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シナリオ詳細

再現性東京2010:夜鳴夜子。或いは、7つ塚の怪…。

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●7つ塚
 練達。再現性東京。
 中央には巨大な池。周囲を囲む遊歩道。
 休日ともなれば家族連れやカップルで賑わうこの公園には、7つの塚があると言う。
 数百年の昔、この地で討たれた7人の武士の首塚だ。
 無念のうちに死した彼らの祟りを恐れ、建てられたものだと伝わっている。
 とはいえ、それも昔の話。
「今じゃすっかり、近所の学生やカップル連中の肝試しスポットさ。7つの塚を順に巡って、蝋燭を置いて帰ってくる……なんて、よく聞く肝試しのやり方だろ」
 と、そう語るのはどこか陰鬱とした雰囲気を纏う長身痩躯の女性であった。
 公園の端にあるベンチに腰掛け、彼女は甘い香りのタバコを燻らす。
「ところが、だ。最近少しおかしなことが起こってる。肝試しに行った者たちのうち、何名かが帰ってこないんだ。えぇっと、行方不明者は6人って言ったかな」
 そう言って彼女は懐から取り出した地図を一瞥。
 地図には幾つかの丸印やメモ書きがが記載されていた。
「まぁ、何かが超常的なことが起きてるのは間違いないんだ。それでさ、あんた等そう言うのの専門家なんだろ?」
 よければ手伝って貰いたいんだが、と。
 頬を歪めて女性は告げる。
「ん? 行方不明者を連れ戻したいわけじゃねぇのよ。ただ、何が起きてるかを確かめたいだけさ」
 タバコの火を消し、彼女はくっくと肩を揺らした。
 公園の外周はおよそ3キロ。
 中央にある池の真ん中には、長い橋が架かっている。
 今回の依頼の内容は、公園各所に点在している7つの首塚を巡ること。
 そして、首塚で起きているであろう異変について調査をすることだと言う。
「異変が起きてるんだ。何の手掛かりも無しってことはないだろ? ま、あんた等には分かんないかもしれないけどさ、たぶん私には分かるから」
 そう言って彼女は2本目のタバコに火を着ける。
 どうやら彼女も、調査に着いて来るつもりらしい。
「あ? そういや自己紹介がまだだったか?」
 と、そこで彼女は懐を探って1枚の名刺を取り出した。
「私の名前は“夜鳴 夜子”。霊媒師って奴さ。ついでに言うなら、ここにある7つ塚を建てた女は私のご先祖様って話だぜ?」
 

●首塚の怪
「と言うわけで、皆さんには公園……希望ヶ池公園にある首塚の調査をお願いしたいのです」
 『新米情報屋』ユリーカ・ユリカ(p3n000003)は、どこか難しい顔をしてそんなことを宣った。
 どうやら、今回の依頼に際して得られた情報が存外少ないことが原因であるらしい。
「異変が起きるのは決まって夜なのです。なので、調査時間も夜間となるです」
 この場合の異変とは、つまり「肝試しで首塚を回った者たちが行方不明になる」というものだ。
 例えば、夜妖の気配や存在。
 或いは、行方不明者たちの痕跡。
 そう言った点の調査が主となるだろうか。
「たとえば、新品の蝋燭が置かれていればつい最近、誰かが肝試しの途中で立ち寄ったということになるです」
 また、何かに襲われて行方不明になったのなら、その人の所有物が落ちている可能性もある。
 それ以外にも、首塚を巡っていれば異変を起こしている何者かが襲って来ることもあるだろう。
「使えそうなスキルや道具を準備して行くのも良いですし、足で探すのも良いのです」
 おそらく何かしらの手がかりは見つかるだろう。
 ユリーカはそう予想しているようだった。
「それに現地には夜子さんも同行してくれるです」
 霊媒師としての実力がいかほどのものかは不明だが、どうやらこういった怪奇現象については詳しいらしい。
 戦闘能力という点では頼りにはならないだろうが、情報源としてはきっと有用だろう。
 もっとも、彼女の発言が1から10まで信用できるとは限らない。
 得てして霊媒師などという職業のほとんどは、ペテン師であると相場が決まっているのだから。
「もしかしたら、戦闘が発生するかもしれないです」
 例えば、何かしらの要因で【苦鳴】することになるかもしれない。
 例えば、不条理な【不吉】がその身に降りかかるかもしれない。
 例えば、金縛りに代表される【呪縛】はある種のセオリーだろう。
 例えば、【狂気】に憑かれた者が仲間や自分を傷つけ始めることもある。
「以上が“霊媒師”である夜子さんから告げられた注意事項なのです」
 随分と具体的な情報だ。
 彼女は何か……この地で起きている何事かについて、ともすると詳しい情報を持っているのかもしれない。 

GMコメント

●ミッション
7つ塚を巡り、異変の原因を突き止める。


●ターゲット
・7つ塚の怪異(夜妖?)×?
希望ヶ池公園で起きている異変。
7つ塚という名の首塚が関与しているらしい。

怪奇現象:神近範に小~中ダメージ、苦鳴or不吉or呪縛or狂気
 様々な怪奇現象。
 その身に降りかかる恐怖と怪奇。
 見えない何かに足を掴まれ、どこからともなく声が聞こえ、或いは誰かの視線を感じ、ともすると姿の見えない足音が後を追って来る。
 あぁ、ほら……あそこの影に誰かが立っていないだろうか?


・夜鳴 夜子
霊媒師の女性。
20代半ばほど。
陰鬱な雰囲気を纏った長身痩躯の女性。
霊媒師には見えないラフな服装をしている。喫煙者である。
7つ塚を建てたのは、彼女の先祖であるらしい。

●フィールド
希望ヶ池公園。
中央には大きな池。池には長い橋がかかっている。
その周囲をぐるりと囲む遊歩道。距離にしておよそ3キロほど。
遊歩道の所々に7つの首塚が点在している。
つい最近になって、都合6名の男女が行方不明になっている。
彼らは決まって肝試しの途中で姿をくらませた。
7つの首塚を巡って、それぞれの場所に蝋燭を置いて来ること。
それが肝試しのルールである。


●情報精度
このシナリオの情報精度はCです。
情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。

  • 再現性東京2010:夜鳴夜子。或いは、7つ塚の怪…。完了
  • GM名病み月
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2020年10月17日 22時02分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ココロ=Bliss=Solitude(p3p000323)
あたしの夢を連れて行ってね
仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)
陰陽式
セリア=ファンベル(p3p004040)
初日吊り候補
赤羽・大地(p3p004151)
彼岸と此岸の魔術師
華蓮・ナーサリー・瑞稀(p3p004864)
蒼剣の秘書
メイ=ルゥ(p3p007582)
シティガール
リュティス・ベルンシュタイン(p3p007926)
黒狼の従者
ブレンダ・スカーレット・アレクサンデル(p3p008017)
薄明を見る者

リプレイ

●七つ塚
 練達。再現性東京。
 希望ヶ浜公園の散歩道。
 金髪の少女『静謐の勇医』ココロ=Bliss=Solitude(p3p000323)は、澄ました顔をしてこう言った。
「いいですか、みなさん。幽霊なんていないのです。海の上ではしばしば怪奇現象に遭遇しますが、それらはすべて自然現象、光が屈折して霧や海に反射してありえないものが見えているだけなのです」
 肝試しに来ていてその言い草。声が僅かに震えている辺り、どうやら恐怖の感情をごまかそうとしているようだ。
「よくわからんが。だから今回調べるわけだろう……まぁ戦闘できるのなら何とかなるだろうさ」
「とはいえ、すでに6名が行方不明になっているといいますし。穏やかな話ではありませんね」
 視線を巡らせながら『ミス・トワイライト』ブレンダ・スカーレット・アレクサンデル(p3p008017)と『黒狼の従者』リュティス・ベルンシュタイン(p3p007926)がココロにそう言葉を返す。
「肝試しなのですよ! め、メイはこの程度の怪奇現象なんて怖くないのですよ」
 小柄な少女『シティガール』メイ=ルゥ(p3p007582)は、ブレンダの背に隠れながらそんなことを宣った。明るい声の裏側に、隠し切れない恐怖の感情を感じる。
「なぁ、手伝ってくれんのはうれしいんだけどよ。その、なんだ……そのチビっ子も一緒に行くのか?」
 溜め息とともに紫煙を吐き出す。
 甘い香りのする煙が、ゆるゆると月のない夜空へ立ち昇っていく。
「む? チビっ子ってメイのことです? あ、ところで夜子さん、もうちょっと詳しい情報は分からないですか?」
「……詳しいことは、首塚に着いてからにしようぜ。ほら、すぐに着くからよ」
「そう。7つの首塚があって、6件の行方不明事件……わたしたちが7番目よね。あんまり偶然っぽくないわよね」
 燻る紫煙を手で払い『初日吊り候補』セリア=ファンベル(p3p004040)はそう呟いた。
 その手には“七つ塚”……かつてこの地で命を落とした7人の武士の首を祀った首塚だ……の伝承が記されたパンフレットが握られている。
「ふン。そもそも肝試しなんか気軽にしにいくもんじゃねぇゾ……事故ったりやべぇヤツに襲われたっテ、誰も責任はとっちゃくんねぇんだからナ」
 長い髪を風に揺らしながら『遺言代行』赤羽・大地(p3p004151)はそう告げる。どうやら彼は、肝試しと言う行為そのものに対して、良い感情を抱いていないようだ。
 死霊使いの彼からすれば、死者の眠る地を悪戯に訪れるという行為には、何か思うことがあるのだろう。
「今更んなこと言ったってなぁ。そりゃ、私も同意見だが……どんだけ止めたって、危険に進んで首突っ込む奴ぁいくらでもいんのさ。それで、どうしようもなくなってから、この“夜鳴夜子”様に、タスケテーつって頭下げに来るんだよ」
 そう言って、くっくと肩を揺らして笑う。
 拍子に崩れた煙草の灰が、風に吹かれて夜の闇に消えていく。

 どこかでにゃあと猫が鳴く。
 刀に手をかけ『流麗花月』仙狸厄狩 汰磨羈(p3p002831)は、仲間たちへと視線を向けた。
「さて、首塚にまつわる逸話でも聞かせてもらいたいのだが」
「逸話って言ってもなぁ。聞いたんだろ?  数百年の昔、この地で討たれた7人の武士の首塚だよ」
「武士、か。なるほどな……さて、どう見るべきかな?」
 そう応えつつ汰磨羈はセリアの手から蝋燭とマッチを受け取った。
 それに火を着け、首塚に備える。
 見れば首塚の周辺には幾つもの足跡。そして、半ばほどまで熔けた蝋燭が数本置かれていた。
「み、皆、何で肝試しなんてするのだわよぅ……平和に過ごしましょうよ……」
 顔色を青ざめさせながら『嫉妬の後遺症』華蓮・ナーサリー・瑞稀(p3p004864)が低くそう囁いた。
 この足跡のうちの何人かが……或いは、全員が行方不明となっているのだ。
 そして、次は自分の番かもしれない、なんて思ってしまえば、彼女の感じる恐怖や不安も一笑に伏すことは決して出来ない。
 正体不明の怪奇現象に対し、恐怖の感情を抱くこと。
 それはまさしく、生物として“正しい”本能なのだから。

●希望ヶ浜怪異譚
 2つ目の首塚で、ココロはふと異変に気付いた。
 公園の一角、雑木林の中。
 首塚周辺に残る足跡のうち1つが、途中でふと途切れているのだ。
 まるで、その場で忽然と姿を消したかのように……。
「足跡は……林の奥、3つ目の首塚の方へ向かっていますね。夜子さん、何か感じたりはしますか?」
 霊媒師なのでしょう? と、ココロは問うた。
「本物か、ペテン師か、或いはその双方か……私には判断付かぬがな」
 そう呟いて汰磨羈は視線を大地へと向ける。
 汰磨羈の無言の問いかけに、大地はふるふると首を振って応えていた。
 どうやら周辺に霊の気配などは感じられないようだ。
「本物の霊媒師だよ、私は。っても、ご先祖様に比べりゃ、大したことは出来ねぇけどな」
「そういえば、首塚を作ったのは貴女のご先祖でしたね」
「なぜわざわざ、首塚を作った? 公園内に7つ、離して立てるのに意味があったのだろう?」
 公園内に点在する7つの首塚。
 消えた6人。
 そして、首塚を建てた者の子孫。
 なるほど確かに“出来すぎた話”なのだろう。
「さてねぇ。一か所に纏めておくには不都合があったんじゃねぇか?」

「これで3つ目。今のところ、争った形跡や襲われた形跡はないわね。足跡が1つ、唐突に消えているのが気がかりだけれど……」
 そう言ってセリアは首塚に蝋燭を備える。
 首塚というからには、その下には武者の首が埋まっているのだろうが、現在のところ「霊」あるいは「死者の魂」の存在を感じ取った者はいないようだ。
「首塚ってのはよ、死者を弔い供養するためのもんなんだ。後々怨霊にならねぇようにな。大量の戦死者が出りゃ、纏めて1つの首塚に祀るってケースもあるようだが……ここは違う。1人につき1つの首塚さ」
「つまり、ここに祀られている武者たちは怨霊になる可能性があった……と。貴女のご先祖さまは、そう判断したと。夜子さんはそう睨んでいるのね」
 パンフレットに印をつけながら、セリアはそう言葉を返す。
 
 4つ目の首塚に辿り着いた一行だが、そこでも目ぼしい手掛かりなどは発見するに至らなかった。
 強いて異変があったとするなら、花蓮が持参した菓子を木陰に備え妖精と会話していた程度だ。
 妖精の姿は窺えないが、何となくそこに何かが“存在している”気配だけは分かる。
「精霊さん……少し良いかしら? これくらいの時間に、色んな人が来たりしたかしら?」
 花蓮以外に妖精の姿は見えないし、その声が聞こえることもない。
「……私が言うのもどうかと思うけどよ、アンタらも大概、おかしいぜ?」
「あら、妖精さんはどこにだっているのだわ。それに、幽霊よりも妖精さんの方がかわいらしいでしょ?」
「似たようなもんだろ。姿は見えねぇし、何を仕出かすか分かったもんじゃねぇ」
 会話が出来るとはいえ、その対象が有益な情報をもたらしてくれるとは限らない。
 花蓮の様子を見る限り、どうやら今回は“外れ”のようだ。

 そう言えば、と背後を振り向きメイは問う。
 その手には5つ目の首塚に備える予定の蝋燭が握られていた。
「武者さんたちは、どんな人に仕えていたのですか? どうして、首を刎ねられることになったのです? 調べてみたけど、情報を得られなかったのですよ」
 こてん、とメイが首を傾げれば、その動作に合わせて2つに縛った髪が揺れる。
 彼女はどうやら気配に敏感らしく、しきりに周囲を気にしている。ともすると、“何者か”の不意打ちに備えているのかもしれない。
「どうして、か。そりゃ、あれだよチビっ子。復讐を恐れてたのさ。主君の仇討って言うべきか? 武者が使えてたのは、この辺を治めてた武家の1人さ」
「お武家さん、です?」
「らしいぜ? この辺りで疫病が流行った際にな、その武家が何かしたんじゃねぇかっつって、領民たちに謀反を起こされ殺された。疫病の原因が人であるはずねぇのにな」
 ふぅ、と肺に満ちた空気と一緒に煙を吐いた。
 煙たかったのか、煙を浴びた花蓮は顔をくしゃりと歪めて咳込んだ。
 
 首塚に手を触れ、大地はふと視線をあげた。
「アンタは霊媒師だそうだガ。何時、そう言うのに『目覚めた』んダ? ほら、天性の才能だって人も居れば、ストイックに修行して力をつけた、って人も居るだろうし」
 そう言いながら、彼は足元から何かを拾い上げる。
 それはどうやら、車の鍵のようだ。場所は6つ目の首塚のすぐ近く。
 足跡の消えた辺りである。
 おそらく行方不明者の誰かが落としていったものだろう。
「生まれた時からだよ。あんたがどうかは知らねぇけど、うちの1族は代々霊媒師の家系さ。それを呪いだっつー奴もいるがね」
「呪いカ。まぁ、分からないでもないナ」
 そう言って大地は視線を視線を遠くへと向けた。
 彼の眼には、そこに“何か”が視えているのだろう。
「あまり視るんじゃねぇよ」
 “視る”ことと“視られる”ことは同義だ。そして、その対象が“視られる”ことに好意的とは限らない。
「これで6つの首塚を回ったわけですが……7つの首塚に6人の行方不明者。だとするとおそらく、今は7人目を探してるということになりますが……」
 首塚を見据えてリュティスは告げる。
 6つ目ともなると、首塚に備えられた蝋燭の数も目に見えて少なくなっていた。ここまで辿り着いた者が少ないのだろう。
 よくよく観察してみれば、数本の蝋燭のうち新しいものは1本だけ。残る幾つかは随分前に置かれたもののようだ。
「最近になってこの場に蝋燭を備えたのは行方不明になった1名のみということですか」
「行方不明者が出てるんだ。そんな不気味な場所で肝試しなんぞするのはよほどの命知らずか馬鹿だろうぜ」
 1人、2人ならばそれは偶然か、或いは噂話の類と笑い飛ばせるだろう。
 けれど、5人の行方不明者が続けざまに出たとなれば……どんな者でも、そこに何かがあると理解できるはずだ。
 だと言うのに、愚かにもそんな状況で肝試しを実行した者がいる。
「6つの首塚は円を描くように並んでいるわね」
 パンフレットに載った公園の見取り図に印をつけながら、セリアはそう呟いた。
 セリアの手元を覗き込み、ココロは「あら?」と首を傾げる。
「公園の外周を囲むように等間隔に並んでいますが、7つ目はどこに? 夜子さん、ご存じですか?」
 パンフレットには「七つ塚」の伝承については記載されていても、その場所までは記されていないのだ。悪戯でも七つ塚を回る者を出さないための配慮であると聞いている。
「あぁ、それなら池の真ん中だ。橋があるだろ? そこを渡ると小島があってな」
 小島はかつての処刑場だ。
 そこで7人の武者は首を刎ねられ、命を落とした。
「最後の首塚は、そこにある。6人の武者が仕えた、お武家様の首塚だよ」

 足取りの重い花蓮を庇いながら、ブレンダは7つ目の首塚に近づいていく。
「そろそろ何かが起きてもいいころじゃないか? まぁ、戦闘できるのなら何とかなるだろうさ。斬って斬れれば何も出来ぬということはない」
「斬れる相手ばかりとは限らないんじゃないか?」
 腰の剣に手を伸ばし、ブレンダは戦闘態勢を整える。
 彼女の【直観】が“何か”起きるのな“ここだ”と強く囁いているのだ。
 見ればメイも同様に警戒心を顕わにしている。
 
 この地で処刑された武士は7人。
 それぞれが、離れた位置に首塚を建てて祀られている。
 武士たちは怨霊となる可能性があった。
 それは復讐の念によるものだ。
 疫病の原因とされ処刑された主君の仇討を恐れ、6人の武士が連座で首を刎ねられた。
 主君の首塚を囲むように、6人の首塚は建てられている。
 そして……。
「ここには蝋燭が1本も無いんだな……。どうしてだ?」
 首塚を見下ろし、ブレンダは訝し気にそう呟いた。
 そんな彼女の手から蝋燭を奪い、“私”は首塚へ近づいていく。
「そりゃ決まってるだろ。本能的に、分かるんだよ。ここは一等ヤベー場所だってな」
 ライターで火を灯した蝋燭を、私は首塚へと置いた。
 7人の武士たちの恨みは本物だ。
 だからこそ、私の先祖……夜鳴鳴子が首塚を建てることで封印した。
 首塚と首塚の位置を離したのは、恨みが互いに干渉し合わないようにするためだ。1人ひとりの恨みが強く、一か所にそれが集まってしまえばいかに鳴子の封印とはいえ抑えきれなかったのだ。
「……お前、何だ?」
 ブレンダが私を凝視し、そう告げた。
 どうやら彼女には、私の身に起こり始めた変化が視えているらしい。
「そろそろ本当の目的を教えてくれても良いのではないか?」
 腰の刀を引き抜いて汰磨羈はそう問いかける。
 ブレンダと汰磨羈の視線を真正面から受け止めて。
「決まってるだろ? 怨霊退治さ。ご先祖様の封印もな、そろそろ経年劣化でズタズタなんだ。おまけに何かの拍子によ、怨霊どもは夜妖ってのに成っちまった……もう私じゃどうにもできねぇんだよ」
 くっくと、肩を揺らして笑う。
 地面に捨てた煙草の残り火を踏み消しながら、私は視線を背後へと向ける。
 ガシャン、ガシャン。
 金属の擦れる重たい足音が脳のうちに鳴り響く。

●7人の武士
 それに気づいたのは、6人の行方不明者が出た時だった。
 先祖の施した7人の武士たちの封印が、解かれそうになっている。
 おそらくは夜妖とやらに成ったことで、力を増したことが原因だろうか。
 消えた6人が何処へ向かっているのか?
 決まっている。再び主君の元へと集結をはじめたのだ。
 6人の身体を乗っ取ることで、彼らはそれを成したのだろう。
 そして、次は7人目……気づいてしまった以上は、放置することはできない。
 けれど、この身を犠牲にしたところで自分の力では7人を再度封じることはできないだろう。
 そこで私が目を付けたのが、最近何かと裏の世界で話題に上がることの多いイレギュラーズたちの存在だ。
 だが、イレギュラーズたちが本当に信用できる存在かどうか、私には判断が出来なかった。
 だからこそ、依頼という形で希望ヶ浜公園に彼女たちを呼び出したのだ。
 目の前に現れた怪異を、否応なく討つしかない状態を作るために。
 
 姿は見えず、けれど足音だけは確かに響く。
 夜の闇から染み込むように、それは夜子の中に入った。
 ずるり、と周囲から6人の武者が現れる。夜の闇を纏った夜子も、気付けば武者の鎧に身を包んでいた。
「花蓮ちゃん! へ、平気ですか⁉」
「へ、平気なのだわ。わ、私が守るから……離れず居て欲しいのだわ!」
 回復スキルの発動準備を整えながら、ココロと花蓮が後ろへ下がる。そんな2人を囲むように展開するイレギュラーズに7人の武士が斬りかかる。
 刀に纏う不吉なオーラは、なるほどなかなかに厄介そうだ。
 けれど、しかし……。
「近寄らないでほしいのですよ!」 
 羊のぬいぐるみを模したバッグが火を噴いた。
 スラスターの推進力に後押しされたメイの突進が、武者の1人を弾き飛ばす。
「操られている……いえ、取り憑かれているようですね!」
 飛んだ武者に向け、リュティスは黒い蝶を飛ばす。その隙を突かれ、リュティスの傍に武者が迫った。振り下ろされた刀がリュティスの肩に裂傷を刻む。
「強い恨みの感情だナ。特に主君とやらがひと際ヤバいゾ」
「倒すのならそいつからね。後味が悪くならないように……」
 耳を押さえる大地の隣で、セリアは手にした書物を開く。直後弾けた閃光が、夜闇を切り裂き武者を焼く。
 鈍くなったその隙を突き、ブレンダと汰磨羈が飛び出した。
「手荒な真似はしたくない。が……」
 お武家様の刺突を寸でで回避しながら、汰磨羈はその懐へと潜り込む。腰に構えた刀を一閃。鎧ごと、その胸部を切り裂いた。
「怪奇現象という割に実態があるのか。だがその方がやりやすくていい」
「殺めるなよ? 実態部分は、おそらく夜子のものだ」
「あぁ、分かっているとも!」
 蒼と紅の2刀を構えブレンダが跳んだ。流れるような斬撃を、お武家様は刀で受け止める。
 しかしブレンダは止まらない。
 その膂力を発揮し、さらに1歩踏み込んだ。
 刀が折れ、その肩を剣の腹が打つ。骨の砕ける音がして、鎧が砕けた。
 鎧の奥に見えた白い肌は夜子のものだ。
「今なら引き剥がせそうです!」
 と、ココロが叫んだその直後、汰磨羈の放った斬撃がお武家様の胸部を斬った。
 鎧は闇となってほどけ、現れたのは傷ついた夜子。花蓮は夜子へ向け回復術を行使する。
「わ、わりぃな……死ぬほど痛かったんだ」
「そんなことより、再封印はできないのかしら!?」
「いや、別のものに変異してるなら、倒した方が早い」
「道理だナ。では、遠慮は無しダ」
 そう告げた大地が腕を掲げる。
 空間が歪み、現れたのはアネモネの花弁だ。それを浴びた武者たちが苦しみ藻掻く。

 こうして、6人の行方不明者は救出された。
 そして、人知れず首塚に封じられていた7人の怨霊も……。
 そのことを知るのは、8人のイレギュラーズと夜子だけ。彼らの無念に思うところが無いでもないが……人に害を為す以上、この結末は避けられ得ぬものだったのだろう。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

なし

あとがき

お疲れ様です。
7つ塚の怪異は討伐され、行方不明者の6名も無事に救出されました。
依頼は成功です。

今回の一件で夜子の信用を得ることは出来たかと思います。
ともすると、またいつか彼女に頼られることもあるかも知れませんね。

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