PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<傾月の京>般若湯

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●誰を呪えばいいのだ
 村八分の理由はいまだによくわかっていない。ただ、そういう家に生まれたとしか言うほかない。
 物心ついたころより、仲間外れは当たり前。時には石を投げられる。野良犬へそうするように。ああ、確かに俺は腹をすかしていたとも。ろくに食うものはなく親兄弟で鍋の中身を争って食らった。貧乏子だくさんだった我が家だが、弟たちはみんな飢えで死んでいった。だから俺は一人っ子という事になっている。長じても環境が変わることはなかった。いやむしろひどくなった。
 米が実る頃になると、俺は役人に呼び出され、三尺四方の底の抜けた枡を渡される。俺はそれを田へ投げ入れ、そこに入った稲をもらう。もらえるなら少しでも多いほうがいいに決まってる。だから俺はいつも一番実りのいいところを狙う。だがそれは役人の巧妙な罠で、俺が投げ入れた枡の中身がそのまま税の基準になるのだ。俺が食い物欲しさに稲穂の密集している部分を選べば、村人は恨めしげに俺を見る。役人は涼しい顔で納入すべき米の量を告げて去っていく。そうして俺はどんどん嫌われ者になっていく。
 親父が死に、おふくろが寝つき、痩せた畑の手入れをすることもできぬほど疲労困憊したあの日、俺は村長宅に忍んでいきはんにゃとうを飲ませてくれと頼み込んだ。村長は山神の恵みを貴様などにやれるかと俺を火かき棒でしこたま叩いた。這う這うの体で村長の家を逃げ出し、俺は夜空を見た。忘れもしない、十五夜の夜だった。月は冴え冴えと輝き、俺は突然気付いた。何もかもすべては捨て去ることができるのだと。自分が自分であることすらも。このみみっちい村に、愛着などまるでない村に、俺が復讐したからと言って誰が謗れよう。たとえ磔にされたとて月が許してくれる。生れてはじめての涙が俺の頬をつたった。
 そんなおり、呪詛の方法を行商人から聞いた。それから俺は畑も病床の母も放り出し、はんにゃとう探しに夢中になった。そしてやっと聖地へたどり着いた時の達成感。俺の人生であれほどの喜びを味わったことはない。呪詛の媒体にした妖をはんにゃとうの周りへ埋める間、俺はずっと興奮のあまり吐きそうだった。酔ったような足取りで家へ帰りつくと、おふくろは死んでいた。半開きの口からのぞく前歯が間抜けで、俺は疲れた声で笑った。
 呪詛の効果はすぐに表れた。死にかけの婆が穢れたはんにゃとうを与えられ、怨霊と化し村を襲った。ああじつに痛快だったとも! 俺は破れかけた引き戸の隙間からすべてを見ていたのだ。あの満月にかけて宣誓しよう。後悔などしていないと。駆け付けた神使たちは想像以上にいい仕事をしてくれた。はんにゃとうを埋め立て、聖地を立ち入り禁止にし、あのにっくき村人から心の支えを奪った。あの日以来どいつもこいつもどこかぼんやりした様子でいる。極楽へ行けないのがそんなにつらいか。笑える話だ。だがつらいのだろう。つらいのだろう? もっと苦しめ。そして俺の生き地獄の万分の一でも味わうがいい。

●足音
 最近穂木野の村では奇妙な風習が広まっている。
 呪詛を自分にかけると言うものだ。呪詛と言うのは本来他人へかけてその不幸を願うものだが、自分自身へかけた呪詛は行き場を失い反転して極楽への道しるべとなってくれるのだそうだ。
 その話を広めたのは村八分にされている男だ。
 最初はせせら笑っていた村人たちだったが、極楽行きたさに年老いた親から頼まれては断り切れない。ああだこうだとなだめすかしているうちに、みよという娘が実行した。
 みよは村でも指折りの器量よしだったが、それを鼻にかけた立ち居振る舞いが見ているものをいらいらさせる、そんな娘だった。みよはこの村を出て都へ行くのだと常々言っており、その言葉通り行商人と恋仲になり、あっさりと捨てられた。誰もみよに同情はせず、後ろ指さされる日々。若く高慢な心はさぞかし傷ついただろう。そしてみよは呪詛を自分にかけた。それが極楽への片道切符であると信じて。
 翌朝発見されたみよはまるで眠っているように穏やかだったという。そらみろと村八分の男は言った。俺の言ったとおりだろう、と。村人たちはなんとも言えない目で男を見ていたが、その日以来なにかが変わった。
 一人、また一人と呪詛に手を出すようになった。夜中に妖を切り刻み、生まれた忌をその身で受ける。本人はそれで満足だが、さて残された妖は呪獣となり、村を走り回るようになった。呪詛が呪詛として成立していないからだろうか。それとも呪う相手が特殊だからだろうか、太ったネズミのような呪獣は人間ではなく村の食糧を食い荒らした。これには皆頭を抱えた。ただでさえどうにか今の人数が食っていけるだけの貧しい村である。貯めていた米や菜を問答無用で貪り食われ、みるみるうちに村は困窮した。
 外は呪獣が昼間から我が物顔でのさばり、畑を荒らされ、まだ青い稲穂をかじり取られ、村人は絶望した。そして今晩も誰かが呪詛に手を染める。この世を悲観しあの世への希望にすがって。呪獣は増え、村は内側から崩壊していった。

●穂木野の村にて
「おいおいどうなってんだこりゃ」
 あなたは村の復興依頼を受けて穂木野の村に立ち寄った。そこで見たのはまるまると太った赤ん坊ほどもあるネズミの群れ。そして痩せ衰えた村人と、荒れるに任せた田畑だった。
「もういいんだ、おれらは極楽さいくだ……」
 村人の胸倉をつかんでも要領を得ない話ばかりが続く。なんとか断片をつなげていくと、ここしばらくの間に「自分に呪詛をかける」という風習が発生し、それに伴って呪獣が村を荒らすようになったようだ。噂の出どころは村八分にされている滝司という男だというところまで突き止めたあなたは、仲間に声をかけその家へ赴いた。
 そこには肉付きも肌艶もいい米俵のように太った男が囲炉裏の火に当たっていた。
 滝司を一目見るなりあなたは看破した。
「てめえ、魔種だな?」
 片手に呪獣をつかみ、貪り食う男がヒトであろうはずがない。滝司だったものは血まみれの口で笑った。
「おまえに何がわかる」
「はっ、魔種は皆殺しだ。理解しようとも思わん」
 滝司が太鼓のように膨れ上がったはらをぐいとつまんだ。肉が分離し、びちびちとうごめく。
「俺はここで村が滅びるのを見るんだ。邪魔をするなら……殺す」

GMコメント

みどりです。魔種を退治しよう。
ハロルド(p3p004465)さんのアフターアクションから派生しました。ありがとうございます。呪詛を使って極楽へ行ける保証はありません。もしあの世があるのなら、もっとひどいことになってるかもね?

やること
1)エネミーの全滅
A)オプション 村人の被害減少

●エネミー
魔種滝司 肉種ではないので注意
 生まれついての被差別民、人生に疲れ果てはんにゃとうを望んだが村長に拒絶されて反転。呪詛を使い村人の心身を蝕んでいる。彼の望みは村人の滅び、生に苦しみぬいての死である。
 5mはある巨躯と驚異的な身体能力を持ち合わせています。全体的なステータスバランスが取れており、かつ回避・EXAがべらぼうに高くデブのくせに素早いゾンビみたいな動きをしてきます。
・ジャンププレス 物特レ R4内移・自域・ブレイク・飛
・ブレス 神近扇 炎獄・狂気・鬼道大
・丸呑み 物超単 1回につきPC1名を拘束しダメージ 拘束されたPCは次Tで滝司の至近へ吐き出され「体勢不利」を付与される HP回復大・BS回復大・必殺
・マーク・ブロック無効

肉蛭 初期3 最大12
毎T滝司の体から3体ずつ生み出される蛭状の魔物。耐久力は低いですが数が脅威です。
・吸血 神至単 必中・疫病・失血・猛毒

呪獣 15
巨大なネズミのような呪獣。見た目よりも頑丈で厄介なBSを使ってきます。また集中攻撃をする性質があります。
・かみつき 物至単 魔凶・石化
・ひっかき 物至扇 封印

●戦場 穂木野の村(ほぎののむら)中央広場
深夜、満月。視界ペナルティなし。
エネミーは村人も攻撃対象にします。また村の施設はエネミーの動きに伴って壊れ、足元に移動およびそれに伴うペナルティが発生します。

●他
村人(50人)は村外(戦場外)へ避難させることができますが、その場合エネミーの攻撃をしのぎながらになります。

前後編の前編にあたるシナリオです。読まなくても大丈夫です。
<巫蠱の劫>はんにゃとう
https://rev1.reversion.jp/scenario/detail/3962

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

●Danger! 捕虜判定について
 このシナリオでは、結果によって敵味方が捕虜になることがあります。
 PCが捕虜になる場合は『巫女姫一派に拉致』される形で【不明】状態となり、味方NPCが捕虜になる場合は同様の状態となります。
 敵側を捕虜にとった場合は『中務省預かり』として処理されます。

  • <傾月の京>般若湯Lv:20以上完了
  • GM名赤白みどり
  • 種別通常
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2020年10月06日 22時25分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧 (8人)

アラン・アークライト(p3p000365)
命繋ぐ陽光
赤羽・大地(p3p004151)
遺言代行
ハロルド(p3p004465)
聖断刃
如月=紅牙=咲耶(p3p006128)
暗鬼夜行
恋屍・愛無(p3p007296)
赤と黒の狭間で
黒影 鬼灯(p3p007949)
章姫と一緒
夜式・十七号(p3p008363)
倶利伽羅剣
ラグラ=V=ブルーデン(p3p008604)
星飾り

リプレイ


 荒れ切った村を『餌付け師』恋屍・愛無(p3p007296)は歩いていた。
 傍らを呪獣が走っていくが村人はもはや反応すらしない。
(差別だの信仰だの生きる為の「方便」にすぎぬろうに。それがなければ生きられぬから「そう」なるのだ。誰も彼もが強いわけではない)
 愛無は村人を一瞥し、ゆっくりと進んでいく。平和な、どこにでもある吹けば飛ぶような、村だったのだろう。ゆえに稚拙な社会構造が信じられ、ゆえにかろうじて存続していた。
(それを「外」から来た者がしたり顔で。哀れな事だ)
 愛無がそこまで考えた時、村はずれの家が爆発した。中から巨大な影が飛び出す。太鼓腹をさらし、もはや人ではない姿に成り果てた滝司の姿が煙の中から現れる。その姿はどこか蛙を思わせた。
「ま、仕事といこう」
 愛無は無感動につぶやくと、両手を合わせ軽くキスして一気に腕を開いた。淡く青みがかった光が愛無を中心に広がっていく。そのまま愛無は地上から軽く浮き上がった。
「保護結界展開。さて、どう出る?」
 破壊された家の瓦礫を蹴飛ばし、『聖断刃』ハロルド(p3p004465)は口内のゴミと共に唾を吐き捨てた。ざらついた感触がなくなり、そのまま舌で唇を湿す。目の前で口をあけて長い舌を揺らめかせている滝司を睨みつけると、戦いの高揚が彼の全身へ湧き上がってきた。
「ははははっ! 魔種! この世界に蔓延る癌細胞ども! 皆殺しだ! 肉片一つ残さず消え失せろ!」
「クッ、ハハハ! 元気がいいなァ、『聖剣』の! 俺も負けてらんねェなオイ!」
 破れ障子をはねのけ、『勇者の使命』アラン・アークライト(p3p000365)もまた高笑いすると、黒い帽子のずれを直し、Code:Demonの柄を握り締めた。ぼとぼとと、滝司の体から肉蛭が落ちていく。
「人間やめちまったなあ? あげくこの村をクソ溜まりみてェにしやがって。おまえの性根がクソなのかそれとも村人どもがクソだったのかは知らねェが、それでも勇者ってのは人を助けるのがお仕事だ。死にてェ奴からかかってこいやゴミ共がァァ!!」
 戦闘狂ふたりが滝司へ向けて襲い掛かる。小山のような体へ向かって、食いつくかのように。それを見た『遺言代行』赤羽・大地(p3p004151)は土埃で汚れた頬を拳でぬぐった。
「全ク、極楽だの地獄だノ、あるかも分からねぇモンに振り回されやがっテ。失意の底にいる村人を見てりゃア、あの魔種もさぞ飯が美味かろうヨ」
「かと言って、呪獣や魔種をこのままのさばらせてはおけない。ヤツの怨念が、全てを食い荒らす前に、ケリをつけなくては」
 赤羽が毒づき、大地が応える。いつものやりとりだ。ひしひしと死のプレッシャーを感じる戦場で、それは得難く貴重な隙間時間であり、ささくれた彼らの精神を統一させる。ひとつの体にあるふたつの精神が合わさる時、赤羽・大地は誰よりも冷静に戦場を見渡すことができる。彼は傍らの『暗鬼夜行』如月=紅牙=咲耶(p3p006128)へ視線を投げかける。
 心得たとばかりに絡繰手甲から排気音がした。咲耶は重そうなそれを意に介さず乱れた髪をくくっている紐をほどいた。黒髪があるかなきかの風に揺れる。それを手妻のように素早く結い上げ、彼女は油断ならぬと滝司を睨んだ。
「呪詛を仕込んだ何かがどこかにいるとは思っていたでござるが村の中にいたとはな。理由がどうあれ魔種を見過ごすわけには行かぬ。覚悟致せ」
 二、三歩踏み出せばもう咲耶は空中に居た。狙いはまず村人の避難誘導、そして呪獣退治だ。
『章姫と一緒』黒影 鬼灯(p3p007949)は忍び足で注意深く滝司から距離を取った。ざっと村全体を眺め、ため息一つ。顔布の下に隠した口元が歪んだのが章姫にはわかった。
「まったく、人を虐げ差別した人間が極楽浄土になど行けるかよ。慈悲深い御仏だって呆れているぞ」
「いくらなんでもやり過ぎなのだわ、関係のない妖さんまで……」
 うなだれる章姫。その襟元へナナシの羽で作った首飾りをつけてやりながら鬼灯はうなずいた。淡い橙の光が章姫の胸で静かに輝き始める。章姫が鬼灯へ抱きつくと、体重が消えたかのような心地になった。
「ああ、村を捨てて一からやり直す道も選べたはず。それを選ばなかったのは奴の意志。……さぁ、舞台の幕を上げようか」
 容赦はしない。情もない。それ以上の絆を束ねて彼は頭領としてここに在る。
 滝司の体はこの短い時間で急激な変化を遂げていた。腰は曲がり、両の手足は膨れ上がり、顔は横へ平べったく、背中には醜い瘤がいくつも。
(これは討つべき相手だ)
『倶利伽羅剣』夜式・十七号(p3p008363)はそう直感した。魔種、相対するのはこれが二度目か。しかし己が身を顧みれば奴に攻撃を与える事さえできないかもしれない。だがそれは現状の話だ。彼女もまたやはり可能性のパンドラたる特異運命座標なのだから。
(我儘に理想を目指すにも、力が足りない。だが、今は。今の私にできることをやるだけだ!)
 心に強く決め、十七号は手を打ち合わせて義手の具合を確かめた。相棒はしっくりとこの身になじんでいる。
「さー、村人を助けましょう。目の前の魔種を殺すことに差し障りのない範囲で。そんなことある? 明豪不敗の原則的に退避ルートを42パターン計算しちゃったりしますかね」
『星飾り』ラグラ=V=ブルーデン(p3p008604)は誰に言うともなくそう言葉にした。虚空へ放たれた言葉は虚空へ消えていく。虚ろな思いは誰へ向けてか、自己完結、自己管理、事故管理能力アップで相当に想到、なす術はすべて権謀術数手の内は明かさない方向で。
「ミミズのハンバーグよりかは食いでがありそうな蛭だわいな。邪魔だしね、消えてもらえますか。趣味じゃなーもん」
 じじじ、人差し指の先に灯った光がノイズをあげて煌めく。滝司の巨体を前にしても、ラグラは涼風の如し。


 呪獣は村に散らばっていた。魔種の滝司が本性を現したからか、村人を襲い始めている。
 巨鼠に髪をかじられ、腕に食いつかれた女が絶叫を上げていた。女はずるずると物陰へ引きずり込まれていく。そこへ走り抜ける影ひとつ、刃が銀閃を描き闇に蠢く魔物へ大打撃を与えた。
「極楽へ行くための呪いが生者を襲うとは正に地獄のような有様でござるな。あっ、逃げるなでござる!」
 本能で動く呪獣は手痛い傷を受け、その場から逃げ出していく。
(これは……思ったより走り回らねばならぬか?)
「十七夜殿、拙者は呪獣の始末に回るゆえ村人のことを頼むでござるよ」
「了解した!」
 十七号はマイマイ研の錠剤を服用して身の軽さを得ると、さっそく助け出された女へ止血し、肩を貸して立ち上がらせてやった。ふるえている女を見てほっとする。
(この女、悲鳴を上げていたな。恐怖、否定、苦痛の忌避、なんでもいい、現状を打ち払おうとする気力はまだ残っているという事だ)
 耳を澄ませると雑多な音が聞こえる。仲間と滝司の戦闘音、そして村人と呪獣の小競り合い。その中から聞きたい音だけを選り分け、十七号は走り出した。咲耶にかばわれながら、女がついてくる気配がする。よし、と十七号は深く息を吸い込んだ。
「ネズミとは比べ物にならん怪物が出たぞ、村の外へ避難しろ! そこなら安全だ!」
 信仰にも似た圧倒的なカリスマを乗せた十七号の声はもはや言霊。それを聞いた村人はびくりと体を震わせ、手に持っていたなけなしの武器を捨て十七号の周りへ集ってくる。同時に飢えた呪獣も周りへ集まりだした。好機だ。彼女はそう判断した。利き腕を上げると、セーラー服のリボンがふわりと舞った。
「姓は夜式、名は十七号、字は十七夜! 食らうならば私を食らえ、態々痩せた獲物を狙うよりも、私を狙ってみるといい!」
 巨鼠どもが怒り狂い十七号へ飛びかかる。
 ――キィン。
 場違いに澄んだ音が聞こえ、振り返ってみればそこには咲耶が居た。彼女の持つ妖刀『封』が呪獣の首を切り飛ばしたところだった。噴水のように穢れた血が吹き出て、呪獣は黒い砂となりそのまま消え失せていく。
「鼠どもの相手は任せるでござる」
「咲耶、すまない。全く以て私は不甲斐ないな」
「おや下を向く道理がどこにあるでござるか。十七夜殿が居てくれるお陰で拙者は独り持久走大会をせずともよくなったというのに」
 飄々と昼行燈の顔で咲耶が言うのを目の端にし、十七号もまたくすりと笑う。
「さあ、行くでござるよ! このまま村人から呪獣をひっぺがし、村の外まで連れゆくでござる!」
「ああ! 村人たち、走れるか? 走れない者はおぶってやれ、行け! 行け! 行け!」
 十七号の声が響き渡り、村人たちは鞭打たれたようにその目に正気を宿した。


「この蛭どもめ、一匹残らず不吉の月の下へと還してやろう」
 かつての世界で忍術と呼ばれた神秘の力が鬼灯から発せられる。
 全身を覆う暗いシャドウが利き手に寄り集まり、濃縮されて闇そのものになる。そこへ一筋の光。鬼灯の掌の上で漆黒の闇が三日月を孕んでいびつな球状になる。闇の玉はなおも力を欲するかのように周囲へ重い煙があふれださせた。鬼灯の手からこぼれ落ち、消えていく煙。ぞわりぞわりとでこぼこしていた球の表面がなめらかになり、完璧な球を描いた時、鬼灯はそれを投擲した。
「『奉月』!」
 着弾と同時に溢れだす闇の力。肉蛭が音もなく消し飛ぶが、滝司の体からまた新手が現れる。当の滝司は平然としているように見える。
「さすが魔種、悪役の風格もまた舞台へは必要な物。しかし少しばかり目立ちすぎだな」
「どんなに強くったって、負けてあげるわけにはいかないのだわ! がんばって鬼灯くん!」
「もとより承知だ章殿!」
 奮起した鬼灯が次の詠唱に入る。重みを感じさせないその足元から、砂埃が立った。それはしだいに勢いを増し、熱砂の竜巻へと変わる。自分の体をその竜巻の中心地としながらも、鬼灯は平然と詠唱を続ける。せいぜい『黒影』がはためく程度だ。次々と印を変える手元は機械のように精密であり、任務のために情熱を押し殺した瞳は冷徹にすら映る。
「……『使風』」
 遠間に居た呪獣めがけ、竜巻が迫りゆく。竜巻は辺りを蹂躙し、巨鼠を飲み込み、ひりつくような熱風へと変わり呪獣を大地へ叩きつけた。ありえない方向へ折れ曲がった呪獣の首。それを見て、満足げに笑ったのは赤羽だ。
「いいナ、いいナ、雑魚をいじめるのはスカッとすル!」
「何のんきな事を言ってるんだ。少しでも数を減らさないと潰されるのは俺達だぞ」
 大地の周りで若葉が遊んでいる。よく見ればそれは大地と赤羽に引き寄せられた大自然のオーラだとわかるだろう。可視化するほどに高まった精霊の力が、いまかいまかと出番を待っている。大地はそれをどうどうとなだめ、より鮮やかな緑に変じていく。
「敬いて申し奉る、山川の広く清き地に遷り出で坐して神ながら鎮まり坐せと称辞竟へ奉らくと申す」
 大地が大声で呼ばわると、風が吹いたかのように若葉の群れは一斉にハロルドの元へ流れていった。重い傷を受けていたハロルドの体が頑強さを取り戻す。
「いいぞ大地! もっと治癒しろ!」
「ああ、きちっと送るから振り向かなくていい! 敵から目を離すな、危険だ!」
「こっちはいいから前だけ見てロ!」
「ではこちらも頼めるか」
 愛無が何気なく言った。その周りには肉蛭や呪獣がたかっている。見事なまでの抵抗力で巨鼠の邪魔を防ぐも、肉蛭の攻撃に少しずつ全身から粘液が漏れ出していた。ぐばり。地に滴った粘液が寄り集まり粘膜に代わって呪獣を頭から飲み込んだが、すぐにぺっと吐き出した。
「……不味いやつの臭いだこれは。まあいい、食らわなくとも倒せばいいのだからな。報酬で美味でも購入すればお釣りがくる」
 まぶたを半目になるまで落し、愛無は滝司へ目をやった。二~三軒の家が潰されている。滝司が邪魔に思ったのだろう。だがそれ以外の家は滝司が暴れまわったにもかかわらず奇跡的に無事だ。否、奇跡ではない。愛無の保護結界のおかげだ。
「こういうのを下準備というのだったかな」
 粘膜で身を固め、反撃しながら愛無は耐えに耐える、その愛無へ大地が癒しを送る。傷や痛みがほどけるように消えていくのを感じながら、愛無は滝司の太鼓腹を見上げた。
(神の怒りで村が滅ぶと言うなら。魔種にとって、まさに僕らは『神使』というわけか。それはそれで嗤えるが。僕には金が必要だ。仕事はする)
「引き付け感謝する」
 大地は札と矢立てを取り出し、即興で和歌を書き付けた。札が赤く光輝き空へ高く上った、空中で爆ぜ割れる。色鮮やかなアネモネが魔物たちの上へ降り注ぎ、枯れ落ちていく。精神を削ぐ悪夢が次々と魔物を傷つけ、倒していく。魔物の死体が折り重なった。巻き添えにした愛無をさらに癒し、大地は次の札を取り出す。
 取り巻きの数が減ってきたのを確認すると、ラグラは人差し指と小指を立て、顔の前で円を描いた。空間が切り取られたかの如く赤と青、二つの円が描かれる。夕焼けの赤と、蒼穹の青。重なりあう部分が魔力を吸収して紫に変わっていく。やがて円が消え去り、灼熱の紫に輝く光球が生まれた。
「これが光の力だぜー」
 ラグラが手を広げ、光の玉を軽く打った。弾丸じみた勢いで光は滝司めがけて突き進み、その背へ突き刺さった。爆発、衝撃、余波が地を滑り破れた戸板を吹き飛ばしていく。ふたつめを仕掛けながらラグラは思った。
(貴方は貴方にとって正しい事をした。結果私達の正しい事の標的になった。よくあることです。辛いなら死ねばよかったのに、それが出来ないからこうしたんですね。けどそれなら、だからこそ)
「魔種になんかなっちゃだめですよ」
 でも、もう手遅れ。Le monde s’en va, le monde s’en fout.世界はすべてを置いていく。だから私も気に掛けない、村も、この境遇も、生も、死も。
「人を呪ってみて実際の感想をどうぞ。楽しかったですか?」
 その声は滝司に届いただろうか。二発目の魔光閃熱波がいぼだらけの背中の傷を押し広げる。
「滝司君は、諦めたから、ここでおしまい」
「そのとおり。悪いなァクソデブ。一応『太陽の勇者』と『聖剣使い』だ。……村を脅かす悪しき魔よ。今その首を斬り落としてやる。ついでに贅肉もなァ!」
 気を吐いたアランが連続攻撃を仕掛ける。滝司の体から黒い血しぶきが上がり、血肉が飛び散る。
「死ぃねぇぇぇ―――ッ!」
 ハロルドもまた追撃で滝司の素早さをすり減らす。その剣戟の速さはまるで分身したかのよう。星の加護を受けたその体がまばゆく輝く。
「テメェの事情なぞ知ったことか! テメェはここで死ぬんだよ! 何も成せないまま! 誰にも顧みられることなく! 駆除される害虫のように無価値になぁ!」
「アアソウダロウトモ! 俺ニ価値ナゾネェ! ソウシタ村ガニクイ! ソウサセタ奴ラガニクイ!」
 怒気で冷静さを失った滝司が吠え猛った。
「リーゼロット、力をよこせ!」
 聖剣の刃が蝙蝠の羽のように左右へ広がり、分離して一対の短剣になった。短剣はハロルドの傍らへ控えたまま矛先を滝司へ向けている。滝司が動いた。大きく跳ね上がり、ハロルドめがけてジャンププレスをしかける。落ちてくる滝司めがけ、ハロルドは剣を突き上げた。鋭い切っ先と膨れ上がった腹が衝突する。浮いていた短剣が滝司の腹へ突っ込み深く食い込んで砕けた。苦悶にうめく滝司。
「餞別なんぞくれてやるか、ブッ潰れろやァァァアアアア!!!」
 Code:Demonが紅と蒼に包まれる。十字の斬撃が滝司を襲う。縦に一閃、返す刀で横に一閃。醜さを増した平たい顔がぱっくりと四つに割れる。大量の血しぶきを浴びてアランは張り詰めた憎悪の剣気を四肢のすべてへ流し込んだ。
「くたばれ滝司イイイイ!」
 横腹を切り裂く。はらわたがはみ出て湯気を立てた。その時だった。もはやこれまでと観念したのか、滝司がハロルドへ長い舌を絡ませた。
「なっ!」
「おい『聖剣』の!」
 あと一歩、あと一歩が届かない。滝司はそのままハロルドを丸呑みにする。そして咆哮をあげた。その腹がぼこぼこと蠢いているのはハロルドが中で暴れているからだろう。ハロルドを助けんと一斉攻撃をする仲間。それを尻目に、魔種は退散していった。


 村人はじつに40人弱が命拾いをした。思ったよりも多くの人数を助けられた十七号は胸をなでおろし、咲耶は助けられなかった人々へ向けて瞑目した。
「それにしてもハロルド殿はどうなったのでござろうか」
「……あいつなら必ず生き延びてるだろ。何せ『聖剣』のハロルドだ」
 アランが苦々しい声で言う。
「あの世を悩むならこの世を生き切ってからにしろ。ほら、村の復興だ」
 愛無の鶴の一声で、村人たちは顔を上げた。
 ラグラはけがをした村人を癒して回っている。ほのかなぬくもりを受けた人の中には、緊張の糸が切れたのか、そのまま気絶する者もいた。
「ぐーすやぴーですね。今はそれもありかいな」
「そうだな。まずは体力を回復させないと」
「働けーって言いたいところだけどナ」
 それを聞いた章姫が口元を押さえてうふふと笑う。
「それじゃ、みんなもおつかれさまだから、お茶会するのだわ!」

成否

成功

MVP

なし

状態異常

ハロルド(p3p004465) [不明]
聖断刃

あとがき

おつかれさまでしたー!
お茶会でのんびりしてくださいませ。
拉致判定出ました。どうなるんでしょうね……。

またのご利用をお待ちしております。

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捕虜:ハロルド(p3p004465)

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