?」
「お嬢さんが恥ずかしがっておるのでは?」
 囁いた黄野に紅璃は愕然としたように「そう」と呟く。式神が『先触れ役』として放たれる。
「良いか。大事な事を告げておく。『お嬢さん』のものに手を付けないコト、かのう。
 ヨモツヘグイの例もあるし、オオナムチの生大刀などの話もある。
 ここから証拠を『持ち帰る』ことは厳しいであろな
 なんでそんなこと知っとるのかって? 麒麟にとっちゃ義務教育ゆえ」
 静かに告げた黄野は未だ開かぬ扉を開くが為に一つ、手を掛けた。幾つも存在する扉の奥が何であるかは分からないからだ。
 ゆっくりと戸を開く。伽藍の空洞が広がったその場所にはいくつかの猿を模した像が置かれていた。嫌な気配だ。冷や汗が伝い出す。寒いわけではない、否、寧ろ此の洞は寒暖など気にせず程度には一定の生温い空気が流れて居たではないか。だと、言うのに、寒い。
 ぞう、と背を伝ったその気配を拭うように『何も見ては居ない』と言うように黄野はそろそろと後退する。
「いんのこ、いんのこ」
 黄野の代わりに部屋へと先行した式神がキャイと叫び声を発して掻き消える。ずる、と猿の腕が見えた気がするが――さて。
(……ここが根の国……異界ならば、『来た道を通らねば帰れない』やもしれんな……)
 墓守として踏み込まねばならないと扉の先へと脚を向けたグリムは黄野とは別の扉へと向かった。霊魂がざわめく死の気配が濃い扉は先程ゾンビがその姿を現したところだ。
「なあ、聞こえているか?」
 独り言かもしれない――何かが聴いているのもしれない。応えはない。
「貴方は何者だ」
 錯覚かもしれない――でも死の匂いを感じる。応えはない。
「どうしてここにいた。ここで何をしているんだ。……貴方の名を教えてもらっても?」
 応えはない。だが、死霊達が蠢く気配を感じている。神は神聖であり、死と最も近く、最も遠い不浄。故に、其れ等から懸け離れた『死骸』だらけの部屋にグリムは誘われたのだろう。
 スカルも同じようにその扉の中を調査した。阿僧祇霊園は何らかの理由で死者達を『供物』としていたのだろう。苦しみ藻掻いた痕が残っている。その理由は――お嬢さんであろうか。
 情報を得て破壊しようとしたスカルに「やめましょう」とボディは首を振る。余り、此方の痕跡を残しては、後々に恐ろしい事が起る可能性があるからだ。
 蠢く死者達の気配は皆、この場を好んでいるかのようだ。まるで、何かを愛するかのように。
「この方法で済めば、問題ないのですがー……さてさて」
 ファミリアーを扉の一つに先行させたノワールは不可思議な者を見たというように眉を潜めた。先程ゾンビが出てきた扉の奥は伽藍堂だ。しかし、生物が存在したように土が窪んだ場所もいくらか存在して居る。先程まで此の場所にゾンビが詰め込まれていたという事だろうか。
 ノワールは生きて戻ることを考えていた。混沌には知らぬ事も山ほど多い。扉の先に赴けば戻れぬ可能性もあるが――さて、と最奥まで辿り着いたファミリアーが得れた情報は此の場所がゾンビの待機場所出会ったと言うだけだ。

 アルテミアはどうしても気になる、と扉を指さす。文は「そうだね、あの扉だ」と半ば確信めいたものを感じていた。
 次の扉、と手を掛けたのは傭介。スカルは危険であろうかと息を飲む。
 未散は歯がかた、と音を立てたのを感じた。恐怖心にも似たそれが正気の自分に訴えかける。「ここはいけない」と言うように。
 ゆっくりと光られた扉の向こうには無数の札が貼られた洞が一つ存在して居た。もう一つ、先程のフロアにも酷似したお堂が存在し、何かが中央に鎮座しているが、それ以外は何か書き殴られた文字が存在するだけだ。
「これは……お堂か……? さっきのフロアにあった物と酷似しているがー」
 リュグナーが周囲を見回す。周囲に散らばった手紙には書き殴られた文字が躍る。

 ――お嬢さん、お嬢さん、お嬢さん。
 ――人柱を用意しました、お嬢さん。どうか、連れて行って遣って下さい。
 ――もう、誰でもいいんでしょう?

 その文字を見詰めてから未散は「う」と小さく呻いた。気分が悪くなる。その場を見てしまったことが強烈な悪寒のように体を駆け巡って全身に伝えているのだ。「帰れ」と。
 動画を取り続けていた紅璃は奇妙な感覚が付いて来ている事に気付く。嗚呼、どうした事だろうか。電源は切れているのに、aPhoneを構えるのを止められずにいる。体が、何かに雁字搦めにされている――『何かを映した』のだろうか?
「……貴女が『お嬢さん』かな?」
 バスティスが声を掛けたのは日本人形であった。艶やかであったであろう鴉の濡れ羽の黒髪は埃被り長い湿気で傷んで見える。
 向き合ったバスティスは――『死者の国』から遣ってきた神様は目の前のお嬢さんの『におい』を感じ取る。鼻についたその匂いは来名戸でも感じたモノだ。
 あの日、村の中で覗き込んでしまったモノに『笑いかけられた』時と同じ匂い。
「お前が俺を呼んだのか?」
 人形はその硝子玉の様な瞳をニコラスに向けるだけだ。話さないか。だが、それがお嬢さんであるという事は彼女が答えなくても何となく理解できていた。
「貴女は何になりたいモノは何?
 故意に作られた貴女の空っぽに、祈りという淀みを詰め込んで……変わりゆく事を喜び囃し立てるヒトの為にソレになろうと考えたの?」
 バスティスの言葉を繋ぐように傭介は静かな声音で言った。
「ヒダル、悪霊の神の名。クナド村、クナドは悪霊を払う折れ木の神の名……二つの神は道に共通する。
 坂道は黄泉路を表し、黄泉平坂を意味することもある。櫛を持つ女性の神、クナド神に由来する神、黄泉路に由来する神。
 ――お嬢さん、あなたは誘う神。あなたの名は、イザナミの神」
 返事はない。だが、鎮座した美しき日本人形はその言葉を聞き続けるだけだ。左端を歩いて来た傭介も奇妙な匂いを感じ始める。すん、と鼻を鳴らした彼は名を呼べば縁が自身を導いてくれることを知っていた。分かりやすい帰路として音呂木・ひよのという巫女が待っている。彼女が石神駅というスポットに待っているのはこの為だ。
「貴女は認められるためにソレになるしかないと思ってしまったのかな?
 貴女がソレを選んだと思っているのかな? ソレを信じる誰かにそう思い込まされたんじゃないかな? ……そうありたいと貴女は思ってしまったのかな?」
 ロトははっとしたように顔を上げた。鬼だ。それは黄泉軍と名の付く物ではなかろうか。この『黄泉』に現われたそれはお嬢さんの傍に立っている。
(『お嬢さん』とは――この場所とは――一連の事を手引きしている人物は誰か。
 ……私の推察通りなら此処は尋常でない。ああ、こんな推察が『当たって欲しくは無かった』)
 ボディは千切れたロープに頭を抱えた。外へ出る仲間達に引き戻して欲しいと願ったが其れさえ断たれているというのか。
 さて、ボディの推察とは現人神を作る方法だ。この洞の形状はある物をもしている。それは女性の身体である。故に、『外界』よりお嬢さんと呼ばれた存在の許へと何かを運んできている此の状況が新たな何かを作り出しているのでは無いか――と。そして、それに携わってきたのが阿僧祇霊園であるならば。ニコラスも同じ論を持っていた。故に、お嬢さんの許に辿り着いた自身らが『神様を作り出す可能性』を危惧していたのだ。確証がない、確証がないが――何かに呼ばれていた気配がふ、と消えた事に気付く。
 ふと、ニコラスは気づく。傍らに立っていた未散の表情が強張っていることを。呆然とした様子で立っている幾人かを。
 アルテミアは問う。「聞こえている?」と。ニコラスは何の話だと言うようにアルテミアを見遣った。彼女がぎゅう、と握りしめたネックレスが熱を帯びて危険を知らしめているかのように光る。
「……聞こえて居ないの?」
「だから、何が――」
「その子、」
 アルテミアが指す先にはお嬢さん。無表情の日本人形が、そこには居る筈だ。

「やぁっと来てくだすったのね」

 笑っていた。お嬢さんが口を開いて、笑っていた。
「――ずっと、笑っていたのに……」
 アルテミアの言葉にニコラスはひゅ、と息を飲む。皆、お嬢さんの笑顔に気付いてその様な表情をしていたのか。
「お前は……神になったつもりか? お前は人だ。
 神としてのお前ではなく人としてのお前と話がしたい」
 ニコラスの言葉に、お嬢さんは答えやしない。お嬢さんと向かい合ったままのバスティスがロトはどうにも気になって仕方がなかった。
「美しい着物なら見ましたよ。あれは目眩がするほど美しい黒い着物でした
 貴女のお気に召すかは分かりませんがね。逢坂地区にあった、朱殷の衣は、綺麗でした」
 文の言葉にぞろり、と何かが動いた気配がする。逢坂の神を刺激した来名戸の神様。険悪な関係か――それとも『そもそものつながりがある』のかは定かではない。
 文は危険を感じ、そろ、そろ、と一歩後退する。やけに耳にこびりつくのだ、その笑い声が。
「バスティ――」
 名を呼び掛けてロトはその言葉を噤んだ。こんな場所で名を呼ぶのは危険そのものだ。
(どの逸話も共通して長く留まればその異界の住人となるからね……さて、嫌な予感が前以上にするから……帰らなくちゃ。嗚呼、本当、呼ばれているのに帰るなんて……ダメ、なんだけどね)
 ボディとロトがそろそろと後退する。aPhoneの画面を見ずに写真を撮ろうと構えた途端にボディのaPhoneは不自然に電源が消え、此の場で使用できなくなる。
「辞めときなさい『お嬢さん』、『神様』になんて成るモノじゃないよ」
 バスティスの手を握ったロトが「お嬢さんが、」と唇を震わせた。
 先程まで大人しく座っていた日本人形が首を傾いで何かを指さしている。
「……お嬢さん――貴女は」
 バスティスがその言葉を口にしようとしたとき、彼女の許に何かが迫る。
「こっちへ」とロトが呼び、その手を握った刹那、彼の『掌を握り返したのは』バスティスではなかった。

「――貴女は、神様に嫁いだんだね」

●石神駅
「ひよのさん」
「ひよのくん!」
 定と茄子子を見て、ほっとしたようにひよのは胸を撫で下ろす。「お二人とも……」と緊張を滲ませた巫女は手にした神具を未だ離せぬままでいる。
 一定距離に近づくまで、幾ら呼んでも彼女は応えを返すことはなかった。足下を見遣れば定と茄子子が踏み越えた『水で引かれた線』が存在して居る。
「ねえ、ひよのくん。これって清水か何かで撒いたってことかな?
 ひよのくんが作ってくれた安全地帯って認識しても良い?」
「ええ。逆に言えば『ここまで来て私を認識できている』なら帰ってきた、と云う事です。
 言いづらいのですが、茄子子さん……『背中に何か憑いていますよ』」
「え!? やだやだ、なに!?」
 慌てる茄子子の背を見る定は分からないという風に首を振った。ひよのは言う、彼女は石神地区の最初の探索で『見てはいけないものを見ている』――ひょっとすればその影響であるかも知れない、と。
「……けど、帰ってこれたよ」
「ええ。『帰ってこれた』事が今回の救いです。茄子子さんにとっては――」
 誰がどの扉に入ったのかは憶えているとシルキィは言った。メモを取っておいたからこそ、『誰がいないのか』がはっきり分かるのだと続々と帰ってくる仲間達の様子を見ながら唇を噛み締める。

「――と言うものを、見てきました」
「アルテミアさん、顔色が」
 暗い表情のアルテミアにひよのは気遣うが彼女は首を振る。扉の向こうに進んだ者達が見たのは日本人形であった。
 鎮座した小さな彼女が『呼べずの者』達の代わりに、埋葬された遺体を神の許に運んでいたのだろう。此の洞は土葬されてきた来名戸の者達の為に存在して居たのだろう。
 いつの日にか、阿僧祇霊園の中でも石神に長く居た『社員』は来名戸の信仰に飲まれてしまっていた。
 神に願うように、『お嬢さん』を人であるように扱った。
 様々な神が混ざり合った信仰のかたち。それが歪に生み出した神様。
 ヒトガタは神の依り代だった。常に、神の依り代を己の身に着けたイレギュラーズ達が妻君の所に向かうまで、彼女は永遠に『神の為の遣い』を作り続けていたのだろう。
 ゾンビに付着していた髪はお嬢さんのものだった。さて、それがどうした原理なのかはひよの達の出番であろう。出て来る答えは屹度単純明快だ。それらが『手出しも出来ぬ怪異』の作り出した『悪性怪異』の一種であるという結論だ。

 来名戸村では未婚の儘で亡くなった者が連れて行かれぬ様に、棺へと花嫁人形を収める俗習がある。それは、神域で行われる土葬の儀式と同じく夫婦の契りもなく逝った者は神の許へと導かれ、全てが呼べずの者となるからだと言われている。その為に、死者儀礼の一環として続いているらしい。

 ――『来名戸村の儀式』65ページ
 
 今までその風習が残っていた理由は妻たるお嬢さんがこの洞の中に閉じ込められていたからだろうか。寧ろ、彼女が神の元へ帰れば来名戸の神が『どうなっていたか』は分からない。
「……阿僧祇霊園は変質しちまった『お嬢さん』を封じて、来名戸村自体をダムの底に沈めて無かった事にしたって訳か……」
 ニコラスの言葉にボディは頷いた。そうやって、全てを無かった事にしようとしたとて残穢全てを拭えるわけもない。愛無は「仏具や神具はひよの君に確認して貰っても?」と自身が覚えている限りを伝えた愛無にひよのは考え込んだ。
「神仏の混同がありますね。ですが……適切な供養がされているわけではないのでしょう。
 オフィスと隔たれたその洞はどうやら、『お嬢さん』の為の供物たる人柱と死骸の集められる場所。それを作用も分からぬ儘に封じ込めたというのが分かりやすいでしょうね」
「成程。ならば、お嬢さんを此処に閉じ込めたのは阿僧祇霊園である事は明白。
 では、逆に――『来名戸神』の元に『お嬢さんが辿り着いていた』とすれば?」
 愛無の問いかけにニコラスとボディも気になると言うように視線を送る。
 ひよのは少し考え込んだように、一つ、返した。
「……ええ、屹度、信仰はより強化になり『取り返しのつかない事に』なったでしょうね。
 ですが、オフィスで確認された資料を見ればその、お嬢さんの力を悪用しているのも確か。ああやって悪性怪異:夜妖<ヨル>として大量のゾンビを生み出して、いたずらに世を混乱させようとしているのでしょうね。
 それが何故であるかは……それは、『お嬢さん』と『来名戸』の神の影響を受けた石神地区の者達が人身御供を探しているから、であると推測はされますが――……」
 言霊が力になる。ひよのは唇を噤む。さて、帰りましょうと周囲を見回したひよのへとシルキィは「人数が足りない」とそう言った。
「一緒に帰ってきたはずだった」とスカルは言う。あの扉の向こう、お嬢さんの前から『逃げ出す』ように皆、背を向けて走る事となった。ロトがそうする様に言ったからだ。
 ふと、秋奈は首を傾ぐ。かみさまから逃れられたと感じるのに、どうにも体が重たくて苦しさを感じている。
「最後に声を聞いた気がする」

「なんて?」

 ――みぃつけた。

「……これを言うのは、二度目になりますね。
 いいですか。報告書をまとめた後、それはすぐに無かった事にしましょう。
 皆さんの報告を聞いただけでも私は……音呂木は直ぐにその穢れを祓わねばならない。帰って来てない皆さんはあとで迎えに行きますから」

●『神に至る』 200ページ(著:葛籠 神璽)
 木偶という少女と出会った話を、私はこの書を著する際に最初に書いたことを善く善く憶えている。
 その後、来名戸へ訪れて彼女について問い掛ければ何も知ることは出来なかった。ただ、その名を忘れてしまいなさいと言われただけである。彼女の住まっていた神社には同じ年頃の娘など存在せず、代わりに日本人形が置いてあった。
「これは可愛らしい人形ですね」と私は何気なく神主に声を掛けた。神主は蒼白い貌を更に蒼くして「ええ、はあ、まあ」とだけ応えたのだ。
 此れは可笑しいと、私は思った。どうにも歯切れの悪い神主は案内を乞うた時のはきはきとした様子と違っている。
 まるで、幼い子供のような、何ともとりとめの無い言葉遣いで「まあ、その人形様は、大事な物でして」と繰り返すのだ。
「どのように大事なのですか?」
「へえ、その人形様は神様のお嫁様です。名前などは無いんですがね、へへ、まあ……今は此方で管理させて頂いてますが、近々、お堂へ移る予定です」
「お堂とは?」
「神域にあるんですよ、ええ。まあ。……葛籠さん」――神主には私の名を葛籠であると名乗ってある――「葛籠さん、忘れて下さいね。全部、全部ですよ。だぁれにも言ってはいけません」
「はあ」
「お嬢さんはまだ現世に執着があらすって。神は大層お困りなんですよ……。葛籠さんが覚えて帰っちゃぁ、お嬢さんがまだまだ現世に囚われしまう……」
「はあ……」
 神主は失礼しますと足早に去っていた。その日からだ。私は夢に見るようになった。

 木偶が立っている。
 白い着物を着て、見た事も無いような笑顔を浮かべた木偶が。

「やぁっと来てくだすったのね」

●音声データ ■■■■/09/30
「そういえば、最近眠れなくなりまして……祭りに参加してからなんですけどね」
「どうかなさいましたか?」
「どうにも、同じ夢を見るんですよ。それで……まあ、なんていうか。いつもいつも、失敗してしまうんですね」
「何をですか?」
「……こう、帰るのを、と言えばいいんでしょうか」
「ああ、そりゃあ、そうでしょうねえ。
 前に言ったかと思うんですが来名戸村の……来名戸の風習は本来は伝えてはいけないんですよ。神様はね、知った方の所に行きますから。
 あなたは祭りにも参加していましたし……神様もよぉくご存じなのですよ」
「はあ……」
「つまりね、これは聞いてはいけない類の、そう、そういう類のお話なんですからね」
「どうすれば、いいんですかね……」
「さあ、どうでしょうねえ……」

 ――この先のデータは途切れている。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

古木・文(p3p001262) [不明]
想心インク
散々・未散(p3p008200) [不明]
L'Oiseau bleu
天雷 紅璃(p3p008467) [不明]
新米P-Tuber
ロト(p3p008480) [不明]
精霊教師
バスティス・ナイア(p3p008666) [不明]
猫神様の気まぐれ

あとがき

『石神地区』長編にお付き合い頂き誠に有難う御座いました。

……神様はどうなったって?
知っていますか。神様って、人の手が届かない物なんですよ。
それでは、おやすみなさい。皆様、良い夜を。






よかったね。
もう少しで起きれるね、お嬢さん。
待っててね。

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