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シナリオ詳細

<巫蠱の劫>呪巣・表

完了

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング

●呪いは恨みを糧とする
 呪術の原動力は、恨みだ。
 だれかの命をも奪いたいと思うからこそ、人は他者を傷つけ、殺しうる呪いを軽々に行使してしまう。殺せるのだという確信の下、行使してしまう。
 恨みを持った人間が他者に危害を加える際、思いがけぬ力を発揮するように――強い恨みを持つ者が扱う呪いは、時に常軌を逸した能力を発揮するのである。
「憎らしや、神使! 憎らしや、人間! ワシの遊興を、餌場を奪うなどとは傲慢の極み! こうなれば奴らのみならず、人という人を食い散らさねば割に合わぬ! そうでもせねば、彼奴等につけられた傷がうずいてならぬ! 如何様に人を殺してやろう、喰らってやろう……?」
 そして。
 恨みを糧に生き延びた妖というのは、得てして煮え滾る感情を糧に己の至らずを恥じ、対立した相手を恨み、邪念を満たす。
 土蜘蛛、と呼ばれた蜘蛛の妖が持つ恨みたるや凄まじく、迂闊にその前に姿を見せた旅人や行商の幾人かはむごたらしく殺されて食い散らかされた。
「……我ら豊穣の民に弓引く蛮徒は捨て置けぬ。足を切れ」
「――!!」
 土蜘蛛はぞっとするほど低い声に顔を上げ、しかし声の主を特定するより早く飛来した大型の鎌に前肢を2本同時に切り裂かれ、前方へとつんのめった。
「なっ、何を」
「貴様の恨みは頂いた。そのまま這いつくばって死を待つ貴様に語る義理も無いが、喜べ。お前の足は我が恨みの糧となる」
 その声にあわせて、土蜘蛛は後肢1本と中間の足2本をも切り取られ、その全てを影から現れた黒服の男達に奪い取られた。あまりの早業に全く反応ができなかったが、かつて相争った神使よりも格段に強いかといえばそんなことはない。彼等は、恐らく不意打ちに特化した者なのだろう。
「あああああああ人間! 八百万か別の者かは知らぬがこの恨みを知りてなお殺さぬか、憎らしや人間――!!」
 土蜘蛛は都合4本の足を奪われ、バランスを崩して立ち上がれぬまま恨みを吐いた。怨嗟を吐いた。
 闇の中に溶けた人間が何者なのかは知らぬが恨みは積もらせた。許せぬ、許せぬ、許せぬ。
 やがて土蜘蛛の身を灼けるような呪詛が襲い、命を徐々に削りとっていく。だが、それと同時に土蜘蛛の背中の文様はより禍々しく変化し、その体躯は肥大化し、失われた足は禍々しい形と共に姿を取り戻す。
 全身に歪な棘を生やしたそれはより強い悪意を得て人々を襲い始める。
 それは最早、『鬼蜘蛛』と呼ぶほか無い変容ぶりであった――という。

●呪獣・鬼蜘蛛
「近頃、高天京で流行している呪詛の件で少し厄介な案件が寄せられました」
 『ナーバス・フィルムズ』日高 三弦(p3n000097)は「兵部省のそこそこお偉方からの依頼です」と続け、イレギュラーズの方を見る。「土蜘蛛と呼ばれる個体が使われました」と続ければ、否応なしに理解する者も居たかも知れない。
「兵部省の部隊長にあたる男が、土蜘蛛の討伐を理由に部隊を動かしました。その後の報告書によれば『討伐は失敗したが、体重を支える足を切断したため長くは持たぬだろう』、とあります。……このご時世です、この『恥知らずな』報告書を上げたという事実こそが脅しになりました」
 肉体の一部を持ち帰った。討伐任務を失敗してなお得るものがあった。つまりそう、報告書は暗に告げている。
「今回の依頼は、依頼人の護衛と呪獣の討伐となります。が、一度の依頼で出来ることなど限られていますので、二手に分けての同時作戦となります」
「土蜘蛛かあ。廃寺に出たヤツだよね? ……強くなってるってことかい?」
 セレマ オード クロウリー(p3p007790)は一連の話を聞き、静かに問う。三弦は首を縦に振った。
「その後、人々が襲われた為色々と情報が集まりました。『全身が肥大化し、切られた足は堅固で禍々しく、背の文様は浮き彫りになり鬼の如し。名付けるなら鬼蜘蛛である』と」
 詳しくは資料を、といって三弦の眼鏡から壁に投影されたその姿は、成程、既にただの妖と呼ぶには禍々しすぎた。

GMコメント

 本シナリオは拙作『悪路神ノ火』のリベンジシナリオに当たりますが、一旦そのことは忘れてください。ハードですので。
 なお『<巫蠱の劫>呪巣・裏』との同時参加は不可となりますのでご注意ください。

●達成条件
・鬼蜘蛛の撃破
・(オプション)戦闘開始から15ターン以内の『糸牢』の8割の破壊成功

●鬼蜘蛛
 『悪路神ノ火』で逃亡した土蜘蛛が呪詛の媒介となり、呪獣化した姿。
 兵部省の部隊長格が『部位を奪う』ためだけに部隊を動かした為成立したもの。
 背の文様は浮き出て禍々しさがまし、頭部には2本の角を携えた。
・HP、抵抗、物理攻撃力が高い。他も『HARDボス相応』。『反』持ち。
・噛みつき(物至単・致死毒)
・捕縛(物近単・足止。対象者は次ターン『鬼面呪疽』の対象となる)
 └鬼面呪疽(神特レ・捕縛を受けた対象、距離不問、呪い・不吉)
・糸網(物超列・致命。稀に『移』が乗ったバリエーションも使用)
・破毒(物遠貫・火炎、業炎)

●糸牢
 鬼蜘蛛がリプレイ開始直前の時間軸で集落一つを襲って人々を閉じ込めた糸の牢獄。
 15ターン以内に救出しなければ完全に溶けてしまう。8ターン以内ならば肉体機能の損壊はない。
 耐久度はそこまで高くないが、分散しているため範囲攻撃等で狙うのは現実的ではない。かろうじて『超貫』ぐらいが有効か。

●戦場
 豊穣のいち集落。住宅数7、20~30人程度で戦闘により長々駆け回ったり逃げ回るのを追ったりする必要は無い程度。
 鬼蜘蛛は逃げるという思考を持たない。イレギュラーズの撤退こそが失敗条件である。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はCです。
 情報精度は低めで、不測の事態が起きる可能性があります。

●Danger!
 当シナリオにはパンドラ残量に拠らない死亡判定が有り得ます。
 予めご了承の上、参加するようにお願いいたします。

  • <巫蠱の劫>呪巣・表完了
  • GM名ふみの
  • 種別通常
  • 難易度HARD
  • 冒険終了日時2020年09月17日 23時55分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(8人)

イーリン・ジョーンズ(p3p000854)
流星の少女
咲花・百合子(p3p001385)
白百合清楚殺戮拳
如月=紅牙=咲耶(p3p006128)
夜砕き
ウィリアム・ハーヴェイ・ウォルターズ(p3p006562)
奈落の虹
白薊 小夜(p3p006668)
永夜
セレマ オード クロウリー(p3p007790)
性別:美少年
楊枝 茄子子(p3p008356)
虚飾
喜久蔵・刑部(p3p008800)
『元』獄卒

リプレイ


 粘りつくような敵意。村を覆う糸はこの地が倒すべき敵の『巣』と成り果てたことを意味している。だが、イレギュラーズは知っている。今この瞬間を捨てねば、この地を奪い返すことが出来る、と。
「怨嗟の念を募らせて鬼と成る、私と同類ね」
「同類などと、善くものうのうと告げられたものだな神使共! この怒りを、憎しみを、知らぬわけでもあるまいに!」
「やあ、初めまして。ボク達は兵部省の尻拭いに来た神使だよ、子蜘蛛君」
「でたな蜘蛛くん! オーダー通り肉を熟成させながらまってたぜ!」
 『盲御前』白薊 小夜(p3p006668)の同情ともとれる言葉に激昂した呪獣、鬼蜘蛛。彼からすれば、この場に現れた神使は須く己の怒りを高めるだけの存在であり、痛みを増すだけの相手でしかない。
 そんな『恨み』を知らぬ存ぜぬと嘯く『性別:美少年』セレマ オード クロウリー(p3p007790)の姿に、鬼蜘蛛は鼻白む。が、直後に『羽衣教会会長』楊枝 茄子子(p3p008356)が以前の己の言葉を反芻するかの如く挑戦的に指を突きつけてくれば、嗚呼やはり、と思わざるをえない。……なお、茄子子は挑発するだけして何処かへと駆けて行った。忙しないと思う勿れ、彼女は分を弁えているのだ。
「呪詛の影響だかなんだか知らんが、呪獣かぁ。人質を沢山取って、そんなに怖いのかねぇ」
 『『元』獄卒』喜久蔵・刑部(p3p008800)はカムイグラでの異常に不快感を示しつつ、眼前に並ぶ面倒ごとの山に苛立ちすらも感じていた。が、今の彼は目の前の相手を蹴散らすだけを重視する。それでいいのだ、と納得ずくで。糸牢の者達を一顧だにしない態度は、鬼蜘蛛に苛立ちを覚えさせた。
「……貴様等、やはり廃寺の」
「こんな醜悪な面構え、忘れるはずがないけども……廃寺……うん、記憶にないね」
(いや、見事なまでに挑発してくれるな。あれが鬼蜘蛛か……状況は面倒だが、面倒ごとは司書達が請け負ってくれた。ならこっちはシンプルだ)
 『魔風の主』ウィリアム・ハーヴェイ・ウォルターズ(p3p006562)は鬼蜘蛛とセレマのやり取りを聞きつつ、周囲に視線を巡らせる。遠巻きにも見える糸牢は、その全てが人を飲み込んでいるのだという。
 ……全く不愉快だ。仲間達が駆けずり回っていなければ、こうして正面切って喧嘩を売ることも面倒だったろうに。
 ウィリアムは村に入る直前のことを思い出す。『司書』こと『天才になれなかった女』イーリン・ジョーンズ(p3p000854)も、随分と大胆な手を打ったものだ――と。

「あっちとこっちと、あとその向こうに固まっておるな! 糸が邪魔で移動が手間だが!」
「では拙者は空を駆けて糸を追い越せばいいのでござるな。イーリン殿達は最短距離を突っ走れば善し、と」
 『白百合清楚殺戮拳』咲花・百合子(p3p001385)と『暗鬼夜行』如月=紅牙=咲耶(p3p006128)は視界に入る情報を頼りに報告を続け、イーリンの求める情報を取り交わす。
「足回りに糸を撒かれるのは想定してたけど、まさか普通に行く手を妨害するとはね。彼、怒りで道理を見失ってるんじゃ無いかしら?」
「カカ、他人をさんざ食い物にしておいて自分が追い詰められたら道理を捨てるか! 元より持ってないものを捨てるとは器用な奴!」
 イーリンと百合子の会話は、付き合いの長い戦友らしい阿吽の呼吸を感じさせる。そして、これが驚きなのだが、実はイーリン、百合子に肩車する形で戦場を駆け抜ける腹づもりなのである。
「冗談みたいな格好をしているが、任せて大丈夫なんだろう美少女?」
「野暮なことを聞くでない。貴殿こそ、吾が着くまでにあの蜘蛛を独り占めなどするでないぞ美少年。ズルいからな!」
 セレマと百合子は正反対の存在だ。
 一点突破、『傷つきやすい死ににくさ』を徹底的に追求したセレマ。多局面に対応して神秘のあらんかぎりをぶん回し、機動力でかき回すオールラウンダーの百合子。美少女と美少年というだけでは収まらぬ2人だが、相容れぬまでも理解はできる、と互いに感じている。
「皆も助けて蜘蛛くんも倒すよ! 会長が皆を徹底的に治すから生きて帰ろうね! 村人の人達もね!」
 茄子子のいっそ清々しいまでの自信が実力に裏打ちされていることは誰もが知る所だ。だから、笑って応じられる。
「鬼蜘蛛だろうがなんだろうがぶっ飛ばしてやらぁ」
「その意気よ喜久蔵。私達が向かうまで……いえ、その前にぶっ飛ばしちゃいなさいな」
 喜久蔵の言葉に発破をかけたイーリンは、そのまま百合子の肩に乗ったまま突撃。蜘蛛の網に阻まれた入り口を総員でぶち壊しそのまま二手に別れ――。

「貴様がワシを知らぬなら、貴様一人になっても嘯けるか試してやるとしよう。……下がりおれ」
「はは、怒りが隠せてないよ蜘蛛野郎。有り難う、君がこちらを狙ったお陰で」
 鬼蜘蛛が毒を吐き出し、ウィリアムがまともに食らう。セレマを敢えて狙わなかったなら悪辣極まり無いが、鬼蜘蛛は今確かに彼等の挑戦を受けた格好になる。
 そして、空を灼く純白と紫の火線。何事かと驚愕する暇は鬼蜘蛛には無かった。
「仲間が全て救出してくれる、と。……おちついてるフリしてるけど、やっぱり怒ってるんじゃないか」
 ウィリアムは降りかかる破毒を敢えて受けながら、魔剣を横薙ぎに振るう。遠間からの一閃の意味を理解できず笑おうとした鬼蜘蛛はしかし、死角から襲い来た斬撃を避ける事は出来なかった。
「オイラも一発ぶちかますかぁ」
 続けて、喜久蔵の左腕が振り下ろされる。威力と精度は並の域で収まらぬそれは、しかし鬼蜘蛛が放ったカウンターの餌食に遭い、彼に浅からぬ傷を与えた。
 戦場は既に動いているのだ……助ける者と戦う者の手によって。


「速度維持! 投下位置プラスフタマル! 頭角度そのまま! ヨーソロー!」
「壁から離れよ! ぶち抜くぞ!」
 百合子はイーリンを近場に下ろすと、自身は糸牢を至近距離から吹き飛ばそうと試みる。一発では壊れぬとばかりに揺れ動く糸牢はしかし、揺り戻しに合わせて叩き込まれた2発目の光撃によって爆散した。
 イーリンの放った剣の魔力はより顕著(あからさま)に荒れくるう。糸牢の根元を貫き、そのまま中空で解けるがままにそれを消滅させたのだ。……消滅というのは正確では無い。散り散りになった糸が、そのまま何処にか消えたのだ。
「当たり所が悪ければ一撃では切り捨てられぬか……ふうむ、面妖な」
 咲耶はあからさまに巨大な糸牢を透かし見て、中が無人であることを確認した。人がいた痕跡が残っているのを見るに、村に辿り着く頃には既に消えていたことが分かる。
 救えなかった命があることはどうにも出来ない。己の目で救える者を選り分けられることをこそ、彼女は誇った。……そして、生きていた者を視認した咲耶は糸牢を切り落としにかかる。
「拙者等が来たからには安心召されよ。蜘蛛は此方で対処する故!」
「今すぐ避難を! 鬼蜘蛛は私達神使だけを狙っているわ! だから任せて!」
 糸牢を切り落とし、助けられた村人達はまずイーリンらに頭を下げ、神だなんだと崇めようとした。そんな暇は、あろう筈も無し。その感謝の念を切り捨てることが辛いと思えど、彼女らは即座に逃げるよう伝えるしか無い。
「次に行くぞ司書殿! 呆けている暇など無かろう!」
「分かっているわ……でも、何かしら」
 糸牢は解けるように消え、残されたのは中の消化液。壊された糸牢の数は4から5。この調子ならすぐに全て壊し終えるだろう。
 ――そこになにかミスリードはないか? 思考、知識、そして状況。これらが意味するところは。イーリンは何事か理解し、百合子に自分の運搬を頼みつつ式神を放つ。

「みんなこっちだよ! 怪我してる? 任せて!」
 茄子子は村の入り口に陣取り、脱出する村人達の避難を促しつつ治療に当たる。咲耶が低空飛行で通る際、魔力を切り分けより多くを救えるよう支援にまわる。
 潤沢な魔力と効率のよい運用。そして絶対に魔力を切らさぬという強い決意。幾度か後手に回った経験は、彼女を確実に優秀な癒やし手として成長させ筒あるようだった。
『茄子子、これから出口に行く村人を治療したらすぐにセレマ達と合流して頂戴!』
 そんな彼女のもとに駆けてきた式神は、イーリンから託されたそんな書簡を茄子子に渡す。何事か分からないが、不測の事態であることは分かる。そして茄子子は、躊躇というものを捨てて師事に従うことにした。

「あなたは仲間が逃した相手だもの。油断も、侮るつもりもないわ」
 それでも倒す目があるのだけれど……とは、小夜は言わない。それは確信であって侮りではないのだから。
 啾鬼四郎片喰を振るい、流麗な殺人刀を振るう姿は恨みを糧に人の形を無くしたとは思えぬほど美しい。次々に放たれる攻勢は、一手避けても二手は避け得ぬ凄みがある。
「キミはボクの後ろに。あれはボクよりキミ達を優先するみたいだからね……徹底的に邪魔してやろうってワケさ」
「本当にセレマは趣味が悪いね。でも、そういうところは頼もしいよ」
「ええい厄介極まりない! 貴様等神使はまっこと面倒で厄介だ!」
 ウィリアムを庇い、鬼蜘蛛の前に立ったセレマは組み付かれ、そのまま鬼蜘蛛の腹部に開いた鬼面からの呪詛を一身に受ける。瞬間、くたりと体から力が抜けたセレマだが、次の瞬間には何事もなかったかのように起き上がる。面妖、そして厄介。
 その間にも、ウィリアムは守りを貫く術式をくみ上げ次々と叩き込んでくるのだ。如何に堅牢な鬼蜘蛛の肌とて、機能せねば意味が無い。
 小夜もまた、鬼蜘蛛の猛攻をものともせずに――実際傷一つつかずに――斬りかかってくるのだから面倒だ。以前戦った神使はここまで厄介では無かったと、鬼蜘蛛は歯噛みする。
「間抜けな間抜けな蜘蛛公よぉ、お前さんの足はいったい何処にいったのかぁねぇ?」
「ヤオヨロズの下郎が奪ったものなど忘れたわ。ワシの新たな足は此処にある……が、貴様の挑発は片腹痛い。乗ってやろうぞ」
 喜久蔵の猛攻は鬼蜘蛛の負傷を加速させる。単純な破壊力は、それだけで十分に脅威なのだ。
 たった4人で、コレだ。鬼蜘蛛の劣勢を思えば、茄子子が急遽呼び戻された理由も分からぬ事だろう。無論、セレマひとりで治療しきれる負傷度合いでは無かったが、問題はソレでは無い。
「……時に。ワシが村の者共を捉えておった牢を壊す粗忽者が隠れているらしいが。今頃はもう、全て壊してしまったようだな?」
「今頃気付いたのかい? 随分と鈍感なんだね」
 セレマは鬼蜘蛛の言葉に違和感を覚えた。
 糸牢は人質では無かったのか。壊されて、不利を喜ぶ馬鹿があろうか。
 否、否、断じて否。
 これが『神使が救出することを前提とした罠だったら』?
 セレマがそれに思い至るより早く、鬼蜘蛛の全身に村中から集まった糸が巻き付く。そのうち何房かを切り裂いたのは、糸牢を壊しきって戻ってきた咲耶だ。
「元より面妖だったが、さらに形を失ったか……お主に正当な怒りはあれど民草を守る為には生かしてはおけぬ、覚悟召されよ!」
「ちょっと会長あんなになるなんて聞いてないんだけど! まあいいや、治療は任されたよ」
 遅れて現れた茄子子は、糸によって強化された鬼蜘蛛に仰天しつつも、即座に助けることに思考を切り替えて治療にまわる。
 全身を白く染めたその鬼蜘蛛(改)は、一撃にて小夜の守りを破り、セレマの不死性を貫通してのけた。……ソレは、想定外の中の想定内だ。
「美少女の乗り心地は悪くなかったわ、貴方はどうなのかしら?」
「はっはっは、好い面構えであるな! ただでさえ傲慢だった有様がより無様になったわ!」
 イーリンと百合子が駆けつけたのはまさにそのタイミング。
 8人でやっと対等、互角以下の戦いとなろう鬼蜘蛛との戦闘は苛烈さを増し、イーリンの魔力が底を打つほどに閃光が奔り、喜久蔵の猛攻が糸を崩し、小夜と咲耶の剣術が次々と糸を断ち切っていく。
「あの糸、総量が決まっているわ。ひたすらぶん殴って元にもどせば、美少年も小夜も傷つけられないはず!」
「簡単にいってくれるね。結構えげつないんだけど?」
「軽口がたたけているうちは大丈夫だよ、セレマ。幾らでも切ってやるさ」
 イーリン、セレマ、ウィリアムは軽口を叩き合いながら猛攻を繰り返す。
「生えてきた足も、その糸も、なんならこの世との縁も切って差し上げます」
「拙者は人の側に立つ身。その御身、纏う呪詛と共に消え失せるがよい!」
 小夜と咲耶の斬撃が、何度目かの剣戟でようやっと糸に穴を空ける。わずかな隙間、だがソレで十分だった。

 紫の火線が火を噴く。
 イレギュラーズの累々たる負傷者達を引き換えにして、荒ぶる鬼は今此処に、呪いとともに終焉を迎える。

成否

成功

MVP

咲花・百合子(p3p001385)
白百合清楚殺戮拳

状態異常

白薊 小夜(p3p006668)[重傷]
永夜
セレマ オード クロウリー(p3p007790)[重傷]
性別:美少年
喜久蔵・刑部(p3p008800)[重傷]
『元』獄卒

あとがき

 いや、機動力の活用法怖いわ。

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