シナリオ詳細
<Spooky Land>投影ミラァメイズ
完了
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オープニング
●夜の王はかく語りき
終わらない夜の遊園地『Spooky Land』。
カボチャ頭の支配人、『キング』はゲストであるあなたへ語る。
「やあ、ゲスト諸君。聞いた話によれば、何処かの世界では今宵は『ファントムナイト』と呼ぶそうだね。
なりたいものになれる夜が一日しかないのだろう? 一日だけなんて、つまらない世界だね」
此処に来れば何時だって、魔法をかけてあげられるのに――と呟くカボチャ頭は、目も口もただの穴でしかなく。その形を変える事はないものの、声色だけは不満さが滲む。
今宵のキングは、普段の王様らしい真っ赤なマントをやめ、黒地に白い蜘蛛の巣が伝うマントを靡かせる。頭上の冠にちょこんと乗った蝙蝠は、冠を特別仕様に彩っていた。
周囲ではゴーストに狼男、悪魔に天使。モンスター達が、調子外れのポップなメロディに合わせて踊っているが――この遊園地ではそれもいつものこと。
何せこの『Spooky Land』で働くキャストの殆どは、こういった異形の者達なのだから。
「僕達キャストはいつだって諸君を歓迎するよ。だって皆お客様の事が――人によっては『食べたいくらい』大好きなのだから!」
キングの言葉に、モンスター達は「笑顔がいいなあ」「悲鳴も極上だ」「一人くらい摘まんじゃダメ?」と姦しく話し、ゲートをくぐる次のゲストを待ち詫びている。
この場所は何時だって、ファントムナイトの様相で。カボチャもゴーストも悪戯も、日常でしかないけれど。
それでもやっぱり――ファントムナイトが近付けば。
きっと何かが、起こるはず。
●わたしはわたし、あなたはだあれ?
盛大な歓迎を躱し、辿り着いた先には一軒の小さな館。
入口には全身を映す鏡が置いてあるが、そこに映るのはいつもと変わらぬ自分の姿。
ここはなんのアトラクションなのかと傍らの境界案内人に尋ねてみれば、案内人は「鏡の迷路らしい」と手元の園内マップを捲って答える。
どうやらその迷路では、時折自分が『なりたい姿』が映るようで――自分は止めておくよ、と伝える境界案内人に別れを告げ、軋む扉を押して中へと入る。
真暗闇のエントランスの向こう、薄らと光が漏れる扉を開く。
突然の眩しさに目を瞑りそっと開けば、そこは確かに、床も壁も天井も、一面が鏡で出来ていて――目の前の鏡に連なって映る姿に、目を見張る。
「これが『なりたい姿』――あれ?」
おかしい。
おかしいのだ。
なりたい姿は、鏡に映るだけではないのだろうか。
鏡へと手を伸ばした自分の手は――その中に映るのと、同じに変わっていた。
- <Spooky Land>投影ミラァメイズ完了
- NM名飯酒盃おさけ
- 種別ラリー(LN)
- 難易度-
- 冒険終了日時2020年11月15日 19時08分
- 章数1章
- 総採用数15人
- 参加費50RC
第1章
第1章 第1節
コツ、コツと鏡の迷路に足音が響く。
『貴方の為の王子様』ラクロス・サン・アントワーヌ(p3p009067)の艶やかな唇から、ほぅと息が零れる。
「一面が鏡張りの迷宮だなんて、なんて素敵なんだろう!
御伽噺の中でも何度か見た事はあるけれど、万華鏡のように煌いているね……あ、そういえば」
煌きにばかり目をやり、すっかりこの迷路の魔法を忘れていた。けれど彼女が鏡の中の自分に特段目を留めなかったのは、煌きばかり見ていたからだけではない。
「……あれ?」
鏡の向こうに映るのは、シルクハットを被るいつもの自分で――?
「ああ、そうか!」
鏡の中の自分をよく見れば、ハットやシャツに青いリボンが飾られている。
そして、ベストの胸元に咲くのは一輪の青薔薇。
「私のなりたいものは『貴方の為の王子様』だからだね」
胸元の青薔薇を指で摘まみ顔を寄せれば、それは確かに芳しい花の香りがして。
(青い薔薇の花言葉は『夢が叶う』だっけ)
かつて不可能とされたその色は、時を経て真実となって。なら、とアントワーヌは小さく零す。
「もしかして本当に、あの絵本の王子様のようになれるのかな……」
小さな頃読んだ絵本の、憧れの王子様。
周りの子がお姫様になりたいと言う中、ひとり、王子様になりたかった。
「ねぇ、鏡の中の私。君は将来どんなお姫様を見つけたんだい?」
鏡の自分へと問いかければ――
「秘密だよ」
そう、ウィンクがひとつ返された。
成否
成功
第1章 第2節
「……うげ」
鏡の迷路に、『糸無紙鳶』此平 扇(p3p008430)の苦々しい声。
齢二十四、大人になってからはこうした場所に縁もなく、いつぶりかと考え込んでみれば――まだ学生だった頃の記憶が蘇る。
「兄い」と慕っていた男。若頭でありながら、よく自分をあちこち遊びに連れて行ってくれたものだった。
あれもこれも乗ったっけ、と好い気持ちだったというのに――鏡に映る姿はなんだ。
「……ないわ」
なりたい姿が映るこの鏡に映っていたのは――白無垢、だなんて。
角隠しに白無垢、唇には朱が引かれていて。紛れもなくこれは、元の世界の婚礼の衣装だ。
「いやまぁ、私も中々綺麗じゃないかって自画自賛もしたくはなる姿ではあるんだけどさ」
とはいえ、貰って欲しい人ももう居ない。ならばさっさと抜けて酒でも飲んで忘れるか、と足を踏み出せば――つん、と足元の何かに躓いた。
「は? 待って本当に着てるんだけど」
足元に目をやると、躓いたのは白い布。ぺたぺたと頭を触れば、鏡の中の自分と同じ角隠しに手が触れる。
「これも魔法ってヤツか……はぁ」
両手で裾を掴み、ゆっくりと一歩ずつ歩き出す。歩きにくさと、一面の鏡に段々と酔いすら感じ――また、記憶へと囚われる。
(……兄いがこの姿見たら、似合うって褒めてくれるかな。それとも似合わないって笑ってくれるかな)
もう、声も思い出せないのに。
どんな顔するだろうなんて、思ってしまった。
成否
成功
第1章 第3節
扉を開けた瞬間、『こそどろ』エマ(p3p000257)は転んだのかと錯覚する。
突然視界が低くなるも痛まぬ身体におや、と首を傾げてみれば――眼前の鏡には、真っ黒の小さなツバメが首を傾げていた。
「……む、完全に人の姿を喪っちゃいましたね」
ぽてぽてと歩くエマは、然程驚いた様子もない。自慢の忍び足がこの姿では役立たないものの、この迷路でそれを使うべき敵に出会うことは――なければいい、と思う。今狼にでも会えば、丸呑みされかねないのだから。
それでも、エマにとってこの姿となった自分は不思議なことではない。
「確かに子供のころから、空を見上げてはあの鳥になりたいと思っていたものです」
ひっひっひ、と嘴からいつもの笑いが漏れる事は些か不思議ではあるが、まあそれはそれ。
建物の隙間でゴミを漁り、路銀を失敬し、時折見上げていたあの灰色の空を自由に飛ぶ鳥を羨み、ここから飛び出して自由に世界を渡りたいと考えたことも一度や二度ではなかったから。
運命に選ばれて、食うに困らなくなった今もその憧れは消える事は無かった。
軽やかに飛び跳ねるのも、命を刈り取るその技に付けた名もきっとその憧れのせい。
「ほっ」
地面を蹴り、翼を動かせばエマの身体はす、と滑空し――
「へぶっ」
見事に、曲がり角の鏡面へと顔面を打つ。
「鳥も、楽な事ばかりじゃありませんね……」
痛んだ顔を手で拭うこともできないなんて――困ったものですよ!
成否
成功
第1章 第4節
のしのしと――否、カラコロと下駄の音を響かせる『黒ハーフエルフ』ゴリョウ・クートン(p3p002081)。
ゴリョウがよっこいせと扉を(ギリギリ)通ったのはつい先程のこと。逞しい腕も、豪快な腹もない少年と化したゴリョウは、周囲を漂う式へと道を尋ねる。
豊穣の術士の装いに似た姿に、烏のような濡れた黒の羽。そっと鏡面に手を伸ばし、鏡の中の自分と手を合わせる。
「んー……やっぱりこの頃の姿は全然違いますね」
『……大人の姿は嫌い?』
鏡の中の声に、ぱちくりと瞬きを一つ。映っていたはずのその姿は、同じ背丈でも服装の違う――分厚い本を抱えた、学生のような姿へと変じていた。
「そういうわけでもないですよ。アレはアレで成長の証しですし」
些か成長しすぎた感も否めないが――あの身体だからこそ、護れるものもある。抱えられるものもある。それを否定などするわけがない。
『じゃあ、今の姿は?』
「懐かしい、っていうのが一番。でも――」
『なりたい姿』がこれというのなら、きっとそういうことなんでしょうね。
その言葉に、鏡の中の自分はきょとんとした面持ちの後、ああ、と合点がいった様子。
『子供の頃に戻りたいっていうのは、普通に生きてた大人ならみんな思うからね』
子供の自分が『大人』の気持ちを語るのが酷く面白くて――
「大変ですね、大人って」
『ええ、本当に』
ボクと『自分』、もう少しだけ二人で。
この迷路を、楽しもうか――
成否
成功
第1章 第5節
がり、と南瓜型のキャンディを噛み砕き『星飾り』ラグラ=V=ブルーデン(p3p008604)は彼方へと語り掛ける。
「飲食禁止? そんなものはどこにも書いてないし、そもそもこのキャンディを私に渡したのはこの園の『キング』なんですよオーケー? 文句があればソイツに言って張り紙でもしておくんですよ。まぁ私ちゃんは書いてあっても見なかったら守りませんけど」
「よお『キング』。ここで一番美味い南瓜はお前だな!」
園内の案内をする『キング』に声を掛け、ラグラが西瓜割りならぬ南瓜割りを吹っ掛けたのは先刻のことで――私ちゃん的シミュレーションだとその後はこう、ほら。
「よく見破ったね。君は僕をあの世へ連れて行ってくれるのかな!?」
「任せな。冥途への案内役は未経験だが、無免許運転ならお手の物さ!」
なんてスプーキーでスイートな激闘のち酒と南瓜で乾杯していたはずだった。
しかしひらりと躱した南瓜頭の王は、ラグラの口に棒付きキャンディを放り込み去っていく始末。ということで、まあいいかとこの迷路を近道としさっさと帰って寝る最中なのだ。
鏡の中には――瞬間ごと、その色も形も変える『何か』が居て。
自分の手を眼前に翳しても、やっぱり『何か』は判らない。でもそれが、彼女なのだ。
私の輝きは宙の輝き。
体を満たすは母の命。
だからきっとこの鏡に映る誰かは――私ではない。
何か言いたげに――鏡の中の『何か』が揺れた。
成否
成功
第1章 第6節
揃いの猫耳パーカーに、ちょこんと南瓜のバッジを付けた 『遺産の探究者』リュカシス・ドーグドーグ・サリーシュガー(p3p000371)が『秋の約束』イーハトーヴ・アーケイディアン(p3p006934)の手を引いて駆け出す。
鏡の迷路へと迷い込んだ二人は、黒鉄のこどもはこわがりのおばけ、仕立屋の旅人は『おひめさま』を乗せた狼へと姿を変えた。
ぼろ布を被り、虚ろな顔のお面を着けて。スコップでこつこつと鏡面を叩いて歩くリュカシスに、平素の溌溂さは感じられず。リュカシスはそっと、鏡の中の自分を見つめる。
鏡の中の自分は、確かに『なりたい姿』で。
けれど、どうしてだろう。なんだか不思議と元気が出ない。
ぎゅう、と身体を丸めて布の中に隠れていると、静かで気持ちが楽で――
(元気が出ないのは、おばけだからかなあ)
それなら『いつも』の元気な自分はなんなのさ――なんて、鏡の中の『なりたい自分が笑っている。
「……っ」
ひゅう、と獣の息がイーハトーヴの口から漏れる。
境界の向こうでも変身するなんて、とびきりのサプライズだと思った。
なのに爪と、牙とで強くなったって――隣の友達一人、笑顔にできやしない。
鏡の中の自分と『おひめさま』が「強くなっても何も変わらない」なんて言って――煩い。
でも、これが魔法なら――ああ、そうだ。
「そうだ、リュカシス!」
「? なあに、イーさん」
チョコにクッキーにキャンディに、沢山甘いお菓子を詰め込んだバケツをずい、とリュカシスへと咥え――手を出したリュカシスにぽすん、と渡す。
「俺、お菓子をたっくさん持ってきたんだよ!」
それにね、と自由になった口で続けるイーハトーヴ。
「今の俺、すっごくもふもふだと思うんだ!」
胸を張るイーハトーヴに、へらりとリュカシスの口元は緩み。
「狼のイーさん、強くて可愛いなんて、最強だ。 お菓子もくれるし、毛並みに触ってもいいの?」
どうぞ、と顎を上げれば、リュカシスは思う存分その毛並みを堪能する。最強で優しくて、もふもふであたたかくて――
「……抱っこしてもいい……?」
「うん、勿論!」
『おひめさま』を落とさないよう、そっとお菓子のバケツに彼女を座らせる。
リュカシスがイーハトーヴの体を抱き上げれば、やわらかい毛並みとあたたかさに、ゆるゆると気持ちが解けていく。
優しく撫でたその手は、イーハトーヴの気持ちも同じように解いていって。
(鏡の中の俺の言う通り、強くても全部が上手くいくんじゃないって、俺は最近知ってしまって――
でもこうして、何だか元気がない君に、そっと寄り添って、温もりを分け合えるなら。
俺はやっぱり、狼さんになって良かった)
「ねえ、リュカシス。俺ね、布の中に隠れてたい君も大好きだよ」
「ありがとう、狼のイーさんも優しいね……ボクの大好きな、友達のおばけさん」
もう少しだけこの温もりを堪能して――そうしたら、迷路の攻略さ!
成否
成功
第1章 第7節
――夢の都の御殿で、御馳走に囲まれる薔薇色の日々!
「……と言いたいところですけど、見た目じゃありませんからねえ」
『デザート・ワン・ステップ』アレクサンドラ・スターレット(p3p008233)の『なりたい姿』は天下の大商人。
とはいえ、見た目だけでっぷり腹に脂ぎったツヤツヤ顔になるのはお断り。
(さて、どんな姿になるんでしょう?)
蹄の音を響かせ、期待にその尾を揺らすアレクサンドラは――背中の微かな違和感に気付く。むずむずするような、何か柔らかいもので撫でられているような。
(んん、何か布でも引っ掛け……って)
「えええええ!?」
鏡の迷路に、アレクサンドラの叫びが響く。
なにせ、鏡の中の自分の背には羽が生えていて――こちら側の自分にも、同じ物が生えているから。けれど、驚いたのも束の間。考えてみれば、この姿も納得なもの。
「……そういえば、小さい頃は空を飛んでみたいと思ったことはあるかも」
ぐ、と力を籠めれば、羽はふわりと動き――アレクサンドラの目がぱぁ、と開かれる。
「空を飛べれば、空輸も加わり事業拡大!」
ならば、飛ぶには狭いこの迷路――さっさと出口を目指さなくては!
「そうと決まれば一直線! 魔法の延長料金を請求されてはたまりません!
タイムイズマネー!ゴーゴー!」
獣の勘で突き進み、あっという間に外へと出れば――無情にも、魔法は解けて。
アレクサンドラはひとり、出口で項垂れたのだった――
成否
成功
第1章 第8節
「――そう」
『ヴァイスドラッヘ』レイリー=シュタイン(p3p007270)の小さな声がひとつ。
気付けばその身は、全ての色を呑み込んだ黒い花嫁衣裳に包まれていた。引き摺る程の裾は幾重ものレースに覆われ、纏めた髪にはヴェールが懸かる。黒一色のブーケが握られている手は、酷く細く――槍も盾も握れやしない、か弱い女のもの。
「これが、私の『なりたい姿』……」
レイリーは、漆黒の花嫁衣裳が意味するものを思案する。
自分ではない誰かの色に満たされ、染められたいという愛情の願望か。
それとも、あの日――レイリー=パーヴロヴナ=カーリナが喪った、愛しき家族を悼み喪に伏したいという哀悼の願望だろうか。
(どちらかしら――?)
それはどちらでもあって、どちらでもないのかもしれない。けれど、解っていることはある。
「まだ、そういうわけにはいかないのよ」
やりたいことがある。生きなくてはいけないことがある。
そして何より、戦って進まなくてはいけないことがあるから。
『……行ってしまうの?』
鏡の中の自分はブーケを大事に慈しみ、為すべき事を見つけたよう。それは、こちら側の自分と違って、心から幸せそうで――
(でも、心の中が空虚でも今の私は立ち止まりたくないの)
「じゃあね、私が、もし私が動けなくなったら会いましょ」
ひらり、手を振り鏡の中の自分に別れを告げ――後に残ったのは、床に捨てられたブーケと、鏡の中の一人の女だけ。
成否
成功
第1章 第9節
「ね、おじさま。『なりたい私』になって追い付くから先に入ってて!」
『絶望を砕く者』ルアナ・テルフォード(p3p000291)に背中を押され、『知識の蒐集者』グレイシア=オルトバーン(p3p000111)は一人、鏡の迷路を先行する。
(なりたい私、か。さて、ルアナはどう変身するのだろうか)
歩みを進めるグレイシアの姿は、此処へ入る前と変わらない。何百年も生きた己に、今更なりたい姿はないのだろうかと思いに耽れば、小走りの足音を耳が拾う。
「あれ? なんで普段通りなのー?」
「そのうち変化すると思うのだが……なるほど、それがルアナのなりたい姿か」
振り返った先には、この世界に来てからも見慣れた――『大人』のルアナが深い赤のドレスを纏った姿。けれどその口から紡がれるのは、大人の女の軽やかで楽し気な言葉ではない。
「うん! お姫様みたいでしょー?」
ふふん、と胸を張る姿は大人のルアナでいて、その中身は『今の』ルアナで。
「うむ、良く似合っている……ふむ」
そのちぐはぐな状態に、ふ、とグレイシアの口からは思わず笑みが零れる。このドレスに合わせるならば、きっと――
「あ! おじさま服が!」
「こら、人を指さすのでは――服?」
ルアナの言葉に鏡を見れば、いつの間にか自身がダークスーツのスーツから艶やかな黒の礼服へと変わっているではないか。
(ルアナを見て、合わせるならばと考えたものが『なりたい姿』だとはな)
「むぅ、なんで今変わったんだろ? 変なの!」
不思議そうなルアナはきっと、その理由など思い当たることもなくうんうんと唸っている。その顔がまた愛らしいものだとは――レディには黙っておくことにしよう。
「そいや、若いころのおじさまってどんな感じなのかな? てたまに思うけど……
わたしは今のおじさまが大好きだし、今が最高にかっこいいよね!」
「それは良かった……ありがとう、と礼を言う所か」
こうも直球で褒められれば、流石にむず痒さもあるが。
「ルアナも。その大人の姿も、子供の姿も。どちらも良いものだ」
口から零れた言葉は――ああ、どちらも、そう。
きっと、褒められた返事の社交辞令ではない。
「えへへ、じゃあ散策に……っと!?」
「……危ない!」
意気揚々と踏み出したルアナの足元は、履き慣れない高さのヒール。バランスを崩したその細腰を、咄嗟にグレイシアが支えていた。
「おじさまかっこいい……!」
「二度も言わなくていい……ほら」
少しの思慮の後、グレイシアは目を輝かせるルアナに手を差し出す。きょとんとその手を見つめるルアナに、グレイシアは溜息を一つ落として。
「手を繋いでいれば、不意にこけてしまうという事も無いだろう」
「……うん!じゃあえっと……えへへ」
ぱぁ、頬を綻ばせたルアナがその手を掴み、グレイシアもその幸せそうな顔に釣られて頬が緩む。
互いにその手に力を込めて――出口まで、探検といこうか。
成否
成功
第1章 第10節
鏡に映る自身の姿に『白獅子剛剣』リゲル=アークライト(p3p000442)がその背をぴん、と伸ばす。
「レ、レオパル様……!? な、なんだ俺か」
鏡の魔法は、彼が敬仰する『峻厳たる白の大壁』を思わせる鎧へと変じさせた。
いつかその大きな姿に並び立てれば。そんな憧れが鏡に見抜かれたのか――いや。
「嘘偽りなく自らの信念を掲げ、内なる理想を揺るがせることなく貫き通す!」
それこそが、騎士の在り方だ。そう自身の理想に向き合って、腰の鞘から抜いたのは幾度も手合わせした時に鍔競り合い、跳ね返されたのと同じもので――よし、と気合を入れ直せば、鏡と剣で乱反射した光が、リゲルを照らす。
(ふむ……これは右、いや左か)
歩き出してしばらくすると、左右に伸びる道に辿り着く。どちらの道もずっと先に伸びており、どうしたものかと悩むが――迷わず、足を踏み出して。
今までも、これからも、いつだって自分自身で道を選択し、この両足で進んできた。迷ったことも、間違えたことも、行き詰ったこともある――けれど、それが未来へ繋いでいく道。選んだ道を、後悔などするものか。
「行くぞ、早く帰らないと夕食が冷めてしまう!」
きっと今夜は、温かい南瓜のポタージュが待っている。外に出た後も、きっとこの迷路のように迷うけれど――いずれは出口に辿り着く。
「望むところだ。これからも歩み続けるぞ!」
白亜の騎士の歩みは、今日も止まることはない。
成否
成功
第1章 第11節
「ねぇ、キュウ。ワタシたちのなりたい姿が映るんですって」
「なりたい姿……一体何になるのかしら?」
ふわり、夜の遊園地に銀色と金色の髪が揺れて――『謡うナーサリーライム』ポシェティケト・フルートゥフル(p3p001802)と『おやすみなさい』ラヴ イズ ……(p3p007812)の二人は鏡の迷路へ迷い込む。
(あちらの世界ではワタシ、つめたい氷のモノになったのよねえ――まあ!)
ポシェティケトの目の前には、つやつやと光る氷の角を頭に有した、淡い氷の色の鹿がいて。
「見て見て、キュ……まあ!」
「あら、あら……」
からん、と首元のベルを鳴らし後ろを振り返れば――そこには真っ白でふわふわの毛並みの鹿がもう一匹。首をこてりと傾げ、後ろを見てもそこに金色の彼女はいない。ならば、この目の前にいる冬毛の、もこもこの、大きな角のこの子こそが。
「ふふ、ポシェティケトさんとお揃いねえ」
真っ白な鹿――ラヴの口から零れる言葉に、ポシェティケトもふふ、と笑みを返す。いつも可愛い『ちいさいさん』が、もっともっと小さくて、ふわふわで、可愛くて。
(鹿はもう、びっくりよ!)
二匹の鹿がちょこりと並べば、鏡に映るのは鹿の群れ。ふわふわだらけのその空間に、思わず二匹で目を丸くして――ラヴの鼻先を、ポシェティケトの鼻がちょん、とつつく。
「……?」
「あ、驚かせてしまったかしら。なんだかワタシね、嬉しくて」
大好きなあなたのなりたい姿が、鹿とお揃いなんて――そんなのとっても、鹿のみょうりにつきるんですもの。
嬉しい、楽しい、そんなものが溢れて気持ちの伝え方は鹿らしくなって。ふすふすと鼻先で遊べば、真っ白な鹿もそれを真似てちょん、と鼻先をつついた。
ころころと笑う内、ラヴは何故だか無性に駆け出したくなって――
「ふふ、なんだか楽し……あ、痛っ」
鏡の自分とごっつんこ。真っ白なおでこが、ほんの少し赤くなる。
「まったくもう、お転婆な鹿さんなんだから!」
ポシェティケトはラヴを窘めつつも、しょうがないわね、とちろちろと小さな下でラヴの額を優しく舐める。くすぐったげに身を捩るラヴも、だめよ、と足を踏まれれば大人しくなった。
今度は駆け出さず、そぉっとゆっくり。四足歩行の先輩の氷色の鹿は、慣れない四つ足を動かす真っ白の鹿を優しく見守る。こてりと転んでしまわぬよう身体を寄せ合いながら、歩調を合わせて進んでいく。
「ねぇ、ポシェティケトさん。こっちから外の――さっき食べた、甘いチュロスの香りがするわ」
「そうねえ、きっとこっちだわ」
香りを頼りに、二匹は進む。
(毛並みをふかふかによせあう時間は、なんてふわふわなのかしら)
出口に着くのが惜しい――なんてポシェティケトが思えば、どうやら隣の彼女も同じ気持ちのようで。
ならば、なるべくゆっくり二人――いえ、二匹で歩きましょう。
トコラ、トコラと二つの音が、鏡の迷路に響いていく――
成否
成功
第1章 第12節
かつん、とヒールの音が響く。
『終末の騎士』ウォリア(p3p001789)が鏡に見るのは、燃え盛る鎧の騎士ではなく――赤き大鎌を構えた、豊満な肢体の女の姿。さながらこの姿は『魔王』と呼ぶに相応しい。
(大分この姿には慣れたが……これがオレのなりたい姿、か)
『――解っているくせに』
鏡の中の女――己が語り掛ける。
『意外なはずはないだろう、何せ貴様は』
「……理解しているとも」
声帯が震える。女の声がする。己ではないその感覚は、そう――『人』の身体で触れ合ってみたい、ということ。触れれば切り裂き、傷つけてしまう爪も刃も、鎧から絶えず噴き出し続ける炎で全てを焦がすことなく――その手で、身体で『人』と同じものを感じてみたいのだ。
「そんなもの、魔法でも無ければ得られないというものもな」
『その体型も、望んだ姿か?』
鏡の中の己が指さしたのは、豊かな胸元。こればかりはふと思い浮かんだ顔――共に戦いを経てきた友に多いのが女性であり、その姿を無意識に真似ただけで他意はない。
(剣を握るには、些か邪魔なのでは……)
触れたそこは、初めての感触がして――少し不思議だった。
『行くのか』
「ああ」
『また夢を見たくなったら、待っている』
「……そうだな、それもいい」
なりたいものは、きっと、そう。
姿が変わらなくとも、一夜の夢だとしても――
理解など要らず、人と相容れる等、決して有り得ないと思ってきた彼は、今――
成否
成功
第1章 第13節
鏡の迷路を抜ければ、その姿は元通り。
夢見た姿は、鏡の中に置いてきた。
後ろを振り返れば――鏡の中にいた自分が見えて。
『 』
何かが聞こえた、気がした。
NMコメント
ファントムナイトどころではない情勢ですが、息抜きはいかがでしょう。
皆さんの『なりたい姿』はなんでしょうか?
アザラシになりたいと常日頃から言っている飯酒盃おさけです。
●目標
鏡の迷路を楽しむこと。
●舞台
明けない夜の、ポップで不気味な遊園地『Spooky Land』。
その一角に建つ『鏡の迷路』が今回の舞台です。
床も壁も天井も全てが鏡張りの迷路ですが、構造自体はそこまで意地悪ではないので出られなくなることはない……はずです。
●特殊ルール
いつもの姿でこの迷路へと足を踏み入れた皆さんは、ふと自身の姿が『なりたい姿』に変わっていることに気付きます。
ファントムナイトのイラストがある方はその旨をプレイングに、ない方はこんな姿だとご指定ください。
なりたい姿を見て嬉しくなる方もいれば、目を背けてしまいたい方もいるかもしれません。
鏡の中のあなたの心の声が聞こえてくることもあるでしょう。
楽しく変身し迷路を楽しむもよし、一面鏡の中『なりたい姿』に苦しむもよし。
耐えきれなくなって鏡を割る程度の破壊行動はOKですが、全部破壊したり燃やしたりは御法度です。
●サンプルプレイング
綺麗なドレスを着たお姫様の姿。
へぇ、あたしのなりたい姿が『お姫様』だなんてね!
召喚されることがなければ、確かにこうやって隣の国の王子とでも結婚していたのかも?
しっかしヒールもドレスも歩きにくいな、やっぱり鎧着て剣を振ってる方があたしらしいや!
……でも、ちょっとだけ。自分の中にいる『女の子』が喜んでるのかもね。
●ラリーシナリオについて
・このラリーシナリオは一章完結です。
11/9を目安に件数問わずそれまでに頂いたプレイングで完結予定ですが、完結までは積極的に執筆していきますのでお気軽にどうぞ。
・本シナリオは基本的にはソロ描写となります。
同行者がいる方は【】やID等記載してくださいね。
それでは、ご参加お待ちしております。
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