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シナリオ詳細

<果ての迷宮>ナイトフェスは終わらない

完了

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 幻想国の王都《メフ・メフィート》。
 その中央にある果ての迷宮の踏破は、幻想貴族の悲願である。
 基本的には厳重に管理されているこの場所に一般人の立ち入りは出来ないのだが、現状は数々の依頼によって名声を上げたローレット所属のイレギュラーズ達が幻想貴族の名代として攻略に臨んでいる。
「最近はとんとん拍子で探索が進んでて、嬉しい限りだわさ」
 小柄な幻想種女性、『総隊長』ペリカ・ロズィーアン(p3n000113)はにこにこしながら今回探索に当たるメンバーへと握手を求める。
 探索は21階層を突破したところで、次は22階層へと進む状況。
 ペリカは先んじてその内部の偵察に向かっていたとのこと。
「入ったら出られなくなるだわさ。準備はしっかりと行うべきねぃ」
 最初、入り口にて子供の姿をした邪精が3体現れる。
 彼らはそのままフロア奥、夜の祭りが開かれる商店街のような場所へと消えていく。
 これを追ってしまったら、出られなくなると判断したペリカはそこで一度引き返したとのことだ。
 その奥については、『穏やかな心』アクアベル・カルローネ(p3n000045)が自らの予知を踏まえて説明する。
「練達の再現性東京を思わせるような街ですね。……楽しいお祭りが終わることなく開催され続けています」
 屋台が立ち並ぶ商店街の道路。そこには浴衣姿の人々が多数で歩いており、祭りを楽しんでいる。
 その中に、入り口で出くわした邪精達が潜んでいる。
 彼らは混沌の種族と思しき特徴を備えており、人々に尋ねることでその居場所を突き止めることが可能だ。
「見た目もそうですが、性格も異なっていて、その特徴を抑えることで発見は容易になります」
 イレギュラーズ達もその作り出された祭りを楽しむことは可能ではあるが、邪精達が作り出した幻術であることは踏まえておきたい。
 3人を発見すれば、その街中で交戦となる。
 それぞれ得意とするスキルを使って幻術の祭りを護ろうとするが、彼らを倒すことでそれらは消えてしまい、先へと進む扉が現れる。
 アクアベルの予知によればこんなところだ。
「なるほどねぃ。まずはその邪精の子供達を見つけなければならないわさ」
 うんうん頷いていたペリカの言葉に応じ、イレギュラーズ一行も準備を整えてから迷宮内へと足を踏み出す。
「皆さん、お気をつけて。邪精達はかなり底意地も悪そうなようですので……」
 そんなメンバー達を、アクアベルは入り口で見送るのだった。


 フロアの入り口まで向かうと、ペリカが言った通り、3人の邪精がイレギュラーズ達を待ち構えていた。
 その邪精達の見た目は、混沌の種族の子供を思わせる。
「ようこそ、私達の祭りへ」
 その少女は緑の浴衣を着用しており、とがった耳から幻想種ではないかと感じさせた。
「君達は何を食べるのかな。お腹いっぱい食べてってね」
 こちらは首から上半身が機械となった少年。鉄騎種を思わせる彼は赤い浴衣を纏っていて、笑顔で食べ物を進めてくる。
「……屋台は食べ物だけじゃないよ」
 両腕が体毛に覆われ、髪から突き出す耳はクマのそれ。青い浴衣を着たもう1人の少年は獣種のような見た目だった。
「私達と一緒に遊ぼう」
「祭りの中で僕たちも遊んでいるから……」
「……見つけてごらん」
 彼らはそう言い残し、祭りの雑踏の中へと消えていく……。

「らっしゃい、らっしゃい!!」
「食べてってー、イカ焼き美味しいよー!!」
 香ばしい匂いの漂う屋台で呼び込みを行う店主の声が飛び交う中、多数の浴衣姿の人々が笑いながら歩いている。
 とても楽しそうな祭りは終わることなく、活気に満ちた商店街で催され続ける。
 だが、それはどこか歪さを感じさせて。
 人々は確かに祭りを楽しんでいるのは間違いないが、彼らはなぜこの場にいるのか、それさえ忘れているような……。
 ――くすくす、くすくす。
 どこかからか聞こえてくる笑い声。
 それは、入り口で出会った邪精達のものだ。
 彼らがどこにいるのか、待ちゆく人々へと尋ねていくと……。
「見たよ、わたがしとトウモロコシ持った子供。なんかの仮面付けてたな」
「んー、3人で一緒には行動してなかったと思うな」
「女の子と一緒に遊んだよ! なんだっけあれ、針でカリカリするやつ……」
「獣の少年? 見なかったな。そんな子いたっけ?」
「……そんなことより、金魚釣りやってって。楽しいよ?」
 もっと聞けば、邪精達の居場所を特定できる有用な情報が得られるかもしれない。
 まずは邪精達とかくれんぼ、あるいは鬼ごっこ。
 この楽しくも歪な祭りを終わらせるため、イレギュラーズ達は夜市の行われる商店街を奔走するのである。

GMコメント

●シナリオ詳細
 イレギュラーズの皆様、こんにちは。
 GMのなちゅいです。

 22階層の攻略を担当させていただきます。

●目的
 次の階層に進み、次なるセーブポイントを開拓することです。
 また、誰の名代として参加するかが重要になります。

※セーブについて
 幻想王家(現在はフォルデルマン)は『探索者の鍵』という果ての迷宮の攻略情報を『セーブ』し、現在階層までの転移を可能にするアイテムを持っています。これは初代の勇者王が『スターテクノクラート』と呼ばれる天才アーティファクトクリエイターに依頼して作成して貰った王家の秘宝であり、その技術は遺失級です。(但し前述の魔術師は今も存命なのですが)
 セーブという要素は、果ての迷宮に挑戦出来る人間は王侯貴族が認めたきちんとした人間でなければならない一つの理由にもなっています。

※名代について
 フォルデルマン、レイガルテ、リーゼロッテ、ガブリエル、他果ての迷宮探索が可能な有力貴族等、そういったスポンサーの誰に助力するかをプレイング内一行目に【名前】という形式で記載して下さい。
 誰の名代として参加したイレギュラーズが多かったかを果ての迷宮特設ページでカウントし続け、迷宮攻略に対しての各勢力の貢献度という形で反映予定です。展開等が変わる可能性があります。

●状況
 フロア入口で3人の邪精達が祭りの中へと消えていきます。
 催される祭りは彼らが作り出す幻術であり、そのまやかしを打ち破る為には邪精を3人とも見つけ出す必要があります。
 OPの人々の言葉を頼りに、邪精達がどこにいるのかを見つけ出してください。1人で全員を発見するより、参加者で手分けしてそれぞれが邪精1人の発見に注力する方が効率的でしょう。合間で屋台を楽しむのはOKです。
 また、夜市の参加者に尋ねるプレイングで補正がかかり、見つけ出したという判定を出す場合もございますので、居場所が特定できずともそちら側でよりよいプレイングを目指していただくこともできます。

 3人とも発見すれば、祭りの中で邪精達と交戦することになります。
 全員を撃破した場合、祭りは消え去り、先へと進む扉が現れて今回の探索は終了となります。
 全員を発見できなかった場合、または邪精達に敗北した場合、全員のパンドラを使用した上でフロア入り口に戻され、今回の探索は失敗となります。

●敵……邪精×3体
 混沌に住まう種族の子供の姿をした邪精達です。
 永遠に続く楽しい祭りの参加者として、多数の魂を捕らえています。彼らを倒すことでそれらの魂は解放されます。

○長女、アールヴ
 緑の浴衣。幻想種の少女を思わせる姿をしております。
 一度、何かに夢中になるとそれに没頭するようです。
 戦闘になれば、正確な狙いで槍を突き出してくる他、眩惑の術でこちらを惑わせてきます。

○長男、ドヴェルグ
 赤い浴衣。鉄騎種の少年を思わせる姿をしております。
 美味しい物を食べ歩くのが大好きなようです。
 戦闘になると、手にする武器で力任せに斬撃、打撃を与えてくる他、爆発物を投げつけてくることもあります。

○次男、トロルド
 青い浴衣。獣種の少年を思わせる姿をしております。
 やや物臭な性格のようで、外を出歩くのを嫌がっているようです。
 戦闘になると、水を操って放出したり、足元を掬ってこちらの動きを止めてきたりすることがあります。

●同行NPC……ペリカ・ロジィーアン
 タフな物理系トータルファイター。戦闘でも協力してくれます。個人で考えて行動しますが、指示があればそれに従ってくれます。
 邪精の捜索パートでは誰と一緒に行動するか、彼女にこういうふうに探してほしいなど指示も可能です。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

 それでは、よろしくお願いいたします。

  • <果ての迷宮>ナイトフェスは終わらないLv:10以上、名声:幻想10以上完了
  • GM名なちゅい
  • 種別EX
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2020年12月07日 22時05分
  • 参加人数10/10人
  • 相談7日
  • 参加費150RC

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(10人)

セララ(p3p000273)
魔法騎士
サイズ(p3p000319)
妖精■■として
主人=公(p3p000578)
ハム子
イーリン・ジョーンズ(p3p000854)
流星の少女
アト・サイン(p3p001394)
観光客
ムスティスラーフ・バイルシュタイン(p3p001619)
黒武護
黎明院・ゼフィラ(p3p002101)
夜明け前の風
シラス(p3p004421)
超える者
ユゥリアリア=アミザラッド=メリルナート(p3p006108)
氷雪の歌姫
レイリー=シュタイン(p3p007270)
ヴァイス☆ドラッヘ

リプレイ


 果ての迷宮の探索も慣れたメンバーが揃った今回……22階層への挑戦。
「ようこそ、私達の祭りへ」
「君達は何を食べるのかな。お腹いっぱい食べてってね」
「……屋台は食べ物だけじゃないよ」
 入口では、緑、赤、青の浴衣を着た3人の邪精達が悪戯な笑みを浮かべる。
「私達と一緒に遊ぼう」
「祭りの中で僕たちも遊んでいるから……」
「……見つけてごらん」
 彼らはそのまま、後方の光の中へと消えていく。
 やがて、その光は止み、突入した今作戦のイレギュラーズ達は思わぬ光景に目を見開く。
 そこにあったのは、練達の再現性東京で行われる夜市、縁日を思わせるような街だった。
「らっしゃい、らっしゃい!!」
「お好み焼き美味しいよ、一枚どうだい!?」
「よってって、見てってー!!」
「……金魚釣りやってって。楽しいよ?」
「たらふく食ってけ、サービスするぜ」
 長く続く直線状の商店街に屋台が立ち並んでおり、店主が呼び込みを行っている。
 焼きそば、お好み焼き、たこ焼き、フランクフルト、ホットドッグ、りんご飴、わたあめ、かき氷……。
 食べ物だけではない。お面やビニール玩具、バルーン風船なども販売している。
 また、遊びだって多様で、ヨーヨー風船釣りに射的、型抜きに輪投げ、金魚すくいやスーパーボールすくい、ビンゴにくじ引き……。
 屋台の種類は数え切れぬ程あり、いくら渡り歩いても飽きることは無い。
「ねえ、今度はアレやってみよ!」
「お父さん、今度はあの屋台の食べたい」
「ちょっと疲れた、ラムネ飲もうか」
 浴衣や甚平を着用した祭りの参加者達は、あちらこちらを気の向くままに歩き、屋台を巡り歩く。
 そんな祭りが終わることなく、延々と催されている……。
「あらあら、お祭りの中で追いかけっこでございますかー」
 シロイルカ型の下半身を持つ海種、『氷雪の歌姫』ユゥリアリア=アミザラッド=メリルナート(p3p006108)は祭りの喧騒を見回す。
「再現性東京にも似た町並み……どうにも出身世界を思い出すね」
 金のくせっ毛、機械の四肢を持つ『夜明け前の風』黎明院・ゼフィラ(p3p002101)は元居た世界で、虚弱だった彼女は寝たきりであり、こうした祭りへと遊びに行きたいと考えていたという。
「少々似つかわしくないと感じてしまいますが、果ての迷宮ですもの、こういうこともありますわよねー」
 見失った邪精3人がどこに行ったのか、捜索をと考えるユゥリアリア。
 同じく、司書の偽名を持つ冒険者風の衣装を纏った『天才になれなかった女』イーリン・ジョーンズ(p3p000854)は持ち前の力を使って邪精の捜索に当たる構えだ。
「闇雲に追っても見つけるのは困難だね。担当を決めて捜索しよう」
「それがいいと思うだわさ」
 そこで、ゲームの主人公の姿をとる『ハム男』主人=公(p3p000578)が作戦を提案すると、同行する愛らしい姿をした幻想種女性『総隊長』ペリカ・ロズィーアン(p3n000113)が同意する。
 メンバー達はしばしの間話し合い、どの邪精を捜索するか班分けしてからごった返す人並みの中へと散開していくのである。


「ようこそ、私達の祭りへ」
「私達と一緒に遊ぼう」
 事前にそう告げた邪精の長女アールヴの探索に、イレギュラーズ達はメンバーの半数を割くこととなる。
 最初にさらした姿は、緑の姿を纏った幻想種といった出で立ちだった。
「長女のアールヴを探すよ」
 そう告げた黒の無造作ヘアにカジュアルコーデを着用したシラス(p3p004421)を含め、アールヴ捜索班は5人。
「アールヴを見つけ出し……倒す?」
 捜索前、大鎌を携えた妖精の姿をした『カースド妖精鎌』サイズ(p3p000319)はその名にかなり引っかかっていて。
「アールヴ……なんだろう、俺の中の妖精センサーが反応する名前だな……。でも見た目は幻想種……?」
 旅人であるサイズの本体は大鎌であり、所持する妖精は魔力で作った擬体でしかない。
 彼にとって、妖精は斬りたくはない相手だが、相手が妖精かどうかを調べる為にもちょっと血を味わいたいと考える。
 妖精の血かそれ以外の血か、サイズは口にするだけで識別ができるのだ。
「……まあ、代わりに妖精の血を舐めたら俺は衝動に身を任せて行動しちゃうけど……まあ、何とかなるよな?」
 そう気にかけながら、サイズはシラスと共に何かを作り始める。
「ふむ、ニセの屋台で釣る、と。いいじゃないか、ある意味罠設置っていうところだね」
 それに、自称観光客、前人未到の地を求めて冒険を繰り返し、果ての迷宮にも強い興味を示す『観光客』アト・サイン(p3p001394)は、納得するように頷く。
「派手なパフォーマンスで人を集めるようなお祭りによくあるやつだね」
 シラスが言うように、2人が出す屋台は、サイズが作る玩具でシラスが大道芸を披露するというもの。
 どんなパフォーマンスかは見てのお楽しみだ。
「自分達が生み出してない屋台があれば気になって来ちゃうよな? そこを見つけるなり確保したりするのだ」
 これなら、アールヴを誘い込めると、サイズは自信を見せる。
「それじゃあ、屋台を作り上げよう。少々時間をくれ」
 ならばとアトが屋台を作ろうと申し出て、陣地構築で周囲に紛れ込むようにしてみせる。これによって、周囲から見れば撤収うが容易なようかなり簡素な造りになっていた。

 また、公とペリカがアールヴ捜索班となるが、彼女達は屋台づくりをするメンバーから離れて祭りへと繰り出していた。
「お祭り良いよね」
 ギフトによって、男女のアバターを変化できる公だが、今回は男性の姿をしており、甚平姿で祭りを楽しんでいた。
「そうだわいねえ」
 ペリカはいつもの姿だが、公と共に満喫していたようだ。
 公の手には、りんご飴に焼きそば、タコ焼き。合間に彼は三角くじに射的とあちらこちらの屋台を歩き回る。
「あとはかき氷とかクレープとかも押さえておきたいし……、うーん悩むね」
 あれこれと悩む公だが、やるべきことも忘れてはおらず。
「ところで、これこれこういう格好の女のコ見かけなかった?」
 すると、近場にいた女の子が「あそこにいたよ!」と型抜きの屋台を指さす。
 公は礼を言いつつ、型抜きの屋台へと向かう。
 屋台内は風よけの為か布地で覆っており、その中で数人の大人や子供が机に向かっている。
 その中に、目的の少女はいた。
 カリカリ、カリカリ。
「うーん……」
 カリカリ、カリカリ。
 緑の浴衣を纏った幻想種の少女を思わせる姿をした邪精。
 彼女……アールヴは自分達の役割も忘れ、型抜きに夢中になっていた。
「やあ、隣良いかな」
「んっ……もう見つかったのっ!?」
 公が声をかけ、先に買っていた型抜きを手にアールヴへと近づく。驚く彼女は早くも観念したようだ。
「どうせだったら、勝負と行かないかい?」
「いいわね、前哨戦といくわよ」
 負けた方が勝った方に何か奢るという条件を突きつけた公に、アールヴも弟達が見つかるまではまだ時間があると応じてみせる。
「楽しみだわいねえ」
 公が型抜き勝負を吹っ掛ける様子を、ペリカは楽しそうに見つめていた。

「君達は何を食べるのかな。お腹いっぱい食べてってね」
「祭りの中で僕たちも遊んでいるから……」
 邪精の長男ドヴェルグは赤い浴衣を着ているという。
「長男、ドヴェルグを探すよ!」
 うさ耳リボンが特徴的な金髪ボクっ娘魔法少女、『魔法騎士』セララ(p3p000273)は意気揚々と宣言する。
「果ての迷宮でお祭りなんてね。それだけなら楽しみながら踏破って思うけど」」
 同行する金髪の女性騎士、白い浴衣に身を包む『ヴァイスドラッヘ』レイリ―=シュタイン(p3p007270)が呟きながら見回す赤い双眸は和やかとはいかない。
「楽しいお祭り! けど、これって無理矢理やらされてるんだよね」
 頭部に宝石の角を持ち、ふわふわと浮かぶ白いおヒゲのおじいさん、『気合いだよ気合い』ムスティスラーフ・バイルシュタイン(p3p001619)は祭りを楽しむ人々を見回す。
 実はこの場の人々は邪精3兄弟によって魂を捕らわれている。祭りを楽しんでいるのは間違いないだろうが、永久に続くこの祭りから出られない者達なのだ。
「早く解放してあげないと可哀想」
 その事実を知れば、ムスティスラーフも黙ってはいられない。
「魂が囚われてるなら、最後は倒さなくてはね」
 レイリーもそう告げながら探索に乗り出すのだが……。
「よし、まずは食べ歩きだ!」
 ムスティスラーフは目についた焼き鳥やフランクフルト、イカ焼きといった料理を購入する。
 落としたらもったいないと考えた彼はギフトを使い、浮かしてからそれらの食べ物を美味しそうに口にする。
 同行メンバーの視線を受け、ムスティスラーフは少しだけ慌てて。
「あっ、いやこれはドヴェルグ君を探すためだよ」
 買った食べ物はちゃんと味がするし、手が込んだ料理で美味しい。
 それらを食べながら、ムスティスラーフは購入の際にお店の人にドヴェルグらしき人を見なかったかと尋ねる。
 セララもまたトウモロコシのお店に向かう。
「赤い浴衣に首から上半身が機械の少年が来なかった?」
「おお、なんか見た気がするなあ」
 トウモロコシの屋台の兄ちゃんは唸りながら戦隊ものの仮面をつけていた事を思い返す。
 傍ではレイリーもまた焼そばにたこ焼き、りんご飴を買いつつ。
「おじさん、1つ下さい。あと、人探しているんだけど協力して」
 買ったものを口に入れ、レイリーも同じく、赤い浴衣、鉄騎種、少年の特徴を備えた客が来なかったかどうか聞き込みを行っていた。
 3人は先に、この祭りを堪能すべく屋台を歩く。
 別に急ぐ依頼でもない。のんびりと歩きながら邪精捜索をしても損はないと考えていたようだった。

「……屋台は食べ物だけじゃないよ」
「……見つけてごらん」
 もう1人、次男トロルドの捜索メンバー達。
「さて――」
 司書、イーリンは友人仕込みの探偵術を使い、自らのエスプリ「車椅子探偵・シオン」に装備で強化した看破能力、と直感。さらに探偵能力もフル稼働して多数の人々が行き交う会場を調査する。
「遊びたいところだけれど、さすがに永遠にいるつもりはないよ」
 多少はこの祭りを見回りたいと考えるゼフィラだが、早いところ次の階層にとトロルドの発見に動く。
 事前情報によれば、トロルドは外を出歩くのを嫌がっているという。
 ユゥリアリアはそれを静かな場所がお好みと判断し、祭りの喧騒から離れた場所で花火の場所取りと推察して。
「……何て考えておりますが、如何でしょうか、名探偵さま」
「そうだね……。私なら、『お祀り』をする神社が静かであるべきと思うけど」
 同意したゼフィラは風の加護を得て空を舞い、上空から人気のない場所を探す。その際、彼女は黒い外套を纏うことで目立たぬよう配慮していた。
 事前情報を元に、ゼフィラは自らの主張通り、人気のない神社や屋根のある休憩所、お化け屋敷などのような中に入るタイプの出し物があればそれもチェックしていく。
 合わせて、ゼフィラはこの階層の広さを把握しようと努める。
 屋台が立ち並ぶメインストリートは元々商店街の大通りであり、3車線の通りの左右に裏通りが2つずつ存在し、その先はループしてしまう形となっているようだ。
 なお、裏通りでも人はそれなりに多い。人気のない場所を探すのはかなり難しい。
 対して、メインストリートの垂直方向はかなり長い。1キロほどあるだろうか。こちらもやはりループしてしまい、この空間に人々を閉じ込めている状況である。
(思った以上に広い空間のようですわねー)
 エコーロケーションを使っていたユゥリアリアも、ある程度この空間の広さを確認し、範囲を分けて捜索プランを正確なものとする。
 その下、お祭り内では司書イーリンが虚空を見上げる。
 祭りに囚われた人々の魂はどういう状況かと関心を抱き、彼女は霊魂疎通を試みていた。
『今度はこっちの屋台行きたい!』
『なんか忘れてる気がするけど、家族と一緒だし、まあいいか……』
『もうお腹いっぱい……また遊んでお腹へらそっと』
 囚われているはずの人々だが、そんな認識はないようで、純粋に祭りを楽しんでいたようだ。
「それなら……」
 直接、心の声を聞くだけではヒントは得られないと判断したイーリンは情報収集の手段を変える。
「貴方なら、静けさを求める獣の少年はどこにいると思う?」
 そんな問いを投げかけたイーリンはリーディングを働かせ、さらに周囲で動く音、監視の有無がないかと聞き耳を立て、何かあったらすぐに記憶できるようスキルをフル稼働させる。
 あとは何か有用な情報が得られるまで、イーリンも射的でもと屋台に足を向けていたのだった。


 再び、長男ドヴェルグ捜索班。
「う~ん……」
 捜索対象らしき人物の目撃証言をある程度得たところで、セララは飛行のカードをインストールして飛び上がり、直感と超視力を活かしてドヴェルグらしき姿がいないか人波を注視する。
「赤い浴衣はかなり目立つと思うのだけれど」
 食べ物を食べていたレイリーもある程度移動範囲を割り出したところで、地上から透視を使い、屋台や木陰を探す。
 特に、空から捜索するセララが見えにくい部分をカバーし、屋台の中や木々の下などをチェックしていく。
 屋台の食べ物を周囲に浮かせ、美味しそうに食べているおじいちゃん、ムスティスラーフは祭りの人々の目を引いていて。
「まだ、ここには来てないんだね?」
「おそらくは……」
 ドヴェルグらしき少年を見ていないクレープの屋台を見つけ、ムスティスラーフはそこでしばし待つことに。
 程なくして、てくてくと歩いて来たのは、両手の食べ物をほとんど食べ終えた赤い浴衣の少年。
「おじさん、クレープ1つ……」
 戦隊ものの仮面を外したところで、ムスティスラーフが大声を張り上げて。
「邪精がいたよ!」
「……見つかったっ」
 近場にいるはずのセララやレイリーに知らせつつ、彼は反発のジュエルによって低空飛行し、逃げるドヴェルグを追う。
 それがセララにも見えたのか、すぐに夜空へと星夜ボンバーを打ち上げる。さながら、祭りを感じさせる打ち上げ花火だ。
「ううっ……」
 敢えて、人並みの中を逃げる邪精。ただ、ムスティスラーフは人を避け、転ぶ人を回避し、高めた機動力でドヴェルグへと追いすがる。
「こんばんわ! ボクはセララだよ。よろしくね!」
「ひっ……」
 正面から飛来するセララと、後ろからはムスティスラーフ。さすがにドヴェルグも観念し、食べ物を持った両手を上げた。
 そこに、レイリーも追いついて。
「ねぇ、綿飴食べる?」
 すると、ドヴェルグは手を上げたままこくりと頷き、レイリーを差し出したわたあめを一口食べる。口の中で溶ける白いお菓子はとても甘い。
「ねえねえ。まだ時間があるなら一緒に屋台を回らない? お祭りは皆で行動する方が楽しいよ」
 セララがそう誘いかけると、ドヴェルグは少し悩んで。
「……うん。トロルドはまだ見つかってないみたいだし……」
 戸惑いながらも頷いた相手に、セララは大喜び。
「やったー! じゃあ。ドヴェルグとボクは友達ね。チョコバナナとか、リンゴ飴とか、焼きそばを買いに行こうよ!」
 レイリーも乗り気な様子で、大きく頷く。ムスティスラーフは驚いた様子だったが、まだ食べ物を食べきってなかったこともあり、ドヴェルグ討伐をすぐに行わぬ様子。
「このお祭りでオススメの屋台とか教えてね」
「……あ、うん」
 いくつか美味しい屋台を教えるドヴェルグの勧めに従い、セララはイカ焼きとたこ焼きに口をつけて。
「どの食べ物も美味しい!」
「…………」
 これには邪精も毒気を抜かれてしまったようである。

 長女アールヴと交流する面々。
 型抜きを行っていた公とアールヴの戦いは公の勝利で終わったらしい。
「それじゃ、おごってもらおうかな」
「ちぇっ、でも、勝負は勝負だからね」
 邪精の少女は口を尖らせ、この場の支払いを完了させる。
 ここはすごくいい祭りだと公が告げると、ペリカもニコニコして同意する。
 アールヴは不満げなままだが、この空間を作った1人としてはまんざらでもなさそうだ。
 そんな彼女に公はこう誘う。
「そうだ。ボクの仲間も向こうで大道芸をやっているんだけど、せっかくだから見に来ないかい?」
「大道芸……?」
 邪精達にとって、自分達が作り出した空間で新しい何かが生まれることは全くないわけではない。
 新たに魂を取り込めば空間が広がり、その魂が新たな屋台を生みだすことはある。
「何をしているのか、楽しみね」
 彼女達は時間稼ぎだったのかなと考えながらも、アールヴは2人についていくことにしたようだった。
 アールヴが連れていかれた先には、屋台の前に設置されたお立ち台。
 アトが見様見真似で設置したその台の前には、興味を持った人々が多数集まっていた。
「さあさあ、お立合い、御用とお急ぎでなかったらゆっくり見ておいで」
 台の上に立つシラスが観客に声をかけ、取り出したのはディアボロと呼ばれるジャグリング用の道具。
 糸で繋いだ2本のハンドスティックを使い、2つのお椀の底をくっつけたような形の独楽を回すパフォーマンスである。
 そのディアボロもサイズが鉄インゴッドを素材として、消えぬ妖精鍛冶屋の種火と鍛冶道具を使って作成したお手製の逸品である。
 なお、サイズは販売用のディアボロも用意しており、それが売れるかどうかはシラスの腕次第といったところ。
「ここに取り出したる、これなる独楽は鍛冶妖精のこさえた特製品、どなた様もご覧じろ」
 シラスはそうディアボロを紹介し、サイズが意匠を凝らした独楽を目一杯魅せるよう演技をしてみせる。
「おおっ、すごいだわさ!」
 予めサクラとなるよう要望されていたこともあり、ペリカが大声で場を盛り立ててくれる。
 その声に応え、シラスはさらに軽業を披露する。さらに、操る独楽は1つではなく、シラスは2つ、3つと増やしていく。
「「おおっ……!」」
 さらに、積んだ足場の上に立って不安定な耐性で芸を披露すれば、観客もハラハラとしてシラスの姿に釘付けとなってしまう。
「はいっ!」
「「おおー!!」」
 割れんばかりの拍手で場は包まれ、試しにやってみたいという子供を中心にサイズの作ったディアボロが売れていく。
 とはいえ、いざ動かすのは難しいとあって、シラスは簡単な技をレクチャーし、楽しんでもらう。
「ふうん、これをこうやって……」
 公に連れられてやってきていたアールヴも見本の独楽を使って回してみせる。
 ディアボロを回すのに彼女が気を取られていたのは、イレギュラーズ達の思う壺。
(……よし、彼女か)
 シラスの立っていたお立ち台の下に潜んでいたアトがタイミングを見て飛び出す。
「お楽しみの所失礼!」
「ひっ!?」
 突然現れたアトに驚き、アールヴは小さな悲鳴を上げる。
「……確保だな?」
 サイズもそれを見てにやりと笑うのである。

 トロルド捜索は難航を極めていた。
 確かにこの空間の裏通りにも神社はあったが、そこにも人は多数おり、トロルドの姿はない。
 捜索に当たるユゥリアリア、ゼフィラ、イーリンは連携をとり、少しずつ範囲を狭めていく。
「お暇なら、お聴きくださいませー」
 ユゥリアリアは大道芸で、1曲だけ歌とギター演奏を披露してみせ、その見返りとして目撃情報を募る。
「青い浴衣で、クマの耳を生やした少年を見ませんでしたかー?」
 しかし、その証言はほとんど得られない。本当にいるなら、両腕が獣のような毛で覆われた少年など、祭りの中でもかなり浮いた容姿のはずだが……。
 あちらこちらを探して回っていたゼフィラも、最初の情報通りに外を出回っていないことを確認しつつ、捜索すべき範囲を狭めていく。
 イーリンもやや手詰まり感を感じてしまい、あちらこちらの屋台の遊戯を楽しんでいた。
 その間も、愛猫を模したメカカレッジに周囲を警戒させ、細かいことでも何か情報を増やして捜索範囲を狭めていく。
 遊戯の合間、イーリンは霊魂疎通して人の形すらとっていない魂へと問いかけて。
「神社かと思っていたのだけれど、どこかに隠れていないかしらね?」
 その問いかけに、霊魂達は首を横に振って。
 ――隠れてないよ。
 ――木を隠すには森なんだよ。
 ――店主だって、この空間の囚われ人……。
「店主……?」
 イーリンはどこかで見た瞬間記憶を呼び覚ます。
『……屋台は食べ物だけじゃないよ』
『……金魚釣りやってって。楽しいよ?』
 そういえば、金魚を持っていた人はほとんどいなかった気がする。
 考えてみれば、この空間から出られない人々が金魚を釣ったところで、育てる環境などない。多少金魚釣りで遊んだところで、持ち帰る人はほぼ皆無なのだ。よほど好きな人でないと、集まらないスポットと化していると考えられる。
「面倒事に巻き込んであげる」
 集積情報からギフトでトロルドがいると思われる位置を割り出したイーリンはその状況を共有すべく、平常心を保ったままで他の2人と合流しに向かうのだった。


 ドヴェルグを連れ回していたメンバー達。
 あちらこちらの屋台の食べ物を食べ歩いていたのだが、突然レイリーが足を止める。
「楽しかったよ。ありがとう……でもね、もう、終わりにしよっか」
 レイリーはゆっくりとドヴェルグへと振り返り、「換装!」と叫ぶ。
 次の瞬間、ギフトを使用した彼女は竜を思わせる魔法の鎧を纏い、両手にはドラゴンの角を思わせる白いランスと、ドラゴンの翼を思わせる白い大盾を手にして。
「ヴァイスドラッヘ、只今参上! 囚われた魂を助けに来た!」
 傍では、ムスティスラーフも戦いに備えており、ドヴェルグへと敵意を示していた。
 一方で、セララは楽しい一時を過ごしたドヴェルグへと問う。
「友達だから通してくれる、とかダメ? リンゴ飴あげるから!」
 しかし、相手は首を横に振る。
「……弟も見つかったようだし、……ここまでかな」
 彼ら邪精がどういう存在かは分からないし、語りもしない。
 だが、迷宮の探索を進める為には彼らを撃破する他なさそうだ。
「それなら仕方ないよね。今度はバトルで友情を深めるよ!」
 セララもまた割り切り、真面目モードに切り替えてドヴェルグとの戦いに臨む。

 ディアボロのパフォーマンス会場で、足場から現れたアトはアールヴへと奇襲を仕掛ける。
 風の魔術を纏わせた剣を振るい、飛び退くアールヴへと手傷を負わせる。
 アトも騙すような真似をして悪いと感じはしたが、そもそもこの空間はアト達迷宮へと挑戦者を騙す為に存在すると解釈していて。
「そういうわけで、これでお互い様ってことで……」
 しかも、アトの刃は麻痺の効果を持っており、アールヴの身体に痺れを駆け巡らせる。
「やるね」
 小さく顔を引きつらせるが、アールヴは槍を操ってすぐ応戦しようとした。
 その狙いは的確だが、痺れもあって体が追い付かない。
 そこで、逃がさぬよう仲間と共に囲いを作るシラスは自己暗示によって集中状態となって。
「さあ、遊びはここまでだぜ」
 相手の槍の間合いの内側へと入り込み、シラスは近術と格闘術を織り交ぜてアールヴへと殴打を浴びせかけていく。
 エアウォーカーで飛行する公もまた続き、三次元的な空間機動で一気に間合いを詰めて華麗な空中殺法で槍を叩き込む。
「……つうっ」
 間合いを取ろうとアールヴが後ろに下がれば、そこにはペリカがおり、大剣を叩きつけてアールヴを追い詰めようとする。
 別方向にステップを踏めば、その先にいたサイズが氷のバリアを展開しつつ待ち構える。
 妖精の血を活性化させたサイズは自らの鎖を複製して敵の身体を縛り付けようとする。
 腕の1本を捕まえれば、後はサイズ自身の本体である大鎌で切りかかる。
 その血は……、サイズの認知する妖精のものとは異なる。
 おそらくはこの迷宮において造られた存在であり、混沌にある種族と同様の姿をとる邪精としての与えられた存在なのだろう。
 彼はホッとしたような表情で、自我を保ったままでアールヴへと刃を刻みこむ。
 数の多さもあり、アールヴは眩惑の術を使う間もなく追い込まれて。
 捨て身で攻撃に出るアトは槍を操るべく距離をとろうとするアールヴへと追いすがり、速度で風の刃を切りかかる。
 間髪入れず、公が槍の石突き部分で相手を牽制すれば、アールヴの槍が虚空で軌道を描く。
「これで、フィニッシュだよ」
 直後、公は瞬時に超絶加速し、アールヴ目がけて槍の先端を叩き込む。
「あううっ……」
 終始満足に戦うことができず、邪精の長女は地面へと沈む。
「やれやれ、こんなところか」
 目の前の敵を倒したことを確認し、アトは刃を収めたのだった。

 メインストリートでドヴェルグと対峙する面々も、大きく人々が囲いを作る中で戦いを始めていた。
 手にしていたのは、トウモロコシ焼きやイカ焼き、風船ヨーヨーといった屋台に売られていた品物。
「……これが僕の武器だよ」
 それらを振るい、ドヴェルグはイレギュラーズへと襲い来る。
 食べ物と思いきや、それらの武器はしっかりと武器の機能を果たし、イカ焼きは剣として、トウモロコシを殴打武器として叩きつけてくる。
 そのドヴェルグの攻撃を受け止めるのは、レイリーだ。
「私は倒れない限り、仲間は倒させないよ」
 彼女は白い大盾……『ヴァイスドラッヘンフリューゲル』を構え、自らに聖なるかなを卸して盾役となり、後方から攻撃を仕掛ける2人を護る。
 後ろからはムスティスラーフが派手に轟砲を発して、邪精の少年を撃ち貫こうとする。
 その際、彼は屋台からできる限り離れて交戦を心掛ける。
(あまり、屋台が壊れてほしくないしね)
 と言うのは、ドヴェルグは風船ヨーヨーを投げつけ、それを破裂させてきたのだ。
 手前のレイリーが爆発も含めて耐えてくれてはいるが、その威力は軽視できず、ムスティスラーフは合間に頭に生えた宝石の角から蒼碧の光を発して癒しに当たる。
「倒れて取り逃がしたら、なんの意味もないからね」
 そうして、しばし、ドヴェルグの攻勢に耐えながらも、攻撃を続けていたセララ。
 いくつか屋台を巡って美味しい食べ物を食べていたセララだが、戦いが始まってからどこからともなく取り出したドーナツを食べ、力を高めて。
「これがボクの全力だよ! ギガセララブレイク!」
 聖剣を振り上げたセララは、刀身で天雷を受け、一気にリヴェルグへと切りかかる。
 1度で倒れなければ、セララは2度、3度と斬りかかり、雷光を煌めかせる。
 幾度目かのセララの斬撃がドヴェルグの身を灼くと、相手は握っていたトウモロコシやイカ焼きを落としてしまって。
「……ううっ」
 呻いたドヴェルグはよろけて、地面へと突っ伏す。
 彼はそのまま、自らが持っていたトウモロコシを口にしていたのだった。

 もう1人、邪精の末弟トロルドを捜索していたメンバー達が訪れたのは、金魚すくいの屋台。
 そこに蹲っていた店主へとイーリンは声をかける。
「すっかりだまされたよ。まさか呼び込みをやってたなんて」
 入ってすぐ、声をかけてきた金魚すくいの店主こそがトロルドだったのだ。
 すぐさま、イーリンはアシカールパンツァー型クラッカーからどどどーんと派手な光と音を立てる。
 すでに他所で長女、長男を相手にしているメンバー達に、トロルドの居場所が割れたはずだ。
「……いくよ」
 物臭なトロルドだが、戦いとなれば豪快に水を操り、イレギュラーズ達へと浴びせかけてくる。
 放出される水弾を見て、ゼフィラはすぐさま自身の調和を賦活の力として仲間へと振りまく。
 ゼフィラに支えられながら、イーリンやユゥリアリアがやや動きの遅いトロルドを捉えて。
 世界法則を計算式に置き換えたユゥリアリアは自らの思考の一部を自動演算化し、さらに無限の紋章を顕わして術式の威力を高める。
 同時に、イーリンが精神を集中させ、雷の波を纏わせた戦旗を振るう。前方に走る稲光がトロルドの身体を灼くが、相手はさほどリアクションを見せない。
「…………」
 そのトロルドは対するイレギュラーズの立つ地面に巨大なポイを出現させ、一気にメンバー達の足元を掬おうとする。
 さながら、彼はイレギュラーズを金魚に見立てて戦っているようだ。
 突如のことに、イレギュラーズも驚くが、ユゥリアリアはすぐに態勢を整え直して。
「無限の紋章の力……その身で味わいくださいませー」
 次の瞬間、ユゥリアリアが集中して自らの血を媒介に精製した氷の槍をトロルドへと投げつけていく。
 それらに貫かれてなお、トロルドは操る水を連続して発射してくる。
「足元に注意しないとね。水弾もかなりの威力だ。喰らわないよう左右に動こう」
 地面から現れたポイに掬われた形となったゼフィラは号令を発し、この場のメンバーの態勢を立て直す。
 イーリンも「ヒ■ロゾ■」なる言葉を紡ぐことで発動する紛い物の波濤魔術を準備していたが、皆の状態が改善したことで必要がなくなり、水弾から仲間を庇おうと動いていたようだ。
 他の邪精を捜索する仲間がいる状況も想定していたゼフィラだったが、先程ユゥリアリアが光を打ち上げたにもかかわらず、仲間達はなかなか駆けつけてこない。
「しばらく、この人数での戦いになりそうだね」
 少なからず耐える必要があるとゼフィラは考えを切り替え、回復役に徹する構えをとっていた。
「……もう1回」
 再び、地面から巨大ポイを出現させ、イレギュラーズを掬おうとしてくるトロルド。
 ただ、攻撃パターンはさほど多くない相手に、イレギュラーズもすぐさま対処を見せて。
「もう一度、いきますわー」
 再度ユゥリアリアが飛ばす氷の槍は幻の如く。戦場に似つかわしくない艶やかさを感じさせ、遠巻きに見ていた祭りの参加者達を見とれさせる。
「…………」
 トロルドもまた槍に見とれ、身体を貫かれていたが、そんな彼へとイーリンが迫り、組技で仕留めてみせた。
「なにか欲しいものはある?」
「…………」
 子供に聞くようなイーリンの問いかけに、トロルドは小さく首を横に振ったのだった。


 3ヵ所での戦いが終わると、いつの間にか祭りのメインストリートに3人の邪精とイレギュラーズ達が集って。
「皆も終わったようだね」
 ムスティスラーフが確認しつつ、仲間の傷の手当てへと当たる。
「それにしても、不思議なところと言えばところだねえ」
 改めて、アトはこの祭りの会場を見回す。
 この場には懐かしさとか、そういうものをくすぐるような魔力に満ちている、アトにはそんな気がしていた。
「遠く離れ、取り戻せない過去のようで……」
 どこか虚空を見ていたユゥリアリアは、悲し……と言いかけて手を軽く振る。
「……あ、いえ、今のはナシですわー」
 ユゥリアリアが言いかけたことは気になるものの、祭りから少しずつ人が消えていくのにイレギュラーズ達は気づく。
 邪精達の幻術がなくなり、囚われていた魂が解き放たれたのだろう。
「さて、では先に行かせてもらおうか。……ああ、君たちにとっては不本意かもしれないが、一つだけ」
 倒れた邪精達へと、ゼフィラはこう言い残す。
「ここの祭りは楽しいと思えたよ。名残惜しいくらいに」
「そう言ってもらえたなら」
「僕達も本望だよ」
「……まだ、どこかで」
 3体の邪精が姿を消すと、誰も居なくなった祭りの通りに扉が出現する。
 祭りの終わりの喪失感のようなものを感じていたセララやレイリーは、少しだけしんみりとしながらもその扉をくぐる。
 先の通路を進むメンバー達は程なく、次なるセーブポイントを発見したのだった。

成否

成功

MVP

セララ(p3p000273)
魔法騎士

状態異常

なし

あとがき

 リプレイ、公開です。
 MVPは友達になろうと邪精に手を差し伸べた貴方へ。
 今回はご参加、ありがとうございました!

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