PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<FarbeReise>燃ゆるサンストーン

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 眠り。静。不変。停滞。
 ──それらはあるべき姿であり、望ましき状態だった。

 目覚め。動。可変。進展。
 ──それらはあるべきではない姿であり、望まない状態だった。

 どうか、どうか、目覚めさせないで。
 どうか、どうか、誰も入ってこないで。

 その願いは長きにわたって叶い続け、とうとう破られることとなる。
 人の気配。遠いながらも確かなそれに精霊は浅い眠りを揺蕩う。起きてしまいそうな、まだ起きなくて済むような、夢と現のはざま。ちりちりと体の表皮が燃える感覚がした。
 まだだ、まだ起きる時ではないと精霊は眠りに身を任せる。目を覚ますとしたらいつ振りだろうか。いいや、まずどれだけの時が経ったのだろうか。過去も思い出せないほどに遠い時代まで眠ってしまったことだけ理解しているが、精霊にとって『過去』は重要なものではなかった。それよりも大事な『使命』を覚えているのならば、その他は何も関係のないものだった。

 侵入者を排除するためならば、その骨の髄まで燃やし尽くし、塵のひとつも残してやるものか。




 ──バァン!!!!!!!!!!!!

 あまりにも荒々しく開け放たれた扉が悲鳴をあげる。幸いにして壊れたということはなさそうだが、その一歩手前といったところか。皆があまりの騒音に驚いてそちらを向き、何人かはあからさまに顔をひきつらせる。
 怒れる獰猛な獣──いや。『凶頭』ハウザー・ヤーク(p3n000093)が不機嫌極まれりといった顔でそこに仁王立ちしていた。その視線はギョロリとギルドの中へ向けられ、うっかり目があった者は逸らすこともできずに固まる。しかしハウザーはそんな者へ見向きもせず、1人の女に目を止めた。宵の色をまとったウォーカー、かつ傭兵で最もその名を轟かせるイレギュラーズ。
「おい、エルス!!!」
「はいっ!?」
 エルス・ティーネ(p3p007325)は目標とする人に名指しされ、思わず声を裏返した。ハウザーは気にも止めず顎をしゃくる。
「さっさと準備しろ!!」
「行くって、え?」
 エルスが目を瞬かせる間にも、ハウザーは目が合ったり名を聞き及んでいるイレギュラーズにも声をかけたりしている。他のイレギュラーズも同じような反応だ。
「ハウザー様……どのような場所なのかお聞きしても?」
「知らねぇ」
 エルスの言葉に短く返すハウザー。その他に握っていた──握りつぶされていたとも言う──羊皮紙が彼女へ放られた。丁寧に、しかしハウザーがしびれを切らしてしまわないよう手早くそれを開くとFarbeReise(ファルベライズ)の文字がエルスの目に飛び込んだ。
 ファルベライズ。それはラサで最近探索が可能となった遺跡群の名だ。秘宝にまつわるお伽話があったり、パサジール・ルメスの民がその遺跡群を気にしているなどという話もある。どうして閉ざされていたのか、遺跡の役割などは未だ調査中だということだが、ローレットにはラサからハウザーも含む連名で『秘宝の保護』という依頼が出されていた。
 なんてことはない。ラサは元より国家ではなく人の集まり、集団だ。志を同じくする者ばかりでない中、より確実な安心を取ったのである。
 しかし羊皮紙にはファルベライズに存在する遺跡であること、そしてどうやら炎の精霊が関わっているらしいことしかわからない。内部の構造も仕組みも全くの謎である。
「ここのファルグメントを薄汚ねぇカラスが狙ってやがる」
「……奪われる前に奪ってしまう、という訳ではありませんよね」
 エルスの言葉にハウザーはニィと笑みを浮かべる。わかってるじゃねぇか、という言葉はほんの少しばかり上機嫌そうだった。

GMコメント

●成功条件
 ファルグメントの保護

●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。不測の事態に気を付けてください。

●エネミー
・炎の精霊
 遺跡で眠っていた精霊です。炎を司ります。一目見ればわかりますが火の鳥です。
 不死ではありませんが、非常にHPと回避は優れています。また飛行能力を持ちます。
【火炎】系統のBSを中心に扱うようです。

・盗賊×???
 この遺跡のファルグメントを狙う盗賊です。炎の精霊を倒す前後ほどで奇襲をかけてくると予想されます。何人でやってくるかは不明です。
 いずれも身軽な者たちばかりで、防御技術の低い者から倒そうとしてきます。

●フィールド
 ファルベライズにある遺跡のひとつ。内部構造はよく知られていません。外側から見た感じ、上には突き出ていないので地下に潜っていくと思われます。酸素の薄い場所があるかもしれません。

【メタ(PL)情報】
 1歩足を踏み入れたならば遺跡の仕掛けが動き、壁には光源として炎が灯るでしょう。
 中は迷いにくい構造となっており、多少の罠が仕掛けられています。罠は精霊の力に由来するものです。

●ファルグメント(色宝)
 FarbeReise(ファルベライズ)という遺跡群で発見される秘宝です。鮮やかな色彩を纏っており、小さな奇跡を起こします。これが集められると危険な事から、ファルグメントはラサの首都ネフェルストで管理されることとなりました。

●友軍
・『凶頭』ハウザー・ヤーク(p3n000093)
 ラサにある傭兵団『凶』のトップです。非常に好戦的であり、今回も頼もしいアタッカーとして皆さんに手を貸します。
 というか、先日盗賊団に逃げられ持て余した闘志をぶつけに来ています。何でもいいから思いきり殴りに行くでしょう。

●ご挨拶
 ご指名有り難うございます! 愁です。
 この度はハウザーに半ば拉致される形で実質2回戦あります。ハウザーは頼もしいですが精霊、そして盗賊たちも油断ならない相手です。どうぞ皆様の力をお貸しください。
 それでは、どうぞよろしくお願い致します。

  • <FarbeReise>燃ゆるサンストーン完了
  • GM名
  • 種別リクエスト
  • 難易度-
  • 冒険終了日時2020年10月17日 22時03分
  • 参加人数8/8人
  • 相談9日
  • 参加費250RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ラダ・ジグリ(p3p000271)
灼けつく太陽
※参加確定済み※
サンディ・カルタ(p3p000438)
金庫破り
緋道 佐那(p3p005064)
緋道を歩む者
※参加確定済み※
如月=紅牙=咲耶(p3p006128)
夜砕き
マリア・レイシス(p3p006685)
雷光殲姫
※参加確定済み※
恋屍・愛無(p3p007296)
愛を知らぬ者
※参加確定済み※
回言 世界(p3p007315)
狂言回し
※参加確定済み※
エルス・ティーネ(p3p007325)
祝福(グリュック)
※参加確定済み※

リプレイ


「噂はかねがね! 今回はよろしく頼むよ」
 『神鳴る鮮紅』マリア・レイシス(p3p006685)にああと短く返事をする『凶頭』ハウザー・ヤーク(p3n000093)。その視線は一瞬彼女へ向けられたものの、すぐに前方へと注がれる。
(まさか、ハウザー様と任務になるとは……)
 FarbeReise(ファルベライズ)を黙々と進む『砂食む想い』エルス・ティーネ(p3p007325)はちらりと視線をハウザーへ向ける。まさか目標ともするヒトが自身を指名してくれるだなんて。このまたとない機会に諸々観察させてもらわねば。
「でも実は俺たちを頼らなくったってなんとかなるんじゃないか? 腕っぷしも強いんだろうしさ」
「ふん。なら外で待ってるか?」
「とんでも。受けた依頼だ」
 『貧乏籤』回言 世界(p3p007315)は皆についていきながら肩を竦める。メンバーを選ぶ際に『まあコイツでもいいか』という雰囲気での選出だった──ような気がする──のが気に食わないが、既に受けた依頼である。次があるのなら1番と言わずとも、『回言 世界だから選んだ』と思えるような状態になりたいところだ。
「ハウザーさんとご一緒させて頂けるなんて、なかなかない巡り合わせだものね」
 『緋道を歩む者』緋道 佐那(p3p005064)はにこりと微笑んでハウザーを見上げる。これでも彼女と彼は1度一緒に戦った身だ。あの時も今回も共闘だが、そのうちまた巡り合うのであれば手合わせもしてみたいところ。
 しかし先ずは受けた依頼からだ。
「この様な大物すら動かす色宝(ファルグメント)とやらは一体どんな代物でござろうな?」
「そこへ至るまでが少々物騒ではあるが、まぁ、概ね何時もの事か」
 『暗鬼夜行』如月=紅牙=咲耶(p3p006128)の言葉に『双彩ユーディアライト』恋屍・愛無(p3p007296)は視線を巡らせる。ファルベライズに入ってからいくつかの遺跡を通り越したが、既に開けられた形跡もあれば争った跡なども残っている。盗賊だけでなく、ファルグメントを追い求める同士での衝突もあるのだろう。このハウザーが直々に踏破すると言えば並の冒険者傭兵らは退くだろうが、はてさて。
「しっかし、案外だれか住んでたり……そういうの匂ったりしねーの?」
「おい、俺は犬じゃねぇぞ!」
 吠えられた『須臾を盗む者』サンディ・カルタ(p3p000438)は冗談だよ、と苦笑いを浮かべてみせる。そう言えば彼はディルク等に散々犬みたいだとからかわれているのだったか。『剣砕きの』ラダ・ジグリ(p3p000271)は先に見えてきた遺跡に視線を留める。エルスも同様にそれを見て目的地だわ、と告げた。

 中に1歩踏み入れるなり、廊下の両側で明かりが灯る。すわトラップかと一同が立ち止まるも、これはただの光源であるらしい。先は暫く1本道で、分岐点もさほど深くまで行かずに行き止まりが現れる。未知の場所としては比較的進みやすい部類だろう。
「そこ。罠がある」
 愛無の言葉にサンディが懐へ忍ばせてあったカードを投げ、先頭を止める。投げられたカードは鋭く壁へ刺さり──吹き出た炎で燃えた。
「出番だな。ほら、手伝ってくれ」
 世界は周囲を漂っていた小さき精霊たちに促し、その罠を解除にかかる。エルスはやっぱりと呟いた。
(ファルグメントがある遺跡は様々な仕掛けがあった。今回も恐らくは、と思っていたけれど)
 恐らくはこの遺跡には炎に属する何かが住んでいる。小さき精霊たちがいるということは悪しき者ではないはずだが、遺跡を守っているというのならばイレギュラーズとハウザーにとって障害となるだろう。
「ハウザー様は心配していませんが、一応気を付けて下さいね…?」
 嘘、心配している。けれどそんなことを言ってしまえば怒るかもしれないから言わないだけ。心配しているのと同じくらい気分を害したいわけではないのだ。
「それにしても、凶は普段こんな感じで仕事してるのか?」
「時によりけりってやつだ」
 ラダの問いかけにハウザーは歩を進めながら答える。大規模な作戦ならば凶一丸となって戦いに出ることもあるが、小規模な戦いに一大勢力で挑む必要はない。悪人の集まりではないというだけで、どこの傭兵団も盗賊たちと体制はそう変わらないだろう。
「敵意はまだ感じられないけれど……そちらはどうかしら?」
「付けてくる足音はないでござる。罠も解除されておらぬということはこちらが先行している筈」
 故に盗賊はまだ向かってきていないだろうと断じる咲耶。敵の気配を探る佐那だけでなく他の仲間も同意見だ。
 途中から階段を下り始め、どれほど経ったか。一同の前へ現れた巨大な扉にマリアが制止の声を上げる。
「待って。先に私が調べるよ」
 何があるかも分からないのだ、少しでも解析して安全の可能性を上げておきたい。そう告げて扉を解析したマリアは変哲もない扉であることを確認した。皆へ了承を取って扉を押すとそれは重たい音を立てて開いていく。

 唐突に視界で火の粉が舞った。

「あれは……」
「火の鳥。いや、精霊か」
 ラダの言葉に愛無が続ける。かの鳥はこれまで下ってきた分高い天井まで舞い上がり、来訪者を睥睨した。そこには明らかな敵意が含まれており、精霊が侵入者を認識したことでイレギュラーズたちのエネミーサーチがその存在を大きく示す。
「はろーはろー。無駄な争いとかしたくないし、この遺跡の情報があれば聞きたいけど、おーけー?」
 愛無がそう声を上げるが、返ってきた答えは──否。やるしかあるまいと愛無は触手を露わにした。世界は刹那の栄光を周囲の味方へ降らせ、マリアが紅雷の異能で砲弾のように飛んでいく。
「悪いね、私に炎や毒は効かないんだ!」
 炎が自らを焼けども、それ以上に苦しむことは無く。彼女の飛び蹴りが火の鳥を肉薄する。地上からライフルを構えたラダはその翼へ照準を定めた。
「落ちろ」
 執念じみた連射が放たれ、その威力に火の鳥が急下降する。ぶわりと撒かれた火の粉に臆することなくハウザーが突っ込んだ。あとを追うように佐那も駆け、精霊へ炎の斬撃を食らわせる。刃を返してもう1撃。視線は流れるようにハウザーへと寄せられる。
「どうか落ち着いて下さいな。名高き『凶頭』の実力、目の曇った戦いで見せられるのはつまらないわ?」
 まるでそれを見世物のように言う様は、人によっては逆鱗に触れるものであったかもしれない。されどもハウザーはその言葉に佐那へ視線を向け、好戦的に笑みを浮かべて見せた。
「酔狂なヤツだ」
「あら。貴方の戦いを見たい人は多いのではなくて?」
 おおよそ激しい戦いの最中に交わされるような声音ではない。けれども佐那の言葉あってか、ハウザーは全力を注ぎながらも蹂躙するだけではなく戦いを楽しんでいるような様さえ見え始める。佐那が火に対抗する術を持たぬ代わりにその身を庇うのはマリアだ。サンディも同様にエルスの傍らにつき、イモータリティで自らを支えながら炎を受ける。
「熱気が凄い……助かるわ、サンディさん!」
 エルスは仲間の為にもと全力で鎌を振るう。その切っ先は魔性を帯びて、まるで首を刈り取るような動きを見せた。
「心頭を滅却すれば火もまた涼し、拙者にも火責めは通らぬでござるよ」
 ぬばたまの業炎が咲耶を包み、同時に武器にも依りつく。炎に焼かれながらも精霊を焼かんと咲耶はすさまじい連撃を見せた。精霊も苛烈なる炎で一同を焼き殺しにかかるが、しかし優勢はイレギュラーズたちにある。

 その最中だった。

 不意に扉の方を振り返れば、そこには幾人もの影。飛び出してきた影へ愛無が迎え撃つ。敵を引き付けた愛無を盗賊ごと火の粉が襲った。
「チッ、まだ早かったじゃねぇか!」
「うるせえ、さっさとぶっ殺すぞ!」
 悪態をつく盗賊たちが愛無を囲って武器を振るう。そう易々と捉えられない愛無だが、いくらかの軽傷は避けられない。その中で愛無は周囲の状況を的確に把握していく。
(精霊にとってはイレギュラーズも盗賊も等しく『侵入者』か)
 乱入者に精霊がどの様な動きをするのか興味があったが、狙うという事は同じようにみられているということだ。精霊が攻撃を向けないとしたらどんな相手であるのかわからないが──。
「ブッ殺してやる!!!!!」
「おっと」
 乱入したハウザーの攻撃をひょいと避ける愛無。そういえばハウザーには誰それを狙ってくれとは言っていない──というか言えないし言っても無駄だろう──ために来たのだろう。彼がこうしてイレギュラーズを連れ出したのもファルグメントを狙う賊をぶん殴るためだ。
「おいおい、あんまり無茶しないでくれよ……」
 独り言ちた世界がハウザーの様子も見つつ仲間へ回復を施すが、やはりハウザーはずば抜けた実力の持ち主だ。1人でもやれたんじゃないかと思わずにはいられない一方で、彼がイレギュラーズを呼ぶ要因があったのだと感じざるを得ない。
「私たちも早く加勢しましょ!」
 大鎌を鋭く振るうエルスに佐那が頷いて刀を翻す。精霊が燃え尽きるまでもう間もなく。その火が完全に消火されたのを見てとって一同は乱入者たちへと踵を返す。
「不意打ちを狙うとは流石盗賊。拙者も見習わなければなるまい」
 咲耶は変幻自在の型で攻め立て敵を翻弄していく。流石にリーディングは──使える程状況が落ち着いてはいないか。咲耶が振り向かせた賊の死角を取ってマリアが掌打で膝裏を狙う。同じように敵も体勢を崩してくるが世界がすぐさま戦線を立て直した。佐那が舞うように刀を、炎を遊ばせる。二を求るために継ぎ繋ぐ一。次へ繋ぐための一太刀。
「まずは俺を倒してみろよ」
 ラダを庇うサンディはにっと挑発するように笑みを浮かべて見せる。彼ほどの人物であればまず狙われないが、その理由こそ攻撃を率先して受ける理由にもなる。ラダはその背後で盗賊へ視線を走らせた。
(頭目らしき奴は……いないか)
 どれもありきたりな服装で、強敵の『き』の字も感じられない。数が多いことは驚異だろうが少なくともハウザーに推せるような者はいなさそうだ。
 多くで押し寄せてきた盗賊たちも圧倒的攻勢なイレギュラーズたちに1人、また1人と倒れ伏す。少なくない血が辺りへ飛び散り──ようやく戦いは終わりを告げた。



「全員死んだか」
「残念だが」
 愛無の言葉にハウザーは倒れた賊の1人を引き摺り上げる。首根っこを掴んだためか「ぐっ」と息を詰まらせる音が聞こえた。意外だと言うような視線が集まるとハウザーはふんと鼻を鳴らした。
「お前ら、俺を何だと思ってやがる」
「何ってそりゃあ『凶(マガキ)』の頭領さ」
 サンディは肩を竦めた。凶と言えば殺傷力が強く、極めて高い膂力を持つ戦闘集団──いや、武闘派勢力である。それに彼がそう言ったことを好むことは話にも聞くことだ。
「『コレ』は金づるだ。ま、他は殺してやったがな」
 歯を剥きだしにして笑うハウザー。引きずられる男は顔色を失っているが、恐らくは彼も遠くない内に同じ道を辿るだろう。咲耶は今喋らせた方がまだマシなのではないかと敵の前へ立つ。
「何か知っているなら教えるでござる。ここで話せばいくらかは楽であろうよ」
「誰が……誰が教えるかよ」
 顔を歪めた盗賊へリーディングを発動させる咲耶。すぐさまそれに気付いたようだが、その直前に零れてしまったものは筒抜けだ。

『どうせ大鴉のボスに殺される──』

「テ、テメェ! 読みやがったな!?」
 咲耶に噛みつかんとする盗賊だが、うるせえとハウザーに首を強くつかまれて黙り込む。咲耶は顔を上げてハウザーを見た。
「どうやらこの者、大鴉盗賊団と繋がりがあるようでござるよ」
「へえ。なら最後に吐けるだけ吐いて貰おうじゃねえか」
 その名に一同がすっと表情を変え、ハウザーはにたりと悪い笑みを浮かべる。これが果たして盗賊団討伐の糸口となるかはわからないが、何らかのきっかけにはなるだろう。
「じゃ、ファルグメントは任せたぜ。俺はコイツを『処理』してくる」
 そのままハウザーは遺跡の入口へ向かって姿を消す。処理、と呟いたイレギュラーズたちは何とも言えぬ顔でそれを見送った。奴らは悪人だが、ハウザーの手にかかるともなれば──出来るだけ苦しまずに死んでくれと願わずにはいられない。
「……ともあれ。色宝を確保しよう」
「え、ええ、そうね! ラサのためにもちゃんと保護しないと!」
 ラダにエルスが頷き、阻む者のいなくなった部屋を過ぎて更に奥へと進む。マリアはその間に死んだ盗賊たちの遺体を端へと寝かせた。死んでしまった者にもはや善も悪もない。その冥福を祈るだけだ。早いうちにここから出して弔ってやるべきだろう。
(本当に盗賊が……『自主的に』狙ったのかな?)
 ふと疑問に思うマリアだが、いいやと頭を振った。真新しい遺跡群の登場により沢山の者がここに集まっていると言う。冒険者、傭兵、商人、そして盗賊も。ならばこの者たちも宝で一儲けするために来たと考えて良いのだろう。
「マリアさん、そちらはもう大丈夫かしら」
 不意に背後から佐那に声をかけられ、マリアは振り返りながら立ち上がった。その手には鮮やかな橙のマントが畳まれている。
「先ほどの精霊のような色合いでござるな」
「使役の証、だったりしてな」
 咲耶の言葉に世界がそんなことを呟いてみるが、試しにと羽織ってみても何も起こらない。あくまで色が似ているのは偶然か。
「出ましょうか。……ハウザー様もそろそろ終わっているといいのだけれど」
 エルスは入口へ続く道へ視線を向ける。声も何も聞こえてこないから恐らくは外で行っているのだろうが──男が早い所情報を吐いて、安らかになっていることを祈ろう。
 出てきたイレギュラーズたちが待っていると、ほどなくしてハウザーが戻ってくる。その体からは鉄錆の臭いがするが、それははたして先ほどの戦いでついたものか否か。
「さっきの盗賊は」
「放ってきた。獣がそのうちエサにするだろ」
 ラダにそう返したハウザーはどことなくすっきりした雰囲気を見せている。暴れられて満足といったところか。
「何か情報は得られたのでござろうか」
「ああ。報告はしておいてやる」
 やはりファルグメントを受け渡す予定があったらしい。深いことは大して知らない下っ端だったようだが、それでも何もないよりは余程良いだろう。
「今回は指名して下さり嬉しかったです、ハウザー様」
「ああ、また頼むぜ。お前らもな」
 ハウザーの視線がイレギュラーズへ向けられる。『また』と言ったその時が今回のように共闘か、相対かはまだわからないが──イレギュラーズの実力が認められている確かな証拠だろう。
「戦いも勿論ですが、酒場でお酒も如何ですか?」
 エルスの言葉にハウザーは構わないと頷き……かけて彼女の大きな声に固まった。
「イルナス様はいいですが、ディルク様は連れてきちゃダメですよ!」
 ディルクが来ると何だと言うのか。ハウザーは別にわざわざ呼びやしないと告げたが──だから来ないとは一言も言わないのだった。

成否

成功

MVP

恋屍・愛無(p3p007296)
愛を知らぬ者

状態異常

恋屍・愛無(p3p007296)[重傷]
愛を知らぬ者

あとがき

 お疲れさまでした、イレギュラーズ。
 ハウザーも暴れられて満足でした。また、ファルグメントとして橙のマントがネフェルストへ運ばれました。

 それでは、またのご縁をお待ちしております。

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