PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<Common Raven>平穏裂くアンビシオン

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●鴉の羽搏き
 頭領は悲願だと言っていた。勿論、オレにだってそうだ。
 砂蠍が――蠍の王が潰え、その後を継ぐように『女のガキ』がラサの遺跡で残党と細々アソんでたが、それさえ狩り尽くされた。
 商人、傭兵、盗賊の三竦みこそがこのラサであった筈なのに!

 今は盗賊団はナリを潜めて、静かなものだ。平和そのものに国家運営がされている。
『砂蠍』がイレギュラーズとやらに討伐され、『副官』も手負いの儘どこかへ姿を消した。
 そんな中で、燻るオレ達への朗報だ。

 ――嗚呼、そうだ。死人を蘇らせることも、金を作り出すことも、不毛の大地を蘇らせることだってできるだろう!

 頭領の声を聞きながら俺は歓喜した。なら、この惨めな炎を真赤に燃え上がらせてくれ。
 平和ボケした商人共とモンスターのケツを追っかけまわす傭兵が手を焼く様な、赫々たる炎の中心でオレは笑っていたいんだ。
 悪人だ。盗賊だ。それだけでいとも容易く命を奪われた親父の為にも大盗賊にならなくちゃいけない。
 頭領が言っていた。「願いが叶えば余った色宝」は山分けだ、と。
 ならばオレは願おう! 大盗賊になって、ラサの平和ボケした奴らを皆殺しにすることを!

 ――ざまあ見やがれ! テメェが殺した盗賊のムスコはまだまだ健在です、ってな!

●ネフェルスト
「大鴉盗賊団をご存じでしょうか?」
 微笑んだのはファレン・アル・パレスト――ラサの有力商人の一人である。こちらを伺う視線は商人としての嗜みだろうか。彼にとってもイレギュラーズは良き『取引相手』と認識されていると考えても良いのだろう。
「皆さんが色宝……いいえ『ファルベライズ』を探索し、秘宝を持ち帰ってくださっていることに感謝をします。
 勿論、相応の対価はネフェルストの商人連合よりお渡ししていると思います、が――その色宝の話を嗅ぎ付けた盗賊団の動きが活発化しているのです」
 ファレン曰く、最近の市場では『パサジール・ルメス』の話が持ちきりだそうだ。
『ファルベライズに住まう大精霊ファルベリヒトとパサジール・ルメスは深きつながりがあり、ファルベリヒトの力の欠片である色宝はパサジール・ルメスと呼応し合い、集めやすくなる』という何とも都合の良いウワサだ。
 パサジール・ルメスの民であるリヴィエール・ルメスやレーヴェン・ルメスは「この地に縁を感じる」と言っていたが、ラサに伝わるおとぎ話でも同様に語られているらしい。
「幼い頃に聞く御伽噺を誇張し、わざとらしく流布している者が居ます。
 それが大鴉盗賊団――以前、ローレットとも交戦があったそうですが……」
 それ以来、一度は下火になって居たようだが、『下準備』を終えて動き出したのだろうとファレンは云う。
「この機に乗じて『悪い意味』で名を挙げようとする輩も居るでしょう。
 何せ、『願いが何でも叶う』と言われているのですから。そうした輩がパサジール・ルメスを狙う可能性は高い」
 そして――尤も、今危惧されるのが、色宝を『より苛烈に』狙う大鴉盗賊団の襲撃だ。
「先ほど、ファルベライズでの色宝の収集が完了した連絡がありました。
 パサジール・ルメスのキャラバンがこちらへ向けて色宝を輸送してくる……らしいですが、此処に大鴉盗賊団の襲撃があるだろうことが推測されています」
 此の儘ではパサジール・ルメスのキャラバンは大打撃を受け、色宝も奪われる。
「皆さんには申し訳ないですが、パサジール・ルメスのキャラバンを護って頂きたいのです。
 ……まだ、大鴉盗賊団の真の目的は分かっていませんが、良からぬ事であることは確かです。
 嘗て、この都を襲った砂蠍の嵐に、ザントマンの御伽噺(ゆめ)――それをもう一度、繰り返さぬ様に」
 ――どうか、此度の事件にも協力を、とファレンはそう頭を下げた。

●パサジール・ルメス
 ゆれる ゆれる。
 がたん、ごとん。積荷が揺れる音がする。
 パカダクラは小さく欠伸を漏らし、飛行種の少年が「ネフェルストについたら肉串が食べたいなあ」と小さく笑う。
「今日はファレン様からのお願いだからウンとおねだりするといいよ」
「珍しいねえ。でも、母さんにも何か話したいことがあるって言ってたでしょ?」
「……そうだねえ。恐ろしい事じゃなければいいけれど……」
 のんびりと。何時もの如く会話を弾ませる。
 その先に――怪しき闇が待ち受けていることも知らずに。

GMコメント

 夏あかねです。
 色宝を巡る『ファルベライズ(遺跡)』群に新たな動きがあったようですね。
 ファレン&フィオナにも絵が付きました。素敵すぎて息が止まる。

●成功条件
 キャラバン隊の護衛を完了し、ネフェルストまで送り届ける。

●キャラバン隊
 パサジール・ルメスが色宝を運ぶキャラバン隊。
 彼らは運送や商人をしながら各地を渡り歩く民族ですので、これも需要な仕事なのでしょう。
 色宝を無事にネフェルストまで送り届けるためにファルベライズからネフェルストまで護衛してあげてください。

●ネフェルストまでの道
 障害物は岩などがちらほらとした砂漠道。からからに乾いた道ですが、キャラバン隊は慣れているようです。
 パカダクラが疲れた時は乗せてくれます、が、戦闘方面での護衛を皆さんにはお願いいたします。
 継続戦闘が鍵となるでしょう。モンスターよりも注目すべきは人の介入です。
 寧ろ、モンスターを嗾けて色宝を奪わんとするかもしれませんね。

●予測される介入『大鴉盗賊団』
 ファレンとフィオナが注目する盗賊団の一つ。以前、色宝を狙う動きを見せていたとのことです(愁GM『<FarbeReise>揺らぐアパタイト』)。
 現在、その動きは活発となり、色宝を奪う為にパサジール・ルメスの『御伽噺』の噂を流すなどして『分かりやすい獲物先の情報』を提供しながら『初期に色宝を所有する自身らの勢力を誇示』しているようです。それ故に、拡大している傾向があるようです。

 ・無数の盗賊が護衛中は襲い掛かって来るでしょう。
 ・それなりに統率がとれているだろうことが推測されます(色宝の為、という餌があるので)
 ・毒蠍等のモンスターでの奇襲攻撃もあり得ます。

 様々なパターンにバランスよく対応できる方が良いかと思われます。

●ファレン・アル・パレスト
 ラサの有力商人の一人。議会ではそれなりの発言力を持ちます。かなりの遣り手であるのは確かです。
 妹フィオナと共に『大鴉盗賊団』の情報を収集しているようですね。皆さんをネフェルストで待って居ます。

●色宝
 真っ青なクリスタルや黄のマントなど、大きさや形状は様々です。どれも1つの色に染まっていることが特徴です。
 願いを叶えると言われていますが、個々が持つ力は微々たるものです(かすり傷が治る程度)。
 多く集めればそれだけの願いが叶うと言われていますが、詳細は定かでありません。
『願いが叶う』というその効果から悪用を避けるためにラサでは『ネフェルスト』で収集し管理するという方針が決定しています。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。
 情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。

 それでは、頑張ってくださいませ。

  • <Common Raven>平穏裂くアンビシオン完了
  • GM名夏あかね
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2020年11月19日 22時00分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

オデット・ソレーユ・クリスタリア(p3p000282)
鏡花の矛
サンディ・カルタ(p3p000438)
金庫破り
マルベート・トゥールーズ(p3p000736)
饗宴の悪魔
武器商人(p3p001107)
闇之雲
新道 風牙(p3p005012)
よをつむぐもの
恋屍・愛無(p3p007296)
愛を知らぬ者
エルス・ティーネ(p3p007325)
祝福(グリュック)
しにゃこ(p3p008456)
可愛いもの好き

リプレイ


 ゆれる ゆれる。
 がたん、ごとん。積荷が揺れる音がする。
「旅ってなんだかワクワクするわね」
 うんと背伸びをして。『木漏れ日妖精』オデット・ソレーユ・クリスタリア(p3p000282)はキャラバンから外の風景を眺める。一面の砂、砂、砂――そう、此処はラサの砂漠。ネフェルストを目指す道中だ。
「…………って言っても護衛だし面倒なのが来るのは確定してるんだけども」
「まあ、護衛任務もたまには良いね。
 代わり映えのしない景色が続きそうなのはあまり嬉しくないけど」
 此れで景色が様変わりし、のんびりと風景を楽しめるならば良かったけれど、と呟いた『饗宴の悪魔』マルベート・トゥールーズ(p3p000736)。時折、仙人掌や木を拝めるかも知れないが、それ以外は石や砂と言った景色が続きそうである。
「懐かしいねぇ、キャラバンのこの雰囲気」
「おね……おに……? えっと、イレギュラーズさんは旅してたの?」
 脚をぶらぶらと揺らがせていた少年がひょこりと顔を出す。パサジール・ルメスの少年の問い掛けに「そうさ」と微笑んだのは『闇之雲』武器商人(p3p001107)。
「昔こんな感じでキャラバンに付いて砂漠を歩いて渡った事があったっけ。
 今回は行商以上に緊張感のあるものになりそうだけどね、ヒヒヒヒ!」
 どんな因果か、ファルベライズの遺跡にはパサジール・ルメスが縁があり『御伽噺』を悪戯に流布する存在が居る事で最も狙われやすい存在となってしまっているのだ。少年は「怖いこと起るかなあ?」と小さく呟く。
「そりゃあ、怖いですよ! 数日かかるんですよねコレ……怖くないですか? しにゃ、女の子!
 ちょっとシャワー浴びれないの女の子的に辛いです!! でも、たまには働いておかないと先輩が五月蠅くて……ブツブツ……」
 怖がるポイントが『シャワーを浴びれなくってJK的にやばたにえん』である『可愛いもの好き』しにゃこ(p3p008456)。その天真爛漫な姿を見れば『砂食む想い』エルス・ティーネ(p3p007325)もくすりと笑う。
「数日の我慢よ。ネフェルストに戻ればファレンさんもきっとシャワーを貸して下さるから。
 それにしても……ラサには様々な御伽噺があるけれど、パサジール・ルメスに関連したお話もあるとはね」
 ラサの御伽噺と言えば『熱砂の恋心』等が有名だろう。無数の御伽噺が存在するのはその地に人々の営みがあったという事か。エルスの言葉に少年は「パサジール・ルメスの御伽噺は知ってる人は小さい頃に聞いたことがあるんだよ! それがあるから、僕らはこうやって生活できるんだ!」
「成程……御伽噺で流浪の民になった事を語っている。故に、日々の営みに一定の理解が得られるのか」
 多分、と頷く少年に理解したと頷いたのは『赤と黒の狭間で』恋屍・愛無(p3p007296)。少年達にとっては自身らの成り立ちを語る御伽噺はとても誇らしいことだったのだろう。
「素敵なお話ね。けど、だからと言ってわざとらしく流布するのはどうかと思うけれど。
 全く……あの大鴉盗賊団は懲りないわねぇ」
「大鴉、か。砂漠ならば禿鷹のが似合いそうな気もするが。何にせよ上前をかっさらわれないようにしなければならないな」
 食糧や水、防寒具は用意してきたと告げればキャラバンに運び込んでおきなさいとパサジール・ルメスの民の指示が齎される。護衛を行ってくれるイレギュラーズを歓迎する心優しきキャラバン隊に礼を言ってから『須臾を盗む者』サンディ・カルタ(p3p000438)は「気をつけていこうな」と微笑んだ。
「うん! お兄ちゃん、何すれば良いか教えて?」
「先ずは一人にならない。キャラバンはそれなりの規模だ。裏切り者がいるって言いたいわけじゃないことは理解してくれ。
 一番恐ろしいのは『賊が誰かをこっそりと殺してすり替わる』事だ。だから、気をつけるように。それから……俺たちも確り見張るから」
 サンディに少年はきりりとした表情で大きく頷いた。護衛対象であるキャラバンと、そして『色宝』。それは様々な形をしていると『翡翠に輝く』新道 風牙(p3p005012)は剣を思わす形状のモノを掴み上げる。
「ほんと胡散臭いよなあ、このお宝。確かに願いを叶える力はあるみたいだけど、微々たるもの。でもそれが大量に出てくる。古代の連中、何がしたかったんだ?」
 日用品であったのか、或いは――と考えたときにパサジール・ルメスの民は「精霊様の力の欠片なのよ」と囁いた。
「力の欠片?」
「そう。大きすぎた力の欠片を、ファルベライズの遺跡群に精霊様は隠したの。そうして、パサジール・ルメスは旅に出た――と言うことらしいわ」
「へえ……まあ、何にせよ、作った連中が滅んでるんだ。大したことないか、逆にヤバすぎたか、どっちかだろう。けど――」
「そうね。精霊から色宝を託されたこともあったしなおさら『悪い人』に奪われるのは防がないとね」
 風牙の言葉の続きを紡いだオデットは大きく頷く。精霊の力の欠片、願いを叶える色宝(ファルグメント)。旅の安全を祈願するように「大人しくしててくれよ」と風牙は冗談めかして囁いた。


 明るいうちは警戒をしながらも旅を楽しもうというのがイレギュラーズの考えだ。燦々たる陽の光を浴びれば元気もチャージできるとオデットはうんと背伸びをしてから空を飛び周辺警戒を行い続ける。
「精霊達も生き生きとしてるのね。自然が一杯だから、此の地が好きな子にとっては過ごしやすいのかもしれないわ」
 精霊達と会話しながら周辺の警戒を頼む彼女を見上げながら「どうですかー?」としにゃこは問い掛ける。その視力と飛行能力を駆使して上空からの見回り役を担っているしにゃこは現在パカダクラの背で休憩中である。
「あ、暑い……やっぱり砂漠ってだけありますねー。……ずっと乗って楽したい……」
 ぐだっと溶けそうなしにゃこにエルスはくすくすと小さく笑う。キャラバンは現在、のんびりとした旅を続けている最中だ。パカダクラの水分補給にも気を遣いながらがたんごとんと揺れる荷台を覗き込む。
「おねえちゃん、そんなにこの荷物って狙われやすいのかな?」
「ええ。とっても大切なものなのよ。ファレンさんが危惧する事は最もだし……ラサにも新たな危機が来るかもって警戒しておかなくちゃならないもの」
 一足先に警戒をするなんて格好良いわ、と揶揄い笑うエルスにパサジール・ルメスの少年はえへんと胸を張る。内通者を疑う愛無は自身らの食事はきちんと準備してきたと鼻をすんと鳴らした。昼の間はそれ程多くの敵襲はないだろうか。罠の対処も心がけ、此方に接近する存在を注意深く観察する。
「ご飯の話ですか? 毒味しますよ! しにゃはギフトで多少の毒は余裕です!
 いや別に多く食べたい訳じゃないですよ? マジデスヨ?」
 食べてみるか、と子供達から差し出された食事にぶんぶんと首を振るしにゃこに愛無は小さく笑う。
「さて、動物であろうとも彼方の手である可能性は否めない。全てに対して慎重に進もうか」
「そうだな。大鴉盗賊団の襲撃ってのは大いに有り得そうだけど――今日は噂を流しておいたんだ。
『盗賊団襲撃の噂に対し、キャラバン隊の護衛にローレット・イレギュラーズの腕利きが護衛についた』ってね。それで襲い掛かってくる奴は怖い物知らずか『本命か』だろ?」
 揶揄い笑った風牙に少年は話聞かせて、と眸を煌めかせる。「おや、イレギュラーズに興味があるのかい?」と問い掛けたのは武器商人。白い狐姿の従者が斥候として進む中、少年に「名前は?」と武器商人は問い掛ける。
「ラクス・ルメス。おねにーさんは?」
「武器商人でいいさ」
 頷く。幼い少年との対話は日中の間は暇潰しにもなりそうだ。だが、本題で或る敵襲に関して忘れてはならない。耳を澄ませていたマルベートは「動物たちの息遣いはある意味邪魔なものだね」と呟く。羽音や足音は様々な場所からも聞こえてくる。生き物が立てる音に気を取られ続けるのも問題だ。
「小動物程度なら狩って喰らうのもいいね。長い旅路だ。気晴らしも必要だし食料は多いに越したことはない」
「そうだな。まあ、食べれないことはないだろうし」
 サンディは頷いた。現在の所は『助けて』と呼ぶ声は聞こえない。賊が此方だけではなく関係ない通行人を襲っていたり蟻地獄に飲まれた先客がいた場合だってルートの確認も可能だ。
「まー……そりゃ助けられんなら助けてーけど、余力の問題もあるし」
「出来る限りよね。精霊達にも助力を乞うて出来る限りを救いましょう」
 頷くオデットにサンディはだなあと小さく呟いた。夜が近づく前ではのんびりとした旅を続けよう。


「道中は私が受け持とう。まあ、疲れ知らずとまではいかないけれどね、持久戦は得手だ」
 マルベートがそう微笑んだ背中では地平へと太陽が沈み往く。二班に分かれての道中はのんびり進むキャラバン隊の夜の要だ。夜営の準備を整えながら、美容方法を、とキャラバンの少女達の輪の中で話していたしにゃこは「一番は早寝ですよ!」と微笑んだ。
「それじゃあ、夜をお任せするわね。明日は任せてね?」
 エルスに頷いたのは武器商人。オデットは夜の精霊達のざわめきを聞きながら「何もないと良いわね」と微笑んだ。
「そうだ、一杯どうだ? 夜の番は俺達がするし、パカダクラの世話だって任せてくれ」
 ゼシュテル・スピリッツの瓶を揺らしたサンディにキャラバンの皆は喜んだ。緊張に胸が押しつぶされそうになっている者には分け与え、その他には消毒用にも使用できるとお守り代わりに一瓶を使用する。
「兄ちゃんはパサジール・ルメスの御伽噺って知ってたか?」
「いや、ファルベライズが出てくるまではさっぱり」
 ファルベライズと名付けられた遺跡群――それの周囲に御伽噺について触れ回る者が出た事で知ったというのだからある意味では盗賊団のお陰なのかも知れない。サンディは眠りに着いた子供達と、寝かしつけている風牙を見詰めながら平和そのものだと小さく笑う。
 一先ずは温存のための眠りを、と火の番を任せた愛無は鼻を奇妙な臭いが近くに存在するものの襲い掛かってこないと静かに告げた。
「……ヒヒ、どうやら『こっちの出方』を見ているようだねえ。どうする?」
「今日はあっちが仕掛けてこないならこっちも温存だ。けど、見られてるってんなら油断はできねぇな」
 武器商人にサンディはするつもりもないけど、と小さく笑った。囁き、警戒を露わにするメンバーの中に「はっくし」と小さく声がする。
「あんなに暑かったのに」
「昼間は暑いけど夜の気温はよく下がる……今のうちは暖かくして休んでおいて」
 毛布よ、とエルスがしにゃこに掛けて遣る様子にマルベートが小さく笑えば、近くで見詰めていた影は何処かへと遠ざかった――

 ―――――
 ―――
 ――
「ええっ!? しにゃのくしゃみが撃退したんですか!?」
「まあ、そうなるかな?」
 何てことだ! としにゃこは口を押さえた。乙女のくしゃみが盗賊の偵察を退けたとなれば気恥ずかしさが胸を支配する。慌てる彼女にマルベートは小さく笑う。随分と進んできた。幾度か交代の番を繰り返して『偵察』を行われていることには気付いている。どうやら夜営をバッチリ行うイレギュラーズの様子を見て襲い掛かるタイミングまでも周到に考えているのだろう。
「どうやら、内部に内通者はいないようだ。居た場合はもっと先に仕掛けてくるだろう。
 ああ、それに、どうせ末端だろうが。今回の襲撃の情報を持っている者は一度話を聞いてみたいものだ」
 戦闘中にサンディが気に掛けていた『襲われている人間』を助けた際に愛無はそう言った。やはり、道中であからさまに此方の気を逸らそうとする行動は多かった。キャラバンがもぬけの殻に為る事無きよう、余力のある際にサンディとマルベート、オデットが対処をし、周辺警戒をする武器商人が『此方も分かりやすく余力がある』態度を見せる。昼の襲撃を失敗に終えた盗賊を捕まえた愛無が『お話を聞いた』所、今夜がリミットであるようだ。
「拷問までは不要かと思うが。面倒だし。善悪を内包するのが国と我が団長も言っていた。
 追撃が出来ない程度に放置しておけば、運が良ければ助かるだろう。運が悪ければ死ぬだろう。
 ……それじゃ。縁があれば、またいつか」
 蹴飛ばすようにキャラバンから捨て置かれた盗賊に「達者でな」と風牙は手を振った。
「穴埋めとして、こう2-3日一緒に居たけど、怪しいヤツがキャラバンに紛れてなかったことだけ安心できたよ」
 そわそわしている者やお宝を物欲しそうに見ている者など、そうして考えれば怪しいのは自分たちだったかと風牙は小さく笑う。護衛対象から離れるようにおびき出すイベントもこなした彼等が待つのは今夜である。
 眠ったふりをしたサンディや武器商人、オデット、マルベートを見詰めながら火の番をする風牙。愛無はわざと空を眺め「明るいな」と小さく呟き――ゆっくりと立ち上がった。
「来たわね……大鴉盗賊団!」
 身を包んでいたマントを揺らして立ち上がったのはエルス。ついで「乙女に夜更かしは天敵!」と拗ねるしにゃこが起き上がる。
「なっ――」
「襲撃は疾っくの昔に予測済みってな?」
 眠っていたかのように見えたサンディとマルベートは直ぐさまに色宝を守るように布陣し、宙より姿を見せたオデットが隙を付くように攻撃を重ねる。
 一歩後退した盗賊のその背後に立っていた武器商人は「何処へ行くんだい? 旦那」とその唇で三日月を描いた。陣地構築で有利な状況は作成済みだ。色宝に対して僅かな親近感を持っている武器商人は「奪われるのも困るからね」と万象愛するその魔力を持って盗賊へと襲い掛かる。
「それにしても、盗賊団と言えども流石に下っ端だけだというのは舐められたものだね?
 君たちのボスに伝えて欲しいくらいだ。日中に『引き離す』作戦が失敗したのだからメリハリ付けて行動を見つめ直した方が良いと、ね」
 ぺろりと舌を見せたマルベートが空を駆る。地を蹴るように武器の切っ先が狙う盗賊の命。サンディの周辺に吹いた荒野の風は盗賊団たちの『意思疎通』を阻害し、荒々しくも『災厄の夜(サンディ・ナイト)』への片道切符を手渡した。
「ッ――此の儘、こいつらだけでも倒して後でお宝を狙え!」
 叫ぶその声に「簡単に倒せるなんて思わないでよ」とオデットは精霊達の力を借りて多重展開した魔術を放ち続ける。ディナーフォークを突き立てて、『悪食』でも喰らわない盗賊の様子をまじまじと見ていたマルベートの獣性が赫々たる色を灯して微笑んだ。
「さて、無粋なことを言わないでおくれ。夜は始まったばかり。
 どうやら『私達のフィールド』の上だけど……たっぷり楽しんでいくがいいよ」


「さて、ネフェルストに着いたわね……数日間お疲れ様っ」
 ファレンへとキャラバンを引き渡したエルスに「感謝します」と青年は頭を下げる。
 色宝について調査をしたいと申し出る武器商人に「何れ、イレギュラーズに伝えられることがあるかもしれない」とファレンは静かに告げた。
「御伽噺を利用した悪事はこれからもありそうかしら、ね。ま、その都度私達が撃退してやるんだから!」
「それは頼もしいっすね! まあ、大鴉盗賊団の団長……コルボも動き出してるみたいっすから」
 注意した方が良いかもしれないと告げるフィオナにサンディは「OK」と頷いた。
「それで、ネフェルスト側はこうした事件は多発すると踏んでいるのか? まあ、護衛というならば傭兵達でもまかなえるかも知れないが、其れでも手が足りないならばローレットに頼むのも良いだろう」
「……ええ。貴方方が大鴉盗賊団と相対した報告書を確認し、更なる対策を講じなくてはなりませんね。彼方も、『此処に色宝が集まっている』と知れば――」
「此処を狙うかも知れない、って事だろ?」
 風牙にファレンは大きく頷く。その危機をいち早く察知すべく、『情報収集』を行っているのがファレンとフィオナだそうだ。それまでは、地道に色宝を集めて、ファルベライズの探索を行うしかない。
「ぎゃー! ゆっくりシャワー浴びてメッチャ寝てやります!!」
 うんと伸びをしたしにゃこに「こっちへどうぞっす」とフィオナが手招いている。シャワーと寝所を借りて帰るのだっていいだろう。そうして、一段落した護衛仕事に微笑みながら見ていたパサジール・ルメスの少年、ラクスは「また、怖いことがあったら守ってくれる?」とイレギュラーズへと問うた。
「勿論さ、旅人の少年。危機がないことを願っているけれどね」
 武器商人の言葉にぱちりと瞬いてから少年は「頼りにしてる!」と楽しげに微笑んだ。
 ――色宝(ふぁるぐめんと)、其れに纏わる因縁と陰謀は、まだ幕開けしたばかりだ。

成否

成功

MVP

サンディ・カルタ(p3p000438)
金庫破り

状態異常

なし

あとがき

 ラサもどうぞ、宜しくお願いします!
 MVPは道中の方を助けたいっていう心優しさに差し上げます!お酒ごちそうさまでした。
 何だか、怪しいことが起りそうですねえ……。

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