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シナリオ詳細

再現性東京2010:綾敷なじみは怪しくない

完了

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

オープニング


 綾敷なじみは怪しくない。
 アクセサリーのような二股の猫の尾も。
 ベレー帽の中の猫耳も。
 無ヶ丘高校オカルト研究部部長であることだって。
 全然、怪しくなんてないのだ。

 綾敷なじみは怪しくない。
 学校の裏門に設置した『投書箱』に入っていた怪文書を読んだって怖がる事はない。
 幽霊も、怪異も其処に存在していると信じて已まないだけの普通の女子高生なのだ。

 無ヶ丘高校の花色のワンピースがお気に入り。
 可愛くリメイクしたベレー帽を被って、カーディガンとポシェット一つで何処へでも。
 スカートからちらりと覗いた猫の尻尾を可愛いと褒めて頂戴。
 無ヶ丘高校で綾敷なじみを知らない者は居なかった。
 変わり者。
 けれど、飄々として猫のように楽しげで。
 嫌いになれない、クラスに一人は居るそんな女の子。

 綾敷なじみは怪しくない。
 怪しくない、のに。

「ええー……」

 目の前には怪しいことが盛り沢山だった。


 カフェ・ローレットの常連客の一人、希望ヶ浜地区にある『普通』の学校無ヶ丘(なしがおか)高校の女生徒がメッセージを一つ送ってから行方不明になったという。
 その情報を口にする音呂木・ひよのは酷い頭痛がすると言う顔をして「あの子は、もう」と溜息を吐く。
 ひよのや廻とは面識があり、ひょっとすれば君たちだってカフェ・ローレットでその姿を見かけたことがあるかも知れない。
 にこやかに何時だって微笑んで飄々とした『怪異を好ましく思う普通の高校生』――それが綾敷なじみという少女だった。
 口癖は「私は全然怪しくないよ。寧ろ、名前の通り『なじんでる』と思う!」と言い、誰にだって気安く話しかける彼女は希望ヶ浜には珍しく『悪性怪異を是認しながらも他校に進学した』そうだ。
 目を逸らし、耳を塞いで仮初めに生きる者達とは種別が違う。彼女のような存在を『学園外の協力者』として希望ヶ浜学園は重宝している。地域に存在する様々な企業や『普通』の学校にも幾人か内通者が存在しており、なじみはその一人なのだそうだ。
「無ヶ丘のオカルト研究部。まあ、部員は一人の名誉部長。
 それが怪しい経歴に全うに怪しくない日常で世界に馴染んだ、綾敷なじみという女です」

 怪しい――というのはその外見らしい。
 ベレー帽で隠して居るが彼女は猫の耳があり、人間の耳はない。
 尻からは二股に分かれた猫の尾が伸びているが無ヶ丘の制服で器用に隠して居る。
 ……カフェ・ローレットでは気が緩んでぴょこりと尾を露出することが多々あるそうだが。
 快活に、怪異を畏れず猪突猛進に進んでいく彼女は情報屋と同等の役割を担っているそうだ。
 それ故に、怪しい。幽霊なんて物を信じて、オカルト研究部で投書箱を設置して。
 心霊スポットに向かう。幽霊の情報を解析する。夜妖について情報を掴み希望ヶ浜へと伝達する。

「と、言うわけで。今回は怪しくない『綾敷さん』は悪性怪異ヨルの情報収集に向かった心霊スポットで見事に怪異と出くわしたそうです」

 aPhoneのメッセージ。
『ひよひよ、助けて』

「……ね?」
 ね、ではない。慣れっこのような顔をしていたひよのに燈堂・廻が「行く?」と伺い聞く。
「あー……廻。今日は『皆さん』に行って貰いませんか?
 これも良い機会です。なじみもこれからは皆さんに『投書箱』の投稿を持ち込むでしょうし……」
 顔合わせですよ、とひよのは笑った。悪性怪異――夜妖<ヨル>。
 なじみが調べに行ったその怪異の名は――


 拝啓、オカルト研究部様

 怪人アンサーを知っていますか。

GMコメント

 夏あかねです。

●成功条件
 夜妖の撃破

●悪性怪異 夜妖『怪人アンサー』
 噂となった悪性怪異。なじみが工場地帯の『現場』検証に向かった場所に存在する怪異です。
 携帯電話を用いて行う『こっくりさん』のような物です。
 ただ、今回の怪異はちょっと厄介。
『一人で』『特定の場所で』『携帯電話で電話を掛ける』と悪性怪異が顕現するという状況になりました。それは希望ヶ浜特有の『噂』の所為でしょう。

 人間の体に固執して、様々な質問を繰り返します。到底答えられる物ではありません。
 例えば、元の世界にはどうやって戻るの?夜妖ってどうして生まれるの?

 ちなみに、「綾敷なじみは怪しいの?」と聞かれれば「怪しくない」と答えてあげましょう。
 攻撃方法は非常に物理的ですが強力な悪性怪異です。Mアタックや吸収、ブレイクなどなど。

 『3Tに一度』ランダムで1名のaPhoneへと電話orメッセージ。
 aPhoneの電源が切れていようとも必ず掛かってきます。
 電話orメッセージの掛かってきた対象に必中攻撃で大ダメージを与えます。

●同行NPC:綾敷なじみ
 あやしきなじみ。再現性東京<アデプト・トーキョー>2010街希望ヶ浜地区に存在する『フツウ』の学校『無ヶ丘高校』の1年生。
 部員は一人の『オカルト研究部・部長』の少女。実は猫又です。ヒミツです。
 綾敷なじみは怪しくない。それどころか、なじんでいる。名前がなじみだけに。
 投書函を裏門に勝手に設置しており、その情報をカフェ・ローレットへと流してくれます。
 が、今回は調査に行ったようです。合流時点でHPは半分程度です。泣いてます。

 戦闘能力についてはあまり当てになりません。特別な訓練を受けているわけではないのです。
 ただ、『情報屋』としての能力はとっても高いようです。

●現場『工場地帯』
 噂の根源となった工場地帯です。しん、と静まりかえってその場にはなじみが一人。
 aPhoneを手にして立っていますが、どうやら怪人アンサーによって一撃頂いたのか最早、泣いてます。
 人気はありません。誰の物かは分からない壊れた携帯電話が10個足下にはおちており、奇妙なことに全て着信している状態です。
 状況だけ見れば非常に奇妙奇天烈、悍ましい様子です。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

 それでは、宜しくお願いします。

  • 再現性東京2010:綾敷なじみは怪しくない完了
  • GM名夏あかね
  • 種別EX
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2020年09月13日 22時05分
  • 参加人数10/10人
  • 相談7日
  • 参加費150RC

参加者 : 10 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧(10人)

ヴァイス・ブルメホフナ・ストランド(p3p000921)
白き寓話
赤羽・大地(p3p004151)
彼岸と此岸の魔術師
アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)
蒼穹の魔女
炎堂 焔(p3p004727)
炎の御子
ユゥリアリア=アミザラッド=メリルナート(p3p006108)
氷雪の歌姫
クラウジア=ジュエリア=ペトロヴァー(p3p006508)
宝石の魔女
カイト・C・ロストレイン(p3p007200)
天空の騎士
九重 伽耶(p3p008162)
怪しくない
イスナーン(p3p008498)
不可視の
越智内 定(p3p009033)
約束

リプレイ


 綾敷なじみは怪しくない。
 ホラーは嗜み。猫耳だって良くあるアクセサリー。
 現代社会ならばファッションならば何でもござれ。

 綾敷なじみは怪しくない。
 北希に存在する澄原病院の診察券はお財布の中に。
 お薬手帳もしっかり常備。猫柄ポーチに入れるのです。

 綾敷なじみは怪しくない。
 カフェ・ローレットで沢山のお友達がいるんですよ。
 名門希望ヶ浜学園の沢山のお友達。

 これって、これって、『なじんでる』って言うでしょう?


 カフェ・ローレットで音呂木・ひよのがため息混じりに「お願いします」と頼んだのは希望ヶ浜地区に存在する『普通の高校』に通っていると言う少女の保護だった。その名も綾敷・なじみ。名は体を表すと言うならば彼女はとても怪しいのだろう。何せ、『あやしき』だ。その癖に名前は『なじみ』。二律背反、意味不明、規則正しく『どっちつかず』を表した不思議な少女は無ヶ丘高校に通っているのだそうだ。夜妖の事なんて知る由もなく、ホラーにも巻き込まれるはずのない。そんな『目を背けた者達』の楽園で何食わぬ顔をして夜妖の情報を集めるオカルト研究部(部員はたった一人!)が怪しくないはずもない――が、カフェ・ローレット曰く『信頼できる存在』なのだそうだ。
「綾敷なじみは怪しくない……全然怪しくない……
 これが今回の合言葉……みたいな感じか……?」
 繰り返し繰り返し。『双色クリムゾン』赤羽・大地(p3p004151)は彼女の名を口にした。唇に音を乗せればなんとも陳腐な響きである。口にしながら向かうのはなじみの調査対象たる夜妖が存在すると言う工場地帯である。
「噂の学園関係の仕事か」と口にした『天空の騎士』カイト・C・ロストレイン(p3p007200)にとって中々に見慣れぬ光景である再現性東京<アデプト・トーキョー>。その中でも非常に文明の進化を感じさせる工場地帯は再現性東京の希望ヶ浜地区では就労の基盤を担うと共に、旅人達にとっての『日常』を作り出すことに欠かせないものなのだろう。
「とんと僕にはご縁のない世界だけど興味はあるな。
 ……綾敷なじみは怪しくない、ね、まあそれは信じてみよう」
 怪しくないと自称するならば一先ずは優先順位は繰り下げだ。カイトの『信じる』に対し「貴重な夜妖の情報提供者」なのだと大地は返した。確かに、カフェ・ローレットでは重要な情報筋であるかのように扱われていた。それ故に『怪しい』『怪しくない』と言われるとどこか不思議な感覚なのだが。
「ふむふむ……ひよのの話を聞くに、どうやらなじみはわしの御同輩っぽいのぅ」
 ぴこりと耳を揺らした『仙狐の』九重 伽耶(p3p008162)。自身は妖怪であり仙人だ。猫の耳に二股の尻尾を持つなじみが怪しいというならば伽耶だって怪しい枠になるし、なじみが怪しくないと言うならば自分だって怪しくはないと伽耶は小さく笑う。
「うんうん。猫さんのお耳と尻尾があるなんて怪しくないよ! ボクも怪しいってことになっちゃうし!」
 猫の耳と尻尾を持った『炎の御子』炎堂 焔(p3p004727)もその観点で言えばなじみとイコールだ。彼女の耳と尻尾が奇妙だと言われれば自分だってとなるのは同じ『耳付き』達による主張だろうか。
「特に関わりもないですけど、助けに来たんですから死なれても後味悪いですね」
 そう呟くイスナーン(p3p008498)。カフェ・ローレットで彼女を見かけた事がある者は多数存在するだろうが、現時点で言えば彼女はまだまだ特異運命座標達とはお近づきになっていない。初対面が夜妖に襲われていると言うのは何とも怪しいが……。
「夜妖……ふむ。正体不明ながら、オカルトのごとく非存在的なナニカではなく、実体を持ち打倒可能なただの敵性存在である、と。
 なぜそのような存在が出てきたかは置いておくとして、まあ打倒できるなら恐れるにあらずじゃな。厄介な魔物と何が違うのか」
 そう。『宝石の魔女』クラウジア=ジュエリア=ペトロヴァー(p3p006508)が言う様にこの再現性東京、特に希望ヶ浜と呼ばれる地域ではモンスターの類いでさえも夜妖と称されるのだ。その実情はオカルトのようで、特異運命座標の中でも現在から召喚された者達にとっては「聞いたことあるかも知れない!」という噂話や都市伝説が像を結んで敵とかしているのだ。
 オカルトと言う言葉にぴくりと肩を揺らしたのは『氷雪の歌姫』ユゥリアリア=アミザラッド=メリルナート(p3p006108)。「あ、あらあらー」と頬に手を当てる。白雪のような髪を揺らして首を傾げた彼女はaPhoneの指し示す地点にもうすぐ到着することに気付いた。
「これで姿形が見えなければ、ちょっと、ほんのちょっっぴり怖かったかもしれませんがー。……ほんのちょっぴりですわよー?」
「うーん、確かに。オカルトだよね。『怪人アンサー』……尋ねたことに答えてくれるからそういう名前なのかな? だとしたら今の状況は不自然だけど……まるで逆だものね」
 淡々と解説する『希望の蒼穹』アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)にとっても此度の夜妖は畏れるに足らず。寧ろ、なじみの救出に重きを置いていた。電話をすれば答えてくれる怪人アンサー。然し、メッセージで送られてきた情報に寄れば『向こうが直接此方に連絡してくる』というのだ。しかも、一方的に、である。アレクシアの言う様に『噂話と逆』の行動を見せるそれらがどういう意図であるかは関わってみなければ分からない。
「さて、今回もおもしろい夜妖ね……コミュニケーションを一方的に押し付けるのは間違ってるって、教えてあげないといけないわね? それと、ちゃんとなじみさんも助けてあげないと」
 ついでのようにそう言った。『白き寓話』ヴァイス・ブルメホフナ・ストランド(p3p000921)の言葉は聞こえていたのだろうか。十個の携帯電話の中心で「びえーん」と泣いていたなじみは「助けてあげてよー」とまるで他人事のような言葉で懇願してきたのだった。遠目から見れば彼女自体が夜妖のような異質なシチュエーションで、堂々と泣きながら。


『凡人』越智内 定(p3p009033)はその日頭を抱えていた。カフェ・ローレットに訪れた際に実入りの良いアルバイトがあると声を掛けられた。無論、向こうからすれば定がローレットのイレギュラーズであることや希望ヶ浜の学園生で在ることくらい調べはついていたのだろう。
 報酬などを聞いただけならば美味しかったからと着いてきたが、それが依頼でよりにもよって怪異なのだ。『図書館の化け物』を泣きながら倒したその日を思い出す――本当は先輩方が倒してくれた――欲しかったスマホを投げ寄越されて希望ヶ浜に来た途端にこの有様なのである!
「そもそも僕は剣も魔法も使えないんだっての!」
 叫ぶ。異世界というのは剣と魔法のファンタジーだ。
 そんな特異な技術も何も持ち合わせない定にとって、『平凡』以外の言葉は生憎だが持ち合わせては居なかった。居なかった筈だ。
 だと、言うのに……目の前では泣いている女の子。そして落ちた十個のスマートフォン。あからさまに拍車を掛けた異質な光景。
「ええい、ぐだぐだ言ってても仕方ない。
 女の子が泣いてるんだぜ、此処で放って逃げ帰ったら僕は僕を殴らなきゃいけない痛いのは嫌いだからさ、やってやるよ!」
 ――覚悟はどうやら、決まったようだった。

「綾敷なじみは怪しいの? あれくらい全然怪しくないですね」
 一人で問答を繰り返したイスナーンになじみは「ひよひよが助けを呼んでくれたんだ! うんうん、流石! 私がヒロインならひよひよはお助けキャラみたいなもんだもんね!」となじみは感動をその身全体で顕わしていた。ちなみに其れを聞かれたらひよのはなじみを助けてくれとは言わないだろう。
「なじみ。一先ず助けに来たんじゃが……泣きながら気丈に振る舞うものじゃな。
 うん、それに、壊れてるのに着信し獲る携帯が落ちとるし……うん、確かにアンサーの情報は聞いて居るよ。聞いて居るけど……これは、あれじゃな?」
 伽耶は淡々と「こっくりさん系じゃな?」と問いかけた。アンサーは何処だと問いかけれと彼女は分からないのだそうだ。分からないけれどと顔を上げたなじみは照れくさそうに特異運命座標を見遣る。
「なんと驚く話で申し訳なさマシマシ特盛りなんですけどー。なじみさん、腰を抜かしてしまったというか。人生で余り経験が無いよね。うん。腰を抜かせて立てなくなるって経験はあるかい?」
「あー……どう、かな……」
 泣きながら手を差し伸べてくるなじみを一先ず抱え上げたカイト。余りに恐怖体験をしたのか洪水の様に言葉を垂れ流す彼女の背を撫でて自身らの陣営へと連れ帰る彼の背後で落ちている携帯電話が突然鳴り響いた。
 ピリリリリ。
 ピリリリリ。
 使い古された着信音である。携帯電話のバイブレーションで微動しじわりじわりと此方に迫ってくるかのようである。
「びえ!」
 叫び声を上げたなじみを後方へと連れて行き、イレギュラーズ達は携帯を見下ろす。
 一先ず、だ。
「やあ、噂のか弱い情報屋さん。僕達イレギュラーズだよ――って言えば後はわかるだろうか。
 見たところかかって来た電話かメールをみて大ダメージ食らったところかな」
「その通り。うんうん。此れが小説だって言うならあらすじを説明して貰えた感じだ」
 号泣しているなじみのことを文字で表すならば「ぴえん」である。「大丈夫だよ」と彼女を宥めるように焔は微笑んで周囲へと『神の使い』を放つ。この状況から言えば怪しいことてんこ盛りである。
「……とりあえず落ちているaPhoneを調べてみましょうか。ずっと着信しているっていうのは……どういうことなのかしらね」
 異質な状況である。鳴り響く電話の音は頭を可笑しくしてしまいそうだとヴァイスはまじまじとaPhoneを見下ろした。幸いにして特異運命座標側には何の電話も掛かっていない。
「ああ、でもこっくりさんのようなもの、ってことは……これで、何かを問うたり答えたりしているのかしら?
 ……と、いうよりも、戦闘に関しては此方にお任せして欲しいのだけれど。まずは目標を補足しないことには始まらないかしら。そのあたりはなじみさんを頼ることになるのかしら……?」
 くるりと振り返ったヴァイスが首を傾ぐ。白薔薇咲き誇るようなふわりとしたドレスを揺らした彼女は人形めいた美貌に困惑を貼り付けている。
「しカし、なじみと比べれば……怪人アンサー、なァ。そっちのが確かニ、よっぽど怪しいよなァ」
 ぼやく大地にアレクシアは頷いた。念のためと回復を施し、なじみに安心を与える彼女は一応とaPhone10のカメラで現場状況を撮影した――したが。
「あれ?」
 携帯電話は映っていない。携帯電話から顔を上げる。矢張りある。
 もう一度撮影する。
「……あれ?」
 やはり映っていない。
「なじみ君。aPhoneで写真を撮ったんだけど映らないんだよね」
「ええ……うーん、なじみさんサーチだと……そうだなあ、あれも夜妖って事なのかなあ……」
 アレクシアは成程、と頷いた。落ちている携帯はオブジェクトとして存在していると言うよりも夜妖がこちら側に顕現するための儀式の一種なのだろう。其れを自身で作り出しているからこそ厄介な夜妖なのか――もしくは、そうすることで出てくるという噂が其の儘そっくり『夜妖』の通り道になったか、である。
「でも、10個ってボク達の人数と同じ数だよね。何か今回の夜妖と関係が……10個?
 呼び出したなじみちゃんの分だけあるならわかるんだけど、逆になじみちゃんの分だけがない? 数には意味がないのかな?」
「あー……あの……」
「焔だよ」
「焔ちゃん。だってね、私は自分の手でこうして自分のaPhoneを持ってるんだ。
 だから、落ちているaPhoneは『綾敷・なじみ』には関係の無い携帯電話ってことかな」
 ほら、と携帯を差し出してくるなじみ。可愛らしい猫のケースに入ったaPhoneには通知として『ひよひよ』と登録された名前から『友人にお迎えを頼みました』という端的なメッセージが送られてきている。
 ピリリリリリリ。
 何重にも携帯電話が鳴り響く。まるで出ろというアピールをするかのようだ。
「びえー」と奇っ怪な鳴き声を発したなじみに「おお、よしよし。怖かったですわねー」と背を撫でたユゥリアリア。
「主張が激しくなってきましたわー。それで、なじみさま。どうしてこんな状況に?」
 ユゥリアリアに甘えて――否、バブみを感じてオギャっているなじみは「はっ」と声を漏らす。丸い猫のような瞳を向けた彼女は「電話に出たら、何か出てきた!」と泣きながら告げた。
「電話に出たら……。情報屋としてのなじみ殿を見込んでの質問なのじゃが、アンサーの姿が見えぬゆえ、出現させるとか相対するための条件とかあるはずなんじゃ。それが『電話に出たら』ということかの?」
 クラウジアが優しく問いかける。無論、彼女のその問いかけはなじみという少女にはぴったりだ。こくこく、と何度も頷かれる。
「電話に出れば質問されて……なじみさん答えられなくって……」
「ちなみに何と聞かれたのじゃ?」
「きょ、今日の混沌大陸の死亡者数――」
 無茶ぶりである。練達の特に再現性東京に居たならば情報という者は簡単に手に入るがその範囲を混沌大陸に広げれば無茶も無茶。無理難題に拍車を掛けることとなる。成程、と小さく頷くクラウジアの背後でイスナーンが警戒するように携帯電話を見詰めている。
 捜索に特化した技能を持っている彼は凶爪をゆらりと揺らす。不意打ちにならば対応できる彼は、無名偲無意式――つまり、希望ヶ浜学園の校長先生である彼だ――の著した偽書を手にしている。
「綾敷さん、一先ずですが携帯電話自体も夜妖と言うようなので背後に下がってそのaPhoneを何方かに預けて下さい。
 あの10個の携帯電話の近くに居れば『掛かってくる可能性』は十分にありますから。手渡してさえ居れば問題は無いはずです」
「ええっと……」
 イスナーンの言葉になじみの視線が右往左往。定まらずにあちらこちらの彼女は怯えた様にイレギュラーズを見遣る。「ほら」と手を差し伸べたのは定であった。
「なじみさん……大丈夫、絶対に守るから。絶対だ!」
 畜生、と心の中で毒吐いた。泣いている女の子を放っておけないからと堂々と戦場まで飛び出しても、彼女を護ることしか出来ない。夜妖に対抗する力は余りに弱く――自分自身が『誰よりも劣る』と彼は認識していた。
「うん、大丈夫だね。君は優しいんだ。まるで少年漫画のヒーローみたいに」
 涙を拭ったなじみに「そうだよ。なじみさんを護ってみせる」と自身を鼓舞するように定は言った。彼女を落ち着かせる言葉が翻って自分を鼓舞し続ける。
 ランダムで飛び込む着信だってなじみの携帯電話を自分が持っていれば――きっと。


 ヴァイスはまじまじと目を細める。aPhoneを眺めて、つん、と指先で突いた。着信している携帯電話は5台。時間経過で増え続ける。まるで「早く出ろ」「此方に呼び出せ」とあちら側がアクションをとるようだ。ならば出なければ良いのか――と問われればNOである。何故ならば、なじみのように『こうして噂を聞いてから電話に出てしまう』者が居るからだ。
「ねえ、このaPhoneへの着信ってかけ直しとか出来ないのかしら? そうしたら、向こうから電話をかけたりできなくなるでしょう?……無視されるだけかしら。
 ああ、一人になればいいのかしら……難しいわね……ううん、まぁ、そうね。あまり無理はしないでおきましょう」
 ヴァイスはううん、と唸った。拾い上げた携帯電話には『非通知』の文字が躍っている。非通知と言いながらまるで誰であるかが手に取って分かるその状況に些か奇妙な笑いが浮かぶ気がして大地は肩を竦める。
「さテ、出ればお目見エのようダが」
 ちら、と後方を見遣ればなじみを護る布陣は完成している。なじみの回復が済んだと頷くアレクシアに焔は「つまり簡単な降霊術って思っていいのかな」と呟いた。
「……だとしたら何に降ろすんだろう、携帯電話?
 でも悪性の存在が素直に携帯電話に収まってくれるのかな。
 あと、噂はどんなのだっけ、色々な質問をしてきて……人の体に固執する?」
 ちら、と後方を見遣る。焔の考えはある意味で『正解』である意味で『不正解』だ。詰まるところ――
「まさか、考え過ぎだよね、なじみちゃんは怪しくなんてないはずだし、アンサーがなじみちゃんに降りてきてるかもなんて、そんなこと」
「私は……夜妖が別に憑いてるんだ」
 なじみはそう言った。焔は驚いたように彼女を振り返る。だからこの怪異にとって『綾敷・なじみ』という少女は殺害対象にしかならなかったという事だとでも言うのか。分からないけれど、となじみは言う。夜妖など、モンスターと同系列だ。話が出来るモノできない者と多岐に渡る。なじみにとってはこの怪人は『話が出来なかった対象』に他ならないのかも知れない。
「それでは、電話に出ましょうかー」
 ユゥリアリアはそう言った。しかし、よく見れば顔色はそれ程まで良くはない。怪談話が苦手だという彼女は携帯電話を握るヴァイスを促す様に微笑みを浮かべている。
「ふむ。あい分かった。電話に出てみようかのう。ヴァイス殿、こちらで出てみても?」
「ええ、どうぞ」
 クラウジアは様々な『夜妖』の召喚方法を考えていた。アンサーから掛かってきた電話同士をくっつければ何か異界に繋がる可能性があるのでは無いか。そして、携帯電話に触れて『お越し下さい』と告げてみる。次に、単純に呼んでみる。その三つだ。
 ピリリリリリリ――
「もしもし」
 一度、後方へと下がってその様子を眺めて居るカイトは「さっきはこれで出たのかい?」となじみに問いかける。
「うん」と彼女が頷くと同時――何か、黒い影が見えた。それは男性であろうか。ほっそりとした男だ。それがクラウジアの背後に立っている。
 スピーカーになっていた携帯電話からザァと言う音がする。何かの音だ。

『希望ヶ浜の街灯って何本あるの?』

 合成音声のような響きであった。クラウジアがばっと振り向く。直ぐさまに駆けるイスナーンは声を張り上げる。注意を引くように風を纏い地を蹴った。
「わああ」となじみが慌てた声を上げれば「大丈夫だ」と定は彼女を落ち着ける様に呟く。
 携帯電話が鳴り響く。直ぐさまに電話に出た伽耶に対する質問は――それに被さるように「そもさん! 三千世界はどこにありや?」と問答を『出し返す』
 返答はない。こういうのが相手が『説破』と答えてからがお約束だが、怪異なら晩でも良いだろうと伽耶は小さく笑いその身を苛む痛みに小さく舌を打つ。
「中々に強敵じゃの!」
「まあ、対象を絞って電話を掛けてきているんだしね」
 カイトはそう頷いた。アレクシアは伽耶を癒やし、次から『察知』できるタイミングがあるかと警戒を怠らない。質問の内容は「鶏が先か卵が先か」という答えようのないものだ。どうにも、答え用がない質問ばかりだというのだ。アレクシアは唸る。
 大地も伽耶を回復し、アタッカーを喪わぬようにと立ち回る。言ノ刃を武器にして、浮遊する霊魂と友好関係を刻みながら、ぼとり、ぼとり。赤き血潮を落とす。人畜無害な顔をして、目の前に顕現した怪異に対して容赦はしない。
「怪人カ――」
 まさしくその様な外見だと大地はまじまじと感じた。男を象ったが、クエスチョンマークをその顔面に貼りつけた在り来たりな様は都市伝説を思わせる。しかし、声はない。携帯電話が鳴り止めば特異運命座標を狙ってくる。
 またも、携帯電話が鳴る。次は大地のものだ。警戒した大地はスピーカーへと切り替える。

 ――「夜妖ってどうして生まれるの?」

 その問いかけが飛ぶと同時に、携帯電話から飛び出した『奇妙なダメージ』を肩代わりしたアレクシアは「ひゅ」と息を飲む。
「咄嗟に庇えたけど、どこから来るか分からないね……!」
「ええ。どうしたことかしら。理不尽な攻撃よね。これが、その……怪異、というの?」
 ヴァイスの言葉にユゥリアリアの顔色が変わった。お化けはいない。お化けじゃない。あれは『殴れるモンスター』なのだというように彼女の微笑みが硬直し続ける。
 ヴァイスの周りに咲いた花が怪異を蝕んでゆく。タイミングで下される攻撃の前に厚い回復さえあれば畏れることはないのだ。仲間達をサポートするユゥリアリアは氷水晶の槍を握りしめ、カイトの携帯電話が鳴り響いた。

 ――「地球って今まで何回回ったの?」

「着信相手くん、相応の身分を明かして欲しいのだけど、君の目的はなんだ、人を傷つけるなら許さないぞ」
 電話に答える声が無い。カイト自身、眼前のアンサーと相対しているが、彼に質問を投げかけても返答はない。寧ろ対話は電話の中でと言うことなのだろうか。
「……質問ばかりだな、こちらの質問は答えてくれるのか? 綾敷くんのスリーサイズってなに?」
「のわあああああ」
 ――アンサーが、と言うよりも定の背後に居たなじみが叫んだ。
 ユゥリアリアの血潮がぽたりと落ちて氷の槍を作り出す。その切っ先が怪人へと突き刺されば、其れを追いかけるようにクラウジアが駆けた。
 仮装宝石を生成する。過剰な魔力が臨界点を突破した。自壊と同時に破壊的な魔力奔流が怪人を襲う。目映い光の如く、夜妖を魔力が襲った。叩き付けるが如く、イスナーンが追撃を行い、ヴァイスの花が芽吹く。
 携帯電話が鳴り響く。焔の視線がアレクシアへと向けられれば、彼女は大きく頷いた。

 ――「どうやれば元の世界に戻れるの?」

「質問には答えてあげたいけどわからないよ! 元の世界に戻る方法なんてボクが知りたいくらいだし」
 拗ねたような声音を一つ。焔を纏って叩き付ける。鮮やかな紅色が舞い踊る。長引かせぬような短期決戦と焔が重ねた一撃に怪人の姿が揺らぐ。
(今……!)
 これ以上『怪談』とご一緒していたくないのが本音である。収集した情報もとりとめなく、質問も不可解なものばかり。違和感を拭えぬままのアレクシアにユゥリアリアは頷いた。
 鮮やかなる氷が降り注ぎ、其れを追いかけたカイトが速力を武器に一撃を投じる。
 その背後で懸命になじみを守っていた定の携帯が鳴り響いたとき、彼はむ、と唇を尖らせた。
「ちょっと! 折角貰ったスマホの初着信が化物とか!」

 ――「綾敷なじみは怪しいの?」

「なじみさんが怪しくないかって? 猫耳尻尾の女の子が怪しい訳ないだろ!」
 お怒りである。怪しくないね、と笑ったアレクシア。庇い手として進んだアレクシアはその時『ダメージが無かった』事に気付く。
(なじみ君の事を聞かれた事もそうだけど、返事が出来たからダメージが来なかった……?)
 違和感が重なる。定は『呼び寄せられた怪異』っていうのなら儀式を終えないといけないんじゃ無いかと叫ぶ。携帯電話が10個。それも怪異で、出入り口だというならば。
 特異運命座標も10人。なじみの足下にあったのも10個。
 ならば、それが出入り口なのだ。
「はハ、成程ナ。なら――」
 大地が狙うのは足下の携帯電話だ。その攻撃に続き、伽耶とイスナーンも攻撃を重ねていく。
 足下に存在した携帯電話のディスプレイが割れ砕け、無残な姿に変容していくが……誰も気にするわけもない。
「こっくりさんなんじゃろう!?」
 伽耶が振り向けばクラウジアは合点がいったように宝石魔術を放った後、「今!」となじみに叫んだ。

「おかえりください、って言いなさい!」


 夜妖へと放たれた一斉攻撃。そして、極めつけのように『こっくりさん』を終わらせた状態になれば、夜妖は霧散し、消し去った。
「これは『噂』なんだろう?」
 カイトがそう問いかければなじみは頷いた。彼女は自分の高校に投書箱を設置し、そこに『おたより』を募集しているらしい。その一つがこの『怪人アンサー』であったそうだ。
「まあ噂が形を成すならこの存在を流した噂の原点が気になるところだね。
 噂の根を絶たねばまた出てくるんじゃないかな、こういうのって。心当たりは?」
 首を振る。なじみは「無差別に来たモノからこれだってのを選んでるの」と肩を竦める。
「まあ、分からないか。女子高生はこういう、噂好きだしね!」
 どこからともなく出てくるものだ。ふと、なじみを見ていた伽耶は「もう泣くでない」とその顎の下を撫でる。猫のようにごろごろと音を立てれば彼女は驚いたようにぱちり、と瞬いた。
「そのごろごろ、喉が鳴るのって……夜妖が憑いてるって言ったけど」と焔はなじみをまじまじと見遣る。ベレー帽をそっと脱いだ彼女の頭の上には『普通の人間には有り得ない』猫の耳が揺れている。
「尻尾もあるよ」
「見せなくて良いよ。まあ……その、男子もいることだからね」
 天義の騎士としてその仕草をストップさせたカイトになじみは頷いた。スカートを持ち上げた二股の尾を見れば確かに彼女は旅人の種族としての特徴か、もしくは獣種のような外見をしている。
「私は普通の人間種と変わりない人間だよ。でも、お耳と尻尾が生えたの。
 何時のことだったか、猫鬼と出会ったの。何てこと無い出会いだったよ。猫鬼ってね、呪術の一種なんだって。犯罪を起こしたり病気にしたりする。けど、私は五体満足なの」
 えへんと胸を張る。彼女はどうやら猫鬼とは波長が合った。ヴァイスは「体に何か影響はないの?」と問いかける。
「んー、代償があるかな。代償は『――――――――』」
 聞き取れない。告げた言葉が音を為さないことに気付いたのかなじみは肩を竦めて困ったように笑った。
「『言葉を食べられちゃったみたい』。
 んー、まあ、ひよひよに、聞いてみて。ひよひよなら多分、知ってくれてるはずだから。
 ひよひよって凄いんだよ。音呂木・神社の跡取り娘で巫女さんなんだから! だから、ひよひよは夜妖と戦ってるし、校長も認める実力者なんだって。ただ、巫女の力が強すぎて異界とかにはいけないみたいなんだけど!」
 饒舌な彼女はにんまりと笑う。そんな彼女に小さな溜息を漏らしてからイスナーンは「おけがは?」と問いかける。
「ううん、えっと……この子……定くんが護ってくれたから」
 大丈夫ですと微笑むなじみに定は「あー」と小さく声を漏らす。
「なじみさんて、コミュアプリ……PINEとかしてる?」
 じ、とその様子を見遣る幾つもの視線がある。「なんだよ、連絡先位聞いたって良いだろ別に、頑張ったんだからさ……」と呟いた定になじみは「うんうん、してるよ。良ければ交換するー?」といんまりと微笑む。そうしていれば普通の女子高生なのだとユゥリアリアはぱちりと瞬いた。
「今回は無事に済みましたが情報を足で集める時は二人以上でいる事をオススメしますよ」
 イスナーンの言葉に大地とアレクシアは頷く。気をつけてねと告げる二人は落ちていた携帯電話の調査をしようと振り返り――

「消えてる……?」

 先程まであったそれが消え去ったことに顔を見合わせた。誰かの所有物か、それとも、と考えたが10個の携帯電話が輪を為して着信をすることで儀式めいたことを行い夜妖を呼び出す『夜妖』の一種だったのだろうか。
「まタ、会いそうナ気がするナ。あのケータイ」
「……うん、そうだね。又、何処かで見つけるかも知れない……」


「おかえりなさい。なじみ」
「ただいまあ。いやー今回も骨が折れたねえ。これって週刊連載していたとするならば何話分だったと思う?」
「……さあ? まあ、相手が倒されるところは見開きでがっつりかっこよくなっていたかも知れませんが」
 適当な返答を繰り返すひよのになじみは「えへへ」と小さく笑った。夜妖と言う存在が希望ヶ浜において『何』であるかを彼女たちも知らない。然し、夜妖の増加はひしひしと感じている。
「いい人達だった。アドレス帳登録も増えた」
「そうですか……って交換したんですか?」
「うん。だから、私も頑張って皆にオシゴト持ってくるよ! うんうん、やっぱり綾敷さんも頑張った方が良いからね。それじゃ、またね」
 手をひらひらと振る。
 神出鬼没で気まぐれで。楽しげでニコニコ。貪欲で情報屋。いたいけで純真無垢。
 それでも、彼女は怪異と共に在る。

「綾敷・なじみは怪しくない――得た情報を時々『食べられてしまう』から、貴女は怪しいんですよ」

 呟いて、ひよのはカウンターの内側へと戻った。

成否

成功

MVP

なし

状態異常

アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)[重傷]
蒼穹の魔女
九重 伽耶(p3p008162)[重傷]
怪しくない
越智内 定(p3p009033)[重傷]
約束

あとがき

 お疲れ様でした。なじみからも此れから皆さんと沢山オシゴトをご紹介できるかと思います!
 また、ご縁がありましたら是非に!

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