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シナリオ詳細

<マナガルム戦記>Respice, adspice, prospice.

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●『過去を吟味し、現在を吟味し、将来を吟味せよ』
 冬が来た。
 雪が降り、凍えるような冷気を供として。
 冬が来た。
 人も動物も植物も誰も彼も身を縮こませて春を待つ季節が来た。
 ――だが春という温もりは誰しもに訪れるとは限らない。
「もう無理か」
「ああ……もう駄目だな。翌年まで保つまいよ」
 幻想北部オランド村……鉄帝との国境にも近い山間部にある村は今、死に瀕していた。
 古ぼけた家に集まるは複数の老人。若者の姿は――見えない。
 頼りなき毛布に包まり、暖炉を前にしてなんとか寒さを凌ぎながら。
「食料は切り詰めてもあとほんの少しばかり。どうにかするには街の方に出るしかねぇが……いつも通ってた山道はこの前雪崩が生じて以降、ずっと通れねぇままだ。外からの助けも期待できねぇだろうなぁ」
「全く……ま、こんな所に住み続けた報いかね」
 語る節々に希望の色は見えず、かといって絶望した様な声色でもない会話が繰り広げられる。
 オランド村は先述した様に鉄帝との国境に近い場所に位置している――王都や周辺の大きな街からは離れており……いわゆる『僻地』と言って差し支えない場所だ。そんな場所だからこそ、この村に誰かが訪れるなど滅多にない。
 故に誰も気づかない。
 唯一と言ってもいい通行路の山道が雪崩によって塞がれ、完全に孤立している事など。
 山の中の獣道でも通ればまぁ街に出られない事も無いが――若者は都市に働きに出て、村には足腰の弱い老人しか残っていない。冬の、雪すら降る今の季節に山越えなど誰が出来ようか。山の中には狼が出てくる事もあるのだ。
 賭けをするにもあまりに危険。外へ連絡を取る事は出来ず、八方塞がりに等しい。
 ……もっと早く村の外に出ていればこのような事態はなかったのかもしれない。
 だが。
「しゃあねぇよなぁ。俺達はずっとここに住んでたんだ」
「んだんだ。まぁ死ぬ時はぁいつか来るもんだ」
 人は必ずしも最善を選び続けるとは限らない生き物だ。
 或いは不利益を承知の上でその場に留まる事を選ぶ事もある――老人たちもそうだった。
 故郷。
 ただそれだけで此処に留まっている。
 不思議なのだ。生まれたというだけで離れたくない思いがある。
 去る者がいるのは、いい。若者はもっと羽ばたける場所で生きていく者だろう。
 だが己らは。もはや盛り時も過ぎた己らは――ここを離れられなかった。
 故郷が滅びる時、己らもまた滅びる。
 ……それでもいい。ここまでよく生きたと、皆が静かに頷いて……

「いえ――そう結論付けるのはまだ早いかと」

 だがその時。
 突如として開いた扉の奥から現れたのは――一人の青年。
 マルク・シリング (p3p001309)だ。防寒着に身を包み、風除けのフードを取れば。
「おや、アンタは……?」
「失礼。この近くに……ええ。ちょっとした用事があって山の中を歩いていた所、話し声が聞こえまして――どうやらお困りかと?」
 自らが力になれるかもしれないと彼は言う。
 要は食糧さえなんとかなればこの村は助かる訳だ――勿論本来のルートは雪崩で崩れているが故に、本来道ではない道をなんとか辿る必要がある。村の者の話では獣道を通ろうとすれば怪鳥が出てくる事があり危険らしいが……
「僕も、イレギュラーズなので」
 それでも危機たる戦いなど幾度と乗り越えてきた。
 仲間の力も借りればこの村に食料を運ぶのも決して不可能な事ではないと思考して――
「だが若者よ、どうしてだ?」
 瞬間。一人の老人が言葉を紡いだ。
 上手くいけば村が生き伸びる事も十分可能だろう。しかし、何故だ。
 このような寒村などにかまけても、一体どれ程の意味がある事か。
 街や貴族から依頼を受ければもっとより良い依頼があるのではないか……
「――さて、何故でしょうね」
 フードを被り直し、再び雪の道を歩かんとしながらマルクは呟く。
 偶然であれど関わったからか只の良心故か、それとも……
 『貧しき村』というソレそのものに――思いがあったか。
「ええと……そうだ、たしかここからだと……『彼』のいる所まで行ってみようか」
 ともあれ決めたからには急いだ方が吉だろうと、マルクは己が知り合いの所へと方角を定める。
 その名はベネディクト=レベンディス=マナガルム (p3p008160)。
 丁度彼に『お願い』したい事もあったのだ。
 雪道を歩く。
 口端から零れる吐息が――白く染まりながら。

GMコメント

 リクエスト、ありがとうございます。

●依頼達成条件
 オランド村に食料を運び込む事。

●フィールド
 幻想北部、鉄帝との国境にも近い山間部です。時刻は昼。
 本来は村へと続く山道があったのですが、先日雪崩が発生して潰れているらしく、その正規ルートは使えません。整備されていない獣道を只管歩く事になります。オランド村の方角は分かっていますので、そちらへと進めばやがては辿り着く事でしょう。

 周囲は林が広がっており、また同時に雪が積もっています。
 歩きにくさや小回りが利きづらい様な足元でしょう。

●怪鳥×8
 この周辺に出る怪鳥です。人よりも若干大きいサイズで、空から強襲してきます。
 人里や本来の山道など、人の手が入った場所には現れない習性があるのですが――それ以外の、山の中を歩く存在に対して非常に敵対的です。人間のみならず動物なども対象な程に。
 嘴で突いて来たり、急降下からの一閃は非常に素早い特徴があります。
 彼らに食料を突き破られたりしない様には注意してください。

●食糧+荷車
 周辺の街で買いそろえた食糧を載せた荷車です。
 それなりの重量が在ります。これを可能な限り無事な状態で村へと運んでください。
 整備されていない道を通る必要がある為に、普段よりも強い力……最低でも二人ぐらいは運び手が必要でしょう。(運搬性能などの技能がある場合はその限りではありません)

●オランド村
 山間部――僻地と言ってもいい場所にある寒村です。
 若者がおらず老人ばかりであり、雪崩によって孤立してしまった時は最早滅びて廃村になる事も覚悟していましたが……偶然か神の采配か皆さんの知る所となりました。食糧さえ届けば村民は生きる事が出来るでしょう。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はAです。
 想定外の事態は絶対に起こりません。

  • <マナガルム戦記>Respice, adspice, prospice.完了
  • GM名茶零四
  • 種別リクエスト
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2020年11月30日 22時20分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費200RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

マルク・シリング(p3p001309)
軍師
※参加確定済み※
シラス(p3p004421)
竜剣
リア・クォーツ(p3p004937)
願いの先
※参加確定済み※
ルカ・ガンビーノ(p3p007268)
運命砕き
ベルフラウ・ヴァン・ローゼンイスタフ(p3p007867)
雷神
リンディス=クァドラータ(p3p007979)
ただの人のように
※参加確定済み※
長月・イナリ(p3p008096)
狐です
ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)
戦輝刃
※参加確定済み※

リプレイ


 はっ、くしょん!

 雪山の中で響いた一声はシラス(p3p004421)のモノであった。
 息が白く消えていく。身体の身震い――シバリングが発生する程の環境。
「さっさと引っ越せば良いのによォ! あーもう全く!」
「文句言わないの、シラス。嫌なら断れば良かっただけでしょ」
「うるせー! その精霊の加護を引っぺがしてから言えよ!」
 シラスの抗議は『願いの先』リア・クォーツ(p3p004937)へ。雪の精霊達と通じ合う術を持つ彼女は、同時に冷気に対してある程度の耐性を持っていた――尤もシラスの寒さにしろ気持ち的なモノであり、いざやこの先体を動かす様な事態が始まれば差はないだろう。
 つまりは戦闘。この先は怪鳥共が出る地らしいから。
 ともあれリアは寒さに耐えるシラスを余所に精霊達と戯れて雪の詩を周囲へ。
 冬を称する幻想の詩を。この時期に語って聞かせる――柔らかい歌声を。
「ハハ――しかし雪、ねぇ。ラサじゃあ雪なんてもんにゃ縁がなかったが、雪が降る地域にゃこんな問題もあるんだな……おっ? ならそういう地域向けの商品を考えたら商売のルートに乗るんじゃねぇか?」
 進むシラス達の会話を眺めながら『アートルムバリスタ』ルカ・ガンビーノ(p3p007268)は呟く。砂漠地帯であるラサを主とする彼にとって『雪』の存在は中々に貴重だ。こういう些細な機会にも商売の事が思い浮かぶのも、お国柄といえる。
 手に落ちて来れば溶ける一滴。
 不思議なものだ。鉄帝辺りであれば珍しくもない光景なのだろうが……と。
「ハハッ、そうだね……雪には雪の悩みがある。そういう商品があったら買う人もいるんじゃないかな」
「ま、ひとまずはこの荷車を運んでから――だな」
 話をしながら共に荷車を運んでいるのはマルク・シリング(p3p001309)や『黒狼領主』ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)である。村に運ぶための食糧を詰んだ荷車――平時であればもう少し楽なのだが、正規のルートが潰れている以上マトモな道は使えない。
 それ故に事前に道順は調べていた。何処を通れば負担が少ないだろうか。
 またマルクは防寒具も集めて皆に配ってもいる――それでも寒いのは冬だから、か。
 こんなにも寒いというのに村人たちは留まる事に拘っている。
「故郷へと骨を埋める事を望んだ者達、か」
 呟くベネディクト。非合理であるのは確かだが、しかし気持ちは分かるものだ。
 今となっては異世界――この混沌の世に召喚された身ではあるが。
 望郷の思いはあるのだ。
 ああ、故郷……か。
「……住み続けた場所には魂が根付く。決して見えない、しかし確かに在るものがな」
 同時。語るは『金獅子』ベルフラウ・ヴァン・ローゼンイスタフ(p3p007867)だ。
 故郷の概念は余人には分からぬものがある。
 どれだけ過酷な地であろうと『ここに私はいたのだ』とする心は――不思議とあるのだ。
 ……決して理解の範疇にある概念ではない。当人のみが知る理。
「如何に苦しかろうと、辛かろうと、そこには住まう者の平穏がある。
 それは分かる。だからこそ死ぬとしても納得出来るのだろう……だが」
 それでも終わらせてなるものか。
 『こんな所』に住み続けた所為で終わったなどと――そんな事は決して許さない。
 だから必ず届けてみせよう、この荷車を。
「おいおいベルフラウ、こういうのは……」
「ははっ。なに、これでは手持無沙汰だよ。荷車を押すのに、男女の枠組みもあるまい」
「いやいや。俺にも男の矜持ってのがあるんでな。何より、この後鳥共が襲ってきたら任せる事があるんだ……この場は任せてくれよ」
 後ろから押すベルフラウ。任務で男女は気にしないで欲しい、のだが。
 しかしルカにもルカの信念があるか――ならば、ここは此方が折れておく事にしよう。
 何があろうと『折れぬ』事が信条ではあるのだが、年上の余裕と言う奴だ。まぁ尤も、この荷車自体『狐です』長月・イナリ(p3p008096)の手によって改造された一品だ――
「重量の増加を抑えつつ車軸などのフレームを補強してるわ。
 誰であっても運びやすいようにしてるし――問題ないわよ。
 雪が降り積もっていようとね」
 男女の枠組み非ず。如何なる者でも運べるとイナリは言う。
 積雪が十分な状況であればスキー板を取り付けて滑るように移動させる事も可能となる。今の所は、荷車の重量を含めスキーで移動できるほどの積もりがないために滑落などが無い事を優先としているが――いずれにせよ運びやすい状態だ。
「よし、ここまでは順調ですが……この先が怪鳥が出るという箇所でしょうか」
「うん――今の所姿は見えないけれど、要注意だね」
 と、前を進む『夜咲紡ぎ』リンディス=クァドラータ(p3p007979)が警戒を務めながらマルクへと言葉を。道を見据え、少しでも通りやすい道をその場で導き出すのだ。地図の上からでは大まかであり、やはりこういう要所の場では自らの眼こそが確実。
「……雪山の村、ですか」
 見る。恐らく村があるであろう方向を。
 マルクが通らねばきっと誰も手を伸ばす事はなかったのだろう。
 それでも縁は紡がれ、伸ばせる手があって。
 私達に何かできるのなら。
「――行きましょう。住民の方の物語を途絶えさせない為」
 未来に物語を、綴る為。


 幸いと言うべきか、雪の勢いは強くない。
 ちらほらと降る程度だ――これならこれ以上足元の状況が悪くなるという事もないだろう。
 その中を先往くはシラスだ。地面を見るだけではなく、空も警戒中。
 既に怪鳥たちの縄張りに入っている……いつどこから奴らが襲ってくるか知れない。
 ……いやなんとなく気配は感じているのだ。
 間違いなくどこかにはいる――
「――と。おいでなすったな」
 と、後方。荷車の近くに居る者達をシラスが手で制する。
 『いた』のだ。空を旋回する怪鳥が。
 ……アレはこちらを見つけているのかいないのか。
 二秒、いや三秒眺めた――後。
「来るわよ」
 呟いたのはリアだ。好戦的な音色に変わったのを感じ取ったか?
 直後に飛来せし怪鳥の一撃。急降下して獲物を狙わんとする――穿つ一撃が振るわれた。
 されど先んじて発見していたのはイレギュラーズ達の方。ならば防御は整えており。
「ベルフラウさん! 私が引き付けるわ――
 でも他の怪鳥が寄せられてこないとは限らない! 警戒をお願い出来る!?」
「無論だ! 荷車には一切傷を付けさせんよ!」
 その一撃、止めるはリアだ。守護の加護を齎して万全の状態で怪鳥の注意を引きつける――治癒の術も併用させれば、早々に落ちる事など決してない。心配すべきは他に潜んでいるかもしれない怪鳥だ、と。
「リア!」
「余計な心配は結構よ。あたしだって、強いので! 人の心配してる暇があったら――ほらシラスッ! アンタもカッコいい所見せてよね! そしたら、ほんのちょっとくらいは見直してあげるわ!」
「うっせ! だったら見てろよ、お前ッ――!」
 急降下しかなり距離を詰めた怪鳥へと放つは魔力の礫。
 撃ち落とす。もう一度飛ばせはしないと、狙うは羽根で。
 可能であれば樹の幹でも蹴って追いかけたい所だが――言われているように他にも怪鳥はいるのだ。離れる事は出来ないと、この場から攻撃しうる手段である魔力の収束と投擲に専念し。
「チッ! 東の方から更に二体来るぞ――やっぱ戦闘の音を嗅ぎ付けてきやがったか」
「ああ。だが、自由自在に空を飛び回られるのは厄介だが……何も手が無い訳では無い。早々に片を付けて、我々を待つオランド村まで急がねばな。こんな所で荷を失う訳にも、足止めされる訳にもいかない」
 空を見据えるルカが見つけたのは新たな怪鳥達だ。
 やはり空を飛んでいる相手には攻撃手段が限られる。厄介ではある……が。ベネディクトの言う通りこんな所で手古摺っている場合ではないのだ。怪鳥如きに――この荷物をくれてやる訳にはいかない。
「ふふっ、これほどの襲撃が行われるとは……
 守るべき対象が人であれば花だが、今日に限っては花と言うよりは飯だな。
 花より団子とでも言おうか!」
 故にベルフラウが今度は前に出る。勝利への誓いと騎士の誇りを高々と。
 それは怪鳥達の耳に届き――彼女の姿を捉えさせる。さすれば鳥達は荷よりも優先した上で――地上付近へと急降下してきて。
「悪いな、お二人さん……頼りにさせてもらうぜ!」
「行くぞ! 奴らを叩き落とし、障害を排除する!!」
 そしてそこを狙うのはルカとベネディクトだ。
 先程のリアの様にベルフラウが引きよせ、そこを他の者が一気に攻め立てる。繰り出す直視の一撃が怪鳥の心の臓を穿ち、逃げんとすればベネディクトの槍の剛閃が――羽根を穿つのだ。
 空気を割きまるで狼の遠吠えであるかのように。
 鳥如きが――逃げられると思うな。
「今のうちに荷車を安定した所に移動させておきましょ。此処でも大丈夫だと思うけど、万一がね」
「ええ。後ろから押します!」
 その間にもイナリとリンディスもまた動くものだ。
 近付く怪鳥があらばイナリが至近距離より弾き、ついでに隙あらば明るい色合いの布を樹に巻き付けておく――万が一またこのような道を辿る際の目印となる様に、だ。リンディスは同時に邪魔になる石があらば除去し、マルクへと支援の『鏡』を映し出す。
 それは対象の負担を軽減する神秘が一角。
 加護を得たマルクは仲間の傷を癒す聖なる領域を――展開して。
「君達もきっと、冬に備えてるんだろうけど……ごめんよ。
 僕らにも僕らの護るべきものがあるんだ」
 紡ぐは鳥に対して、だ。
 彼らも彼らの食い扶持の為があるのだろう。冬と成れば食料は潤沢ではない。
 それでも君達にこの食糧は渡せないんだ。
 邪気を払う光を振るい、奴らを退けれ――ば。
「貰ったぜ――逃すかよぉッ!」
 シラスが往く。
 荷車を襲わんとしていた鳥はマルクの一撃により一瞬怯み、だからこそ隙を見逃さなかった。
 踏み止まって刹那の至高へと至る彼の集中は。

 この一瞬、人域を超えるのだ。

 地を踏み砕かんばかりの跳躍から繰り出される貫手は嘴を、爪の一閃を見切って全てを超越。怪鳥の首元に吸い込まれるかのように――貫いた。
「見たか、俺のこの華麗な一撃……おいコラ、リアァッ! 見ておけってお前ッ!」
 丁度のタイミングで別方向の怪鳥を処理していたリアは『はっ?』という表情でシラスを見据える。仲いいね、君達。
「怪鳥達が怯み始めたか……丁度良い。行きかけの駄賃だ――奴らも捌いて食ってくれよう!」
「ああ。此処まで来たら逃がしゃしねえ……! 荷の食料の一つにしてやんよ!」
 同時。ベルフラウとルカが追撃するかのように怪鳥へと。
 怪鳥達は鋭い爪を持っているが――しかし一騎当千のイレギュラーズ達は及ばぬようだ。
 彼らの防御陣はとても突破できない様であり。
「見えた――あれがオランド村ね。早く運び込むとしましょうか!」
 そしてイナリの目にやがて――目的地の村の姿が見え始めていた。


「おお……まさか本当に、山を越えてここまで来ていただけるとは……!」
「ふふふ、これだけじゃないわ。
 私は動く穀物地帯、私が居る限り食べる物には困らせないわよ!」
 オランド村に到着したイレギュラーズ達は早速食料を備蓄庫へと運んでいく――これでこの村は少なくとも今年の冬を越す事は出来るだろう。もののついでに荷車はイナリの手によって解体。燃料として活用できるように薪代わりとして。
 更にイナリは自らの祝福によって米や麦などの五穀を彼らへと振舞おう。
 自らの力を用いればある程度の量を創り出すは容易――こんな事もあろうかと食料調達用の種も用意していたのだ。林檎や蜜柑、貴重な果物栄養を此処に。
「あとは、良いのか悪いのか雪だけは豊富だからな……氷室でも作ってみっか。上手くいけば秋まで保管する事が出来るようになるだろうし、それに設備がなけりゃ無駄になる食糧も出てくるだろうしな……」
「おおそいつはいいアイディアだ。一時凌ぎだけ出来ても、結局意味がねぇし忍びねぇ。俺も手伝うぜ」
 そしてシラスは食糧の保管施設として氷室――つまり氷や雪を貯蔵し食料を冷凍できる環境を整えようとしていた。きちんと保存して食いつなげば、蓄えに回す分をひねり出す事は出来る筈だ。村人にとっても損はなく反対がなければ、これも折角の縁だとルカも手伝いに入って。
「あとは可能なら伝書鳩……とかがあると良いんだが、怪鳥が近くにいると難しいよなぁ。花火の打ち上げ施設でも作ってるみるか? 周辺の地域との連携が必要になって来るけどよ」
 アイディアを持ち寄って少しでも良くなるようにと思案する。
 村人にとってはありがたい話だ――ありがたい話だ、が。
「どうしてそこまで……」
「――どうして、ですか?」
「言うなればこれは一時の縁。偶然による産物でしょう。我々には、多くの代価を支払えるだけのものはないというのに……」
 村人の疑問。それに応えるのはリンディスである。
「困っていることを知ったとき、力となり一人でも多く守りたいのです。もしも、そうですね……心苦しいというのなら代価を――貴方達の物語を教えてくださればとても嬉しいです」
「……物語?」
「ええ」
 貴方達だけが知る物語を。
 そしてまた、冬が溶けたあとで新しい物語を始めましょう。
 雪の雫が流れた後に、どうかまた……
「……大丈夫。きっと彼らがなんとかしてくれるわ」
 そして村人の肩を支えながら、シスターたるリアは優し気な表情を彼らへと注ぐ。
 難しい事はきっとマルク達が何とかしてくれる。
 だから――自らは心を持って彼らに寄り添おう。

 ……ウチのババアを思い出すし、ね。

 恩あるシスターよ。老齢に至る彼女の事がどうしても脳裏に過るから。
 どうかこの村も――この人達も元気になってもらいたい。
 祈る。天へ。
 そして聞く。彼らの生き様を。彼らの歩んだ道のりを……
「他に我々で行える範囲で手伝えることは――何かあれば遠慮なく言って欲しい。折角の機会なのだ」
「ふむ……と言ってももうここまででも十分に……」
「――なら、今ここでローレットに依頼をくださいませんか?」
 まだ無いか? と問うベネディクト。
 されば思案する村人に対し――提案するのはマルクだ。
「真冬に一度様子を見に来いと。春になったら村の整備を手伝えと」
 マルクはこの村を――いやこのような村をどうしても見捨てられない。
 似るのだ。
 故郷の村に。
「僕の生まれた村はこの近くにあって……ある冬を境に無くなりました」
 飢えと寒さで皆が死んでいった。
 朝起きたら隣の者が凍って死んでいた事もある。
 ……それでも誰も来てくれなかった。
 誰も気づいてくれない、見つけてくれない地獄だった。
「この村はそんな風になってほしくない――だから手伝わせてください」
「お主は……」
 もうあんな光景は嫌なのだと。
 紡ぐ言葉には――魂が乗っている。
 村人は沈黙する。一拍か二拍か、あるいはもっと、もっと。
 それでもやがて――首を縦に振って。
「どうか、よろしくお願いしたい」
「ええ勿論です――それと」
 村人と硬い握手を交わし、向き直るはベネディクトの方へ。
「お願いがあります」
「出来る事ならば」
「2つ、あるんです。
 1つは、僕を正式に黒狼隊の一員としてください。
 僕が一人で出来ることは限られています――でも」
 貴方の槍と、その旗の下に集った仲間となら。
「より多くの人を助けられると思うんです」
 きっと、伸ばした手が誰かに届く。届かなくても、誰かの手と繋いでより遠くまで。
 きっと拾える何かがある筈だから。
「ああ――無論だ。優秀な人材は何人居ても困らん……その上『此れから』を見据えるならば尚の事だ。シリングを我が黒狼隊の一員として正式に迎える様に話を進めよう――そして、もう一つは?」
「ええ。これよりは、僕の事を『マルク』とお呼びください」
 シリングは養父の姓だった。
 かつて引き取ってくれた養父――彼には感謝している。今の自分は養父に拾われなければ無かった。でも。
「僕はもう、シリングの家を出た身なので……姓で呼ばれるのは、少し、気まずくて」
「成程」
 苦笑する様に、ベネディクトは表情をやわらげれば。

「ではこれよりよろしく頼むぞ――マルク」
「ええ――マナガルム卿」

 ここに、黒狼の剣が一つ加わった。
 彼は黒狼の猛々しい牙となるのか。或いはその身を護る雄々しい毛髪の一片となるのか。
 それは――また別の物語。

 これより先に続く、未来の物語である――

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

 ――ありがとうございました。

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