シナリオ詳細
<神逐>あいにすべてを
オープニング
●
二階堂 尚忠(にかいどう なおただ)は理想に燃える青年であった。出自もあれど、英才教育を施された彼が、若くして民部省トップに上り詰めたことは、当然の帰結であるともいえよう。
彼は国を愛していた。この国が、永く、永く続くことを心より望んでいた。適切に国が運営されればそのように国民も応じてくれると信じ、疑いもしなかった。
彼が担当するのは徴税。税とは、国の血液である。彼はそのように認識していたし、その血流を管理する民部省に所属したことも、これもまた当然のことだったかもしれない。
いずれにしても、国とて金がなくては動かぬことは揺るぎようのない事実だ。それは決して、権力者が甘い汁をすするためではなく――そう言うあくどいものもいたが、それは正当に裁かれるべきであり、制度には関係ない――国民が、自らを助べく納、国家もそれに応え形で税を使う。
完成された構造である。美しさを感じるほどに。誰もが、その制度に従い、国を愛すべきだ――尚忠は、そう信じていた。
●
「そうか。二階堂 尚忠か――」
未だ療養を続ける少女から、尚忠の名を受け取ったレイチェル=ヨハンナ=ベルンシュタイン(p3p000394)は、診療所の門の前で、空を高く見上げた。
秋の空は澄んでいて高い。クリアな空を遮るものは何もない――だが、その下、この街には澱みがぐるぐると渦巻いている。
クソ、と無意識のうちに、悪態が口をついて出た。この国の上層部が澱んでいることは、レイチェルも理解していた――いずれ、そこにメスを入れねばならぬようになるのだという事も。分かってはいたが。
「肉腫……利用した罪は重いぞ」
世界を侵す疫病を、手ごまのように扱うその精神性こそを、レイチェルは嫌悪していた。それは決して、人ならば――病を利用し、人を侵すなど、やってはいけないことだと考えていた。
それをやったのが、二階堂尚忠であったことを、被害者の少女の口から聞くことができた。
明確に――民部省は、敵だと判明したわけだ。
「ベルンシュタイン殿」
声をかけたのは、帝一派の兵士の一人である。現在の京の都についての情報収集と、神使……イレギュラーズ達とのパイプ役を担う彼は、緊張した面持ちでレイチェルへと告げた。
「やはり二階堂尚忠――おっしゃるように、冥府魔道に堕ちたものかと――」
探りを入れていた事実もまた、尚忠を敵だと告げていた。尚忠の屋敷に出入りするのは、冥の集団。国家組織の暗部が、何を理由にして屋敷に出入りする物か――もはや答えは明白であった。
「近々、俺達も動き出す」
レイチェルが言った。――昨今の戦いにより、大精霊『黄龍』と接触したイレギュラーズ達は、黄龍より、京の都に迫る危機についての情報を得ていた。
曰く、『黄泉津瑞神』と呼ばれし神威神楽の『守護神』が『けがれ』と『大呪』の影響を受け暴走しかかっているのだという。
『黄泉津瑞神』とは、神威神楽の守り神である。犬の姿で顕現するというその守り神は、けがれと大呪の影響を受け、その在り様を歪められてしまった。
守り神から、厄災の神へ。その叫びは、この国を、穢れの焦土へと変えてしまうだろう。
神逐(かんやらい)の時は、今目の前に迫ろうとしていた。再び、天守閣へと迫る時が来たのだ。
「その作戦の最中、余計な事をされねぇように……尚忠の屋敷に襲撃を仕掛けることになるな」
「では」
兵士の言葉に、レイチェルは頷いた。
「奴は俺達で仕留める」
●
尚忠が世の矛盾に打ちのめされたのは、民部省で働き始めてからの事だ。
民たちはおおむね、税を納めることを忌避した。節税、脱税などと、制度から逃れることを尊びもてはやすものすらいた。
そのくせ、此方の落ち度には敏感に反応し、声高に自分たちの正当性を主張した。
醜い。
普段はその制度の恩恵にあずかっていることを自覚もせず、自分たちは不当に搾取されていると声をあげる。
醜い。
いつしか尚忠は、人を人としてみることを止めた。数字として、それらを管理する方向へと変わっていった。
――とりわけ尚忠が軽蔑したのは、獄人たちである。税を納めず、逃れる事ばかりをし、そのくせ自分たちは、貶められていると主張する。
醜い。
共に生きるものでありながら、共に生きようとしないなら。
このような連中は、国の為には在らぬのだ。
――それは歪んだ認識である。貧しい彼らが生きていくためには、そうせざるを得ない事情があった。
だが尚忠は、それに共鳴しなかった。それを怠け者の言い訳と一顧だにしなかった。
確かに、尚忠は、国を愛していた。そして、確固たる正義の心を持っていた。
だが、共有なき愛に、共有なき正義に、何の意味があろうか。
共有なき正義、人はそれを独善と言う。
彼は独善的であった。そして、それは彼の正義の心が揺るがされるたびに、こびかたまり、肥大化していった。
●
月光が天守を照らしていた。その上に、巨大な犬が鎮座しているのを、イレギュラーズ達は確認していた。
作戦決行の日――二階堂尚忠の屋敷に通じる道は、既に多数の悪しき気配に満ちていた。
ここを突破し、二階堂尚忠の首を獲る。敵が動く前に、敵をここに封じるのだ。
イレギュラーズ達の、永い夜が始まろうとしていた。
- <神逐>あいにすべてをLv:15以上完了
- GM名洗井落雲
- 種別EX
- 難易度HARD
- 冒険終了日時2020年11月18日 22時20分
- 参加人数10/10人
- 相談7日
- 参加費150RC
参加者 : 10 人
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参加者一覧(10人)
リプレイ
●月下の開戦
月夜の空を、一羽の鷹が飛ぶ。
その眼下に広がる広大な屋敷。広大ではあったが、そこに過剰な派手さはなく、質実剛健とした作りは、住み手の意志の表れか。
屋敷の内部は、空からは見通せない。しかし、前庭と正面入り口門周辺は、充分に見渡せた。前庭には、その身を鎧武者のように変化させた『大呪の怨霊』の姿が5、か。前庭には、十数の『冥の暗殺者』たちの姿が見える。
鷹は、それらをしっかりと見やると、ふ、と旋回した。暗殺者の一人が、それを見やった。
――夜間に鳥か。
呟く。しかして、それもまた、珍しくはない事だ。夜に飛ぶ鳥もいる。月光に照らされているとはいえ、その種類を確認することは、暗殺者と言えど難しかったか。
その鳥――鷹は大きく屋敷から離れた。これ以上、注目を引くべきではない、という思惑がそこにあった。バサリ、と大きく翼を翻して、屋敷から外れ、街の陰へと降りる。そこには10名ほどの人影が見えて、その内の一人の腕に、鷹は降り立った。
鷹が鳴く。その鳴き声を、神妙な顔で頷いて聞く、一人の男。
「――大呪、4。冥、確認できただけで十。恐らく建物の影にさらに数人――」
男が――『章姫と一緒』黒影 鬼灯(p3p007949)の部下である、水無月が、鬼灯へと言った。鷹の名は『ナナシ』。水無月の相棒であり、共に忍集団『暦』にて偵察などを行う『忍』である。
――水無月、ナナシ。貴殿らの目を借りたいのだが、頼めるか――。
鬼灯の言葉に、彼らは頷き、偵察を行っていた。名無しを二階堂邸上空へと飛ばし、敵の全容を確認する。
民部省トップである、民部卿、二階堂尚忠の討伐。其れこそが、ここに集まった10名の神使(イレギュラーズ)達の使命であった。その所業から、冥府魔道に堕ちた尚忠をここで討伐し、カムイグラの秩序を取り戻す。
「オーソドックスと言えば、オーソドックスな布陣だね」
『夜明け前の風』黎明院・ゼフィラ(p3p002101)が、くすりと笑いながら言った。
「後は罠の確認だが。これは現地に行って調べるしかないかな。しかし、有難い情報だ。良い仲間を持っているようだね」
ゼフィラの言葉に、水無月はゆっくりと頭を下げた。
『自慢の仲間よ!』
章姫の言葉に、水無月は、
「勿体ないお言葉です、奥方様――頭領、ここからの指示は?」
鬼灯へと指示を仰ぐ。
「うむ。念のため、退路の確保を頼めるか?」
「ああ、任せておけ頭領。その代わり必ず生きて戻ってこい。奥方もどうぞお気を付けて」
そう告げると、一礼と共に闇夜にその姿を消した。
「忍か……見事なものだ」
ゼフィラは感心したように呟いてから、続けた。
「さて、ここからが本番だ。プランは分っているね?」
仲間達は頷く。
「獄人差別……俺も幼少のころから、何度も目にしてきました」
『散華閃刀』ルーキス・ファウン(p3p008870)が言った。尚忠は、政府中枢でも獄人差別の方針をとっている。尚忠の担当は徴税をはじめとする税務関連だが、とりわけ、獄人に対する取り立ては苛烈だ。
「ここを突破することで……それが、無くなるのなら」
ルーキスの言葉に、『暗鬼夜行』如月=紅牙=咲耶(p3p006128)は頷いた。
「きっと、そうなるでござるよ」
それは、咲耶にとっても、願いだったのかもしれない。今もなお療養中の、友の姿が目に浮かぶ。その友も――彼女もまた、尚忠の傲慢さの犠牲者の一人だ。
「よし。じゃァ、作戦開始だ」
『蒼の楔』レイチェル=ヨハンナ=ベルンシュタイン(p3p000394)が言った。
「今日のオペはかなりの大仕事だ。国から病巣を取り除くんだからなァ。医者冥利に尽きるってもんだぜ」
にぃ、と笑った。覗く牙に、怒りと、敵を追い詰めることのできた喜びを見せて。
ざざ、ざざ、と風が吹いた。二階堂邸前門。正面から見ただけでも、5名の暗殺者が警備をしているのは分る。さらに情報と組み合わせれば、周囲にさらに敵が潜んでいることは確実だ。
「建物の影に隠れてる奴の姿も確認した」
『『幻狼』灰色狼』ジェイク・夜乃(p3p001103)のあげたてのひらに、一匹の、灰色のネズミが飛び乗ってくる。ジェイクの召喚したファミリアーで、役目を終えたそれが、すぅ、と夜闇に消えた。
「総勢15名か。なかなかの大所帯だぜ!」
「数が分かれば、対処もしやすいですね」
『騎士の忠節』アルヴァ=ラドスラフ(p3p007360)の言葉に、ジェイクは犬歯を見せて笑った。
「ああ。場所は把握済みだし、おめぇもいる……不意は打たせねぇさ」
とん、とジェイクは、アルヴァの肩を叩く。
「頼りにしてるぜ……いくぞ、おめぇら」
その言葉に、アルヴァ、そして仲間達は頷く。アルヴァを先頭にして、神使達は一気に前門へと向けて駆けだした。
「――僕の名は、アルヴァ=ラドスラフ! 二階堂尚忠、その首級を獲りに来ました!」
アルヴァが名乗り口上をあげる。その言葉に、暗殺者たちの殺気が一気に膨れ上がった。殺! 投げつけられたクナイの刃を、アルヴァは仕込み杖を振るい、叩き落す。
「賊だ! 生かして帰すな!」
暗殺者が声をあげるのへ、
「そこどいて! キミたちに用はないの、通して!」
『希望の紡ぎ手』アリア・テリア(p3p007129)が呼び出した思念体の女神が、暗殺者の一人をその腕に抱きすくめた。女神の唇から囁かれる甘い毒が、暗殺者の生命を直接侵蝕する。が、と悲鳴を上げて、暗殺者が倒れ伏す。
「邪魔するって言うなら――一切容赦は出来ないよ!」
そう言われて怯む暗殺者ではない。とはいえ、テリアの実力は、暗殺者たちにも痛いほどに分かった。警戒するように距離をとる暗殺者――しかし、それは神使達にとっても好機と言える。
「今だ! 皆かかれぇ!」
『天駆ける神算鬼謀』天之空・ミーナ(p3p005003)が叫ぶ――その言の葉に、大号令の魔力を乗せて。その全軍突撃の号令に背中を押された仲間達が、一気に突撃、距離を詰める。
「おっと、この距離は俺の距離だ」
手にした『杭打機』と呼ばれる、短射程の拳銃――『フォークロア』スカル=ガイスト(p3p008248)は、至近距離から一発、暗殺者にお見舞いする。肩口を銃弾が貫いたのを確認、間髪入れずに張った拳のコンビネーションが、暗殺者の意識を奪う。奇襲の一撃が、暗殺者を一人、無力化する。
神使達側からの奇襲で始まった戦いは、すぐに乱戦となった。敵の数は多いが、既に全容を把握していた神使達は、奇襲や不意打ちを受けることなく戦闘を続行。
「数は多いが、惑わされるな! 確実に一人ずつ、仕留めていけ!」
ミーナの号令が響き渡る。その言葉通りに、仲間達は一人一人、確実に敵を無力化していく。
「回復は任せたまえ! その分、奮戦を期待するよ!」
ゼフィラの奏でる天使の歌が仲間達の傷を癒していく。
「任せなァ! ──疾風怒濤の如く駆けよ、焔華!」
レイチェルの右半身が、紅く魔術の紋様を描く――同時、掲げや指先からあふるる鮮血が、空中に陣を描いた。そこから放たれるのは、煉獄の焔。燃え盛る火炎が地を這い、暗殺者を飲み込んだ。爆発する炎の奔流が強かに体を打ち据え、焼き、そのまま後方へと激しく吹っ飛ばした。これを食らっては、戦闘継続は不可能だろう。
「さぁ、お前達の相手は僕です!」
アルヴァは引き続き、敵の攻撃を一手に引き受けていた。今まさに三名の暗殺者と、かわるがわるの剣戟を繰り広げている。暗殺者の小刀が煌き、アルヴァは仕込み杖でそれを払いのける。投げつけられるクナイが、アルヴァの頬を薄く傷つけた。ぴりり、とした痛みが走る。毒か、麻痺毒か。いずれにしても、しかしここで倒れるつもりは毛頭ない。
「政府の暗部――そんなものに倒される僕ではありません! この命、取れるというのなら取ってみなさいッ!」
マントを翻して、再び名乗りをあげるアルヴァ。暗殺者値は一斉に、アルヴァへと襲い掛かった。闇夜に無数の白人が煌き、アルヴァへと肉薄する!
「今です!」
アルヴァが叫ぶのへ、答えたのはジェイクだった。
「応、狙い撃ちだぜ!」
ジェイクは手にした拳銃を、雨あられのごとく連続で撃ち放った! 放たれた銃弾の雨は、華麗にアルヴァを避けて暗殺者へと襲い掛かる! 超絶的なスキル――高速連射と面制圧を行いながら、決して仲間には当てぬという技術。乱れ撃ちの狙い撃ち、と言った所か。銃弾の驟雨は暗殺者たちを貫き、次々とその意識を吹き飛ばす。
銃弾の音と共に、戦場に静寂が訪れた。
「こいつで全部だな?」
ジェイクが尋ねるのへ、
「あァ、間違いない。察知した敵の数はこれで全部だ」
レイチェルが周囲を見やりつつ、答える。
「しかし、どこに敵が潜んでいるかは分からないな。ゼフィラの言った通り、罠が仕掛けられてる可能性もあるからな。急ぎつつ、しかし慎重に、だ」
レイチェルの言葉に、仲間達は頷いた。
「行くでござるよ。奴に逃げる隙を与えてはいけない」
咲耶の言葉を合図に、仲間達は走り出した。
●前庭、屋敷へ
前門を抜けて、前庭へ。よく整えられた庭であった。いわゆる日本庭園風の景色が広がっていたが、今はその景色にも取れている暇はない。
足元の砂利が、じゃりじゃりと音を立てる。庭の中ほどに来たところで、周囲に異常な殺気が漲っていることに、神使たちは気づいた。
「大呪の怨霊だよ!」
テリアが声をあげる。果たして、その通りだ。神使たちを囲むように、4体の巨大な落ち武者風の怨霊が、その姿を現したのだ! 怨! 怨霊たちが雄たけびを上げ、その幽気をまとう巨大な大刀を掲げる。
『時間をかけてはいられないわ! 先手必勝よ、鬼灯くん!』
「ああ、嫁殿。少し騒がしくなるが、我慢してくれよ」
章姫の言葉に、鬼灯は頷き、駆けだす。怨霊の眼前へと向けて。低木を盾にする形で、怨霊と対峙する。
「大呪に呼応して迷い出たか……だが、すぐにあの世へと帰ってもらうぞ」
掲げる手には、上空の輝く月とは対照的な、暗い闇の月があった。それは、敵対するものを、暗き運命に飲み込む不吉の月。吹き出す闇に飲み込まれた怨霊が、おお、と悲鳴を上げてその姿を闇へと溶かしていく。
「滅せよ」
その一言を合図に、怨霊は闇をへと消えた。仲間を失った怨霊たちは驚き、しかし反撃に転ずる。巨大な大刀が、地を抉り、日本庭園を無残な姿へと変えていく。
「やれやれ、ワビサビってのが分からんと見える」
大刀の一撃を跳躍して回避。空中で無残に破壊される庭園を眺めながら、スカル=ガイストはぼやいた。そのまま着地。じゃり、と足音がなる。
「ものを粗末にするとどうなるか、教えてやるよ。授業料は、アンタの命で結構だ」
じっ、と砂利を蹴りつけて、スカル=ガイスト駆けだした。一呼吸で敵に肉薄し、手にした拳銃、『杭打機』――『C&J X1 パイルドライバー』を構え。
そのまま、拳銃の銃身を、怨霊へと叩きつけた。頑丈なフレームは歪むことなく、怨霊に強かなダメージを与える。そのまま、スカル=ガイストは拳銃の引き金を引いた。打撃と、文字通りのゼロ距離から放たれる銃弾が、怨霊の身体を貫き、吹き飛ばす! 衝撃が、怨霊の身体を霧散させ、夜の闇の中へと消えていった。
「こうやって、きついお仕置きが待ってるもんだ。わかったか? 来世じゃつつましく暮らしな」
スカル=ガイストは肩をすくめる。
手数は少ないが、一発一発の威力の高い怨霊の攻撃を、神使達はうまくいなし、あるいは耐える。一方、数の上ではこちらが有利である。攻撃を集中させ、一体一体に確実にダメージを蓄積させ、とどめを刺していく。
残る二体の怨霊。その片割れと対峙するのは、ルーキスだ。二振りの無銘の刀が、怨霊の大刀の刃と交錯する。一撃、二撃。交差するたびに火花が散り、夜闇を激しく彩った。
「大呪により呼び覚まされた怨霊……ですか。ある意味で、この国の闇の犠牲者ともいえますが……!」
ルーキスが言葉を放ち、斬りかかる。けん制の一打。怨霊が大刀でそれを受け止める。がしゃり、と音を立てて、怨霊が動いた。ルーキスの刀を振り払い、大上段から大刀を振り下ろす。
ルーキスは横へ跳躍。一瞬前の位置に大刀が振り下ろされ、地を抉る――。
「勝機! ここにっ!」
その隙をついて、ルーキスは怨霊の懐へと潜りこんだ。怨霊は完全に無防備状態だ――そのまま、ルーキスは無銘の刃を振るう。
一刀・両断。文字通りに、一刀のもとに怨霊の身体を両断せしめた。おお、と悲鳴を上げて、怨霊の身体が中空へと溶けていく。
「俺達は、足を止めるわけにはいかないんです」
ルーキスは、ふぅ、と深く息を吐いた。ギリギリの斬り合いを結んだ感覚が、ひやりと汗を噴出させた。
「残るは、こいつのみでござるな――」
冷たい眼で、咲耶は残る怨霊を見やる。酷く冷たい声。酷く落ち着いた思考。冷徹さすら感じさせるその空気。
暴れるように大刀を振るう怨霊、その懐目がけ、巨大な手裏剣を投げつける。大刀を振り下ろす、僅かなスキをついて。防御不能のタイミング。一撃必殺の好機。
巨大な手裏剣は、怨霊を両断し、地に突き刺さった。怨霊の身体が闇に溶け、そのまま消えていく。咲耶は手裏剣を回収すると、頷いた。
「これで、邪魔者はすべて片付いたでござるよ」
「……あまり気負うなよ」
レイチェルが、咲耶へと告げる。
「気負う、とは――」
「朝霧の事だ」
朝霧――それは、尚忠により複製肉腫へと変えられ、今は療養中の咲耶の友人である。
「拙者は――」
何かを言おうとして、咲耶は思いとどまった。小さくかぶりを振って、
「大丈夫でござるよ。至極、心は落ち着いているでござる――それより、朝霧は。医者として、どう映ったでござるか」
「気休めで言うわけじゃぁないぜ? 無事だ。言ったろ、最高の医者と目、それにメスがあったんだ。確かにまだ体力は完全じゃないが、すぐに良くなる」
レイチェルは、にぃ、と笑った。
「信じろよ。俺達は完璧な仕事をした。終わったら、甘いもんでも喰いにつれ出してやれ」
咲耶が静かに頭を下げた。
「かたじけない」
「なんだ? 何か内緒話か?」
ミーナが小首をかしげて尋ねるのへ、レイチェルは頭を振った。
「ああ、少しな。だが、大丈夫、作戦に支障はない。さァ、いよいよ大詰めだ」
その言葉に、ミーナは頷いた
「ああ。二階堂尚忠……近いな。『原罪の呼び声』だろうな。不快な雰囲気を感じる」
魔種が伝播する狂気。『原罪の呼び声』。それが、辺りに漂っているのは、神使達には感じ取れていた。
「呼び声……精神を蝕まれるようなこの感覚、やはり長く晒されたくはないですね」
ルーキスが言うのへ、テリアが声をかける。
「大丈夫だと思うけど、気はしっかり持ってね。発生源に……魔種に近づくにつれて、声は強くなっていくはずだから」
自身も、その魔の手を取らぬように、気を張り詰めながら、そう言う。
「では、行こうか。なに、何が相手だろうと、いつも通りにやるだけだ。だろう?」
スカル=ガイストの言葉に、仲間達は頷いた。
神使たちは、前庭を抜けて屋敷へ。静かに足を踏み入れた。
邸内は、不気味なほどに静かだった。経過していた敵の伏兵や、罠の類は見受けられない。神使たちは邸内を進む。迷うことは無かった。一歩一歩進むたびに強くなる、原罪の呼び声。その呼ぶ方へと、脚を進めて行けばよかったから。
いくつかの襖を開けて、やがて一つの大広間へとたどり着いた。そこには、静かに正座をして、迷走するかのように瞳を閉じる一人の男の姿が――二階堂尚忠の姿あった。
「来たか……不埒者どもめ」
尚忠が目を開ける。その眼が怪し気に光った。魔の者の目である。
「満足か。この騒乱が、この乱れ切った京が。お前たちの望むものであるか」
「聞き捨てならないね。この状況は、キミ達のせいだと思うけれど?」
からかうように、ゼフィラが言った。尚忠はゆっくりと、残念そうに、頭を振るだけである。
「お前達が来なければ――この国は安定しておったであろう。巫女姫もそうだ……なぜ外から来て、この国を破壊するのだ」
「ふむ。見解の相違だ。巫女姫のせいだ、と言うのは事実だし、私達イレギュラーズ……神使が来たことが崩壊の引き金になったことも事実だ。だがね、元々この国は倒壊寸前だったのさ。キミのような奴らのせいでね。それに」
ゼフィラは言った。
「『魔種に堕ちた奴が、何を泣き言を言っている』んだい。キミは負けたんだ。巫女姫にね」
「負けた……違う、それがしは、受け入れたのだ。愛を。自らの内から渦巻く、この京への愛を!」
尚忠が激昂した。愛。国への愛。其れこそが、彼が堕ちた要因だったのだろう。
だがそれは――あまりにも歪んだ愛であることを、神使たちは知っている。
私は、とゼフィラは言った。
「政治家としてのキミを、完全に否定したいわけじゃあない。政治を動かすものとして、人を数字としてみるのは間違っていないよ。大局を見る際に、個人的な事情をいちいち勘案していては動けない。だから私は、政治家としてのキミを否定しない。だからこそ、私はキミを討つ」
ぴくり、と尚忠のこめかみが動いた。
「キミはもはや、政治家ではない。なぜなら、今のキミこそ、『獄人を苦しめるためだけに理を捨てる愚か者』なのだからね」
「そうです」
ルーキスが声をあげた。
「どれだけあなたが達が偉そうなことを言っても、苦しんできたのは俺達……八百万ではない者たちです。この国の獄人たちが……その一部が、かつて何をやったのかは知っています。でも、だからと言って、すべての人間を不穏分子として扱うなんて間違っている」
「結局お前は、非情に徹しきれていなかったのだ。人を数で扱うと嘯きながら、獄人への個人的な復讐心を優先した。ゼフィラの言う通りだな、お前は理を捨てたのだ」
ミーナの言葉に、尚忠は笑う。くく、と、自らを嘲笑するかのように。
「復讐心か。そうか、これは個人的な復讐の炎であったか」
尚忠がゆっくりと立ち上がった。腰に佩いた刀を、ゆっくりと引き抜く。
「ではこの復讐の炎で、すべての獄人を根絶やしにしよう。やはり私の愛する国とは、獄人のいない国であるよ」
ず、と周囲の襖があいた。総勢5名の暗殺者たちがなだれ込んでくる。
「やはり、伏兵がいたか……だが!」
鬼灯が動いた。手に印を組み、術式を解き放つ。召喚された熱砂の精が、尚忠、そして暗殺者を巻き込んだ砂嵐を巻き起こす!
その砂嵐を切り裂いて、尚忠は飛んだ。手にした刀がきらりと輝く。一閃! その斬撃を受け止めたのは、アルヴァだ!
「重い――のに、速い!」
息をつかせぬ二連撃が、アルヴァへと迫る。二撃目を後方へ跳躍して回避。が、その手に深い傷跡を残す。致命傷は避けたが、浅くはない傷だ。
一度対峙しただけで分かる。二階堂尚忠は、決して弱者ではない。魔種化による強化もあるだろうが、その刃の冴えは、元来の力でもあろう。なるほど、人であった時から、鍛錬は怠っていなかったらしい。
「でも……退くわけにはいかない!」
アルヴァが尚忠へと迫る。仕込み杖を一閃! 尚忠の刀と激しく切り結ぶ!
「お気持ちは察しますよ! あなたの志は偉大だ、いや……最早『だった』と言うべきか!」
上段から振り下ろした仕込み杖を、尚忠が受け止める。
「もちろん腐りきった民が悪いですよ! あなたが、『その民を切り捨てるまでは』……!
お気づきでないのですか?
あなたがもう、腐りきった民より腐りきってしまっていることに!」
「知ったような口を!」
「かつて『民を想ったあなた』はもういないのですね……!
きっと今まで辛かったでしょう。
あなたの怒り、僕が全て受け止めます!」
「叩くかッ!!」
尚忠の斬撃。まるで一撃が数度に連続して斬りかかられたかのような感覚。一撃一撃が、アルヴァの体力を削っていく!
「アルヴァ、いったん下がれ! 俺達が相手をするッ!」
レイチェル、そして咲耶が前へと突撃する。アルヴァはいったん下がり、
「やれやれ。二階堂尚忠、口だけの男ではなさそうだね」
ゼフィラの治療を受ける。
一方、咲耶は絡繰手甲を刃へと変形させ、激しく尚忠と切り結んでいた。
「お初にお目にかかる、民部省の長よ。民草を人と思わぬその歪んだ性根、この紅牙 斬九郎が成敗致す」
静かに――あくまで静かに、咲耶は立ち回る。怒りは頂点に達していた。だが、それ故に、どこか冷静に、咲耶は己を見ることができていた。
燃える、静かな怒り。だが、その怒りに身を任せてはいけない、と咲耶は理解していた。
――朝霧の為である。
朝霧は……朝霧は、きっと、神使達を、自分たちを、『英雄』だと信じて呉れているから。
尚忠のように、己の復讐心を正当化し、暴虐を働くわけにはいかない。
「拙者たちは……お主とは違うのでござるよ」
「そうであろうな。お前達と我々(ヤオヨロズ)は、根本的にすべてが違うのだ……最初から、歩み寄ることなどしなければ! 壊れなかった!」
彼とは違う。現実と理想のギャップに倒れ、壊れてしまった彼とは。
自分たちは、今、この時、確かに英雄であるべきなのだから。
「哀れでござるな、二階堂。今のお主は上手く行かぬと駄々をこねて拳を振り回す子供の様。人に寄り添えぬ正義など、唯の独善に過ぎぬというのに」
「違う! 正義は我らにあった!」
「それが、独善なんだよ!」
レイチェル、右半身を描く魔力の回路(サーキット)。指先を食いちぎり、傷をつけ、鮮血をほとばしらせる。
「だが、俺からお前に言う事は一つだ――『お前は病を己が欲望に利用した』。それを許すわけにはいかないなァ!」
迸る鮮血は陣を描いた。そこから放たれる、紅蓮の焔! 灼熱のそれが弾丸となって、尚忠へと迫る。咲耶が尚忠の眼前から跳躍。入れ替わる様に、レイチェルの炎が、尚忠へと殺到する! 轟! 激しい熱風が尚忠の肌を焼いた。ちぃ、と舌打ち共に、尚忠は刃を振るい、焔をかき消す。
「病……肉腫の事か! あれは便利であったな! だが、アレを救えるとは想定外であった。だからこうして、貴様らを招き入れる羽目になったわけだが――それがどうしたぁ!」
尚忠が駆ける――長い距離を一息で飛び越えて、レイチェルへと肉薄する!
鋭く振るわれる斬撃。レイチェルは身を翻して、致命傷を避けた。だが、刃は外套を切り裂いて肉を抉る――ちぃ、と痛みに舌打ちをする。
「こっちだ尚忠ァ!」
横合いから撃ち付けられた銃弾が、尚忠の追撃を阻止した。ジェイクの攻撃だ。
「ミーナ! レイチェルの回復を!」
ジェイクが叫び、銃弾をぶっ放す。その銃弾を隙間を縫って、尚忠が接近してくる。
「了解だ! そちらも無茶はするな!」
ミーナが術式を展開するのを横目で見つつ、ジェイクは尚忠の斬撃を寸前でよけた。手にした拳銃を逆手に持って、グリップで殴りつける。がき、と音がして、グリップは刀で受け止められていた。
「よう、魔種。どんな気分だ? 何もかもが想定外! 全てご破算! そうなる夜は!」
ぎり、ぎり、と、グリップと刃のつばぜり合いが続く。ジェイクは笑った。獰猛に。
「お前は優秀だったかもしれねぇが、詰めが甘かったな! だが、俺には関係のない事だ。俺にとってお前は、狩られるための獲物に過ぎない!」
「獣か、貴様は――!」
「おう! 『『幻狼』灰色狼』のジェイクとは俺の事だ! 覚えて逝くんだな!」
銃のグリップを振り払い、尚忠に蹴りを入れる。ぐ、と尚忠が腹部を押さえ、よろける隙をつき、けん制射撃を撃ちながら、ジェイクは距離をとる。その射撃に隙を晒した尚忠。それを見逃す神使たちではない。
「おっけー、みんな、一気に攻めていくよ!」
今こそ一気に攻めるタイミングだ。テリアが奏でるのは、ウェンカムヒ……迫害された古代の神を意味する楽曲だ。
「迫害された怨み……少しでも味わってみると良いよ。この国の、鬼人種の人たちへの迫害、私だって、怒り心頭なんだから!」
楽曲に込められた、悪い神々の声が聞こえる。怨嗟の声。呪いの声。それは、自業自得の自縄自縛。
「ぬぅ……! これは!?」
その呪いに捕らわれた尚忠が、困惑の声をあげる。腕が重い。足が重い。まるで、今までの罪が、すべて圧し掛かってきたかのように。
「……ヒトを『数』としてしか見ない貴方と私。同じヤオヨロズだけどこうも違う。でも、本質的な違いなんてないんだ。私と貴方は、同じ人間。鬼人種の人たちだって、同じ人間。差別するなんて、間違ってたんだよ!」
「黙れぇ……!」
尚忠は叫んだ。だが。
「二階堂尚忠殿、お命頂戴仕る!」
鬼灯の、暗い月が、尚忠へと呪いを発した。
さらに身体が重くなる。力が抜ける。命が削られていく。
『貴方は、人の上に立ってはいけない人だったのね』
章姫が、憐れむようにそう言った。
「黙れ」
吐き捨てるように、尚忠は言った。
「人の痛みを顧みることができぬ者が正義だの愛だの――笑わせる」
鬼灯が冷たく、そう言った。
「黙れ」
耳をふさぐように、尚忠はそう言った。
ずしり、と重たい足を引きずる。
ずるり、と力が抜けるのを踏ん張る。
二階堂尚忠の心にあったのは、確かに愛国心と言うモノであったかもしれないし、それが彼に力を与えていたのも事実だ。
事実だが――その愛国の心はひどく歪んでいた。それは、呼び声に答えたから歪んだのか。
元から歪んていたのか。
今は分らない。
「アンタは――」
スカル=ガイストが、静かに呟いた。その手にした銃を、尚忠へ、接射の形で突きつける。
「飛べない生き物はどう足掻いても飛べはしないが、空を飛ぶ鳥は地に降りることもできる。
アンタは地に降りて、もっと民衆を知るべきだったのかもしれない。
そして拒絶することなく――受け入れるべきだったのかもしれない。
――もう、手遅れだが 」
銃声がなった。
●あいにすべてを
美しい、京の景色を覚えている。
そこに生きる、人々の姿を覚えている。
嗚呼、愛おしいなあ。
嗚呼、美しいなあ。
この景色を守れるのなら、それがしは壊れてもいい。
本気でそう思っていた。
いつからだろう。その美しい景色の中に、黒いしみが見えるようになったのは。
あれはいけないものだと思うようになったのは。
罰せなければいけない。
排除しなければいけない。
だってそうじゃないと。
この美しい京が。
愛おしい京が。
どうして。
どうして。
「何故お前達はきたのだ、不確定要素(イレギュラー)……!」
ごぼり、と、尚忠は血を吐いた。
銃弾が、肺腑を抉っていた。
魔種としての生命力有れど、致命打に近いその一撃。
尚忠は、ダメージと呪いに満足に動かぬ身体を、ずるり、ずるりと引きずった。
「お前達がいなければ……この国は……この国は……」
「どうなったのでござろうな」
咲耶は言った。
「わからんでござるよ。よくなった、と言うつもりも、悪くなった、と言うつもりもないでござる。ただ、拙者たちは拙者たちなりの最善を尽くした……それだけでござるよ」
英雄であったから、と咲耶は心の中で思った。
あの少女が思い描く、希う、英雄たろうとしたから。
今宵、自分たちはここにいるのだ。
あの子が……人々が望んだから。
「英雄(イレギュラー)か……そんなものは、不要である……」
ごほり、と尚忠が血を吐いた。ゆっくりと、刃を構える。
死の淵を、さまよっていた。
見ればそうと、分かるほどであった。
「ルーキス。相手をしてやれ」
ミーナが、そう言った。
「俺が、ですか?」
ルーキスが、尋ねた。
「アンタはカムイグラの出身って言ってたよな? だったらその権利があるだろ」
スカル=ガイストが、そう言った。
民の生み出した禍根は、民が討つべきだと。
そう言っていた。
だからルーキスは、ゆっくりと刀を手にして、尚忠の前へと立った。
ひゅう、と風が吹いたように感じた。それに背中を押されるように、ルーキスは駆けた。
尚忠が、構える。刀を、振り上げる。重い。遅い。まるで児戯のような刃。
ルーキスは、それを避けて、横なぎに刃を振るった。深い屑痕が、身体に横一文字に走った。
「それがしは、この国を愛していた……愛していたんだ……」
「知ってるよ」
レイチェルが、言った。
「だが……やり方を間違えたなァ。同情はしないぜ」
尚忠が脱力し、地にその身体を横たえた。
あれほどうるさくなっていた呼び声が、その瞬間に消えた。
「愛に全てを、か。間違ってたのは、その愛か、自分か……」
レイチェルは外套のフードを深くかぶり、息を吐いた。
「終わったようだね」
ふぅ、と安堵の息を吐いて、ゼフィラが言った。終わった……そう、終わったのだ。敵たる魔種を討ち滅ぼし、政治中枢にあった差別の芽を一つ、摘み取った。
「……終わったね。これで何かが少しは変わるのかな?」
テリアが言うのへ、答えたのはミーナだった。
「いや、変えていかねばならぬだろう。それは、この国の民の仕事でもあるが、な」
「すぐに差別が消える……とは言えないでしょうね。でも、きっと。よくなりますよ」
アルヴァが頷く。
「かつての、皆が暮らしていけたカムイグラに戻るのかな……いや、戻さなきゃいけないんですよな」
ルーキスの言葉に、皆が頷いた。今回の戦いの結果、未来はまた違う道へと進むことになるだろう。
その舵取りをするのは、きっとこの国の人々であろうから。
「あー……それで、提案なんだが」
ジェイクが些か気まずそうに、手をあげた。
「こいつを……尚忠を、弔ってやっても構わないか。……おめえらの感情も、わかる。許せないってのもな……ただ、こいつも、国を想ってやったことは事実だ。だから、その、なんだ」
「死ねば等しく、骸でござろう」
咲耶が、静かに頷いた。きっと英雄なら、弔うことくらいは、許すだろう。そう思った。
おそらくは、放っておけば、尚忠の遺体は、罪人の死体として、処分されてしまうだろう。
……どうせ処分されるなら、此方で弔ったとしても、文句はでまい。
「以前、朝霧に案内してもらったのだが……京を見下ろせる、小高い丘がござる。そこに埋葬するのはどうでござろう」
「なるほど。埋葬ではあるが、同時に罰でもあるな」
スカル=ガイストが言った。つまり、自身の愛した京の都を見ながら眠ることができる。同時に、自身が否定した調和の果てに発展していく京を見させられることにもなる。
「埋葬を行うなら、俺達も手伝おう。咲耶殿の言う通り、死ねばただの骸だ」
『そうよね。英雄、だものね。私達』
鬼灯と章姫が、頷いた。
戦いは終わって、でも少しだけ、やることができた。
英雄たちはこれからのことに思いをはせながら、しかし少しの間だけ、休息をとるのであった。
成否
成功
MVP
状態異常
なし
あとがき
ご参加ありがとうございました。
民部卿は斃れ、カムイグラに巣食う差別の巨大な芽は、一つ取り除かれました。
この国がさらに良くなっていくかどうかは、皆さんにかかっているのかもしれません。
GMコメント
お世話になっております。洗井落雲です。
民部省トップ、二階堂尚忠をここで討伐します。
●成功条件
二階堂尚忠の討伐
●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。
●状況
巫女姫派に属し、獄人に対して圧政を行ってきた二階堂尚忠。彼を討伐します。
イレギュラーズの皆さんは、尚忠の屋敷に向い、前門、前庭、屋敷を順に突破してください。
前門、前庭にはそれぞれ七扇直轄部隊『冥』や、『大呪』の怨霊たちが警護として待ち構えており、屋敷内には二階堂尚忠が待ち構えています。
作戦決行時刻は夜になりますが、それぞれの場所で明かりは充分にともされているものとし、戦闘ペナルティなどは発生いたしません。
●エネミーデータ
七扇直轄部隊『冥』 ×複数
七扇の暗部組織の構成員です。主に前門で戦闘になります。
暗殺者らしいトリッキーな動きが特徴。一発一発の攻撃力は低めですが、毒等のBSと、数に注意してください。
『大呪』の怨霊 ×複数
『大呪』により発生した怨霊たちです。主に前庭にて戦闘になります。
主に落ち武者のような外見をしており、一撃一撃の攻撃力に秀でたパワーファイターが多めです。
二階堂尚忠 ×1
七扇がひとつ、民部省の長。巫女姫(と言うか天香)派の人間であり、激しい獄人差別思想の持ち主です。苛烈な取り立てや、実際にとある鬼人種の少女を利用して使い捨てようともしました。
戦闘能力は不明ですが、魔種、あるいはそれ相当の戦闘能力は持っているかもしれません。警戒してください。
戦うならば、手にした刀の切れ味や、複数回攻撃、出血などは脅威となるでしょう。
●原罪の呼び声について
聞こえます。くれぐれも、その呼び声に乗らぬようにお気を付けください。
以上となります。
それでは、皆様のご参加をお待ちしております。
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