PandoraPartyProject

シナリオ詳細

<夏の夢の終わりに>I'm here,below hero.

完了

参加者 : 8 人

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オープニング

●I'm here.
 アルヴィオンに進撃したイレギュラーズは、幽閉された妖精女王ファレノプシスを救出し、占領されたエウィンの町を開放した。
 しかしアルヴィオンを巡る一連の事件の中で、主導的立場にある魔種タータリクスは、イレギュラーズの体の一部と妖精の魂を使い恐るべきモンスターを誕生させた。
 アルベド。
 色を持たぬ白色の体に、芽生え始めた自我をもつ望まれぬ命。
 その一人たる少女もまた、葛藤の最中にあった。
 見回す限り一面の冬景色――木々や花は凍り付き、時折襲う猛吹雪に耐え凌ぐ有様だった。
「なんなの、これ……」
 アルヴィオンは常春の国ではなかったのか。
「このままじゃ、アルヴィオンはどうなるの」
 寒さとは違う、不安からくる震えが手足から体全体へと伝わっていく。
 それでも原因があるはずだと冬の出所を探るうちに、行き着いた先は妖精城アヴァル=ケインだった。
 ここをなんとかしなければ。
「退いて!」
 立ちはだかる氷狼を花の嵐で蹴散らし、道を開けていく。
「お前は、アルベド! 何故裏切った」
 氷の薔薇を従えた精霊――確か凍薔薇(いばら)の精だったと本で読んだことがある――の問いに答えることなく、少女は魔力を集め白い花を咲かせた。炸裂する花弁に胴を抉られて、一人の精が倒れる。
「裏切り者だ!」
 凍薔薇の精が声高に叫ぶと、近くにいた精霊が次々に同じ言葉を叫び伝播していった。
 拙いと思いすかさず花弁で凍薔薇の口を塞ぎ、毒を以て枯らしたが時既に遅し。
 裏切り者のアルベドの存在が、的に知られてしまった。
「このままじゃ……」
 この手の届かないところで冬に閉ざされたまま、この国は死に絶えてしまうだろう。
 私が帰る場所も、産まれた場所も、このままでは何もかも失われてしまう。
 この状況を、彼らなら知っているはず。
 ――『イレギュラーズ』。
 幾度となくアルヴィオンへ手を差し伸べたヒーロー達。
 彼ら必ずこの地にやってくる。それを私は信じている。
「ヒーローって難しいね」
 全てに手を差し伸べるのではなく、選び取らねばならない。
 夢想した完全無欠なヒーローは、御伽噺の中で語られるほど素晴らしいものなのだろうか。
 敵味方の境なく救えば、その先にあるのはどちらからも恨まれるような気すらする。
「それに、この手で救えるのはほんの一部だけなんだ」
 絶えず突きつけられる選択に、信じる道を掛けて選び取らねばならない。
 迷っている時間はない、このまま進まなければ。
 ――この思いが、選択が、誰かを助ける道になれるのだと信じなければならない。

●妖精以下、ヒーロー未満
 妖精郷と魔種を巡る戦いは佳境を迎えた。
「伝えることは色々ある、やらなきゃいけないことも山積みだ。
 俺から頼みたいのは一人の家出少女のことだ」
 それはアレクシア・アルベド、或いはフィーリと呼ばれる少女の所在について、情報がもたらされたとバシル・ハーフィズは重たい口を開いた。
「彼女は魔種勢力を裏切り、単身妖精城アヴァル=ケインへと向かっている。
 様々な情報から総合すると、現在はアヴァル=ケインから1キロメートル付近に潜伏していると思われる。
 何故裏切ったのか理由は定かではないが、以前の報告を見る限り理想と現実の間、それとアルベドとしての自分に思うところがあったんだろう」
 どこか空を見るように視線を外した後、懐から紙巻きを一本取り出して火を点けた。
「まあ我が儘と言えば簡単だが、アイツなりに真っ直ぐ受け止めて出した答えだろうさ」
 ふう、と紫煙を吐き出して、赤々とした蛍火をじっと見る。
「アイツのいる付近には氷狼が10体、氷の薔薇を纏う妖精族ほどの大きさをした少女の精霊――凍薔薇の精が5体徘徊している。
 そろそろ飛び出しちまいそうだから、ここで戦闘になるはずだ」
 そういって地図に×印を付けた辺りをぐるりと囲った。
「アイツは変わらず怒りで敵愾心を集めて、毒花で攻撃を行う。皆には共闘する形で敵を蹴散らしてもらいたい。
 敵についてだが、氷狼は遠吠えで味方を奮起させ、強靱な顎で噛みついてくる。凍薔薇の精は冷気を操り、任意の地点に吹雪を起こし、扇状に氷柱を落として攻撃してくる」
 多数の敵を相手取っても、彼女は引く気配はない。
 そして、再び巡ってきたのは相対する機会だけではない。
「今回は前と違って勢する形になるが、説得しそれにフィーリが応えれば救出が可能だ。
 どうするかは皆の判断に任せる」
 妖精郷を巡る事件にも、決着を付ける時が来た。
「ヒーローってのは遅れてやってくるってよく言うよな」
 助けたいものがあるからこそ、ヒーローは駆けつけるのだ。
「幸運を祈る、あと無事もな」
 そう言ってひらりと片手を振って、バシルは煙草を吹かした。

GMコメント

 ヒーローとは。
 その答えを模索した彼女なりの答えです。

●目的
 全ての敵を撃破する。

●フィーリの救出
 フェアリーシードとなった妖精を救出する場合は、
・アレクシア・アルベドが弱っている時
・心から帰還を願いフィーリへと呼びかけ
・その声が届き、フィーリが帰還を願えば
 フェアリーシードの位置が分ります。その場所に呼びかけを行った方が触れれば救出可能です。

●ロケーション
 常春から一転して真冬の雪原となっています。
 見晴らしは良いですが、雪以外何もなく殺風景です。
 戦闘開始時にはアルベドと敵が交戦状態に在り、そこに割って入る形となります。

●敵
 冬の厳しさを現したような狼と氷れる薔薇の精が現われます。
・氷狼10体
 氷の様に冷たく尖った毛並みを持つ狼です。
 遠吠え:自分以外の対象に攻撃力アップを付与。
 噛みつき:物至単、噛みつき攻撃。
 
・凍薔薇の精5体
 氷の薔薇から妖精族ほどの大きさの体を生やした精霊です。
 後方から吹雪や氷柱を落として攻撃してきます。
 吹雪:神遠範、任意の対象を中心に吹雪を起こします。【氷結】付与
 氷柱落とし:神遠レ、自身から直線上に存在する対象へと氷柱を落とします。

●アルベド
 呼び名はご随意に。
 『アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)』さんの細胞を元に作られたアルベドです。
 スペックは本人以上になっており、特に耐久力に優れています。
 アレクシア・アルベド、或いはフィーリにつきましては下記シナリオに登場しております。
 『花摘む少女の帰り道』(https://rev1.reversion.jp/scenario/detail/2942)※フィーリのみ
 『<月蝕アグノシア>誰がためのヒーロー』(https://rev1.reversion.jp/scenario/detail/3561)
 スキル構成は以下の通り。
・求争の白花 神特レ。【怒り】【自身を中心にレンジ2以内の敵にのみ影響】【ダメージ無し】
 花のような魔力塊を炸裂させ、周囲の敵に怒りや敵愾心を抱かせます。
・含毒の白花 神超単。【万能】【痺れ】
 魔力の花弁で穿ち、対象にBSとダメージ。
 今回、彼女は皆さんの味方として登場します。
 戦闘の指示など彼女に声をかける場合はプレイングに記載をお願いします。

●情報精度
 このシナリオの情報精度はBです。
 依頼人の言葉や情報に嘘はありませんが、不明点もあります。

  • <夏の夢の終わりに>I'm here,below hero.完了
  • GM名水平彼方
  • 種別通常
  • 難易度NORMAL
  • 冒険終了日時2020年09月01日 22時30分
  • 参加人数8/8人
  • 相談7日
  • 参加費100RC

参加者 : 8 人

冒険が終了しました! リプレイ結果をご覧ください。

参加者一覧 (8人)

夢見 ルル家(p3p000016)
離れぬ意思
志屍 瑠璃(p3p000416)
遺言代筆業
スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)
リインカーネーション
アト・サイン(p3p001394)
観光客
ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)
祈りの先
アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)
希望の蒼穹
ルクト・ナード(p3p007354)
蒼い空へ
ジュルナット・ウィウスト(p3p007518)
風吹かす狩人

リプレイ

I'm here,below hero.
●雪中の一輪
 頭上で強い風が吹いた。
 冬の唸り声を聞きながら、『観光客』アト・サイン(p3p001394)は曇天を見上げた。外套の裾を掴む手が悴み、叩きつけるような吹雪のせいで視界も悪い。
「酷い悪天候だ……体温を奪われると命が削れるぞ」
 それは彼女も、アルベドも同じなのだろうかと思案する。造られた命とはいえ、人と同じくものを感じることが出来るからこそ心を持ったのだろう。
 そして自我が芽生えてこの離反に繋がった。
「まずは敵を追い払うのが先だね。妖精郷を守るために行動した彼女の想いに応えるためにも!」
 明るい声を上げた『リインカーネーション』スティア・エイル・ヴァークライト(p3p001034)の声に、『希望の蒼穹』アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)はこくりと頷いた。
 雪に交じる花弁一つ見逃さぬように辺りを凝視し続けるアレクシアの胸中では、未だ先の一件が燻っていた。
 ずっと悩んでいた。考えて、押しつぶされそうになって。そして見つけた答えを携えて、再会するためにアルヴィオンにやってきた。
 そんな友人を案じて『祈りの先』ヴァレーリヤ=ダニーロヴナ=マヤコフスカヤ(p3p001837)は「アレクシア」と名前を呼んだ。
「上手く言葉が見つからないけれど……アレクシア、私にできることがあれば何でも言って下さいまし」
 だって私達、友達でしょう? と覗き込むヴァレーリヤに、アレクシアは表情を緩めて「ありがとう」と微笑んだ。
「少しでも笑顔が見られてよかったですわ。貴女の物語が、どうか、誰にとっても幸せな結末を迎えることが出来ますように……」
 胸に下げた赤い十字架に、白い肌と黒い鋼の手を添えてヴァレーリヤは祈りを捧げた。
 普段の明るさがなりを潜ませたように静かな『不揃いな星辰』夢見 ルル家(p3p000016)は、真っ新な雪原の上に少女の痕跡を求めた。
「何とも……やるせないものですね」
 アルベドが妖精の命に依らず生きていけるなら……すぐに死ぬ運命でなければ。ただの、一人の少女であれば。
「否、是非もなき事。今ここにある現実が全てなれば、その中で最善を尽くすのみ」
 縺れる思考を振り払った時、ごうごうとなる吹雪の声に混じって遠吠えが聞こえた。氷が触れあった時の澄んだ音も。
 白く埋め尽くす吹雪の中で、何かが動く。保護色のようになって見えづらいが、見まごう事なきアルベドの姿だった。
 合図もなく、誰とも言わず一斉に駆け出すイレギュラーズ達。
 白い世界に颯爽と現われた、春のように鮮やかな色彩が八つ。
「――遅いよ、でも来てくれた」
 その姿を見て、白い少女は一筋の希望を見た。

●名前
 駆け寄ったアレクシアは真っ先に白い少女の元へと急いだ。
 息せき切って目の前に立つと、「言いたかったことがあるんだ」と言い、真っ直ぐに少女を見据えた。
「私のアルベド、なんて一つの命に対して失礼だよね。君の事はこれからフィルシア君って呼ぶから!」
「ええ! なんだか唐突だね」
 しかし驚きながらも、「フィルシア、フィルシアかあ」と言いながら何度か口の中で名前を呟く。
 なんだろう心が擽ったくて口元がむず痒い。――悪くない。
 だがここは敵中、戦場の直中だ。
 余韻に浸る余裕もなく、新勢力の登場に状況を推し量っていた敵もいよいよ襲いかかろうかというところだった。
「来てくれてありがとう、それと名前も。妖精族の力じゃ……『フィーリ』じゃとても弱くて、きっと目の前の魔物にだってひとたまりもなく殺されていたと思う。だから今はこの体にとても感謝しているよ」
 名前を受け取った――この瞬間フィルシアという一人の少女となった生命は、穏やかな表情に決意を秘め手元に魔力の花を携えた。
 それを聞いたアレクシアは僅かに眉を潜め、しかし押し殺すように視線を眼前の氷狼へと向ける。
「君の選んだ事、その想い、無駄にはさせない!」
 アレクシアが決意を叫ぶと、飛びかかる氷狼へと向かい合った。
「ヒーローに成りたイ? 良いんじゃないかナ」
 『風吹かす狩人』ジュルナット・ウィウスト(p3p007518)はフィルシアと併走しながらうんうんと頷きゲイザー・メテオライトを構えた。
 矢雨を降らせ、固い毛皮を貫いていく。
「それに種族は関係無いヨ。ほら、伝説だなんてあちらこちらで沢山あるじゃないカ。ヒーローかどうかの判断するのは、そこにいた者だからネ」
 こんなヒーローをご存じですか、と声をかけたのは『遺言代筆業』志屍 瑠璃(p3p000416)だ。
「人の記憶からでしか見たことが無いのですが、イチオシのヒーローなのです。数多く居るヒーローの中で、悪人との戦闘より飢えた弱者の救済に重点を置くヒーローは、知る限りでは彼一人」
 敵対者を殴るというのはわかりやすく気分が良い。
「それだけでないのも奥深くて良いですね」
 だが理想像が人の数あるのなら、フィルシアはどれを追い求めるのか。
 『TACネーム:「ハンター」』ルクト・ナード(p3p007354)は凍薔薇の精へと駆け寄りながら、横を通り抜ける時に一言。
「……同じ空、同じ側に立つ者として。私は貴様を援護する。……こっちに立つ以上、貴様もヒーローだ。
 『ハンター』、武装制限解除。交戦開始」
 脳に記憶した戦闘体勢へと移り変わる文言を唱えると、その場をフィルシアに託して前線へと駆けていった。
「裏切り者、その仲間は排除する!」
 拒絶するように吹き荒れる吹雪の中を駆け抜けて、ヴァレーリヤは猛然と突き進む。
「主よ、慈悲深き天の王よ。彼の者を破滅の毒より救い給え。毒の名は激情。毒の名は狂乱。どうか彼の者に一時の安息を。永き眠りのその前に」
 祈りと共に紡ぐ聖句が炎を熾す。天使の羽根に包まれた主座のような壮麗なメイスを突き出せば、生じた衝撃波で小さな体は軽々と吹き飛んだ。
「これで終わりと思いまして?」
 気合の咆哮と共に踏み抜いた鉄騎の足は雪原を割り、炎の魔術を加え火牛のような勢いで半身を砕いた。
 派手に雪が舞い上がる。その中をスティアの操る万華鏡のように気まぐれな魔法が、雪原を駆ける。
 お気に召すまま気まぐれに。少女のようも気まぐれな遊び心を表現した魔法が、不規則な機動を描いて氷の薔薇を切り取った。
 仲間を傷つけられたことに反応した凍薔薇の精達が声高に何かを喚きながら、辺り一帯を吹雪に変える。
「しかし、常春の大地のはずなのになんでこんな化物が湧き出してるんだかっ!」
 寒さに鈍る体を叱咤して、全身全霊の力を一刀に込めて振るう。急所を捉えた一撃に確かな手応えを感じる。
 未知を求め続ける観光客はフィルシアの望む英雄として振る舞えない。
 だが英雄は孤独ではない、馳せ参じた仲間が居る限り。
「まあ、だからこそ、英雄として立ち振る舞える人間を支えることが出来るのかもしれないけど」
「そうですね」
 フィルシアもきっと、フィーリを犠牲にすることを望まない。
 最もこれはルル家の傲慢な考えかもしれない。彼女の最後が美しい物語であるよう、フィーリを助けたい。
 それが彼女を救うことに繋がれば良い、とルル家は願う。
 撃ち抜け、という意思に応じて現われたガトリングガンが火を噴くと、間断なく敷き詰められた弾幕に凍薔薇の精が撃ち抜かれていく。
 銃声に混じって聞こえたのは反攻の狼煙となる遠吠えだった。
 咄嗟に前に出たフィルシアが狼の牙を花で受け止める。
「奥の凍薔薇を先に仕留めます。その間、氷狼を抑えて頂けますか?」
 前線へと赴く瑠璃の声に、フィルシアはきょとんと目を丸くした。
「私も一緒に戦って良いの?」
「勿論だよ。さあフィルシア君、私達は氷狼を引き付けるよ」
「問題解決の優先順位です。全部解決するとしても、襲ってくる敵への対処は最優先。あなたの問題は、まだ時間がありますから」
「う、うん! わかったよ」
 片手を翳し、魔力の蕾を花ひらかせる。緊張と戸惑いを奮起の心へと変換し、赤と白の花が雪原に咲かせた。
 殺意の隠った視線を受けても退けない。
 退かず、振り向かず、受けて立つ。
 双璧目がけて氷柱を落とした凍薔薇の精が、周囲に立ち込める血霧に気づき見渡したがもう遅い。
 せり上がる錆びた味に悶え苦しみながら、落ちた血が霰のように凍るのをジュルナットが見ていた。
「さあさ、おじいちゃんも仕事をこなそうじゃないカ。"ヒーローの支援"だなんて、特大の案件をネ!」
 弦の弾ける音と共に、針のような雨。
 氷の毛皮を穿つそれらが徐々に削り取り、軟らかな肉を刺す。
 痛みに悶えながらも怒りの眼差しを向けるのは、二輪の花だった。

●叶うなら願い事一つ
 敢えて敵意を向けさせ、危険を冒し陽動する。
 その裏には、傷付く覚悟があるからだ。
 狼の牙がフィルシアの足に食らいつく。
 誰かが襲われている、という事に心の底をじりじりと焼かれるような焦燥感がこみ上げてくる。
 凍薔薇の精は順調に数を減らしている、あと少しスティアが持ちこたえれば彼女たちに合流できる。
 今は「あの時」ではない。誰かに助けられるのではなく、助けるためにここに来た。
 掌に生まれた光を包むようにして祈る心を添え、両手を開き光を放つ。光に触れたフィルシアの体が月のように清かな、優しい光に包まれて癒やされていく。
 自らの傷を白黄の花で癒やしながら、毒花で狼を包むフィルシアの方を見た。
 初めて見た小さな妖精の姿は、今はアレクシアそっくりの大きさだ。
「以前君は『守られるだけの小さな私に、戻りたくなくなった』と言ったよね。……私、その気持ちはとてもよくわかるんだ」
「う、うん」
「私も、昔は守られるだけの存在だったから。だからヒーローに憧れた。みんなを守りたいと思ったの。……だから、私は君の気持ちを否定しない」
 赤、そして黒。アトの放つ二連の剣筋を受けて凍薔薇が手折られた。
「心の在り処なんてものは、人間にだってわかりっこないものなんだ。だから怪物の心の在り処を問うなんて、ナンセンス極まりないのさ。だからあの造られた怪物が英雄のように立ち振る舞うならば、それを支える人間がいてもいいんじゃないか」
 その想いに応えるのは妖精の意志か、怪物の意志か。いや、今はそれを問うときではあるまい。
 重要なのはここに集まった者たちが抱く想い。
 フィルシアは頑丈な体で受け止め、唯々傷を受けては堪えながら『ヒーロー』たちの表情を見る。
 氷柱に穿たれた鋼が派手な音を立てて軋む。それに構わず、むしろ楽しむようにルクトはサイドアームを起動させた。
「逃がさない」
 放たれた凶弾は深く、より強く中核となる光を正確に貫いた。
 悲鳴を上げて砕け散る凍薔薇を見て、最後に残った薔薇が抵抗を試みる。
 吹き荒れる吹雪すら撥ね除ける、一瞬の閃光。
 恒星よりも熱く、天狼星を焦がすように眩しく強く。ルル家の手の中で超新星爆発が起こり最後の凍薔薇を塵すら残さず消し去った。
 残るは耐え忍ぶ双花に押し寄せる氷狼たち。
 号令のように響く咆哮と、それに応えようとした二匹が狩人の矢に阻まれる。
 不意を突いたジュルナットの攻撃は獲物を罠にかけるように、機動力を奪いじわりじわりと妨害していく。
 その内の何匹かがそれらを潜り抜け、仲間の死骸を飛び越えて激しい唸り声をあげると、フィルシアに向かって大口を開けた。
 咄嗟に片腕で庇い食いつかせると、白い花で包み込み毒で力が弱まった隙に勢いよく引き剥がした。
 瑠璃がすかさず傷を癒やすと、どういたしまして、と笑い返した。
 そんな彼女を見ていると、彼女が話していたヒーローについて少し分かった気がした。
「人それぞれに理想の姿がありますわ。だからこそ、迷いながらも自らが選び取った答えが、導きの星と――夜空で燃える太陽となるのですわ」
 諭し導くような言葉は、彼女が司教だからだろうか。
 それだけではないような気がして、フィルシアは彼女を――ヒーロー達を見た。
「誰かを守れる力が欲しかったんだと思うけど、それは妖精の体でも得られるんじゃないかな?
 大切なのはその想いと努力、すぐには強くなれないけど諦めなければ皆を守れるようになると思う。それじゃダメかな?」
「私、は」
「あくまで今回どうするかは奴…アルベドの方が決める事だろう。
 ……私はその意思を尊重する。そしてそれを援護する。したいようにするといい。望まれるなら手伝おう」
 スティアとルクトの言葉を聞いて、出かかった言葉を飲み込むように唇が戦慄く。
「……自分の意思で決めろ。その上で必要なら、手助けする」
 数多の言葉が、背中を優しく押す。
 ――私の、フィルシアの願いは。
「私は、みんなと一緒に戦って……一度決めた理想を最後まで諦めない、そんなみんなを守るヒーローになりたい」
 その答えを、言葉を、イレギュラーズ達は待っていた。
「なら、アレクシア! 英雄らしく振る舞え、自分の思う通りに! 君が英雄として立ち上がるのであれば、僕は只人として剣を取り馳せよう!」
「全てが上手くいった訳ではないでしょう。傷つく者、涙する者もきっといるでしょう。
 それでも、妖精郷を救うために尽力した貴女が誰かのヒーローであった事は疑い有りません」
 仲間だと思っていた白い魔物が倒れるのを目の前にして涙した彼女の心は、犠牲をよしとしないだろう。
「故郷で争いが起き、あるいは氷に閉ざされ。不安に過ごす人たちが、友に会いたいと嘆いています。他の誰にも無理かもしれないけれど、あなたになら彼らの笑顔を取り戻せます」
 アトの必殺の一撃に氷狼の纏う氷は砕け、そのまま息絶える。
 その脇を通り過ぎるように、ルル家の放った流星雨のような弾幕が横薙ぎに襲いかかる。よろめいた氷狼を、すかさず瑠璃が黒いキューブで敵を包みこみあらゆる苦痛を与える。
「フィーリ殿、拙者はフィーリ殿に戻ってきて欲しいです。どうか拙者の願いを聞き届けて帰って来ては頂けませんか」
 アレクシアの障壁が幾度目かの攻撃を受け止め、そして振り払う。
「アレクシア」
 友の傍に寄ったヴァレーリヤは、手にしたメイスで吹き飛ばすと一度頷いてフィルシアを見た。
 氷狼は数を減らしつつある。意を決したアレクシアは、フィルシアの名を呼んだ。
「君はこれからどうしたい? そのままの君でいたい?
 それともフィーリ君に……妖精に戻りたい?」
「戻れる……戻っても良いの?」
 思わず体を止めたフィルシアをジュルナットが割って入り、一矢を見舞う。
「君の正直な願いを、悩んだ末の考えを聞かせて。私は君を、誰かを護りたいと思える優しさを、信じてるからさ。どんなことでも、協力するよ。
 私はヒーローなんだから! 助けたいと願ったものを、絶対に諦めるもんか!」
 アレクシアの言葉に、フィルシアは堪えるように息を詰めた。
 だが氷狼の存在に気がつくと、素早く身を反転させ半身で受け止める。
「私は……帰りたい。造られた私じゃなくて、妖精でも出来る事をまだやりたい。誰かを守るヒーローっていうフィルシアの願いは叶ったから、今度はフィーリだけの願いをフィーリとして叶えたいの」
 フィルシアの片目から――黄金色を取り戻した瞳から涙が落ちる。
「フィルシアって名前の少女はいま最高に幸せよ。だから、最高の姿を覚えていて欲しいの。
 私の我が儘を、叶えてくれる?」
 お願い、私のヒーロー。
 その願いに、アレクシアは一度目を閉じて再び真っ直ぐにフィルシアを見る。
「それがフィルシアの願いなんだね」
「うん、フィーリを……よろしくね」
 フィルシアが毒花を咲かせ、駆け抜けたスティアの魔法で最後の氷狼が砕けて散る。
 静寂を取り戻した雪原は、痛々しいほどに眩しかった。

●永遠のヒーロー
 分厚い雲の切れ間から、陽光がカーテンのようにひらひらと差し込んだ。
「拙者は忘れません。妖精郷を救うために共に戦ったヒーローがいたことを」
「ありがとう、ルル家君」
 ルル家の言葉に、フィルシアは嬉しそうに微笑んだ。
 アレクシアがフィルシアの前へと進み出ると、僅かに躊躇った後フィルシアの右目に触れる。
 すると涙と共に光の球が零れ落ちて、慌ててそれを両手で掬い受け止めた。
「これが、フェアリーシード……」
 核を失えば、アルベドは消滅する。
 さらさらと雪に溶けて行く体を、アレクシアは力強く抱きしめた。
「ありがとう」
 雪に混ざるように、あるいは共に空へと舞い上がるように消えゆくフィルシアは、ヒーロー達に見送られ――そして、消えた。
 ヴァレーリヤは赤い十字架を握り、祈りの句を呟いた。
 その魂の行く先に主の慈悲があるように、残された人々の心が救われるように、心からの祈りを捧げて。
「フィルシア君」
 ひらひらと、光の帯が揺れる。
 短い時を駆け抜けて生きた彼女は、今、永遠のヒーローになった。

成否

成功

MVP

アレクシア・アトリー・アバークロンビー(p3p004630)
希望の蒼穹

状態異常

なし

あとがき

 永遠とは、人の思いが繋ぐもの。
 誰かが思い続ける限り、その存在は生き続けるのだと思います。
 お疲れ様でした。
 おめでとうございます、妖精フィーリの救出は叶いました。
 これにてアルベドを巡る物語は終幕を迎えました。
 MVPは、彼女に名前を与え永遠にしてくれたアレクシアさんへ。
 フィーリに関わってくださった皆様へ、拍手喝采を送ります。
 有り難うございます。

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