シナリオ詳細
<Raven Battlecry>ふかふかのベッドはもうないけれど
オープニング
●そして、青い小鳥を見つけた女の子は、ずっと幸せに暮らしました
それは、まだ日々が幸せに満ちていた頃のこと――。
あどけないアンナ・シャルロット・ミルフィール(p3p001701)はそのころまだ少女だった。アンナが姉のように慕うアメリアと一緒に、木陰で絵本の朗読を聞いていた。
世話係のメイドが本を朗読し終えて、ぱたんと絵本を閉じる。
「これで、おしまいです。お気に召しましたか?」
「はい。とても面白かったです」
「ふふ、このご本は、お嬢様がお選びになったのですよ」
「アメリア姉様が?」
「アンナ様とお会いできるのをとても楽しみにしていらっしゃって」
「……も、もう、そのことはいいじゃないですか」
「私もずっと楽しみでした。……あの、アメリア姉様は、青い小鳥さんがいたら、どんなお願い事をしますか?」
「私のお願い事は……こんなふうに神様の意思が、みんなのところに、ずっと行き届いていて、誰もがご飯を食べられて。魔物におびえずに眠ることが出来て……。
ふふ、こんな日々がずっと続きますように、ということですね」
アメリアの答えに、アンナは神妙に頷いた。
「アメリア姉様は、みんなのことを考えているんですね。……私も一緒にお願いします」
それはまだ、きっと。天義の正義を信じていたときのころ……。
アメリアもまた、きっと――。
●今だって
長い時が過ぎた。
親が勝手に決めた婚約は、アメリアの望むものではなく。
鳥かごから飛び出したアメリア=シュトラレーゼはその名を捨てた。
今は、そう。ただ、「ソフィア」とだけ名乗る傭兵だった。
奪え、奪え、奪い尽くせ――。
大鴉盗賊団は、コルボの号令に沸いていた。
首都ネフェルストに向かって、大勢の盗賊が押し寄せているのが分かる。点々と連なる黒い点は、鴉の訪れを告げている。
「ソフィアっ!」
「娘さんを連れて、二階に隠れてて! 私は大丈夫!」
術式を唱え、宿の窓ひらりと舞い降りた。敵は3人。幸いなことに近接型の剣士。杖が焦点を結んで雷を落とす。2人目。そして3人目。
「逃げて、ここは私が引き受ける!」
天義を飛び出してなお、ソフィアは……あるべき正義を信じていた。仕事は筋が通っていないとみればどんなに報酬が良くても断ったし、人助けならば多少割に合わずとも引き受けた。
そんなソフィアを、ラサの人たちは慕っている。ソフィアもまたこの場所が好きだ……。
なんとか3人を倒し、夫婦と幼い子供を逃がした。
けれども敵の数は依然として多い。
「ヒハハハハ! こーんなところにあったとはな!」
表通り、盗賊の集団が、女性の髪を掴んで引きずり倒していた。
「やめて、やめてください……!」
「ああ、聞こえねぇなあ? 俺たちから<色宝>を奪っといて、その態度はなんだあ?」
ひときわに大柄な盗賊がゲハゲハと下品な笑い声を響かせている。
「こ、これは、飲み代に置いていったものです! とってません」
「あーあ、そうだったな。価値の分からねぇ馬鹿な部下が売り払ったんだよ、その<色宝>をな! そいつなら、流砂に飲み込まれてやったがなあ」
「ひい」
「頭、こいつ、いい女ですぜ。ついでに手土産にしちまいましょうや!」
「やめて、触らないで!」
「……」
ソフィアは唇を噛みしめた。
皆幸せにご飯を食べて、魔物におびえずに眠ることができて……。
深呼吸して、杖を握る。
……しかし、敵の数は多い。それに先ほどの雑魚よりは強そうだ。しかし……。
「ちっ、そのピアス、耳ごとぶっ飛ばしちまうかねぇ?」
「その人から手を離してもらいましょうか」
「ああ? てめぇ……女、ふうん、上玉だな。何ならおまえが代わりになるか?」
神に祈る心はまだあったけれど、行動しなければ変わらないことも知っている。
(誰か……こんなときに援軍が来てくれたら!)
祈る代わりに武器を握った。
- <Raven Battlecry>ふかふかのベッドはもうないけれど完了
- GM名布川
- 種別通常
- 難易度NORMAL
- 冒険終了日時2020年12月21日 22時10分
- 参加人数8/8人
- 相談6日
- 参加費100RC
参加者 : 8 人
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参加者一覧(8人)
リプレイ
●「再会」
「人質……いかにも賊が使いそうな手ね。女性一人に卑劣な男達だこと」
(声を聞いた瞬間)
(姿を見たとき)
――”まさかと思った”。
『舞蝶刃』アンナ・シャルロット・ミルフィール(p3p001701)にソフィアは息を飲む。
(髪も格好も背丈も、記憶にあるあの頃とは違うけれど、その眼差しは少しも変わっていない)
僅かに微笑んだように見えたけれど、横に立つアンナは、立ち向かうためにすぐに背を向けてしまう。
(……私情は後回し。まずは、やるべき事を)
「おっと、手を出してもらっちゃ困るぜ、人質が見えるならな!」
「ぎゃはは、お嬢ちゃんも高く売れそうだな」
「……」
悔しそうにしながら、剣は抜かない。人質がいるから……ではない。
これは時間稼ぎだった。
「俺は育ちの良いやつらが大っ嫌いだ! そう言うやつらから奪ってやるときほど気持ちの良い瞬間はねぇのさ!」
ねじ曲がった根性だ。
『雨夜の映し身』カイト(p3p007128)は皮肉気に笑う。
(別にベッドの柔らかさがそいつの『都』を決めるわけじゃねぇさ。どれだけ枕が硬かろうと、望めばそこは『都』なのさ。
けど、他人の『都』をぶっ壊して良いのはそいつが『悪』だった場合に限んのさ)
でも、まあ。アンタらには、そんな覚悟はないだろう?
幸いにも、ロケーションは十分。
(アンナ……っ!)
『特異運命座標』ヴェルグリーズ(p3p008566)はそっと肩を叩く。不安を断ち切る様に、前に出た。
「ふむ、なるほど。ごろつきが何人かに女性がお二人、経緯は知らないけれど穏やかではないね」
「ああ? テメェ、なんだよ」
「まずそちらの女性は離してはどうかな。あまりにもひどい状況だし、言い訳するならいまのうちだよ?」
ソフィアの前に、ひらりと、桃の花びらが舞い込む。
「……!」
それは、『散らぬ桃花』節樹 トウカ(p3p008730)のメッセージ。
【イレギュラーズが何人か、人質救出の為に潜んでいる】
頼りにしている、と告げている。
●潜む者たち
「――!」
(ふむ)
賊たちは、何やらわめいているようだ。ヴェルグリーズにとって、それは意味のない言葉に過ぎない。
(我慢我慢)
感情もひとたび凍てつかせてしまえば、なんともない。
こうしている間にも仲間たちが奇襲の準備を整えていてくれる。
注目も引ければ結構なことだ。賊たちは武器を掲げてすごむ。切れ味の悪そうな武器だと思った。
ソフィアは冷静になれたようだ。出方をうかがっている。
逃げ出す一般人。その中に『豪華客船の警備隊』バルガル・ミフィスト(p3p007978)がいたのを……盗賊たちは気に留めることはできなかった。
(やれやれ)
アノニマス。誰とも認識されぬ間に。バルガルはこの難を逃れていた。奇襲のしやすい場所に位置取り、店の一角で気配を完璧に消す。
(さて人質が居る以上気を付けねば、ですね。
とはいえ、あの手合いは気持ちよく殴れるが助かりますがね)
面倒なことになったと思いながらも、手加減する必要がなさそうなのは幸いだ。
呼吸は最低限。ゆっくりと身を乗り出し、反撃のチャンスをうかがう。
ひらり、死角を縫うように接近する”華”の姿があった。
(こういう開けた場所で人質を取るのは悪手ぞ。足を止めれば四方八方から援軍が追い付く故な)
可憐にして清楚。
『白百合清楚殺戮拳』咲花・百合子(p3p001385)は、女性の悲鳴を聞き逃すことはない。完璧な百合歩きは、楚々として常人の何倍もの速さでの移動を可能にする。
訓練された美少女が物音など立てようか。物陰に小さく咲く花のように、今はただ好機を待って潜むのみ。
トウカが、忍び足で後ろから回り込んでいる。ダンボールはその身を上手く隠してくれる。
(うむ、今だ)
(百合子君……!)
『希望の蒼穹』アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)が彼らに続く。エネミーサーチで、敵を探りながら視界を避け、少しでも、庇うべき人たちの近くへと。
(誰かを傷つけて奪い取って……そんなこと、黙ってみていられるもんか!
ソフィアさんも人質の人も、絶対に助けてみせるよ!)
「おい、そこの!」
『魔剣鍛冶師』天目 錬(p3p008364)は両手をあげる。
必要ない。”既に、仕掛けた後”だ。
(……盗人猛々しいとはまさにこの事だな)
「一体何をたくらんでやがる!」
「別に」
両手をあげる。
手早く描いた術式は既に手を離れ、仕掛けられている。
●人質救出作戦
強い風が吹いた。
ガシャンと、屋台に置いてあった調理器具が倒れた。
物音に、盗賊たちが振り返る。
(まったく、ここは『悪戯』には事欠かねぇな)
霊魂たちに、カイトが頼んだことだ。
「! てめぇ!」
空の樽が飛んでくる。激昂した賊がサーベルを突きつけた。樽がべきりと音を立てて割れた。
だが、手ごたえはない。
練達上位式によって編み上げられた、錬の式神。
そう、一瞬でも気を引ければ十分だ。
(最近話題の大鴉盗賊団と言っても人質を取らねばまともにやりあえないような連中だ、統制が取れているとは言い難い)
読みの通り。一瞬気をそらせば。
可憐なる百合子の細い腕が、女性をふわりと抱き上げていた。
花弁と共にトウカが空から舞い降りてきた。
豪気な角。唸る声。
だがしかし、その花弁は、安心させるように伝えるのだ。
助けに来た、と。
「こいつ、人質ごと……っ! やる気か!?」
不知火を抜いた。
飛び降りた勢いそのままに、赤酸漿が振るわれる。
力任せの乱撃に思える。だがそれは、敵だけを的確に斬りつける技だった。
「うむ、任せろ!」
百合子は僅かに会釈をし、そして、脱兎の如くに走り去る。
「……! 人質が! 追え! なんとしてでも!」
「その構え、阻むに足りず、だ」
豪鬼喝。
美少女の一喝が、敵を弾き飛ばす。
白百合清楚殺戮拳・鉄法。その心得さえあれば、全力で移動しながら庇うことも可能だ。
二度、三度。時間を圧縮したかのような動きは留まることを知らない。もしも望むのであればそのままアフタヌーンティーをたしなむことすら、音速を超えた百合子には可能であっただろう。
「くそがっ!」
「ソフィア姉様!」
アンナは咄嗟にソフィアを庇った。
(……! アンナ……! やっぱり、アンナなんだね……)
向き直ったアンナは、夢煌の水晶剣を構えている。決して折れることのない細身の剣。
「追えやあ!」
貫く衝撃の青。
「天下の往来でチンピラ活動とは頭の格が知れるからオススメしないぞ?」
そこには、五行結界符を構えた錬がいた。
「あの式神、てめぇか……っ!」
そしてまた、追いかける盗賊は予告なしに吹き飛ばされる。
カイトのショウ・ザ・インパクトだった。
「ぐああ!」
「……この『誰か』の恨み、骨髄まで刻んで貰うぜ?」
「お、俺たちだってあんなやつらにやられてばっかりじゃない!」
一般市民が、香辛料を投げつける。
通常であれば届かないようなへっぴり腰の投擲。
……見えない何かが味方したのを、カイトは気が付いていただろう。
「ふ、心遣い、受け取った」
百合子は受け取ったスパイスをキャッチし、しおらしくうつむき、追いかける盗賊に投げつける。
「ありがとうな!
一応言っておくが、人質二人目にならないよう気を付けて避難してくれ。もしも捕まりそうなら」
トウカは力強く告げる。
「大声をあげてくれればどうにかして駆けつけるからな」
助けられないかも知れない、そんな言葉を予測していた市民たちは少し驚いたように目を見開き、戦場に立ち続けるトウカの背を見送った。
「それ以上はやらせない! ここからは私が相手になるよ!」
ひらり、舞い落ちるのはアレクシアの赤い花。
誘争の赤花。
うなりをあげる盗賊たちは、一斉に武器をアレクシアに向ける。
その時だった。
残影百手が、死角外から襲い掛かる。一撃目で動きは封じられ、重心を崩される。そして何か言う間もなく2撃目が思い切り直撃する。
「おやおや、これくらいも対処できないとは三下からやり直した方が良いのでは?」
バルガルはこともなげに言った。
「テメェ、ナニモンだ!?」
「しいて言えば、商人、ですかね」
ヴェルグリーズは不意に何かを斬った。吸い寄せられるように、盗賊の身体がそこに在る。
「なんっ……!?」
運命剪定。美しい一太刀。
攻撃はかわそうとすれば動けず、盗賊たちの運命は閉ざされていく。荒波を涼しい顔で乗りこなし、結果を決定的なものとするバルガルとは対照的に。
アリ地獄のように、呑み込まれていく。
●反撃の狼煙
「私達、特異運命座標に下っ端が何人いても一緒よ。早く降伏したらいかがかしら」
アーリーデイズ。
アンナの姿はあの日のまま。名乗りを上げるその勇ましさは、ソフィアの知らないもの。
これほど強くなるまでに、どれほどのことがあったのだろう。
ソフィアの胸は痛む。けれども、そのような彼女を誇らしいと思っていた。
アンナは、夢煌の水晶剣を引き抜く。細い刀身はこの激しい戦いの最中にあっても、決して折れることはない。
煌めいた。
天に掲げれば、黒い雷が落ち、力を与える。
(私も、強くなった……なったんだよ! アンナ!)
華麗に弧を描くアンナの剣筋に、雷を乗せる。
……アンナだけに任せてはおけない。
(独りじゃない)
今は、頼りになる仲間がいる。
アレクシアの防御魔装【五分】が光り輝いた。
「小癪な……」
「力のない人をイジメることしかできないわけ? そんなんじゃあ、私たちを倒すことなんて絶対にできないね!」
「こんの、小娘が!」
挑発。
振り下ろされる武器。こちらを向くなら、それでいい。
(私はいくら傷を負ったって平気だけれど、普通の人はそうじゃない。
人質の人も、他の人も、これ以上誰も傷つけさせやしないんだから)
アレクシアはその場に立ち続ける。
(絶対に護ってみせるんだ!)
木刀は、ただ人を守るためにあった。
眠りから目覚めた時、トウカとともにあった桜の木刀は……なぜだか、他者の血で汚すのは気が引けた。けれども、戦場にあることを厭うわけではない。
守るためならば、手にして良い気がした。
そのために、二刀。トウカは操る。不知火が揺れた。血痕がぼたりと滴った。トウカは常に相手を見ている。
手加減するべきか。敵であるか。
その目で、一刀で。見極めようとしている。
(もし、事情があるのなら……。否)
相手にわずかにでも躊躇いがあったならば。良心があったのであれば。トウカは手加減しただろう。だが、武器のない民衆に容赦なく武器を向けるならば。ましてや、人質をとろうとする賊などには。
「はっ」
斬神空波が放たれ、盗賊を吹き飛ばして転ばせた。
錬は、術式に頼ることにした。
「ひいっ!」
式符・陽鏡が鏡を顕現させる。
ラサの太陽を反射し、集め、邪悪を照らす光線が、一息に盗賊たちを撃ち抜いた。
目のくらむ盗賊たちには、大きな隙が生まれる。
「なるべくなら手間をかけたくないものですがね」
ゲイボルグ・レプリカを振るっていたバルガルの構えが、変わる。
今までの攻撃は足止めを目的としたもの。いや、注意をひければそれでよかった。
だが、これからの攻撃は、相手を制圧するための苛烈なものだ。
ヘヴン・セブンスレイ。天国への七光。
「少々おっくうですが、ご案内いたしましょうか」
眼鏡の下には、貼り付けたような笑顔を浮かべていた。
ここなれば安全か。百合子が人質の女性を地面におろすと、女性は思わず袖を掴む。だが、すぐに離した。
「あの……ありがとうございました……」
「……」
踵を返し、戦場へと戻ろうとしていた百合子は立ち止まる。
(否、それでは少し寂しいか)
「ご無事であるか? 貴女が無事でよかった」
バックに花を散らし、淑女たる態度で。
(こうか? うむ、人を思いやる真似をしてみたいと思ったが難しいな……)
この態度が合っているかどうか、わからない。
頬を赤らめる女性。
女性が安全な位置に逃れたのを見て取ったヴェルグリーズは、ふと微笑んだ。”どう”と形容することは難しいが……剣の、何かが変わった。
別れを。
「え?」
「……は?」
絶対分割。
すっぱりと斬れる、金属の盾。驚愕に目を見開く賊。
その存在は剣、それ自体。
その銘は、ヴェルグリーズ(別れるもの)という。
(ケーキからご縁まで。なんてね、平和なときは、奥様方に大人気なんだけどね?)
こういう用途もあるということだ。
「ぐっ……くそっ!」
姿勢が崩れている。今なら、存分に発揮できるだろう。
カイトは葬凶符『凍えた破軍』を構えた。
スケフィントンの娘が賊を包み込んだ。
毒が、そしてその数だけ。身をもって受けた呪いの数だけ、男を苦しめる。
「苦しんでもらおうか」
「あ、ガ、畜生!」
●舞おう
(姉様)
アンナは舞った。その手に、細剣を携えて。
その動きは、まるで一曲のダンスのよう。
舞踏会のレッスン。社交のための曲。あの日々は遠いけれど……こうして、どこかに流れている。
……柄にもなく張り切っている自覚はある。
守りたかった。そして、ちょっぴり背伸びをして良いところを見せようと思うのも、きっと。ダンスの手を取る様に、ソフィアの雷撃が舞った。奏でるリズムに乗って、ぐるりと。そのままに。
そのリズムに乗っているのは、イレギュラーズたちだけ。
(そうだね、断ち切ろう)
ヴェルグリーズは緩やかに身をひるがえすと、ディスピリオドを放った。
「俺は、まだ……まだやれるっ!」
その好機すら与えられずに、盗賊は沈む。一人、また一人と、この舞台から姿を消していく。
ヘヴン・セブンスレイ。
バルガルは槍を囮に使った。空中にこれ見よがしに放った攻撃、それを受け止めようと身を固くした賊の足を、思い切り引っかけた。
無駄な消耗はしたくはない。
最小限の動き。それで十分だった。腕をひねり上げ、いとも容易く地面に転がす。
クロランサスが輝き、慈愛の豊花が咲き誇る。
綺麗な花だ、とトウカは思った。
アレクシアは気丈にも立ってみせる。
待っているのだ。仲間たちが勝つと信じて。誰も失わないという思いで。
ならば、それに応えなくてはならぬ。
桃果の名に懸けて……。
あの時もそうだった。誰かが待ってくれていた。
トウカは、構える。
赤酸漿が、敵を斬り伏せていた。
「くそっ、どうなってやが」
「待たせたな」
あまりに、速い。
彗星のごとく。戦場に再び乱入した百合子は、その勢いのままH・ブランディッシュで辺りを薙ぎ払った。
どう声をかけるのが適切であったのか、答えはわからない。もっと気の利いたことの一つも言えれば良かったかもしれない。
などと。
(盗賊は殴れば死ぬ!
なんと簡単であろうか、励ます方がよっぽどむつかしい)
百合子は楚々として、逃れようとする賊の前に立った。
「さあて、木っ端とはいえ盗賊団の一員だ。手痛く縛に付くことになるけど恨むなよ? それがアンタらの選んだ道だからな」
錬のショウ・ザ・インパクトが、賊を押し戻した。
「そうだな、たしか此処の裁きの法は獰猛な赤犬が仕切ってる筈だしな?」
「良きに計らってくれるだろうな」
「畜生、臭い飯はごめんだぜ!」
銃を構える。狙いは……周囲だ。
させるものか。
カイトが射線上に身を乗り出していた。
「! カイトくん!」
アレクシアが叫ぶ。
「たいしたことねぇよ。それより……やっちまえ!」
「心意気、受け取った!」
ぼたり。
流れる血は、今度はトウカのものだった。桃花血塗、鬼血は、蛇腹剣へと変わり、盗賊たちはただ無力化される。
(……ちょうどいい。いくらか、話が聞けそうですね)
打算するバルガル。情報とは何よりも貴重なものだ。
「ねぇ、その右腕は」
ヴェルグリーズが、剣を振り上げる。改造されたガトリングが向く。
……何度となく、罪のない人に向けてきたんだろう。
「それは、もう必要ないよね」
ざん、と。
金属が小気味よく斬れる音がした。
(ぶった切れたら気持ちよいなって思ってたんだ)
落首山茶花。その一撃が、盗賊を刈り取っていた。
●これからゆっくりお話ししましょう
「大丈夫? 怪我とかしてないかな?」
「あなたは?」
「私は平気だよ!」
アレクシアは微笑んで見せる。
平気なわけが、と言いかけて止める。
(心に傷を残したくないもの)
ふわりと、花が咲くような。
「トウカ君は平気?」
「ああ、問題ないさ」
ちらりと人質の女性を見るバルガルだったが、……そちらは、仲間の方が向いているだろう。すぐに盗賊に向き直る。逃げ出そうとする連中の縄をきつく締め直し、油断なく情報を集めていくことにした。
「他の連中の存在は? 色宝はお持ちです?」
「こんな方法で生きてきた故に盗賊共の結末がこんなのであろうなぁ、吾も人の事とは言えぬが」
百合子は自嘲気味に笑った。
(ずいぶん荒れちまったな……)
賊によって破壊された屋台を、カイトはしげしげと眺める。
しかし、住民の顔は明るい。
「でもまあ、誰も死んでないしな。あの連中ももう襲ってこないだろうし、それを考えるとお釣りが来るってとこかな」
「そうか……」
「応急処置としてはこんなとこかな。何か壊れたものがあったら、みせて欲しい」
錬は屋台をテキパキと修理している。
「手がいるなら、俺も協力するよ」
「あらホントに!?」
「あんたたち、戦ってくれたばかりなのに……」
普通に暮らす人たちの普通の生活を好ましいと思っているのだ。
「助太刀は俺としては当然の行ないだよ」
(お人好しなもんだな)
けれど、悪くない光景だ。
「……姉様、ですよね?」
誰が聞いているかわからない。昔のようにアメリア姉様と呼べない事は少し寂しい。けれど、
それ以上に、生きてまた会えたことが嬉しかった。
「うん……」
「たくさん、たくさん話したい事があるんです」
「私も、私も……アンナ!」
「色々な物を失った話も、大切なお友達ができた話も、それから──。
ああ、駄目ね。成長した姿を見せたかったのに。これでは昔と同じだわ」
「いいのよ、たくさん、あのね、私も……ずっと心配していて……逢いたくて……でも」
色々言うに迷って、ソフィアは一言だけ。ぎゅうと抱きしめて。
「生きていて、無事でいてくれてよかったよぉ」
ゆっくりと、夢の話の続きを。
成否
成功
MVP
状態異常
あとがき
人質は、無傷での奪還と相成りました!
積もる話も、これからどうぞゆっくり。
またご縁がありましたら一緒に冒険いたしましょうね。
GMコメント
ごきげんよう、布川です!
●目標
・人質の女性、および色宝の奪還
・盗賊団の撃破
●敵および人質
『ガトリング男』ダック
右手をガトリング銃に改造している大柄な男です。小物ですが、この場ではチンピラをまとめ上げるボスです。
女性を人質に取っています。
怒りっぽく、範囲攻撃で女性を巻き添えにする可能性があります。
盗賊たち×8
大鴉盗賊団と言っても下っ端の下っ端、チンピラです。
それぞれサーベルや銃を所持しています。
人質の女性
市場に店を開いていた、ごくごく普通の女性です。
武器を突きつけられていて動けないでいます。
ピアスが色宝のようですが、今回、特に特別な効果などはないです。
●友軍
ソフィア
「無理矢理奪って、女の人を連れて行くなんて……黙ってはいられないわよ!」
ラサの傭兵魔術師。
とても明るく、損得関係なしに人助けのために行動するという評判です。
天義出身の貴族であり、政略結婚をさせられそうになったことをきっかけに家を飛び出しました。
雷の魔術で、遠距離から援護します。
ほか、指示があれば従います。
●状況
開始地点、ソフィアが盗賊の注意を引きつけている形となります。
イレギュラーズたちは、盗賊たちの行動に少し前から気がついていて奇襲を仕掛けたりしても構いません。
ただ、ソフィアと綿密に相談する時間はなさそうです。
(※味方であるとは察知するので、戦闘中にもある程度疎通することはできそうです)
●場所
ラサのマーケットです。
店が建ち並んでおり、不意打ちのためのロケーションには事欠かないでしょう。大樽や果物やスパイスなどがあります。
なお、商人たちはもちろんですが、「盗賊を倒せるんならじゃんじゃん使ってくれ」と乗り気です。
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
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