PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<傾月の京>或いは、見苦しきかな塵塚の塵…。

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●塵塚の塵
 空には白くて丸い月。
 ここはカムイグラ、高天京の城下町。
 ついこの頃は『肉腫』と呼ばれる存在の暗躍により、住人たちにも憂いが見える。
 また、蔓延する呪詛による被害も、住人たちの憂う原因の1つであった。
 特異運命座標による対処によって幾分か被害は軽減されたが、それでも高天京に及ぼされた影響は大きい。

「なんでも高天御所では、強大な呪詛が行われるって噂だぜ」
「そんなことになったら、俺らも無事にはすまないんじゃねぇか? おぉ、くわばらくわばら」

 暗い顔をした住人たちは、路傍でそんな言葉を交わす。
 けれど、しかし……悪い予感ほどよく当たるもの。
 初めにそれに気が付いたのは町の外れを警備していた1人の武者だ。手にした提灯の明かりが、ふっと突如掻き消える。
「ん? 蝋が尽きたか? どれ……」
 再点火のために武者はしゃがんで提灯を地面へと置いた。
 そんな彼の頭上に、ふと影が差し込む。
 月に雲でもかかったか? そう思い、視線を上げた武者はしかし……。
「……は? なっ」
 ぐしゃり、と。
 影を落とした“何か”の全貌を確認する前に、圧し潰されて息絶えた。

 どしゃり、がしゃり。
 物の砕ける音がする。
 道路を削り、牛車を壊し、民家を倒壊させながらそれはゆっくり町を進む。
 全長10メートルに近いだろうか。
 昆虫のような6本の脚を持つ下半身。
 そこから伸びる、背骨のような細い腰。
 鎧を纏った上半身は人に似ていた。
 それらすべては家屋の瓦礫や割れた壺、或いは古い刀剣類で形成されている。
 中には呪具も含まれているのか、その脚からは【火炎】が噴き出し、右の腕には寒風を纏い、左の腕からは泥が滴っていた。
 それぞれ【凍結】【泥沼】の効果を及ぼすだろう。
 兜に似た頭部に光る赤い単眼に見据えられた住人たちは【苦鳴】を零し、悉くその場に膝を突いた。
 足止めに立ち向かった武者たちは、誰もがその巨体に潰され、或いは火炎に包まれ命を散らした。
 彼らが稼いだ僅かな時間で逃げ切れた住人もいる。
 けれど多くの住人たちは、怯えるばかり。路傍の隅や家屋の中で震えて肩を寄せ合っていた。
 次の瞬間、その命はあっさりと潰えるかもしれない。
 けれど、もしかしたら運よく生き残れるかもしれない。
 淡い希望だ。
 けれど、彼ら彼女らにはどうすることもできないのだ。
 肩を寄せ合い、身を震わせて、ただ祈ることしかできない。
 そんな中、ただ1人の武者だけが行動を起こした。
「そうだ……神使たち。彼らの力を借りることができれば」
 震える声でそう告げて、仲間の死体をその場に残し彼はその場を逃げ出した。
 残された武者の死体は“物”の妖に吸収されて、その首元に飾りのように垂れ下がる。

●怪王
 息も絶え絶えといった様子で、1人の武者がやってくる。
 荒い呼吸を繰り返しながらイレギュラーズへと助けを求めた。
 曰く、町に現れた妖……“塵塚怪王”を止めてくれ、ということである。
「奴は壊した家屋や人間を取り込みながら暴れ回っている。明確な目的地があるのかは不明だが、どうも怒りに我を忘れている様子でな……」
 怒りに狂い暴れ回る。
 それは、近頃各所で猛威を振るっている【呪獣】の特徴と一致していた。
「どうやら御所より飛び出してきたらしいが、どこかで幾つかの呪具を接収しているようでな。下半身、両腕、頭部に1つずつ確認されている」
 下半身の呪具は【火炎】を。
 右の腕は【凍結】を。
 左の腕は【泥沼】を。
 頭部の兜は【苦鳴。そして、怪王自身の能力として【呪殺】を操る。
「町には逃げ遅れた住人も多い。怒りに狂った状態ゆえ誘導は難しいだろう」
 つまり【怒り】の付与は効果が薄いということだ。
 そのうえで、出来る限り被害を抑え、早めに怪王を討伐してほしいというのが武者の願いである。
「夜間とはいえ町中。視界に問題はない。また、瓦礫を片っ端から接収するので怪王の周辺には家屋などが残らない。付近に姿を隠す場所はないと思ってくれ」
 つまり接敵するには10メートルを超える巨体の前に姿を現さねばならないというわけだ。
 もっとも20メートルほども離れれば、まだ家屋も残っているようだが。
「注意すべきはその巨体から繰り出される攻撃か。削れば削るほど身体は小さくなるが、隙を見せればまた瓦礫を接収しかねない」
 とくに頭部は高い位置にある。
 近くに家屋などもないので、剣や拳で攻撃を当てるにはある程度身体を削る方が確実だろう。
「貴重な戦力をこちらに割くことになって申し訳ないが、どなた方か助力を願えないだろうか?」

GMコメント

●ミッション
呪獣“塵塚怪王”の討伐

●ターゲット
塵塚怪王(呪獣)×1
全長10メートルほどの妖。
身体は瓦礫や古い壺、刀剣類などで形成されており、実は本体はさほど大きくないようだ。
攻撃を加えることで、身体を構成する瓦礫が剥がれ落ちてサイズダウンしていく。
※つまり部位破壊が可能。
1度剥がれ落ちた瓦礫も時間経過で再接収。サイズは元に戻っていく。
最初から怒り狂った状態であるため“怒り”にかかり辛いようだ。


火猫の車輪:神遠範に小ダメージ、火炎
 下半身に埋め込まれた呪具。燃える車輪。


氷塔の絵巻:物近範に中ダメージ、凍結
 右腕に埋め込まれた呪具。絵巻物。


泥塗れの木像:物至単に中ダメージ、汚泥
 左腕に埋め込まれた呪具。泥塗れの像。


がらくたの兜:神遠貫に小ダメージ、苦鳴、呪殺
 頭部の兜。また、兜の奥には光る単眼が覗いている。


●フィールド
高天京(城下町)
碁盤の目状に道路が敷かれており、整然とした印象を受ける。
塵塚怪王周辺(半径15メートルほど)は瓦礫や家屋の無い状態となっている。
怪王は民家を破壊しつつでたらめに町を進行中。
家屋の中には逃げ遅れた町人たちがいる場合もある。


●情報精度
このシナリオの情報精度はBです。
依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

●Danger! 捕虜判定について
 このシナリオでは、結果によって敵味方が捕虜になることがあります。
 PCが捕虜になる場合は『巫女姫一派に拉致』される形で【不明】状態となり、味方NPCが捕虜になる場合は同様の状態となります。
 敵側を捕虜にとった場合は『中務省預かり』として処理されます。

  • <傾月の京>或いは、見苦しきかな塵塚の塵…。完了
  • GM名病み月
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2020年10月03日 22時25分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

ブーケ ガルニ(p3p002361)
兎身創痍
那須 与一(p3p003103)
紫苑忠狼
新道 風牙(p3p005012)
よをつむぐもの
彼岸会 空観(p3p007169)
ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)
戦輝刃
グリーフ・ロス(p3p008615)
紅矢の守護者
花榮・しきみ(p3p008719)
お姉様の鮫
如月 追儺(p3p008982)
はんなり山師

リプレイ

●怪王進撃
 民家を1つ踏みつぶし、巨大な怪異が1歩進んだ。
 見上げるほどの巨体を構成する者は、車輪や瓦礫、割れた壺や刀剣、鎧、馬具といった雑多な“物”だ。そのどれもが、古びて壊れ、傷ついている。
 その怪異の名は“塵塚怪王”。呪獣と化した物化物の1種であった。
「んええ、でっかいさんやねえ。……あれ、本体は小さいんかな」
それを見上げて『兎身創痍』ブーケ ガルニ(p3p002361)は呟いた。兎の面に隠されて、その表情は窺えないが、その声音からは呆れと驚嘆が滲んでいる。
「この大変な時にまだ大物が出てくるとは……!」
周辺住人の避難を済ませ『はですこあ』那須 与一(p3p003103)がブーケに並ぶ。対人戦闘特化外骨格を身にまとい、戦闘準備も万全だ。
「あっちこっちでようさん騒ぎが起きとるようやね」
と、どこか虚ろな瞳で告げた『アヤシイオニイサン』如月 追儺(p3p008982)は鉄爪を付けた腕を掲げた。

 地面が揺れて家屋が軋んだ。
 塵塚怪王の姿は遠い。けれど、その巨体とめちゃくちゃな進行を考えれば、この街のどこにだって安全な場所はないだろう。
それが分かっているからこそ『翡翠に輝く』新道 風牙(p3p005012)はその脚力を活かし街を駆けまわっているのである。
「おいっ、動けるやつは動けないやつを手伝ってやれ! そんでできるだけ離れろ! あのデカブツは、オレたち神使が退治する!!」
 足の弱った老婆に肩を貸しながら、近くの男に言葉を投げた。老婆を男に託した風牙は、遠くで暴れる怪王の姿を見やる。
「こっちじゃ化け物が大暴れか! 今夜はほんとどうなってんだ⁉」
 悪態をつく風牙の視界で、夜闇に1つ“金”が閃く。
白い月の光を浴びて、怪王の腕を駆けあがるその金色はどうやら『荊棘』花榮・しきみ(p3p008719)のようだった。

「武具をその身に纏う様子を見れば一介の戦士のように……いいえ、無辜の民を襲う輩は戦士の風上にも置けぬ故、貴方様は只の塵芥でせうね」
 瓦礫で出来た腕を斬り付け、しきみはそう呟いた。
そんなしきみの後を追い『帰心人心』彼岸会 無量(p3p007169)が駆け抜ける。飛び散る瓦礫を回避しながら、彼女が思うは助けを求めに来た武者の、嘆きに震えた声だった。
 民を、仲間を見捨てて彼は助けを求めに駆けたのだ。
 果たしてそこに、どれほどの苦しみがあっただろうか。彼の悔しさを思えば、多少の怪我など、足を止める理由にならない。
「彼の判断が間違っていなかったと、我々で証明致しましょう」
「あぁ、これ以上の犠牲を出させはしない」
無量にそう言葉を返し『ドゥネーヴ領主代行』ベネディクト=レベンディス=マナガルム(p3p008160)は宙を舞う。
 否、駆けると言った方がより正しいだろうか。虚空を蹴り付け跳ぶ彼は両手に槍を携えて、怪王の頭部へと迫る。
「行くぞ!」
 気合一声。
 抉るように突き出された鋭い刺突が、怪王の頭部を作る鋼の板を貫いた。

 各種の付与を自身に行使し、周囲には保護の結界を張る。
 戦闘準備は整った。手にした銃を腰の位置で構えると『その色の矛先は』グリーフ・ロス(p3p008615)は素早く周囲に視線を走らす。
「頭部への火力は足りていますね。でしたら私は脚部の車輪を……」
 巨体を支える怪王の太い両脚に、都合2つの車輪が見える。火炎を纏ったその車輪を中心に、怪王は周囲に火炎をまき散らすのだ。
 木造ばかりのこの街で、ひとたび火事が起きたとすれば……たとえここで怪王を討ち倒したとしても、壊滅的な被害は免れ得ぬだろう。

●躍進する塵塚
 強く脚を踏み出せば、業火の波が周囲に広がる。
 仲間たちを庇うべく、グリーフは火炎の前に身を投げ出した。熱波に煽られ、白い髪が激しく靡く。焼けた頬から滲んだ血さえ、すぐに焦げて黒に変わった。
 グリーフの張った保護結界の影響により、周囲の家屋は無傷だが、とはいえその影響範囲には限りがある。
「周辺被害が甚大ですね……呪具そのものを狙えれば良いのですが」
 そう呟いたグリーフの横を、2つの影が駆け抜けた。
 獣のごとく身を低くして、駆けるブーケは左の腕へ。
長い黒髪を風に靡かせ、与一は右の腕へと向かう。
『ゥゥゥゥオオオオオオ!!』
 空気を震わせ怪王が吠えた。
 振り抜かれた左の拳が地面を叩く。波打つ土砂が盛り上がり、追儺の体が土に埋もれる。身動きの取れなくなった追儺へ向けて、怪王は右の拳を振り抜いた。
「おぉ、寒……夜は寝る時間やっちゅうのにホンマ堪忍してや」
 その拳が追儺を叩くその寸前、ブーケの放った不可視の刃が手首付近を微塵に刻む。崩れ落ちる砕けた瓦礫を踏み越えて、ブーケは視線を左へ投げた。
 右腕にダメージを負ったことが理由だろうか。
 怪王は即座に攻撃手段を左腕へと切り替えた。けれどしかし、左の腕にはすでに与一が到達している。
「そちらの腕は私と相性が悪いのでっ!」
 加速を乗せた鋭い蹴りが、左の腕を打ち抜いた。
 一瞬の硬直。空気を震わす轟音が響く。
 与一の蹴りに弾かれて、左の腕から瓦礫と土塊が飛び散った。

 体に纏わる汚泥と瓦礫が与一の動きを鈍らせる。
 そんな与一へ向けて打たれた右の拳は、けれどグリーフが受け止めた。腕を振るった衝撃で、地面を転がるブーケの体に霜が張り付き冷たくさせる。
 けれど、しかし……。
 地面に刺さった右腕の、肘が直後に砕けて散った。
「人の世に仇為す『魔』を穿ち、この地と人々の平穏を護る!」
 高らかに響いた声と、瓦礫の中に舞う人影。
 鋭い眼差しに宿る意思。
 新道風牙、人々の想いを託され堂々たる参戦であった。

「っし。じゃあ始めるとするか、いつものお仕事を!」
 ひゅおん、と風を切る音がした。
 旋回させた愛槍を、腰の位置に構えた風牙は地面を蹴って低く、疾く駆け抜ける。降り注ぐ瓦礫の最中を縫うように、向かった先には冷気を放つ絵巻が1つ。
 それこそが、怪王の右腕に冷気の力を宿らせている呪具である。
 風牙の進路を阻む瓦礫は、ブーケの放った不可視の刃が切り裂いた。
 高く上げられた太い脚を、与一は加速し後ろへ弾く。
 飛び散る木っ端が、風牙の頬を深く抉るが瞳を閉じることはなく……。
「これ以上は先に進ませねえ!」
 放った突きは、確かに絵巻物を抉った。

 複数の鉄板を組み合わせた、兜のような頭部であった。
 その奥に覗く赤い単眼が光る度、一条の光線が放たれる。
「くっ……」
 光線に射貫かれ、無量の体が地に落ちた。唇の端から伝う血を拭い、彼女はよろりと立ち上がる。その身を苛む不快な痛みに歯を食いしばり、手にした大太刀を担ぐように構えなおした。
「使い込まれた物が命を得ると言われるこの國で、これ程までの物が集まり形を成した呪い。怒り猛る理由はさぞ深いものなのでしょう」
 怒り狂う怪王に彼女の声は届かない。
 けれど、しかし。
 怒りの理由が何であれ、街で暮らす人々を危険に晒す免罪符にはなり得ない。

「貴方様がお怒りのように私だって怒っているのですよ」
 静かな声。
 けれど、強い怒気の籠ったその言葉。
 しきみの振るう刃に斬り裂かれ、鉄の破片が地に落ちた。
「この国には今、私の愛しいお方、お姉様が来ているのです! そして何処かで戦っている!だと言うのに貴方様は私がお姉様を探す時間を邪魔するように無辜の民を蹂躙してっ!」
 カッと瞳を見開いて、しきみはさらに追撃を放った。
 切り裂かれた頭部を黒いキューブが包み込む。その内にある対象にあらゆる苦痛を与える黒の箱である。
 苦悶に喘ぐ怪王の体から、ボロボロと瓦礫は剥がれ落ち、その足元に山を作った。
「お怒りポイントが二つもあるではありませんか! 死刑です。処します!」
 キューブが砕けたその直後、兜の奥で光る赤い目に向けてしきみは突きを繰り出した。

 しきみの突きは、けれど軌道を逸らされる。
 単眼より放たれた光線が、しきみの肩を深く抉ったことによるものだ。
「厄介だな。一旦体制を立て直すか? いや……周囲の状況も考えれば時間は余りかけてはいられんか」
 怪王の肩に着地したベネディクトは、槍を構え思案する。
 その結果、彼の出した結論は早期の決着であった。
「ならば、全力を以て早期に討ち果たすまで!」
 2本の槍を握りなおすと、ベネディクトは頭部までの数歩の距離を瞬間的に縮めてみせる。
 その様はまるで迅雷のごとく。
 怪王が反応するよりなお早く、2槍による鋭い突きを単眼目掛けて繰り出した。
 
 崩れたはずの右の腕が再生していく。
 拳から順に組みあがっていく腕の上を、無量と与一が駆け抜けた。
 2人を撃ち落とすべく振り抜かれた右の腕は、けれどグリーフがその身を挺して食い止めた。衝撃がグリーフの体を貫いて、その内臓にダメージを与える。
 よろめくグリーフと入れ替わるように前に出たのはブーケであった。
「ついでにこいつも喰らっとき」
 不可視の刃が、右の拳を千々に砕いた。
 その間に与一と無量は怪王の上腕付近にまで到達。
「無量殿! 乗るでござる!」
上腕に左の拳を突き刺して、与一は叫ぶ。上に向けて広げられた手の平に、無量はトンと右の爪先を乗せた。
「はっ……ぁぁあっ!!」
 気勢を発し、与一が腕を振り抜くと無量の体はまるで砲弾のように宙へと飛んだ。
 あっという間に数メートルの距離を詰め、その体は怪王の頭部へと至る。
「っ……!!」
 大上段に構えた大太刀。全身に滾る闘気はまさに鬼のそれに相違なく……充血した瞳に宿るは狂気。噛み締めた唇からは、血の雫が滴った。己の身にさえ負荷をかけるその技は、曰く鬼神の一撃である。
 鉄板の何する物ぞ。研ぎ澄まされた、けれど荒々しささえ感じるその斬撃はいとも容易くそれを2つに引き裂いた。
 顕わになるは赤い眼球。刀の唾と同化したそれが、怪王の本体なのだろう。
 血濡れた単眼より放たれた光線が、無量の腹部に小さな風穴を開けた。

 落ちる無量を抱き止めて、しきみが地面に降り立った。
 無量が抜けた穴を埋めるべく、槍を構えて風牙が駆ける。
 腹部の傷口に1枚の符を張り付けて、流れる血を止め【苦鳴】を打ち消した。
「余りに役立たずの治癒ですがないよりはマシでしょう」
 腹部を抑え、無量はゆっくりと立ち上がった。ダメージこそ負っているものの、まだまだ戦闘は続行可能。
 己の状態を確認すると、しきみと共に再び敵へと向かっていった。

 振り抜く槍が怪王の単眼を切り裂いた。
 さらに追撃、と槍を引いたベネディクトの眼前に直後、1枚の鉄板が割り込んだ。
「くっ……さすが頭部は優先的に復元するか」
 舞い踊る鉄板が眼球の周りに集まっていく。その中に傷ついた兜を見つけたベネディクトは、それを目掛けて銀槍を鋭く一閃させた。

●瓦礫の降る夜
 踏み込む1歩が、ただそれだけで破壊をもたらす。
 体に無数の呪具を纏った塵塚怪王という妖は、いわば歩く災厄であった。
まき散らされた火炎に飲まれ、追儺が意識を失い倒れる。汚泥を浴びて動きの鈍った与一の頭上に、怒涛と瓦礫が……怪王の拳が降り注ぐ。
「ぐ……」
 本来の速度を発揮できず、与一がその場に倒れ込む。【パンドラ】を消費し、どうにか意識は繋いだものの、迫る緋色を回避するには間に合わない。
 地面を舐める火炎の波が与一を飲み込むその寸前、グリーフがその場に駆けこんだ。
 体を盾に与一を庇ったグリーフが火炎に飲まれ、苦悶を零す。
 けれど、その身が焼けることはなく……【火炎無効】により業火を払ったグリーフは、与一へ向けて【再生付与】を行使した。
「グリーフ殿、かたじけない!」
「問題ありません。それより、脚の車輪を潰しましょう」
 ダメージはそう大きくないとはいえ、広範囲に広がる火炎は厄介だ。
 そう判断し、グリーフと与一は怪王の脚部……燃える車輪へと向けて、集中攻撃を開始した。
 
 グリーフの放った弾丸が、右の車輪を撃ち砕く。脚部の中心となっているそれが破壊されたことにより、怪王の右脚は崩壊し、その巨体が大きく傾いだ。
 姿勢を立て直すべく、怪王が左の脚を踏み出す。
 吹きすさぶ業火の中を、与一は焼かれながらも駆けた。
「は、ぁあああ!」
 振り上げた右の腕が、膝部分の車輪を殴打。
 車輪は砕け、左の脚も崩壊を開始する。
「あっ……これは、まずい!」
 気づいた時にはすでに手遅れ。
 降り注ぐ瓦礫の中に与一の姿は飲まれて消えた。

 脚部が崩壊したことにより、怪王の左右の腕が地面に着いた。
 ブーケとベネディクトは左の腕に、しきみと無量は右の腕に取りつくと、頭部へ向けて駆けていく。
 先行した風牙の槍が、怪王の胸部を穿つ。
「うぅん、こっちの腕も壊しとこか」
 ベネディクトを先行させると、ブーケは腕へ鋭い蹴りを叩きこむ。
 砕けた瓦礫の飛び散る中に、泥に塗れた仏像が見えた。
「それやねぇ」
カリと指先を噛み切ると、腕を振るってそれを仏像へとかけた。スキル【狡兎三蹴】による呪いが仏像を黒に染め上げる。
 崩壊する腕と共にブーケは地上へ落ちていき……。
「まぁ、上々やろねぇ」
 ついでとばかりに、近くにあった鉄板を衝撃波で弾き飛ばした。

 一閃されたしきみの刀が、怪王の肩を深く切り裂く。
「地に伏せて、此度の騒ぎを謝罪なさい」
 淡々と。
 静かに告げた、その直後。
 砕けた肩から、右の腕が崩壊を始めた。
 左右の腕を失ったことで、怪王の体は大きく傾ぎ……。
「そろそろ終いといたしましょう」
 下段から上段へ。
 振り抜かれた無量の刀が、怪王の首を斬り飛ばす。

 崩壊する怪王の体。
 それはすでに“物”だった。
 塵塚怪王の本体は、やはり頭部で間違いないようで……。
「なんて……赤い」
 そこに灯る感情の色は、燃えるような“赤”だった。
 
 宙を舞う頭部から、鎧の部品が零れて落ちる。
 飛翔し、それに迫った影はベネディクトのものだった。
「貴様の怒りが何に起因するかは知らんが……すまんな。全ては、無辜の民を守る為に!」
 黒き闘気を纏った槍を背後へ引いて、ベネディクトはそう告げた。
 ごう、と空気は唸りをあげて……。
 刺突と共に解き放たれた黒き顎が、血に染まる単眼を飲み込んだ。

 脚も、腕も、身体も、兜も。
 その身を構成するすべてを破壊されてなお、怪王はまだ生きていた。
 血の雫を零しつつ、本体たる眼球が地面を這って移動する。
 周囲の瓦礫を巻き込みながら、身体を復元してはいるが……それはあまりに遅すぎた。
 瓦礫の雨が降る中を、駆ける風牙は槍を引く。
 それと同時に風牙は何かを前へと放って……。
「効果ありか……悪いな!」
 地面を転がる水筒へ、怪王が意識を向けたその刹那。
 風牙の槍が、その単眼を貫いた。

 瓦礫の中から発掘された与一とブーケ、そして傷ついた幾つかの遺体。
 その死体は、怪王に接収された武者のものだ。
 地面に横たえられた彼らが動きだすことは二度となく……。
「せめて、安らかに眠られるよう……弔ってあげる時間はなさそうですから」
 そちらはまた後日、改めて。
 静かに告げたグリーフは、遺体に向けて短い時間の祈りを捧げた。

成否

成功

MVP

新道 風牙(p3p005012)
よをつむぐもの

状態異常

如月 追儺(p3p008982)[重傷]
はんなり山師

あとがき

お疲れさまでした。
怪王は無事に討伐されました。依頼は成功となります。
避難誘導や周辺被害の軽減にまで気を配っていただき、ありがとうございます。

この度はご参加ありがとうございます。
機会があればまた別の依頼でお会いしましょう。

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