シナリオ詳細
【書痴楼戦線】
完了
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オープニング
●アカウンター曰く
図書館の一室だ。協会図書館とは、また違う別天地のどこか。
案内人によれば、ここから既に、我々の知らない異世界なのだという。
壁の本棚には、知らない言葉の知らない文字で書かれた、幾千の書籍がある。
その中に、よく見ると既知の文字があることに、あなたは気づいた。
アルファベット。Aから始まりZで終わる、26種の表音文字。
(厳密に言えば違うのだが、ここではこれを、アルファベットと呼ぼう)
その一つを手に取る前に、案内人が君に声をかける。
「ようこそローレット、この名も無い世界の片隅へ。
いや、実は名前のある世界のほうが、本当は少数なのだけれども。
そのあたりの諸説解説は、まあ、また追々」
案内人だ。彼は一人用のティーセットをテーブルに置くと、ひとり寛ぐ。
「では、隣の部屋を見てもらえるかな。そう、奥の方。
あれはホワイトボードという、異世界の便利な代物でね。書いたり消したりが自由な上、磁石で紙を貼り付けられるという――え、知ってる? あっそう」
と案内人は言うが、実際の所、ホワイトボードの部分はほとんど見えていない。
全体に、手配書が貼り付けられているからだ。養生テープで。
「それらが、君たちに頼みたい仕事だ。
アルファベットの頭文字を持った26人、あるいはそれ以上の賞金首。彼らを捕まえると書籍になるから、それらをこの図書館に納品して欲しい。
……と言っている間に、どうやらまた、アルファベットの罪人が捕まったようだ」
案内人の背後、空いた窓の隙間からひとりでに、一枚の手配書が滑り落ちる。
するとただの紙きれが、またたく間に――案内人の言うとおりに、本となった。
「ね? 納品自体はオートマチックだ。君たちは罪人の確保に専念してくれればいい。
ついでにいうと、罪人の近くまでは、手配書が案内してくれる。手配書を持って、この図書館を出れば、そこがもうそこだ。簡単だろ?
その後はローレット、君たちの持つ類まれなぼうりょ……もとい能力で、仕事をこなしてくれたまえ。ボクは力がなくてね、本より重い人体なんて、とてもとても。
注意点があるとすれば、手配書の『生死指定』は、必ず守って欲しい。可能な限り、とかいう曖昧なものではないよ。求められているものは、このルールの絶対遵守だ」
「――その咎無くて死す、なんてのは。
この【書痴楼】にはそぐわない――」
案内人の言葉を背後に、君は手配書を持って図書館を出た。
すると彼の言う通り、そこはもう別座標。であれば、賞金首も近いはず。
君はもう一度手配書に目を通すと、最初の一歩を踏み出した。
- 【書痴楼戦線】完了
- NM名君島世界
- 種別ラリー(LN)
- 難易度-
- 冒険終了日時2023年04月26日 21時45分
- 章数1章
- 総採用数30人
- 参加費50RC
第1章
第1章 第1節
パ・パ・パンッ!
光爆三色が顔を照らし出すよりも早く、ダイゴ・ハチジョウは後ろに飛んだ。
「逃がすか!」
次弾を掌に咲かせた『遺言代行』赤羽・大地(p3p004151)は、しかし首筋に走る『予感』に身を任せ、三色菫を放つのではなく留める。
功を奏した。
ダイゴの短刀が、菫を引きちぎり散らすのを見た。
その瞳に潜む、底知れぬ傲慢もまた。
知らず指が出た。精確に目を狙う爪を、ダイゴはにやりと笑って潜り抜ける。
こちらの、大地の不利体勢、死に体。――否。
「(こういう手合いの嗜好は!)」
命と尊厳を踏みにじり、死への恐怖を舐め尽くさんが為!
一撃必殺を、狙わなイ!
ガィィィイイイイン!
「ふううぅぅぅ……っ!」
緊張で恐怖で目の玉が飛び出しそうだ、と大地は思う。死地を抜けたという実感がある。
背中側。魔力で編み出した大鋏の柄が、ぎりぎりと刃を防いでいた。
と。
ダイゴの姿勢が、ひとりでに崩れる。何もないところを、全力で押しこんだからだ。
何もないところ。
赤羽・大地が、いたところ。
通り魔の歩法――。
「お前のような奴を」
『てめぇなんかガ、人様の生き死にを』
――ダイゴは微笑んだ。
「決して許してはおけない!」
『自由にできるなんて』
思い上がるんじゃねえ、ゼ。
――ズ、ンッ!
重い重い、緞帳を断つがごとき鋏の手応え。
不快な感覚を手指に残し、降る血雨に大地はたたずむ。
赤羽はたたずむ。
成否
成功
第1章 第2節
●Story of D.
――禁忌の血脈と、人の言う。
何代にも渡って、繰り返し繰り返し、最も血の濃く出た男子と、最も容姿に優れた女子を、組み合わせてきた一族があった。
残虐さ、故に人を外れ。
美しさ、故に人を超え。
最高傑作とうたわれたその男が、一族も己すらも終えたのは、自然の定めか因果応報か。
八条大悟。彼の物語は、のちの戒めに数編の切り抜きを残して、書痴楼の焼却炉に投げ込まれた。
第1章 第3節
林の獣道。幻の珍獣たぬきは、なんか嫌な予感がして振り向いた。
ら、そこに仁王立ちする何かがいてビクッとなった。
「にひぃ……」
何か、つまり『理想のにーちゃん』清水 洸汰(p3p000845)の口から、恍惚の息が漏れる。
かれの瞳は爛々と、お鍋の中のしいたけの切り込み状の輝きを放ち、すると次の瞬間!
「そのもふもふ、数を頼んででも手に入れるぜ!」
放たれる洸汰の殺(もふ)気に、たぬきの野生が反応した! 脱兎、いや脱狸する珍獣!
そのまま藪を抜ける珍獣に、しかし!
あらくれた2匹の野獣が並走する!
「モロロロロロロロロー!」
「このたぬきはたぬたぬ言わないのですねえ。それもまたよし」
ご紹介しよう! 洸汰の頼れるファミリー、メガぴょんたと山内さん(私が考えた最強の従者)です! 鳴き声はアドリブです。
あらくれた2匹の野獣は、たぬきの左右からおしくらまんじゅうショルダーアタックを仕掛けた。
その肩の間、たぬきがむぎゅうとほっぺたを甘潰しにされる!
たぬきが救いを求めて伸ばした、右前足の肉球に、そっと……。
……洸汰が、触れた。
バチィ(非殺傷型スキルが命中する音)。
ドサッ(獣が気絶する音)。
くったり(擬音)。
「さあ、お楽しみのもふもふタイムだぜ野獣ども!」
「モロゥ」
「いや野獣て」
言いつつ、たぬきをもみくちゃにする野獣三匹なのであった。
もふもふもふもぎゅもふふっふふ。もふっ(とどめ)。
成否
成功
第1章 第4節
●Calm down and love our たぬき
――無事ローレットの手により書痴楼に収蔵された『幻の珍獣・たぬきのポスター』は、楼の誇る最新鋭の凸版輪転機によって、大量に複製された。
各地の学校や養育施設向けに無償で配布されたそれらは、子どもたちへの情操教育において大いに効果アリと認められ、その後も定番の掲示物として、後世に伝えられていく。
さて、たぬき自身はすぐにポスター化を解除された。
今ごろはどこかの野山を元気に駆け巡っていることだろう。
第1章 第5節
あっけない音がした。
非実体弾が、ターゲットの心臓を貫通するおと。
致死量の悪夢が、血液にのって循環するおと。
ひきがねを通じ、こちらまで響いてくるそれに、『破滅を滅ぼす者』R.R.(p3p000021)は無感情に眉をひそめ、予定通りの一歩を踏み出した。
摩天楼の山脈から、天の夜空・地の星空へ、飛び降りる。
重力はさかしまに、頭から飛び込んだ己を上(下)へ引きずり込む。
水平方向を見る。ガラスの盾の向こうを観測する。都会の塵芥が、眼前で止まった。
――極限集中。ターゲット・オールロック。
(あのバッジ、食い残しの手下か)
時が止まる錯覚の中、魔弾に再び、殺しの凱歌を吠えさせる!
(霹靂千撃ッ!)
ギャリリリリリリッッ!
トリガーガードを回転軸に、バトントワリングにも似た、リロードアンドファイア。
戦果を改めるまでもなく、パラシュートを瞬間開き、ビルの壁を蹴って跳ぶ。
着地点、そこにこそ、虫の息のJがいた。
Rは再度マスケットを向ける。
「聞こえるか」
Jが懐から拳銃を取り出し、側頭に当てたのを、Rは狙い撃ち吹き飛ばした。
「お前が今から死ぬ理由を教えてやる」
「生きる……理由が……ねェんだよアタシにゃ……」
「そのありふれた感傷を言い訳に、ドラッグという緩やかな破滅を、人にもたらしたからだ」
Jは中指を立て、そのまま事切れた。
パタンと斃れたとき、一冊の本が遺される。
表紙にはただの一文字。
成否
成功
第1章 第6節
ベリーイージーの朝は遅い。
寝覚めは最悪で、目覚ましが借金取りのノック音でモア最悪。
ドアノックっていうかもう破砕音。
「破ってくるタイプのアレか……」
慣れたもので、ベリーイージーはカーテンを引っ剥がして即席の脱出ロープに。
欄干に結んで下へ投げ落として、昔の経験を生かしベイルアウト。
しかし運悪く、手が滑り――。
「こんにちは、お姉様♪」
――落ちた先は、『宿主になってね』Alice・iris・2ndcolor(p3p004337)だった。
「こんにちは?」
見覚えのない少女に、お姫様抱っこされている。
「ぱんつはかないでどちらへお出かけですの?」
「ぱん……え、マジ?」
マジだった。起きた後に履き忘れてた。
なお、ここで言うぱんつはいわゆるズボンのことなので誤解なきよう。
「おねぼうさんなのね、お姉様♡」
ころころと笑う少女。どきん、と、なぜか胸を高鳴らせるベリーイージー。
Aliceは、胸脇とふとももに這わせた指先の力を、すこし強めた。
「ともあれ。お目当てのシチュじゃないけど、これはこれで好きかも」
「ってか下ろ――今下ろされるのは、ちょい困るかも。ハハ」
照れ笑いついでに、少女の瞳を見る。
「あ」
ヤバ、と思った時にはもう終わり。
ベリーイージーの新しい扉が、花開いた。
「ね。丁度そこに、私の部屋があるんだけど……」
「……隠れついでに、ご休憩してく?」
してった。
すごかった――。
成否
成功
第1章 第7節
「ないですわないですわ。夾竹桃も鳥兜も鈴蘭も」
森の深奥、リコリス・フルブライトによって管理されている『秘密の花園』。
「ダチュラもベラドンナも蕨まで。なんてこと」
毒花、尽く荒らされていた。トップ(花冠)の部分は、特に念入りに。
リコリスは残骸の中に、ふと、ピンク色の何かを見つけた。
花、だ。
「見た事のない子ですわね?」
薬指と小指で、そっと手に取る。すこし捻って――。
「だろうね。それは私だ」
――彼女と、目があった。『至高の薔薇』ロザリエル・インヘルト(p3p000015)。
ザザザザザザッ!
擬態蔦が樹上からのたうち落ちた。ロザリエルはまず悲鳴を上げる口を封じる。
「そして」
「~~~~~ッ!?」
リコリスの右腕を、茨の鋸で強引に引きちぎった。
「あんたが最期に見る花だ」
吹き出す血が、弟切草に赤い斑点をつけていく。
リコリスの取り落した小刀が、やわらかな地面に突き立った。
「ったく、こんな下らないコロニーなんか作って。
毒の花……毒の花はねえ……いい思い出がないのよ……」
リコリスは激痛に、ぼろぼろと涙をこぼす。
感覚器をつくアンモニア臭に、ロザリエルは目に見えて苛立った。
「じゃ! バラしていいって言われてるからバラバラにしてバラすね!」
蔦で抑えているリコリスの舌が、やめて、とおびえて呟く。
ロザリエルは愉快に笑って、そして止めなかった。
ぞぶり、ぞぶり。――ぞぶり。
成否
成功
第1章 第8節
●The Story for J
名をジョアンナといった。姓はない。だからそれが『本当』だったのか、ついぞ判明しなかった。
Jとだけ表紙に記されたその本には、彼女が築き上げてきたドラッグ流通ルートが事細かに掲載されており、その後の捜査に大きく貢献することとなる。
それ以外の生い立ちや半生、ジョアンナ自身について書かれた頁は、しかしひどく少ない。
本人が覚えていないからだろう、というのが書痴楼職員の見解である。
●アフター・ベリーイージー
当人が出頭(書籍の提出)を拒んだので、結局強制執行されたんだって!
何があったんだろうね?
何かあったんだろうね! ――ね!
●for Licorice, from Red spider lily
彼女の本は真っ二つに割られることとなった。
前半は、薬草学についての著しく詳細な所見が認められ、開架へ。
後半は、その濫用についての平易で詳しい手順解説が危惧され、閉架書庫へ。
さて、その表表紙の無い方に、いつの間にか、押し花の栞が挟まれていることがあるという。
同じ株から摘まれたと思しき『彼岸花』の花弁が、それに飾られている。
第1章 第9節
荒れ果てた道場であった。
挑戦者――『天狗』河鳲 響子(p3p006543)の気配を認めて、サガは目を開ける。
「おう」
「拳術の手練れとお聞きして追わせていただきました。恨みはありませんが――」
「応」
「――捕縛させていただきます!」
「踏み込んだは!」
ジァン!
サガが踏み抜いた木床が、稲妻めいて割れ跳ねる。響子は重心を一毛後ろへ。
「ぬしが先よ!」
突く。いなす。陰陽のごとく、回す。
「太極!」
仕掛けられた力に『レール』を当てる。螺旋防御。
「さて!」
強張り、姿勢を保つサガに、響子は第二の螺旋を打つ。
ぐるん。
サガは自ら跳んだ。
第一、第二、合わせて竜巻の挙動から、サガは斧のごとく踵を落とす。
響子の『気配』が膨らんだ。
「打たされたか!」
「はい!」
斧が向かう先は、地面だ。なにものも断てぬ軌道。
突き刺さり、止まる。サガの延髄に、裏回った響子が掌を当てる。
黒のキューブが、接点に溢れだす。
「降参してください。貴方が悪人だとしても、私は」
「いや、いや! 参った、降参じゃ!」
「殺したく――あ、はい。……はい?」
サガはその場に両膝を付き、両手を上げた。するとその姿が揺らぎ――。
「噂に聞くローレット、その暴力の一端! うむ、堪能したわい!」
――1冊の本となった。
響子は本を拾い上げる。
「……はあ」
表紙と題とを見て、それでなんとなく、響子は事情を察するのだった。
不惜身命、武道一途。
成否
成功
第1章 第10節
「んほぉおおお~~~♪」
開幕男の喘ぎ声を皆様にお聞かせするクール・マエバシです。
あの『悦楽種』メルトアイ・ザ・ベルベットムーン(p3p000674)のボディにかかれば一般人はね、うん、仕方ないよね。こうなるよね。
「うふふ♡ こうかしら、それともこう?」
「りょ、両方っ! 両方お願いするでござオッホおおお!」
ぎゅぎぎぎぎぃ。
粘液にきらきらと輝く肉体が、触手に締められてたゆんと歪む。
しゅるり――ぴちょっ。
指先が直線のシルエットをなぞり、境界線に潜む官能が強調される。
「キュビズムでござるな異論は認める! 美と醜悪、生と死の対概念を――」
「――このフィルムに余す所無く!」
うん、撮影会なんだ。
クール・マエバシは一定のディスタンスを取りメルトアイの『ステージ』にカメラを向けていて、彼女は彼女でなんか楽しくなってきたので、すごい所をすごく開いてたりして。くぱぁ(擬音)。
「ね……そろそろ、たまらなくなってきましたわ。
どうぞもっと近くへ……もっと、もっと……♡」
「モデルのご希望とあれば! 今必殺の、ローアングラーッ!」
必殺技の技名を叫びながら、クール・マエバシはメルトアイの擬音部分に迫る。
「ん……っ♪」
ずるぬっぽん。
入った。そこはメルトアイが罠と仕掛けた、捕縛の触手回廊だったのだ。
「……は、ァ♡」
メルトアイは恍惚の表情を浮かべ、入ってきたその異物の硬さに、ぞくりと身震いした。
成否
成功
第1章 第11節
手の中の乾いた手配書を、『D1』赤羽・大地(p3p004151)は、くし、と握りつぶした。
「人遣いの荒い図書館だガ、まぁいいだろウ」
場所は、地下壕を思わせる、しかし華のコリドー。
湿った空気をマフラーで濾しながら、赤羽・大地は奥へと進む。
いずれ――。
「ようこそお客様。毒花屋、リコリス百カ店へ。お求めは?」
――デッドターゲット、リコリス・フルブライトがそこにいた。
「支払うのはお前だ」
「まあ」
リコリスは手元の釦を3度押した。
上方、落ちてくる花のギロチンを、退いてかわす。
「閉じさせるカ!」
その茎簾を、閃光が貫いた。射道が棘付いた孔を空ける。
(潜るか?)
「潜るゼ!」
なおも悪辣に牙をむく茨棘、そのことごとくを、すり抜ける赤羽。
眼前、左眼跡から血涙零すリコリス。千の紅歯、彼岸花の笑み。
「俺達から逃れようなんテ、許すもんかヨ!」
呪符を振りかぶり、リコリスの足元に叩きつける。
「爆ぜて」「絡みとレ」「「鳳仙花の栞!」」
ズバンッッッ!
空圧の圧縮→解放。
リコリスは残像を残して、回廊の終点、最悪の花が咲く壁にまで吹き飛ばされた。
――優しく、蔦に受け止められ、リコリスは安堵の表情を浮かべる。
「ただいま、あなた……」
救出する間もなく、彼女の肉体は猛毒によって溶解した。
手配書が一冊の日記となる。
(読まないのカ)
「読まねーよ」
答えて、大地は回廊を引き返す。
「納品するまでが仕事だ」
成否
成功
第1章 第12節
炎が煌々と世界を焦がす。地獄の使者の舌がごときその威容。
火の手とは破壊の現像。かれ以外の音をすら飲み砕く。
すると一発の銃弾が、その逆説的静寂を裂いた。
「なにを見ているのかしら?」
ルーシー・フォン・マルコネンの威圧的な声が、空間を打つ。
臆せず、臆す理由もなく、『貴族騎士』シューヴェルト・シェヴァリエ(p3p008387)は答えた。
「君たちの犯行の一部始終をだ、マルコネン」
「あら、いい心がけだこと。わたくしのちっぽけな罪への罰を、自ら被ってくださるのね?」
「無論、君にも償ってもらうッ!」
バンッ。
「は」
――先手必殺、ルーシーの肋を抜いて、心臓を一発。
シューヴェルトを、初撃を外す平和ボケ警吏と侮ったゆえの無様。
険しい顔で、貴族騎士は『プラウド・スノー・パンサー』を下ろした。
「弾丸は貫通したか。証拠の一つも残せないからな……」
ルーシーの、まだ暖かい死体を担ぐ。
手を汚すことは今更厭わなかった。
シューヴェルトの後始末は、実に見事なものであった。
燃える家屋から的確に住人を救出し、実働が駆けつける前に『役人』と話をつける。
捜査官、特に検死官には、念入りに袖の下を握らせた。
――暖炉の中という不自然な場所で射殺されたルーシーを、見逃せと。
「貴族的手段には、貴族的手段か……」
ならば自分にしかできないことだ。
青年はそう折り合いをつける。
命を救われた民の笑顔が、救いだった。
成否
成功
第1章 第13節
静かなバーのカウンターに、男がいる。
男が一杯を空けると、『糸無紙鳶』此平 扇(p3p008430)が、注文もせず男の隣に座った。
「お兄さんが拳闘士のサガさん?」
バーテンダーがそれを一瞥し、カウンターを出る。
手には『Closed』の掛札。
「いかにも。というかアレか、書痴楼か。なかなか逃げられんなあ」
「本気?」
「真逆」
扇の革手袋が握られ、きゅ、と鳴いた。
「じゃ、恨みっこなしで」
両者即発する。あいまの闇に、扇のナイフが銀線を引いた。
蛇行し、ひゅうと喉を狙ってくるそれを、サガは手の甲で反らす。
扇は肘膝上げて半身をガード。しかしサガは、ずし、と扇の肩を掴んできた。
場慣れした、有無を言わせぬバウンサーの技術!
「むんっ!」
ズドォ!
体重を載せたヘッドバットが、扇の鼻を打つ。骨肉砕け、鼻孔にぬめった血が溢れた。
ナイフを取り落とす。
「ふ、は!」
扇は、そのナイフを縦に踏んだ。
後退する、その一歩を踏む時間を、長さだけ稼ぐ。
そうでもしなければ――。
「ダーティなのもやるんだねぇ!」
――不用意に足をおろしていたら、間違いなく踏み抜かれていた!
扇の口角が吊り上がる。楽しい。愉しい!
すべてのすべてが、詰め込まれた一瞬だからこそ!
「終わらせるのがとてもたのしい!」
必殺の距離……扇は、溜め込んだ『脚』を爆発させる!
サガも扇と同じように笑い――そして。
斬る/斬られた。
成否
成功
第1章 第14節
「なんっ、で……!」
高級火蜥蜴皮のヒールが折れ、ルーシー・フォン・マルコネンは体勢を崩す。
自分の持ち物が壊された事よりも、よろけて付いてしまった手に、『家畜小屋』の燃えカスの灰がベッタリついた事にこそ、かの貴族は激高した。
「ッザけんな糞家畜がァ!」
「言う相手を間違えてやしないかねえェ、ヒヒ」
対して『闇之雲』武器商人(p3p001107)は悠々と、春の日の散歩のように火事場を歩む。
ルーシーは後退りし、しかしなお傲慢に睨み笑った。
ジャカッ!
「死ねエーーッッ!」
抜いた拳銃を躊躇なくポイント。武器商人はつい、その値踏みをして――。
「お飾り」
バンッ!
――己の額で受けた。銃撃の、その音だけが虚しく響く。
「~~~~ッッ!」
ルーシーの混乱は絶頂に達した。目の前の『ソレ』が、傷一つ負わないことに。
陽炎のように武器商人の輪郭がゆらぐ。
「――ほら、楽しもう? 世界に火が回っていくのを眺めながらじっくりと楽しもう?
これは貴女の最期の逢瀬、物語を締めくくる因果応報の絶望譚なのだから――」
「ひ」
火。この行き止まりの部屋を取り囲む、終末の鼓笛隊。
ルーシーは、もう呼吸していない。できない。酸素がない。
「ひ」
熱のゆらぎが武器商人の髪を煽り、その影にきらめく瞳をあらわにした。
「きれ、い――」
部屋の壁が熱で砕け、待ち構えていたバックドラフトが全てを舐め潰していく。
武器商人を残して。
成否
成功
第1章 第15節
私、『片翼の魔剣』チェルシー・ミストルフィン(p3p007243)は、後ろ手でドアを閉めました。
ええ。おとこのひとと一緒です。ええ。
「……うふふ」
愉快、ゆかい。
世間知らずのお嬢様作戦は、結婚詐欺師によく効いたようです。
瞳を潤ませ、そっと手を繋いであげたときは、それはもう。
「下衆のニヤつきが、隠せませんでしてよ……♪」
あのひとは、無防備にベッドの上で寝ています。
お食事に混ぜたオクスリが、時間通りに効いているようですね。
まずは、四肢の拘束を――。
「なんて、僕がそう簡単にヤられるワケないよね」
――手首を捕まれ、そのまま引き寄せられます。
「あら」
呆れた方です。つまり、お互いにバレバレなのでした。
「キミのようなヤベーのも結構相手しててね。だからわかンの、直感的に」
「それを知って狸芝居に付き合うのですから、本当、呆れた方です」
体勢を入れ替え、私に馬乗りになって、セシル・プライドはいやらしい笑みを浮かべました。
「そういう殿方は――嫌いじゃないわ、ふふっ」
「へぇ、『ヤる』気だ。ンじゃあこのまま、ベッドの上で『決着つけよう』ぜ?」
「ええ」
ベッドのスプリングが、音なく弾みます。良いベッドです。
どれだけ『寝返りをうたせ』ても、問題なさそうで。
「でも、その前にひとつだけ」
「あん、『ゴム製品』の心配か? いらねーよ、お前もすぐに――」
「その臭い指で私の髪に脂を付けるな、豚」
成否
成功
第1章 第16節
「彼女がルーシー・フォン・マルコネン、ターゲットLか……」
貴族のきらびやかな夜会。
その様子を遠くからスコープで覗く、『一般人』三國・誠司(p3p008563)である。
無関係な一般人が入れるわけもなく、こうして樹の上で暗殺者じみた索敵などしている。
「美人だなーやっぱ金髪巨乳だよなー……でもなー……」
樹上から降り、次の監視スポットへ向かう。
「勿体ない……いや、どうしてだろ……」
ひとりごちながら、闇の中に消える。
誠司が再び闇の中から現れたのは、『まさに』というタイミングだった。
「『こんばんは、こんな夜更けにどうしたんだい』?」
「――あ゛?」
「うわ」
誠司はつい悲鳴を上げた。
気位の高さがそのまま歪みとなったかのような、醜い美女の悪相。
「じゃなくてえーと、『あんまり一人で出歩くのはよくないよ。ここら辺は物騒だからね』?」
「なんで疑問形なのよ。お前、もういいから死――」
仕掛けた。
「竦め」
ジャゴッ。
誠司は、くろがねの冷たく堅い銃口で、ルーシーの額を圧す。
「――は?」
「首を縮めて死線をくぐれ。そうすれば」
ごぎん。
強張ったままのルーシーの首を、横からへし折った。
「楽に死ね『た』な」
「…………」
無言で、ルーシーの体が地面に落ちていく。ゆっくりと死んでいく。
死んだ。
「…………」
誠司は殺しの、その後味の悪さを引きずって、闇の中へ向かう。
ポケットに突っ込んだ手が凍えていた。
成否
成功
第1章 第17節
空間のある一点(セーブポイント)に、魔術要素のスパークが集い――PON!
「ふうっ♡」
可憐にリポップを果たしたのは、『Sensitivity』Alice・iris・2ndcolor(p3p004337)だ。
「ぐおおおおおおおん♪」
それを見て、邪龍ミーミー・ザ・ドラゴンが歓声を上げた。
「あのさミーミーちゃん。つまみ食い、って話よね、確か」
「ぐおん」
首を縦に振るミーミー。
その体格はドラゴンと言うには……なんかこう、デフォルメされた、風船のようで。
「ありすはドラゴンさん界隈のジョーシキってあんまし知らないんだけど」
「ぐお」
「頭から丸ごとって、つまみ食いって言わなくない?」
「ぐおんぐおん」
ミーミーは親指を立てた。
「『美味しかった』……? うーん、人と龍の文化の絶望的な断絶を感じるわ。
――で、も♡」
ぱちん、とウィンク。観測チャンネルを切り替えたAliceの瞳には――。
「同じにしちゃえば、問題ないわよね♡」
――龍の中で渦巻く、己の魔力が見えている。
「おん?」
ぐぐ、とミーミー風船が縮んでいく。Aliceと同じくらいの背丈になった。
「ぐお――あ、あれ? ミーミーの爪と牙……どこ?」
そこにあったのは、Aliceと比肩するほどに愛らしい、しかし……。
「そのかわり……なんだろ。なんだろ、この『器官』」
新たな『人間のパーツ』をつけられた、一人の男の娘であった。
「くふ……捕獲、完了♡」
成否
成功
第1章 第18節
背中合わせ。酒場前の荒野に風が吹く。
西部劇めいた、浮ついた決斗。
「こんな決斗なんて、真面目にやる気ないだろ」
一歩。アリステア・マクワイルドは嗅ぎタバコを吐き捨てる。
「ないですね」
二歩。『一般人』三國・誠司(p3p008563)は、集中を削がれぬよう、最小限に応える。
「だろうと思った。じゃ」
三歩目を、どちらも踏まなかった。
仕掛けた方と仕掛けられた方、はたして『どちら』が『どちら』なのか――。
――弾指の果てにどうでもよくなった。
カチッ。
「!」
誠司の弾丸が、アリステアの足元で弾ける。風上は誠司。
吹き上がる砂塵が、双方の視界を奪う……前に。
「『黄金に乾杯』ッ!」
垣間見えた銃口の鈍色を、誠司は睫毛の間に捉える。世界が傾ぐ。
身を捨てて銃弾の軌道上から心臓を外した。
「~~ッ!」
食いしばる。奥歯が欠けた。
その顎の痛みは、肩を抜けた弾丸の痛みが脳に届く前の、一瞬の麻酔。
「ッ痛ぅぅぅああああ!」
パンッ!
突き出した弓手のキャノンで、本命のネット弾を射出。
縄の大口が、砂塵ごとアリステアを頬張った。
――キュインッ!
倒れた目の前に跳弾が鳴く。……外された? わざと?
ともあれ、ネットを引く手に手応えあり。誠司はゆっくりと立ち上がると。
「……ったく」
その中に、一冊の本が捕らえられているのを見た。
アリステアの本だ。
「ガンマン……ねえ」
それはひどく個人的な、奇妙な既視感。
成否
成功
第1章 第19節
右方は拳の衝撃(インパクト)。
左方は銃の紫電(ファストドロウ)。
勝負の一瞬――。
「!」
反応できるのか。『糸無紙鳶』此平 扇(p3p008430)は思う。
「!?」
反応できたのか。アリステア・マクワイルドは驚く。
完全な奇襲だったはずだ。双方、理解している。
アリステアの銃口は扇の眉間をポイントし、扇の拳はアリステアの心臓に触れない。
――しかし、錆びかけた撃鉄は未だ炸薬に届かず。
拳ならば、半ば解ける。ナックルナイフのグリップを確かめた扇の脊髄神経。
「(二手目は!)」
勝負はとうに決まっていた。
この距離まで踏み込んだ扇の勝ち。つまりアリステアの負け。
「(だが、負け方はッ!)」
選べる。アリステアはトリガーを引いて『いない』。
扇の鼻がガンパウダーの香りを嗅いだ。
アリステアはその銃でナックルナイフを攻勢防御する。
火花――。
傍から見れば、アリステアの火薬による自爆だった。
「……よお」
瓦礫と硝煙の中、血まみれのアリステアが言う。
「痛み分けにしようぜ、姉さん」
「やだ」
家具の破片から足だけ突き出した格好の扇は、そのままじたばたと答えた。
「やーだよ旦那、冗談じゃない! あれやこれや、もっとやりたい事あるんだよ!」
扇の両足が暴れる。
「うーるせえや。だったらちゃんと正面から喧嘩売れ、『次』はな」
「次?」
ようやく扇が上半身を脱出させると、そこには、一冊の本が残されていた。
成否
成功
第1章 第20節
●アカウンター更に曰く
「重版刑と言ってね。
重犯罪を犯した者を繰り返し書籍化することで、そのイドを摩滅させる意図があったという。
まあ言葉遊びだ。だが、由来も意義も忘れ去られた今になってさえ、その習慣は残った。
――そう、君たちが対面した『複数の同一人物』が、それにあたる」
初版、第2版、第3版。
同じアルファベットのタイトルを持ち、しかし内容の異なるそれらの本。
「ある者は修羅。力を求め、故に生きる本としての生を選んだ者。
ある者は権力。力を持ち、故に書痴楼の書庫に直接干渉できる者。
罪を犯すことを止めない、あるいは止められない者。例外。例外の例外。理由なき者。
そして――『僕がわざと逃がす者』だ」
アカウンターは『X』の本を手に取ると――。
●システムメッセージ
ターゲット『X』が解錠(アンロック)されました。
X:ザナドゥ・メリーロンド。女性、反書痴楼組織『林火』の戦闘工作員。武装解除。
追伸:合言葉の丙『西十字星の沈む所に』を用いると組織の情報を得ることができる。
●アカウンター更に更に曰く
「ということだ。ここの、書痴楼の仕事に慣れてきた君たちなら楽勝だろう?
じゃあ僕は蔵書の整理があるからこれで。
君たちが納品した本のタグ付けもしなければならないしだ。ああ、忙しい忙しい――」
と、アカウンターは『意味ありげな目配せを残して』、書庫の奥へと去った。
●モノローグ:ザナドゥ・メリーロンド
私は焚き火の前で膝を抱えて座っている。静寂はやかましいほどに、夜を満たしていた。
星の光も見えやしない、狭い空の下。鬱蒼と滅ぶ文明廃墟の森。
「――確かに、神権に選ばれた彼ら『処置牢』こそ、正当な刑罰の代行者だ。
その権勢が、彼ら自身を管理している神権組織『林火』に向くなんて」
弱い炎が風に揺らめく。薪をくべた。
「諸権分立の原則は、失われて久しい。だけど……!」
怒りが……罪人とされた父の本を目の前で燃やされた時の記憶が……。
……私の精神を乱す。
「考えをまとめよう。私は一体、どうしたいのか。
処置牢――彼ら自身は書痴楼と名乗っていたか――彼らを糾弾したいのか。
それとも、彼らの中に潜む、歪みの原因を排除したいのか」
――と。
何者かの気配がした。懐の刃を確かめながら、それでも一縷の望みを賭けて、言う。
合言葉の甲。
「『ハイタカはどこへ飛んだ?』」
第1章 第21節
カモフラージュの文庫本を、ぱたんと閉じた。
「うふふ……♡」
橙色の光が、斜めに差し込んでくる図書館。その本棚の影と陰。
四つ角の向こうに『Sensitivity』Alice・iris・2ndcolor(p3p004337)はターゲットの姿を認める。
ちろりと、小さな舌が唇を這った。
「(……興奮して、キちゃう)」
しっとりと、Aliceのうなじに汗が落ちる。
薫り高く、薔薇蜜。指向性持つ魔性。
「え……? お菓子? なに、こ、の……」
イリヤ・ミステートは、Aliceの濃密な体臭の、たった一嗅ぎで――。
「お菓子より、もっと素敵なモノよ。イリヤさん」
――学生(きんよく)生活で築き上げてきた理性を、手放した。
ハードカバーの哲学書が薄いカーペットに落ちて、小さな、しかしありふれた音を立てた。
だから、その2人の行為を、見咎めようというものはおらず。
はあ、と、イリヤは息継ぎのために離れた。
舌先で追うAlice。
少女の、すがるかのような弱い戒めを……イリヤは振りほどけない。
イリヤは、仕方なく諦め、躰の強張りを緩めた。
「しゅ、宿題、が。その、今度こそ、ちゃんと」
「あら、殊勝なのね。でもそれって――こうすることより大事なことかしら」
Aliceは、その冷たい指先を、イリヤの頭蓋、盆の窪から鎖骨を通って、背骨へ下ろす。
笑って。
「いーとみぃ♡」
誘拐のための転送陣を、引いた。
とぷん。
成否
成功
第1章 第22節
「(勝ったなガハハとか考えてた自分をぶん殴りてェ……!)」
と、我慢の脂汗をかく『一般人』三國・誠司(p3p008563)クンである。さっきからずっとゴスゴスとキャノンの端っこでカウンターを突き上げている所を、何も知らないウェイトレスが声をかけた。
「ご、ご注文ですか……?」
「もう一度水でお願いしまーっす!」
食い気味な返答だった。
――そもそも。
ブオナ・ボン・ジョルノはただの食い逃げ犯である。金髪巨乳放火魔美人とかスカシガンマンとかと違って、ガチ戦闘になる相手ではない。
つまり犯行現場をネット弾でイナフ。勝ったなガハハ風呂入ってくる。
けれどあいつ、めちゃくちゃ美味そうに飯食うんです。
あくまで狙うは現行犯。ひとときも目を離せぬ故に、誠司は食事を頼めず。
そんな状態で、ブオナの食事を一挙手一投足見逃さず。
滴る肉汁レタスのシャキシャキ。寿司ネタから垂れる、上等の醤油。
「拷問ですよこいつぁ……!」
くるおしく飯を求めて腹が鳴く、その時。
「くっ、食い逃げだアーっ!」
「ハイ現行犯ーッ!」
KABOOOON!
誠司はキャノンを撃った。
放射状に広がったネットが、ブオナを見事絡めとる。
そしてすこし、誠司は考えた。
考えてイラッと来て。
考えてステイして。
考えてやっぱりイラッと来て。
おや、ブオナ君がなにか言ってるよ。
「お、お代わりのお届けでぶか?」
盗人猛々しいね。
誠司は拳を握った。
成否
成功
第1章 第23節
ドスを下ろす気配がした。
「西十字星……アカウンターの手の者ね」
依頼内容、どうやらこれで達成のようだ。
『Sensitivity』Alice・iris・2ndcolor(p3p004337)は、ちょっと物足りないと気色ばんだ。
「武装解除しろ、と言われていてね。
折角……折角、そのための手練手管の準備をしてきたのだから」
「え?」
「使わないのはもったいないじゃない?」
システムメッセージ:ありとあらゆる手練手管が効果的に適用されました。
「はにゅう……☆」
「あらら目ー回してる。おーい、宿主様?」
反応がないのは物足りないので、もう一発『きついの』をお見舞いした。
「大丈夫? ええ、これなら大丈夫ね。それじゃ本題。
組織の情報を、教えて?」
余韻に浸っていたザナドゥが、なんとか己を取り戻す。
「か……彼こそ、我々『林火』の切り札。スパイなのよ。
その彼が、捕らえられていた私を逃がすということは。
――機は熟した、ということかしら」
「ええ、きっとそうね」
一応、相槌は打っておく。
「よければあなた達イレギュラーズを、正式に『林火』にも紹介したい。
切り札として彼が手配していたことは、聞かされているわ」
「あら、それは光栄ね。でも――」
Aliceはザナドゥの手を取る。
魔力を、体温を馴染ませる。
「――まだイってないトコロ、あるわよね?」
「あ、っ♡ は、はいぃ……♪」
連れてきたい所に、連れてく為に。
成否
成功
第1章 第24節
息を吸うのも躊躇われた。
その騎士、ナハト・ナイト・ナイトならば。
葉擦れ一つにも、気配を透かし見るだろう!
「(……っていう気配が、こっちまでビンビン伝わってくるよ)」
騒ぐ血を、『糸無紙鳶』此平 扇(p3p008430)は撫で付ける。
距離はまだ遠い。リーチの差で、あちらが先に打てる。
忘我。獲物を待ち構えているこの刻が、なによりも愛おしい。
扇は、その終わりの瞬間を、呼として大事に吸い込んだ。
「――っ! お下がりあれ、姫!」
「余所見とは!」
衝、と響く快音。
「つれないねぇ、兄さん!」
揺れる白刃を、掛け過ぎた虚空に走らせる。
「賊か!」
「そうさ!」
――なるほど。追手か、と聞かないのならば。
「ならば成敗!」
まっすぐのバスタードソードが、こちらの攻め手、ナイフを打ち落とそうとするのを感じる。
思考を余計な領域に割いた分、肉体の反応が遅れた。
だから、神経が勝手に反射する。
くるん。
「っ!」
「ッ!?」
と、ナイトの剣戟をいなしたのは。
ナイフの、柄尻だ。
我ながらよくできたものだと、扇は思う。二度はできまい。
「じゃあ、そういうことで!」
さすがに取り落したナイフが、地面に刺さる前に。
「姫……!」
扇は対の鉄拳を、ナイトの胸元に――。
「にしても、その『火遊び』がさ」
――胸骨破る直前で、止める。
に、と笑った。
「私みたいなのに邪魔されるたぁ、騎士様も運がなくて、残念だったねぇ?」
成否
成功
第1章 第25節
炎一派のアジト、その首領の部屋。
「――おい」
「へい」
「俺より先に味見しやがった屑共を、今すぐ吊るせ」
「へ、へいっ!」
言われた下っ端が、広間へ走り去っていく。
扉が閉められ、暗い部屋に、『Sensitivity』Alice・iris・2ndcolor(p3p004337)の輪郭が沈んだ。
「あら怖い。そんなに大したことはされてないわよ? むしろ」
ゆるり、と少女は身を起こす。言に反して、余計な身動きができないよう、固く縛られていた。
肌と瞳が、闇の中、艶々と光る。
「こんなところに来たレディの歓待としては、まあまあの趣向だったワ」
「フン、肝の座っている娘だ。どこぞの刺客か、暗殺者か」
「やん♪」
首領は、Aliceを縛める腰縄を滑車に掛け、吊るし上げた。
地面から離れる爪先から、ぽた、と粘性の液体が垂れる。
「正体を探る時間など、これからいくらで、も……?」
眼前。目の高さにある少女の瞳が。
「そうね、いくらでも……」
金色に輝くのを見た瞬間。
男は恋に落ちた/男は奈落に墜ちた。
男の人生はここで終わる。
ここから先は、犬としての心折生活。
「ほら、舐めなさい。貴方の手下の体液よ、それ」
ぺろり、と男の舌先が、足指の隙間に滑るのを、Aliceは陶然と見つめる。
「不味いでしょ? いくら搾りたてでも、吸血種でもない人間にとっては、ね♡」
追加の『蜜』を足首に垂らしてやると、男はよろこんで――。
成否
成功
第1章 第26節
「ヒュウッ!」
自分の頭と同じ大きさの鉄球。そんなものが、耳横の空気を食いながら疾走抜けた。
挑戦だ。『糸無紙鳶』此平 扇(p3p008430)は、そう受け取った。
じゃりじゃりと鳴く鎖が、主の元に戻っていく。
無重力の指が、ボロをまとった少女を、さかしまに立たせていた。
「――あなたは、なにに反逆するひと?」
脱走犯、エリス。逃亡防止の鎖と鉄球を、あろうことかカポエイラの武器と為した、反逆者。
裸足の踵が、
月を撞いていた。
「そうさねえ……退屈、とか、あんたはどう思う」
戻る鉄球が、エリスの足裏で、終に月を隠す。その影が広がった。否。
「ん、いい反逆対象」
隕月が落ちてくる、まっすぐに!
「だろう?」
扇は集中する。先の奇襲を、エリスが軽々避けてみたことも考えれば――。
「(――こいつは、『空気を読む』達人だ!)」
と告げてくる己の勘を、信じる他にない。この攻防破るならば、掟破りの一手!
「せいやっ!」
扇は、土を蹴り上げた。鉄鎖に絡む埃が、精密無比のコントロールを狂わせる。
――紙、一重。
土化粧の扇がぎらついて、天地逆転の雨と降った。
「……わ」
ズバンッ!
一刀、すれ違う。
「良かったよお、エリスさん。けどここは、一敗」
扇がナイフをくるくるしまい、汚れたメガネを拭き拭うと――。
「地に塗れてな」
――ババババババババッッッッ!!!!
遅れて、蓄積された斬撃が幾状、エリスの身を裂き乱れた。
成否
成功
第1章 第27節
「んー……」
くんくんと、愛らしい鼻を鳴らすAlice。
「……こげなまぐさい。古くなったオイルが、害虫と一緒に燃えてるような」
なるほど、とAliceは思う。立ち位置はすでに、敵の直近。
風上の岩の隙間から、ごぷりと、粘液の滲み出る音がした。
「ウーズって名前から、TRPG的なガチの方のスライムだと思ってたけど。
なるほどなるほど、要は『廃液スライム』なのね」
ボッ。
ウーズの体内感覚器が灯り、滑る。クリーピング・フレイム。
「ほいっ☆」
可愛らしい小ジャンプで回避。振り返るAliceの肌に、魔力経が走っている。
「次はこっちのターン♪」
扉こじ開けるように動く両手は、ジェスチャー通りに、別世界の扉こじ開けた。
――ワンダーカートゥーンワールド!
「さぁ、私の妄想世界で、気持ちよーーーく逝かせてあ・げ・る♡」
桃色の光降り注ぐ別天地に、ウーズは不快とばかりに伸び上がる。
屹立する火柱と化したウーズに、Aliceは手を差し伸べた。
「まずは、愛撫から。無性生物でも、これはキくでしょ?」
下から上へ。距離を度外視して輪郭をなぞる指先が、するとウーズの体を震わせる。
その手のひらの中で。
「……あは、あっつう……」
ウーズは動きを、熱を、命そのものを吸われていく。
Aliceは、その力強さに、あだっぽく微笑みかけて。
「ここが弱点なのね……でも焦らしたげる。その方が長く、遊べるでしょ?」
「私が」
成否
成功
第1章 第28節
●不惜身命、武道一途。
最後の「。」まで含めてタイトルである。
中を見ると、最初の方は空手の型を披露する若きサガの写真で埋め尽くされていた。
後々に来ると、例えば暴れ牛を相手取っていたり、銃を持つギャングの一団に敢然と向かっていたりするサガの姿が記されている。
サガの犯した罪に関しての記載はない。
●クール作品集!
俗に言うビニ本であった。
梱包も含めて本の一部である為、無闇に破ることは許されておらず、つまり誰も読むことができない。
そのほうがいいのだろう。いろいろなひとの尊厳的に。
●記録削除(ルーシー・フォン・マルコネン)
彼女の死後裁判は異例の速さで結審し、即座の焚書刑が下された。
処刑広場に見物に来た人数は、歴代でも十指に入るという。
炎の中に女の笑い顔を見ただの、薪の崩れる音に合わせて悲鳴を聞いただの、そのような真偽不明の怪談がまことしやかに囁かれた。
●「よくわかる結婚詐欺師の手口」
あまねく婚活女子に自衛手段を啓蒙するという名目で、年齢制限フロアの開架に保存されている。
ただ、最後に騙すという手順さえ踏まなければ、女性を効果的にオトすことができる技術が書かれているわけでもあるため、一部の男性にも積極的に読まれていた。
閉架、もしくは禁架に移動するべきではないかというクレームが相次ぎ、書痴楼職員が対処に追われている。
●じゃりゅうミーミーのにっき
ぜんぺんひらがなでかかれておりよみにくいことこのうえないがないようがないようのためきんかにほごされている。
かんけつにいえばえろぐろばいおれんす。
せいしんのかそせいあるいはかんじゅせいのたかいものがよめばかくじつにへきがゆがむ。
●「浮ついた決斗」
アリステア・マクワイルドらしき男を主人公とした、ガンマン流離譚。
貴族の家に生まれ、恵まれた青年時代を送るも、M家の陰謀で没落。
いつの日か敵を討つために、その日を生き残るために、少年は銃をとった。
――最後は、つまらない喧嘩で命を落とす。
最初のページに、わざとらしく「この物語はフィクションです」と書かれているのが印象的。
●通知表:出席番号12番 イリヤ・ミステート
母国語 7(宿題を忘れずに)
共通語 5(まだまだ片言です)
数学 3(補修を課します)
化科 3(補修を課します)
社会構造 7(素晴らしいレポートでした)
社会歴史 7(発表会、期待しています)
魔法(理論) 9(さすがはミステート家ご息女)
魔法(実技) 10(学園きっての秀才です)
錬金術 4(錬金生物の世話をがんばっています)
体操術 2(ストレッチをしましょう)
家事 1(まずは火加減を覚えてください)
●「決定版! 大食いレシピ!」
ブオナ・ボン・ジョルノが学んだ料理の大量生産のコツを惜しげもなく書き記した、商売料理人必携の書です。
いわく「料理は十人前以上で作ったからこそ味が出る!」とのこと。
書痴楼の本としては珍しく、写本が世に出回っている。その収入は書痴楼がさまざまなところへ寄付している。
●「ロマンス・ナイト」
ナイトを名乗る男、ナハト・ナイト・ナイト。
姫と見初められた女、ファラ・ファイル・ファウスト。
――その二人共が狂人だと明かされるのは、物語の終盤。
戦争後遺症で本能以外の正気を失った二人が、メリーバッドエンドへの道をひた進んでいたことを、物語に登場するある少年のたったの一言で読者に気づかせたその見事などんでん返しの手法は、同世代の作家に多くのフォロワーを出した。
●「炎一派罪業録」
原典は箇条書きの刑罰記録として書痴楼が保存している。
世に出回っているこれは、ある宗教団体が記録をもとに「地獄の実在」を謳うため創作したものである。
地獄の獄卒が罰を読み上げ、罪人が涙ながらに罪を認め、悔い、しかし過酷な刑を課されるというのがお決まりのパターン。
罪人が実名で描かれていることから、「七十七罪人」として伝説化されつつある。
●「私の名前はエリス」
――その名前からも、私は自由になりたかった。いずれあらゆる枷を外して、私は月の女王になるの。
なのになぜ、貴女は足錠を?
――だって、これがないと。
――重力からも自由な私は、ふわふわと浮かんで、どこかへ行っちゃうわ。
――なんて、ね。
●怪物図鑑「ウーズ(クリーピング・フレイム)」
廃油を排水に流してはいけない。どこかでこの怪物が生まれるから。
大地の癌であるウーズ細胞が廃油を取り込むことで派生する、炎・水属性の怪物。
打撃・斬撃・貫撃にはウーズの常として高い耐性を持ち、炎と氷の二大属性も通用しない。
神経系への干渉に弱いため、幻術系の魔法で対処すべし。
レアスキル「ドレイン」持ちであれば、効果的に駆除できるだろう。
第1章 第29節
●書痴楼の長い午睡、その夢
「――協力、Alice……っと。ほい、できたわよー」
原稿にサインを書き入れたAliceは、用紙を掲げてアカウンターを読んだ。
ひらひら、ぺらぺらと、紙が鳴く。
「お疲れ様、玉稿頂戴するよ。
この所職員の離職が増えてね、目録の整理も覚束ない。由々しき事態だよ」
渡りに船と、アカウンターはAliceの書いた報告書を受け取る。その目には、浅くない疲労が見て取れた。
「じゃ、交換条件。手配の出ている罪人の現状を教えてくれるかしら」
「いいとも。……まず、『X』に動きがないのは君も知っての通り」
「招待する、と言った割に、その後なんの連絡も寄越さないまま。冬眠でもしてるのかしら?」
「かもしれないね。さて――」
手つかずの罪人:F、G、P、Q、U、W
「――となっている。彼らの追加情報は、次節に別紙添付しておくよ」
「次節、って」
「後ほど、という意味だね。書痴楼のスラングの一つ、と解釈してくれていい」
「ふうん?」
Aliceは横を見る。
あなたと目があった。
「お茶でいいかい?」
「お構いなく。ここのお茶、なんだか薄いんだもの」
「みんな白湯を飲み慣れているからね。飲み物の味が濃いと、逆に違和感を覚える始末さ」
「つまんないトコね……」
ソファに横たわるAliceのぷらぷらと揺れる尻尾も、いずれ、振り子のように止まっていく。
この世界にも春が来ていた。
成否
成功
第1章 第30節
●"F"
ファットバッド・スキャットマン。その正体は、ゴースト。
世界中の人を笑顔にするという夢を持ち、ピエロとなった男。
しかし、その『世界中』に、彼自身は含まれていなかった。
死の間際、己の微笑みが全て演技であったことを悔やみ、無念を抱えてゴーストと化した。
……なお、ゴーストという種族自体は、この国の市民権すら持つ一般生物である。
かれらは『恐怖省』を組織し、娯楽・エンターテイメントとしてのホラーを提供することで対価を得、自分たちの墓地の管理を行っている。
ファットバッドは、そんな彼らの仕事の最中に現れては、爆笑オンステージで仕事を妨害するため、恐怖省は書痴牢に対処を頼んでいる。
処置:心の底から笑わせる。
●"G"
ガリア・フール。その正体は、義賊。
腐敗した金持ちから金品を奪い、富の再分配を行う……と表現すれば聞こえはいいが。
とかく彼女の『腐敗』の判断基準は、率直に言えば常軌を逸している。
老人の車椅子を孤児に分け与えたり、観劇のチケットを根こそぎスラム街にばらまいたり。
社会の秩序を無秩序に乱す彼女は、被告不在のまま裁判にかけられ、有罪が確定した。
処置:デッドオアアライブ。
●"P"
ぷろふぇっさー・ぱんてぃ・ぱしふぃすと。その正体は、ただの変態である。
屁理屈に強く、暴力に弱い。レッツ暴力、ノー説得。
処置:アライブ。
●"Q"
クオ・バディス。その正体は、巻き込み型放浪者である。
ここに居たい、と強く願う者を道連れにする精神歪曲型パッシブスキルを、常時発動している。
数ヶ月でその効力は自然消滅するが、その時には被害者の人生は滅茶苦茶になっていることだろう。
本人は、たちの悪いことに、そのスキルの存在を知った上で、愉快犯的に放浪を続けている。
早急に確保し、書物として保管すべし。今の所、自立歩行する書籍は確認されてないゆえに。
処置:アライブ。
●"U"
ユーバー・クーバー。その正体は、この世界の征服を企むマッドサイエンティストである!
ユーバーマシンは1号から65536号までロールアウト待ちだ!
ユーバーウエポンは壱式から六六六式まで完成、ボタン一つでご近所大破壊!
ユーバーキャッスルは鉄壁の守り、割れないバリアで敵の侵入を防ぐぞ!
まあ書痴楼ワープで中に簡単に入れる上に、ユーバー自身はひ弱な中年なんだけどね。
処置:デッドオアアライブ。
●"W"
ウィットネス・ワイズ。その正体は、第四の壁の観測者(自称)だ。
彼はこの世界が、何者かに記述された文学世界であると確信している。
――実際の所それは真実であり、大衆に知られてしまうと非常に都合が悪い。
今は単なる『若気の至り』として受け止められているが、手遅れになる前に確保しなければならない。
ウィットネスは攻撃・防御・回復魔法にも長けている。どうにかして隙を作らなければ……。
ところで彼、異世界の話とかすごく好きらしいよ。
処置:デッドオアアライブ。
第1章 第31節
●フレデリック・グッドマンの最期
「つまり遊園地デートよ! いきましょピエロさん!」
「HO-I! いろいろ前略しすぎてるNEガール!?」
「当然よ! 時間は無いものちょっとしか!」
対霊術式を流した指先で、Aliceが連れていく先は、夜景きらびやかな遊園地。
恐怖省のゴーストたちが遠巻きに見てくるが、ええ、知ったことじゃない。
「ガール……君はきっと書痴楼の使いDA。MEをJOUBUTUさせるのが目的NO。
でも、こんなのは時間のMUDAだ。DATTE遊園地は、MEのBATTL――」
「いいじゃない、そんなこと! さあ、空を見て『フレデリック』……!」
振り向いたAliceの上空に、花火が咲いた。
「この花火に、間に合ったんだから!」
「――HA-I!?」
花火の勢いも雑踏も、刻一刻と増していく。
「結局ね! 出たトコ勝負で来ちゃったのよ、私!」
隣りにいても、声を届けられているか不安で、叫びたくなるくらいに。
でも不安は、飲み込める。
「このあとの部屋だって取ってないし、イリヤちゃんも『そろそろ』だし。
でも、あなたを楽しませるために、精一杯をやれたわ、私。ねえ、そうでしょう?」
「……HA。採点をご希望かい?」
「甘ーくつけてくださるかしら?」
「ああ、もちろん――零点だ」
「霊だけに」
対象F『ファットバッド・スキャットマン』、そのファイナルギャグが炸裂した。
「……は?」
お後がよろしいようで。
成否
成功
第1章 第32節
●
↑を読み終えた目標Wは、喜色満面、Aliceに両手を広げた。
「なるほどなァ! だがここは知らぬ振りをするのが観測者の礼儀……!」
「何の事?」
「いずれ消える詩篇のことさ。しかし!」
ズバッ、と身悶えする目標W。
「未知への好奇心は運命への諦観に勝る! さあ聴かせておくれp3p004337、君の上位概念を!」
今、目標Wが口走った【それ】をどこで知ったのか、あえて問うまい。
問われても困ります。
「そう。でも、アナタもわかっていると思うのだけれど、妄想よ、それ」
「どれのことかな?」
「全部。まあでも? 面白い仮説じゃない。
ここが、誰かによって記述されている、だなんて――」
「――ならアナタは、その誰かによって作られた生命なの?」
「!?」
たじろぐ目標W。
「実感はある? 証拠は? アナタのDNAにミッシングリンクがあるのは何故?
私があれほど字数を割いてまでしたいと思っていた話を、なぜ今ここでしないのだと思う?
それらを全部、説明できる?」
「……できたとして、それが」
「できるのね、可愛そうなコ。
あなたの……捕縛は、それこそ運命よ。そうでしょう?」
その通りです。
「安心して。欲しい話はアッチでいくらでもシてあげる。だから」
「だからおとなしく、このボクに、虜囚となれと言うのか、世界は!」
返答の代わりに、世界は目標Wの足元へ奈落を開けた。
彼を飲み込ませ、Aliceも放り込んで、章を終える。
成否
成功
第1章 第33節
●
解決した探し人依頼の貼紙が、街の片隅に吹き溜まっていた。
多くは笑顔。しかし既に、かれらのこころの全ては、失われている。
その中から、見知った人間の見知らぬ表情を『糸無紙鳶』此平 扇(p3p008430)が拾い上げた。
「…………」
彼女こそ、扇の知る限りでは最新の生還者だ。その証言によれば――ここ。
この、幸せの慰霊碑こそ。
目標Q:クオ・バディスが好んで『参詣』するという、狂った『祭壇』。
「おおい、誰かいンのかァ? こんなゴミ捨て場によぉ?」
風にのって、酒の腐ったような、不快な匂いが届いた。その先にいる――。
「ケッ。誰もいないじゃねェか。いや来る訳ァねェか、こんな行き止まりにな」
――目標Qの禿げた脳天を、この時、扇は見下ろしていた。壁を登るスニークの埃が、ぱらぱらと落ちるより、迅く。
「ふっ!」
重力の踵を叩き込んだ。後頭部の急所ではなく、筋肉の集まっている肩を選んだのには、理由がある。
「生け捕りにしろってお達しでね!」
「な……」
ゴギャ!
――蹴撃、一閃。追撃ちのそれが、目標Qの表情を、驚愕に固定した。
命ではなく意識を消していく、そのコマ送りの一瞬に、扇は言い残す。
「自分の愉しみの為に他人をめちゃくちゃにしてた悪い奴ぁ、もーっと悪い奴に始末されちまうものさ」
糸が切れて、こちらに倒れ込んでくる人形のような目標Qを、爪先に乗せた。
「私みたいなのとかにね」
靴先が食い込む。
成否
成功
第1章 第34節
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「突然目の前に現れたそこの君ぃ! 世界平和にご興味はあるかねぇ?」
「え、ないけど」
そして『至高の薔薇』ロザリエル・インヘルト(p3p000015)の足蹴りが男の首筋に飛んだ。
「グワーッ!」
男はもんどり打って体液をぶちまける。が。
「た……仮令! 石畳を舐めることになっても、わたしはあきらめない!」
「うわまだ動いてる。しぶと」
ロザリエルはすこしヒいた。
「私の名はぷろふぇっさー・ぱんてぃ・ぱしふぃすと! 恒久的世界平和を神ならぬ至高のシンボル(略)人類退行もやむ無し(略)ぱんてぃによってのみ無毒化できるびらん剤(略)実験は既に(以下省略)」
「はいはい。思ってた通りの危険人物ってことはわかったから」
這って逃げようとする男の前に、ロザリエルはしゃがみこんだ。
「ま、可愛いわよね、女の子のぱんつ。その気持ちはわかる」
「わかるか! ならば!」
「わかりますとも。でも」
ロザリエルは蔦を伸ばし、白衣を探る男の手を縛り止める。
「私はいらないから、ソレしまって。あんたらと違って、この幹(からだ)に隠す器官とかないもの」
「無……なッ!」
「じゃあもう一度蹴るから……死なないようにしててね」
片足を高く、鎌のように上げたロザリエルの『花』に、男の目が釘付けとなる。
ごっすん。
「グワーッ!」
「あ」
蹴り終えてふと、ロザリエルは足を戻し、周囲を伺った。
「……ここの。簡単に見せると叱られる花だった。あぶな」
成否
成功
第1章 第35節
●ドクロ型の宮殿を見上げて少年は
「うわーもうここから既視感しかねえー」
ということで『一般人』三國・誠司(p3p008563)は、とくに書痴楼ワープも使わずに、対象Uのひみつ基地へと潜入するのだ。
巡回する警護ロボのセンサーを、一般人オーラAKAアノニマスで欺瞞すると、ミサイルが生えてて明らかに爆発する外見の武器庫へと徒歩で入っていく。
……しばらくして、誠司はゆっくりと歩き出てきた。いつの間にか少年は、遮光サングラスを装備している。
巨乳美少女アンドロイドを入れた背負子がわりのネット弾を、肩の上でひょいと持ち直して、何かのスイッチを入れた。
カッ……ドドドドドドドドオオオオオ!
すると武器庫は、どこかで見たことのある閃光を発してから、どこかで見たことのある爆発で炎上するのだった。
「す、スローモーションで歩くとは」
「!?」
と、そこにでっぷりと腹の突き出した、禿頭の男がいる。
「きききき君、わかってるじゃないか。なあ?」
「そう言う貴方は……この子を?」
と、誠司は肩の上の巨乳美少女アンドロイドを示す。
巨乳美少女アンドロイドは、巨乳で、美少女だった。
「いかにも」
そして、男たちは……。
それ以上何も言えず……友情の、浪漫の握手を交わした……。
どちらも優しい目をしていた。
その目のままで。二人は砲を向け合う。
誠司のそれだけが、引き金を引かれた。
「ユーバー・クーバー……確保、完了」
成否
成功
第1章 第36節
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「フフフ……」
教会の尖塔。夜霧まとう星月夜こそ彼女の背景。
婀娜に嗤う対象G:ガリア・フールに、『一般人』三國・誠司(p3p008563)は指突きつけて、問う。
「きょっ」
言い間違えた。
「……じゃなくて。聞かせてくれガリア。
なぜ君は、その――」
「いいでしょ、お貴族様の首飾り、しかも家紋つき。へつらいたくなるくらい魔的に素敵でしょ?
宝物の権勢は、然るべき資格を持つ者へ……さしあたっては、マリエラ修道院のいい子たちかしら」
「……」
誠司は言いかけた科白を呑む。
――この世界の貴族のことは、わずかだが知っているから。
だから、言うべき台詞に切り替えた。
「その再分配は、誰かの不幸しか生まない」
「この歪みに『誰か』が気づいてくれるわ。然るべき『誰か』が」
「だとしても!」
だから、銃を向けた。
「君がやってることは、力で奪い好き勝手にすること。これは変わらない!」
パァン!
空砲である。ガリアを動かす為の。
「(間に合わせる!)」
尖塔に駆け上がり、眼下に本命の砲を向ける。
直下。夜を抱いて落ちるガリアに、届けと。
「あら、必死ねお兄さん。素敵」
「必死にもなるさ……」
まだ、確かめていないのだから。
誠司は引き金を絞った。
「君の語る正義が……巨乳なのかどうなのか(何かの正義の逆位置だったのか)!」
「へ」
言い間違えた。
システムメッセージ:ガリア・フールの書籍化を確認しました。貧乳でした。
成否
成功
第1章 第37節
書庫に風は吹かない。陽の光も差さない。
およそ季や節といったものと無縁の、これは時を止める場所である。
ゆえに足跡がよく響く。君を含めて、一人か二人か。
君は一冊の本を手に取る。題名は読まなかった。開いた表紙の重みだけを、まずは心地よいと思った。
辞典の類らしい。異界知識が異界常識にソートされ、つまり訳の分からない記述にはなっているが。
まずはそのルールを探ろうと君は思った。
言語は既知。しかし例えば、『夜(Yo-Ru)』の次が『錆(Sa-Bi)』になる、その基準がわからぬ。
見出し語の総当りを、君は覚悟する。
その時の君の感情に、見出し語を付けるのが私の職務であった。
知識を求める者よ。知識を求めた者よ。
図書館の歩き方を知る者は、古書店の歩き方を知る者だ。
古書店の歩き方を知る者は、凡そ町の歩き方を知る者だ。
願わくば、君の靴の踵が欠けることなく、その静謐の足音を、万の世界に響かせんことを。
書痴楼 完全閉架にあてて。
楼主
NMコメント
こんにちは、はじめまして。
マスターの君島世界です。
境界ドロップ、掘りましょうか!
今回の舞台である【書痴楼】は、書籍刑という独自の刑罰が存在する、ある異世界に存在する刑務所の一つです。罪人は、その罪の重さに従った期間、『存在を書籍に変換させられ、自分のすべてを白日の下に晒される』という罰を受けることになります。
もし罪が重ければその期間は半永久となり――もしくは、即座に焚書されます。
そんな【書痴楼】の職員の手から逃れた、26人(?)の罪人。彼らの確保が、あろうことかローレットに外部委託されました。首尾よくよろしくお願いします。
プレイングには必ず『自分がどの賞金首を追うか』『どのように賞金首を確保するか』を必ず明記してください。さもなくば【書痴楼】の果てしない整理作業に回されます。
また、狙う賞金首が被ったり、既に捕縛された相手だったりしても問題ありません。早いもの勝ちではないのでごあんしんです。
それでは、皆様のプレイングをお待ちしております。
以下、賞金首たちの判明しているプロフィールを大公開!
――ここから――
『デッドオアアライブ』:捕獲時に生死を問いません
『デッド』:殺害してください
『アライブ』:生かしたまま捕まえてください
その他:指示に従って捕まえてください
A:アリステア・マクワイルド。男性、ガンマン。デッドオアアライブ。
B:ブオナ・ボン・ジョルノ。女性、食い逃げ犯。アライブ。
C:セシル・プライド。男性、結婚詐欺師。アライブ。
D:ダイゴ・ハチジョウ。男性、通り魔殺人鬼。デッド。
E:エリス。女性、脱走犯。デッドオアアライブ。
F:ファットバッド・スキャットマン。男性、ピエロ。心の底から笑わせる。
G:ガリア・フール。女性、泥棒(義賊)。デッドオアアライブ。
H:炎一派(ほむらいっぱ)。主に男性、ならず者の徒党。デッドオアアライブ。
I:イリヤ・ミステート。女学生、宿題未提出。アライブ(怪我をさせない)。
J:J(じぇい)。女性、ドラッグディーラー。デッドオアアライブ。手下多し。
K:クール・マエバシ。男性、写真家(盗撮を含む)。アライブ。
L:ルーシー・フォン・マルコネン。女性、放火魔だが貴族。デッド。
M:ミーミー・ザ・ドラゴン。竜、つまみ食い(人間含む)。デッドオアアライブ。
N:ナハト・ナイト・ナイト。男性騎士、愛の逃避行。デッドオアアライブ。
O:ウーズ。無性生物(スライム)、村を燃やした。デッド。
P:ぷろふぇっさー・ぱんてぃ・ぱしふぃすと略してPPP。来歴不明。アライブ。
Q:クオ・バディス。偽名、放浪者。アライブ。
R:リコリス・フルブライト。女性、毒花屋。デッド。
S:サガ。男性、拳闘士。デッドオアアライブ。
T:たぬき。伝説の珍獣、可愛さ=罪。毛皮に傷一つつけず生きたまま捕獲。
U:ユーバー・クーバー。男性、マッドサイエンティスト。デッドオアアライブ。
V:ベリーイージー。女性、呑んべ。アライブ(ただしシラフで)。
W:ウィットネス・ワイズ。男性、世界の観測者(自称)。デッドオアアライブ。
X:不明。AからWが納品されると正体が判明するとかしないとか。
Y:不明。Xが納品されると正体が判明します。
Z:不明。Yが納品されると正体が判明します。
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