PandoraPartyProject

シナリオ詳細

秋を届けに

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 鮮やかに色づいた葉が、大通りを西国の絨毯のように染めていた。
 舞い落ちてくる枯れ葉を掌の上にのせれば、髪飾りみたいな白い雪が添えられる。
 ちらちらと雲から振ってくる冷たい粉雪は秋が冬に向かっている証拠。

 モコモコの長い帽子を被ったクラウディアは手を擦りながら暖を取っていた。
「雪が降ってきたなあ」
「もうすぐ冬かぁ。いつもより早いかも」
「あ、それじゃおじさん、夕刊ここに置いとくからね」
「あいよー。いつも悪いね。ほらっ、焼き芋おまけしとくよ」
「あつっ、あつつ。ありがと!」
 鉄帝国北部にあるクーデルゲンには一昨日あたりから強い寒気が流れ込み、一足先に冬支度が大人達の手によって行われている。
 頭に被っているモコモコの帽子も温かいコートもクラウディアのお気に入りだった。
 一ヶ月もすればこの辺りは一面の雪に覆われてしまう。
 クラウディアは秋から冬に変わる短い時間のお洒落を楽しみにしていた。

 蒸気路面電車(スチームトラム)がクラウディアの前を横切っていく。
 大人達は冬支度に追われて忙しそうだ。
「ひゃわ!?」
 突然の衝撃を受けて、クラウディアは振り返る。
「ごめんなさい」
 そこには打つかった衝撃で転んだ少女が頭を抑えながら座っていた。
「大丈夫?」
「う、ん。前見てなかったの」
 少女はとても寒そうな格好をしていた。刺繍のされた薄いケープと涼しそうなスカート。足下は可愛らしい靴。まるで秋の装いである。
「あなた、寒くないの?」
「うう、寒いよ」
 ぷるぷると震える少女にクラウディアは自分のマフラーを巻いてあげた。
「大きめだから、ストールみたいに巻けば少しは温かいでしょう?」
「うん。あったかい。ありがとう」
 ふわりと笑った少女からは甘い香りがして――
「あはっ」
 ――けれどついつい笑ってしまった。
 だってさっき貰った焼き芋にそっくりだったから。

 分け合いっこしながら聞くに、少女の名前はフォルエーレと言うらしい。
「カエデの森に帰らないといけないの」
「カエデの森!? え、どうして」
「帰るところだから」
 カエデの森というのは街の近くにある森だが、危険な魔物も多く立ち入りを禁じられている。
「お父さんやお母さんは?」
「居ない」
 そうか。同じなのか。
 クラウディアは祖母と二人で暮らしており、勉学の傍ら新聞配達等で生活を支えている。
「ご家族はいるの?」
「わからない、けどみんな居るから」
 ちょっとあまりに身元不明すぎる。
 回答も要領を得なくて、クラウディアは途方に暮れていた。
 仕方が無い、祖母に相談してみよう。


 イレギュラーズはこの日、一つの依頼を請け負っていた。
 それはフォルエーレという少女を、カエデの森へ帰すという仕事である。
 フォルエーレを保護した少女クラウディアと、その祖母の話によると、どうやらフォルエーレは精霊のようなものであるらしい。

 今年はクーデルゲンは冬が早く、秋頃に活動する精霊達があちこちに取り残されてしまったようだった。
 フォルエーレは街に木枯らしをもたらした、秋風の精霊だったのだ。
 本来であれば秋の精霊達は、冬になると森の奥で眠り、また来年に実りの秋を運ぶのを待つ。
 けれどきっと、フォルエーレはちょっと、どんくさかったのだ。
 そしてクラウディアの祖母が当局に相談した結果、クーデルゲンの街から依頼が舞い込んだのだった。

 そんな訳でイレギュラーズはフォルエーレを伴い、カエデの森へと踏み込んだ。
 小雪が舞う肌寒い森は、けれど秋真っ盛りのように色づいていて綺麗だった。
 だがここは、当局の話によると危険な森であるとも言う。
 ここに済む精霊達は人ではない。グリムアザースとも違う。謂わば良性のモンスターだ。
 僅かに早すぎる冬に、木枯らしや嵐、水や風の精霊力を持て余し、猛威を振るうかもしれない。
 不意の戦闘になるかもしれず、森の奥の聖域にフォルエーレを帰したら、すぐさま帰還すべきだ。

 ――フォルエーレちゃん!!

 背後から声がしたのは、そんな時だ。
 振り返るとそこには、クラウディアが立っているではないか。
「イレギュラーズさん、勝手に来て、ごめんなさい、でも……どうしても」
「クラウディアちゃん」
 クラウディアとフォルエーレの二人はぎゅっと抱き合い、手を繋いだ。
 一応「どうして来たのか」とは問うが、理由はきっと簡単だ。
 クラウディアは学校と新聞配達の仕事で、フォルエーレとの別れを済ませることが出来なかったから。
 しかしここまで来てしまった以上は、保護し続けるのが最も安全な筈だ。
 一行はクラウディアとフォルエーレを伴い、森の奥へと進んでいくのだ。

「ありがとう、イレギュラーズさん。迷惑をかけてごめんなさい。よろしくお願いします」
 クラウディアは不安げな面持ちで、ぺこりと頭を下げた。

GMコメント

 桜田ポーチュラカです。
 秋の精を聖域に帰してあげましょう。ほんのりゆりん。
 二人がまた来年会えますように。

■依頼達成条件
 木枯らしの精フォルエーレを聖域へと帰す。
 クラウディアの護衛。

■フィールド
 鉄帝国北部にある楓の森。
 肌寒いですが、紅葉が綺麗です。風光明媚。
 実は精霊の住まう森で、猛獣などがほとんど居ません。

 帰すべき場所は、進んでいくと自然に分かります。

■敵
 秋のエレメンタル×10体以上
 この地に住まう、風や水の精霊達。
 早すぎる冬に、力を持て余してしまった下位精霊です。
 フォルエーレほど高度な知性はないため、力を振るってきます。
 倒して鎮めてあげましょう。聖域に帰るはずです。

 フォルエーレには攻撃してきません。
 精霊に何かするスキル等があると、戦闘が有利になったりするかもしれません。
 たとえば鎮まりやすくなるとか。

 全部鎮めると、楓の森には冬が来ます。
 森は安全な場所になります。

■同行NPC
【木枯らしの精フォルエーレ】
 クラウディアと仲良しになった少女です。
 聖域へ帰るのがちょっと寂しそう。

 せっかくなので別れを惜しむ時間があってもいいかもしれません。

【街の少女クラウディア】
 フォルエーレと仲良しになった少女です。着いて来ちゃいました。
 やらかした訳ですが、性格などは普通に素直で良い子です。

 やっぱりせっかくなので、別れを惜しむ時間があってもいいかもしれません。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • 秋を届けに完了
  • GM名桜田ポーチュラカ
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2020年11月30日 22時20分
  • 参加人数8/8人
  • 相談5日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

鳶島 津々流(p3p000141)
かそけき花霞
ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)
願いの星
オリーブ・ローレル(p3p004352)
鋼鉄の冒険者
炎堂 焔(p3p004727)
炎の御子
エッダ・フロールリジ(p3p006270)
フロイライン・ファウスト
ソア(p3p007025)
無尽虎爪
アルヤン 不連続面(p3p009220)
未来を結ぶ
グリジオ・V・ヴェール(p3p009240)
灰色の残火

リプレイ


 さくりさくりと雪の道を進んでいく。
 早く訪れた冬の季節に戸惑う精霊の涙が零れた。
「フォルエーレさんって秋を運ぶ精霊なんだ、素敵だねえ。
 四季に関わりのある身としては、なんだか親近感が湧いてくるよ」
『行く雲に、流るる水に』鳶島 津々流(p3p000141)は精霊の少女フォルエーレに微笑み掛ける。
「……おや? あの子は……」
 姿を見せたクラウディアを見つけて津々流は首を傾げた。
 小さな少女たちがひしっと抱き合う姿は子猫じゃれあう様で愛らしい。
「クラウディアさんって言うんだ、フォルエーレさんのお友達みたいだねえ」
 この場所にはきっとお別れをしに来たのだろう。折角だからきちんとしたお別れの時間を作ってやりたいと津々流は思った。
「もう、勝手についてきちゃダメだよ! ここまで来る間も危なかったかもしれないんだから!」
「は、はい! ごめんなさい」
『炎の御子』炎堂 焔(p3p004727)の声にビクリと飛び上がったクラウディアとフォルエーレ。
「言ってくれれば連れて行ってあげるから、次からはそうしてね!」
「はい。ありがとうございます!」
 きちんとお礼が出来るのは良い事だ。焔はクラウディアの頭を撫でてにっこりと笑った。
 友人との別れは寂しいだろう。けれど、きちんと送り届けてあげなければ来年に二人があえなくなってしまうから。
「さっきから何かが付いてきている気配があったから、そんな事だろうと思っていましたわ」
『祈りの先』ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)がクラウディアの頬をむにむにと引っ張ってみせる。怒られるのかとクラウディアが恐る恐る上を向くと困ったような笑顔が降り注いだ。
「精霊達の気が立っていて危ないから、私達から離れないようにね」
「はい!」
 ヴァレーリヤの優しい声に少女達はこくこくと頷く。

「護衛の仕事ってのも久しぶりだな。勘は鈍っちゃいねぇと思うが、護るもんはきっちり護るさ」
 煙草を吸おうとして『灰色の残火』グリジオ・V・ヴェール(p3p009240)は思いとどまる。
 年端も行かない子供の前だ。少しだけ考えてから頭を掻きグリジオは煙草を懐にしまい込んだ。
『紅葉がキラキラ綺麗なのだわ』
『空気がサラサラ澄んでるのだわ』
 グリジオが持っている宝石から響く双子姫の声。グリジオの周りに小さな声が囁くのをフォルエーレは首を傾げて見つめる。グリジオが双子姫の声に反応を示していない事に気付いたフォルエーレは悪い物ではないのだと納得してクラウディアに向き直った。
『人と精霊なんて素敵で楽しい組み合わせ』
『人と魔でも仲良しだもの、とっても楽しいのだわ』
(俺は仲良しのつもりはないんだがな)
 双子姫の囁きがいつもより弾んでいる気がしてグリジオは少しだけ溜息をついた。
 グリジオ達の後ろを『扇風機』アルヤン 不連続面(p3p009220)が着いてくる。どういう構造なのか分からないが移動が可能らしい。不思議。
「比較的楽な依頼だと思ったのですが、ここで護衛対象の追加ですか。
 まあ、仕方ありません。何とかやってみましょう。不測の事態は依頼に付き物です」
『鋼鉄の冒険者』オリーブ・ローレル(p3p004352)はクラウディアを見つめてやれやれと微笑んだ。
「フォルエーレさんなら、他の精霊が近付いてきた時に分かったりしないでしょうか?」
「んーと。分かるかもしれないし、わかんないかもしれない?」
「そうですか。自分達人間とあんまり変わらないのでしょうかね」
 一足先に冬が来た事に気付かず取り残された精霊である。割とドジっ子なのかもしれない。
「精霊と人のこどもが仲良しになれたなんてとっても素敵。お話を聞いてボクはとても嬉しかったし
 この二人の旅をきっと守ってあげるって決めたの」
 にっこりと笑った『雷虎』ソア(p3p007025)はクラウディアとフォルエーレの頭を撫でる。
「こう見えてボクも精霊種でけっこう長生きしてるからね。フォルエーレさんはボクたちグリムアザースとは違うみたいだけれど、それでも胸にぎゅうって感じるものがあったよ」
 温かいソアの手が二人の頬に当てられた。
「だいじょうぶだよ、お姉さんたちにまかせて」
「ありがとう」
 小さな子供の笑顔は場を和ませる。
「良いのでありますか?」
『フロイライン・ファウスト』エッダ・フロールリジ(p3p006270)はクラウディアを連れていっても大丈夫なのかと問いかける。けれど、連れて行かない選択肢はきっと無いのだろう。
「……良いのでありましょうな。精霊が何某かは存じませぬが、この国の風土を糧に生まれたものなのでありましょう。然ればそれは、自分にとって護るべきものなのであります」
 騎士たるエッダ・フロールリジは弱きを助くを是とするのだから。


 森の中を進んでいく。
「道中寒かったらボクのギフトで暖めてあげる……って、それよりも2人で一緒にマフラーを使ってた方が暖かそうだね」
 手を繋いだクラウディアとフォルエーレは長いマフラーを二人で分け合い歩いていた。
 ぽてぽてと進んでいく様子をイレギュラーズは見守る。
 ソアは森の王だった。森の声を聞いて進むべき道を的確に案内していく。
 目的の場所に近づくにつれて生き物の声が小さくなるのがソアには分かった。
 代わりに大きさを増していく精霊の気配。
「きっと特別な場所なんだね」
「フォルエーレさんを送り届ける場所は聖域ということだし、周りと雰囲気が違うとかそういう感じかな」
 ソアの言葉に津々流が応える。

 ――リィン

 ソアの耳に精霊の声が聞こえてきた。
 光が集まって形を成していく。
「フユが、キたの。サムい」
「サムイ。わからない。どうして。まだあそびたかった」
 いつもより早い冬の訪れに取り残された精霊達は戸惑い不安がっていた。
「ごめんなさい。ここを通らせて頂いてもよろしくて? この子を送り届けなくてはいけませんの。
 送り届けたら、すぐに帰りますわ」
「あそぶ? あそぶ?」
 アルヤンに纏わり付く精霊達。全体的にグルグル振り回されている。
 コードが木の幹にベチベチ当たっていた。割と危ない。
「嫌ァ! コードが引きちぎれそうっすー!」
「うわっ! 危ねえ何やってんだ、もう」
 グルグルされているアルヤンをグリジオが捕まえて地面に降ろした。
「おや、彼らはフォルエーレさんの仲間かな?
 どうやら持て余した力をぶつけに来たみたいだ、何とか鎮めて彼らも聖域に帰してあげなきゃねえ」
 津々流がゆっくりと少女達を庇うように前に出る。
「秋のエレメンタルたちはフォルエーレさん違って言葉は通じないみたいだね」
「まだ遊び足りなくて元気いっぱいってことかな? それならボク達が相手をしてあげるよ!」
 ソアと焔が精霊の前に立ちはだかる。
「でも鎮めるためとはいえボクはあまり乱暴はしたくない気持ちもあるんだ」
「そうだね。怪我をさせたいわけじゃないから気を付けて戦わないと」
 それに……と焔は周りの木々を見つめた。
「こんなに綺麗な場所は荒したくないし、フォルエーレちゃんにとってはお家みたいな場所なんだよね?
 だったらやっぱり綺麗なままの方が気持ちいいもんね!」
 焔が指を立てて目を瞑れば、炎の帯が周囲に広がっていく。
「燃える?」
 フォルエーレの問いかけに焔は笑顔で首を振った。
「大丈夫! 保護結界だよ。守る為のものだから燃えないよ!」
「有り難いですね。無闇に力を振るう精霊達に、鉄帝のやり方で応えましょう。即ち、鉄剣制裁です。
 手を出してこなければ、もう少し優しいやり方が出来たのですけどね。鉄帝的にはこれで良いのかもしれませんが」
 上質な長剣を構えたオリーブは一番先に前に走り込む。
 複数の精霊目がけて剣を振るった。
「僕たちは戦いたくて来た訳じゃないよ。さあ、フォルエーレさんと一緒に聖域に帰ろう?」
 津々流は嵐の如く舞い踊る桜吹雪を降らせ、精霊の動きを止める。
「まだ遊び足りないのですわね。でももう他の場所では冬だから……
 このまま貴方達が森にいたら、秋も冬も入り混じって季節が分からなくなって、楓も動物達も困ってしまいますわ」
「も、ちょっと。も、ちょっと」
「仕方ないですわね。あと少ししたら帰るんですよ?」
 ヴァレーリヤは溜息を吐いてメイスを取り出した。

 エッダの主目的は精霊と少女の穏やかな時間の守護である。
「イレギュラーズたちは……そこまで自分が護らなくても生きていてくれるでしょう?」
「言い方ぁ!」
「ほら、そこは信頼というものですよ」
 ヴァレーリヤのツッコミに微笑みを浮かべるエッダ。
「とはいえ味方が上手く手心を加えてくれるであろうから攻撃はほどほどにですね。自分、鉄帝人でありますので情緒的な攻撃は苦手であります。いやしかし良い具合の野山でありますなあ。痩せた国ゆえこういう土地は大事にして行かねば」
 ドカンとエッダの拳が精霊を打ち抜く。
「俺の傍を離れるんじゃねぇぜ、お二人さん」
 グリジオはクラウディアとフォルエーレを背に精霊と戦っていた。
「フォルエーレには攻撃してこないという事だし、二人が一緒にいれる時間を少しでも長く作ってやりてえんだよ」
「おじさんっ! ありがとう!」
「……おじ、おじさん。そう。おじさんがな! 二人の為にだなぁ!」
 少女達にとってはおじさんという事実を突きつけられるが。纏わり付く精霊を押し返しながら、グリジオは気合いを入れる。
「楽しい思い出は楽しいままで。来年また笑顔で会う為にもここで怪我の一つもさせるかよ」
 グリジオの背は少女達にとってとても格好いいものに見えた。

「ボクたちと遊んだらもうそれでおうちに帰ろうね」
 ソアは精霊達と闘いながら語りかける。
「次の秋には森を綺麗な赤色に染めてみて。たくさんの実りをあたえてあげて。
 それまではおやすみなさい」
「また来年会いましょう」
 ソアとヴァレーリヤの声に精霊達も落ち着きを取りもどす。
「来年? もう秋はおわり?」
「そうですよ。もう秋は終わっています。だからお帰りなさい」
 精霊の問いかけにオリーブが丁寧に説明をしていけば、納得した者達がゆっくりと眠りについていった。
「さあ、これで一安心だね。聖域に行こう」
 津々流は聖域の奥を指さした。


 聖域の真ん中にゆらゆらと光の渦が回っている。
 この中に入ればきっと秋の精霊達は帰っていくのだろう。
「早めに帰還するのが吉ですが……」
 オリーブは名残惜しそうなクラウディアとフォルエーレを見つめて微笑んだ。
「大丈夫。別れを惜しむ時間位はあるでしょう」
 ――少女と精霊の出会いと別れなんて物語の一節みたいだな。
 楓と言えばメープルシロップ……町に戻ったらそういう感じの食べ物を探してみようかな。
 なんて考えながら。オリーブは彼女達の『お別れの時間』をつくってあげる。
「もう安全だと思うけど念のために」
 そう言いながら焔は優しく二人を見守っていた。
「それにしても、あんなにはっきり知性や自我があるなんて
 フォルエーレちゃんって実はもの凄く上位の精霊さんだったのかなぁ」
 小さく呟かれた焔の言葉にグリジオは「そうだな」と応える。
「秋の少女、だったのかもしれないな」
 夏の終わりと冬の訪れを告げる小さな精霊を秋の少女と言うのだという。

「二人はお互い大事な友達なんだね」
「うん。友達になったの」
「会ったばっかりだけど、友達なの」
 津々流の問いかけに二人の少女は顔を綻ばせて言う。
「今はこれでお別れかもしれないけど、秋を運ぶということは来年また会えるかもってことだよね?
 その時までに、楽しい話をうんと溜めておくのはどうかなって」
「うん。いっぱいお話を溜めておく」
 ヴァレーリヤはお別れの前にと、露天で買ったプレゼントを二人に渡す。
「これを差し上げますわ。『再会』が石言葉の孔雀石。お互いに持っていると、また必ず会えるって評判ですのよ」
「わぁ。ありがとう」
「お揃いだね。これでまた出会えるね」
 ヴァレーリヤは祈りと願いを込める。
 少しでも二人の寂しさが紛れるように、いつか必ず再会できるように。
 ――貴女達の道行きに、どうか主の御加護がありますように。

「ああ、フラウ・クラウディアに”私”から一つだけアドバイスを。
 言いたいことは、全部隠さず言っておくのが吉ですよ。
 隠したままにすると、後で死ぬほど後悔しますから」
 エッダは二人の方を抱いて言葉を残す。
 ――そもそものところ。二人は本当にまた会えるのでありましょうか?
 送るというのはもしかしてそういう……いえ、野暮はやめであります。
 希望が心にある限り人はまた一年を超えられるのだから。
「特にこの国の冬は厳しいでありますから。ねえ、ヴィーシャ」
「ええ、希望は有った方がいいのですわ。沢山。たくさんね」
 エッダとヴァレーリヤが優しい眼差しで少女達を見つめていた。

「言いたい事……」
「うん?」
 クラウディアはフォルエーレの手をぎゅっと握りしめる。
「また、来年も一緒に遊ぼうね。約束だよ」
「うん。約束。夏が終わる頃、森の入り口で待ってて。一番にクラウディアの所に行くよ」
 泣きそうになるのを堪えて笑顔を見せるふたり。

「せーのっ!」

 ソアのかけ声と共に視界いっぱいに降り注いだのは紅葉した葉。
 吹き上がった風に舞って。
「とても綺麗」
「秋の終わりだね」
「冬がはじまる兆しにもなりそう?」
 ソアの笑顔につられて二人も笑う。

 さよならフォルエーレ。
 また、秋の訪れまで――

成否

成功

MVP

ソア(p3p007025)
無尽虎爪

状態異常

アルヤン 不連続面(p3p009220)[重傷]
未来を結ぶ

あとがき

 イレギュラーズの皆さん、お疲れ様でした。
 楽しんで頂けたら幸いです。
 MVPはお別れを素敵に飾ってくれた方にお送りします。
 それでは、またのご縁をお待ちしております。

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